理由付記の不備をめぐる事例研究 【第45回】 「リース取引(減価償却費)」 ~法人税法上のリース取引に該当しないと判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人である医療法人Xに対して行われた「法人税法上のリース取引に該当せず、減価償却費の損金算入は認められないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた松山地裁平成27年6月9日判決(判タ1422号199頁。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件理由付記は、法人税法130条2項が要求する理由付記として欠けるものではないと判断した。 (1) 理由付記制度の趣旨及び要求される理由付記の程度 (2) 本件理由付記の適否 4 検討 (1) 関係法令等の確認 法人税法64条の2第1項は、内国法人がリース取引を行った場合には、そのリース取引の目的となる資産(リース資産)の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該リース資産の売買があったものとして、当該賃貸人又は賃借人である内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨を定めている(本件では、Xが同規定の適用を主張し、課税庁はこれを否定していることに注意)。 同項のリース取引とは、資産の賃貸借(所有権が移転しない土地の賃貸借その他の政令で定めるものを除く)で次の①中途解約不能要件及び②フルペイアウト要件という2つの要件を満たすものをいう(法法64の2③柱書)。 このうち本件では①の中途解約不能要件が問題となっている。法人税基本通達12の5-1-1は、次のとおり、上記①の解除をすることができないものに「準ずるもの」に該当する例を示している。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、Xが本件賃貸借について法人税法64条の2第1項のリース取引に該当するものとして法人税の申告を行っていたことを前提としている。その上で、本件賃貸借は同項のリース取引に該当するものではないとするものである。本件理由付記の記載振りからすれば、本件更正処分は、本件賃貸借が同項のリース取引に該当するか否かに関する評価を修正するものにすぎず、帳簿書類の記載自体を否認するものではないと考える。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件更正処分が本件賃貸借を法人税法64条の2第1項のリース取引に該当しないと判断した理由について、本件理由付記は、端的に、「法人税法第64条の2第3項は、リース取引について同項各号に掲げる要件に該当するものと規定しているところ、本件賃貸借は同項第1号の規定に該当しないため、同条第1項の規定を適用することはできません」と記載する。 これによれば、本件賃貸借は中途解約不能要件を満たさないという理由で法人税法64条の2第1項のリース取引に該当しないとされたことがわかる。そして、本件理由付記の書き振りからすれば、本件更正処分は、Xの税務処理の基となる帳簿書類としての本件契約書について、記載内容と異なる合意内容や取引実態を認定するなど、その記載内容を否認する趣旨ではないと推察される。問題は、冒頭において本件契約書に言及しているものの、本件理由付記からは、具体的に本件契約書のどの部分(条項・文言・内容)をもって、中途解約不能要件に該当しないという判断に至ったのかという点を読み取ることができないことである。 本件訴訟によれば、Xが本件契約を中途解約しようとするときは、6ヶ月前に解約の申入れを書面でしなければならず、また、賃貸借期間の区分に従って、違約金をA社に支払わなければならないという内容の中途解約条項を定められていた(本件契約書14条)。よって、形式上、本件賃貸借は、「当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること」には該当しないことは明らかである。 本件更正処分が本件契約書に係る記載内容や合意内容を否認するものではないことも考慮すると、本件において課税庁が重点的に検討したポイントは、本件賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものに「準ずるもの」に該当するか否かということになろう。 本件理由付記によれば、本件更正処分は「準ずるもの」に該当しないと判断したものであることは容易に理解できる。しかしながら、本件理由付記から、具体的にどのような事実に着目し、どのような過程を経て、そのような判断に到達したのかという点を読み取ることはできない。少なくとも課税庁は上記法人税基本通達12の5-1-1の該当性を判断しているはずであるが、この点に関する記載もない。 本判決は、「中途解約不能要件該当性は、対象となった賃貸借契約の合意内容や取引実態に照らして判断すべきものである」と述べているが、本件理由付記を見ても、本件更正処分が、本件賃貸借の合意内容や取引実態のどの部分に着目し、「準ずるもの」に該当しないと判断したかは明らかにならない。 これでは、課税庁の判断過程、しかも本件において重要なポイントである本件賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものに「準ずるもの」に該当しないと判断した理由や過程が相当程度省略されていることになる。 「準ずるもの」とは抽象的な概念・要件であり、上記通達に定められているような場合に限られるものでもない。このような抽象的な概念・要件が問題となる場合に、仮に、本件理由付記の記載程度で十分であるとすると、課税庁は、「準ずるもの」に該当しないとことを裏付ける具体的な事実や証拠を把握していない段階で、あるいはこの点に関する検討が不十分なまま、恣意的ないし強引な課税処分又は憶測に基づく課税処分を行うことができてしまう。また、処分の相手方が、更正処分に対して不服申立てを行うべきか、あるいは不服申立てをする場合にどのような主張や反論を行うべきか、といった点を判断する際に不都合をもたらすものである。 以上から、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものではないと考える。 なるほど、処分の相手方である納税者が契約の当事者である場合に、(当該納税者において容易に確認ないし認識できる)契約書の内容に基づいて処分を行った旨を記載さえすれば、契約書の個別の条項を摘示していなくとも、理由付記に取り消すまでの不備はないと解されるケースもあるかもしれない。 しかしながら、これまで述べたとおり、本件においては、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものに「準ずるもの」に該当しないと判断した具体的な理由はやはり記載されていないと評価せざるをえないであろう。「準ずるもの」という要件の抽象性等を考慮すると、本件において、この点の記載がないことは、理由付記の十分性を判断するに当たり、軽視されてはならないはずである。 ここで、本件訴訟における課税庁の主張に目を向けてみると、課税庁は、中途解約不能要件を満たさないことについて、次のとおり主張している。 下線部分のような具体的な理由を付記すべきであったと考える。 * * * 次回は、「交際費勘定に計上している支出は損金性が認められないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第3回】 「会社分類とは(前編)」 -分類1・2・3- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 1 はじめに 前回は、「将来の一時差異等の解消スケジュールに基づき繰延税金資産の回収可能性を判断する」ことについて説明した。 これにより、将来、どのように一時差異等が解消されていくかをスケジューリングすることで、将来における税額の減額効果が明らかになる。ただしここで、繰延税金資産の回収可能性を評価できるようになるが、「将来の何年間にわたってスケジューリングをすればいいのか?」といった疑問が残った。 そこで今回は、この疑問を解決するための会社分類と、その分類ごとの繰延税金資産の回収可能性の判断指針について説明する。 2 会社の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(分類1~3) (1) 会社の分類方法 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)では、過去の納税状況や将来の業績予測等をもとに要件を設けて会社を分類し、分類結果に応じて繰延税金資産の回収可能性の判断指針を示している。 基本的には、会社を1~5の5種類に分類し、繰延税金資産の回収可能性を判断する。 今回は、分類1~3について、分類の概要と回収可能性の判断の指針をみていこう。 (2) 分類1 次の要件を満たす会社は、分類1に該当する。 分類1に該当する会社は、繰延税金資産の回収可能性を次のように判断する。 このような会社は、これまでの実績から将来においても課税所得が安定的に生じることが予測されるため、いくら将来減算一時差異があったとしても、これを十分に上回る課税所得が生じることが想定される。そのため、将来減算一時差異に税率を乗じて算定される税額の全額が、将来のいずれかの事業年度において税額負担を軽減する効果があると判断することができる。 よって、スケジューリングに関わらず、繰延税金資産は全額回収可能性があると判断される。 【図1】 分類1に該当する会社のイメージ (3) 分類2 次の要件を満たす会社は、分類2に該当する。 分類2に該当する会社は、繰延税金資産の回収可能性を次のように判断する。 このような会社では、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得する収益力があるといえるため、一時差異等のスケジューリング(前回の「3 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順」参照)が正しく行われている限り、繰延税金資産の回収可能性は問題ないと判断される。 なお、「一時差異等のスケジューリングが正しく行われている限り」という条件が入っているため、いつ解消するかが予測できない一時差異等は、正しくスケジューリングすることができないため、原則として回収可能性はないと判断される。 【図2】 分類2に該当する会社のイメージ (4) 分類3 次の要件を満たす会社は、分類3に該当する。 ただし、上記を満たしたとしても、次のの要件を満たす場合は、分類3には該当しない(分類4に該当する)。 分類3に該当する会社は、繰延税金資産の回収可能性を次のように判断する。 このような会社は、利益や課税所得に大きな増減はあるものの、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得するだけの収益力があるといえる。 分類2の要件と似ているところもあるが、分類2と分類3の違いは課税所得の水準にある。つまり、仮に課税所得の増減幅は大きいものの、全体的に一定の高い水準で推移している場合には、分類2に該当することになる。 そのため、分類3に該当する会社は、全体的に高い水準の課税所得が安定的に生じるほどの収益力はないため、実現可能性(確度)の高い将来のおおむね5年以内の一時差異等加減算前課税所得を見積り、繰延税金資産を計上している場合には回収可能性があると判断される。 【図3】 分類3に該当するイメージ なお、分類3に該当する会社であっても、過去の業績の増減の原因や新しい契約の締結等によって将来業績が安定することが合理的に見込まれるような会社は、将来の予測の不確実性が通常の分類3に該当する会社とは異なることがありうる。 そのため、次のような場合には、一律に5年先の将来を限度とせず、5年を超える将来部分の繰延税金資産についても回収可能性があるとされている。 今回は、分類1~3の会社で、それぞれ繰延税金資産の回収可能性をどのように判断するのかを説明した。 次回は、分類4及び5の概要と繰延税金資産の回収可能性の判断指針について説明する。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《金銭債務-社債》編 【第1回】 「金銭債務-社債」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」において、金銭債務には債務額を付すこととされます。ただし、今回ご紹介する「払込みを受けた金額が債務額と異なる社債」については、別途処理方法が示され、払込みを受けた金額と債務額の差額については、旧商法の時代のように社債発行差金と呼ばれた繰延資産として処理するのではなく、払込みを受けた金額にて社債計上した後、償却原価法により社債計上額に加減していきます。参考までに、社債発行費の会計処理にも言及します。 【設例】 A社(12月31日決算)は、×1年1月1日に資金調達するため下記の社債を発行しました。 ・額面総額:100,000,000円、発行価格:額面100円につき95円、額面満期償還日:X5年12月31日、クーポン利子率:年利2%、利払日:毎年12月末日(年1回) ・社債発行費(社債発行に係る金融機関の取扱手数料、社債券の印刷費等):1,200,000円(×1年1月1日に支出) A社は、社債発行費を支出時の費用とする会計方針を継続して採用しています。 1 仕訳 発行日(×1年1月1日)、×1年12月末、×4年12月末、×5年12月末における仕訳は、次のとおりです。 (ⅰ) 発行日(×1年1月1日) (ⅱ) ×1年12月末 (ⅲ) ×4年12月末 (ⅳ) ×5年12月末 (1) 償却原価法 「払込みを受けた金額が債務額と異なる社債」は、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とします。償却原価法とは、金銭債務を債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいいます(中小企業会計指針45)。 この設例では、払込みを受けた金額95,000,000円(=@(95円/100円)×額面総額100,000,000円)と債務額100,000,000円が5,000,000円だけ異なるので、償却原価法を適用し、この差額5,000,000円は、発行日×1年1月1日から償還日×5年12月末までの期間60ヶ月(12月×5年)で除して、各期の純損益に配分し、当該配分額を社債の帳簿価額に加減します。 ×1年12月期の配分額は、下記のとおりです。 上記(ⅱ)の処理については、毎期末において同じ処理を行います。この結果、社債の貸借対照表価額が、額面金額100,000,000円に到達します。そして、満期償還により償還損益の生じない会計処理となります。 