事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第36回】 「信用組合による反社会的勢力への資金提供」 弁護士 原 正雄 前々回と前回は、2025年5月30日公表の第三者委員会報告書に基づき、I信用組合における長年にわたる不正融資と元役員らによる調査妨害について論じた。同報告書は「不正融資によって捻出した資金のうち、8.5億円~10億円の使途が明確になっていない」として、さらなる調査が必要と指摘した。東北財務局も、業務改善命令において「更なる事実関係の精査及び真相究明」を求めた。 同年6月30日、I信用組合は、新たな役員による新体制において、改めて外部専門家による特別調査委員会(以下、追加調査委員会)を組成し、追加調査を実施させた。その結果は同年10月31日に「調査報告書(公表版)」として公表され、I信用組合による反社会的勢力(反社)への資金提供の実態が明らかになった。 同報告を受け、金融庁は、行政処分(業務の一部停止命令と業務改善命令)を下した。あわせて、2026年1月21日、金融庁と東北財務局は、立入検査における虚偽答弁・虚偽報告を理由としてI信用組合を刑事告発した。 以下、追加調査によって明らかにされたI信用組合による反社への資金提供について分析する。 1 反社に提供した金額 追加調査委員会が調査を進めた結果、不正融資の手法と規模は、第三者委員会による認定を上回ることが判明した。具体的には、不正融資の手法は、①無断借名融資、②迂回融資に加えて、③水増し融資も行われていた。また、2004年3月期以降に行われていた不正融資の総額は、第三者委員会が認定した約250億円を上回り、約280億円であった。 約280億円の大半は、不正融資の返済や利息等としてI信用組合に還流した。しかし、約26億円が外部に流出していた。 前々回で述べたとおり、外部流出した約26億円のうち約12億円は、Xグループの資金繰りに用いられ、約2億円は元職員の横領の補填に用いられた。そして、今回の追加調査の結果、Xグループ以外の破綻懸念先のためにも約2億円が用いられたことが判明した。以上の合計が、約16億円である。では、外部流出した約26億円のうち、残りの約10億円は何に用いられたのか。 今回の追加調査で、ついに元役員らも事実を告白した。残りの約10億円は、あろうことか反社に交付されていた。 2 反社への資金提供の経緯 上記のとおり、I信用組合は、反社に対して約10億円もの資金を提供していた。その中心は、E理事長であった。E理事長は、2004年11月に理事長に就任後、2016年までの約13年間で、反社に合計約10億円を支払ったとのことである。経緯は、以下のとおりである。 (1) Σ氏への支払の開始 E理事長は、理事長に就任すると、それまでの素行などを理由に、右翼団体から街宣活動を受けるようになった。 それに対して、Σ氏が仲介を申し出た。Σ氏は、I信用組合が「暴力団関係者と親交を有する周辺者」と整理していた人物である。E理事長は、Σ氏の申し出に応じ、解決料名目で金員を支払ってしまった。例えば、2008年4月頃には、水増し融資を実行させて1億円の現金を捻出し、それをΣ氏に支払った。 (2) Σ氏への支払の拡大 Σ氏の要求は、当然のように拡大した。 例えば、2014年、E理事長は、G社にビル購入資金を融資した際、約3.5億円の水増しをして約9億円の融資を実行した。既に行っていた無断借名融資を解消するための資金の捻出が目的であった。これを聞きつけたΣ氏は、口止め料を要求した。E理事長はこれに屈し、自ら商業施設の駐車場に赴いて、Σ氏に現金1億円を手渡した。 なお、当該1億円は、本部の金庫に保管していた「経理部管理現金」を流用したもので、最終的に無断借名融資で作った現金で穴埋めしたようである。当該金庫には監査法人が現金実査を行っていたが、別の金庫から現金を一時的に移動させて現金不足を隠蔽していたとのことである。 (3) Σ氏の子に対する3億円の融資 2017年9月頃、Σ氏の要求はさらに拡大した。E理事長に繰り返し電話をかけ、要求に応じなければ右翼団体の街宣活動を抑えられない、などと脅迫した。 2018年4月、E理事長らは、Σ氏に「私は、I信用組合に対し、今後一切金銭の要求をせず、いささかの迷惑もかけないことを確認します」との確認書を提出させて、直接的な現金要求をやめさせた。 その一方で、E理事長らは、Σ氏の子に3億円を融資した。担保は、評価額わずか約5,400万円のビルのみであった。営業店での手続は省略され、形式的な資料だけで本部決裁を得ていた。同融資は現在も返済されず、Σ氏への間接的な資金提供と評し得る状況であった。 当時、当該融資を指示したT常勤理事は「Σ氏では出せないので、息子で出しましょうっていう話にしたんですよ」「結局は利益供与ですから。返済しきれねぇのわかってんの」などと述べていた(録音が存在)。 (4) その他の反社への支払 I信用組合による反社への支払は、Σ氏に対するものに限られなかった。 2007年ないし2008年頃、E理事長は、情報誌の関係者から「不正を暴く」と脅され、約1.5億円の現金を支払った。無断借名融資を原資にしたとのことである。 また、2019年から2024年までに、反社リストに「暴力団幹部」と記載された人物の紹介で約30億円(9件)を融資した。これらの大半は、返済されていない。 (5) より以前からの反社への支払 もっとも、I信用組合における反社への支払は、E理事長が初めてではなかった。E理事長以前の理事長にも、反社への支払をしていた者がいた。 1990年代は、多くの金融機関が反社と関係を有していた。I信用組合でも、理事らが暴力団関係者などの反社と交友したり、弱みを握られたりして、資金提供を繰り返していた。上述のΣ氏とも一緒に飲食や海外旅行をしたうえ、資金も提供していたとのことである。 1994年頃、全国規模の右翼団体が当時のS理事長(E理事長の前々任)ら経営幹部を糾弾して街宣活動を展開したことがあった。S理事長らは、仲介を申し出たΣ氏に対し、解決料名目で合計数億円を支払った。その資金は、内部積立資金の切り崩しや水増し融資などで捻出したようである。 また、1997年頃、S理事長は、情報誌の関係者から「不正を暴く」と脅されて8億円を融資した。当該融資は、元本を一切回収していない。 2001年6月、S理事長が退任してY理事長(E理事長の前任)が就任した。追加調査委員会によると、その在任中(~2004年11月)は反社への資金提供をうかがわせる資料や供述はないとのことである。