金融・投資商品の税務Q&A 【Q24】 「外国法人発行の債券の利子に外国源泉税が課される場合の 外国税額控除の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 利子の課税方法による外国税額控除の適用の有無 所得税法上、居住者たる個人が、国外において発行された社債に係る利子で国外において支払われるものを、国内の支払の取扱者を通じて支払を受ける場合は、利子に対して20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率による源泉徴収が日本で行われます(水際源泉徴収)。 源泉徴収の対象となる金額は、特定公社債の場合で利子の支払の際に外国所得税が課される場合は、外国所得税控除後の利子の金額とされます。 個人投資家は、受け取った利子について、以下のいずれかの処理が可能です。 ① 申告不要制度 上記の源泉徴収(20.315%)のみで課税関係を終了することができます。 この場合、利子について課された外国所得税について外国税額控除の適用を受けることはできません。 ② 申告分離課税 特定公社債の利子について申告を行う場合、上場株式等に係る配当所得等として、申告分離課税の対象となります。この場合、利子の金額(外国所得税控除前のグロス金額)に対し20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率が適用されます。 利子について課された外国所得税は、外国税額控除の対象とすることができます。 2 外国税額控除の方法 個人の場合、その年において納付する外国所得税額があるときは、所得税額(配当控除等の税額控除後)から、次の算式によって計算した控除限度額を限度として、控除することができます。 外国税額控除の規定を適用する場合の外国所得税の額は、源泉徴収により納付することとなる利子、配当等に係る外国所得税の場合、その利子、配当等の額の換算に適用する外国為替の売買相場により換算した金額となります(【Q5】参照)。 外国税額控除を受けるためには、確定申告書等に控除を受ける金額及びその計算に関する明細を記載した明細書、外国所得税を課されたことを証する書類及び国外所得総額の計算に関する明細書などを添付する必要があります。 外国税額控除は所得税(国税)だけでなく住民税(地方税)においても規定されており、国税から引ききれない分は地方税から控除されます。 また、外国所得税額がその年の控除限度額(国税及び地方税)を超える場合、または、外国所得税額がその年の控除限度額に満たない場合には、一定の手続要件のもと、過去3年間の繰越控除限度額や繰越外国所得税額を利用することができます。 3 具体的計算 利息金額:100ドル×100=10,000円 外国所得税:10,000×10%=1,000円 国内源泉徴収税額:(10,000-1,000)×20.315%=1,828円 申告分離課税の対象となる利息金額:10,000円 外国税額控除の対象となる金額:1,000円 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第42回】 「債務の保証に関する契約書(連帯保証承諾書)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社はクレジット会社です。この文書は、連帯保証人が購入者の債務を連帯して保証することを、クレジット会社に承諾書として提出するものですが、課税文書に該当しますか。 【事例】 連帯保証人がクレジット会社に対して購入者の債務を購入者と連帯して保証することを承諾する文書であり、第13号文書(債務の保証に関する契約書)に該当する。 [検討1] 債務の保証とは 「債務の保証」とは、主たる債務者がその債務を履行しない場合に保証人がこれを履行することを債権者に対し約することをいう(基通別表1第13号文書1)。したがって、第三者が債務者に対してその債務の保証を行うことを約する場合(保証委託契約書等)は、委任に関する契約書に該当し、課税文書には該当しない(基通別表1第13号文書2)。 また、「債務の保証」に類似したものとして、他人の受けた不測の損害を補てんする損害担保契約がある。この場合、債務保証契約は主たる債務(他人の債務)が存在していることを前提にしているが、損害担保契約は、主たる債務が存在しないため、債務の保証には該当しない(基通別表1第13号文書1)。 [検討2] 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書 主たる債務の契約書に債務保証契約の成立を併記した場合は、その債務の契約書が課税文書に該当しない場合であっても第13号文書とはならない。 第13号文書に該当する場合は以下のとおり。 (1) 保証契約のみが単独で契約される場合 (2) 主たる債務の契約書に併記した債務の保証契約を変更又は補充する契約書 (3) 契約の申込文書に併記した債務の保証契約書 【主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書の例】 保証人が保証債務を承諾する文書であることから、債務の保証に関する契約書に該当するが、主たる債務である賃料の契約の建物賃貸借契約書に併記されている文書であるため、第13号文書には該当しない。 ▷ まとめ (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第5回】 「被災資産の復旧費用・評価損等、災害損失欠損金の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 固定資産の復旧費用 ① 資本的支出と修繕費の判定 法人が固定資産の復旧作業を行う場合、これに要した費用を資本的支出として資産計上するのか、修繕費として損金算入するのかを判定する必要がある。このとき、どちらに該当するかは通常、次の通りに判定を行う(法基通7-8-1、7-8-2)。 ② 被災時の特例 災害により被害を受けた固定資産(災害による評価損(法法33②)を計上したものは除く)の復旧を行った場合、その費用に係る資本的支出と修繕費の判定については、次の通りとなる(法基通7-8-6)。 (1) 被災資産の原状回復のために支出した費用は、修繕費に該当する。 (2) 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のための費用について、法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる。 (3) 被災資産について支出した費用(上記(1)又は(2)に該当する費用を除く)の額のうちに、資本的支出か修繕費かが明らかでないものがある場合で、法人がその30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出として経理しているときは、これが認められる。 被災した鉄道線路、電線路、ガス管、水道管、コンベアなどの一部を取り替えたような場合は、被災資産の被災前の効用を維持するものと考えられるため、法人が修繕費として経理したときは、これが認められる(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q6)。 ただし、被災資産の復旧に代えて新たな資産を取得する場合、その取得のために支出した金額は、資産の取得価額に含めることになる(法基通7-8-6(注)1)。 ③ 被災資産の耐震性を高めるための補強工事 二次災害を避けるなどの目的で、被災資産の耐震性を高めるために補強工事を行う場合は、同規模の地震や余震が今後発生することによる当該資産の崩壊等を防止するなど、被災前の効用を維持するためのものが多いと考えられる。したがって、これに係る費用を法人が修繕費として経理しているときは、これが認められる(法基通7-8-6(2)、「災害FAQ」Q5)。 ただし、上記の取扱いはあくまで被災資産に対して補強工事を行った場合に限られる。被災資産でない固定資産に対して耐震性を高める補強工事を行った場合は、原則として資本的支出に該当する点に注意が必要である。 ④ 製造設備等の修繕費用の原価外処理 被災した製造設備等の修繕費用等について、適正な原価計算に基づいて原価外処理(費用処理)をしている場合は、税務上もこの処理が認められる(「災害FAQ」Q12)。 2 資産の滅失損失等 ① 被災資産の滅失損失又は除却損失 法人が所有する棚卸資産や固定資産が被災して滅失又は損壊した場合、それによる損失は損金に算入される。また、被災により固定資産の一部が滅失又は損壊したことにより、当該資産を除却した場合の除却損も損金に算入される。 ② 有姿除却 固定資産が被災したことにより除却の意思決定を行ったものの、事業年度末時点で実際の除却処理が完了していない場合がある。本来は除却処理が完了して初めて除却損が損金に算入されるが、次のような固定資産については「有姿除却」として、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金に算入できる(法基通7-7-2)。 ▷ 使用を廃止し、今後通常の方法による事業供用の可能性がないと認められるもの ▷ 特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来の使用可能性のほとんどないことが、その後の状況等からみて明らかなもの 3 資産の評価損 法人が所有する棚卸資産や固定資産が災害により著しく損傷し、事業年度末における当該資産の評価額が帳簿価額より下落することとなった場合は、当該下落部分を評価損として損金経理することにより、損金に算入することができる(法法33②、法令68①)。 