《速報解説》 最高裁判決を踏まえ、延滞税の計算期間が見直しへ ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 佐藤 善恵 はじめに 延滞税は、法定納期限までに国税が完納されなかったときに、未納額及び遅延期間に応じて課されるものである。 平成28年度税制改正大綱では、①納税者が法定納期限内に申告及び納付(100)、②その後、納税者が申告税額が過大であるとして更正の請求をし、税務署長が減額更正(100⇒40)、③税務署長が当初の申告額に満たない増額更正(40⇒70)をした場合等、一定のケースについて、延滞税を課さない旨等が規定されることとなった。 1 最高裁判決の事実関係 平成28年度税制改正大綱における見直し案の内容は、平成26年12月12日最高裁第二小法廷判決(破棄自判)が基礎となっているので、まずは当事案の事実関係を概観する。 納税者は、法定申告期限までに申告し納期限までに本税(100)を完納していたが、その後、土地の評価に誤りがあったとして更正の請求をした。課税庁は、その一部を認めて減額更正(40)をしたが、その後になって、その減額更正における土地の評価額が低かったとして、増額更正処分(70)をしたというものである。 この増額更正に関して課税庁は、一定の除算期間を除いて延滞税が発生していることを前提に、納税者に対してその納付を催告した。これに対して納税者は、延滞税の納付義務が存在しないことの確認を求める訴えを提起した。 最高裁は、事件の事情(増差後も当初の納税額を超えていないこと、減額更正と同じ論点での増額更正であること)の下では、本件の増額更正処分による増差税額に係る部分については、延滞税は発生しないと結論づけた。 ◆当事案における課税庁の主張を前提とした場合の延滞税(増差30)の扱い(改正前) (※) 「除算期間」・・・一定の場合、延滞税の計算期間に含めないこととされている期間のこと。 ◆当事案で最高裁が示した判断 (同一論点で課税庁が見解を覆した部分に関して延滞税は発生しない) 2 大綱で示された改正内容 平成29年1月1日以後の期間に対応する延滞税から、増額更正等により納付すべき税額(その申告により納付すべき税額のうち、減額更正前に納付がされた部分に限る)について、その申告により納付すべき税額の納付日から増額更正等までの間(減額更正が納税者からの更正の請求に基づきされたものである場合にあっては、その減額更正がされた日から1年を経過する日までの期間を除く)は、延滞税を課さないこととされる。 なお、増額更正等により納付すべき税額(その期限内申告があった場合において、その申告税額に達するまでの部分に限る)について加算税が課されないことは、現行の通達において定められているが、この点についても法令上明確化される。 (了)
《速報解説》 結婚・子育て資金の贈与税非課税特例、 薬局に支払われる不妊治療費用も適用対象へ ~平成28年度税制改正大綱~ 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成27年12月16日に与党(自由民主党及び公明党)より平成28年度税制改正大綱が公表された。その前段である「平成28年度税制改正の基本的考え方」において「少子高齢化に歯止めをかけるためには、結婚・子育ての希望を実現しにくい状況を克服し、子育てにやさしい社会を創る必要がある。」と記載されており、早速、前年度改正で創設された結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税非課税特例についてもその拡充が図られている。 2 拡充の内容 大綱のP45において、次のように記載されている。 3 現行制度の概要 受贈者(20歳以上50歳未満の者)が、結婚・子育て資金に充てるため、金融機関等との一定の契約に基づき、贈与者(受贈者の直系尊属)から結婚・子育て資金口座の開設等を受けた場合には、信託受益権又は金銭等の価額のうち1,000万円までの金額に相当する部分については、金融機関等の営業所等を経由して「結婚・子育て資金非課税申告書」を提出することにより贈与税が非課税となる。 契約期間中に贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出額(非課税申告書にこの制度の適用を受けるものとして記載された金額)から結婚・子育て資金支出額(金融機関等において、支払の事実を証する書類により支払の事実が確認され、かつ、記録された金額)を控除した残額を、贈与者から相続等により取得したこととされる。 受贈者が50歳に達することなどにより、結婚・子育て口座に係る契約が終了した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、その残額はその契約終了時に贈与があったこととされる。 4 対象となる結婚・子育て資金 対象となる結婚・子育て資金は次のようなものである。 なお、その詳細は租税特別措置法施行令第40条の4の4において「内閣総理大臣が財務大臣と協議して定めるもの」とされており、内閣府告示第48号(平成27年3月31日付)に定められている。 