なお、×4年12月末において、ワンイヤールールに基づき、事業年度末日の翌日から起算して1年以内に返済されるものとして、社債を固定負債から流動負債へ振替ます。 (2) 社債発行費 社債発行費は、支出時に費用(営業外費用)計上する方法と、繰延資産として計上し社債償還期間にわたって償却する方法(中小企業会計指針41)があります。この設例では、社債発行費を支出時の費用とする会計方針を採用しているので、社債発行費1,200,000円全額を、支出時である×1年1月1日に営業外費用に計上します。 繰延資産として計上し社債償還期間にわたって償却する方法には、利息法と定額法があります。仮に、A社が、社債償還期間にわたり定額法により償却する方法を選択するとしたならば、社債発行費の処理は、下記のように変わります。 (ⅰ) 取得日(×1年1月1日) (ⅱ) ×1年から×5年の12月末 (3) 社債利息の支払 この設例では、社債利息が毎年12月末に年1回支払われるので、毎年度12月末において、2,000,000円(=額面総額100,000,000円×クーポン利率2%)を社債利息計上します。 2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 法人税法上、税法独自の繰延資産ではなく会計上も認められている繰延資産については、繰延資産の帳簿価額が償却限度額とされており、任意の時期に任意の金額だけ償却することができます。 (1) 「払込みを受けた金額が債務額と異なる社債」の当該払込みを受けた金額と債務額の差額については、旧商法の時代のように社債発行差金と呼ばれた繰延資産として処理されなくなりました(社債発行差金が繰延資産から除外された)ので、任意償却することはできなくなっています。払込みを受けた金額にて社債計上した後、償却原価法により社債計上額に加減していく処理は、税務上の取扱いと同じです。 (2) 社債発行費は、会計上も認められている繰延資産なので、法人税法上、任意償却することができます。この設例では、支出時に全額費用計上していますが、税務上も全額支出時を含む事業年度の損金の額に算入できます。 (1)(2)より、この設例では会計処理と法人税法上の取扱いに差異がないので、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整はありません。 (《金銭債務-社債》編 終了)
外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第12回】 「外国人社員が退職するときの手続き」 社会保険労務士・行政書士 永井 弘行 1 日本人の退職手続きと同様の手続きを行う 外国人が退職するときの手続きは原則、日本人と同様です。 健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届、雇用保険の被保険者資格喪失届など法定の届出を行います。 健康保険の被保険者証の回収、雇用保険の離職票の交付、源泉徴収票の交付、住民税で支払うべき残額がある場合の手続きなど、社会保険や税務の関係は日本人の退職者と同様に手続きをします。 これ以外にも営業秘密の守秘を誓約させる「退職時の誓約書」の提出、貸与品の返納、引継ぎなど会社の規程・ルールに従って退職手続きを行います。 また後述しますが、外国人から「退職証明書」を求められることが多いため、退職時に交付します。 2 会社が行う「外国人に特有の行政機関への届出」 「雇用保険被保険者資格喪失届」に、外国人の在留資格等の情報を記して、ハローワーク(職安)に届出します。 この届出以外は、原則、日本人と同様です。 入管法では、外国人が離職したとき、会社は入国管理局に届け出るよう努めなければならない(努力義務)と定めています(入管法第19条の17)。しかし、ハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」の届出をしていれば、会社から入国管理局への届出は不要になります(免除されます)。 この場合、「雇用保険被保険者資格喪失届」の記入欄に、外国人の氏名(ローマ字表記)、在留期間、派遣・請負の就労区分、国籍・地域、在留資格の事項を正しく記入し、届出することが前提です。なお、記入にあたっては、退職する外国人が所持している「在留カード」の記載内容を参照しましょう。 これは雇用対策法第28条第1項に基づく事業主の届出義務のため、届出しなかったり、虚偽の届出をした場合は、罰則が科せられます(同法第40条第2号:30万円以下の罰金)。 3 会社が「退職証明書」を作成し外国人に交付する 外国人が退職後に転職・再就職するときは、従前の勤務先が作成・発行した「退職証明書」が不可欠です。外国人が「在留期間の更新」、「就労資格証明書の交付」、「在留資格の変更」などの手続きを行うときに、添付書類として入国管理局に提出するからです。「退職証明書」により、入国管理局が「外国人の前職での従事業務、勤務期間」などを確認します。 この「退職証明書」は、労基法第22条に従って作成・交付し、使用期間(会社に在籍した期間)、業務の種類(従事業務、職務内容)、地位(社内の役職など)、賃金、退職の事由などを記載します。また、会社として事実関係を証明する、という意味があります。 外国人の退職時に会社が「退職証明書」を渡していない場合、後日、入国管理局から外国人本人に「在留期間の更新時の添付書類として必要です。従前の会社に依頼して交付を受けてください。」という指示が出されることがあるため、退職時に作成・交付しておくのが賢明です。 4 退職後に外国人本人が行う届出は 「技術・人文知識・国際業務」、「教育」、「研究」など就労の在留資格を持つ外国人が退職したときは、14日以内に本人が「契約期間に関する届出(契約の終了)」を入国管理局に届出する必要があります。これは届出義務のある手続き(入管法第19条の16:所属機関に関する届出)であり、この用紙は法務省のホームページからダウンロードできます。 この届出は平成24年(2012年)7月の入管法改正により、新たに義務付けられました。外国人がこの届出が義務であることを知らない場合がありますので、退職時に会社から説明するのが望ましいでしょう。 なお、この届出義務を履行しない場合も、罰則が科せられます(入管法第71条の3第3号:20万円以下の罰金)。 また、外国人の在留期間の更新、在留資格の変更時に「法定の届出義務を履行していない」として、入国管理局の審査で不利益になります。 5 雇用保険の加入者は失業保険(雇用保険の基本手当)の受給が可能 外国人が雇用保険に加入していた期間が原則12ヶ月以上あれば、退職後に失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることが可能です。 なお、基本手当を受け取るための手続きは日本人と同様です。 6 退職後に外国人が就職活動や再就職をしない場合は「在留資格の取消し」の対象に 転職予定ならすぐに次の会社に入社することが必要です。外国人が退職後に何もせず3ヶ月以上経つと「在留資格の取消し」の対象になります。 外国人の「技術・人文知識・国際業務」、「教育」、「研究」など就労の在留資格は、「就労が認められた勤務先で働くための許可」です。外国人が退職すると、この許可の前提を失うため、在留資格が許可された「活動の実態が無い」状態となります。 退職後すぐに帰国する場合は、一般に問題ありませんが、退職後すぐに別の会社に転職する場合は、従事業務が変われば在留資格の変更が必要になることがあります。 