4 災害損失欠損金 青色申告書を提出していない事業年度における欠損金額のうちに、災害損失欠損金額がある場合は、9年間の繰越控除が認められる(法法58①)。青色欠損金の繰越控除制度と同様、中小法人等以外の法人については、控除限度額が設けられている(法法58①但書)。 災害損失欠損金額の発生事業年度において青色申告書を提出していることは要求されないが、その事業年度から連続して確定申告書(青色申告書である必要はない)を提出している必要がある(法法58⑤)。 災害損失欠損金額とは、震災、風水害、火災、冷害、噴火等の災害によって、棚卸資産、固定資産及び特定の繰延資産について発生した次のような損失をいう(法令114・115・116)。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第23回】 「岩瀬事件」 ~最決平成15年6月13日、東京高判平成11年6月21日(高等裁判所民事判例集52巻26頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第29回】 「課税減免規定の限定解釈」 公認会計士 佐藤 信祐 本稿では、課税減免規定の限定解釈について解説する。ヤフー・IDCF事件最高裁判決では、「(組織再編税制)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」が租税回避に該当すると判示されたため、理解しておくべき内容であると考えられる。 1 課税減免規定の限定解釈 課税減免規定の限定解釈とは、外国税額控除余裕枠を利用することを目的とした住友銀行(現三井住友銀行)、大和銀行(現りそな銀行)及び三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)の3銀行が行った海外取引における否認事例により明らかになった否認手法である。 具体的には、課税減免効果を得るためだけに制度の趣旨から逸脱して濫用的な取引を行った場合には、当該課税減免規定の適用を認めないという否認手法である。当初は、課税減免規定は政策目的に限られると解されていた(※1)。しかし、ヤフー・IDCF事件では政策目的なのかどうかは争われておらず、とりわけIDCF事件で否認された資産調整勘定の償却が政策目的であろうはずがないため、政策目的に限られないと解することも可能かもしれない。 (※1) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号299頁 さらに、清水一夫教授は、課税減免規定の限定解釈を適用するための要件として、①本件取引に当該税法規定を適用することが、その立法趣旨を著しく逸脱する結果となることの評価根拠事実、②取引自体に経済的実質が認められないこと、③濫用の意図(租税回避目的以外に、本件取引を行った目的が存しないこと)を挙げられていた(※2)。しかし、ヤフー・IDCF事件は、控訴審はともかくとして、第一審では、経済合理性や事業目的が十分に認められるかどうかについての裁判所の判断がなされていないため、包括的租税回避防止規定だけでなく、課税減免規定の限定解釈についても、清水一夫教授が述べられた要件よりも拡大される可能性もあり得る。 (※2) 清水一夫前掲(※1)314頁 なお、清水教授は、「課税減免規定の『限定解釈』による法的効果は、当該規定の不適用という効果にとどまることになるが、行為計算否認の場合には、課税庁の認めるところにより、納税者の行為を引き直す(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)ことが可能であり、法的効果としても強力である」と述べられていた(※3)。すなわち、IDCF事件に当てはめると、本来であれば適格組織再編になるところを非適格組織再編にすることにより資産調整勘定を認識していることから、包括的租税回避防止規定を適用するのであれば、適格組織再編として資産調整勘定の認識を認めず、課税減免規定の限定解釈を適用するのであれば、非適格組織再編であることを認めながらも、資産調整勘定の損金算入を認めないということになる。ただし、包括的租税回避防止規定も、引き直し計算ではなく、繰越欠損金や資産調整勘定を損金の額に算入することを認めないという適用もあり得るのかもしれない。 (※3) 清水一夫前掲(※1)296頁 そのため、租税回避の研究の中では、課税減免規定の限定解釈の考え方を、同族会社等の行為計算の否認、包括的租税回避防止規定にも適用することができるのかを検討する必要がある。 2 制度の濫用論 今村隆教授は、上述の外国税額控除事件について、 とされている(※4)。すなわち、包括的租税回避防止規定が適用される場合を制度の濫用と捉えていることが分かる。 (※4) 今村隆『租税回避と濫用法理』217頁(大蔵財務協会、平成27年) さらに、ヤフー・IDCF事件の第一審判決が、包括的租税回避防止規定が適用される場合として、(ⅰ)取引が経済不合理な場合だけでなく、(ⅱ)組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反する場合も含まれることとした点については、①我が国の組織再編税制の趣旨が株主にとっての投資の継続性だけでなく、移転資産に対する支配の継続性もあること、②法人税法132条の2の立法趣旨を上記(ⅰ)の場合にだけ限定するのでは、あえて立法する意味がないこと、③組織再編成には、欠損金のある法人を売買の対象とするといったような場合を除いて、何かしらの事業目的があることが通常であることを理由として、上記(ⅱ)を含めることは妥当であるとされた(※5)。 (※5) 今村前掲(※4)220頁 しかし、①については、ヤフー事件の控訴審で修正されている(※6)。②については、同族会社等の行為計算の否認が同族会社に限られていることから、意味がないわけではない。③についても、組織再編成全体ではなく、その手続きについても合理性がある場合についてまで否認する論拠にはなり得ない。 (※6) 佐藤信祐「ヤフー事件高裁判決からみる実務上の留意点」旬刊経理情報1404号37-38頁(平成27年) また、今村教授は、 とされている(※7)。すなわち、税制適格要件、みなし共同事業要件の制度趣旨に即して濫用か否かが判断すべきであるという主張と思われるが、この点についての異論はない(※8)。 (※7) 今村前掲(※4)221頁 (※8) 今村教授の説明だと、IDCF事件について、税制適格要件は定義規定なので、趣旨・目的を判断するのは資産調整勘定の規定であるとしているが(今村前掲(※4)222頁)、実務的には同じことである。 なお、今村教授は、同族会社等の行為計算の否認について、経済合理性基準が確立していることから、今さら、濫用基準に変更することには問題があるとされている(※9)。そうであるならば、同族会社等の行為計算の否認には、ヤフー・IDCF事件の射程は及ばないということになる。この点については、異なる考え方もあり得よう。 (※9) 今村前掲(※4)242頁 また、ヤフー・IDCF事件も最高裁判決が公表されているため、いずれこの内容についても検討を行いたい。 3 次回以降の解説 本連載ではここまで、租税回避の定義を明らかにするとともに、どのような場合であれば、包括的租税回避防止規定が適用される可能性が少ないのかという分析を行うことを目的に解説を行ってきた。 学術的な視野から分析するのであれば、【第19回】で宣言した通り、ここで租税回避の定義を検討するところであるが、やはり、個別の事案に当てはめたうえで租税回避の分析をしてからの方が、より実務的な視野からの分析が可能になると思われる。 そのため、次回以降では、拙著『組織再編における包括的租税回避防止規定』(中央経済社、平成21年)の第2章から第8章で解説した内容について、グループ法人税制適用後の観点から、再度、検討を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【97】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その25:「政令委任と租税法律主義②」) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 ② 細田商店(ホソダ)事件 第一審 広島地裁昭和41年10月31日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 広島高裁昭和45年6月17日(税務訴訟資料59号1001頁) これも、残念ながら、裁判所ホームページでは公開されていない。そこで事案の概略をここで紹介しながら進めていく。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、事実上使用人としての給与を支給している名目的役員(ただしその名称は専務取締役・常務取締役である)に対する賞与が、使用人に対するものとして損金に算入しえるかが争われたものである。 前事案で示したように、当時の法人税法施行規則第10条の3第6項第1号によれば、専務取締役、常務取締役に対して支給される賞与は使用人賞与とは認められず損金に算入し得ない旨定めてあった。 (A) 第一審の判断 このように、当該政令の規定内容が委任の限度を逸脱していると判示し、違憲無効としたのであった。 (B) 控訴審の判断 前事案の控訴審と同様、原審判決が規則10条の3第6項4号は租税法律主義に反して適用できないとしたのに対し、この控訴審においても「右規定は、一般に専務取締役や常務取締役は定款等の定めるところにより会社の常務に属する事項につき業務執行の権限を付与された者であることに着目した規定」であり「右両名が前記施行規則や定款が予定しているような専務取締役又は常務取締役に該当するものとは認められない」と、当該規定がすべての場合に租税法律主義に反するとする判断を回避しながらも、納税者の主張を容れ、原審同様に、同規則第10条の3第6項第1号の適用を排除している。