フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第22回】 「単独の新設分割による子会社設立 ~連結財務諸表作成会社の場合~」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、単独で新設分割により子会社を設立する場合を解説する。 新設分割とは、一又は二以上の株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう(会社法2(30))。 何の資産も事業もない子会社を設立するのではなく、新設分割により既存の資産や事業などを新しく設立する子会社に移すことで、新設子会社はすぐに事業をスタートすることができるというメリットがある。 単独の新設分割による子会社の設立は、「共通支配下の取引(【第18回】参照)」に該当する。 なお、本解説では、親会社(連結財務諸表作成会社)が単独で新設分割し、子会社を設立するにあたって、「事業」を移転させることを前提に解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 親会社が単独で新設分割により子会社を設立する場合、共通支配下の取引に該当するため、子会社は、親会社から移転する資産、負債、評価・換算差額等(新株予約権を含む。以下、同様)の適正な帳簿価額を引き継ぐ(企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「適用指針」という)」261、227、409、会社計算規則49)。 そのため、親会社は分割期日の前日に決算を行い、個別財務諸表上の適正な帳簿価額を算定する。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 親会社は、【STEP1】で算定した資産、負債及び評価・換算差額等を子会社に移転させる。その移転に対して子会社株式を取得する。 この子会社株式の取得原価は、移転事業に係る資産及び負債の金額から移転事業に係る評価・換算差額等を控除した金額(以下、「移転事業に係る株主資本相当額」という)となる。また、移転した事業に対する投資は、新設分割後も実質的に継続しているため、移転損益は認識しない(適用指針260、226)。 また、移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は、子会社株式の取得原価に含めずに、子会社株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上する(適用指針108(2))。したがって、親会社で計上されていた移転事業に係る繰延税金資産及び繰延税金負債は、子会社に移転されるが、親会社の個別財務諸表には、子会社株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債として計上されることになる(下記、【ポイント解説】参照)。 なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合(移転対象となる財産がマイナスの場合)には、「組織再編により生じた株式の特別勘定」等、適切な科目をもって負債に計上する。また、新設分割に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(適用指針260、226なお書)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 子会社は【STEP1】で算定した資産、負債及び評価・換算差額等を引き継ぐ。移転事業に係る株主資本相当額は、新設分割計画で決定した資本金及び資本剰余金の額とし、利益剰余金はゼロとする(適用指針261、227、409、会社計算規則49)。 なお、移転事業に係る株主資本相当額がマイナスの場合(移転対象となる財産がマイナスの場合)には、資本金、資本剰余金及び利益準備金をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(適用指針261、227(2)、445)。新設分割に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する(適用指針227(3))。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 単独新設分割は、企業グループ内で行った取引であるため、親会社が取得した子会社株式と子会社で増加した資本金及び資本剰余金は内部取引として消去(投資と資本を相殺)する(適用指針262、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下「基準」という)」44)。 また、子会社株式に係る一時差異に対する繰延税金資産及び繰延税金負債も上記の投資と資本の相殺において投資の金額に含めて消去する(適用指針の設例37、402)。 《設例》 〈会計処理〉 1 親会社A社の会計処理 (※1) 親会社A社のα事業の帳簿価額 (※2) 移転事業に係る繰延税金資産 (※3) B社株式に係る繰延税金資産 (※4) 差額 2 子会社B社の会計処理 (※1) 親会社A社のα事業の帳簿価額 (※2) 親会社A社のα事業の株主資本相当額×(1/2) 3 連結財務諸表における会計処理 (※1) 親会社A社の個別財務諸表に計上されているB社株式に係る繰延税金資産 4 連結貸借対照表 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 企業結合年度において、共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、以下の(1)から(3)を注記する。なお、個々の共通支配下の取引等についての重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する(基準52)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