しかし、「退職後3ヶ月以上何もしていない」つまり、再就職先を探すための就職活動などを何も行わずに、正当な理由なく3ヶ月以上経つと、「在留資格の取消し」の対象となります。 平成24年(2012年)7月の入管法改正によって、就労の在留資格を持つ外国人が失業したときに「3ヶ月以上本来の活動がない場合」の「在留資格の取消し」が新たに加わりました。 この改正により、就職活動をせずに過ごしている、新たな就職先に入社せずに「なんとなく日本にいる」状態は「在留資格の取消し」の対象になります。 7 退職後に本国に帰国する場合は脱退一時金を受け取ることができる場合がある 外国人が日本で会社に6ヶ月以上在籍していれば(厚生年金保険の加入月数が6ヶ月以上あれば)、会社を退職し、日本を出国した後に、厚生年金保険の脱退一時金を請求できる場合があります。 脱退一時金は外国人を対象に、保険料の掛け捨てを防ぐために厚生年金保険・国民年金から支給される一時金です。 * * * 次回の【第13回】(最終回)は、この「外国人の厚生年金保険の脱退一時金」について説明する予定です。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例1】 「立木の侵入や擁壁の崩壊等した場合の法的責任」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、現在、関西で暮らしていますが、東北の実家で一人暮らしであった母が亡くなったため、母名義の実家の土地と建物を相続しました。実家は、現在は空き家となっています。 私の実家の土地は、隣家より少し高い位置にあるため、隣家との法面をブロック塀で補強しており、ブロック塀に沿って木を植えています。ある日、私が実家に立ち寄った際に、ポストに隣家の方からの手紙が届いていました。手紙には、主として次の2つの事項が書かれていました。 このような場合、どのように対応すればよいでしょうか。 1 空き家の類型と管理責任について 近年、空き家に関する議論は、空き家の取壊し関するものから有効活用に関するものまで、広がりを見せている。 もっとも、ひと言に「空き家」と言っても、 など様々な状態の空き家がある。 このため、空き家の管理に関する法律問題を考えるに当たっては、その空き家がどのような状態の空き家であるかを意識して検討することが有益である。 本件のように、空き家に関する相続が発生した場合、相続人が被相続人から遠方で生活しており、時間的・距離的制約のため、相続人による空き家の管理が適切に行われず、隣家とトラブルになることがある。上記①~③の空き家の類型でいえば、②の類型に生じやすい法律問題である。 2 隣地の権利関係の調整 一般に、所有権者は、自由に、その所有物の使用、収益及び処分をすることができる(民法第206条)。一方で、土地は物理的には連続しているため、土地の所有権者間の相互の利用を調整する必要が生じる。 そこで、民法は、第209条から第238条において、各種の利用調整に係る条項を規定している。これらの規定は「相隣関係」と呼ばれている。 土地の所有権は、その土地を十分に利用する範囲で上下に及び、境界付近に樹木を植えることは可能である。しかしながら、成長した樹木の枝や根が空中や地中を経て隣地に侵入することがあるため、隣地との権利関係を調整する必要が生じる。 このような場合を想定して規定されたのが、民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)である。 上記のとおり、民法は、隣地から枝が侵入してきた場合と、根が侵入してきた場合とで、侵入された所有権者がとりうる手段に差を設けている。 このような差があるのは、①枝の方が根よりも高価であることや、②枝が侵入した場合は、竹木の所有権者が自らの土地の中からその枝を切除できるのに対して、根が侵入した場合は、隣地に入らなければ切除できないことによるものと考えられている。 まず、竹木の枝が境界線を越えた場合は、所有権者は隣地の所有権者に対して、その枝を切除することを請求することができ、この請求に応じない場合は、裁判所を通じて、隣地の所有者の負担において、第三者に枝の伐採を実現させることができる。 もっとも、このような請求が無制限に認められるわけではなく、何らの害悪も生じていない状況において、枝の切除を請求することは、権利の濫用と評価されることもある。 また、侵入してきた根を自らの判断で切除する場合でも、枝の場合と同様に、根の侵入による影響がほとんどないにもかかわらず、根を切除して高価な竹木を枯らしてしまったような場合は、権利の濫用と評価される可能性があるため、留意が必要である。 3 流出した土砂の処理について 所有権者は、物権を侵害されたり、そのおそれがある場合に、所有権に基づく物権的請求権を行使することができる。 物権的請求権は、侵害の態様に応じて、 の3種類が認められている。 この物権的請求権の法的性質は、積極的行為請求権、すなわち、その相手方が侵害状態を作出したか否かにかかわらず、費用を負担させて、侵害状態やそのおそれがある状態を取り除くことを請求する権利と解されている。 しかしながら、過去の大審院判決によれば、不可抗力によって第三者の土地を侵害する状態が生じているような場合には、物権的請求権の発生や行使が制限されると解する余地がある。また、学説においても、所有権者は、自らの費用負担で侵害状態を除去することができ、これを相手方に認容させることができるに留まるとする見解など、積極的行為請求権を修正する見解が有力に主張されている。 その他、裁判例の中には、妨害予防請求権が行使された事案において、隣地所有者間双方に便益が生じることや、工事に多額の費用が生じること等を理由に、費用の分担を命じているものもあり、このような場合には個別の検討を要する。 4 本件の対応 (1) 隣家からの要望【1】について 空き家の敷地所有者は、枝を切除するなど適宜対処し、根の切除については、隣地に入って作業をする必要がある場合には、隣地の所有者と協議をして隣地に入る同意を得たうえで切除を行うことになろう。 (2) 隣家からの要望【2】について ブロック塀が崩れて、その隙間から土砂が流出しており、隣地の所有権を侵害することになるため、原則として、空き家の敷地所有者は、自らの負担で土砂を除去し、ブロック塀を補修する等適宜工事を行う必要がある。この場合も、隣地に入って作業をする必要があるときは、事前に隣地の所有者から同意を得ておく必要がある。 (3) その他留意事項 ブロック塀が崩れて土砂が流出した先に、隣家の花壇等があり、これらを損壊したような場合には、別途不法行為に基づく損害賠償請求をされる可能性があるので留意が必要である。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第9回】 「AI等のIT環境の変化が監査人・監査業務にもたらす影響」 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 小池 聖一・パウロ ■はじめに 研究機関の報告で、「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」に会計士が挙げられ、関連報道もあったことから現役の公認会計士の方々が将来に不安を感じているとか、職業の魅力が感じられず受験生が減ったりしないかというような懸念を述べられる方もいらっしゃると聞く。 確かにITの普及に伴う企業の業務変化の影響を我々の業務も受けており、既に手書の仕訳帳を見る機会も減少し、企業から提供される監査関連の資料も紙ではなく電子データになっていることも多い。 