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電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第10回】「売上の対価として仮想通貨を受け取った場合の会計・税務」

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第10回】 「売上の対価として仮想通貨を受け取った場合の会計・税務」   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A ビットコインをはじめとする仮想通貨の利用環境が整備されるにつれ、上記のような場面に遭遇することも今後は大いにあると思われるし、筆者も実際にこうした質問を受ける機会が増えてきたように感じる。 自ら進んで仮想通貨取引を行う気がなくても、得意先から申し出を受ければ否応なしに検討する必要が生じるし、今後急速に利用環境が整備されていく可能性があることなどを加味すると、直ちに使用することが想定されなくても、どういった会計処理がなされるのかという整理をしておくことは非常に有意義であると考える。 そこで、仮想通貨各論の1回目は、前回の概論の基本的な考え方を踏まえつつ、仮想通貨を用いた販売取引における会計・税務処理を検討していくこととする。   1 仮想通貨の本質は棚卸資産 前回、仮想通貨のコモデティに類する会計的特性などから、棚卸資産として処理することが合理的と考えられる旨を述べた。この考え方を基本として、さっそく設例を用いて会計処理を検討する。 (1) 商品販売時の会計処理 決済手段として仮想通貨が利用される場合であっても、収益の認識は通常どおり実現主義に基づき、財・サービスの引渡しが行われた段階で認識されることになるだろう。 測定に関しては、現状、明確なルールはないものの、外貨建取引を行った場合の会計処理が参考とされるべきである。すなわち、外貨建取引においては基本的に取引日における為替レートを用いて円換算を行い、円貨額を確定することになるが、仮想通貨を用いた取引についても、特段これと異なる処理を行うべき理由もないと考えられることから、取引日における時価に基づいて経理処理を行うことになるものと考えられる。 また、前回紹介した『ビットコインと税務』(税大ジャーナル第23号(2014.5))においても、「ビットコインを取引の際の支払手段として使用した場合や配当の支払手段としてビットコインを使用した場合の会計処理などについては、ビットコインを支払時の市場価格に換算する方法などについて、通達により取扱いを定める必要があると考えられる。」と述べられており、税務面からも、あるべき会計処理として同じ考え方に立っていることがうかがえる。 以上のことから、設例1の取引に関する会計処理をまとめると、以下の仕訳のようになると考えられる。 (2) 仮想通貨換金時の会計処理 すでに何度か述べているとおり、仮想通貨には取引所が存在し、日本円に換金することが可能である。財・サービスの販売取引とは若干論点が異なるが、基本的には仮想通貨のまま保有することはせず、直ちに円転することも多いと考えられることから、この場合の会計処理についても解説する。 取引所において仮想通貨に時価が形成されている以上、仮想通貨を取得した際とこれを譲渡して日本円に換金した際との間で時価が変動し、換金時の帳簿金額と収入金額は一致しないことが通常である。 これによって生じる換金差額は、有価証券の売却損益及び為替差損益の両方の性格を有するものと考えられるが、いずれにせよ、設例2で発生した換金差額は法人の本来の営業活動から生じたものではないし、販売者は仮想通貨を売上対価として受け取ったのであって、そこに投資意思はないと考えられるため、外貨建取引の決済差額の処理に準じて営業外損益として処理を行うことが妥当するものと考えられる。 以上のことから、設例2の取引に関する会計処理をまとめると、以下の仕訳のようになると考えられる。   2 消費税の取扱い 上記設例では特に触れていないが、消費税に関する取扱いも基本的には通常の販売取引と同様に考えることになろう。取引が国内における資産の譲渡に該当するのであれば、当該取引には消費税が課されることとなる。 なお、本連載【第6回】でも述べたとおり、平成29年7月1日以後、資金決済法に定める仮想通貨の譲渡について消費税が非課税となったため、上記設例2の取引時においては消費税が課されない。   3 商品販売時に取得した仮想通貨を期末時に保有する場合 取引所において仮想通貨の時価が形成されているならば、これを期末時点で保有している場合の時価評価をどのように考えるかが問題となる。 本来コモディティ等のトレーディング目的の棚卸資産を取得し、期末に保有する場合には企業会計基準第9号『棚卸資産の評価に関する会計基準』に則って、当該棚卸資産について時価評価を行い、時価と帳簿価額の差額について当期の損益として処理することになる。 しかしながら、上記設例における販売取引の対価として取得した仮想通貨にはトレーディング目的は認められず、同基準の対象となる棚卸資産には該当しないものと考えられ、取得原価に基づき貸借対照表に計上されることになろう。 また、法人税法第61条(短期売買商品の譲渡損益及び時価評価損益の益金又は損金算入)第1項に規定する短期売買商品についても、上記と同様トレーディング目的の棚卸資産についての取扱いを定めたものであり、販売取引の対価として取得した仮想通貨は規定の対象外と考えられる。 (了)