当時は、ちょうど時代が変わってきており、社会全体で反社排除が強く叫ばれていた。I信用組合もそうした時代の流れに合わせて反社を排除していたようである。トップの素行と姿勢次第では、たとえI信用組合であっても反社を排除できていた様子が分かる。 残念ながらY理事長は、2004年に急逝した。後任に就任したのが、本件で問題とされるE理事長である。その後、I信用組合は、あっという間に再度の反社の侵食を許してしまった。 3 元役員らの責任 以上のとおり、E理事長を始めとする元役員らは、反社に資金を提供してきた。これは、反社による犯罪行為や一般市民を苦しめる活動への間接的な支援とも評価し得る状況であった。 しかも、前々回で述べたとおり、I信用組合は、反社に提供した資金の穴埋めに、東日本大震災で得た公的資金を流用していた。あたかも「被災した地域の中小規模事業者や個人」を助けるための公的資金を、「被災した地域の中小規模事業者や個人」を苦しめるための反社の活動資金に流用した、とも評価すべき事態であった。 追加調査委員会は、こうした不正に関する融資について、償却を取り消して復活させた上で「役員貸付」に振り替えるべき、と提言した。すなわち、反社に提供した資金は、E理事長ら元役員らへの個人貸付とみなし、元役員らに返済させるべき、としたのである。金融庁が行政処分において「責任追及」を求めたとおりである。 2025年12月19日、I信用組合は、E理事長ら元役員20名に対して、個人連帯責任を追及すべく損害賠償請求訴訟を提起した。請求額は、以下の合計32億円であった。 そして、I信用組合は、元役員らについて、背任罪を理由に刑事告発も検討している。金融庁と東北財務局も、立入検査の際に虚偽答弁や虚偽報告をしたとして、2026年1月21日、I信用組合を刑事告発した。反社への資金提供や調査妨害がいかに重い責任を伴うかがよく分かる。 4 原因と再発防止 I信用組合には、反社排除体制がなかったわけではない。I信用組合は「反社会的勢力に対する基本方針」を定めており、「反社会的勢力による不当要求に対しては、民事と刑事の両面から法的対抗措置を講じる等、断固たる態度で対応します」と宣言していた。 また、「反社会的勢力対応管理規程」、「反社会的勢力認定先に対する取引管理内規」、「反社会的勢力対応マニュアル」など、反社排除のための規程類も整備していた。業務システムには、反社データベースも登録していた。 ところが、それらは全く機能していなかった。E理事長を始めとする元役員らはこれらを無視し、反社の要求に屈して反社への資金提供を繰り返していた。追加調査委員会は、この点を捉えて「反社排除に向けてどれだけ立派な規程や体制を整備しようとも、経営陣の意識が低ければ、画餅に帰すことを顕著に示す」と評価している。 反社排除に最も重要なことは、トップの素行と姿勢である。反社につけ込む素行上の隙があるトップを選任してはならない。また、選任されたトップは、反社排除に向けて強い姿勢を示さなくてはならない。そのうえで、経営陣を中心に役職員が全員で高い意識を保つ。実際、Y理事長の在任中(2001年6月~2004年11月)は、反社への資金提供をうかがわせる資料や供述は見当たらなかったこと、上述のとおりである。 そして、こうしたことを精神論で終わらせてはならない。その点に関して、追加調査委員会は、以下の対応を提言している。 反社排除に向けた的確な提言と解する。追加調査委員会も述べるとおり、I信用組合は、上記提言に加えて、第三者委員会が提言した再発防止策も併せて実施し、「悪しき過去」と訣別しなければならない。I信用組合が本当の意味での「社会からの信頼」を獲得できる日が来ることを切に願う。 (了)
〈執筆:編集X〉 書く論 第1回 「なぜ書く」 読者の皆さま、はじめまして。 この連載は、実務書の編集職に30年近く携わってきた編集Xが、原稿を「書く」選択をされた実務家の方々とのお仕事を通して学んだことを、これから「書く」人たちへお伝えするためのものです。 まずは簡単に自己紹介を。 私、編集Xは上記のように、そこそこ長く実務書の編集のお仕事に携わり、そして皆さまに読んでいただいているこのWeb情報誌プロフェッションジャーナルの立上げ時から少し関わらせていただきました(この連載は本誌編集者さんからの依頼で始めた連載ですが、編集者には制作の裏方に特化する「黒子」派と、著者と同様に表に出てくる「白子」派(?)がいて、個人的には圧倒的に前者派なので、ご紹介はここまでに)。 さて、この連載の第1回は「なぜ書く」のか、について考えてみます。 税理士や公認会計士など実務家の方々で、執筆のみを生業にしている方は非常に少ないと思います。要は、「本業があるので、原稿を書いて、その収益で生活しなくてもよい」、つまり、わざわざ実務の原稿を書く必要のない方々が大半です。 それでも(ありがたいお話ですが)出版社などの要請に応じて、書籍や雑誌、Web媒体などで原稿を書いている、またはこれから書きたいという方がいるのはなぜでしょうか。 これまでの経験では、その理由として「自分の本を世に出したい」「名前を広めたい」などが多かったです(現在のような出版業界の景況から、原稿料を期待している人が昔より少なくなったのは申し訳ない限りです・・・)。 ただ、初めてお会いして「原稿を書きたい」という方に、「ご執筆の目的は何ですか?」とたずねると、そこで初めて自分のお考えに気づき、言葉にされる方がけっこう多いのも事実です。 これから原稿を書きたいという方は、ご執筆の目的は何でしょうか。 すでに原稿をたくさん書かれている方は、その目的を今でも覚えておられますか。 さらに、原稿を書き続けた先にある、そのゴールは何でしょう。 あらためて考えてみると、どこに(どの媒体に)、どのようなレベルの原稿を書くべきなのかが、はっきり見えてくると思います。 ちなみに、目的やゴールについては、その人それぞれであって、「○○でないといけない」とは思いません。 ただし、この点が曖昧な方や深く自覚されていない方は、何度か原稿を書いてみて、結局お止めになるケースも多いのです。 また、依頼されるがままに原稿を書くことは、ご自身のためになりません。 これらについては今後、個別に取り上げていきます。 最後に1つエピソードを。 10年ほど前、とある先生にお会いして専門家向けのご執筆をお願いした際に、その方はこうおっしゃいました。 「競争相手である同業者に自分の原稿を読ませるのは、自身のノウハウを開示するだけでメリットがない」 確かにその通り。競争の激しい実務家の世界では正論であり、ぐうの音も出ませんでした。 そのお話を編集Xが尊敬する先生にしたところ、こうおっしゃいました。 「自身が得た知識や経験を、同業者であっても広く伝えたいと思うのは自然なことだ」 編集Xは未だにこの意見の狭間にいるような気がします。 読者の皆さまはどのように感じられるでしょうか。 では、導入部分が長くなっても良くないので、次回からは実際に原稿を「書く」ときのお話に移らせていただきます。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
