公開日: 2016/07/14 (掲載号:No.177)
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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔会計面のアドバイス〕 【第1回】「災害が会計制度に及ぼす影響」

筆者: 篠藤 敦子

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔会計面のアドバイス〕

【第1回】

「災害が会計制度に及ぼす影響」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

1 被災した法人の会計

法人が被災した場合の会計処理や表示等については、日本公認会計士協会より「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」(平成7年3月28日付 震災対策本部)及び「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」(平成23年3月30日付 会長通牒)が公表されている。

(※) については日本公認会計士協会のホームページ上で閲覧可能。

これら2つの文書には、法人が被災した場合の会計処理や表示等に関する基本的な考え方が示されている。被災時に適用する特別な会計基準は存在しないため、災害発生時には、上記文書を参考にすることが実務的な対応になると考えられる。

 

2 被災した事業年度の対応

災害は、法人の決算数値に対して広範囲に影響を及ぼし、その影響額も大きい。

被災した事業年度において、災害が会計に及ぼす影響と、考えられる対応をまとめると次のとおりである。

◆ 災害が会計に及ぼす影響 ◆

① 固定資産の滅失損失等、通常の事業年度では発生しない費用・損失が広範囲かつ多額に発生する

▷対応

・費用・損失の洗い出し

・費用・損失の会計処理と表示の検討

② 未確定の費用・損失、固定資産の減損損失、棚卸資産の評価損等、見積りを伴う会計処理が多くなる

▷対応

・合理的な見積りを行うためのデータ収集

・見積り方法の検討

・注記の検討

③ 将来の計画や見通しを修正する必要がある

▷対応

・将来の収益力や将来キャッシュ・フロー等の見直し

・繰延税金資産の回収可能性や固定資産の減損判定等について、将来数値の見直しの影響を検討

④ 適時開示や臨時報告書の提出、決算スケジュールの見直しが必要となる

▷対応

・必要な開示(臨時報告書、適時開示)の確認

・決算スケジュール(決算発表、株主総会、有価証券報告書の提出等)の見直し

なお、連結子会社がある場合には、上記項目について連結ベースでの影響と対応を検討することも必要となる。

 

3 その後の事業年度の対応

見積りによって計上された費用・損失について、翌事業年度以降に見積りを変更する場合や、見積額と確定額との間に差額が発生した場合には、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の適用の検討が必要となる。

過去の見積りの方法が、その見積り時点で入手可能な情報に基づく最善のものであったかどうかを検討し、同会計基準に規定されている会計処理を行うことになる。

見積りの変更理由 会計処理 過去の見積り誤りに起因する場合 過去の誤謬の訂正として、修正再表示を行う。 過去の時点では最善の方法で見積りが行われており、その後の状況の変化により見積りを変更したり、見積額と実績額との差額が発生した場合 過去の誤謬には該当しないため、過去に遡らず、見積りを変更(確定額が判明)した事業年度以降の財務諸表において差額を認識する。

*  *  *

次回から7回にわたって、被災した法人の会計に係る具体的な対応について、重要性が高い項目をピックアップして解説を行う。

各回で取り上げる項目(予定)は次のとおりである。

〔会計面のアドバイス〕

  • 【第1回】 災害が会計制度に及ぼす影響 (本稿)
  • 【第2回】 費用・損失の計上①
  • 【第3回】 費用・損失の計上②
  • 【第4回】 棚卸資産の処理
  • 【第5回】 固定資産の処理
  • 【第6回】 繰延税金資産の回収可能性への影響
  • 【第7回】 過去の災害時における会計・開示
  • 【第8回】 後発事象

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

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被災したクライアント企業への

実務支援のポイント

〔会計面のアドバイス〕

【第1回】

「災害が会計制度に及ぼす影響」

 

公認会計士・税理士 篠藤 敦子

 

1 被災した法人の会計

法人が被災した場合の会計処理や表示等については、日本公認会計士協会より「阪神・淡路大震災に係る災害損失の会計処理及び表示について」(平成7年3月28日付 震災対策本部)及び「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」(平成23年3月30日付 会長通牒)が公表されている。

(※) については日本公認会計士協会のホームページ上で閲覧可能。

これら2つの文書には、法人が被災した場合の会計処理や表示等に関する基本的な考え方が示されている。被災時に適用する特別な会計基準は存在しないため、災害発生時には、上記文書を参考にすることが実務的な対応になると考えられる。

 