#No. 224(掲載号)
#八代醍 和也
2017/06/29

連結会計を学ぶ 【第6回】「連結の範囲に関する重要性の原則」

連結会計を学ぶ 【第6回】 「連結の範囲に関する重要性の原則」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 連結財務諸表の作成において、親会社は、すべての子会社を連結の範囲に含めることが原則である(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)13項)。 ただし、連結会計基準は、重要性の原則を規定しており、子会社であって、その資産、売上高等を考慮して、連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができるとしている(連結会計基準注1、注3)。 今回は、連結の範囲に関する重要性の原則について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱い 連結の範囲の重要性の原則に関する監査上の取扱いについては、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号。以下「実務指針52号」という)が公表されている。 1 基本的な考え方 連結の範囲に係る重要性の判断としては、通常、該当要件の影響割合が所定の基準値より低くなれば、それで重要性は乏しいと判断されるものである(実務指針52号3項)。 重要性の判断を行う際には、次の事項に注意し、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示する観点から量的側面と質的側面の両面で並行的に判断する(実務指針52号3項)。 また、「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について」(連結財務諸表規則ガイドライン)では次のように規定しているので、連結の範囲に関する重要性の判断を行う際には、注意が必要である。 2 連結の範囲から除外できる重要性の乏しい子会社 連結の範囲から除いても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しい子会社かどうかは、企業集団における個々の子会社の特性とともに、少なくとも資産、売上高、利益及び利益剰余金の4項目に与える影響をもって判断する(実務指針52号4項)。 また、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」では次のように規定している。 上記4項目に与える具体的な影響度合いは、次の算式で計算された割合をもって基本的に判断する(実務指針52号4項)。 算式を適用する場合には実務指針52号4-2項を十分に勘案する必要がある。 前述のように、実務指針52号では、少なくとも資産、売上高、利益及び利益剰余金の4項目に与える影響をもって判断することが述べられており、それぞれに関する具体的な影響度合いについての算式を示しているが、キャッシュ・フローに関する算式については設けていない(実務指針52号4項)。 キャッシュ・フローに関する具体的な影響度合いに関する算式を考えると、例えば、キャッシュ・フロー計算書を利用するとしても、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローがあり、どの数値を用いて算式を設定すればよいかについて一律に決定することが難しいのではないかと思われる。 また、キャッシュ・フローについては貸借対照表や損益計算書と密接に関連することから、上記の4基準により連結の範囲に関する重要性の判断をすることにより、キャッシュ・フローに関する重要性についても判断できると考えられる。 このようなことなどから、実務指針52号ではキャッシュ・フローに関する算式を示していないものと解される。 3 重要性の判断に関する数値基準 現行の実務指針52号では、連結の範囲に係る重要性の判断に関する数値基準は設けられていない。 しかしながら、かつて、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用に係る監査上の取扱い」(監査委員会報告第52号(当時))の注書きにおいて、次の記載があった。 平成14年7月3日の改正において、当該注書きは削除されたが、当時の常務理事前文において、「委員会報告第52号が公表されてから既に10年近く経っており、連結の範囲が同報告の趣旨に沿って広く実務に定着したと判断されるため、同報告の(注)として記載されていた具体的参考数値を削除することといたしましたが、その趣旨は従来と変わらないことを申し添えます。」と記載されているので、実務上、連結の範囲に関する重要性の判断を行う際には、上記の数値基準は参考になるものと解される。 (了)