社外取締役の教科書 【第10回】 「社外取締役としての法的責任(その2)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 1 取締役が法的責任を問われた具体例 前回の総論的まとめを踏まえ、今回は、これまでに(社外)取締役の法的責任が実際に問題となった具体例や問題となり得るケースにつき説明したい。 2 経営責任の有無が争いとなった具体的ケース 前回説明した通り、取締役が「何かをしたこと」についての法的責任が問われるケースにおいては、善管注意義務が認定されるか否かは、いわゆる「経営判断の原則」を満たしているかにより判定される。 会社運営をめぐる経営判断は、企業活動に伴い大なり小なり無数に存在する。 その中で、以下で取り上げるのは、上場企業等比較的規模が大きい会社における、法的・経済的に見ても重要な意思決定の正当性が争われたケースである。 (1) 子会社株式の買取価格の相当性が争われたケース 《アパマンショップ株主代表訴訟事件》 (2) 地方銀行において財務内容が良好でない貸付先に対する融資の相当性が争われたケース 《拓銀カブトデコム事件》 (3) 特に同族会社において想定されるケース 特に小規模な同族会社における経営責任について判示した判決を探すことは困難であるが、起こりうる紛争としては以下のようなケースが考えられる。 同族会社においては、大株主である代表者が死亡し、その相続人間に対立が生じている場合に、これを契機として少数派株主が経営陣に対して対抗するための一手段として、役員の経営責任を問うてくるケースが多い。つまり、相続人間の対立が会社法上の争いに反映されるのである。 このように、小規模閉鎖会社であるからといって、決して会社法上の争いとは無縁というわけではなく、むしろ、実情は逆である。相続紛争の相手方が経営権を握っている場合に、その牽制の意味を含めて、相手方の経営責任を(裁判上認容される見込みが厳しいものであったとしても)追及していくケースは多い。 その意味では、どのような会社においても、紛争が生じる契機は存在するということである。 3 社外取締役として留意すべきポイント 社外取締役としては、経営判断に携わる取締役として、経営上の重要な意思決定にまつわる事項は当然のことながら、それ以外についても、上記のような同族会社内での紛争に巻き込まれる恐れがあることは念頭に置いておくべきである。 そのうえで、たとえば、企業運営に大きな影響を与えるような重要な意思決定に加わる場合には、後日の紛争防止のため、決定にあたって考慮した諸事情や、どの点にどれだけ重きをおいて評価し結論を出したのかという判断過程・理由、判断の際に裏付けとした各種資料等について、あわせて整理しておくべきである。 「意思決定の正当性を第三者にも説明できるか」という観点を常に置き、他の取締役との慎重な討議を経た上で意思決定することが何よりも重要である。 (了)
パフォーマンス・シェア(Performance Share)と リストリクテッド・ストック(Restricted Stock) ~経済産業省報告書で示された「2つの新しい株式報酬」~ 【第1回】 「役員に対する業績連動型報酬のニーズの高まり」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 役員に対する業績連動型報酬のニーズの高まり (1) 業績連動型報酬への関心の高まり 近時、業績連動型役員報酬が注目されつつある。 コーポレートガバナンス・コードでは、原則4-2で、「経営陣の報酬については、・・・インセンティブ付けを行うべきである」とされ、また補充原則4-2①で、「経営陣の報酬は、・・・中長期的な業績と連動する報酬の割合や現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。」と定められた。このため、多くの上場会社では業績連動型報酬に関する自社の考え方を整理することが求められている。 また、平成27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」では、業績連動型報酬普及のための制度面での手当てが整備される方向性が示されている。 (2) 経済産業省報告書の公表 このような状況の下、経済産業省は平成27年7月24日、「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」(以下「経産省報告書」という)を公表した。 経産省報告書では、わが国の企業が今後、中長期的な収益性・生産性を高めていくことが重要であるところ、個々の人材が能力を最大限発揮できる環境整備を図ることが求められるとしている。そして、そのためには、人材のインセンティブ付けが大きな課題とされ、経営者を含む業務執行者等の報酬設計におけるインセンティブ報酬の活用が検討されている。 また、このインセンティブ付けの手法として、新しい株式報酬プランである「パフォーマンス・シェア」と「リストリクテッド・ストック」と同様のプラン導入についても検討されている。 この2つのプランの概要を述べると、パフォーマンス・シェア(Performance Share)とは、中長期業績目標の達成度に応じて交付される現物株式のことであり、リストリクテッド・ストック(Restricted Stock)とは、譲渡制限が付された現物株式のことである。 