そのうち、今回、大綱においてその範囲が拡充される「不妊治療のために要する費用」は、4項1号において次のように記載されている。 医療法における病院、診療所は、海外は対象外であり、「病院」「クリニック」「ホスピタル」「医療」「医院」「産科」「婦人科」「産婦人科」「産院」「診療所」「診察所」「療養所」「助産所」「助産院」「母乳相談室」「母乳育児相談室」の記載がある先となっている。 5 改正の概要 今回の改正により、適用対象となる妊娠、出産及び育児に要する金銭のうち不妊治療に要する費用については薬局に支払われるものが含まれることが明確化されることとなることから、処方箋に基づいて処方される医療用医薬品も特例の対象となり、制度の利用を促進する効果が期待できる。 なお、上記の改正については適用開始時期が示されていないため、今後の改正情報において確認する必要がある。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「年金基金に対する監査に関する実務指針」等の 公開草案を公表 ~年金基金の監査実施上の留意事項を策定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年12月25日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 平成25年3月29日に、「年金基金に対する監査に関する研究報告」(業種別委員会研究報告第10号)が公表されている。 平成26年2月の監査基準の改訂などを受けて、日本公認会計士協会は、現在行われている年金基金に対する監査について、特別目的の監査の枠組みに照らして検討を行っていた。 上記①及び②は、「年金基金に対する監査に関する研究報告」のうち、監査上の留意事項に当たるものを基礎として実務指針を策定し、当該実務指針に含まれない年金基金の制度及び業務に関する事項については、監査実施上、年金基金及び基金環境の理解に資するものであるため、その記載内容を見直し研究報告を改正するものである。 意見募集期間は、平成28年1月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 年金基金に対する監査に関する実務指針(案) 1 適用範囲 企業の退職給付制度のうち、企業から独立した法人として年金資産の管理運用を行う「厚生年金基金」及び「企業年金基金」(以下「年金基金」という)の財務諸表に対する監査を対象としている(1項)。 2 適用される財務報告の枠組みの受入可能性 このため、理事者が適用する財務報告の枠組みに基づいて作成された財務諸表に対して監査を実施する場合の詳細な対応が記載されている(23項~25項)。 例えば、監査人は、年金基金の財務諸表の監査業務の契約条件の合意内容として、理事者が適用する財務報告の枠組みについて、代議員会等、特定の財務諸表の利用者の判断を誤らせないようにするため、財務諸表に追加的な開示を行うことについて理事が合意しない場合には、監査契約を締結できないことが述べられている(23項(1))。 3 年金基金の監査実施上の留意事項 年金基金の監査実施上の留意事項として、次の事項が記載されている。 4 適用時期等 平成28年4月1日以後開始する事業年度に係る監査から適用することが提案されている。 Ⅲ 「年金基金に対する監査に関する研究報告」の改正(案) 研究報告(案)は、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資することを目的として、年金基金の制度(決算及び監査の制度を含む)及び業務に関する事項について取りまとめたものである(3項)。 研究報告(案)は、独立した法人格がある「厚生年金基金」と「確定給付企業年金(基金型)」を対象として、解説している(8項)。 付録として次のものが示されている。 (了)
《速報解説》 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が確定 ~適用時期等に関する公開草案からの変更点に留意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年12月28日、企業会計基準委員会は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)を公表した。これにより、平成27年5月26日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いについては、現行、日本公認会計士協会の「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という)に基づいて判断しているが、適用指針の適用後は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)に基づいて会計処理することとなる。 適用時期等に関して、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う事項が公開草案から変更されているので、適用に際しては注意が必要と思われる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 公開草案に関する解説は、下記拙稿を参照されたい。 