#No. 224(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/29

民法(債権法)改正とは何だったのか

  民法(債権法)改正とは何だったのか   一般社団法人日本経済団体連合会 参与 阿部 泰久   1 はじめに 本稿では、120年ぶりの民法(債権法)の大改正に至るまでを、独断と偏見を承知のうえで、民法学者の描く理想像としての新「契約法」創設の動きと、それを実務の領域から押しとどめて、「民法改正」に終わらせた経緯として整理してみたい。   2 なぜ、債権法改正だったのか 現行民法が1896年に制定(1898年施行)されて以来、第3編債権については、2004年に条文表現を現代語化するのに併せて保証制度に関する部分的な見直しが行われたほかは、改正されることなく維持されてきた。 この間、経済・社会や国民生活のあり方は大きく変化し、制定当時は考えられなかった経済取引や通信手段も現れているが、これを規律する基本法である民法は改められることなく、解釈や判例によって補われてきたため、民法典を読むだけでは、民法を理解できない状態になっていた。 法制審議会に対する法務大臣の諮問によれば、民法(債権法)改正の目的は、制定以来の社会・経済の変化に対応したものとすること、および、国民一般に分かりやすいものとすることの2つである。このうち、後者には、120年の間に蓄積された判例ルールの明文化、不明確な条文の明確化、さらには、書かれていない前提、原理、定義を補う、という3つの意味があるとされていた。 逆に言えば、確定した判例や、周知の解釈によって、民法典には書かれていない規律も十分に補われてきており、国民一般には分からないとしても、少なくとも実務の世界では大きな支障なく回ってきたのである。   3 学者の理想論としての「改正試案」 法務省では、2006年2月には民法(債権法)の抜本改正を行う方針を明らかにし、まず学者を中心とした準備作業として、2006 年10月「民法(債権法)改正検討委員会」が設置された。 これは、あくまで学者を中心とする私的な研究会とされたが、委員長には法制審議会民法(債権法関係)部会長となる鎌田薫早稲田大学教授、事務局長には後に法務省に移って改正作業を陣頭指揮した内田貴東京大学教授が就任し、そのほかのメンバーも多くが、法制審民法部会の委員・幹事となった。また、法務省民事局の担当官が、実際の運営にも深く関与していた。その意味で、検討委員会は、法制審議会に向けた改正案のたたき台を作成する役割を担うものであった。 2009年3月に公表された「債権法改正の基本方針(改正試案)」は、個々の基本方針を「提案」と称し、「提案」は条文のような体裁をとっていた。また、債権編のみならず、総則編中の第5章法律行為、第6章期間の計算、第7章時効のうちの消滅時効に関わる部分を対象に含めているほか、債権編の中でも法定債権(事務管理、不当利得、不法行為)は対象としておらず、単なる民法の改正ではなく、まったく新たに体系的な「契約法」を制定しようとの提案であった。 また、消費者取引や事業者間取引を除外しては、取引一般を規律したことにならないとして、消費者法や商行為法の規定のうち基本的なものは民法典に含めるべきであるとの考え方のもと、基本法たる民法の役割であるべき、対等の私人間の関係の規律を超えて、「消費者」や「事業者」が当事者となる場合の特則を新たに設けることも構想されていた。 この「改正試案」は、最先端の学説の集大成であるばかりでなく、法改正を意識した提案としても、非常に分かりやすい優れたものである。もし、白地に絵を描くように、民法や債権法がない国に新たに契約法を作るのであれば、現時点ではおそらくベストな提案であろう。しかし、わが国には120年に及ぶ民法と、それを運営してきた実務の積み重ねがあり、いかに優れた提案であっても、今までの蓄積を放棄して、これに取り換えるわけにはいかない。   