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 ③ 日通モータース事件 第一審 横浜地裁昭和44年11月6日(行集17巻10号1232頁) 控訴審 東京高裁昭和46年9月7日(税務訴訟資料63号460頁) この事案の第一審は、裁判所HPで紹介されている。是非、入手の上、ご一読頂きたい。 いくつかの争点がある事案ではあるが、政令委任の限界に関しては、使用人としての職務を常時行う名目的な監査役に対して支給された賞与の損金算入の是非が争われている。 (A) 第一審の判断 これらの事実認定に基づき、以下の判断を示している。 この判決においても、上記事案と同様、政令の規定内容を「法律の委任の範囲を超えるもの」と判示した。 (B) 控訴審の判断 この判決においては、明確に「租税法律主義の原則にかんがみると、法律はその規定自体から委任の目的、内容、程度等が明らかにされている場合にかぎり命令に委任することが許される」ことから、「実質的には法律の規定と異なる結果を招来する定めをするのは、租税法律主義の原則に照らし許されない」と判示し、原審の判断を支持した。 なおこの事案も、この控訴審で確定している。 (続く)
ストック・オプション会計を学ぶ 【第5回】 「権利確定日後の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回の「権利確定日以前の会計処理」に続き、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)にしたがって、権利確定日後のストック・オプションの会計処理の概要について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 権利確定日後の会計処理 1 概要 ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額(ストック・オプション会計基準4項)のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(自己株式を処分する場合には、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)にしたがう。ストック・オプション会計基準8項)。 権利行使に関する会計処理を仕訳で示すと次のイメージになる。 2 数値例 「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号)の[設例1] 基本設例では、次の数値例をもって会計処理が示されている。 「権利確定日以前の会計処理」(X4年3月期からX6年3月期(権利確定日まで))については、【第4回】で示しているので、今回は、ストック・オプションの行使及び失効に関する会計処理を示す。 (了)
ファーストステップ 管理会計 【第6回】 「ABCの考え方」 ~カレーパンはオーブンの償却費を負担するべきか~ 〔原価管理編⑤〕 公認会計士 石王丸 香菜子 【第5回】では、標準原価計算による製造間接費の管理に限界があることを説明しました。 これを克服するべく考案されたのが、「活動基準原価計算(Activity Based Costing)」です。頭文字を取ってABCと呼ばれます。 ◆食パンとカレーパン、それぞれの言い分 あるベーカリーで、食パンとカレーパンを作っているとします。 ベーカリーでの製造間接費には、オーブンの減価償却費や、揚げ油代などの補助材料費、その他さまざまな費用が含まれています。これらをひとまとめにして、作業時間など1つの配賦基準を用いて、半ば強引に、食パンとカレーパンに配賦しているのが、従来の原価計算です。 ここで食パンとカレーパンの気持ちになってみると、どう思うでしょうか。 食パンとしては「自分は揚げられていないのに、油代を負担するのはおかしい!」と思うでしょうし、カレーパンとしても「自分は焼かれていないのだから、オーブンの減価償却費は負担したくない!」と主張しそうですね。 ◆従来の原価計算の考え方 【第3回】で解説したように、従来の原価計算では、種々雑多な製造間接費を1つにまとめ、配賦基準を用いて製品に配賦します。概ね以下のような構造です(単純化のため、部門別計算を省略しています)。 部門別計算を行えば部門ごとの配賦基準を用いるものの、本質的には、“費用のるつぼ”である製造間接費をまとめて、1つの配賦基準で製品に配賦することに変わりありません。 ◆ABCの考え方 これに対して、製造間接費をひとまとめにせずに、個々の費用を、それぞれの性質に応じた基準を用いて細かく集計するのがABCの考え方です。 前提として、製品を製造するためにどのような活動(activity)があるのかを把握します。例えば、「開発」・「設計」・「調達」・「製造」・「検査」などです。 