税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第4回】 「税務訴訟における裁判所の価値判断①」 弁護士 下尾 裕 本稿では、前回より法曹の中でも特に裁判所に焦点を当てて分析を行っているが、今回からは、税務訴訟における裁判所の価値判断(判断の根底にある価値基準)について考えてみたい。 1 裁判所の判断の根幹をなす「課税要件明確主義」 裁判所は、特に近年の税務訴訟において、「課税要件明確主義」を重視した判断を行う傾向が顕著である。 「課税要件明確主義」とは、租税法律主義(憲法第84条)から導かれる考え方の1つで、法律に定められるべき課税要件や租税の賦課・徴収に関する手続は、納税者等が予測可能な程度に明確であることが必要であるという考え方である。 この考え方は、課税というのは国民に義務を課すものであることから、事前の予測可能性を担保しようという発想によるものであり、その結果として、法令の解釈についても、その記載内容のみから課税の有無等を判断できるよう、できる限り文理に忠実に解釈すべきであるという価値基準が導かれるものである。 特に租税法においては、【第1回】でも触れたとおり、民法等私法上の概念をそのまま取り込んでいる場合があるが(いわゆる「借用概念」)、この課税要件明確主義の考え方を踏まえると、こうした借用概念の解釈においても、予測可能性の観点から、私法における意味内容をそのまま踏襲すべきという価値基準に傾く。 上記傾向を顕著に表す例として、ホステス報酬源泉徴収事件(最高裁平成22年3月2日判決・民集64巻2号420頁)の判示内容を見てみたい。 著名判例であるのでご存知の方も多いかと思うが、ホステス報酬源泉徴収事件とは、クラブの運営主体がホステスに支払う報酬につき源泉徴収するにあたって、その計算の前提となる「当該支払金額の計算期間の日数」(当時の所得税法施行令第322条)を一定期間のすべての日とみるのか、それとも実稼働日数でみるのかが争われた事案である。 本件につき第一審及び第二審はいずれも上記「計算期間」を実稼働日数と解釈したのに対し、最高裁は、以下のように述べて、一定期間のすべての日と解釈した。 この最高裁の判示は、課税要件明確主義の考え方に忠実に、文理解釈を基礎に置いたものであり、裁判所の価値基準を端的に示すものである。 ただ、裁判所は、上記傾向を原則としつつも、租税法の文言に現れない制度の目的等を一切解釈に持ち込まないわけではなく、一定の必要性・合理性がある場合には、文理を超えた解釈を許容するケースがあることには、注意が必要である。 例えば、消費税の仕入税額控除における帳簿保存要件が争われた渡邊林産事件(最高裁平成16年12月20日判決・判時1889号42頁)においては、消費税法第30条第7項における「事業者が(中略)帳簿及び請求書等を保存しない場合」という租税法の文言を「消費税法30条7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、消費税法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存すること」と解釈している。 このような解釈は、租税法の文言だけから導くのは困難であるが、後付けで帳簿等が作成された場合などに仕入税額控除を否認できなくなるなどの課税実務上の弊害等も考慮して、裁判所も1つの限界事例としてこのような解釈を許容したものと想定される。 2 税務訴訟における裁判所は、刑事事件と比較しても租税法の文言に忠実 余談であるが、「租税法律主義」と類似した概念として「罪刑法定主義」(憲法第31条)というものがある。 「罪刑法定主義」とは、租税法律主義と同様に、国民の権利制限を伴う刑罰(犯罪成立)の要件を法定することを要求するもので、当該概念から派生して、刑罰法規を、その法規に用いられている語句の可能な意味の限界を超えて解釈し、法規に規定のない事実に対して適用することは禁止されるという考え方が導かれる(類推解釈の禁止)。 この類推解釈の禁止は、まさに租税法における課税要件明確主義と同様の考えに立つものであり、国民にとっての刑罰の重大性に鑑みれば、むしろ刑事法でこそより強く意識されるべきであるが、実際には刑事法の世界では議論されることは多くない。 その理由はいくつかあるが、1つには、刑事法の処罰要件は、例えば以下の窃盗に関する条文を見れば明らかなとおり、租税法と比較しても非常にシンプルであり、また、そこで示される犯罪該当行為は、一般国民からみても感覚的に理解しうる内容であるということが挙げられる。 つまり、(犯罪の類型にもよるものの)刑罰の要件は、あまり文言を要せずとも、どのような行為が処罰されるべきかということが一般国民にもある程度理解可能であるということが言える。また、要件を具備するかどうかが問題となる行為は一般国民からすれば非難すべき行為である場合が多く、多少の拡大解釈をしても受容される場合もあるかもしれない。 これに対し、課税要件に該当する行為は、それ自体は全く適法で当事者において日常的に行われうる行為であり、上記犯罪行為と比較すると、どのような行為が課税対象行為となるかどうかということが一般国民には把握しにくい。だからこそ、租税法においては、予測可能性を担保するために、ある程度詳細な文言を条文に定める必要があるのであるが、その結果として課税の分水嶺が議論になることから、「課税要件明確主義」の要請を強く意識せざるを得なくなるものと考えられる。 3 裁判所が重視する「租税公平主義」の要請 もう1つの傾向として、裁判所は、憲法第14条第1項から導かれる「租税公平主義」、すなわち、税負担は国民の担税力に応じて公平に配分されなければならず、租税の法律関係において国民は平等に扱われなければならないという原則を重視する傾向がある。 この考え方が裁判所において特に意識されるのは、課税庁による過去の判断誤りや誤指導の場面、すなわち、納税者が税務調査において誤った見解を示されたこと等を理由に課税の取消し等を求める場面である。 この点に関し、最高裁昭和62年10月30日判決は、以下のとおり判示し、納税者が課税庁から誤指導等を受けた場合でも、「公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情」がない限り、原則として正しい処理に沿った課税が是認されることを明らかにしている。言い換えれば、裁判所は、租税については、個別の納税者の事情よりも、国民に広く同様の課税を行うことを重視しているということである。 また、この「租税公平主義」は、租税回避等の課税逃れを捕捉し、適正な税収を確保するという価値判断につながる。その意味では、「租税公平主義」は、上記渡邊林産事件(最高裁平成16年12月20日判決・判時1889号42頁)における判断場面のように、後付けで資料を作成することによる課税逃れを防止しようという考えと親和的であるという意味において、前述の「課税要件明確主義」と相反する価値基準として働く場合があるという考え方も可能である。 * * * 次回は、今回述べた裁判所の価値判断を前提に、租税回避行為に関する裁判所の姿勢について分析してみたい。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第12回】 「電子メール等の誤送信による情報漏えいの防止策」 弁護士 影島 広泰 -Question- 宛先を間違えて個人情報が含まれたメールやファックスを送信するといった「誤操作」が個人情報漏えいの原因として一番多いと聞きました。そのような誤送信を防止するために、会社としてはどのような対策を講じればよいでしょうか。 -Answer- 個人情報保護委員会のガイドラインに例示されている対策としては、「メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する」方法があります。 ほかには、「送信先などについて再確認させるソフトウェアを導入する」、「メールをすぐには送信しない設定にしておく」などの対策があるとされています。 前回解説したとおり、2017年の統計によれば、個人情報漏えいの原因として一番多いのが「誤操作」である。今回は、この「誤操作」を防止するためにどのような対策をすればよいのか、また、「誤操作」により個人データが漏えいした場合の対応を考える。 1 誤操作による情報漏えいの防止策 誤操作による情報漏えいとは、典型的には、電子メールを送信する際に宛先を誤ったまま送信してしまうケースや、本来送る先とは別の番号だと気づかずにファックスを送信してしまうケースなどである。 (1) 個人情報保護法の通則ガイドライン 電子メールの誤送信を防止するため、個人情報保護委員会は、個人情報保護法で講ずべきとされている安全管理措置として、どのような措置を求めているのであろうか。 通則ガイドラインにおいては、安全管理措置の中の「技術的安全管理措置」として、以下の4つの措置を講じることが義務であるとされている(詳細は【第5回】を参照)。 このうち、メールの誤送信に直接関係するのが、「(4) 情報システムの使用に伴う漏えい等の防止」である。(4)の手法として以下が例示されている(下線筆者)。 手法の例示のうち下線を引いた部分を見ると、「移送する個人データについて、パスワード等による保護を行う」ことが手法の1つとして例示されており、中小規模事業者(従業員100人以下などの要件を満たす事業者)における手法の例示でも「メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する」とされている。 このように、電子メールで個人データを送信する際にパスワード等による保護を行うことが、ガイドラインで例示されている。中小規模事業者において唯一挙げられている手法がパスワードの設定であることから考えて、個人情報保護委員会がこの手法を重視していることが分かる。というのも、大企業と比べると情報管理にコストをかけることが難しい中小規模事業者であっても、「せめて、電子メールで送信する際にはパスワードを設定することぐらいはやってもらいたい」という意図があると考えられるからである。 そして、なぜパスワードを設定するかといえば、誤送信が発生した際に、受信者が添付ファイルなどを開封できない状態を作ることができる可能性があるからである。 メールの添付ファイルにパスワードを設定しても、パスワードもメールで送信してしまうのであれば、悪質なハッカーなどによる覗き見(盗聴)を防ぐ力は限定的である。したがって、パスワードを設定するのは、通信経路で第三者に覗き見されないことが目的というよりは、「誤って送信することを防ぐ」、あるいは「誤って送信した際に開封されることを防ぐ」ことが重要な目的であるということができるであろう。 例えば、添付ファイルを送信するとシステムにより自動的にパスワードが設定されるようになっており、その後、「〇〇@〇〇.comにパスワードを送信します」という画面を別途開いて「送信」をクリックしなければパスワードを送信しない設定になっていれば、その画面において、もう一度送信先のアドレスを確認するチャンスがある。ここで誤送信に気づくことができれば、パスワードを送ることはないので、受信者が添付ファイルを開けず、結果として個人情報を第三者に閲覧されない状態が確保できることになる。 (2) その他の対策 以上のとおり、個人情報保護法の通則ガイドラインに例示されている手法はパスワードの設定であるが、その他にも対策は考えられる。 一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の「(平成29年度)「個人情報の取扱いにおける事故報告にみる傾向と注意点」」(平成30年8月31日)によれば、メール誤送信事故のパターンは、大きく3つあるとされている。 パスワードの設定は、①(及び場合によっては②)にはそれなりに効果があると思われるが、③については効果があまりないと思われるし、そもそも誤送信そのものを減らす方策を別途考える必要がある。 上記のJIPDEC「傾向と注意点」によれば、「メール誤送信事故の防止策例としては、一般的には以下の対策が効果的と考えられる」とされている。 「(1) メール送信前確認の徹底」は、原始的な方法に思えるが有効なものであり、社内のルールとして徹底することが重要であると考えられる。これはファックスの誤送信についても同様である。 また、社外のメールアドレスにメールを送信する際にポップアップの表示(ダイアログ)が出て、「〇〇@〇〇.comに送信します。よろしいですか」と確認させるソフトウェアなどを導入することもあり得る。企業によっては、メーリングリストなどへの投稿については複数名で確認するといったことをルール化しているところもある。 「(2) メーラーの設定変更」とは、メールの送信前に内容をもう一度確認させる仕組みを導入したり、「送信」ボタンを押してもすぐには送信されず、一定時間が経過した後に送信する設定にしておくなどの対応のことである。後者の設定をしておけば、宛先の間違いに気づいた瞬間にはすでに送信されてしまっていた、というミスを減らすことができる。 「(3) 添付ファイルの暗号化」については上述した通則ガイドラインと同様のため、これに加えて、「メール送信前の確認の徹底」と「メーラーの設定変更」を積極的に検討する、というのがオーソドックスな対応ということができる。 2 誤送信した後の対応 個人データを電子メールで誤送信してしまった場合、個人データの漏えいに当たることになる。その場合の対応は【第10回】で詳述したとおりであるが、まずは「被害の拡大防止」のため、誤って送信した宛先に対して当該メールは誤送信であることを知らせ、消去するよう依頼することを真っ先に行うべきであろう。 また、誤送信したことにいち早く気づくため、社外にメールを送信する際にはCCに必ず社内の別の人間のアドレスを含めるようルール化しておくことも考えられる。 なお、【第10回】で述べたとおり、個人情報保護委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について(平成29年個人情報保護委員会告示第1号)」によれば、メールの誤送信のうち、本文には個人データは含まれておらず、宛先のメールアドレスだけが誤った宛先に送信されてしまった(=宛先としてのメールアドレスだけが漏えいした)ケースなどは、軽微基準に該当し、委員会への報告を要しない可能性が高い。 (了)