4 法制審議会における理想論と実務の攻防 債権法改正を審議した法制審議会民法(債権関係)部会は、2009年11月24日に第1回会合を開催し、東日本大震災による中断をはさみながらも、2014年2月まで5年3ヶ月にわたった。 この間を、発足から中間的論点整理(2011年4月12日決定)までの第1ステージ、中間試案(2013年2月26日決定)までの第2ステージ、要綱案決定までの第3ステージの、3つに区切ることができるが、これは、学者の理想論である「債権法改正の基本方針(改正試案)」を暗黙の出発点としながらも、主に実務の側からの反駁を受け入れつつ、改正対象となる項目を徐々に絞り込み、改正内容を現行実務とできるだけ接続可能なものに収めていくという過程であった。 ちなみに改正項目は、「債権法改正の基本方針(改正試案)」では900に及んでいたが、「中間的な論点整理」では500強、中間試案では約260、最終的な要綱案では約200に絞り込まれていった。 それでは、実務の側から学者議論に掣肘(せいちゅう)を加えた主体は何だったのか。 法制審議会民法(債権関係)部会に参加していた実務者代表は、弁護士4名(東京3会、大阪)、経済界3名(経団連、日商、全銀協)であった。このうち、弁護士会は必ずしも一枚岩ではなく、中間的論点整理、中間試案へのパブリック・コメントでは、各単位会、有志、個人とバラバラであった。 経済界のうち経団連は、部会開催中に法務省民事局との間で100回を超える会合を通じて意見を伝えており、債権譲渡の対抗要件や保証債務、定型約款等については主張を貫いたが、必ずしも改正項目全般にわたり意見を示すことはしなかった。 実際に、すべての改正項目について目を配りながら、実務からの乖離を防ぐ中心的役割を果たしていたのは裁判所である。 部会には裁判官が4名(最高裁判所事務総局民事局長、民事局第一課長、第二課長、東京地裁判事)参加し、中間的論点整理、中間試案へのパブリック・コメントでも最高裁として膨大なコメントを寄せている。しかし、部会での裁判官からの積極的発言は、第3ステージに入り要綱案の取りまとめに向けた審議に至るまでは、意外に少ない。むしろ、部会各会合の前後に、事務局である法務省民事局と密接なすり合わせをしていたと思われる。 裁判所の判断基準は、当然のことながら、従来の裁判実務の観点から合理性があるか否か、平たく言えば裁判ができるかどうか、である。 確定した判例や解釈を法文に明記したり、不明確な条文の明確化を図る改正であればかまわない。しかし、いくら理論的には正しいことであっても、既に固まった判例があり、実務もそれに従っていて問題がないところを改正するのは「壊れていないところをいじる」ものでしかない。また、確定判決には至らなくても、下級審判決がある方向に向けて粛々と収斂しかけているのに、それを法改正で妨げられても困る。さらに、何が「暴利行為」なのかなど、法理論的に明確にならないものを、裁判官の個々の解釈でやっていけば、混乱を拡げるだけになりかねない。 もともと、法務省民事局は、民事局長以下、参事官、スタッフ(局付)の大部分が裁判所からの出向者であり、裁判所(最高裁事務総局)が反対することはできない。それ以上に、自分自身が裁判官に戻った時に、戸惑うことになることが分かっているような民法改正はできない。 かくして、学者の理想論は再び学説の海の中に押し戻され、実務的にも「容認できる」範囲での民法(債権法)改正となったのである。 (了) ◆民法の改正内容を細部にわたり詳細に解説した 今、手に入れておきたい注目の1冊!! 『民法[債権法]大改正要点解説-改正理由から読み込む重要ポイント』 ▷▷[こちら]で販売中!! 著 者: 日本経済団体連合会 参与 阿部泰久 日本経済団体連合会 川崎茂治 日本経済団体連合会 弁護士 篠浦雅幸 発 行:2017年6月27日 判 型:A5判610頁(上製) ISBN:978-4-433-64997-5 定価:5,184円(税込) 会員価格:4,666円(税込)