《速報解説》 会計士協会、新規上場会社等の会計不正事例の発生を踏まえ、 監査上の対応に関する通知を公表 ~監査業務実施上の留意事項を改めて集約~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年1月26日、日本公認会計士協会自主規制本部は、「新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について(通知)」を公表した。 これは、最近の新規上場会社等の会計不正事例を踏まえて、監査業務実施上の留意事項を改めて取りまとめたものである。 同日、「登録上場会社等監査人による監査の信頼性向上に向けた取組」、プレスリリース「当協会の調査について(続報)」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 SSBJ、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年1月22日、サステナビリティ基準委員会は、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」(サステナビリティ開示実務対応基準公開草案第1号)を公表し、意見募集を行っている。 「地球温暖化対策の推進に関する法律」(以下「温対法」という)における「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(以下「SHK制度」という)の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いてサステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(以下「『気候基準』」という)の定めに従った測定及び開示を行う場合に、「気候基準」の要求事項が必ずしも明確ではなく、実務上の解釈において見解が分かれていることにより、企業の実務における対応に多様性が生じ、「気候基準」の趣旨や企業間の比較可能性が損なわれる可能性があるとの懸念などが寄せられたとのことである。 公開草案は当該問題に対応するものである。 意見募集期間は2026年3月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 見解が分かれている論点 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従った測定及び開示を行う場合に、次の3つの点について見解が分かれている(公開草案BC3項)。 Ⅲ 温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」の定めに従う場合の測定及び開示 「気候基準」49項ただし書きに従って、企業の全部又は一部について、温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて測定を行う場合、当該企業の全部又は一部に係る温室効果ガス排出について、次のように開示する(公開草案7項)。 Ⅳ 基礎排出量と調整後排出量のいずれを基礎として用いるのか 基礎排出量の方が、調整後排出量よりも「GHGプロトコル(2004年)」の測定方法との親和性が高いと考えられており、比較可能性を確保する観点からは「GHGプロトコル(2004年)」に近いものが望ましいと考えられたことから、公開草案は、温室効果ガス排出の測定及び開示にあたり、基礎排出量を基礎として用いることとしている(公開草案BC14項)。 なお、任意の参考情報として基礎排出量の開示とあわせて、調整後排出量及び調整項目を開示することができると考えられるとしている(公開草案BC14項)。 Ⅴ ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定及び開示 公開草案は、公開草案で提案する測定方法により算定したロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出とマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出を「GHGプロトコル(2004年)」とは異なる方法により測定した温室効果ガス排出量として開示することを提案している。 なお、「気候基準」63項に従った温室効果ガス排出の測定方法の開示にあたっては、ロケーション基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定方法及びマーケット基準によるスコープ2温室効果ガス排出の測定方法のそれぞれについて、具体的に開示することが考えられるとしている(公開草案BC23項)。 Ⅵ 適用時期等 2027年3月31日以後終了する年次報告期間に係る気候関連開示から適用する。 ただし、2027年3月31日より前に終了する年次報告期間に係る気候関連開示について、適用することができる。この選択を行う場合、その旨を開示しなければならない。 経過措置に注意する。 (了)