わが国ではあまり馴染みのないこの「2つの株式報酬」は、経産省報告書において重要な位置づけとなっている。 そこで本連載では全3回にわたり、各種役員報酬についても触れたうえで、この2つの株式による役員報酬の特徴、メリットやデメリット、導入時の問題点等を検討していきたい。 なお、本稿における意見はすべて筆者の個人的な見解である。 2 役員に対する報酬プランの概要 (1) 役員に対する各種報酬プランの概要 経産省報告書では、諸外国でみられる各種報酬プラン等を基に、各種報酬プランをまとめている。それが下表である。 〈各種報酬プランの概要〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:経済産業省報告書「別紙1 我が国企業のプラクティス集」p7) この表に示されているように、役員報酬は に大別され、そこに各種インセンティブ付けのための工夫がなされる。 (2) わが国の役員報酬プランの現状 わが国の上場企業の役員報酬プランについて、経済産業省が平成27年3月に発表した「日本と海外の役員報酬の実態及び制度に関する調査報告書」で、その実態調査が報告されている。 それによると、標準業績時の報酬構成比率(業績目標を100%達成した場合の、固定報酬・各業績連動型報酬の報酬額の割合のこと)は、固定報酬が80%程度を占めている(なお、この比率は、経済産業省の調査以外でも調査結果が報告されているが、調査主体によって若干異なっている)。 そして、業績連動型報酬については、短期インセンティブは10%~16%、中長期インセンティブは2%~4%、退職慰労金は1%~2%となっている。 このことから、わが国においては、固定報酬が大きな割合を占めており、また次回取り上げる米国の事例と比較すると、中長期インセンティブの割合は相対的にかなり低いことがわかる。 また、導入済み又は導入予定の業績連動型報酬の種類としては、損金不算入型の賞与が55%、利益連動型給与21%、固定報酬の変動化が20%、事前届出確定給与9%となっている。 一方、米国では、2014年の調査で、時価総額トップ250社では、パフォーマンス・シェア導入企業が89%、ストック・オプション導入企業が71%、リストリクテッド・ストック導入企業が63%という結果が出ており(Frederic W.Cook社調べ)、多くの企業が株式報酬を業績連動型報酬として支給している。 (3) 業績連動型報酬としてのストック・オプションの課題 わが国では、業績連動型報酬としてストック・オプションが相対的に普及している。 ストック・オプションは、例えば株式公開前に役員等へこれを与え、株式公開時にこれを行使した後、株式売却益を得ることや、公開後は株価が上昇することにより、やはり株式売却益を得ることが可能となる方法であり、手元現金が不足している企業が役員等に対するインセンティブを付与することができる等のメリットがある。 しかし、ストック・オプションは、株価がストック・オプションの行使価額を上回っている場合に行使することで初めて経済的利得が現金化する手法である。このため、役員等が手に入れる現金金額は株価の上昇と直結し、ストック・オプションの行使価額が株価を上回っている状況では行使するインセンティブが働かないという点で難点があり、役員が中長期的な業績向上よりも、株価上昇を狙った短期的な利益計上に走りがちであるという問題点が指摘されている。また、株価が低迷している状況下では、ストック・オプションは業績連動の機能を果たせないという限界がある。 これに対して、パフォーマンス・シェアとリストリクテッド・ストックのような株式による報酬は、株価が上昇しても下落しても株式売却額相当の現金を手に入れることができ、また業績連動期間や譲渡制限期間を中長期にすることで、役員の中長期的な企業業績の向上のインセンティブ付けが可能になるという点で、ストック・オプションより良い面があるとされる。なお、株式報酬型ストック・オプションのメリットと課題は【第3回】で解説する。 次回はパフォーマンス・シェアとリストリクテッド・ストックとはどのようなものなのか、米国で実際に導入されている事例をもとに、その仕組みと目的、効果について解説していきたい。 (了)
税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第6回】 「具体的な資金調達支援の流れ(その3)」 ~申し込みに必要な資料の作成支援~ 公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆 社長が金融機関に相談に行き、融資担当者から難しいと言われない限りは、融資の可能性がある。そこで次は、申し込みに必要な資料の作成に進む。事業計画書、資金繰り表、決算書、合計残高試算表を作成して提出する。 今回は、これら資料作成に関する支援内容を解説する。決算書および合計残高試算表については説明不要と思われるので、事業計画書、資金繰り表の作成支援について述べる。 【第3回】で説明したとおり、事業計画書は、会社がどのような事業を行って売上と利益をあげる予定なのか、説明するための書類である。事業内容を「文章で説明する部分」と、それを「計数で説明する部分」の2つから構成され、資金の必要性、資金を使う目的、返済原資となる利益がどの程度発生するのかを金融機関側に伝えるものであった。一方、資金繰り表は、会社の入出金情報を表す書類であり、返済原資となる現預金が確保できることを説明するものであった。 会計税務の専門家である税理士は、これら資料のうち、主に計数面の作成支援を行う。ただし、あくまで支援であって、計数自体は社長に考えてもらう必要がある。