#No. 224(掲載号)
#阿部 泰久
2017/06/29

〈実務家が知っておきたい〉空家をめぐる法律上の諸問題【後編】

〈実務家が知っておきたい〉 空家をめぐる法律上の諸問題 【後編】   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 羽柴 研吾   4 空家に係る行政上の問題 空家については、様々な行政法規が関連するところ、行政上の問題として以下のような責任が想定される。 (1) 建築基準法上の責任 建築当時から長期間経過し、老朽化している空家は物理的な問題が生じていることが多く、このような空家はいわゆる既存不適格建築物(※)であることが想定される。 (※) 「既存不適格建築物」とは、既存の適法な建築物が法令の改正等により違反建築物とならないように、新法の適用を除外することとし、原則として増改築等を実施する機会に新法の基準に適合させることとされている建築物をいう。 既存不適格建築物が修繕等されることなく放置され、「著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合」には、当該空家の所有権者に対して、当該空家の除却等が命じられ(建築基準法第10条第3項)、行政代執行の対象ともなる(同条第4項)。 (2) 空家特措法上の責任 空家等対策の推進に関する法律(以下「空家特措法」という)は、空家等(建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)、同法第2条第1項)のうち、以下の4類型の状態にあるものを「特定空家等」と定義して、特定空家等に対する措置を規定している(第2条第2項、第14条)。 特定空家等に認定されると、特定空家等の所有権者は、市町村長から、①助言又は指導(同法第14条第1項)及び②勧告(同条第2項)、③修繕・除却命令(同条第3項)、④代執行(同条第9項)、⑤過失がなくて必要な措置を命ぜられるべき者を確知することができないときの略式代執行(同条第10項)を受ける可能性がある。また、同条の勧告の対象となった場合には、地方税法上、固定資産税や都市計画税の住宅用地の特例の適用を受けることができなくなる。 上記(1)の建築基準法第10条第3項に基づく除却等の措置命令は、「著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合」に行われるのに対して、空家特措法の場合は、建築基準法の規定する事象の「おそれのある場合」でも権限行使を可能としており、特定空家等の所有権者は、建築基準法より早い段階で勧告や命令等を受けることになる点に留意が必要である。 (3) 消防法上の責任 空家の窓ガラスが割れるなどして建物内の残置物等が敷地内にあふれ出ているような場合、当該空家の所有権者は消防法第3条に基づく措置命令を、また、空家自体が火災の予防に危険であると認められる場合等には、同法第5条に基づく空家自体の除却等の措置命令を受ける可能性がある。 (4) 道路法上の責任 何人もみだりに道路上に道路の構造や交通に支障を及ぼすおそれのある行為をしてはならないところ(道路法第43条第2号)、空家の敷地に植えられた立木等が道路上に倒れているような場合には、正当な権限や正当な事由に基づいていないのが通常であることから、立木等の所有権者は、道路管理者から同法第71条第1項に基づく措置命令を受ける可能性がある。 また、立木等が道路区域外に留まっているものの、当該区域外が沿道区域に指定されている場合は、立木等が道路の構造に及ぼす損害や交通に及ぼす危険を防止する義務を負い、必要に応じて措置命令を受ける可能性がある(道路法第44条)。   5 空家の有効活用策 ここで、空家の有効活用をめぐる動向について紹介しておきたい。 空家特措法は、空家等の適切な管理等の他に、空家等の活用を目的としている。この点に関して、空家特措法の施行前から、各地方公共団体が空家バンクを運営し、マッチング等のサービスを行ってきた。しかしながら、各地方公共団体ごとの取り組みであることから一覧性がなく、また掲載数にも差があったことから、国土交通省において、市場のマッチング機能を強化するため、全国版の空家バンクを構築することが検討されているところである(平成29年度予算1.1億円)。 また、空家等の流通を中心とした活用の促進のためには、空家対策部局と宅地建物取引業者等の民間事業者との連携が重要である。この点に関して、空家特措法により、空家対策部局が税務部局の保有する課税情報を利用できることになったが、課税情報を含む空家所有者情報を民間事業者等に提供できるかについては、地方税法、個人情報保護条例、地方公務員法との関係が問題となっていた。 そこで、国土交通省においては、平成29年3月に、空家所有者情報の外部提供に関する法制的整理や外部提供に関する運用の方法及びその留意点を記載した「空き家所有者情報の外部提供に関するガイドライン(試案)」を公表している。 当該ガイドラインによれば、①空家対策部局が外部提供をしても、空家対策部局は税務部局ではないため地方税法第22条(秘密漏えいに関する罪)に違反せず、②個人情報保護条例上、本人の同意があれば目的外利用として外部提供することは可能であり、③その同意の範囲内であれば、外部提供をしたとしても地方公務員法第34条(秘密を守る義務)に違反しないものとして整理されている。 当該ガイドラインは、平成29年度内に更に充実を図る予定とのことであり、今後の動向を注視しておくべきである。 その他の空家活用に向けた動向としては、不動産特定共同事業の活用をより一層促進するため、小規模な不動産特定共同事業に係る特例を創設するとともに、クラウドファンディングに対応するための環境整備を行うための不動産特定共同事業法の一部改正が行われている。   6 おわりに 空家の所有権者となる背景には、別居の被相続人の住居を相続する場合や新規に住居を購入した場合など想定されるところ、空家の所有権者は、上記のような民事上及び行政上の法的リスクを十分に認識しておくべきである。 空家の所有権者は、法的リスクに備えて、たとえば火災保険に加入することが考えられるが、空家が住居ではないことから加入できない場合があることが指摘されていたところである。 もっとも、近時は、空家の管理事業者向けの空家賠償責任保険も発売されており、空家の適正管理の方法や法的リスクへの対応手段の観点から注目されるところである。 (連載了)

