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包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第9回】「創設規定と確認規定③」

筆者:佐藤 信祐

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包括的租税回避防止規定

理論と解釈

【第9回】

「創設規定と確認規定③」

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

前回では、大阪高裁昭和39年9月24日判決の解説を行った。本稿では、最高裁昭和45年7月16日判決の解説を行うこととする。

本判決は、株主優待金の損金性について争われた事件であるが、むしろ東京地裁判決で傍論ではあるものの、同族会社等の行為計算の否認の適用対象として非同族会社も含まれるものとしている点が重要であり、同規定を確認規定であると考えている意味で興味深い判決であると言える。

 

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

①  第一審(東京地裁昭和40年12月15日判決・TAINSコード:Z041-1442)

第一審では、昭和30年10月1日から昭和31年9月30日までの事業年度分法人税の審査決定の取消しを求める訴えは、出訴期間を徒過した不適法な訴えであるとして却下されたものの、昭和31年10月1日開始事業年度以降の部分については、以下の理由により、原告の主張を認めた。

【判決文抜粋】

  • 法人税法が同族会社につき行為計算の否認の規定をおいたのは、同族会社においてはとくに租税回避行為が容易ひんぱんに行なわれるところから、同族会社に対する正当の課税を容易にするためにこれを設けたに過ぎないものと解すべきであって、非同族会社についてはこの規定がないからといって、前述のような、法人税法の基本目的より当然認められるべき否認が許されないと解すべき理由はないと同時に、否認の規定の設けられている同族会社についても、右基本目的から認められる範囲を越えて否認が許されると解することは相当でない。換言すれば、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、もっぱら、経済的、実質的見地において、当該行為計算が経済人の行為として不合理、不自然のものと認められるかどうかを基準としてこれを判定すべきものであり、同族会社であるからといって、この基準を越えて広く否認が許されると解すべきでないと同時に、非同族会社についても、右基準に該当するかぎり否認が許されるものと解すべきである。
  • 株主優待金は、これを経済的、実質的に見る限り金融機関の預金利子と異ならないものであり、これを益金処分の形式によらず損金の形式で支出したのは、あたかも、正規の金融機関が預金の利子を損金として支出するのと同様の、経済的、合理的理由に基づくものであって、経済的実質的に考察するかぎり、法人税軽減の目的がなかったとすれば、通常、決算上、利益処分としこれを支出したはずであるということがいえないのはもとより、それが経済的合理性をまったく無視した行為計算であるといえないことも明らかである。

②  控訴審(東京高裁昭和43年8月9日判決・TAINSコード:Z053-1936)

控訴審は、第一審判決をほぼ踏襲していることから、本稿では解説を省略する。

③ 上告審

【判決文抜粋(原判決破棄)】

かりに経済的・実質的にみれば、本件株主優待金が原審説示のような性質を有するとしても、その関係を法律的にみれば、前記の株主が被上告会社に支払うのは株式買受代金にほかならず、しかも、これのみに限られるのであって、右の株式買受代金が、同時に、被上告会社に対する消費貸借ないし消費寄託の目的となることはあり得ない。たとえ、被上告会社の新株発行に特異のものが認められるにもせよ、新株の買受人による買受代金の払込みにより、株金相当額が受け入れられて被上告会社は自己資本を増加し、増資の方法による資金調達の目的が達成されるのであって、かかる新株の発行を当然無効のものということはできず、株式買受人が取得するのは株主の地位以外のものではない。したがって、原判決が、実質的にみれば、株式買受代金が買受人と被上告会社との間の消費貸借ないし消費寄託における元本に、株主優待金がその利息に該当するというのは、前記の新株発行により有効に成立した法律状態を無視するものといわなければならない。

これを要するに、株式買受人が被上告会社から融資を受けるのも、また、株主優待金の支払を受けるのも、すべて、同会社の株主として享受しうるところであって、このように、被上告会社から株主たる地位にある者に対し、株主たる地位に基づいてなされる金銭的給付は、たとえ、被上告会社に利益がなく、かつ、株主総会の決議を経ていない違法があるとしても、法人税法上、その性質は配当以外のものではあり得ず、これを被上告会社の損金に算入することは許されない。

④  評釈

本事件は、株主優待金の損金性について争われた事件であるが、株主としての地位に基づいて行われたのであれば、法人税基本通達1-5-4において、「法第22条第5項《資本等取引の意義》の規定により資本等取引に該当する利益又は剰余金の分配には、法人が剰余金又は利益の処分により配当又は分配をしたものだけでなく、株主等に対しその出資者たる地位に基づいて供与した一切の経済的利益を含むものとする。」と規定されていることから、損金の額に算入できないことになる。

