〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第7回】 (最終回) 「地方公共団体」 公認会計士・税理士 中谷 敏久 どのような業種業態か? 地方公共団体とは、地方自治法により人格を認められた公法人で、都道府県及び市町村の普通地方公共団体と、特別区、財産区などの特別地方公共団体がある。住民の福祉を増進するために必要とされる事務(自治事務)のほか、本来国の役割に係る事務(法定受託事務)を処理している。 自治事務として、団体の組織・財務・自治立法に関する事務、学校・保育所・市場・授産所・と畜場などの設置管理、埋火葬、ゴミ・し尿処理、バス・地下鉄、ガス事業などを行う。一方、法定受託事務としては、国道や一級河川の管理、生活保護などがある。 戦前は官僚的中央集権制の下、国の出先機関の感が強かったが、戦後は地方分権制による団体自治と住民自治が強化され、それぞれの自治体が独自の事業を展開し特色を出している。情報公開法の施行後は、住民が監視する体制も整い、また、1999年からは包括外部監査制度も導入されている。 なお、議会で承認された政策事業を首長が執行し、監査委員等がチェックするという、いわゆるPLAN-DO-SEEの自己完結型の組織が形成されているものの、国からの全面的な税源移譲が先送りされており、真の意味での地方分権は実現されていない。 どのような不正が起こりやすいか? 予算単年度主義の考え方から、職員には、その年度に計上された予算はすべて使い切ることが求められる。仮に予算の未消化が発生した場合、それは議会で承認された事業が適切に実施されなかったことを意味し、翌年度以降の予算を減らされる恐れがある。 これを避けるために、職員は以下のような不正を起こしやすい。 事例検証 平成21年9月9日に公表された千葉県の事例を紹介する。「千葉県経理問題特別調査結果報告書」によると、平成15年度から平成19年度の5年間で、約30億円の不適正な経理が組織的に行われたことが確認された。 内訳としては①預け:18億円、②一括払:4億円、③差替:1億円、④翌年度納入:2億円、⑤前年度納入:0.1億円、⑥先払い:0.1億円であり、①預けにより業者にプールされた公金は4億円にのぼった。 不正の防止策 地方公共団体の職員は公金を取り扱うことから、規則規定が詳細に定められており、また、内部牽制が有効に働くよう組織も整備されている。さらに、職員の知的レベルも高い。 にもかかわらず、先に挙げたような不正が発生するのは、職員のコンプライアンス意識や倫理観が欠如しているからに他ならない。 公務員倫理研修の充実強化が最大の防止策である。 同様の不正が起こりうる業種業態は? 大学法人において、教授等が公的研究費、民間との共同研究費、寄付金などを財源として同様の不正が起こりうる。 (連載了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第7回】 「よくある質問・留意点②」 -家族信託を設定した場合の相続財産への影響- 弁護士 荒木 俊和 - 質 問 - 保有する財産に家族信託を設定した場合、その財産は相続財産から外れるのか。 家族信託を設定した後、委託者兼受益者が死亡した場合には、どのような取扱いがなされるのか。 1 問題の所在 ある財産に対して家族信託を設定した場合、その所有権は委託者から受託者に移転することとなる。このため、委託者の相続財産からその財産が単純に外れるように見えるが、そのような考え方が正しいのか。 以下では、信託契約上の定め方で場合分けして解説する。 2 家族信託設定時の財産の転換 家族信託を設定する場合、委託者と当初受益者を同一の者とし、委託者の財産管理の困難を回避することが多く行われているため、以下はそのケースを前提とする。 この場合、信託契約の締結により委託者から受託者に信託財産の所有権が移転し、それと同時に委託者が受託者に対する受益権を保有することとなり、受益者としての地位を兼ねることとなる。 このとき、委託者が所有していた財産が受託者に対する債権である受益権に転換することとなり、これ以降、委託者兼受益者が保有する財産権は受益権となる。 このため、委託者が所有していた財産そのものは相続財産から外れ、代わって受益権が相続財産となることが原則である。 受益権が相続財産となることから、遺言の定めがない限り、受益権は委託者兼受益者の相続人による遺産分割協議によって分割されることとなる。 3 委託者兼受益者の死亡時に関する信託契約上の場合分け (1) 信託契約上の定め方 2に対し、信託契約上で委託者兼受益者の死亡時に、原則と異なる定めを置くことも可能である。 例としては、 が考えられる。 (2) 委託者兼受益者の死亡時に信託を終了させる定め 信託の終了原因は信託法第163条各号に列挙されているものの他、信託契約において定めることができる。 このため信託契約において「委託者兼受益者の死亡」を「信託の終了原因」とすることができる。 これは、家族信託が「委託者の資産管理」のみを目的として定められたものであるなどの事由から、委託者が死亡した場合には家族信託の必要性が消滅するといったケースにおいて用いられる。 この場合、帰属権利者として誰かに信託財産を取得させる旨を信託契約において指定しておくこともできるし、信託財産を委託者兼受益者の相続財産として持ち戻し、遺産分割協議の対象とすることも可能であると解される。 このため委託者兼受益者が死亡した場合に、信託契約において一旦は相続財産から外れた財産を戻すこともできるし、逆に遺贈と同様に、第三者に財産を取得させることも可能である。 なお、帰属権利者の定めを置く場合、帰属権利者が適正な対価を負担しないときには、税務上も遺贈の場合と同じく相続税の課税対象となる。 (3) 委託者兼受益者の死亡時に新受益者に対して受益権を取得させる定め また、信託契約において、委託者兼受益者の死亡時に、別の者が受益権を取得する定めを置く場合もある。 いわゆる「受益者連続型信託」と呼ばれる方式である。 このような新受益者の定めを置くことによって、遺言による遺贈と類似する効果を生じさせることができる。 また、遺言の機能に加え、新受益者の次以降も受益者を定めておくことができるため、遺言ではできるか明確ではない、いわゆる「後継ぎ遺贈」に代わるものとして、二代先以降の相続対策においても有効であるとされる(詳細は【第3回】参照)。 この場合、委託者兼受益者の死亡によっても受益権自体はなくならないが(ただし厳密に言うと、当初受益者から新受益者に対して受益権が移る場合、当初受益者のもとでの受益権が消滅し、同時に新受益者のもとに受益権が発生すると考えられている)、委託者兼受益者の相続財産から信託財産が外れているのはもとより、受益権も死亡によって相続財産から外れることになる。 なお、この場合にも新受益者は委託者兼受益者から遺贈によって受益権を取得したものとみなされるため、新受益者が適正な対価を負担するものでない限り相続税の課税対象となる。 4 付随する問題点 このように家族信託を設定することにより、相続財産の性質が変わるということ、信託が遺言代用機能を持つことにより信託財産も受益権自体も相続財産から除くことができるといえる。 一方で、委託者兼受益者の死亡によって受益権又は信託財産が第三者に移るということになると、委託者兼受益者の相続人の相続に対する期待を裏切ることになる場合がある。 法律的には、相続人に保障されている遺留分を侵害するという立論が可能か問題となる。 この問題自体が大きい論点であることから、詳細については別稿に譲るが、少なくとも相続人間の公平を害する恐れがあるということについてはご留意いただきたい。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例12】 株式会社デジタルデザイン 「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」 (2017.1.6) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社デジタルデザイン(以下「デジタルデザイン」という)が平成29年1月6日に開示した「臨時株主総会の開催日並びに基準日の変更に関するお知らせ」である。平成28年12月21日に開示した「臨時株主総会招集のための基準日設定に関するお知らせ」において示された臨時株主総会の開催日と基準日を変更するという内容なのだが、次のような記載が含まれている。 平成28年12月29日開催の取締役会で決議しているため、本来は同日に開示すべきであったが、平成29年1月6日に開示しており、遅延開示である。しかも、1日や2日ではなく、年をまたいで1週間以上の遅延である。おそらく12月30日から1月3日までお正月休みだったのだろう。「明日から休みだし、正月が終わってから考えようか」と思ったのだろうか。 2 混乱のなか デジタルデザインはずっと業績が低迷し、不安定な状態にあったのだが、平成28年7月26日に、同社の代表取締役社長の経費利用に不適切な処理があったとする「当社代表取締役社長の経費利用に関する不適切処理について」を開示した後、目まぐるしい混乱が続いている。 数が多いので、全てに触れることはできないが、経費利用の不適切な処理の責任をとって代表取締役社長を辞任した者から、取締役の解任などを目的とする臨時株主総会の招集を請求されたり(平成28年11月14日に「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」を開示。これも遅延開示)、第三者割当増資を行おうとしたのに(平成28年12月21日に「資本業務提携並びに第三者割当により発行される新株式及び新株予約権の募集及び主要株主の異動に関するお知らせ」を開示)、それを中止せざるを得なくなったり(平成29年1月6日に「第三者割当による新株式及び新株予約権発行(平成29年1月6日払込期日分)中止等に関するお知らせ」を開示。これも遅延開示)、といった具合である。 そうした混乱のなか、「明日から休みだし、正月が終わってから考えようか」と本当に思っていたのだとしたら、いささか呑気過ぎるといえるだろう。 3 上場会社なのか? デジタルデザインは、この遅延開示などを理由として、東京証券取引所から公表措置及び改善報告書の徴求がなされている。東京証券取引所による通知には、次のように記載されている。 上場会社であるにもかかわらず、適時開示を行える体制が整備されていなかったのである。率直に言って、上場会社としての体をなしていない。当然、財務報告に係る内部統制も有効であるはずがなく、財務報告に係る内部統制を有効と評価した過年度の内部統制報告書を訂正している(平成28年10月14日に「内部統制報告書の訂正報告書の提出に関するお知らせ」を開示)。 4 会計基準に対しては 【事例5】で取り上げた株式会社小僧寿しも公益財団法人財務会計基準機構(FASF)に加入していなかったが、デジタルデザインも加入していない。平成28年5月9日に「公益財団法人財務会計基準機構への加入状況および加入に関する考え方等に関するお知らせ」を開示しているのだが、その「2.会計基準等の内容の適切な把握、会計基準等の変更等への的確な対応体制の整備状況」には、次のように記載されている。 「知識の習得に努めており、会計基準等の変更等につき適切に対応できている」状態にあるとは、とても思えないのだが。 