2 被災した事業年度の対応

災害は、法人の決算数値に対して広範囲に影響を及ぼし、その影響額も大きい。

被災した事業年度において、災害が会計に及ぼす影響と、考えられる対応をまとめると次のとおりである。

◆ 災害が会計に及ぼす影響 ◆

① 固定資産の滅失損失等、通常の事業年度では発生しない費用・損失が広範囲かつ多額に発生する

▷対応

・費用・損失の洗い出し

・費用・損失の会計処理と表示の検討

② 未確定の費用・損失、固定資産の減損損失、棚卸資産の評価損等、見積りを伴う会計処理が多くなる

▷対応

・合理的な見積りを行うためのデータ収集

・見積り方法の検討

・注記の検討

③ 将来の計画や見通しを修正する必要がある

▷対応

・将来の収益力や将来キャッシュ・フロー等の見直し

・繰延税金資産の回収可能性や固定資産の減損判定等について、将来数値の見直しの影響を検討

④ 適時開示や臨時報告書の提出、決算スケジュールの見直しが必要となる

▷対応

・必要な開示(臨時報告書、適時開示)の確認

・決算スケジュール(決算発表、株主総会、有価証券報告書の提出等)の見直し

なお、連結子会社がある場合には、上記項目について連結ベースでの影響と対応を検討することも必要となる。

 

3 その後の事業年度の対応

見積りによって計上された費用・損失について、翌事業年度以降に見積りを変更する場合や、見積額と確定額との間に差額が発生した場合には、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の適用の検討が必要となる。

過去の見積りの方法が、その見積り時点で入手可能な情報に基づく最善のものであったかどうかを検討し、同会計基準に規定されている会計処理を行うことになる。

見積りの変更理由 会計処理 過去の見積り誤りに起因する場合 過去の誤謬の訂正として、修正再表示を行う。 過去の時点では最善の方法で見積りが行われており、その後の状況の変化により見積りを変更したり、見積額と実績額との差額が発生した場合 過去の誤謬には該当しないため、過去に遡らず、見積りを変更(確定額が判明)した事業年度以降の財務諸表において差額を認識する。

*  *  *

次回から7回にわたって、被災した法人の会計に係る具体的な対応について、重要性が高い項目をピックアップして解説を行う。

各回で取り上げる項目(予定)は次のとおりである。

〔会計面のアドバイス〕

  • 【第1回】 災害が会計制度に及ぼす影響 (本稿)
  • 【第2回】 費用・損失の計上①
  • 【第3回】 費用・損失の計上②
  • 【第4回】 棚卸資産の処理
  • 【第5回】 固定資産の処理
  • 【第6回】 繰延税金資産の回収可能性への影響
  • 【第7回】 過去の災害時における会計・開示
  • 【第8回】 後発事象

(了)

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連載目次

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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント

【経営面のアドバイス

(公認会計士・税理士 中谷敏久)

【会計面のアドバイス

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)
(公認会計士・税理士 新名貴則)
(公認会計士 深谷玲子)

【労務面のアドバイス

(特定社会保険労務士・中小企業診断士 小宮山敏恵)

【税務面(法人税・消費税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 新名貴則)

【税務面(所得税)のアドバイス】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

【法務面のアドバイス】

(弁護士 岨中良太)

【ケーススタディQ&A】

(公認会計士・税理士 篠藤敦子)

(公認会計士・税理士 深谷玲子)

筆者紹介

篠藤 敦子

(しのとう・あつこ)

公認会計士・税理士

津田塾大学卒業
1989年 公認会計士試験第二次試験合格
1994年 朝日監査法人(現 あずさ監査法人)退社後、個人事務所を開業し、会計と税務実務に従事。
2008年より甲南大学社会科学研究科会計専門職専攻教授(2016年3月まで)
2010年より大阪電気通信大学金融経済学部非常勤講師

【著書等】
・『マンガと図解/新・くらしの税金百科』共著(清文社)
・『会計学実践講義』共著
・『日商簿記1級徹底対策ドリル 商業簿記・会計学編』共著(以上、同文舘出版)
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』共著(税務経理協会)
・「不動産取引を行った場合」『税経通信』2012年3月号(103-109頁)

【過去に担当した研修、セミナー】
SMBCコンサルティング、日本経済新聞社、日本賃金研究センター
社団法人大阪府工業協会、西日本旅客鉄道株式会社、社団法人埼玉県経営者協会
大阪法務局

関連書籍

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