融資交渉の場では、社長自身が金融機関に対して説明を行い、責任を負うからである。社長が主体的に計数を考え、税理士はそれを整理、文書化するという支援の形が良い。 1 事業計画書の作成支援 まず、事業計画書の計数作成支援について述べる。売上と利益の見込み数値を作るだけなので、会計に詳しくない社長でも比較的簡単に作成可能である。しかし、返済原資を確保するために必要な利益はいくらか、という点は会計の知識が必要になる。税理士が助言できる点である。 必要利益は、簡易キャッシュフロー(=当期純利益+減価償却費)の考えを使って算定する。例えば、年間返済額が100万円で、減価償却費が60万円の場合、返済に必要な当期純利益は40万円となる。これに法人税等や販売管理費、売上原価を加えると、返済に必要な年間売上高が決まる。 この必要売上高を上回る売上高を達成できるか、社長に年間売上計画を設定してもらう。実現可能な売上になるよう、積み上げによる計算を助言する。すなわち販売単価×月平均販売数量または1日あたり平均販売数量を計算して、それを1年分集計する。必要売上高を上回るのが難しそうであれば、融資希望額や返済期間を見直し、必要利益及び必要売上高を計算し直してもらう。融資希望額が多すぎる場合、融資額の相場を参考情報として伝え、再考を促す。相場は、月商や運転資金の3ヶ月分といわれる。 年間売上計画が設定できたら、年間経費と合わせ、年間事業計画書は完成となる。次に、これを月次の計画に落とし込む。季節性の売上変動がある場合、それを考慮しつつ月次事業計画を考えてもらう。 月次事業計画書が出来上がったら、税理士は数字の整合性をチェックする。必要利益を上回る利益になっているか、実現可能性があるのか、季節性に違和感がないかなどを確認する。販売管理費の中にも売上に変動する項目が含まれている場合があるので注意する。疑問に思った点は社長に質問する。そういう点は金融機関側からも指摘を受けることが多い。融資交渉の事前演習にもなるので、社長にとって有益である。 2 資金繰り表の作成支援 次に資金繰り表の作成支援について述べる。資金繰り表を作成した経験のない社長にとっては、時間を要する可能性がある。事業計画書とは逆に、税理士が主体的に作成して、社長に内容を説明、チェックしてもらう方が効率的である。資金繰り表は、税理士が新しく数字を作るわけではない。月次事業計画書と、売掛金や買掛金の決済条件、融資返済条件を元に、たんたんと作成していくだけである。 資金繰り表では、各月末の現預金残高がマイナスになっていないか注意する。マイナスは資金ショート、すなわち返済不能状態を意味する。つまり「返せなくなりますけど、お金を貸して下さい」という意味になる。そのような会社にお金を貸す金融機関は存在しない。マイナスになった場合は、融資条件や事業計画書の計数を見直す必要がある。 上記、簡易キャッシュフローの計算から事業計画書、資金繰り表作成の流れについては、筆者ホームページ上でも解説している。会計知識の無い読者に向けた内容のため、簡略化しているけれども、基本は理解していただけると思う。 ここで、「事業計画書と資金繰り表は、無理に提出する必要はない」という意見について述べておく。確かに、金融機関に融資を申し込む際、決算書の提出を求められるけれども、事業計画書と資金繰り表は必ずしも求められない。提出しなくても融資を得られる場合がある。しかし、結論は、やはり出した方が良い。 提出することで社長と金融機関の情報共有が促され、融資交渉が円滑に進むという点は【第3回】で述べた通りであるし、実際、日本政策金融公庫や金融機関の担当者の方も「出した方が良い」と明言している。融資を得たいのであれば、後悔のないよう、準備できることは全て行った上、交渉面談に臨むべきである。 * * * 金融機関に提出する資料のうち、事業計画書と資金繰り表の作成支援方法について解説した。税理士は主に計数面の作成に関与できる。しかし、作成する主体はあくまで社長、会社であることを念頭において支援する。 個々の資料が出来上がった後は、提出書類全体の整合性チェックが必要となる。各書類間に矛盾点はないか、税理士がチェックを行う。これは事業計画書や資金繰り表に対する社長の理解を助けることにもつながる。次回はこの点を詳しく説明する。 (了)
2015年10月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.141を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第16回】 「砂利採取地の埋戻し費用」 税理士 山本 守之 A社は砂利採取業者です。同社はB社の所有する土地から砂利を採取して建材業者に砂利を販売し、採取後はB社との契約でその土地を埋め戻して返還することになっていました。 このように契約に基づいて砂利採取地の跡地を埋戻すことを義務付けられていましたので、法人税基本通達では、砂利採取の進行に応じて埋戻し費用を見積り、これをその採取した砂利の取得原価に算入することを認めることとしています(法人税基本通達2-2-4)。 法人税基本通達2-2-4は次のようになっています。 1 算式の考え方と適用対象 毎期末の現状に基づき、かつ、既往の見積違いを当期以後の採取量にチャージする形で修正しながら毎期の見積計上額を算定します。 なお、この通達の適用は、「他人の所有地から砂利の採取を行う場合」に適用され、自己所有地からの砂利採取については適用されないとされています。 その理由について課税庁では (『税経通信』(Vol.35、No.11、1980年)478頁、戸島利夫国税庁法人課税課課長補佐(当時)) と説明されています。 しかし、最近のように環境問題が厳しい時期には、自己所有地についても地方公共団体等から埋戻しについて誓約書等を提出するよう行政指導がされています。