【追 記】 本稿執筆後、デジタルデザインは、平成29年2月8日、東京証券取引所に対して改善報告書を提出した。その中で、今回の遅延開示の理由として次のように記載している。 お正月休みは、12月30日から1月3日までではなく、12月26日から1月5日までだったようだが、やはり上場会社としての体は全くなしていなかったようである。そもそも経営陣に適時開示の重要性に関する認識が全くない。 同社は、今回の遅延開示を含めた過去の不適正開示の原因として、①社内開示体制の不備、②適時開示業務フローの不明確、③経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如、④内部監査の未設置および開示業務に対する監査の未実施、をあげて、それらを改善するとしているが、最も重大なのは「経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如」である。いくら体制を整備し、業務フローを明確にしても、適時開示に関する理解が伴わなければ、それらは絵に描いた餅になるだけである。 「経営陣および開示担当者の適時開示等に関する理解の欠如」を改善する措置として、外部講師を招聘した研修の実施や、外部セミナーへの参加などを計画しているとのことだが、それらが形だけで終わることがないようにして頂きたい。 (了)
顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第6回】 「相手の心を開かせる『傾聴』にトライしましょう」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。 前回は「雑談」の有用性についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。 私の連載を有効にご活用いただくためには、「読む」だけで納得するのではなく、「すぐに試してみる」ことにあると思います。雑談が上手にできるようになるかどうかは、まずは勇気、次はその場に慣れていくことが大切だからです。 試した結果、うまくいった場合には自分を誇らしく嬉しく感じるものですが、それ以上に、相手も嬉しくなるはずです。「この先生に逢えてよかった!」と思ってもらえることこそ、ビジネスチャンス拡大につながります。 ぜひ私の連載内容は、頭の中の知識にとどめるだけでなく、実際にご活用いただくことをお勧めいたします! ◆ ◆ ◆ さあ今回は、その雑談時や本論に入った際の「聞き方」についてお話します。 「話す」という行為以上に、「聞く」という行為は大切だと考えています。なぜならば、皆さんが切り出す話題がどんなに良い内容でも、それが上手に展開されるかどうか(相手が十分に情報を開示してくれるかどうか)は、相手がちゃんと話してくれなければ意味がないからです。 そしてそれは、皆さんの「聞き方」如何にかかっています。相手の要望をしっかりと全部聞き出すためには、傾聴の良し悪しが大きな違いを生み出します。 皆さんは、「傾聴」は得意でしょうか? 話すことも苦手だし、前回の雑談も。。。とおっしゃる方もいらっしゃることでしょう。 大丈夫です! 自分から話をすることや雑談に自信がない方こそ、傾聴を得意にすることで、上手に会話が弾むようになるはずだからです。 安心して、今回も先を読み進めてくださいませ。 ◆ ◆ ◆ まずは傾聴の意義からお話します。傾聴の姿勢を示すことが、相手とのより良いコミュニケーションの始まりです。皆さんが相手のニーズをしっかりつかんでこそ、的確なアドバイスができるはずです。 相手は税務のプロではありません。プロではないからこそ、税理士である皆さんに依頼をしようとしているのです。ということは、的確なアドバイスをするためには、まずは相手の心を開かせ、上手に相手の話を全部聞き出すことが大切です。 漢字で書き表すと、「聞く」ではなく、「聴く」ことが、相手と良好な関係づくりに必要です。 「聞く」とは、端的に言えば、相手の話を耳だけで聞いているような状態です。国会中継をみると、寝ている??と思えるような国会議員たちがいますが、あれは好感を与える聞き方ではありません。単に相手の話を耳で捉えるだけでは不充分で、何よりも感じが悪いからです。 それに対し「聴く」は、耳だけでなく、目(視線)と心までを相手に傾けて、一生懸命に相手の話を理解しようという姿勢が見受けられます。士業者である皆さんの場合には、相手があってこその実務ですから、相談者にしっかりとご要望を話してもらうためにも、この「聴く」という傾聴の仕方がポイントになるのです。 相手の真意を言葉尻だけでなく、相手の表情や口調から捉えてみてください。相手の言葉を一言も聞き洩らさないためには、必死にメモをとることも重要ですが、相手の表情を見ないままメモを完全にとったとしても、それこそ国会中継時の速記者と同じで、ただ、書き取ったということにしかなりません。 相談者はなぜ、税理士に業務を依頼するのでしょうか。 独立して初めてその必要性があることを知ったからという依頼者もいれば、以前お願いしていた税理士が良くないために変えたいという方もいるはずです。後者のような依頼者は、これまでに依頼していた税理士に大いなる不満を持っていますから、次にお願いする税理士に対しては、無意識に厳しいチェックをするのではないでしょうか。 このチェックポイントは、やはり、この連載でずっと一貫してお話してきた皆さんの「人となり」、「存在感」の良し悪しに、大いに関係があります。実務ができるのは当たり前であり、そんな税理士の誰を選ぶかは、お客様側が自由に決めることだからです。 税理士という専門家だからこそ、「話す=アドバイスが的確である」ことは当たり前。