そして、個々の費用(resource)を、その性質に応じた基準を用いて、それぞれの活動に集計します。例えば、機械の減価償却費ならば、開発・製造・検査などそれぞれの活動のために稼働した時間を基準として、各活動に集計します。 次に、各活動に集計した費用を、その性質に応じた基準を用いて、各製品(cost object)に集計します。例えば、「開発」という活動にかかった費用ならば、各製品の開発に要した時間を基準として、各製品に集計するのです。 独特の言い回しが難しく感じられますが、各製品が利用した費用を正確に負担するよう、なるべく細かく集計するということが、ABCの発想です。 ◆食パンとカレーパンの例で考える あるベーカリーでは、定番の食パンと、月替わりする季節のカレーパンを製造しています。ある月の製造間接費に関するデータは以下のようでした。 従来の原価計算の考え方で、直接作業時間を配賦基準として、製造間接費を食パンとカレーパンに配賦するとします。 ◆ABCで計算する 次に、ABCで計算してみましょう。 ベーカリーでの活動は、開発・調達・仕込み・焼成(しょうせい)・仕上げの5つとします。 製造間接費を各活動に集計した結果と、食パンとカレーパンの各活動の利用度合い(すなわち、食パンとカレーパンへの集計基準)は、以下の通りでした。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 月替わりカレーパンは、開発や調達に手間がかかり、油で揚げるので仕上げ回数も多いのが特徴です。食パンはシンプルな定番商品なので、開発や調達には手間がかかりませんが、仕込みや焼成に時間がかかります。 例えば、「開発」という活動にかかった費用は、 と集計できます。 他の活動についても同様に集計すると、以下のようになります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ◆違いはなぜ生じたのか 従来の原価計算によれば、食パンとカレーパンの1個当たり製造間接費はいずれも100円でしたが、ABCによれば、カレーパンのほうが高くなっていますね。 カレーパンは、オーブンこそ利用しないものの、開発や調達・仕上げのための手間が多くかかることが、ABCによる計算に表れています。従来の原価計算では、製造間接費をすべてまとめて、直接作業時間という1つの基準で配賦していたために、この点が明確にならなかったといえます。 このように、伝統的な原価計算では、標準的な大量生産品が、手間のかかる少量生産品の原価の一部を肩代わりするような計算結果になります。これに対してABCでは、各製品が利用した原価を正確に負担することになります。 ◆ABCを利用してコストを管理する ABCの考え方に基づいて、各活動に集計された間接費の情報をもとに間接費を管理するのがABM(Activity Based Management)です。 標準原価計算による定型的な差異分析よりも、費用がどのような活動によりなぜ発生したのかという点に着目した、実効性ある管理を行うことができます。 例えば、「調達」という活動にかかった費用が多かった場合には、発注回数を減らしたり、物流を見直して配送コストを抑えたりするといった行動をとることができます。 ◆ABCは万能なのか このように、ABCは、合理的で正確な計算ができ、また、サービス業にも応用できる手法です。そのため、少し前まではABCがもてはやされていました。 しかし、ABCを継続利用する企業は、実は多数派ではありません。 これには、次のような理由が考えられます。 ◆データの収集に手間がかかる まず、ABCのためのデータを収集すること自体に、多大な手間がかかります。ベーカリーの例では、開発時間や発注回数などを把握する必要があります。 こうしたデータの収集は、現場で作業する人にとって大きな負担になります。現場の協力が得られないと、精度の低いデータしか集まりません。計算方法が緻密でも、そもそものデータが誤っていれば、精度の低い結果しか得られないのです。 このような面を考えると、ABCを継続利用するのはハードルが高いといえます。「製造間接費の管理」という面だけならば、単発的にABMを行えば足りるということも多いようです。 ◆合理的な計算がすべてではない また、「合理的な計算が最良であるとは限らない」という理由も挙げられます。 ベーカリーの例では、ABCによると、カレーパンの原価が多く計算されました。だからと言って、カレーパンの製造をやめるのがよいでしょうか。いろいろな商品を取りそろえているからこそ、お客が集まるという面もありますね。 つまり、現実には、儲かる製品や、あまり儲からないけれども集客効果がある製品などがあり、それぞれが助け合って、全体として総費用を回収していることも多いでしょう。 ABCの計算は確かに合理的ですが、合理的な計算がすべて、とは言いきれないのです。 ◆適度なバランスで、自社に合った原価管理を これまで、原価管理について、伝統的方法やABCを解説してきましたが、どの方法にも長所と短所があり、すべての企業に当てはまる唯一の方法はありません。 いろいろな考え方の基礎を理解したうえで、バランス感覚を持って、自社に合った管理を行うことが大切です。 * * * * 次回からは〔利益管理編〕として、原価管理よりもひとつ上の視点から、企業の利益管理について考えていきましょう。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第130回】 連結会計⑬ 「持分法適用会社における包括利益の取り込み」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 1 X3年3月決算時 (1) S社のその他の包括利益の取込 (※1) S社のその他有価証券評価差額金の当期発生額150×20%=30 連結損益及び包括利益計算書(X2/4/1からX3/3/31) (2) S社のその他の包括利益累計額のP社持分相当分の貸借対照表への計上 連結貸借対照表(抜粋) (※2) 1,100百万円(P社のその他有価証券評価差額金(その他の包括利益累計額)(X3年3月31日))+190百万円(持分法適用日以降のS社のその他有価証券評価差額金(その他の包括利益累計額)のうちP社の持分相当額(X3年3月31日))=1,290百万円 〈会計処理の解説〉 持分法適用会社がその他有価証券評価差額金などのその他の包括利益累計額を計上している場合においても、投資の日(持分法適用日)以降における持分法適用会社のその他の包括利益累計額のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して投資の額を増額又は減額する必要がありますが、当該増減額は連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書上のその他の包括利益においては、持分法を適用する被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は、「持分法適用会社に対する持分相当額」等の当該項目を示す科目をもって一括して区分表示します(持分法実務指針第10-2項)。 これは、持分法の適用における被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額については、IFRSでは一括して区分表示することを求めていることとの整合性を測るためと考えられます(企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」第32項)。 ただし、連結貸借対照表上のその他の包括利益累計額においては、従来の取扱いに従い、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整累計額等の各内訳項目に当該持分法相当額を含めて表示します(持分法実務指針第10-2項)。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第3回】 「家族信託と遺言の違い」 弁護士 荒木 俊和 1 はじめに 財産を保有していた本人(被相続人)が死亡した際に次の代への財産の引き継ぎ方を指定する制度として、「遺言」と同様に「家族信託」が挙げられるが、本稿では家族信託と遺言とを比較し、その異同について解説する。 2 遺言代用機能を持つ家族信託 (1) 遺言代用機能 家族信託には、信託された財産についての遺言代用機能があるとされている。 「遺言代用機能」とは、委託者が自分の考えで、自分の死後において財産又は財産的利益を誰にどのように分配するかを自由に決められる機能であり、遺言と同様に、遺産分割協議を経ないで財産を承継する者を指定することができる機能である。 (2) 信託契約における定め方 家族信託において使用する信託契約には、委託者、受託者、受益者、対象となる財産、信託の期間等の他に、受益者の死亡時の受益権の取得者の定め、信託の終了原因及び帰属権利者(信託が終了した際に信託財産のうち残っている財産(残余財産)を取得する者)が定められるのが通常である。 これは家族信託が財産を保有していた本人(多くの場合は委託者兼受益者)の死亡時を含めた資産承継について定められることから、当然、受益者の死亡時に信託を終了させるのかさせないのか、信託を終了するのであれば残余財産は誰が受け取るのか、信託を終了させないのであれば次の受益者を誰とするのかを予め定めておく必要があるためである。 当初受益者が死亡した場合に信託を終了させないとき、受益者が受託者に対して信託財産から得られる利益を求める権利である受益権が財産として見られ、新たに受益権を取得する者(二次受益者)は、あたかも当初受益者から受益権を相続したかのような状態となる。 