Ⅱ 主な改正内容(会社分類関係) 1 会社分類 監査委員会報告第66号における企業の分類に応じた取扱いの枠組みを基本的に踏襲しており、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際に、要件に基づき企業を(分類1)から(分類5)に分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することになる(15項、63項)。 (分類1)から(分類5)に係る分類の要件をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する(16項)。 なお、16項における当該判断は、各分類の要件からの乖離度合を定量的に検討することを意図するものではないと述べられている(65項)。 2 「経常的な利益(損益)」から「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」 監査委員会報告第66号では、(分類2)及び(分類3)を行うに際して、「経常的な利益(損益)」という会計上の利益を用いている。 適用指針は、「臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得」に基づく要件としている(19項等)。 3 (分類2)におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異 監査委員会報告第66号では、(分類2)に該当する企業においては、スケジューリング不能な将来減算一時差異について、一律に繰延税金資産を計上することができないとする取扱いとなっている。 適用指針は、(分類2)に該当する企業においては、原則として、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産については、回収可能性がないものとしている(21項)。 ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについては、当該将来のいずれかの時点で回収できることを「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があるものとして取り扱われる(21項)。 公開草案では「合理的に説明できる場合」の表現が用いられていたが、適用指針は「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」の表現を用いている(78項、79項。適用指針の他の箇所も同様)。 4 (分類3)における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間 監査委員会報告第66号では、(分類3)に該当する企業においては、「将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度」とする規定となっている。 適用指針は、(分類3)に該当する企業においては、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを「企業が合理的な根拠をもって説明する場合」、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとするとしている(24項)。 5 (分類4)に係る分類の要件を満たす企業が(分類2)又は(分類3)に該当する場合の取扱い 監査委員会報告第66号では、「重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等」であっても、「重要な税務上の繰越欠損金や過去の経常的な利益水準を大きく上回る将来減算一時差異が、例えば、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上している会社の場合には、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)内の課税所得の見積額を限度として、当該期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、それに係る繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。」とされている。 適用指針は、過去(3年)又は当期において重要な税務上の欠損金が生じていること等により(分類4)に係る分類の要件を満たす企業においては、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを「企業が合理的な根拠をもって説明するとき」は(分類2)に該当するものとして取り扱い、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを「企業が合理的な根拠をもって説明するとき」は(分類3)に該当するものとして取り扱い、繰延税金資産の回収可能性を判断することとなる(28項、29項)。 Ⅲ 適用時期等 適用時期等は次のとおりである(49項)。 (了) ↓関連記事↓