だから差別化を図るのは前回お話した雑談や、今回の傾聴する姿勢にあるのです。「なんて誠意のない税理士なんだ。。。」とがっかりされないためにも、税理士や士業者の皆さんこそ、傾聴を本気で得意にする必要性があると考えています。 話がそれてしまいましたが、相手の言葉尻だけでなく真意をしっかり受けとめるためには、相手の表情と口調から判断できるはずです。相談者が特に皆さんに伝えたい、分かってほしいと思うところでは、おそらく表情や口調が多少変わるはずだからです。 言葉そのものも何度も同じ言葉が出てくるかもしれません。相手が一息ついたタイミングで、皆さんの方からそのキーワードを使って質問したり、相手の協調する言葉をオウム返しのように言葉にしてみましょう。 まさしく相手の伝えたいキーワードや相手の感情をしっかりと理解した士業者に対しては、話をする側である相談者こそ、直感で この先生はしっかりと自分の話を聞いてくれている。言葉だけなく、感情も理解してくれようとしている。 と感じるはずです。 だからこそ、そんな税理士に対しては、 隠し立てするのではなく、素直に情報を開示しよう。 と心を開いてくれるはずです。 相手にたくさん情報を開示してもらうためには、相手に「話したい!」という気持ちにさせなければなりません。そうでなければ、『訊く』ことになってしまいます。この「訊く」は、尋問時に使う聞き方で、良好な関係を築かなければならない面談シーンでは一番ふさわしくないものです。 ポイントは、相づちを上手に打つこと。 例えば、道路の信号が壊れていると考えてください。交通量の多い場所では、自分の目だけで左右を見ても、怖くて道路を横断することがなかなかできないかもしれません。だからこそ信号があるのです。赤なら止まれ、黄色ならちょっと待て、そして青になるから、安心して道路を横断することができるのです。 会話も同じで、だんまり・むっつりして相談者の話を聞いている実務家の姿は、「壊れた信号機」と同じ状態です。 「まだ話し続けてもいいの? それともこの話はやめた方がいいの?」と相手に感じさせてしまうようでは、相手の心を開き上手に自己開示をさせることの真逆の効果しか生まれません。 相づちを打つことにより、話し手には、税理士である皆さんが自分の話をちゃんと聞いてくれていることが分かり、安心して話を続けることができます。 傾聴姿勢の重要性は、こんなふうに相手の心理状態に大きく絡んでくるものなのです。 ◆ ◆ ◆ 効果的な相づちのポイントをまとめてみます。 大切なことですから一つひとつ解説しましょう。 1つ目の「適切なタイミング」とは、相手の話の区切りということです。文章でいえば、句読点のところで相づちを打つということ。相手がどんなに早口でも、しっかり聞き取って、話の切れ間や区切りで相づちを打ちましょう。そうでないと、相手は話がしづらくなるからです。 2つ目の「相手に分かるようにはっきりと相づちを打つ」とは、青信号の役割を果たすためにも、相づちを打っていることが相手に分からなければ意味がないということです。 そのためにも、首を縦にはっきりと振ることをお勧めします。横に振るとそれは“いやいや”という否定を表してしまうからです。慣れないうちは、首が痛く感じるくらい(苦笑)、ぶんぶん首を縦に大きく振ってみましょう。 3つ目の、「相手の話の内容に合わせて表情豊かに聞くこと」とは、表情こそ互いに見えるものであり、その結果、何かを感じ合うことにつながる場面だからです。 例えば、相手が事業に失敗したというような話をしたとき、笑って聞いていたら相手はムッとすることでしょう。真顔で多少、眉毛をへの字にして、「それは大変でしたね」という感情が分かるような表情が必要です。 そして、「でも、おかげさまで持ち直しまして・・・」という場面に切り替わったら、表情や眉毛もへの字状態ではなく、ホッとしたような温かい笑顔に、瞬時に変わることが大切です。 まるで小学生の頃、理科の実験で活用したリトマス紙のように、聞き手の表情が話し手にとって表情豊かで分かりやすいということが、傾聴のためには一番大切なことと言っても過言ではありません。 士業者の皆さんのお仕事では、ときにポーカーフェイスで依頼者のために相手方と交渉をすることもあるかもしれません。そんなときは相手方に真意を見抜かれないよう表情を隠すことも必要ですが、この連載の趣旨は、『相手と良好な関係を築くこと』に重きを置いています。この点、どうぞ誤解をなさいませんように。 最後の「ときどき声を発する」とは、相づちの際に、適切な声を出すということです。首を縦に振る相づちは、相手にはっきりと見えますが、表情に合わせた適切な声音で「えー」「はあ」「それは大変でしたねえ」というように、効果的なタイミンングで声を出すことも大切です。 相手が話し、皆さんが聴くだけの場面であっても、効果的な相づちのための声出しがあれば、それは会話として適切に成立していることをも意味しています。 声を出すときには、相づち例として様々なバリエーションがあります。 下記をご覧くださいませ。 まずは声を出して読んでみてくださいますか? 次は、鏡を見ながら、感情を表情と声音にのせて、口に出してみましょう。 無表情と表情豊かに声を出すことの両方を、鏡を見ながらお客様目線で試してみてください。 その重要性に、きっと気づいていただけるはずです。 ◆ ◆ ◆ 次は、一通り相手の話を聞き終えたあとにやるべきことについてお話します。それは適宜、相手の話を要約して確認することが必要です。税理士としての実務に絡む数字や業績面を的確に復唱することはもちろんのこと、相手の感情も適宜、言葉にして確認してあげるようにします。 例えば その点はさぞかし大変だっただろうと拝察します。 よく乗り越えられましたね。素晴らしいです。 など。 相手にはそれだけで、「この税理士にお話してよかった!」