また、受益者が死亡した場合に信託を終了させるとき、残余財産を取得する帰属権利者は、同様にあたかも当初受益者から残余財産を相続したかのような状態となる。 このように、家族信託では信託契約において、二次受益者の定め又は帰属権利者の定めを置くことにより、相続における遺言と同様に、財産を受け取る者を決めておくことができる。 3 二次相続対策の手法 (1) 二次相続とは また、家族信託では二次相続対策ができるという点で、遺言よりも優れた機能を持つとされている。「二次相続」とは、財産を持つ者の死亡時に財産を引き継いだ者が死亡した際の相続のことをいう。 例えば、夫が死亡したことにより自宅を引き継いだ妻が死亡した場合、夫が自宅を保有していた状態から見ると2回目の相続となる妻の死亡時の相続がこれにあたる。 (2) 遺言による二次相続対策の可否 このような二次相続に関し、元の財産を持つ者が遺言によって承継方法を指定できないかが問題となったケースがある。 不動産を所有していた夫が妻に対してこれを遺贈するとともに、妻が死亡した際には夫の兄弟らに相続させる旨の遺言(ただし、遺言書の実際の内容は多岐にわたる)が有効かが争われた事案において、最高裁判所はこの遺言を無効とした福岡高等裁判所の決定を破棄して、遺言書全体からより詳細に夫の遺言における真意について審理すべきとして差し戻した(最判昭和58年3月18日集民138号277頁)。 この最高裁判決は、いわゆる後継ぎ遺贈(遺言によって第一次的に財産を承継した者(一次受遺者)の財産が、ある条件が成就し又はある期限が到来したときから第二次的に財産を承継する者(二次受遺者)に移転する型の遺贈)について一般的に有効としたのか、無効としたのかは明確ではないが、その後の学説において議論を招いた。 学説の中には次のような理由により、その有効性に否定的な見解も多い。 このため、現段階においては、後の無用な紛争を避けるためには遺言による二次相続対策は避けたほうがよいと考えられる。 (3) 受益者連続型家族信託を用いた二次相続対策 一方で、家族信託においては、信託法で死亡を原因とする連続した受益者を2人以上指定するようないわゆる受益者連続型信託についての規定が設けられていることから(第91条)、明示的に死亡による二次的な受益権の取得が認められているといえる。 また、当初受益者の死亡時においては二次受益者が受益権を取得するとしたうえで、二次受益者の死亡時には信託を終了させ、帰属権利者に残余財産を取得させることも可能である。 また、実務的にも法的安定性が疑問視される後継ぎ遺贈型の遺言に比べて、受託者が財産の管理を継続するという点において安定した仕組みであるといえる。 (4) 二次相続対策の事例 実際に家族信託を用いた二次相続対策の事例としては、以下のものが挙げられる。 (ア) 前妻との間に子がいる場合 前妻との間に実子がいるが、現在は自宅に後妻と同居している夫が、自らの死後も後妻を自宅に住まわせたいが、自分と後妻が死亡した後は子に自宅を引き継がせたいような場合、自らを委託者兼一次受益者、後妻を二次受益者、子を受託者兼帰属権利者とした家族信託を設定することが考えられる。 (イ) 子がいない夫婦の場合 類似した事例であるが、財産を持つ夫が自らの死後は妻のために財産を使わせたいが、妻の死後には妻の親族に財産を渡したくないという場合、自らの甥などを受託者として同様のスキームを作り、帰属権利者も甥にしておくことで妻の親族への財産の流出を防ぐことができる。 (ウ) 子の中に知的障害者がいる場合 子が財産管理の難しい知的障害者であり、自分の死後はその子のために財産を使ってほしいが、最終的にその子に取得させられないような場合で、その弟が健常者であるようなとき、自らを委託者兼一次受益者、兄を二次受益者、弟を受託者兼帰属権利者として家族信託を設定するようなことが考えられる。 4 その他の家族信託と遺言の違い (1) 要式性 遺言には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言という3種類があるが、それぞれ法律(民法)で決まった方法で作成しなければならないという決まりがあるのに対し、家族信託は基本的に委託者と受託者との間の契約であり、契約が成立すれば足りるため、この形で信託契約書を作らなければならない、というものはない。 (2) 網羅性 遺言は基本的に被相続人の全財産についてその帰趨を決定しておくものであるのに対し、家族信託は全財産を対象とする必要はなく、むしろ家族信託に適する財産についてのみ設定するものであるという性質がある。 (3) 継続性 遺言は被相続人の死亡時にどのように財産を承継させるかという一時点のことを決めておくに過ぎないものであるが、家族信託は委託者の死亡に関わらず信託設定時から信託終了時までの継続的な財産管理及び処分に関して決めておくことができるため、遺言では対応できない認知症の問題や死後の財産管理、前述の二次相続の問題にまで幅広く対応できることが特徴的といえる。 (了)