ここでは、埋戻しを「国民の一般抽象的義務の範囲」と決め付けるわけにはいかないでしょう。 法人も社会的存在である以上は、埋戻しについて罰則を覚悟してこれを怠ることは許されません。国税庁もこのような社会情勢の変化に即応した解釈上の改正をすべきだと考えています。 したがって、砂利採取地が他人の土地ではなく、自己の土地でも法人の社会的義務として採取跡地の埋戻し義務があると考えられますので、埋戻し費用の見積りはできると考えています。 2 課税庁の考え方とその検討 この通達は、公共の河川敷から砂利を採取することに代えて河川敷以外の民有地から砂利を採取する場合を想定して定められたものです。 ここでは、砂利採取者は土地の所有者等との間で契約を締結し砂利採取に伴う対価を支払う一方において、採取後の跡地を埋戻して土地を原状に復することを約している例がほとんどです。 ところで、埋戻しは砂利採取が終わった後に行われますから、砂利採取による益金と埋戻しの場合の損金は別個の問題ですから、埋戻し費用は一種の事後費用という考え方もなくはありません。 しかし、一般にこのような場合の跡地の埋戻し費用は、相当多額になるはずであり、砂利採取業者は当然そのことを見越して砂利の販売価額等を定めることになるでしょう。埋戻し費用を見積ってその取得原価として計算することが収益・費用対応の関係から見て、より合理的であることは言うまでもありません。 このような意味から、法人税基本通達2-2-4では、民有地から砂利の採取を行う場合に、契約に基づいてその跡地の埋戻しをすることが義務付けられているときは、砂利採取の進行に応じて埋戻し費用を見積り、これをその採取した砂利の取得原価に算入することを認めているのです。 また、この通達は民有地から砂利を採取する場合に限定しているように見えますが、この取扱いは、河川敷等の公有地から砂利を採取する場合でも、その跡地の埋戻しが契約上義務付けられている場合には同様に取り扱われることになっています。 3 自社所有地から砂利を採取する場合 法人税基本通達2-2-4は、他人の所有する土地から砂利を採取する場合について定めていますが、自己所有地から砂利を採取する場合には、次のように埋戻し費用の見積計上は認めていません。 (『法人税基本通達逐条解説』税務研究会出版局) しかし、地方公共団体では砂利採取地をそのままにしておくことを許していません。砂利採取跡地には大きな穴があき、そこに雨水などがたまると池のようになり、危険だからです。そこで、地方公共団体では、条例等により埋戻し義務を課しています。 通達では、地主との契約に基づく埋戻し義務に配慮して見積り計上を許しているのですが、自己の土地の場合は契約ではなくても、条例に基づく埋戻し債務についても配慮すべきでしょう。 通達の解説では「埋戻し義務が確定していない」という理由で埋戻し費用の見積り計上を許していませんが、これは条理に反しますので、条例による埋戻し義務がある場合も見積り計上を許すよう、課税庁を説得すべきでしょう。 4 組織再編成の場合 砂利等の採取中に組織再編成が行われた場合には、その砂利等の取得価額の計算をどのように行うのかが問題です。 この点、平成13年度の税制改正により整備された組織再編成に係る税制においては、適格組織再編成により資産等の移転を行った場合には、その移転資産等を帳簿価額により引き継ぎ、又は帳簿価額により譲渡したものとすることにより譲渡損益の計上を繰り延べることとされています。 このため、砂利等を2以上の事業年度にわたって採取する場合のその砂利等の取得価額の計算にあっても、適格組織再編成により資産等の移転を行ったときには、その計算を引き継ぐことが実態にあったものと言えます。 そこで、法人税基本通達2-2-4の(注)3において、この適格組織再編成が行われた場合の合併法人等における通達の適用については、被合併法人等の通達による計算を引き継ぐものとすることが明らかにされています。 5 引当金との差異 企業会計原則では、 (企業会計原則、注解18) としています。 ここでは、引当金設定の要件を次のように整理することができます。 税法上引当金の損金算入が認められたのは、シャウプ勧告(昭和25年)によって貸倒準備金を設けたのが最初です。それまでは、費用の認識を債務確定によっており、費用収益対応の考え方が軽視されたためでしょう。 次いで、昭和27年には「・・・発生主義は、権利義務の発生というごとき立証手順のみに依存するものではなくて、一層強く会計的事実として一般に認められる内部証拠に準拠するものである」(税法と企業会計原則との調整に関する意見書)とされ、退職給与引当金、特別修繕引当金等の損金算入を認め、費用収益対応の原則を重視することとなりました。しかし、現在では、税法上の引当金は極力制限され、ほとんど認められていません。 アメリカでは所得控除をもたらす負債の存在を確定する全事象(all the events)が発生し、その負債の金額が合理的正確さをもって決定できる課税年度に差し引かれるという税務会計上の原則があり、この原則における全事象の確立は1926年の連邦最高栽判決(United States VS .Anderson)で、引当金計上の否認は、1934年の連邦最高裁判決(Brown vs. Helvering)で確定しています。 このため、アメリカでは総資産平均残高5億ドル以下の小規模金融機関に貸倒引当金を認めている以外は、税務上の引当金を認めていません。 日本で引当金の制限をしたのは平成10年の改正以後で、当時の税制調査会では平成10年度の改正で法人税率引下げの財源として、貸倒引当金、返品調整引当金以外の引当金を廃止したのです。 つまり、日本では、アメリカのように課税標準と引当金の性格を検討するという理論ではなく、法人税率引下げ財源探しという目的に過ぎなかったのです。 企業会計上はともあれ、課税所得の計算上引当金の損金算入を認めるか否かは、期間損益を重視するか、企業の恣意的計算を排除し、課税事象の明確性を求めるかという価値観の問題でもあります。 砂利採取跡地の埋立費用の見積り計上は、ほぼこれと同じ考え方ですが、法律の定めではなく、収益費用対応の考え方から通達で定めています。 このような定め方がいいのか否かは検討されるべきでしょう。 (了)