前述の情報に対しては既に日本公認会計士協会によるTVや雑誌の取材対応、Web記事やショートビデオの公開など、AIが公認会計士の業務にもたらす影響への説明は行われている。 ここでは、公認会計士の一人として、我々の特徴的な業務である監査業務にIT環境の変化がもたらす影響について考えてみたい。なお、本稿は執筆者の私見であり、所属組織の見解とは関係ないことをご理解頂きたい。 ■IT環境の変化の監査への影響 AI関係の連載への寄稿ではあるが、AIを包含するIT環境から話を進めたい。 監査業務は企業の財務報告やそれに関連する内部統制など、企業が作成したものを保証するための業務である。そのため、会社の業務やそこで利用されている道具や媒体の変化とともに会計士の業務は変化を続けている。 現在はIT環境の進歩により、多くの企業が業務にITを導入している。そして大量のデータを高速かつ正確に処理するというITの特徴を活かし、定型データを反復継続して扱うような単純作業を人手から代替し、処理の信頼性と効率性を高めている。さらに、複数のデータや条件を総合し情報を絞り込むことにより、人間の判断業務の前工程作業の軽減が促進されている。 このような環境では、コンピュータを全く操作できない方だと企業との資料の授受すら障壁と感じられるかもしれないが、ITの導入は企業だけでなく監査人にも効率化や品質の高度化につながるメリットを感じる局面がある。ちょうどフードプロセッサを導入したレストランでは、下ごしらえの時間が短縮されシェフはより高度で重要な調理作業に時間を割くことが可能になった状況に似ているように思える。 このようなIT環境の変化や、監査への初期的なIT導入は、従前は会社が提供した資料や明細書を電卓で検算するような、必要だが手間のかかる作業をコンピュータで再計算したり、経験豊富な監査人が付箋片手に複数の書類を見ながら属人的な能力で異常取引を発見していたのが、データ全体のソートやフィルタリング、全体像の可視化といったコンピュータにより作業対象を大幅に絞り込むなどの、「下ごしらえ」には大いに役立っている。そして下ごしらえ的な監査手続から解放された時間を、顧客の年齢や好みに対応した味付けや焼き加減を微調整するような、より高度で専門的な判断や分析に費やすことが可能となる。 このような状況は、監査人の仕事がコンピュータに代替されたというよりも、環境の変化に適した監査手続とリソースの再配分の変化であろう。 ■AI等の新技術の普及について 企業が反復継続する業務の単純な処理ロジックにITを利用している段階では、監査人は当該処理プログラムの仕様やパラメータの確認、他のコンピュータで同じ処理プログラムを構築して再実施するなどの方法により、企業の処理内容の正確性を検証することは可能であり、適切な監査証拠を入手するための監査手続は計画できる。 しかしながら、本格的にAIが導入された企業のIT環境では何が生じることになるのだろうか。AI(人工知能)、機械学習、ディープラーニング等、専門家が厳密な定義をしているが、いずれにせよ人間が予め設定した基準に従うのではなく、コンピュータが入手した情報を基礎に統計的な処理を行い、その処理結果に基づく判断・処理の基準を創り出すような利用方法が普及する可能性がある。 例えば売上債権に対する貸倒引当金の見積もり金額の計算は、自社の貸倒実績率のような内部データにとどまらず、与信先の信用調査情報やインターネットで公開されている業界の指標などの数値も用いて導き出すことも考えられる。このような状況では、AIの学習に使われるデータ自体の信頼性が確保されない場合、不適切な判断基準が設けられるリスクについても対応が必要となろう。 監査人が刻々と変化するビッグデータを参照したAIの判断結果を、監査証拠としてどのように検証するかは大きな課題となろう。その一方で、監査人も不正事例等のデータベースを構築し、不正の兆候をプログラムを利用して把握するようなアイディアもある。ただし、そのような分析に役立つ情報の収集には、守秘義務という監査の根幹に関わる観点からの慎重な議論が必要になるであろう。 ■これからの監査人について このように企業がITを活用している中での監査環境に対して、IAASB(国際監査・保証基準審議会)からは「データに焦点を当てた監査に、分析技術の探求」というテーマで、データ分析を監査手続としてどのように取り入れるかという議論が始まっている。 既に多くの監査業務で監査人は企業データを利用する機会が増えており、それらを統計的に分析し、適切な結論を導くために統計的な知識やロジカルシンキングなどが基礎的な素養として重要性を増しているし、監査に利用するデータが作成されるプロセスについてより深い知見が求められている。 特にIT環境下ではデータの正確な作成の阻害要因こそが大きなリスクとなるため、企業の情報システムに対して、プログラムのロジックの適切性や、情報セキュリティについてもプログラムの設定値や詳細なアクセスコントロールの検証も必須である。このようなITに関する分野でも適切な計画を策定し、専門家からの報告を理解するレベルの基礎知識は必要であろう。 このような状況では、AIの普及は監査人に求められる知見の変化や「働き方」には影響を持つものの、業務の代替が直ちに生じるかは疑問な部分があるし、「機械的に」監査が実施され、評価される状況が到来するとすれば、それは人がコンピュータに裁かれるような意味合いを持つことになるかもしれない。 また、企業が利用する情報が企業独自による作成・保管から、例えばブロックチェーンにシフトするような状況となった場合には、会計記録や監査に構造変革が生じる可能性がある。ブロックチェーンの情報を監査証拠として扱うための方法については喫緊の課題となるが、その反面、記録の偽造が困難になるため、監査人が会計情報の正確性を評価する必要性や監査の社会的意義に変化が生じるかもしれない。 ■終わりに 日本に公認会計士制度が出来てから70年、我々の先人は企業の環境変化に常に対峙し、新たな知見と経験を蓄積するのと同時に学ばぬ者は淘汰されてきた。今回のIT環境の変化についても、AIという1つの技術に会計士が仕事を奪われるというよりも、ダーウィンの進化論的に監査環境に応じて変化する監査人だけが生き残るという状況なのかもしれない。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第7話】 「所得税法121条1項の趣旨」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「お昼休み中にすいません・・・統括官、所得税法121条の規定について質問がありまして・・・」 浅田調査官は税務六法を広げたまま、中尾統括官の机の前にやって来る。 昼食を終えたばかりでウトウトしていた中尾統括官は、浅田調査官の声で顔を上げた。 「・・・?」 「所得税法121条1項1号の規定なのですが・・・」 浅田調査官は税務六法を机の上に置く。 中尾統括官は眠そうな目で条文をたどる。 「この条文の・・・どこが問題なの?」 「居住者で・・・給与等の金額が2,000万円以下の場合、その他の所得が20万円以下であれば・・・申告をしなくてもよいと・・・」 浅田調査官は遠慮がちに質問する。 「そうだよ。」 中尾統括官は答える。 「この『20万円以下であれば申告不要』という根拠は・・・金額が小さい(重要性の原則)から、申告をしなくても良いということなのですか?」 浅田調査官は尋ねる。 