しかしながら、現在の税実務では、支払配当ではなく、交際費として取り扱うことの方が多いように見受けられる(ex.平成25年10月1日非公開裁決事例・TAINSコード:F0-2-528)

本事件でむしろ問題とすべきは、東京地裁判決において、非同族会社であっても同族会社等の行為計算の否認を適用することができるとしている点である。この点については、いずれの判決にも直接的に繋がっていないだけでなく、現行法上は、前述のように、同族会社等の行為計算の否認を適用せずに否認をしていることから、傍論ともいうべき箇所ではあるが、このような判断が当時の東京地裁でなされていたということは注目に値する。

さらに、「経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかどうかを基準としてこれを判定すべき」としていることから、経済合理性基準に近い判断がなされていることが分かる。また、東京地裁判決を細かく見ていくと、租税回避目的で行われた場合だけでなく、「直接法人税の回避軽減を目的としないときでも、経済的合理性をまったく無視したような異常、不自然な行為計算をとることにより(たとえば、債権者を詐害する目的で、会社資産を不当に低い価格で会社役員に譲渡した場合)、不当に法人税を回避軽減したこととなる場合には」としていることから、租税回避目的の立証は不要であるとの判断がなされていることが分かる。

同族会社等の行為計算の否認の適用対象を同族会社等に限るべきであるとするのが現在の通説であるとしても、その適用される場面としては、非同族対比説と経済合理性基準説の2つが挙げられるが、経済合理性基準説を適用する根拠としては、非同族会社に対しても同族会社等の行為計算の否認が適用されるとする説とは当然に異なるものである。

東京地裁判決は、非同族会社に対しても同族会社等の行為計算の否認が適用されると考えているようであるから、そのための基準として、非同族対比説はあり得ず、経済合理性基準説を採用したことは極めて自然な理論構成であったと言える。

次回は、広島高裁昭和43年3月27日判決について解説を行う予定である。

(了)

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」は、隔週で掲載されます。

連載目次

「包括的租税回避防止規定の理論と解釈」(全35回)

【第1回】 最近の税務訴訟の動き

1 最近の租税回避訴訟の動き

【第2回】 租税回避の定義

2 租税回避の定義

【第3回】 包括的租税回避防止規定の規定内容

3 包括的租税回避防止規定の規定内容

【第4回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史①

4 同族会社等の行為計算の否認の歴史

(1) 大正12年の規定の創設

(2) 大正15年度税制改正

(3) 昭和15年度税制改正

(4) 昭和22年度税制改正

【第5回】 同族会社等の行為計算の否認の歴史②

(5) 昭和25年度税制改正

(6) 昭和28年度から昭和40年度の税制改正

(7) 平成15年度以降の税制改正

【第6回】 国税通則法の制定に関する答申

5 国税通則法の制定に関する答申

【第7回】 創設規定と確認規定①

6 判例分析①(創設規定と確認規定)

(1) 総論

(2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035)

【第8回】 創設規定と確認規定②

(3) 大阪高裁昭和39年9月24日判決(TAINSコード:Z038-1314)

【第9回】 創設規定と確認規定③

(4) 最高裁昭和45年7月16日判決(TAINSコード:Z060-2590)

【第10回】 創設規定と確認規定④

(5) 広島高裁昭和43年3月27日判決(TAINSコード:Z052-1712)

【第11回】 創設規定と確認規定⑤

(6) 最高裁昭和54年9月20日判決(TAINSコード:Z106-4467)

(7) 最高裁平成16年7月20日判決(TAINSコード:Z254-9700)

【第12回】 行為計算の主体など

7 判例分析②(行為計算の主体)

(1) 東京地裁昭和45年2月20日判決(TAINSコード:Z059-2527)

(2) 評釈

8 判例分析③(行為・計算)

(1) 大阪高裁昭和35年12月6日判決(TAINSコード:Z033-0974)

【第13回】 行為・計算

(2) 最高裁昭和52年7月12日判決(TAINSコード:Z095-4019)

【第14回】 不動産関連の事案

9 不動産関連の事案

(1) 東京地裁平成元年4月17日判決(TAINSコード:Z170-6286)

(2) 福岡地裁平成4年2月20日判決

(3) 福岡高裁平成11年11月19日判決(TAINSコード:Z245-8529)

【第15回】 不当の解釈

10 不当の解釈(最高裁昭和33年5月29日判決・TAINSコード:Z026-0618)

(1) 第一審(東京地裁昭和26年4月23日判決・TAINSコード:Z010-0068)

(2) 控訴審(東京高裁昭和26年12月20日判決・TAINSコード:Z011-0103)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第16回】 不当の意味と課税要件明確主義