2019年株主総会における 実務対応のポイント 三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠 いよいよ総会準備のシーズンとなってきたが、昨年に続き本年の株主総会でも大きな制度改正対応は見当たらない。しかしながら、本年2月に株主総会関係書類の電子提供を盛り込んだ会社法改正要綱が決定され、株主総会招集通知の原則ネット提供の実現が視野に入ってきた。 また、昨年改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)に対応したガバナンス報告書の提出も昨年12月末までに実施されており、改訂CGコードへの対応状況などは、株主総会での説明に際して勘案しておく必要があるであろう。株主総会を株主との対話の場とする意識が高まる中、日本版スチュワードシップコードを受けて、機関投資家による議決権行使結果の個別開示による賛否への影響についても注目されている。 本年も株主総会に関する話題には事欠かない状況であり、ここでは足元の環境変化の動向も踏まえたうえで、株主総会における実務対応上の留意点を解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。 1 招集通知関係 (1) 発送前開示 CGコードでも要請されている招集通知の発送前のウェブ開示(補充原則1-2②)については、昨年6月総会で実施した会社は8割に達している。会社法改正要綱案では、招集通知のウェブ開示は3週間前が要請されていることから、今後は総会日より3週間前でのウェブ開示に対応しておくことが望ましい。 (2) 記載の工夫 株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報について、招集通知に適宜記載する取組みも年々採用する会社が増加している。 ▷CGコード対応 ① 中期経営計画の説明(原則3-1(ⅰ)、補充原則4-1②、原則5-2) 経営戦略や中期経営計画について事業報告等に記載している会社は3割程度となっている。CGコードでは、株主に対して中期経営計画の説明をすべきとされていることに加え、総会の場でも株主からは今後の業績見通しや中期経営計画の進捗状況を問う質問が増えていることに対応したものである。 改訂CGコードでは、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たって、自社の資本コストを的確に把握したうえでの、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すことなどが要請されており(原則5-2)、これを意識した開示とすることが考えられる。なお、記載の箇所としては事業報告の「対処すべき課題」に記載する事例が多いようである。 「対処すべき課題」は、今後の事業戦略等についての会社の方針・考え方を記載する部分であることから、中期経営計画の説明にはふさわしいと思われる。 ② 役員の指名・報酬に関する説明(原則3-1(ⅲ・ⅳ)、4-2、補充原則4-10①等) 役員の指名・報酬の決定に関するガバナンス強化への取組状況については、改訂CGコードで任意の指名・報酬委員会の設置が要請されたこともあり注目されている。まずは、指名・報酬の決定方針や手続に関して説明し、任意の指名・報酬委員会を設置している会社であれば、委員会の構成や活動状況などについて説明することが考えられる。 役員の指名・報酬の決定はコーポレート・ガバナンスの要諦をなすものとして、今後とも説明責任が強化されることが想定されるので、役員選任議案や役員報酬関連議案を付議する場合において、CGコードの趣旨を踏まえた説明をすることなどが考えられる。 ③ ESGへの取組みに関する説明(原則2-3、補充原則2-3①等) ESGやSDGs(持続可能な開発目標)への対応に関する取組みについて積極的にアピールする会社もみられるようになってきた。ESGへの取組み等を招集通知に記載する場合には、中期経営計画のときと同様に、事業報告の「対処すべき課題」に記載することも考えられるが、トピックスの扱いとして招集通知の末尾に記載する事例もみられる。会社の取組みをよりアピールするのであれば、招集通知に記載するだけでなく、実際の総会の場においても説明することが考えられる。 ④ その他の任意的記載事項 ガバナンス関連の記載のほか、来場者への注意を促すために補足説明的に記載される事項がある。 (3) 改元への対応について 改元に伴い新元号の公表が本年4月1日に予定されているが、和暦の場合には招集通知の内容に新旧元号が混在することが考えられる。招集通知にも西暦表示の採用が徐々に進んできており、昨年西暦表示を採用した会社は21.2%と前年から倍増している(2017年:9.1%(当社調べ))。本年においてもこの流れを受けて西暦表示を採用する会社が増加するものと考えられる。 また、配当金の支払実務において全国銀行協会に加盟する銀行及びゆうちょ銀行の配当金領収証の書式について、取扱期間又は払渡期間の終了日が本年4月1日以降となるものから西暦表示に変更されることにも留意されたい(※1)。 (※1) 全国株懇連合会理事会決定「株式配当金支払事務取扱要領(ゆうちょ銀行との協定)の改正について」(2018年10月19日) 全国株懇連合会理事会決定「株式配当金支払事務取扱要領(全銀協との協定)の改正について」(2019年2月1日) 2 機関投資家対応 機関投資家の個別の議決権行使結果の開示も今年で3年目となる。機関投資家の議決権行使の厳格化により、個別の議案においては反対票の増加した事例もみられたようである。昨年の議案において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合には、行使結果開示から反対の理由を分析して投資家との対話(エンゲージメント)の要否について検討することが望まれる(補充原則1-1①)。 本年留意すべき議決権行使助言会社の議決権行使助言基準の変更及び国内機関投資家の議決権行使基準のポイントは以下のとおり。 (※2) ISS「2019年版 日本向け議決権行使助言基準」 (※3) グラスルイス「2019年 ガイドライン」 (※4) 三井住友トラスト・アセットマネジメント「責任ある機関投資家としての議決権行使(国内株式)の考え方」(2018年12月改定) (※5) 三菱UFJ信託銀行「受託財産運用における株式議決権行使」(2019年4月1日適用) (※6) 野村アセットマネジメント「「グローバルな議決権行使の基本方針」と「日本企業に対する議決権行使基準」」(2018年11月1日改定) (※7) アセットマネジメントOne「国内株式の議決権行使に関するガイドラインおよび議案判断基準」(2019年4月1日以降分) いずれも詳細は各機関投資家のガイドラインを参照願いたいが、それぞれ独自の基準を設けることで、個別性も強くなっているので留意が必要である。 3 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正について 昨年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に向けて、適切な制度整備を行うべきと提言がなされた。当該提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容を充実させる企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が本年1月31日に公布された。 改正内容のうち「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」に関する事項は2019年3月31日以降の事業年度に係る有価証券報告書から適用されるため、3月決算の会社においては早々に対応が必要となる。 主な項目は以下であるが、詳細かつ具体的な事項にわたっているので留意が必要である。 上記はいずれも株主の関心の高い事項でもあるので、必要に応じて想定問答も準備しておくことが望ましいであろう。 4 総会運営におけるネット活用について 本年の株主総会において、招集通知のネット提供を可能とする会社法改正に関する対応事項はないが、総会実務においてネット活用は進んでおり、今後の法整備なども見据えて対応していくことが考えられる。 すでに招集通知のネットへの掲載は定着しているところ、今やネットの閲覧はパソコンよりスマホが主流であることに対応して、スマホでも招集通知が見やすく閲覧できる仕組みを採用したり、議決権行使もスマホで簡便に行う仕組みなどが注目されている。個人株主が「より簡便」に「より身近」に議決権行使できる環境整備として検討することが考えられる。 (了)
《速報解説》 大阪国税局、Brexitを受け英国子会社がオランダ法人と行う 合併の取扱いに関し文書回答事例を公表 ~外国子会社間で外国法に準拠してなされる法律行為の国内税法上の合併への該当性を確認~ 弁護士 木村 浩之 1 文書回答事例の公表について 国税庁は、平成31年3月7日付けで、大阪国税局による「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」の文書回答事例を公表した。 文書回答は、納税者から申告期限前に具体的な取引に係る税務上の取扱いに関して照会があった場合に、国税庁・国税局が文書で回答した上で、その内容を公表するという制度である。公表された回答は国税庁・国税局による公的な見解であり、これを信頼してなされた申告に反する課税処分はできないと解されることから、当該照会をした納税者のみならず、他の納税者の予測可能性の向上に資することになる。 今回の大阪国税局による文書回答は、これまで公的な見解が示されていなかった論点についての回答であり、今後の申告実務に与える影響も大きいと考えられる。 2 本件の論点と国税局の回答 本件で照会の対象となったのは、外国子会社間で外国法に準拠してなされる法律行為が日本の法人税法上の「合併」に該当し、適格要件を満たした場合には適格合併として課税の繰延べが認められるかという論点である。 これについて大阪国税局は、外国法に準拠してなされた法律行為であっても、日本の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の「合併」に該当することを認め、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められる旨の回答をした。 そして、外国法に準拠してなされる法律行為がどのような場合に日本の会社法上の合併に相当すると認められるかという点については、日本の会社法上の合併の本質的要素として、次の2つの要件を満たすかどうかによって判断するものとされた。 これらの要件を満たす法律行為については、それが外国法に準拠するものであっても、日本の法人税法上の「合併」に該当し、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められることになる。 3 実務における影響 従来、日本の親会社が外国法に準拠して外国子会社を組織再編する際に、その組織再編行為が日本の法人税法上どのように取り扱われるか(適格要件を満たした場合に課税の繰延べが認められるか)は必ずしも明確でなかった。本件は外国法に準拠してなされた法律行為の日本の法人税法上の「合併」該当性について判断されたものであるが、そこで示された考え方は合併に限らず、組織再編行為全般に当てはまるものと解される。 すなわち、外国法に準拠してなされた会社分割その他の組織再編行為であっても、日本の会社法上の組織再編行為と同様の法的効果を具備するものであれば法人税法上の組織再編行為に該当し、適格要件を満たした場合には課税の繰延べが認められることになると解される。 さらに、本件の回答を踏まえれば、外国子会社の株主である日本の親会社について課税の繰延べが認められることのみならず、外国子会社合算税制の適用に当たって外国子会社の所得を算定する際にも、同様に課税の繰延べが認められることになると解される。外国子会社の組織再編に当たっては、同税制が阻害要因になっていることが指摘されるところであるが、適格要件を満たすことで課税の繰延べが認められるとすれば、今後、外国における組織再編行為が促進されることになると解される。 このように、今回の文書回答が今後の実務に与える影響は大きいと考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 適用除外事業者を中小企業向け租税特別措置の適用対象外とする制度がスタート(2019.4.1以後開始事業年度から) ~賃上げ・国内設備投資へ消極的な場合はさらに3つの税額控除の対象外へ~ Profession Journal編集部 本年4月1日以後開始事業年度からは、中小企業者(措法42の4⑧六(H31改正法案では七))のうち、いわゆる適用除外事業者については、租税特別措置法上の中小企業向け特例の対象から除外されることとなる(交際費等の中小企業特例(措法61の4②)を除く)。 