《速報解説》 通勤手当の非課税限度額、 通勤圏拡大を考慮し「月額15万円」へ引上げ ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに 平成27年12月16日、与党による平成28年度税制改正大綱が公表された。 以下では、通勤手当の非課税限度額の引上げについて解説を行う。 なお、平成26年10月には、所得税法施行令の一部改正により、交通用具を使用している人に支給する通勤手当の非課税限度額を引上げる改正が行われている。こちらについては下記の速報解説を参照されたい。 【2】 改正の背景 交通機関の発達により時間距離は年々短くなり、最近では新幹線を利用した通勤(※)も珍しくない。一方、通勤手当の非課税限度額は、15年ほど前に現行の10万円に引き上げられて以降、改正が行われていない。 そこで、近年の通勤の実態をふまえ、現行の通勤手当の非課税限度額(10万円)を引き上げる改正が示された。 (※) 新幹線を利用した場合の運賃等は、非課税の通勤手当として扱われている。ただし、グリーン料金はその範囲に含まれない(所基通9-6の3)。 【3】 改正の概要 現行と改正後(大綱)の通勤手当の非課税限度額は、以下のとおりである。大綱では、通勤手当の非課税限度額を、現行の月額10万円から月額15万円に引き上げることが示されている。 当該改正は、平成28年1月1日以後に受けるべき通勤手当について適用される。 年明けすぐからの適用となるため、1月以降の給与計算時には注意が必要となる。 (了)
《速報解説》 住宅の「三世代同居改修工事等」に係る所得税額控除が創設 ~平成28年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに 平成27年12月16日、与党による平成28年度税制改正大綱が公表された。 以下では、個人所得課税に係る改正事項のうち、三世代同居に対応した住宅リフォームに係る特例の創設について解説を行う。 【2】 制度創設の背景 少子化の要因には、若い世代が出産と子育てに不安を持っていることや、子育てに係る経済的負担の大きさがあると言われている。 そこで、出産・子育ての不安や負担を軽減し、世代間の助け合いにより安心して子育てができる環境作りを支援する観点から、三世代同居に対応した住宅リフォームに関する税制上の軽減措置が創設された。 新たな制度には、借入金を利用してリフォームを行った場合に適用される住宅借入金等特別控除の仕組みのもの(【3】参照)と、居住の用に供した年分の所得税額から一定の金額を控除する特別税額控除の仕組みのもの(【4】参照)がある。 【3】 借入金を利用している場合に適用される制度(住宅借入金等特別控除) (1) 現行の制度 居住者が、居住の用に供する家屋について借入金を利用して特定の増改築等をし、平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合には、次の2つの制度を選択適用することができる。 また、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」の適用要件も満たしている場合には、①②に代えて、当該控除を適用することもできる(措法41の19の3)。 (2) 大綱に示された制度の概要 個人が所有する居住用家屋について、一定の三世代同居改修工事を含む増改築等(以下「三世代同居改修工事等」という)をし、当該家屋を平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合を、上記(1)②「特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例」の対象に追加することが示された。 新たな制度について、大綱に示された適用要件等は次のとおりである。なお、①から③に示すもの以外の要件は、現行の住宅の増改築等に係る「住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除」の要件と同様である。 ① 控除額と控除期間 三世代同居改修工事等のために借り入れた住宅借入金等の年末残高(1,000万円を限度)の区分に応じて計算される次の(イ)と(ロ)の合計額を所得税の額から控除する。 控除期間は5年である(最大控除額:5年間で62.5万円)。 (※) 財務省ホームページより ② 「一定の三世代同居改修工事」とは 上記①の算式における「一定の三世代同居改修工事」とは、次の2つの要件を同時に満たす工事をいう。 ③ 借入金の要件 この制度の適用対象となるのは、償還期間が5年以上の住宅借入金等である。 【4】 借入金を利用しない場合にも適用される制度(特別税額控除) (1) 現行の制度 居住者が、居住の用に供する家屋について特定の増改築等をし、平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合には、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」を適用することができる(措法41の19の3)。 