#No. 224(掲載号)
#羽柴 研吾
2017/06/29

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第12回】「死後に婚姻・養子縁組の無効が争われるケース(その2)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第12回】 「死後に婚姻・養子縁組の無効が争われるケース(その2)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   前回紹介した【設問11】について、立場を変え、今度はA及びAの子供たちの側から考えてみたい。   1 A側(=婚姻・養子縁組の有効を主張する側)の争い方 Aの側では、あくまでも婚姻や養子縁組が有効であること、すなわち、「相談者である原告が主張する無効原因が存在しないこと」を反論し、争っていくことになる。 そのための方法であるが、まず、①「婚姻・養子縁組の届出に署名捺印する際、相談者の父が有効な判断能力を有していたこと」そのものに関し、届出書へ署名捺印した当時、及び、これを役所に提出した当時の具体的事情をできる限り詳細に記憶喚起し、特定する必要がある。 たとえば、 といった事実を特定していく必要がある。 そのうえで、これらの事実を裏付けるような客観的な資料が残っていないか、またはこれから入手可能ではないかを検討する(当時の手帳、日記やメモ、入院先での看護記録等。その他、解説編【第5回】を参照)。 以上に加えて、この種の案件で重要となるのが、②「婚姻や養子縁組に至った具体的な経緯」である。 たとえば、 について、具体的な事実経過・ストーリーを確定させ、当事者間において婚姻・養子縁組へと発展したことが決して突飛なものではなく、一連の経緯に照らせば自然なものであったことを説得的に主張していく必要がある。 このような主張と立証を原告・被告のそれぞれの立場において尽くし、当事者や関係者の証人尋問も経た上で、裁判所が判決という形で事実認定をしていくことになる。   2 訴訟中における和解について 【設問11】で問題となるような「婚姻無効確認の訴え」や「養子縁組無効確認の訴え」は、本来、遺産分割の前提問題に関してだけ判断することを予定した手続である。 しかしながら、前提問題について判決が下された後、改めて家庭裁判所に場所を移し、同じ当事者が遺産分割調停の場で、またイチから遺産分割を協議していくというのも非効率的な話ではある。 そこで、前提問題に関する裁判手続においては、その審理手続の中で、直接的に訴訟の対象となっている「遺産分割の前提問題」だけでなく、遺産分割の全体(=誰が、どの遺産を実際に取得するのか)を含めて和解協議が試みられる例も少なくない。 もし前提問題に関する訴訟の中で遺産分割全体につき和解がまとまれば、改めて遺産分割調停を行わなくとも、遺産分割全体を決着させることができる。   3 紛争の予防法はあるか? 【設問11】について、ここまで相談者及びAの立場から、それぞれの争い方について解説してきたが、このような紛争を予防する方法としてはどのようなものが考えられるだろうか。 Aの立場に立った場合に、後日に備えた事前対策としては、まず、①婚姻及び養子縁組の届出書記載時ないし作成時において、相談者の父に有効な判断能力(婚姻能力・養子縁組効力)が存在することについての証拠として、医療記録等の各種資料を入手しておくべきである(解説編【第5回】参照)。これは本連載の中でも繰り返し述べてきたところである。 なお必要に応じて、届出書に署名捺印する際のやり取りの様子を、録音ないし録画しておくことも有効である(勿論、録画された内容によっては、かえってAにとって不利なものとなる可能性もある)。 その他としては、②婚姻及び養子縁組に至る経緯、特に、なぜこのタイミングでAと婚姻をし、子供たちと養子縁組することになったのか、その理由や経緯を相談者の父にも詳細に確認し、父の生前から書面化しておくべきである。 その場の状況と父の体調に問題がなければ、上記の経緯や動機を父に直接手紙として残してもらう、あるいは、カメラの前で自らの想いを語ってもらい、その内容を録音あるいは録画することができれば、大きな証拠価値を有する証拠となる。 このような経緯や動機の内容については、特に近時の裁判例の傾向では重視されるところであり、医療記録からでは普通は読み取ることができない情報であるから、意識的に証拠化しておく必要があるだろう。 他方、相談者の側としては、父が周囲の第三者による不正な企ての被害者となることを予防するというのであれば、父と密接にコミュニケーションを取り、普段、父の周囲にはどのような関係者がおり、どのような付き合い・交際をしているのかを十分に把握しておくことである。 このようにして、父の生活状況を普段からよく注意しておくことで、父の周囲にいて不正なアプローチを掛けてくる者の存在も知ることができ、トラブルに巻き込まれることを防ぐことにもつながる。 (了)

#No. 224(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/06/29

実務家による実務家のためのブックガイド -No.4- 『消費税の研究(日税研論集70号)』

実務家による実務家のための ブックガイド -No.4- 『消費税の研究(日税研論集70号)』   〈評者〉 税理士 金井 恵美子   日本税務研究センターでは、金子宏東京大学名誉教授のもと、租税法の研究者、財政学の研究者及び実務家の11人が研究員となって、平成27年9月、「消費税の研究」特別研究会が立ち上げられ、およそ9ヶ月にわたり、消費税に関する基本的問題についての研究が行われた。 この論集は、研究会における報告を基礎とし、そこで行われた議論を反映しつつ、研究員が執筆した11の論文を1冊にまとめたものである。 創設から四半世紀を経て基幹税の地位を確固たるものとした消費税の軌跡をたどり、問題点を明らかにし、今後の方向性を検討する総合的、複合的研究の成果と位置付けることができる。以下、構成を紹介しよう。 なお、第8章に記載の通り、評者は研究員の末席に加えられている。靦然たりとの批判があることを承知してなお、消費税議論に欠かせない1冊としてお薦めしたい論集である。 (了) 〔書籍情報〕 『消費税の研究(日税研論集70号)』 日本税務研究センター 2017年1月 ISBN:978-4931528291 Amazonで詳しく見る