「そうだろう・・・それに、この条文では、給与所得の全部について、毎月の源泉徴収(所法183)又は年末調整(所法190)が適用されていることが求められている・・・これは、源泉徴収制度の下で、その他所得が20万円以下の場合には申告を不要にしている、ということだよ。」 中尾統括官はすっかり目が覚めたようだ。 「給与所得者は、原則として源泉徴収制度の下で税金を納めるということなので、少額の申告は省略させようと法律は考えている。それによって給与所得者は、申告の煩わしさから解放される・・・そのような理由から、このような規定が設けられている。・・・もっとも、税務署側にとっても『納税者からの申告数が少なくなるので大いに助かる』・・・これが本当の理由かもしれないけどね。」 そう言うと、中尾統括官は苦笑する。 「なるほど。・・・・ところで所得税法121条1項に『ただし、不動産その他の資産をその給与所得に係る給与等の支払者の事業の用に供することによりその対価の支払を受ける場合その他の政令で定める場合は、この限りでない』と規定しているのですが・・・これって、どのようなケースを想定しているのですか?」 浅田調査官が再び尋ねる。 「これは、例えば、同族会社の役員やその家族がその同族会社から賃貸料を受け取る場合などには・・・たとえその所得が20万円以下であっても、確定申告をする必要がある、ということだ。」 中尾統括官は、浅田調査官の税務六法を手にとってめくる。 「同族会社の場合、税金を逃れるためにいろいろな操作が可能であることから、このような規定が設けられたのだろうね。」 中尾統括官は所得税法施行令262条の2を見せる。 「そうですね。」 浅田調査官は納得した様子で頷く。 「ところで住民税ですが・・・地方税法には所得税法121条のような規定がないので・・・したがって、給与所得者で給与所得以外の所得が20万円以下であっても、住民税の申告をしなければならないのですね。」 浅田調査官はさらに中尾統括官に確認する。 「住民税の申告義務については地方税法317条の2に規定しているが・・・確かに、所得税法121条のような申告不要の規定はない・・・」 中尾統括官は、税務六法をめくって確認する。 「・・・住民税について、給与所得以外の所得が20万円以下の場合にも申告不要としないのは、もともと住民税は、所得税と違って源泉徴収制度を採用していないから・・・『市町村民税・道府県民税申告書(法規則第5号の4様式)』の提出が必要となる・・・その他に、一定の配当所得や特別徴収されなかった退職所得についても、住民税の申告は必要だ。」 中尾統括官は浅田調査官の顔を見る。 「そうすると、給与所得以外の所得がある場合には、たとえその所得金額が僅少であっても、住民税の申告は必要だということですね。」 浅田調査官の言葉に、中尾統括官は満足そうに頷く。 (つづく)
《速報解説》 「収益認識に関する会計基準」及び同適用指針が正式公表される ~H33.4.1以後開始事業年度から適用、本年からの早期適用・経過措置も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年3月30日、企業会計基準委員会は次の会計基準等を公表した。これにより、平成29年7月20日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、収益認識に関する包括的な会計基準である。 国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606)を公表しており、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic 606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用される。 公表に際して、次の別紙が公表されているので、公開草案の理解に資すると考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 範囲 次の①から⑥を除いて、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用する(収益認識会計基準3項)。 2 定義 契約、顧客、履行義務、契約資産、契約負債、債権、原価回収基準などについて定義されている(収益認識会計基準5項~15項)。 3 会計処理 基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。 次の5つのステップからなる。 ステップ1 顧客との契約(次の①から⑤の要件のすべてを満たすもの)を識別する。 ステップ2 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する。 ステップ3 取引価格を算定する。 ステップ4 契約における履行義務に取引価格を配分する。 ステップ5 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。 次の事項に関する設例も設けられている。 4 特定の状況又は取引における取扱い 次の特定の状況又は取引に適用する指針を定めている。 5 重要性等に関する代替的な取扱い 収益認識会計基準等では、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めている。 (1) 契約変更(ステップ1) ◆ 重要性が乏しい場合の取扱い (2) 履行義務の識別(ステップ2) ① 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い ② 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務(ステップ5) ① 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア ② 船舶による運送サービス (4) 一時点で充足される履行義務(ステップ5) ◆ 出荷基準等の取扱い (5) 履行義務の充足に係る進捗度(ステップ5) ◆ 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い (6) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4) ◆ 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用 (7) 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4) ① 契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分 ② 工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位 (8) その他の個別事項 ◆ 有償支給取引 次の事項に関して代替的な取扱いを設けるように、公開草案に対するコメントが寄せられたが、代替的な取扱いは設けられなかった(収益認識適用指針185項~188項)。 6 認められなくなる従来の日本基準又は日本基準における実務の取扱い 収益認識会計基準等によると、主に、次の従来の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなる。 