2026年1月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.653を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第147回】 「OECD/G20のBEPS包摂的枠組みが共存システムに関する合意を公表」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 147ヶ国・地域で構成されるOECD/G20のBEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)は、新年早々の1月5日、デジタル化・グローバル化した経済環境におけるグローバル・ミニマム課税制度の協調的運用に向けた道筋を示すパッケージの主要要素について合意したことを公表した。 2025年6月28日にG7の財務省がグローバル・ミニマム課税に関する共同声明を公表したことで、米国連邦議会に提出された税制改正法案に当初盛り込まれた報復措置が撤回されて以降、数ヶ月にわたる緊密な協議を経て発表された「共存システム(side-by-side system)」に関する包括的合意は、国際税制の安定性と確実性の基盤を築く重要な政治的・技術的合意である。これにより、グローバル・ミニマム課税の枠組みで従来までに達成された成果が維持され、特に開発途上国を含む全ての管轄区域が、自国で生み出された所得に対する第一課税権を確保する能力が保護される。 2025年12月19日に自由民主党と日本維新の会による与党が取りまとめた令和8年度税制改正大綱においては、「グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)については、国際課税システムの安定化等を目的とした、グローバル・ミニマム課税と米国をはじめとする一定の要件を満たす国の税制との共存等に係る国際的な議論が継続している状況にあり、近く国際合意に至る場合には当該合意に則り早急に見直しを検討する等、議論の状況を踏まえて今後対応を検討する。あわせて、令和8年度税制改正において、OECDにより発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から所要の見直しを行う。」旨が明記されていた。そのため、本合意を踏まえて、今後、国内における所要の措置が講じられることとなる。 〇 5つのポイント 公表された合意文書においては、次の5つの主要ポイントが明記されている。 〇 コーマン事務総長による声明 OECDのマティアス・コーマン事務総長は、本合意の公表にあたり、「147の国と地域が参加する包摂的枠組みによる本合意は、国際税務協力における画期的な決定である」旨とともに、「税務上の確実性を高め、複雑性を軽減し、税基盤を保護する本パッケージを最終決定した包摂的枠組みの加盟国による功績は称賛に値する。包摂的枠組みが本パッケージの実施を推進するとともに、グローバル・ミニマム課税制度とコンプライアンス負担のさらなる簡素化に向けた今後の提案を進めることを期待している」と述べている。 〇 ベセント財務長官による声明 米国のスコット・ベセント財務長官は、本合意を受けて、次のような声明を公表した。 トランプ大統領の就任初日の大統領令は、バイデン政権が提案したOECD第2の柱合意が米国に対して効力を有しないことを明確にした。 本日、当政権はその公約を果たした。米国財務省は議会と緊密に連携し、OECD/G20包摂的枠組みに参加する145ヶ国以上との合意形成に努めた結果、米国に本社を置く企業は米国のグローバル・ミニマム課税のみの対象となり、第2の柱からは免除されることとなった。この共存システムに関する合意は、米国企業の全世界的な事業活動に対する米国の課税主権と、他国が自国領土内の事業活動に対して有する課税主権を認めるものである。 さらに本合意は、米国における投資と雇用創出を促進する米国議会が承認した研究開発税額控除やその他の優遇措置の価値を保護し、イノベーションと技術進歩における米国のリーダーシップという共通目標を達成するものである。 本合意は、米国の主権を保持し、米国の労働者と企業を域外適用による過剰な課税から保護する歴史的勝利を意味する。 米国財務省は、合意の完全な実施を確保し、国際的な税制の安定性を高め、デジタル経済の課税に関する建設的な対話に向けて前進するため、引き続き諸外国との対話を継続する。 〇 実務ガイダンス OECDは本合意とともに実務ガイダンスを公表しており、その概要は次のとおりである。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第78回】 「合併無効判決の確定と役員退職給与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 被合併法人による役員退職給与の支給 合併で法人が消滅することを機に役員が退職したことで、法人が役員退職給与を支給すること自体は一般的といえる。ここで、実際に役員が退職し、法人内で所定の決議をした上で支給した役員退職給与の額が過大ではない場合、その支給額が問題なく損金の額に算入されることに疑義はないと思われる。 ここで、対象役員が、支給額や退職自体に不満がある等の理由で、会社法828条1項7号等で定められている合併無効の訴えを行った結果、合併無効の判決が確定してしまった場合には、合併によって消滅したとする被合併法人が復活することになる。この場合、合併を機に退職した役員に支給した役員退職給与について、損金の額に算入できるのかが問題となる。 税務上、法人税法や国税通則法をはじめとする法律や通達、そして事務運営指針等には、合併無効判決の確定を想定した規定や取扱いが示されていない。したがって、会社法に準拠して処理をすることとなると思われる(※1)。この点、会社法839条では、「会社の組織に関する訴え・・・に係る請求を認容する判決が確定したときは、当該判決において無効とされ、又は取り消された行為・・・は、将来に向かってその効力を失う。」と規定されているため、遡及して合併の効果が否定されるわけではない。加えて、合併無効判決の確定後における被合併法人の役員については、合併前の役員が当然に復職するのではなく、存続会社の取締役・監査役がその権利義務を有するべきと解されているのが通説である(※2)。 (※1) 同旨の見解及び今回取り上げるテーマの先行記事として、衛藤政憲「合併無効判決の確定と合併時退任役員の地位及び支給した役員退職給与」国税速報6428号13頁がある。 (※2) 江頭憲治郎『株式会社法 第9版』(有斐閣、2024)936頁。 ここで、裁判例や裁決例においては、合併無効判決の確定があったことにより被合併法人の役員に支給した役員退職給与の額について更正の請求がなされたという事例は、少なくとも筆者がリサーチする限り見られなかった。 しかし、合併無効判決が確定したことで清算所得課税について更正の請求を行ったところ、合併無効判決の効力は課税関係においても遡及しない旨が示された事例がある。具体的には、合併無効判決が確定したことを理由に更正の請求を行ったところ認められなかった事例があるため、以下(2)にてその概要を紹介する。 (2) 合併無効の訴えと税務上の取扱い 合併無効判決が確定したことを理由に更正の請求を行ったところ認められなかった事例として、大阪地裁平成14年5月31日判決(※3)、大阪高裁平成14年12月26日判決(※4)がある。以下がその概要である。 (※3) 判例タイムズ1098号140頁。 (※4) 判例タイムズ1134号216頁。評釈として、渡辺徹也「合併無効と課税」別冊ジュリスト207号33頁がある。 本件裁判例において争点となった旧商法110条は、「合併ヲ無効トスル判決ハ合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間ニ生ジタル権利義務ニ影響ヲ及ボサズ」と規定されていたものである。このように判決によらなければならないことにつき、最高裁平成9年1月28日判決では(※5)、「会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるために、・・・遡及して覆し得ることとするのは相当でなく、また、認容判決の効力が訴訟当事者間においてのみ相対的に生ずるとするのも相当でないことから、・・・法律関係を早期かつ画一的に確定することにあると解される」と示されている(※6)。 (※5) 最高裁判所民事判例集51巻1号40頁。 (※6) 沼田渉「合併等の組織法上の行為が無効とされた場合の法人税の取扱いに係る一考察」税務大学校論叢97号22頁。 本件裁判例においては、地裁が旧商法110条の趣旨に照らして同旨を示した上で、新たな会社分割が行われるために遡及効とならないとして、更正の請求を認めなかった。 また、控訴審においては、納税者は、旧商法110条の「影響ヲ及ボサズ」の解釈について、「合併後存続スル会社又ハ合併ニ因リテ設立シタル会社、其ノ社員及第三者ノ間ニ生ジタル権利義務」について影響を及ぼさないだけであり、それ以外の私法上の一般原則には遡及効が生じると付加主張した。 これに対し高裁は、「会社の合併と合併無効判決確定との間においても、会社の経済活動は行われ、課税問題をもたらす損益が生じているのであり、この損益を遡及的に無効にすることはできず、・・・復活した消滅会社の取締役・監査役については、合併当時の取締役・監査役が当然に復職するのではなく、復活後新たに選任がされるまでの間は、合併無効判決確定時における存続会社又は新設会社の取締役・監査役が消滅会社の取締役・監査役としての権利義務を有すると解されていることなどからも、合併無効判決に遡及効がないことが裏付けられるものである。」として、上記の通説に沿う見解が示されている。 (3) 本件裁判例の意義 (2)の裁判例は、現行法令ではない旧商法110条が争点となったものである。 旧商法110条は現在、上記の通り会社法839条の規定に改められているが、両者についてはその趣旨を同じくしており、その規定内容の意味するところに相違はないと考えられる(※7)。 (※7) 酒巻俊雄・龍田節編『逐条解説会社法 第9巻 外国会社・雑則・罰則』(中央経済社、2016)179-180頁では、実質面に変更がないとする見解が説かれている。 これにより清算所得課税は現行税制には存在していないが、非適格合併が行われた場合における保有資産の含み損益課税等が生じるため、無効判決の確定によって税務にどのような影響があるのかという点を検討する際、本件裁判例を検討することは今日でも意義があるとされている(※8) (※9)。 (※8) 金子宏・佐藤英明・増井良啓・渋谷雅弘『ケースブック租税法 第6版』(弘文堂、2023)494頁。太田洋・生方紀裕「合併無効判決が課税関係に及ぼす効果─旧商法110条と会社法839条の相違」T&Amaster324号20頁。 (※9) なお、無効判決の確定後における復帰資産等、資産調整勘定や負債調整勘定等の税務上の取扱いについては、沼田・前掲(※6)60頁以下に詳しい。 被合併法人の役員に支給した役員退職給与について検討する場合にも、本件裁判例が示した内容は参考となる。すなわち、会社法上の通説及び本件裁判例では、合併無効判決の確定によっても、被合併法人の役員は当然に復職しないとされているため、役員の退職はそのまま有効となる。加えて、支給した役員退職給与についても、無効判決が確定するまでに行われた会社の経済活動による損益に影響を与えており、この損益を遡及効により無効にすることはできないのであるから、支給した役員退職給与は返還されないため、そのまま損金の額への算入を維持されるべきであると思われるのである。 (了)
相続税の実務問答 【第115回】 「相続時精算課税が適用される贈与の課税漏れがあった場合の贈与税額控除」 税理士 梶野 研二 [答] 相続時精算課税の適用に係る贈与者に相続が開始したことにより相続税の申告をする際には、相続時精算課税に係る贈与税の金額を、算出相続税額から控除することとされていますが、贈与税の課税処分の除斥期間が徒過してしまい、課税されることのなかった贈与税額については、相続税額からの控除はできません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 はじめに 【第114回】「贈与税が課税されていない相続時精算課税贈与の相続税の課税価格への加算」では、相続時精算課税の適用を選択した年以降にその相続時精算課税の適用に係る贈与者から贈与を受けた財産の価額は、実際に贈与税が課税されたかどうかにかかわらず、相続税の課税価格に加算しなければならないと説明しました。 この点については、相続時精算課税制度の仕組みから理解を得られたとして、そうであるならば、本来、課されたであろう贈与税額の控除が認められるべきではないかとの疑問が生じます。このような税額控除が認められないとするならば、贈与税の課税処分の除斥期間が徒過したこと、及び贈与税の徴収権の消滅時効が完成したことによる効果が事実上、消し去られてしまうからです。 2 相続時精算課税に係る贈与税額の控除 (1) 相続時精算課税選択届出書を提出した年以降に、その届出書に記載された贈与者から贈与を受けた財産(贈与により取得したものとみなされる財産等を含みます。)の価額は、その贈与者の相続開始の際の相続税の申告において、相続税の課税価格に加算又は算入されることとなります(相法21の15①、21の16①)。そして、この相続時精算課税の適用を受ける財産につき課せられた贈与税があるときは、算出された相続税額から当該贈与税の税額に相当する金額を控除した金額をもって、納付すべき相続税額とされます(相法21の15③、21の16④)。 