と、心の中で大きな安堵感と満足感が生まれるはずです。 私は思います。相手は税務の素人で、皆さんは税務のプロ。どんなに相手のために良かれと思うアドバイスも、相手がそれを良しとしなければ、依頼にはつながらないのではないかと。 何度もお話してきましたが、仕事ができることは当たり前のことなのです。そのたくさんいらっしゃる税理士の中から、どなたに依頼するかは、紹介のあるなしにかかわらず、相談者の自由な感情にかかってきます。 だからこそ、相談に対し、プロとして答えてやっているという姿勢が一瞬見えただけで、相手は心を閉ざしてしまう。そこまで意識をしていただけないでしょうか。 それが相手に満足感を与えることにつながる、皆さんのプロ意識だと私は思いますが、言いすぎでしょうか? ◆ ◆ ◆ 最後にまとめをしておきましょう。 ▷税理士と依頼者の関係であっても、良好な関係を築くためのポイントは、雑談や一般の面談と同じです。相手の感情を逆なですることなく、上手に自己開示をしてもらうためにも、傾聴姿勢が大切です。 ▷上手な相づちが信号=シグナルの役割を果たし、話し手である相手が安心して話ができる環境をつくることができます。 そのためにも、傾聴時、決してやってはいけないことは、無表情で、足を組み、腕を組んで相手の話を聞くような皆さんのお姿です。お客様の立場で想像してみてください。そんな姿は、絶対に相手に見せたくない、ゾッとするような雰囲気ですよね。 傾聴時は、少し前傾姿勢で、背筋をまっすぐに伸ばし、相手の感情に添った柔らかい表情で、首を縦に上手なタイミングで振りながら、丁寧に聞くこと。 こんなイメージトレーニングをぜひ一度はなさってみてくださいませ。 うっとりするほど、丁寧で且つ誠実、そして凛とした税理士の姿を目指しましょう! * * * 次回は、「論理的な話し方・伝え方」についてお話します。 早いものでこの連載も、残り2回となってしまいました。 皆さんのお役に立てるよう引き続き頑張ります! どうぞ次回もお楽しみに。 (続く)
《速報解説》 経団連より「のれんの会計処理に関するアンケート結果の整理」が公表 ~回答企業の多くが償却処理の再導入を支持~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2017(平成29)年2月20日、(一社)日本経済団体連合会 金融・資本市場委員会 企業会計部会は、「のれんの会計処理に関するアンケート結果の整理」(以下「アンケート結果」)を公表した。 経団連は、これまでIFRS・米国基準でも、のれんの償却を復活させるべきと主張してきたが、今回、経団連の会員企業の意見を確認するために、のれんの会計処理(償却処理が必要かどうか)等についてアンケートを実施し、その結果を公表するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 アンケートの送付先と回答 下記のように、回答企業のほとんどが、のれんに関する償却処理の再導入を支持している。 (出所) アンケート結果p8より 2 アンケートの内容 次の事項についてアンケートを行っている。 のれんの償却を支持する理由には、①M&A後の適切な業績把握を可能にする、②企業経営を安定させ、企業経営の適切な規律付けを行うことができる、③のれんの経年での減価を財務諸表に適切に反映することができ、自己創設のれんの計上を回避できることなどがあげられている。 また、のれんの「減損のみ」を支持する理由には、①のれんの消費パターンの見積りが難しい、②のれんの中には、減価しないものも含まれていると考えられ、のれんのすべてを償却するのは理論的ではないことなどがあげられている。 日本基準とIFRSの相違点として、IFRSにおけるのれんの非償却があげられることが多い。 この点について、アンケート結果では、多くの企業がIFRS適用時に、のれんの非償却よる影響を議論したが、IFRS適用による全体的なメリット(国際的な比較可能性の確保等)を踏まえ、IFRS適用の判断を行ったと述べられている(アンケート結果p14)。 (了)
2017年2月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.206を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第40回】 「業績連動給与の損金不算入」 -改正法案における規定の確認- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 平成29年度税制改正に関する「所得税法等の一部を改正する等の法律案」が、2月3日、閣議決定の上、国会に提出された。 改正の概要については、すでに、昨年12月の与党税制改正大綱において明らかにされているところであるが、それが、実際の条文にどのように落とし込まれるのかが確認できるようになったわけである。 法人税法の改正の主要な項目としては、役員給与の損金不算入制度と組織再編税制の2つが挙げられるが、役員給与の損金不算入制度の見直しは、平成28年度税制改正に続いての改正となる。 平成28年度税制改正では、法人税法上、損金算入が認められるいわゆる「利益連動給与」について見直しが行われた。その算定方法は、従来「利益に関する指標」を基礎にすることとされていたところ、「利益の状況を示す指標」を基礎とすることと改められ(法法34①三イ)、一定の「有価証券報告書に記載されるべき事項による調整を加えた指標」(法令69⑧)でもよいことが明らかになった。 今回の改正では、役員給与のうち、これまで利益連動給与として損金算入要件が定められていたものの範囲が拡大され、「業績連動給与」となることを踏まえ、その規定を整理したい。 