なお、今後、収益認識会計基準等の実務への適用を検討する過程で、収益認識会計基準等における定めが明確であるものの、これに従った処理を行うことが実務上著しく困難な状況が市場関係者により識別され、その旨が企業会計基準委員会に提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否を当委員会において判断することとしているとのことである。 7 表示 企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示する。契約資産と債権を貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記する(収益認識会計基準79項。88項の経過措置に注意する)。 契約資産は、金銭債権として取り扱い、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って処理する(収益認識会計基準77項)。 財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上する(収益認識会計基準78項)。 8 収益の表示科目 審議の過程では、サービスの提供による収益や企業が代理人に該当する場合など、収益認識会計基準に従って認識される収益の表示科目を明確化すべきであるという意見があったとのことである(収益認識会計基準155項)。 現在、表示科目として一般的に用いられている売上高は、他の関連する法令等においても広く用いられているものであり、仮にその名称を変更する場合には影響が広範に及ぶこと等から、収益の表示科目については、注記事項と合わせて収益認識会計基準が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に検討することとしている。 なお、収益認識会計基準を早期適用する場合には、我が国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができる(収益認識会計基準155項)。 9 注記 顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記する(収益認識会計基準80項)。 当該注記は、重要な会計方針の注記には含めず、個別の注記として開示する(収益認識会計基準80項)。これは、当該注記を重要な会計方針の注記として開示すべきか否かについては、収益認識会計基準が適用される時までに他の注記事項の検討と合わせて整理するが、実務の混乱を避けるため、早期適用時においては個別の注記として開示することとしたためである(収益認識会計基準156項)。 企業が履行義務を充足する通常の時点とは、例えば、商品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供に応じて、あるいはサービスの完了時をいう(収益認識会計基準156項)。 Ⅲ 適用時期等 経過措置が定められている(収益認識会計基準84項~89項)。 収益認識会計基準47項の定めに従って、収益認識会計基準の適用初年度において、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という)の会計処理を税込方式から税抜方式に変更する場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。この場合、適用初年度の期首より前までに税込方式に従って消費税等が算入された固定資産等の取得原価から消費税等相当額を控除しないことができる(収益認識会計基準89項)。 * * 以下、追補部分 * * Ⅳ 主なコメント対応の内容 4月11日、企業会計基準委員会は、公開草案に対する「主なコメントの概要とそれらに対する対応」(120ページ)を公表している。 (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」、 パブコメを経て正式公表 ~6つの原則で不祥事の発生そのものを予防する取組みを示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2018年3月30日、日本取引所自主規制法人は、「「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の策定について」を公表した。これにより、2018年2月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、近年、業種を超え、また、規模の大小にかかわらず、上場会社において多くの不祥事が表面化し報道されていることから、不祥事の発生そのものを予防する取組みについてプリンシプルを策定するものである。 日本取引所自主規制法人は、2016年2月に「不祥事対応のプリンシプル」を策定し、不祥事発生後の事後対応に重点を置いた指針を示していたが、今回は、これに加えて、事前対応としての「不祥事予防のプリンシプル」を策定するものである。 公開草案に対して寄せられたコメントについては、「提出された意見とそれに対する考え方」も公表されているので、本プリンシプルの理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 本プリンシプルにおける各原則は、各上場会社において自社の実態に即して創意工夫を凝らし、より効果的な取組みを進めていくためのプリンシプル・ベースの指針となっている。 仮に本プリンシプルの充足度が低い場合であっても、上場規則等の根拠なしに、日本取引所自主規制法人が上場会社に対する不利益処分等を行うものではないとのことである。 「上場会社における不祥事予防のプリンシプル~企業価値の毀損を防ぐために~」として、次の6つの原則とその解説及び不祥事につながった問題事例が記載されている。 (了)
《速報解説》 平成30年度税制改正に係る 「所得税法等の一部を改正する法律」が 3月31日付官報:特別号外第7号にて公布 ~施行日は原則4月1日~ Profession Journal編集部 財務省の決裁文書の書換えをめぐり平成30年度税制改正関連法案の国会での審議の遅れが懸念されていたが、3月28日の参議院本会議で可決・成立され、3月31日(土)の官報特別号外第7号にて「所得税法等の一部を改正する法律」が公布された(法律第7号)。施行日は原則平成30年4月1日(法附則第1条)。地方税関係の改正法である「地方税法等の一部を改正する法律」も官報同号にて公布されている(法律第3号)。ただし、平成31年1月7日から適用予定の国際観光旅客税について規定された国際観光旅客税法案は参議院での審議が続いている。 また、創設された事業承継税制の特例制度に合わせパブコメに付されていた経営承継円滑化法省令の一部改正省令も公布・施行された。 * * * 平成30年度税制改正では上記の通り中小企業の事業承継を強く後押しするため現行の事業承継税制の要件を大幅に緩和した10年間限定の特例制度を創設、合併・分割等による承継時の税負担を軽減する措置も織り込まれた。資産税関係では他に小規模宅地等特例や一般社団法人等を使った課税逃れへの対策が講じられることから、こちらは今国会で法案審議が行われている民法(相続法制)の見直しと合わせ相続対策を再構築する契機になるといえる。 また企業の賃上げ・生産性向上を推進する観点から所得拡大促進税制の要件を大企業・中小企業ごとに見直し大幅に改組。賃上げ・設備投資に消極的な大企業に対しては研究開発税制等の適用が認められない措置も加わる。新たな設備投資減税としてIoT等の革新的情報産業活用設備を取得等した場合の特別償却・税額控除制度が創設される。 