適用除外事業者とは前3事業年度の平均所得金額が15億円超の中小企業者をいうが(措法42の4⑧六の二(H31改正法案では八))、設立後3年未満の法人や合併等組織再編が行われた場合は、平均所得金額の算定方法が複雑となるため留意が必要だ(詳細は下記関連記事を参照)。 なお、3月決算法人の場合、適用初年度における平均所得金額は、平成29年3月期(H28.4.1~29.3.31)、平成30年3月期(H29.4.1~30.3.31)及び平成31年3月期(H30.4.1~31.3.31)における所得金額を元に算定されることとなるため、すでにある程度予測可能な時期にあるといえよう。 上記改正は平成29年度税制改正で手当てされたため、改正当時の措置法では平成31年3月31日で期限切れとされていた特例措置のうち、平成31年度税制改正でその適用期限が延長された次の制度について、新たに対象に加えられる。 また、防災・減殺設備投資に係る減税措置として今年度改正で新設される「特定事業継続力強化設備等の特別償却(措法案44の2)」も適用除外事業者は対象から外されている。 上記に加え、すでに平成29年度及び平成30年度において、適用除外事業者を対象から外す法改正が行われている制度としては、中小企業等の貸倒引当金の特例のうち法定繰入率による計算特例(措法59の9)や中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)(※)、中小企業基盤強化税制(いわゆる中小企業版の研究開発税制)(措法42の4③(H31改正法案では④))、中小企業向け所得拡大促進税制(措法42の12の5②)等があり、適用除外事業者に該当した場合の影響は少なくない。 (※) 少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例(措法67の5)は平成28年度改正により、常時使用する従業員の数が1,000人以下の場合に限定されている(詳しくはこちら)。 さらに平成30年度税制改正では、所得が増加しているにもかかわらず賃上げや国内設備投資に消極的な大企業が、次の3つの生産性の向上に関連する税額控除の適用から除外されることとなり、こちらはすでに施行されている(平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度が対象)(措法42の13⑥)。 ここで注意したいのが、この大企業向けの措置についても、適用除外事業者がその対象に含まれているという点だ。すなわち、本年4月1日以後開始事業年度からは、適用除外事業者で、かつ、所得が増加しており賃上げ・国内設備投資へ消極的な法人については、中小企業向けの租税特別措置に加え上記3つの対象からも除外されることとなる。 これらに加え平成31年度改正では下記のとおり、「みなし大企業」の範囲が見直されることとされており、過年度からの複数の措置が重なり合うことで、特例措置の判定をめぐる全体像が見えづらくなりつつある。それぞれ個別の改正に該当するケースは少ないと考えられるが、組織再編が行われた場合などは、改めて慎重な判定が必要といえるだろう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 税効果会計基準等の改正に対応した 改正「中小企業の会計に関する指針」が公表される ~収益認識基準への対応は中小企業の実態を踏まえ検討を継続~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成31年3月6日、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は、「中小企業の会計に関する指針」の改正を公表した。これにより、平成30年10月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、主に「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(企業会計基準第28号、平成30年2月16日)等の公表に伴い、繰延税金資産と繰延税金負債の貸借対照表上の表示について見直しを行うものである。 なお、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号、平成30年3月30日)等が公表されているが、今回、「収益・費用の計上」の見直しは行っていない。収益認識会計基準等が上場企業等に適用された後に、その適用状況及び中小企業における収益認識の実態も踏まえ、収益認識会計基準等の考え方を中小会計指針に取り入れるか否かを検討することを考えているとのことである。 公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法(65項等) 従来、繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した貸借対照表上の資産・負債の分類に基づいて流動区分と固定区分とに分けて表示するなどと規定していたが、「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等に合わせて、次のように改正する。 2 その他 軽微な修正として次のものがある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2019年3月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.309を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.74- 「内閣府の「超楽観推計」で進まぬ財政再建議論」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 わが国の財政規律を支えるのは、「プライマリーバランス(基礎的財政収支)2025年度黒字化」という財政目標である。内閣府は1月30日公表した「中長期の経済財政に関する試算」の中で、成長実現ケースとベースラインケースの2つについて、中長期的なマクロ経済の姿を示しつつ、プライマリーバランス黒字化に関する進捗状況を示した。 その内容を見ると、プライマリーバランス黒字化の時期が、前回試算の2027年度から1年早まることが示されている。一方、目標年次である2025年度に黒字化するには、未だ1.1兆円が不足するということも明らかにされている。 安倍政権は昨年夏、目標達成年度を、2020年度から2025年度に5年延期したので、達成には十分すぎる余裕があるはずだが、それでも25年までに1兆円の歳入(増税)・歳出(削減)努力をしなければならない。 問題は、推計の前提となる数値だ。 * * * アベノミクスが成功する「成長実現ケース」では、潜在成長率が、16年度0.9%、17年度1%(実績)、18年度1%(実績見込み)となっているが、見通しとなる19年度から急上昇する。20年度は1.5%、21年度は1.8%、その後は2%程度の成長が続くという内容になっている。 (出所) 1.内閣府「中長期の経済財政に関する試算(平成31年1月30日 経済財政諮問会議提出)」 2.内閣府 「月例経済報告(GDPギャップ、潜在成長率)」 から筆者作成。 このように、突然潜在成長率が倍増する理由は、全要素生産性(TPP)が「足元の0.4%程度という水準からデフレ経済前の水準である1.3%程度まで上昇する」と説明されている。全要素生産性とは、労働と資本の投入量の変化率を差し引いた差分で、技術進歩による成長率を意味しており、これが短期間に2倍、3倍になることは、およそ考えられない。 つまりこの推計は、政権の都合の良いように「忖度」されたものである。 * * * このような超楽観推計に基づいて過大見積もりになっている税収を前提に財政の議論をすることは、厳しい歳出削減の必要性を緩和することになるので、財政再建を遅らせることになる。 現に、安倍政権は昨年、プライマリー黒字化の達成年次を2020年度から2025年度へと5年先送りした。 加えて、5年ごとに行われる年金財政検証は、この内閣府推計を前提として行われる。所得代替率などを計算して議論を行うわけだが、甘い推計の下では検証も甘くなり、年金改革は遅れ、社会保障の肥大化が続くということになる。 このような「忖度推計」をなくすには、政府から独立した国会や会計検査院などが、客観的なデータに基づいて経済分析をするしかない。経済の中長期の推計を専門に行う中立で独立した「独立経済推計機関」の設立を議論すべき時が来ている。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例3】 「役員退職給与に係る「不相当に高額」の意義」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 わが社はある首都圏のある都市において精密部品の機械加工を主たる業務とする株式会社(3月決算)です。わが社の取締役だったAが昨年死亡したため、役員退職慰労金を支払いましたが、その際、ある民間団体が公表している役員退職給与のデータから、同業類似他社のものを抽出し、それを参考にして金額を算定したところです。 ところが、現在わが社が受けている税務調査において、課税庁は、同業類似法人の役員退職給与の支給事例における平均功績倍率に、当該退職役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて求める「平均功績倍率法」を用いて算定した金額より支給額が多いことから、その差額は「不相当に高額な部分」に該当し、損金の額に算入されないと主張してきました。 当方が役員退職給与算定の際に用いたデータは、民間企業が調査した結果をまとめた冊子から抽出したものであり、当社の関与税理士によれば、当該データは課税実務においてよく使用されているものであると聞きます。しかしながら、課税庁は当該冊子のデータはアンケート調査で得られた結果から作成されていることから網羅性に疑義があり、また当方が行った同業類似法人の抽出方法にも問題があるとして、課税庁が部内データに基づき別途役員退職給与の適正額を算定したものを提示してきました。 このような場合、わが社はどのように対応すればよいのでしょうか、教えてください。 【A】 役員退職給与の水準の妥当性の判断に関しては、民間企業が調査した結果をまとめた冊子から抽出したデータについては、現状、その使用が無条件で認められるものとはいえず、裁判所がその信頼性に疑問を呈する可能性があることを認識する必要があるでしょう。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 役員退職慰労金のうち損金算入されるものの意義 前回の【事例2】でも触れたとおり、平成18年度税制改正以降の法人税法上、役員退職慰労金は役員給与(役員退職給与)に該当するものとされている。また、そのような役員退職給与は原則として損金算入されるが、そのうち、「不相当に高額」な部分の金額は損金不算入とされている(法法34②)。 ここでいう「不相当に高額」な部分の金額とは、政令で以下の通り定められている(法令70二)。 すなわち、平成18年度税制改正以降における法人税法上の役員退職給与の取扱いは、以下の図の通りである。 〇役員退職給与の法人税法上の取扱い (2) 「不相当に高額」な部分の金額の判断基準 役員退職給与に関する「不相当に高額」な部分の金額とは、いったいどのように判断するのであろうか。 上記(1)で示した政令によれば、①当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、②その退職の事情及び③その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況、等を総合的に勘案して判断することとなる。これらの判断基準のうち、最も重要性が高いのが③の同種・類似規模の法人の退職給与の支給状況となるであろう(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)377頁。ただし、あわせてその役員の当該法人に対する貢献度その他の特殊事情(創業者の役割や貢献度はその他のサラリーマン社長や役員とはおのずと異なるため、単純な算式では求められない場合もある)を考慮すべきとなるであろう。 当該判断基準を具体的に適用する際に用いられている手法として、大きく以下の2つの方法がある(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書377頁。 (ア) 功績倍率法 役員に対する退職給与が支給されている他の法人で、算定対象の役員の属する法人と業種、事業規模及び退職した役員の地位等が類似するものを選定した上で、その功績倍率に当該算定対象の役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて算定する方法である。これを算式で示すと以下の通りとなる。 上記算式中の「功績倍率」とは、退職給与が役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額の何倍にあたるかというときのその倍率をいう。 また、当該功績倍率を用いる方法には、類似法人の功績倍率の平均値を用いる「平均功績倍率法」と、類似法人の功績倍率の最高値を用いる「最高功績倍率法」とがある。 (イ) 1年あたり平均額法 役員に対する退職給与が支給されている他の法人における、退職した役員の勤続年数1年あたりの平均退職給与の額に、当該役員の勤続年数を乗じて算出する方法である。これを算式で示すと以下の通りとなる。 