1 損金不算入制度の対象の拡大 今回の改正では、従来、損金不算入制度(法法34①)の適用対象から除外されていた退職給与及び新株予約権にも、その適用が及ぶこととなっている。 具体的には、従来、 とされていたところ、改正法案では、 と改められており、新株予約権と業績連動給与に該当する退職給与とが、損金不算入制度の対象に追加されている。 ここで、「業績連動給与」という新たなカテゴリーが創設されていることがわかる。 2 業績連動給与とは では、「業績連動給与」とは何か。この点は、同条第5項(現行の第5項は第6項に移動)に定義規定が追加されている。 同項によれば、大別すると次の2つのカテゴリーの給与が「業績連動給与」に該当する。 ① 利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人又は当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として ・算定される額の金銭による給与 ・算定される数の株式による給与 ・算定される数の新株予約権による給与 ②・特定譲渡制限付株式若しくは承継譲渡制限付株式(法法54①)による給与 ・特定新株予約権若しくは承継新株予約権(法法54の2①)による給与 で、無償で取得され、又は消滅する株式又は新株予約権の数が役務の提供期間以外の事由により変動するもの イメージとして敢えて言えば、①は一定の業績が達成された時点で与えられるものであり、②は一定の業績が達成されない場合に没収されるものである。 3 損金算入される業績連動給与 従来、いわゆる利益連動給与として損金算入の対象となるものは、「利益の状況を示す指標を基礎とした」もののみであったが、改正法案では、上記の「業績連動給与」のうち一定の要件を満たすものが、損金算入の対象となることとされている(法法34①三柱書)。 (1) 指標の追加 具体的には、「株式の市場価格の状況を示す指標」と「売上高の状況を示す指標」が追加されている(法法34①三イ)。前者については2で示した第5項にも明示されている指標であり、後者は第5項では「その他の・・・指標」にあたるものと考えられる。 ただし、前者(株式の市場価格の状況を示す指標)については、「当該内国法人又は当該内国法人との間に完全支配関係がある法人の株式の市場価格又はその平均値その他の株式の市場価格に関する指標として政令で定めるものに限る。」との限定が付されており、後者(売上高の状況を示す指標)については、単独で使用することはできず、「利益の状況を示す指標又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるもの」であることが求められている。 また、従来の「利益の状況を示す指標」は「当該事業年度」のものに限られていたが、「職務執行期間開始日以後に終了する事業年度」のものも対象とされ、「株式の市場価格の状況を示す指標」については、「職務執行期間開始日の属する事業年度開始の日以後の所定の期間若しくは職務執行期間開始日以後の所定の日」のもの、「売上高の状況を示す指標」については、「職務執行期間開始日以後に終了する事業年度」のものがそれぞれ対象とされている。 (2) 金銭以外の給与の追加 従来、 (法法34①三イ)とされ、金銭による給与であることが前提とされていたところ、改正法案では、 とされ、「適格株式による給与」と「適格新株予約権による給与」とが追加されている。 しかも、株式又は新株予約権による給与については、「確定した数を・・・限度としているもの」であることが必要である(法法34①三イ(1))。 なお、適格株式は「市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式」であり、適格新株予約権は「その行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権」であり、いずれも「当該内国法人又は関係法人(当該内国法人との間に支配関係がある法人として政令で定める法人(法法34⑦))が発行したものに限」られている(法法34①二ロ・ハ)。 上記第5項の「業績連動給与」の定義との対比で言えば、損金算入される「業績連動給与」の範囲は絞り込まれており、第二のカテゴリーにおいて、新株予約権のみとなっている点に注意が必要である(つまり、業績連動給与の特定譲渡制限付株式と承継譲渡制限付株式は損金算入の余地がない)(法法34①三イ)。 (3) 100%子会社の支給する給与の追加 従来、 ものに限られていたところ、改正法案では、 (法法34①三柱書)ものとされており、100%子会社であってもその親会社が同族会社でなければ、その業績連動給与も損金算入の対象となる。 (了)
〔平成29年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第4回】 (最終回) 「「雇用促進税制の縮減・延長」 「役員給与の損金算入要件の緩和」 「交際費等の損金不算入の特例の延長」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成28年度税制改正における改正事項を中心として、平成29年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第3回】は、「減価償却の見直し」、「少額減価償却資産の特例の延長」、「生産性向上設備投資促進税制の縮減・終了」及び「環境関連投資促進税制の見直しと延長」について解説した。 【第4回】は、「雇用促進税制の縮減・延長」、「役員給与の損金算入要件の緩和」及び「交際費等の損金不算入の特例の延長」について解説する。 