なお、大企業については平成32年4月1日以後開始事業年度から法人税等の電子申告が義務化されるほか、ペーパレス化に向けた環境整備が行われる。1年半後にせまる消費税の軽減税率導入、さらに会計基準の動向を受けた法人税における収益認識等に係る措置を含め、社内の会計・税務システムの見直しを行う際は数年先を見据えた制度設計が必要といえよう。 個人所得課税については基礎控除の引上げとともに給与所得控除、公的年金等控除には年収による一定の控除額の制限が設けられる。これらは平成32年分以後からの適用となるが、昨年度改正による配偶者控除・配偶者特別控除の見直しが本年分から適用されたばかりであり、さらなる源泉等実務への負担は避けられない。 * * * 以下では主な法律、政令、省令の官報該当ページへのリンクを紹介する。 なお本誌では例年同様、主要な改正事項については4月以降、毎週木曜日公開号において、専門家による解説記事を順次掲載するとともに、各府省庁・主な団体等より公表された平成30年度税制改正関連の情報については「平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》」及び「新着情報」を随時更新していくので、そちらを参照いただきたい。 また、税制改正大綱を受けた主な改正情報については、すでに本誌掲載済みの「平成30年度税制改正大綱」に関する《速報解説》 をご覧いただきたい。 官報:平成30年3月31日付(特別号外第7号)で公布された主な税制改正関連法令 法令のあらまし ◆所得税法等の一部を改正する法律 附則:施行期日・経過措置など 所得税法の一部改正(第1条関係) 所得税法施行令等の一部を改正する政令 所得税法施行規則の一部を改正する省令 法人税法の一部改正(第2条関係) 法人税法施行令等の一部を改正する政令 法人税法施行規則の一部を改正する省令 地方法人税法の一部改正(第3条関係) 地方法人税法施行令の一部を改正する政令 地方法人税法施行規則の一部を改正する省令 相続税法の一部改正(第4条関係) 相続税法施行令の一部を改正する政令 相続税法施行規則の一部を改正する省令 消費税法の一部改正(第5条関係) 消費税法施行令等の一部を改正する政令 消費税法施行規則等の一部を改正する省令 たばこ税法の一部改正(第6条関係) たばこ税法施行令の一部を改正する政令 たばこ税法施行規則の一部を改正する省令 揮発油税法の一部改正(第7条関係) 揮発油税法施行令の一部を改正する政令 揮発油税法施行規則の一部を改正する省令 石油ガス税法の一部改正(第8条関係) 石油ガス税法施行令の一部を改正する政令 石油ガス税法施行規則の一部を改正する省令 石油石炭税法の一部改正(第9条関係) 石油石炭税法施行令の一部を改正する政令 印紙税法の一部改正(第10条関係) 印紙税法施行令の一部を改正する政令 国税通則法の一部改正(第11条関係) 国税通則法施行令の一部を改正する政令 国税通則法施行規則の一部を改正する省令 国税徴収法の一部改正(第12条関係) 国税徴収法施行令の一部を改正する政令 国税徴収法施行規則の一部を改正する省令 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第13条関係) 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行令の一部を改正する政令 外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の一部改正(第14条関係) 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令の一部を改正する省令 租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律に基づく租税条約に基づく認定に関する省令の一部を改正する省令 租税特別措置法の一部改正(第15条関係) ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・酒税関係 ・たばこ税関係 ・揮発油税・地方揮発油税関係 ・石油石炭税関係 ・自動車重量税関係 ・印紙税関係 ・利子税等関係 租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令 ・所得税関係 ・法人税関係 ・相続税関係 ・登録免許税関係 ・消費税等関係 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の一部改正(第16条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律の一部改正(第17条関係) 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行令の一部を改正する政令 租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律の一部改正(第18条関係) 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令の一部を改正する政令 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法の一部改正(第19条関係) 租税特別措置法の一部を改正する法律の一部改正(第20条関係) 所得税法等の一部を改正する法律の一部改正(第21条関係) ※平成17年 所得税法等の一部を改正する法律の一部改正(第22条関係) ※平成28年 地価税法施行規則の一部を改正する省令 登録免許税法施行規則の一部を改正する省令 酒税法施行令等の一部を改正する政令 酒税法施行規則の一部を改正する省令 税理士法施行令の一部を改正する政令 税理士法施行規則の一部を改正する省令 復興特別所得税に関する政令の一部を改正する政令 復興特別所得税に関する省令の一部を改正する省令 復興特別法人税に関する政令の一部を改正する政令 沖縄の復帰に伴う国税関係法令の適用の特別措置等に関する政令の一部を改正する政令 ◆地方税法等の一部を改正する法律 ( 附 則 ) ・第1条関係 ・第2条関係 ・第3条関係 ・第4条関係 ・第5条関係 ・第6条関係 ・地方税法等の一部を改正する法律の一部改正(第7条関係) ・国有資産等所在市町村交付金法の一部改正(第8条関係) ・外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律の一部改正(第9条関係) ・地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第10条関係) ・地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第11条関係) ・地方税法等の一部を改正する等の法律附則第三十一条第二項の規定によりなおその効力を有するものとされた同法第九条の規定による廃止前の地方法人特別税等に関する暫定措置法の一部改正(第12条関係) 地方税法施行令等の一部を改正する政令 地方税法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令 地方税法施行令の一部を改正する政令 地方税法施行規則の一部を改正する省令 ▷その他関係法令 減価償却資産の耐用年数等に関する省令等の一部を改正する省令 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令 (了)