#No. 224(掲載号)
#金井 恵美子
2017/06/29

《速報解説》 金融庁、懇談会提言を踏まえ「監査報告書の透明化」を公表~「監査上の主要な事項(KAM)」の開示に向け検討を開始~

《速報解説》 金融庁、懇談会提言を踏まえ「監査報告書の透明化」を公表 ~「監査上の主要な事項(KAM)」の開示に向け検討を開始~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年6月26日、金融庁は「「監査報告書の透明化」について」を公表した。 これは、監査報告書において、財務諸表の適正性についての意見表明に加え、監査人が着目した会計監査上のリスクなどを監査報告書に記載するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査報告書の透明化 1 動向 「「会計監査の在り方に関する懇談会」提言-会計監査の信頼性確保のために-」(平成28年3月8日)では、監査報告書において、財務諸表の適正性についての意見表明に加え、監査人が着目した会計監査上のリスクなどを記載することを「監査報告書の透明化」と呼称している。 「監査報告書の透明化」は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)の定める国際監査基準において導入され、米国の公開会社会計監督委員会(PCAOB)から「透明化」のための監査基準が公表されている。 2 議論の概要 「監査報告書の透明化」については、監査報告書において監査人が着目した会計監査上のリスク等(「監査上の主要な事項(Key Audit Matters:KAM)」)に関する情報を示すことにより、監査報告書の情報価値を高め、会計監査についての財務諸表利用者の理解を深める意義があるとの意見がある。 一方、次のような実務上の課題も提示されている。 3 今後の検討の方向 今後の検討の方向として次のことが記載されている。 (了)

#No. 223(掲載号)
#阿部 光成
2017/06/28

《速報解説》 株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を追加する評価通達の改正案がパブコメへ~対象範囲拡大により改正後の判定に留意~

《速報解説》 株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を追加する 評価通達の改正案がパブコメへ ~対象範囲拡大により改正後の判定に留意~   税理士 柴田 健次   平成29年度税制改正大綱において、「株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を加える」との記載がなされていたが、6月22日にパブリックコメントで公表された財産評価基本通達の一部改正(案)において、その具体的内容が明らかとなった(意見・情報受付締切日は2017年7月21日)。   【改正案の概要】 現行の非上場株式の評価において、資産のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合が50%以上である場合には、株式保有特定会社として、原則として純資産価額により評価することになる。株式保有特定会社に該当した場合には、類似業種比準価額での計算ができなくなるため、通常株価が高くなる。 今回の改正案は、次の通り、株式等の保有割合の判定基準に「新株予約権付社債」を加えるものとすることで、納税者にとっては不利な改正となる。また、「株式保有特定会社」の名称も「株式等保有特定会社」に変更される予定である。 新株予約権付社債を所有している会社又はこれから取得する予定の会社については、この「株式等保有特定会社」に該当しないかどうか留意が必要となる。 現行制度と改正案の判定算式を比べると下記の通りとなる。   【改正案の適用時期】 上記の改正案は、平成30年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得した非上場株式の評価に適用される。   【新株予約権付社債の評価】 株式等保有割合を正確に判定するためには、新株予約権付社債の評価が重要となる。ここで「新株予約権付社債」とは、会社法2条22号に規定する新株予約権付社債をいう。 新株予約権付社債は、新株予約権が付された社債であるため、株式としての性格と債券としての性格を併せ持つ。発行会社の株式の価額が上昇する局面では、株式に連動して値上がりし、株式の価額が下落する局面では、社債としての価値に留まることになる。 新株予約権付社債の多くは転換社債である。転換社債の財産評価は、財産評価基本通達197-5の定めにより、下記の通り評価することになる。 取引相場のない転換社債については、発行会社の株式の価額が転換価格を超えている場合には、株式に連動して評価も値上がりするため、発行会社の株式の価額を基に評価するのに対して、反対に株式の価額が転換価格以下の場合には、社債としての価値に留まるため、社債としての評価をすることになる。 (了)