この制度は、借入金の利用がない場合にも適用することができる。 (2) 大綱に示された制度の概要 個人が所有する居住用家屋について、「一定の三世代同居改修工事」をし、当該家屋を平成28年4月1日から平成31年6月30日までの間に居住の用に供した場合を、「既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除」の適用対象に追加することが示された。 新たな制度について、大綱に示された適用要件等は次のとおりである。 ① 控除額 三世代同居改修工事に係る標準的な工事費用相当額(※)(250万円を限度)の10%相当額がその年分の所得税の額から控除される(最大控除額:25万円)。 (※) 「標準的な工事費用相当額」とは、改修部位ごとに標準的な工事費用の額として定められた金額に当該改修工事を行った箇所数を乗じて計算した金額をいう。 (※) 財務省ホームページより ② 「一定の三世代同居改修工事」とは 上記の「一定の三世代同居改修工事」とは、次の2つの要件を満たす工事をいう。 ③ 制度を適用することができない場合 次の(ア)から(ウ)に該当する場合には、その年分においてこの特別税額控除を適用することはできない。 (了)
《速報解説》 JICPAより「合意された手続業務に関する実務指針」の公開草案が公表 ~保証業務との区分を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年12月22日、日本公認会計士協会は、専門業務実務指針4400「合意された手続業務に関する実務指針」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が公表している国際関連サービス基準(ISRS)4400「財務情報に関する合意された手続の実施契約」に相当するものであり、監査事務所が実施する合意された手続業務に関する実務上の指針を提供するものである。 意見募集期間は、平成28年1月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 合意された手続業務の特質 合意された手続に関する業務実施者の報告は、手続実施結果を事実に則して報告するだけである。つまり、業務実施者の報告は、手続実施結果から導かれる結論の報告も、保証の提供もしないということである。「合意された手続業務」と「保証業務」は、その性質が異なる(5項、6項)。 実施結果の利用者は、業務実施者から報告された手続実施結果に基づいて、自らの責任で結論を導くこととなる(5項)。 2 合意された手続実施結果報告書の特質 合意された手続実施結果報告書は次の特質を持つ(7項)。 3 要求事項と適用指針 公開草案では、要求事項と適用指針に分けて規定されている。 要求事項は次のとおりである。 また、公開草案では、次の付録が示されている。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成30年4月1日以降に発行する合意された手続実施結果報告書に適用する。 ただし、本実務指針の3項、4項及びすべての要求事項が適用可能である場合には、平成28年4月1日以後に発行する合意された手続実施結果報告書から適用することを妨げない。 (了)
-お知らせ- 2015年下半期(7月~12月)掲載分の目次をアップしました。 2015年下半期(7月~12月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、どうぞご活用下さい(PDFファイル内の文字検索も可能)。 Back Number ページからもご覧いただけます。
2015年12月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.150を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第18回】 「実効税率はどのような経過で引き下げられたか」 税理士 山本 守之 1 実効税率はどのように変わるか 新聞報道各社などから、「日本の税制は誰がどのように決めるのだ」「税制改正の方向を知るためにはどうすればいいのだ」 こんな質問をよく受けます。 例えば、政府が11月26日に開いた「官民対話」での安倍首相と榊原経団連会長の発言は次のように報じられています。 実は「賃上げ・設備投資」をめぐって、経団連は環境整備を条件として、①平成27年を上回る賃金引上げ(平成27年に71兆6,000億円)、②設備投資10兆円増と表明したのです。 その代わりに経団連は、次の9つの要望をしていました。 このような「やりとり」が行われたのは、安倍政権の目指す「経済の好循環」が目詰りを起こしていたからです。 円安で大企業の収益は改善したものの、働く人や中小企業に恩恵が滴り落ちる効果は出てないのです。物価の影響を除いた9月の実質賃金は前年比0.9%増に過ぎず、消費者が実感して受ける食料品など身の回りの物価が1%も上がり、賃金や投資における弱さがデフレの流れを止めかねない危機感があったのです。 こうなると、経済界が、「官民対話」で踏み込んだ目標を示さなければ、税制改正論議での成果が得られない状況にあったのです。 