この「課せられた贈与税」には、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産に対して課されるべき贈与税も含まれるものとして取り扱われます(注)が、相続税法第37条⦅贈与税についての更正、決定等の期間制限の特則⦆第1項及び第2項の規定による更正又は決定をすることができなくなった贈与税、すなわち、原則として贈与税の申告書の提出期限から6年が経過したことにより課税されなかった贈与税は除かれています(相基通21の15-3前段、21の16-1)。 (注) 贈与税が課されるべきであるにもかかわらず課税されていない場合には、速やかに贈与税の申告をすべきですし、申告がなされない場合には、当局による更正又は決定の手続きが執られることとなります(相基通21の15-3後段)。 (2) 相続税法第21条の15第1項は、相続時精算課税に係る贈与があった場合には、適正に贈与税の申告及び納付がされていることを前提に、算出相続税額から「課された贈与税」を控除すると定めており、申告漏れ(課税漏れ)がある場合には、この定めを適用する前提を欠いているといえます。一般的に同項の「課された贈与税」は「課されるべき贈与税」と同義と解してよいと思われますが、あくまでも適正な贈与税の申告(課税)が行われていることが前提ですから、実際に相続時精算課税に係る贈与について申告漏れ(課税漏れ)があり、相続税法第37条第1項及び第2項の規定により更正又は決定をすることができなくなった贈与税を相続税額から控除することは、課税の公平に反することとなり容認できるものではありません。一般的に「課された贈与税」と「課されるべき贈与税」とは同義であるとしても、法律上の文言が「課された贈与税」である以上、相続税法基本通達21の15-3等の定めのとおり更正又は決定をすることができなくなった贈与税を控除対象から除くことは、文理解釈の観点からも相当です。 なお、このように税額控除が認められないと解すると、贈与税の課税処分の除斥期間が徒過したこと、及び贈与税の徴収権の消滅時効が完成したことによる効果が、事実上、なくなってしまうとの見方もあるかもしれませんが、贈与税の更正又は決定の期間制限により贈与税が課されないことと、実際に課税されていない贈与税について、相続税の計算上、税額控除の対象とするかどうかは、別の問題であり、それぞれ、法律の規定振りとその合理的な解釈により処理されるべきものと考えます。 3 質問の場合 相続時精算課税の適用に係る贈与者に相続が開始したことにより相続税の申告をする際には、相続時精算課税に係る贈与税の金額を、算出相続税額から控除することとされていますが、贈与税の課税処分の除斥期間が徒過してしまい、課税されることのなかった贈与税額については、相続税額からの控除は認められません。 あなたが、平成20年に、お父様からのみなし贈与について贈与税の申告を失念し、既に贈与税の更正又は決定の除斥期間を徒過している以上、被相続人をお父様とする相続税の申告において、このみなし贈与財産の価額を加算しても、それに対応する贈与税額の控除をすることはできません。 なお、平成16年の株式の贈与に係る贈与税については、算出された相続税額から控除することができます。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第88回】 「外国子会社配当益金不算入規定における 外国子会社の判定基準(地判令3.9.28)(その1)」 ~法人税法23条の2第1項、法人税法施行令22条の4第1項~ 滋賀大学准教授・税理士 金山 知明 1 はじめに 平成21年度に導入された外国子会社配当益金不算入制度(法人税法23条の2第1項)は、法人課税の分野において、全世界所得課税という基本構造を維持しながら、一部に国外所得免除型のポリシーを導入するものであったといわれる。その方策は、従来の間接外国税額控除の適用基準をそのまま利用しつつ、間接外国税額控除を廃止して、対象外国会社からの配当を益金不算入とするものである。 これにより、改正による税制の混乱は最小限に抑えられたという側面がある一方(※1)、内国法人による持株割合25%以上という適用基準を満たす場合は配当益金不算入(テリトリアル型)となり、それを満たさないときは全世界所得型で課税される結果となるため(※2)、簡素ではあるが適用の可否による対照性は拡大したともいえるだろう。 (※1) 青山慶二「外国子会社配当益金不算入制度の考察」筑波ロー・ジャーナル6号(2009)105頁。 (※2) 増井良啓「外国子会社配当の益金不算入制度は何のためにあるか」村井正先生喜寿記念論文集『租税の複合法的構成』清文社(2012)214頁。 本件は、まさにその持株割合25%以上という適用基準の充足を争点とし、具体的には、外国子会社への当否の判定を単に所有株式数のみで行うか、それとも株式数だけでなく、払込金額や議決権の割合による判断も可能か否かを巡り争われた事案である。その争点自体は単純であるが、外国子会社配当益金不算入制度の適用基準に関する検討経緯や、外国子会社合算税制との関係から重要な論点を含んでいる。 2 事案の概要 原告Xは、平成24年6月に設立された、大阪府岸和田市に本店を置き、海外企業に対する企業進出に関するコンサルティング等を目的とする、資本金300万円の株式会社である。 F社は、平成24年12月、カナダのブリティッシュ・コロンビア州事業法人法に基づき、カナダに所在していた2法人が新設合併することにより設立された外国法人である。 Xは、平成25年7月30日(本件配当日)、F社から645万7,500カナダドルの剰余金の配当を受け、その円換算額6億1,700万円あまりを受取配当金勘定に計上する会計処理をした。 本件配当日におけるF社の発行済株式の種類、株主の状況等は下表のとおりである。X以外にGとHが株主となっており、Xの持株数はわずか1株ではあるが、議決権割合としては26%を有している。なお、F社の設立時及び本件配当日以前6ヶ月の間における株主及び株式の状況もこれと同様であった。 〈配当日におけるF社の株主構成表〉 Xは、平成26年7月31日、Y(岸和田税務署長)に対し、当該事業年度に係る法人税等の確定申告をした。その際Xは、本件事業年度の法人税について、本件配当は、法人税法23条の2第1項(外国子会社配当益金不算入)に規定する「外国子会社」から受ける剰余金の配当等の額に該当するとして、本件配当の額からその5%相当額を控除した金額の円換算額5億8,600万円あまりを、益金の額に算入しなかった。 