1 雇用促進税制の縮減・延長 雇用促進税制とは、青色申告書を提出している法人が、雇用者の数を一定以上増加させた場合に、その増加数に40万円を乗じた金額の税額控除を受けられる制度である。平成28年度税制改正において、この雇用促進税制の見直しが行われている。 具体的な見直しのポイントは次の通りである。 税額控除の対象となる雇用者増加数の範囲を限定 選択適用であった所得拡大促進税制との併用を認める 適用期限を2年(平成30年3月31日以前に開始する事業年度まで)延長 したがって、平成29年3月期決算申告においても、要件を満たす法人には適用がある。 【雇用促進税制の見直し】 (※1) 当期末の雇用者の数から前期末の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を引いた数 (※2) 「同意雇用開発促進地域」として指定された地域内にある事業所における、「無期雇用」かつ「フルタイム雇用」の雇用者の増加数 2 役員給与の損金算入要件の緩和 役員給与が損金に算入されるためには、次の3つのいずれかに該当する必要がある。 【損金算入される役員給与】 ① リストリクテッド・ストック 平成28年度税制改正により、役員の役務提供の対価として一定の要件を満たす譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)を交付する場合は、事前確定の届出が不要とされた。これは、平成28年4月1日以後に交付の決議がなされる譲渡制限付株式について適用される。 リストリクテッド・ストックとは、次のような株式報酬をいう。 一定期間の譲渡制限が付された「現物株式」を報酬として付与 (ストック・オプションのような新株予約権ではない) 譲渡制限期間があるため、中長期の業績向上インセンティブが継続 原則として、譲渡制限が解除された事業年度の損金に算入される。株式を付与した事業年度の損金ではないので注意が必要である。 【リストリクテッド・ストックのイメージ】 ② 利益連動給与の指標の明確化 利益連動給与の算定に用いる指標に、ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)その他の利益に関する一定の指標が含まれることが明確化された。 3 交際費等の損金不算入の特例の延長 平成26年度税制改正後の、税務上の交際費等の課税関係は次の通りである。 【交際費等の課税関係】 (※1) 中小法人だけでなく大法人にも適用 (※2) 接待飲食費の特例との選択適用可能 平成28年3月31日までに開始する事業年度まで、この課税関係が適用されることになっていたが、平成28年度税制改正により2年(平成30年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されている。したがって、平成29年3月期決算申告においても、交際費等の課税関係は平成28年3月期と変更がない。 (連載了)
相続税の実務問答 【第8回】 「銀行預金の分割」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税法には、配偶者が相続等により取得する財産については、その価額が一定の金額に達するまでの部分について相続税額が軽減される措置が設けられています。この軽減措置の対象となる財産は、分割済みのものに限られており、未分割の財産はこの軽減の対象とはなりません。 銀行預金についても、遺産分割の手続きを経て、配偶者が取得することが確定したものについてのみ、相続税額の軽減措置の対象となります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 配偶者の税額軽減の措置 被相続人の配偶者については、その相続税の課税価格(注)のうち、①すべての相続人・受遺者の課税価格の合計額に対して配偶者の法定相続分に相当する額までの部分、又は②1億6,000万円以下の部分には、税額控除により納付すべき税額が算出されないという措置が講じられています(相法19の2①)。 (注) 「相続税の課税価格」とは、取得財産の価額から債務・葬式費用の額を控除し、被相続人からの相続開始前3年以内の贈与金額を加算した額をいいます。 この税額軽減の措置は、①配偶者による財産の取得は、同一世代間の財産移転であるため、比較的近いうちに次の相続が生じて、その際に相続税が課税されることとなること、②長年共同生活を営んできた配偶者に対する配慮、③遺産の維持形成に対する配偶者の貢献等を考慮して設けられたものであると説明されています。 この軽減措置の適用上、配偶者の課税価格の計算の基となる「取得財産」には、遺産分割や遺贈により配偶者が確定的に取得した財産に限られます。したがって、未分割の財産はこの軽減措置の対象とはなりません。 2 銀行預金の分割 共同相続人全員の合意を前提に預貯金等を遺産分割の対象に含めるのが家庭裁判所における実務であり、また、遺産争い等の相続人間のトラブルに巻き込まれることを回避するために、共同相続人全員の同意がない限り払戻しには応じないとするのが一般的な銀行実務です。 また、銀行預金については遺言書や遺産分割協議書に配偶者が取得する旨が明記されていない限り、配偶者の税額軽減措置の対象とはできないとするのが相続税実務に携わる多くの実務家の理解でもあり、課税当局もこうした指導を行ってきたものと思われます。 ところが、銀行預金をはじめとする可分債権は、相続開始とともに各相続人にその相続分に応じて帰属し、遺産分割の対象とはならないというのがこれまでの判例(平成16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁)であり、通説的な民法解釈でしたので、上記の実務との間に齟齬がみられました。 