11 不当の意味と課税要件明確主義(最高裁昭和53年4月21日判決・TAINSコード:Z101-4179)

(1) 第一審(釧路地裁昭和49年4月23日判決・TAINSコード:Z075-3313)

(2) 控訴審(札幌高裁昭和51年1月13日判決・TAINSコード:Z087-3691)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第17回】 同族非同族対比基準

12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344)

(1) 事実関係

(2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723)

(3) 裁判所の判断

(4) 評釈

【第18回】 役員、従業員との取引

13 役員、従業員との取引

(1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859)

(2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556)

(3) 最高裁平成11年1月29日(TAINSコード:Z240-8327)

【第19回】 行為計算否認規定の論点

1 同族会社等の行為計算の否認の論点

2 包括的租税回避防止規定の論点

3 本連載の方向性

【第20回】 実質主義①

1 実質主義の定義

2 東京高裁昭和47年4月25日判決(TAINSコード:Z065-2900)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁昭和46年3月31日判決・TAINSコード:Z062-2712)

(3) 控訴審

(4) 上告審、差戻控訴審

(5) 評釈

【第21回】 実質主義②

3 東京高裁平成11年6月21日判決(TAINSコード:Z243-8431)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成10年5月13日判決・TAINSコード:Z232-8161)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第22回】 実質主義③

4 大阪高裁平成14年10月10日判決(TAINSコード:Z252-9212)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(神戸地裁平成12年2月8日判決・TAINSコード:Z246-8582)

(3) 控訴審

(4) 評釈

5 東京高裁平成16年1月28日判決

【第23回】 実質主義④

6 実質主義の実務への適用

(1) 基本的な考え方

(2) 具体的な検討

(4) 評釈

【第24回】 私法上の法律構成による否認論①

1 私法上の法律構成による否認論の概要

【第25回】 私法上の法律構成による否認論②

2 アルゼ事件(東京高裁平成15年1月29日判決・税資253号〔順号9271〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成14年4月24日判決・税資252号〔順号9115〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第26回】 私法上の法律構成による否認論③

3 公正証書贈与事件(名古屋高裁平成11年11月11日判決・税資245号〔順号8524〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成10年12月25日判決・税資239号〔順号8306〕)

(3) 控訴審・上告審

(4) 評釈

4 航空機リース事件(名古屋高裁平成17年10月27日判決・税資255号〔順号10180〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(名古屋地裁平成16年10月28日判決・税資254号〔順号9800〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第27回】 私法上の法律構成による否認論④

5 映画フィルム事件(最高裁平成18年1月24日判決・民集60巻1号252頁)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(大阪地裁平成10年10月16日判決・税資238号715頁)

(3) 控訴審(大阪高裁平成12年1月18日判決・税資246号20頁)

(4) 上告審

(5) 評釈

【第28回】 私法上の法律構成による否認論⑤

6 日蘭組合事件(東京高裁平成19年6月28日判決・税資257号〔順号10741〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成17年9月30日判決・税資255号〔順号10151〕)

(3) 控訴審

(4) 評釈

7 投資クラブ事件(東京高裁平成19年10月30日判決・税資257号〔順合10811〕)

(1) 事実の概要

(2) 第一審(東京地裁平成19年6月22日判決・訟月54巻9号426頁)

(3) 控訴審

(4) 評釈

【第29回】 課税減免規定の限定解釈

1 課税減免規定の限定解釈

2 制度の濫用論

3 次回以降の解説

【第30回】 租税回避と実務上の問題点①

1 はじめに

2 株式譲渡損益とみなし配当

3 税制適格要件

【第31回】 租税回避と実務上の問題点②

4 欠損等法人

5 適格合併による繰越欠損金の利用

6 損失の二重利用

【第32回】 租税回避と実務上の問題点③

7 清算所得課税

8 その他の論点

9 まとめ

【第33回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決①

1 包括的租税回避防止規定の射程

2 ヤフー事件

3 IDCF事件

【第34回】 ヤフー・IDCF事件最高裁判決②

1 租税回避の否認手法

2 事実認定に対する影響

3 法令解釈に対する影響

4 課税減免規定の限定解釈に対する影響

5 同族会社等の行為計算の否認に対する影響

【第35回】 租税回避の定義

1 租税回避の定義

2 立法論としての租税回避否認

3 まとめ

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筆者紹介

  • 佐藤 信祐

    (さとう・しんすけ)

    公認会計士・税理士、法学博士
    公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

    平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
    平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
    平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
    平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

    【主な著書】
    ・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
    ・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
    ・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
    ・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
    ・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
    ・『これだけ!組織再編税制』(共著、中央経済社)
    ・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
    ・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
    ・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
    ・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
    ・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
    ・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
    ・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
    ・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)

    その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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