Yは、平成29年6月27日付けで、F社は法人税法23条の2第1項にいう「外国子会社」に該当しないから同項の規定の適用はないとして、Xの本件事業年度の法人税等について、更正処分を行った。 Xは、平成29年9月19日、本件各処分を不服として、再調査の請求をした。これに対しYは、同年12月22日付けで再調査の請求を棄却する旨の決定をした。 Xは、平成30年1月19日、再調査の請求を棄却する決定を不服として、審査請求をした。これに対し、国税不服審判所長は、同年12月14日付けで審査請求を棄却する旨の裁決をした(※3)。 (※3) 国税不服審判所は、外国子会社に該当するか否かは、外国法人の経営判断への内国法人の支配力(影響力)をもって判断すべきであるとしながら、Xの議決権割合を考慮することなく、F社の発行済株式総数に占めるXの所有株式数1/10301と、F社の議決権のある株式数に占めるXが所有する議決権のある株式数1/201がいずれも100分の25を下回るためF社は外国子会社に該当しないとの裁決を行っている。 Xは、令和元年5月15日、本件訴訟を提起した。 〈事案の概要図〉 3 関係法令等の定め (1) 法人税法の定め 《外国子会社から受ける配当等の益金不算入》 法人税法23条の2第1項は、内国法人が外国子会社(当該内国法人が保有しているその株式又は出資の数又は金額がその発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の25以上に相当する数又は金額となっていることその他の政令で定める要件を備えている外国法人をいう)から受ける剰余金の配当等の額がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係る費用の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない旨規定する。 (2) 法人税法施行令の定め 《「外国子会社」の要件》 法人税法施行令22条の4第1項(平成27年政令第142号による改正前のもの。以下同じ)は、法人税法23条の2第1項に規定する政令で定める要件は、次に掲げる割合のいずれかが100分の25以上であり、かつ、その状態が同項の内国法人が外国法人から受ける剰余金の配当等の額の支払義務が確定する日以前6月以上継続していることとする旨規定する。 《租税条約の二重課税排除条項の定めによる「外国子会社」の要件の例外》 法人税法施行令22条の4第5項(平成26年政令第138号による改正前のもの。以下同じ)は、租税条約の二重課税排除条項において法人税法施行令22条の4第1項各号に掲げる割合として100分の25未満の割合が定められている場合には、同項の規定の適用については、同項中「100分の25以上」とあるのは、当該租税条約の二重課税排除条項に定める割合以上とする旨規定する。 《剰余金の配当等の額から控除する金額》 法人税法施行令22条の4第2項は、法人税法23条の2第1項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、剰余金の配当等の額の100分の5に相当する金額とする旨規定する。 (3) 日加租税条約の定め 《二重課税排除の方法》 日加租税条約21条2項(b)は、日本国以外の国において納付される租税を日本国の租税から控除することに関する日本国の法令に従い、カナダにおいて取得される所得が、カナダの居住者である法人によりその議決権のある株式又はその発行済株式の少なくとも25%を所有する日本国の居住者である法人に対して支払われる配当である場合には、日本国の租税からの控除を行うに当たり、当該配当を支払う法人によりその所得について納付されるカナダの租税を考慮に入れるものとする旨規定する。 4 争点 本稿においては、《争点1》についての考察は省略する。 5 Xの主張の要約 (1) 各争点についてのXの主張要旨 Xは次のように主張して本件更正処分の取消しを求めた。 ① F社が法人税法施行令(以下「施行令」という)22条の4第1項2号に規定する「外国子会社」に該当すること《争点2》 「外国子会社」に該当するか否かの判断において、施行令22条の4第1項2号の「議決権のある株式又は出資の数又は金額」は、「議決権のある株式の数」の保有割合に係る要件のみならず、発行株式の引受けのための金銭の払込額である「議決権のある出資の金額」又は「議決権のある株式の金額」の各保有割合に係る要件によって判断することもあり得るというべきである(※4)。 (※4) このほかXは、OECDモデル租税条約10条2項(a)が、株式や出資という文言を避けて「資本の25パーセント以上」と規定していることや、カナダ事業法人法が、1株ごとに出資額や議決権の数(議決権割合)を異にする株式の発行を許容していることからも、株式の数だけを基準に利益分配や支配関係を判定することは適当ではないと主張する。 本件では、F社の発行株式の引受けはその新設合併による設立時にされただけであるから、F社がXの「外国子会社」に該当するか否かは、引受けのための金銭の払込みの額を「出資の金額」又は「株式の金額」として、「議決権のある出資の金額」又は「議決権のある株式の金額」の各保有割合に係る要件を満たすか否かによって判断することができる。 本件配当日において、F社の出資のうちの議決権のある出資の金額の総額(65,211カナダドル)のうちにXの出資の金額(65,200カナダドル)が占める割合は約99.98%であって、100分の25以上である。したがって、F社はXの「外国子会社」に該当する。 また、「外国子会社」に該当するか否かは、外国法人の経営判断に対する内国法人の支配力(影響力)をもって判断すべきであるから、施行令22条の4第1項2号に定める「割合」には当然に議決権割合が含まれると解すべきである。 Xは、本件配当日において、F社の議決権の100分の26を保有していた。したがって、F社は、Xの「外国子会社」に該当する。 ② 施行令22条の4第1項が法人税法23条の2第1項に適合しないこと《争点3》 施行令22条の4第1項2号に定める割合には、議決権割合が含まれないと解さざるを得ないとすると、同項は、法人税法23条の2第1項の規定の趣旨に反した違法な規定である。 したがって、違法な施行令22条の4第1項の規定に基づいてされた本件各処分もまた違法である。 ③ 法人税法23条の2第1項及び施行令22条の4第1項が憲法14条1項に反すること《争点4》 仮に、法人税法23条の2第1項及びその委任を受けた施行令22条の4第1項が、議決権の数又は議決権割合を「外国子会社」の判定基準として定めていないのであれば、株式会社に対する企業支配力を端的に示すものが議決権の数又は議決権割合であるにもかかわらず、100分の25以上の割合の議決権を保有している内国法人が外国子会社配当益金不算入制度の適用から排除されてしまうことになる。 一方で、外国法人の発行済株式等の数又は金額の100分の25以上を有する内国法人は保有する議決権の数又は議決権の割合にかかわらず、外国子会社配当益金不算入制度の対象となり得ることになるから、不合理な差別であるというべきである。 したがって、法人税法23条の2第1項及び施行令22条の4第1項の規定は、憲法14条1項に定める納税者間の平等(租税公平主義)に明らかに反する不合理なものである。 ④ 法人税法23条の2第1項及び施行令22条の4第1項2号が日加租税条約21条2項(b)に反すること《争点5》 租税条約においては、日本語正文で「議決権のある株式」と統一的に表記されている文言が、日加租税条約21条2項(b)の英語正文では「the voting shares」、日英租税条約10条2項(a)では「shares representing ・・ the voting power」とされるなど、異なる表記となっている。 これは直接所有の株式のみならず、間接所有の株式も含めて判定する場合を想定した相違であると考えられるが、直接保有のみに限定して考えれば、「25 percent of the voting shares of the company」は、「shares representing 25 percent of the voting power of the company」と同義であることを示しており、租税条約においては議決権の割合でも判定することが認められているものと解される。 租税条約が、法律と同様に政令よりも上位の法規範であり、また施行令22条の4第5項の規定からも明らかなとおり、上記の判断基準は、同条1項各号に掲げる割合の判定に含まれていなければならない。 (2) 訴訟の結果 Xは以上のように主張して課税処分の取消しを求めたが、判決は上記Xの主張をすべて退け、各争点についてYの主張をほぼそのまま認めている。次回においては、Yの主張内容を省略し、判決の要旨を示す。 ((その2)へ続く)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第16回】 「戦略の開示 ~企業が目指す未来を可視化する」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔ジャーナル食品社の登場人物〕 * * * SSBJ基準では、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示を行うにあたり、次の4要素を開示することが求められます(【第14回】参照)。 「戦略」の開示は、企業がどのようなサステナビリティ関連のリスク及び機会に直面し、それと向き合うためにどのような戦略をとっているのか、どのような未来像を描いているのかを示す重要な情報です。 この「戦略」に関して、SSBJ基準により開示が求められる内容は、大きく整理すると次の3点になります。 * * * 【ENEOSホールディングス(株) 2025年3月期有価証券報告書】 (第2 事業の状況 2【サステナビリティに関する考え方及び取組】 2.持続可能な地球環境の形成・保全への貢献 より抜粋) (※) 脚注(★)は筆者による * * * バリュー・チェーンとは、企業のビジネス・モデルや事業を取り巻く外部環境に関連する、相互作用・資源・関係のすべてをいいます。 * * * * * * 企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会は、企業がバリュー・チェーンを通じて関係者・社会・経済・自然環境などと相互に作用することによって生まれています。そのため、情報の利用者が企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会を評価するには、バリュー・チェーン全体に関する情報を開示することが有用と考えられています。 * * * * * * SSBJ基準では、サステナビリティ関連のリスク及び機会について、 を開示することが求められます。 * * * * * * また、このようなサステナビリティ関連のリスク及び機会の内容とその影響を踏まえたうえで、企業がどのような戦略や意思決定をとっているかを開示することが求められます(先述の《B》)。次の開示例を見てみましょう。 【カゴメ(株) 2024年12月期有価証券報告書】 (第2 事業の状況 2【サステナビリティに関する考え方及び取り組み】 〈持続可能な地球環境/戦略〉より抜粋) (※) 脚注(★)は筆者による * * * (※) 緩和:温室効果ガス排出に対し、炭素削減又は炭素吸収などの対応を行うこと 適応:起こりつつある気候変動の影響を防止又は軽減するための備えや、変化した気候パターンに対応したビジネスを行うこと * * * 気候関連の移行計画とは、低炭素経済に向けた移行のために企業が設定した目標・活動・資源を示した戦略を指します。SSBJ基準では、気候関連の移行計画がある場合、その内容を開示することが求められます。 * * * 【移行計画の開示で利用される図表のイメージ】 * * * 4つのコア・コンテンツのうち「戦略」の開示は、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会を踏まえ、どんな未来像を描き、その実現に向けて何を重点的に進めているのかを示すものです。開示を行う企業にとっては持続可能な価値づくりを語る本筋の部分であり、情報の利用者にとっては重要な読みどころのひとつと言えます。 * * * * * * Q サステナビリティに関する戦略についてどのような開示をするの? A 企業が直面するサステナビリティ関連のリスク及び機会の内容とその影響、それを踏まえてとられている戦略や意思決定、将来の不確実性に対する戦略やビジネス・モデルの耐性を開示します。開示企業にとっては、持続可能な価値づくりを語る本筋の部分と言えます。 (了)