「9つの要望」にはこのような背景があったと読むべきです。 ところで、11月24日(官民対話の前々日)に財務相や自民党税調会長がどのような発言をしていたのかを考えてみましょう。 ここでは、実効税率引下げを否定しているのですが、官邸はどうでしょうか。 結果として平成28年度は実効税率を29.97%に、平成30年度からは29.74%に下げることになったのですが、その背景を探ってみましょう。 2 引下げの背景を考える 実は、菅官房長官は11月下旬に財務・経済産業両省の幹部を首相官邸に呼んで「来年度(平成28年度)から実効税率20%台に下げられる財源を探せ」と指示していたのです。 これに対して財務・経済産業の幹部は「財源が見つからない」と答えたのですが、菅長官は「来年度から絶対やるのだ」と突っぱねていたのです。 実は、平成27年11月24日の経済財政諮問会議における菅氏の発言「16年度に20%台まで引き下げるよう様々な施策を検討すべきだ」はこのような背景があったのです。 菅氏がこのように強気にならざるを得なかったのは、アベノミクスの最大の効果といえる株価が平成27年8月を過ぎてから2万円台から急落し、市場に悲観的な見方が広がっていたからです。 それだけではありません。7月~9月(第2四半期)の実質経済成長率も前期から連続してマイナス成長に落ち込んでおり、平成28年度の参議院選挙を考えると官邸としては経済の上昇措置を取り戻す必要があったのです。 その答えが、法人実効税率の早期引下げです。 しかし、この段階では財務省が外形標準課税の拡充を財源とすることには反対していましたし、経産省も先行減税は賛成でしたが、減税財源として外形標準課税を強化することには反対でした。 このような状況のなかで菅氏が平成28年度から実効税率の引下げを主張したのは、菅氏と榊原経団連会長との水面下における二人三脚があったからです。 3 官邸と財界の二人三脚 菅氏と榊原経団連会長との二人三脚は平成27年の10月下旬からはじまりました。それまで首相の海外出張には常に同行していた今井首相政策秘書官(首相の腹心)を首相の中央アジア歴訪の際に国内に残したのは、官民対話で経団連が賃上げと設備投資に踏み込んだ見通しを示すように調整をする仕事を委ねていたからです。 11月5日の官民対話で首相は経団連に「次回の官民対話では見直しを示してほしい」と注文をしていました。 それが、11月26日官民対話で、榊原会長の「決意表明」で実ったのです。 その「決意」とは、次の2点です。 経団連は上記の2点については決意を示す代わりに「来年度の実効税率20%台実現をぜひお願いしたい」というものです。 その代わり経団連が減税財源として従来は「絶対反対」としていた外形標準課税に同意する方向に傾いたのです。 このため、財務省や経産省もはしごを外され、自民党税制調査会も蚊帳の外となり、事後報告だけとなりました。 「実効税率を平成28年度から20%台に」という税制改正方向は、官邸と経済界主導で進められたのです。 4 主要国の実効税率 主要国の実効税率は次の通りとなります。 (注) 日本は平成30年度で29.74%になる見込みです。 5 実効税率とは何か (1) 従来考えられていた実効税率 平成27年までは、日本の実効税率は次のように推移すると考えられていました。 (出所:財務省資料) 実効税率は次のように計算されます。 これから日本の法人実効税率は次のようになります。 〔法人実効税率〕 税負担は課税ベースに税率を乗じたものですが、実効税率は表面税率を加えただけのものであり、本来の負担額を示したものではありません。 税制調査会でも実効税率による国際比較の限界について「法人の税負担水準は本来税率水準と課税ベースの相乗として決まってくるものであるのに対し、「実効税率」は各国における課税ベースの計算方法の差異を斟酌することなくその一面を示すにとどまることから、個々の産業や企業の税負担水準の国際比較を行う場合の指標としては、自ら限度があることに留意する必要がある。」としています。 例えば、税率を引き下げても、減価償却の方法を定額法に限定して課税ベースを広げれば、償却資産を多く持つ製造業の負担が増加し、サービス業が有利となるだけです。 このような内容を無視した「実効税率」の比較だけで税負担を考えると、次のような問題点が生じます。 2008年のドイツの税制改革では、付加価値税の税率の引上げ(16%→19%税収増200億€)、法人税率の引下げ(25%→15%実効税率38.65%→29.83%税収減50億€)、所得税最高税率の引上げ(42%→45%税収増2,500万€)、となっています。 ただ、ドイツとしては、法人税率の引下げによる税収減を防止するために課税ベースの拡大(営業税の損金算入否認、減価償却は定額法のみ、非課税となっていた株式譲渡益の課税、支払利子の損金算入の制限)を行っています。 わが国の場合は、政治家だけでなく、財務省や学者も「実効税率」だけを論議しているのはなぜでしょうか。 「日本の法人税は高い」というのが常識になっていますが、企業の公的負担は法人所得課税に止まるものではなく、社会保険料の事業主負担も含めた企業負担全体の水準で見れば、わが国の企業の公的負担は、欧米の先進諸国と比較して高いとはいえないのです。 (了)