消費税の軽減税率を検証する 【第10回】 (最終回) 「軽減税率の導入という選択」 税理士 金井 恵美子 連載の最終回にあたって、「軽減税率の導入という選択」の是非について、筆者なりの結論を出しておこう。 Ⅰ 8%の軽減税率 平成26年4月の税率引上げ時には、「簡素な給付措置」すなわち、臨時福祉給付金の給付が行われた。臨時福祉給付金は、住民税の均等割りが非課税となる世帯を給付の対象としており、その額は、「消費税率の引上げによる1年半分の食料品の支出額の増加分を参考に、給付対象者一人につき1万円とする」(※1)と説明されている。また、10%への引上げが延期されたことを受けて再び実施された平成27年度の臨時福祉給付金は、平成27年10月から平成28年9月までの1年間を対象とし、6,000円とされた(※2)。 (※1) 厚生労働省簡素な給付措置支給業務室「簡素な給付措置支給業務に関する全国説明会資料(平成25年11月21日(木))」1頁。 (※2) 厚生労働省特設ホームページ「2つの給付金」 「簡素な給付措置」は、5%であった消費税の税率を引き上げるにあたり、低所得者に対する恒久的な施策を実現するまでの暫定的及び臨時的な措置である(税制抜本改革法7条1号ハ)。 そうすると、「恒久的な低所得者対策」としての軽減税率は、あくまでも5%からの増税による負担を補てんするものとして検討するのが筋だということになる。 つまり、8%の軽減税率を提唱した時点から、軽減税率導入の議論はすでに混迷しているのである。 その理由は、所要財源だ。 「簡素な給付措置」のために計上された予算は、3,420億円(給付費3,000億円、事務費420億円)であった。これに対し、5%の軽減税率を設けた場合の減収額は、一桁大きくなる。 「消費税の軽減税率に関する検討について」によれば、「酒を除く飲食料品」の税率を5%軽減した場合には3兆1,500億円の減収となり、全体では8.4%の単一税率にした場合と同じ税収となる(【第5回】参照)。しかも、それに係る行政コストは未知数である。 税率の引上げと軽減税率の導入とは、政策論として激しく矛盾する。 Ⅱ 痛税感の緩和 筆者は、【第8回】を、「『日本型軽減税率制度』プログレス論の最後のボトルネックは、『痛税感の緩和』かもしれない」と結んだ。 近時、軽減税率を導入せず負担感が残れば消費税への信頼が薄れる、あるいは、税率引上げに際しては低所得者に優しい軽減税率を入れるべき、といった主張がしばしばなされる。 「低所得者に優しい」とは、日常生活において支出額の増加が少ないことであると思われるが、その意味では、軽減税率は高所得者に対してより優しい。また、「負担感」や「通税感」、「消費税への信頼」といったものは、人々の感情の問題であり、経済活動に対する中立性や施策の効果と影響といった制度構築の基本的な議論ではない。 結局のところ、軽減税率の導入は、消費税率の引上げにあたってはそれに対する抵抗感を和ら げる緩衝材が欠かせないから、という理由に尽きるだろう。 Ⅲ 逆進性の緩和 「骨太方針2015」(※3)は、 としている。 (※3) 「経済財政運営と改革の基本方針2015~経済再生なくして財政再建なし~」41頁(2015年6月30日) これのもとになっているのが、リタイア世帯に受益が多く優遇税制が偏っていて、若い人たち、現役世代の受益が少なく、負担が大きいという現状の分析である。これは単に高齢者世帯の税負担を重くして、若い人を助けたいということではなく、富裕層が負担をして、貧困層のためにそれを使うという考え方であろう。 所得再分配の効果は、所得に対して直接課税する税によって、あるいは社会保障という手段によって確保し強化することができるものである。税と社会保障の枠組みに囚われず、より良い全体のデザインを描くことこそが、社会保障・税一体改革の趣旨であったはずである。 少なくとも、税の負担者の所得を把握する術を持たない消費税という税目の枠内に、逆進性緩和の措置を置くべきとするのは、木を見て森を見ない議論である。 Ⅳ 低所得者対策 所得税の課税を強化して税制全体の累進性を高めても、もともと所得税が非課税となる所得層には、直接の救済とならない。したがって、それとは別に、消費税の負担増により最低生活の維持を脅かされる所得層に配慮した施策が必要となろう。 税制抜本改革法において、複数税率制度又は給付付き税額控除制度の導入は、「低所得者に配慮する観点から」検討するものとされており、「逆進性緩和のため」の施策とは表現されていない。もちろん、有効な低所得者対策は、結果的に逆進性緩和の効果を持つことになる。 軽減税率の適用によって、生活必需品が安く提供されれば、低所得者の救済につながる。しかし、軽減税率が適用された商品が現実に安く提供されるかどうかはわからないし、そのために失うものが多すぎるのである。 低所得者対策は、消費税の税率を複数にすることではなく、社会保障によるべきである。生活困窮者対策に総合的に取り組む生活困窮者自立支援法が本年4月1日に施行され、平成28年からはマイナンバー制度の運用が始まる。内閣官房は、「社会保障がきめ細かくかつ的確に行われる社会」を実現する必要があり、マイナンバー制度によって、「真に手を差し伸べる者を見つけることが可能になる」(※4)としている。 (※4) 「マイナンバー社会保障・税番号制度概要資料(平成27年2月版)」(内閣官房社会保障改革担当室、内閣府大臣官房番号制度担当室) 低所得者対策は、それを必要とする者を直接救済する方法によるべきである。 Ⅴ 軽減税率は消費者の負担を増加させる そもそも消費税は、多くの議論を経て、税制全体のバランスの中で広い課税ベースと単一の税率によって、水平的公平、中立、簡素という税制の基本原則を維持しつつ、多くの税収を確保するという役割を担うものとして創設されたのである。単一税率であることこそが消費税導入の意義であった。 軽減税率の導入は、消費税の特長を大きく後退させるが、得られる逆進性緩和、低所得者対策としての効果は低い。軽減されるのは「痛税感」のみであって、税収の減少と執行のコストはさらなる標準税率の引上げを必要とし、事業者のコンプライアンスコストは商品の価格に組み込まれ、それらはすべて消費者の負担を増加させるものとなる。 Ⅵ おわりに 食料品等に広く軽減税率を適用する国の標準税率は20%程度が普通であり、標準税率が10%以下で食料品に軽減税率を適用している国は、スイス、オーストリアぐらいしかない。 日本が、10%の標準税率でわずかに低い8%の軽減税率を設定すれば、世界でも珍しい奇妙なデザインということになる。 軽減税率が失敗であることはEU諸国において証明されている。その教訓に学び、物品税を捨てた経験を想起すれば、「単一税率と高い効率性をもつ理想的な付加価値税」である日本の消費税が、「機能不全に陥ったオールドVAT」に倣って複数税率制度に移行するという選択はあり得ないだろう。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例31(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆相続時精算課税制度(相法21の9~相法21の18) 相続時精算課税制度とは、生前の贈与について、納税者の選択により、贈与時に贈与財産に対して一定の贈与税を支払い、相続開始時にその贈与財産を相続財産にプラスして相続税を計算し、支払った贈与税を精算する制度である。 ただし、特別控除額の2,500万円までは贈与税はかからず、さらに相続開始時にこれらの生前贈与財産をプラスしても相続税がかからない場合には、贈与税の負担なしで生前贈与が可能となる。 なお、相続時精算課税制度の適用を受けるためには、申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を所轄税務署に提出しなければならない。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第37回】 「非公開裁決事例⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、デット・エクイティ・スワップを行った際に、債務消滅益を計上すべきか否かについて争われた事件である。 本事件は、平成18年度税制改正前の事件であり、当時、非適格現物出資に該当するデット・エクイティ・スワップに該当するのであれば、債務消滅益を計上しないで済む余地があった。これに対し、本事件は、適格現物出資に該当したことから、やや複雑な事実関係となっている。 22 平成19年6月21日裁決(TAINSコード:F0-2-288) (1) 事件の概要 本事件の争点は以下の5つである。 本連載のテーマは組織再編・資本等取引であるため、【争点1】から【争点3】が該当することになるが、【争点2】は会社法施行により異なる理論構成になる可能性が高く、【争点3】はやや個別事案の色合いが強すぎることから、いずれも他の事案の参考になりにくいため、【争点1】のみを取り上げることとする。 (2) 原処分庁の主張 DESは、法人税法上、次の2つの事象として捉えられている。 ▷ 法人の債権者が、その債権を債務者である当該法人に現物出資することによる当該法人の資本の金額の増加 ▷ 現物出資された債権と対応する債務が同一人に帰属することによる当該債権及び当該債務の混同による消滅 請求人が本件現物出資債権を取得したことにより、本件現物出資債権と、本件元本債権に対応する債務である長期借入金のうち、本件現物出資債権の額に対応する金額は、同一人(請求人)に帰すことから、混同により消滅することとなるが、請求人が取得した本件現物出資債権の取得価額は上記Cのとおり162,000,000円であるところ、これと共に消滅した長期借入金の金額は430,442,435円であることから、その消滅した長期借入金の金額のうち、消滅した本件現物出資債権の取得価額相当額162,000,000円を超える部分の金額268,442,435円については、債務消滅益として益金の額に算入する。 なお、債務の消滅という企業の内部で生起した財産に影響を及ぼす事実については、それが混同によるものであっても、法人税法上は、法人税法第22条第2項の「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引」としてこれを認識することになる。 (3) 請求人の主張 DESは、債務が資本に振り替わる「債務の株式化」であり、旧商法にはDESについて直接これを定めた規定がないことから、現物出資の制度を借用しているにすぎず、DESは真正な現物出資とは別個のものである。 債務の消滅によって資本の増加が生じることから、DESは資本取引であり、損益取引である債務消滅益を生じる余地はない。 請求人が行った本件DES取引は、その全額が法人税法第22条第5項に規定されている資本等取引に該当するものであり、損益取引である債務消滅益の生ずる余地はない。 (4) 国税不服審判所の判断 債権者である■■■■■が、債務者である請求人に対する本件現物出資債権を、請求人に現物出資し、請求人が■■■■■に株式を交付するという取引が存在することに争いはなく、このことから、本件DES取引は現物出資に該当する。 現物出資に該当する以上、債権の現物出資という行為と、その結果生じる混同という事象を個々に認識するのは当然のことであり、出資は資本等取引に該当するのであるが、混同については出資された資産の額と消滅する負債の額が同額でない場合には、当然に差額が発生することになるから、損益取引が生ずることもあり得る。 (5) 評釈 本事件は、平成18年度税制改正前の事件であるとはいえ、適格現物出資に該当するDESについての結論は変わらないため、現在でも参考になる事件である。 平成17年改正前商法または会社法に規定されている現物出資の手続きによりDESを行う場合には、法人税法上も、適格現物出資に該当するか否かで処理が異なってくる。平成18年度税制改正前は非適格現物出資に該当する場合の処理について明確ではなかったが、平成18年度税制改正により、非適格現物出資に該当する場合には、券面額ではなく、時価で処理することとされたため、券面額と時価が異なる場合には、被現物出資法人において債務消滅益課税が生じることになる。 これに対し、適格現物出資に該当する場合であるが、会計上の処理にかかわらず、簿価で受入処理がなされることになる。すなわち、本事件のように、430,442,435円の債権を162,000,000円で取得した後に現物出資を行った場合には、以下の税務上の仕訳を行う必要がある。 【現物出資法人の仕訳】 【被現物出資法人の仕訳】 ① 現物出資による受入れ ② 混同による消滅 この取扱いは、平成17年7月に稲見誠一先生と共著で出版した『ケース別にわかる企業再生の税務』(中央経済社)130-134頁で解説した内容と整合的であり、本事件における国税不服審判所の判断は妥当なものであったと考えられる。 なお、本事件は、平成21年4月28日東京地裁判決、平成22年9月15日東京高裁判決でも同様の判断がなされ、最高裁で棄却されたことから判決が確定したが、本連載において、これらの裁判例の紹介も行う予定である。 以上、第30回から第37回(本稿)までは、TAINSに収録されている非公開裁決事例の解説を行った。次回以降は、最近の主要な裁判例について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【71】 〔第8章〕判決を読む (その7) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (2 判決をみるポイント) (② 結果を左右した要素を見極める) ((3) 判決の示した「一般的法命題」は何か) (承前) ところで、この判決を左右した結果を見極めるためにも、事案の正確な把握は不可欠である。 そのためには、「下級審の判決をしっかり読む」ことが必要である。 前回紹介した判決において、原告が子会社の役員であるのみならず米国親会社の副社長でもあるが、そのことは第一審(東京地裁平成15年8月26日判決)にしか出てきていない旨記した。 このように、事案の判断に当たり大事な事実が、第一審の判決文にしか出てきていないケースがあるため、最高裁の判決について判断する場合においても、第一審や控訴審の判決を見る必要がある。 ③ 判例の射程を見極める 前回、「一般的法命題」をしっかり把握すべき点、説明した。 昨今、ある裁判例の「一般的法命題」が「判例」として信じられ、多くの裁判例において引用され判断基準とされてきたものが、下級審において「判例」ではないとされたうえ、最高裁においても「判例変更」と扱われず、上告受理申し立てが不受理とされた事案があった。 すなわち、最高裁昭和56年4月24日判決である。 この最高裁判決は、税法分野において非常に重要な判例とされ、これまで所得区分をめぐる争いの場合には必ずと言っていいほど参照され、その示された法命題により判断されてきた。 この中の同理由中、「同(上告代理人竹田章治の上告理由のこと。筆者記す。)第二点ないし第五点について」にある以下の部分である(下線は筆者による)。 この中の「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意志と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」は、事業所得に関する判断基準「独立性要件」として、これまで多くの裁判例で機能してきたものである。 一方、「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」は、給与所得に関する判断基準「従属性要件」として、これまで多くの裁判例で機能してきたものである。 しかしながら以下の事案においては、この判決にあった「判断の一応の基準」という文言から、これが「一応の基準」にすぎず、判例ではないとして、この独立性要件及び従属性要件による判断の枠組みを否定したのであった。 この事案では、家庭教師や塾講師(以下「家庭教師等」とする)を派遣している会社に、家庭教師等として支払う報酬が給与所得として源泉徴収義務があるか否かが争われた。 すなわち、原告は、家庭教師等が「使用者の指揮命令」という従属性要件を満たさないことから給与ではなく源泉徴収義務はないと主張した。一方、国側は、家庭教師等の報酬は「非独立的な労務の対価」として給与に該当し、支払者に源泉徴収義務があると主張したのであった。 そして上記最高裁昭和56年4月24日判決で示された「従属性要件」は「判断の一応の基準」でしかないとされたのであった。 (続く)