#No. 224(掲載号)
#柴田 健次
2017/06/26

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成28年10月~12月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成29年6月21日、「平成28年10月から12月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加された裁決は表のとおり、全9件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が「取り消された裁決が6件、棄却された裁決が3件となっている。税法・税目としては、所得税法4件、相続税法が3件、法人税法及び消費税法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年10月~12月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、飲食店免許の名義貸しを行っていた納税者に対する処分を全部取り消した裁決事例①、審判時に新たに提出した証拠に基づき一部経費の損金算入を認めた裁決事例⑤、家族名義預金について一部原処分を取消した裁決事例⑥を紹介したい。いつものお断りであるが、論点を整理するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 事業所得(実質所得者課税)・・・① 本件は、国税不服審判所が、飲食店に係る収益の帰属をめぐり、営業許可の名義人である請求人の主張に基づき、営業許可は名義貸しにすぎないと判断して、原処分庁の処分をすべて取り消した事案である。 (1) 争点 争点は、「請求人は、本件飲食店事業から生ずる収益を享受しているか」である。 (2) 審判所の判断 審判所は、所得税法第12条に定める実質者課税の原則について、こう説明する。 そして、事実認定に基づき、店舗の飲食店営業許可及び本件事業に係る各契約等の多くは請求人名義となっているが、これらは、実質的経営者であるGの依頼に応じたものにすぎないと判断し、その理由として、名義変更後も、Gは、本件事業の資金管理を行い、本件事業から生じる利益を自由に処分し、ホステス等従業員の雇用及び労務管理を含めた本件事業の運営を行っていることを挙げて、本件飲食店事業の事業主は、Gであったと認めて、原処分庁の処分をすべて取り消した。 なお、審判所は、原処分庁の主張について、その内容は本件更正請求調査時のGの申述等を根拠としているが、当該申述が信用できないことが審判の過程で明らかになっており、採用することができないと断じた。   2 法人税(経費の損金算入)・・・⑤ 本件は、審判請求に至って初めて示された領収証等について、国税不服審判所が、その一部について、損金算入を認めた事案である。 (1) 争点 争点は、以下の3点であるが、本稿では、損金算入の是非が争われた争点1について、審判所の判断のポイントを確認したい。 (2) 審判所の判断 審判所は、法人税法第22条第1項の規定の趣旨から、損金の額に算入することができる支出について、こう説明する。 そのうえで、審判所は、請求人が提出した追加経費を支出した証拠617件に係る領収証等、請求書等及び現金自動預払機のご利用明細等に記載されている内容を検討すると、本件領収証等のうち一部は、請求人が支出したものと認められ、これらの各支出については、物件の賃貸・管理等をする上で必要なものであると客観的に判断できることから、請求人の業務に関連性があり、業務遂行上必要なものであるとして、当該各支出の額は、請求人の各事業年度の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入される、と判断した。 一方、審判所が、請求人が提出した追加経費を支出した証拠のうち、支出の額を本件各事業年度の損金の額に算入することはできない、と判断した支出は、以下のようなものである。   3 相続税の課税財産(家族名義預金)・・・⑥ 本件は、原処分庁が、被相続人の家族名義の預貯金を相続財産であるとして更正処分を行ったのに対し、国税不服審判所がそれらの預貯金の一部については、相続財産とは認められないという判断を示した事案である。 (1) 争点 争点は、以下の3点であるが、本稿では、審査請求人らの主張の一部が認められた争点2について、審判所の判断のポイントを確認したい。 (2) 原処分庁の主張 原処分庁の主張の概要は以下のとおりであり、こうした主張に基づき、本件各預貯金は相続財産であるとして、更正処分を行ったものである。 (3) 審判所の判断 審判所は、 まず、被相続人の名義以外の預貯金が被相続人に帰属する相続財産となるかどうかの判断について、こう説明する。 そのうえで、預貯金の口座ごとにその原資を出捐した者を判別して、被相続人が出捐したことが認められる預貯金については、相続財産であると判断した一方、請求人P5名義の預金口座から引き出された金員を原資にする預貯金については、P5名義の口座の預金は請求人P5又は請求人P1に帰属する財産であると認められるとともに、被相続人に帰属する財産であることを裏付ける事情や証拠資料も存しないから、当該各預貯金は本件相続に係る相続財産とは認めることができない、と判断した。 なお、審判所が、こうした判断を示すに至った事実は次のとおりである。いずれも、預金口座が実質的にP1とP5夫妻によって管理されていたことを示すものであり、いわゆる名義預金ではないことを証明する場合の必要条件であると言えよう。 (了)

#No. 223(掲載号)
#米澤 勝
2017/06/26

《速報解説》 広大地の新たな評価方法を規定した財産評価基本通達の改正案(パブコメ)が公表~《地積規模の大きな宅地の評価》を新設、「規模格差補正率」による評価へ~

   《速報解説》 広大地の新たな評価方法を規定した 財産評価基本通達の改正案(パブコメ)が公表 ~《地積規模の大きな宅地の評価》を新設、「規模格差補正率」による評価へ~   税理士 風岡 範哉   6月22日、国税庁から財産評価基本通達の改正案についてのパブリックコメントが実施された(意見・情報受付締切日は2017年7月21日)。 本稿においては、広大地補正についてのパブリックコメントの内容を紹介する。 なお、本改正案の詳しい内容や影響分析、具体的な計算例については、6月29日公開の本誌上において解説することとする。   【平成29年度税制改正大綱の内容】 昨年末に発表された平成29年度税制改正大綱において、広大地の評価について、以下の4つの理由から改正すべきとの記載がなされた。 そこでは、「現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する」こととされていた。   【改正案の概要】 今回公表されたパブリックコメントにおいては、改正後の広大地補正(以下、「規模格差補正」という)について、下記のように改正案が示されている。 地積規模の大きな宅地(三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいい、次の(1)から(3)までのいずれかに該当するものを除く)で14-2《地区》の定めにより普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在するものの価額は、15《奥行価格補正》から20《不整形地の評価》までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、次の算式により求めた規模格差補正率を乗じて計算した価額によって評価する。 (算式) なお、上記の改正案については、平成30年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用することとされている。 (了)

#No. 223(掲載号)
#風岡 範哉
2017/06/23
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