上記(ア)(イ)の適用に関する優先順位であるが、学説上は納税者に有利なものを適用すべきという考え方が有力である(※3)。これは、上記(ア)(イ)は「不相当に高額」な部分の金額を算定するために用いる算式であるため、同業他社と同水準という金額では直ちに「不相当に高額」とは言えないためではないか(最も高い金額を選択するのが納税者有利)と考えられるところである。 (※3) 金子前掲(※1)書378頁。 (3) 役員退職給与の算定の際に用いる参照データ等の妥当性 役員退職給与に関する「不相当に高額」な部分の金額の判断基準は上記(2)の通りであるが、その算定の手法や算定の際に必要となる、類似法人の役員退職給与に関するデータ等の妥当性が問われた裁判例があるので、以下で検討しておきたい。 ① 一審(東京地裁平成25年3月22日判決・税資263号順号12178(※4))。 (ア) 役員退職給与の算定基準 まず、役員退職給与算定の際の算式として、裁判所は、 と判示し、功績倍率法の中の「平均功績倍率法」を選択すべきとしている。 また、1年あたり平均額法を用いるべきケースについて、裁判所は、 と判示し、「退職の直前に当該退職役員の報酬が大幅に引き下げられたなど」の場合については、平均功績倍率法ではなくむしろ1年あたり平均額法を用いるべきとしている。 (※4) なお、本裁判例は原告が平成17年3月に役員(自殺による死亡退職)に対して支払った役員退職給与に関する事案であり、平成18年度税制改正前の法人税法が適用されるが、争点である過大役員退職給与の妥当性に関する規定は改正前後で基本的に変わらないため、その判断には先例性があるものと考えられる。濱田洋「任意団体のデータ利用と役員退職給与の相当性」『最新租税基本判例70』税研178号155頁参照。 (イ) 本件への当てはめ 上記判断基準を本件に当てはめると、裁判所は、 として、平均功績倍率法が最適であると判断している。 一方、原告は、「本件各役員退職給与適正額の算定方法について、納税者の利益を考慮すべきであることや平均額を超えた場合に直ちにこれを『不相当に高額』であるとすることは明らかに不合理であることからすれば、同業類似法人の最高功績倍率又は1年当たり役員退職給与額の最高額こそが有力な参考基準になるというべきであ」る旨主張するが、 とし、本件は当該要件に該当しないとして、その主張を斥けている。 この点に関しては、先に(2)で触れた学説(納税者に有利なものを適用すべき)と裁判所の判断との間には乖離があるといえる。 (ウ) 参照データの妥当性 さらに、原告が採用する同業類似法人の役員退職給与に関するデータベースについて、裁判所は、 として、その採用を斥けている。 裁判所の当該判断は基本的に妥当と考えるが、一方で、役員給与・役員退職給与の妥当性を納税者側が検証する際に、納税者情報を自由に収集・利用できる課税庁と比較すると、現状、利用できるデータベースが限られているという実態があることについては、裁判所は何ら有効な指針を示していないのではという憾みがある(※5)。このような課税庁と納税者との間における情報の非対称性を将来的に解消する手段としては、例えば、法人税の申告情報に関するデータベース化という方法が考えられるところである(※6)。 (※5) 濱田前掲(※4)論文155頁参照。 (※6) 拙稿「見えない企業の納税 申告情報、データベースに」2018年12月8日付朝日新聞参照。 ② 控訴審(東京高裁平成25年9月5日判決・税資263号順号12286) 控訴審において裁判所は、 として、一審の判断を支持し、控訴を棄却している。 なお、本件に関し上告は不受理となっている(最高裁平成26年5月27日決定・税資264号順号12477)。 (4) 本事例の解釈 それでは、上記(3)の裁判例を踏まえると、本事例についてはどのように解すべきであろうか。 役員退職給与の水準の妥当性の判断に関しては、それが「不当に高額」でないことを検証するため、功績倍率法又は1年あたり平均額法のいずれかを用いて求められた金額と比較する必要があるが、(3)の裁判例を参照する限り、功績倍率法の中の「平均功績倍率法」を用いるのが最も合理的と解される。課税庁も当該裁判例の指針と同様の考え方を示したものと考えられる。 そうなると問題は、平均功績倍率法によるときのそのデータをどこに求めるのかという点である。 (3)の裁判例ではTKC全国会という「任意団体(※7)」が収集・提供するデータによることが妥当であるか否かが争われている。裁判所は、「TKCデータ(中略)は、税理士及び公認会計士からなる任意団体であるTKC全国会が各会員に対して実施したアンケートの回答結果から構成されており、その対象法人がTKC全国会の会員が関与しているものに限られている」として、その採用を否定している。 (※7) 民法上の人格なき社団ないし権利能力なき社団をいうものと考えられる。なお、TKCは会計事務所や地方公共団体に対して情報サービスを提供する株式会社である。 しかし、前述(3)(ウ)の通り、役員退職給与の妥当性を判断する際に納税者が利用・依拠することができるデータは非常に限られており、TKC全国会の会員であれば使用できるTKCデータはその数少ない有力な選択肢であるという現状(TKC全国会の会員でなければ更に選択肢は狭められる)を踏まえると、裁判所は、抽出方法(類似性確保のための対象地域や業種の限定)についてはともかくとして、データそのものの入手に関し「ではどうすればいいのか」について明確な指針を示しておらず、ある意味「不誠実」であるといえる。 勿論、TKCデータについても、信頼のおけるデータとして無条件で使用できるものではないが、信頼性という観点からいえば、電子政府やビジネスのAI化が叫ばれる昨今、国の保有する法人の申告データを匿名化の上データベースとして誰でも利用できるという方策を真剣に検討すべき時期に来ているものと考えられる。 とはいえ、われわれ実務家は、民間企業が調査した結果をまとめた冊子等から抽出したデータについては、現状、その使用が無条件で認められるものとはいえず、裁判所がその信頼性に疑問を呈する可能性があることを認識する必要があるだろう。 (了)