そうしたところ、平成28年12月19日に最高裁判所大法廷は、これまでの解釈を変更し、 と判示しました(以下「平成28年判決」といいます)。 3 平成28年判決の影響 (1) 配偶者の税額軽減措置 平成28年判決を踏まえれば、銀行預金についても遺産分割の対象となることから、遺産中に銀行預金がある場合には、これも遺産分割協議等の手続きを経て特定の相続人に確定的に帰属すると解することになりますが、これはこれまでの相続税実務の採る考え方と一致するものですので、配偶者の税額軽減に係る相続税実務には特に影響はないと考えられます。 (2) 未分割財産の申告 相続税の申告書の提出期限までに、相続財産の一部が未分割である場合には、当該財産は法定相続分で相続したものとして相続税の申告をすることとなっています。 例えば、被相続人の子である甲が2億円の土地を、同じく子である乙が1億円の土地を取得する旨の遺産分割協議が調ったものの、8,000万円の銀行預金については協議書に記載がなかったときに、これまでの民法解釈に従えば、甲乙それぞれが分割協議により取得した土地の価額に銀行預金の2分の1に相当する4,000万円ずつを加算して、すべての遺産の分割が完了しているものとして申告をするのが通説的な民法解釈に沿った処理だったのかもしれません。 しかしながら、相続税実務においては、当該預金は未分割の遺産であるとして、いわゆる穴埋め方式により、分割財産の価額が法定相続分に達していない乙の取得財産の価額に加算し、乙の取得財産の価額を1億8,000万円として、相続税法第55条に定める計算をすることとしていたのではないでしょうか。 今後は、何ら躊躇することなく、これまでの相続税実務に従った申告をすることができます。 (3) 平成28年判決の射程 平成28年判決は、銀行預金に関するものですので、これが可分債権一般についても妥当するのかどうかについては、今後の研究を待つ必要があるでしょうが、相続税の申告においては、上記(1)及び(2)で述べたこれまでの実務を踏襲すればよいのではないかと思います。 4 ご質問の場合 ご質問の場合、銀行預金を含め、すべての財産について分割がされていませんので、配偶者の税額軽減の措置を適用することはできません。 なお、相続税の申告書を提出した後、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議等により配偶者が相続財産を取得することとなった場合には、4ヶ月以内に更正の請求をすることにより、配偶者の税額軽減の措置を適用することができます(相法19の2②、32①一・八)。 (注) 相続税の申告期限後3年以内に遺産分割ができないことについて、相続に関する訴訟が係属しているなどの特別の事情がある場合において、税務署長の承認を受け、一定の期間内に遺産分割が行われたときには、更正の請求を行うことにより配偶者の税額軽減の措置を適用することができます(相法19の2②)。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第2回】 「「買換えの特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定② (店舗兼住宅等を譲渡した場合の計算例)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、店舗兼住宅及びその敷地(いずれの所有期間も10年超で居住期間は10年以上)を、本年の9月に2億円(建物6,000万円、土地1億4,000万円)で譲渡しました。 その建物及び土地の利用状況は、下図のとおりです。 この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 なお、当該譲渡した建物及び土地と一体としてXの居住の用に供されていた他の建物又は土地等の譲渡はありません。 (注) 敷地のうち居住の用に専ら供している部分は居住用の駐車場。 A 居住の用に供している部分に対応する譲渡対価の額が1億円を超えることから、譲渡価額要件を満たさないことになります。 ●○●○解説○●○● 「買換えの特例」は、その譲渡資産の譲渡に係る対価の額が1億円以下であることが、その要件の1つとされています(措法36の2①かっこ書)。 そして、この譲渡に係る対価の額が1億円を超えるかどうかについては、譲渡資産が店舗兼住宅等の用に供されている場合は、その居住の用に供している部分に対応する譲渡価額により判定し、この場合の譲渡対価の計算については、次の算式により行うこととされています(措通36の2-6の2(譲渡に係る対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)(2))。 ▷算式 (イ) 当該家屋のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (ロ) 当該土地等のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 本事例における建物及び土地の利用状況並びに譲渡価額を上記の算式に当てはめると、次のとおり、居住の用に供している部分に対応する譲渡に係る対価の額は、101,000千円(24,000千円+77,000千円)となり、譲渡価額要件を満たさず、特例を受けることができません。 (イ) 当該家屋のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (ロ) 当該土地等のうち居住の用に供している部分の譲渡対価の計算 (了)