会計検査院「平成29年度決算検査報告」で特定検査対象となった 税制上の論点整理 【前編】 「開廃業手続による事業の引継ぎを行って事業を開始した場合における個人事業者の消費税の納税義務の免除について」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 はじめに 会計検査院は、日本国憲法第90条等の規定に基づく、国の平成29年度の収入支出の決算などを検査した結果を、「平成29年度決算検査報告(以下「検査報告」と略称する)」としてまとめ、昨年11月9日、内閣に送付したことを公表している。 本稿では、検査報告の中で、「平成29年度決算検査報告の特色」のうち、「特定検査対象」として取り上げられた下記5項目のうちから、赤字で記した税制に係る2つのテーマについて前後編にわたり、検査報告の内容をまとめるとともに、解説として若干の私見を述べたい。 なお、特定検査対象とは、「国民の関心が極めて高いテーマや検査上重要なテーマ」のことを表しており、特定検査対象については、「不適切な事態として指摘をするに至らない場合であっても、どのような検査を実施したかを明確にしておくために、その検査状況を記述」しているものであると説明されている。 * * * 1 検査報告の概要 (1) 検査の着眼点 会計検査院は、検査の着眼点として、高齢化社会の到来を踏まえて、「多くの個人が、引退する個人事業者から開廃業手続による事業の引継ぎを行って事業を開始することが見込まれる状況」にあることから、消費税の納税義務者であった旧経営者から開廃業手続による事業の引継ぎを行って事業を開始した新経営者が、事業者免税点制度によって、開廃業手続による事業を開始した年及びその翌年の消費税の納税義務が免除されている状況について検査を行うこととした。 検査に当たっては、①開廃業手続による引継ぎを行った新経営者の事業収入等は、納税義務を免除することが適切な状況となっているか否か、②旧経営者と新経営者の事業には、消費税に係る事務処理能力を含む事務処理の体制等に継続性があるか否か、などに着眼して検査を行ったということである。 (2) 検査方法 会計検査院は、全国58税務署において、平成26年中に開廃業手続による事業の引継ぎを行って事業を廃止した旧経営者のうち25、26両年課税期間分の消費税の納税義務者であった者と、開廃業手続による当該事業の引継ぎを行って事業を開始して事業者免税点制度の適用を受けている新経営者各312人に係る所得税及び消費税の確定申告書等、所得税青色申告決算書等、個人事業の開業・廃業等届出書により、事業者免税点制度の適用状況等について分析して会計実地検査を行った。 同時に、財務省及び国税庁において、事業者免税点制度等の趣旨を聴取するなどして会計実地検査を行った。 (3) 検査結果 上記の検査対象とした312人のうち、事業収入が把握できた旧経営者及び新経営者各212人の事業収入等について、旧経営者の25年分と新経営者の27年分との関係をみると、旧経営者と新経営者の双方の事業収入等が同じ規模となっている事業者数は以下の表のとおり、145人に及んでいた。 また、旧経営者の事業収入等が1億円超だった4人については、その新経営者の事業収入等も引き続き1億円超となっていた。 さらに、残りの新経営者67人のうち計43人に係る27年分の事業収入等は、旧経営者の25年分の事業収入等よりも高額の金額区分に属していた。 (4) 会計検査院による所見 検査の結果を、会計検査院は、以下のようにまとめている。 こうした検査結果を踏まえて、会計検査院は、次のように指摘している。 そして、財務省に対して、消費税に関わる幅広い議論が十分なされるよう、事業者免税点制度等の在り方について、引き続き、様々な観点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要であると提言して、検査報告を締め括っている。 2 事業者免税点制度の概要 (1) 消費税の納税義務が免除される者の範囲 消費税については、小規模事業者の消費税に係る事務処理能力等を勘案して、原則として、個人事業者は課税期間の前々年、法人は課税期間の前々事業年度(以下、これらを「基準期間」という)における課税売上高が1,000万円以下の事業者について、消費税の納税義務を免除することとされている(事業者免税点制度)。 したがって、新規に事業を開始した事業者については、基準期間における課税売上高が存しないことから、事業者免税点制度により、原則として新規開業年及びその翌年の消費税の納税義務が免除されている。 (2) 免税事業者の問題点 会計検査院による検査報告で判明したように、新規に事業を開始した個人事業者であっても、旧経営者から事業の引継ぎを受けた者については、そのほとんどが消費税の課税事業者であった旧経営者と同じ規模の事業収入を開業初年度から稼得しており、小規模事業者の事務負担軽減を目的とする事業者免税点制度により、多額の消費税がいわゆる「益税」として事業者の収入となっている事実が明らかになった。 その一方で、中小企業庁は、消費税転嫁等対策として、取引先が免税事業者であっても、消費税額等を上乗せして下請業者に支払うよう、指導を強めている。 (3) 消費税法の改正 消費税導入当初、免税事業者に該当するかどうかの判断は基準期間における課税売上高が3,000万円以下というものであった。平成16年4月1日からはこの免税点が1,000万円に引き下げられているが、その後、免税点の引下げや免税事業者制度の見直しに関する議論は長く出ていないままである。 3 解説 消費税の免税事業者制度に関する筆者の個人的な見解は、少なくとも所得税に係る青色申告の承認を受けた事業者については、消費税の免税事業者から除外をすべきである、というものだ。 小規模事業者の事務負担の軽減が、消費税の免税事業者制度の目的であれば、青色決算書の作成が可能な事業者であれば、簡易課税制度の選択により、課税売上高の集計により、納付すべき消費税額等の計算が可能であることから、軽減すべき事務負担は存在しないように思われる。 むしろ、小規模事業者にとっては、軽減税率導入による複数税率への対応の方が、より事務負担を重くする結果につながる可能性が高いと考える。日本税理士会連合会も「平成31年度税制改正に関する建議書」の中で、消費税について、次のように述べている。 適格請求書等保存方式(いわゆる日本版インボイス制度)が導入される2023年度以降は、免税事業者からの課税仕入れについて、段階的に仕入税額控除が制限されることから、取引先として免税事業者を排除する動きが出ることも予想され、それに対応して、免税事業者から適格請求書発行事業者の要件である課税事業者への転換が進むこととなりそうだ。 とはいえ、免税事業者からの課税仕入れにつき、その全額の仕入税額控除が認められないこととなるのは、今から10年後であり、それまでの間は、会計検査院による特定検査の結果報告を注視したい。 (※) 詳細については、国税庁「よくわかる消費税軽減税率制度」を参照。 なお、会計検査院の検査報告に1つだけ苦言を呈するとすれば、検査結果に基づく税収減少額が試算されていない点にあるのではないだろうか。所得税の確定申告書や青色決算書から、課税事業者であれば本来納付することになる消費税額等を試算することはさほど困難な作業ではないと思料する。その結果、具体的な課税漏れの金額が試算されれば、会計検査院の提言もさらに重みが増すのではないかと思料する次第である。 * * * 【後編】では上記と同様に「特定検査対象」とされた「競馬等の払戻金に係る所得に対する課税状況について」の内容を検討したい。 (了)