《速報解説》 相次ぐインサイダー取引事案の発生に伴い、 注意喚起として「インサイダー取引に関するQ&A」が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年1月16日付けで(ホームページ掲載日は2025年2月3日)、日本公認会計士協会は、「インサイダー取引に関するQ&A」(法規・制度委員会研究報告第5号)を公表した。 2008年9月に、インサイダー取引防止のための検討プロジェクトチームからの報告「インサイダー取引に関するQ&A」を公表しているが、その後、インサイダー取引事案が相次いで発生していることから、今回、会員に対して改めて注意喚起を行うことを目的に、当該Q&Aを更新する形で、取りまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 公認会計士が「インサイダー取引規制」に違反した場合には、刑事罰又は課徴金の対象となることに加え、さらに「公認会計士の信用を傷つけ、又は公認会計士全体の不名誉となるような行為」(公認会計士法26条)と判断され、また、「正当な理由がなく、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用した」(公認会計士法27条)と判断されれば、公認会計士法違反となり、さらなる処分等を受けることも考えられるとのことである。 公認会計士以外の会計事務所の従業者もインサイダー取引規制の対象か、会計事務所を退職した場合又は監査業務提供先の担当を外れた場合の取扱いなど17項目について解説されている。 (了)
《速報解説》 金融庁、昨年12月に続く 「記述情報の開示の好事例集2024」第4弾として 「コーポレート・ガバナンスに関する開示例」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年2月3日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2024(第4弾)」を公表した。 昨年11月以降、次のように「記述情報の開示の好事例集2024」が公表されており、今回の公表はこれらに続いて、コーポレート・ガバナンスに関する開示(コーポレート・ガバナンスの概要、監査の状況、株式の保有状況)について議論したものである。また、「定量分析」も更新されている。 今後は第5回勉強会以降のテーマを追加して、公表、更新することを予定しているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資家・アナリスト・有識者が期待する開示を充実化させるための取組み 株主総会開催前に、有価証券報告書を提出している会社を紹介している。 Ⅲ コーポレート・ガバナンスの概要の開示例 主な開示のポイントとして、取締役会及び委員会の具体的な検討内容の開示において、特に重要な事項の記載を充実することは有用であること、取締役会の実効性評価により識別した課題と対応を開示することは引き続き有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(自社のガバナンスの実効性をステークホルダーに理解いただけるよう、取締役会での議論状況や、取締役の支援体制等について、できる限り具体的に記載したことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 Ⅳ 監査の状況の開示例 主な開示のポイントとして、重点監査項目を列挙することも有用だが、重点監査項目に対する監査結果や監査役会等の認識を記載することはより有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(監査役会実効性評価の開示が外部(報道機関など)の目に触れ、取組みについて新聞などで紹介されたことで自社の活動が認知されたことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 Ⅴ 株式の保有状況の開示例 主な開示のポイントとして、政策保有株式の売却により得た資金の使途を具体的に示すことが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(内閣府令の趣旨に従い、形式ではなく、実質的な株式投資の状況を保有目的別に記載したことなど)。 好事例のポイントとして、次のことが記載されている。 (了)
《速報解説》 政策保有株式の開示に関する改正開示府令が公布される ~パブコメを受けガイドラインを一部修正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年1月31日、官報号外第19号において「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第6号)が公布された。 これにより、2024年11月26日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されている。コメントのNo.47に記載のコメントを受けて、企業内容等開示ガイドラインの文言が修正されている。 これは、政策保有株式の開示について改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 有価証券報告書及び有価証券届出書における「株式の保有状況」の開示に関して、当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式(当事業年度末において保有しているものに限る)について、次の開示を求める。 また、企業内容等開示ガイドラインにおいて、次の規定を設け、「純投資目的」の考え方を明示する。 内閣府令(案)等に対するコメントのNo.11では、政策保有目的から純投資目的に変更後、5事業年度を経過すると開示対象から外れることとなる理解でよいかとのコメントに対して、ご理解のとおりですとの金融庁の考え方が示されている。 また、内閣府令(案)等に対するコメントのNo.13から15は、「保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」に関するコメントであり、次の考え方が金融庁から示されている。 内閣府令(案)等に対するコメントのNo.42、43は、企業内容等開示ガイドラインに関するものであり、「売却を妨げる事情」は「発行者との関係において」存在するものであることが重要であるとのことである。 Ⅲ 施行時期等 公布の日(2025(令和7)年1月31日)から施行する。 改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」の規定は、2025(令和7)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書及び有価証券届出書から適用する。 (了)
2025年1月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.604を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例142(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆相続があった場合の納税義務の免除の特例 相続により被相続人の事業を承継した相続人の納税義務の有無については、相続があった年は、相続人又は被相続人の基準期間における課税売上高のうちいずれかが1,000万円を超えるかどうかにより判定し、相続のあった年の翌年及び翌々年は、相続人の基準期間における課税売上高と被相続人の基準期間における課税売上高の合計額が1,000万円を超えるかどうかにより判定する。 ◆簡易課税制度選択届出書の効力(消基通13-1-3の2) 被相続人が提出した「簡易課税制度選択届出書」の効力は、相続によりその被相続人の事業を承継した相続人には及ばない。したがって、その相続人が簡易課税制度の規定の適用を受けようとするときは、新たに「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならない。 なお、簡易課税制度の適用の有無を判定する場合の基準期間の課税売上高は、あくまで相続人の基準期間の課税売上高だけで判定する。 〈相続があった場合の判定に用いる基準期間の課税売上高〉 ◆適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)(平成28年改正法附則51の2①②) (1) 経過措置の内容 「2割特例」とは、インボイス発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合又は免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることにより、納付税額をその課税標準に対する消費税額の20%とすることができる経過措置である。したがってインボイス発行事業者となる前から課税事業者である場合等には適用できない。 (2) 適用できる期間 「2割特例」を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間である。このため、免税事業者である個人事業者が令和5年10月1日から登録を受ける場合には、令和5年分(10~12月分のみ)の申告から令和8年分の申告までの計4回の申告が適用対象となる。 (出典) 財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」 (3) 適用できない場合 次のような場合には「2割特例」の適用はできない。 (4) 適用を受けるための手続き 「2割特例」の適用に当たっては、事前の届出は必要ない。消費税の確定申告書に「2割特例」の適用を受ける旨を付記することにより、適用を受けることができる。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第13回】 「学会において決済代行会社を利用する場合の税務上の留意点」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学会でセミナーや講習会を開催するにあたっては、決済代行会社を利用することがよくある。決済代行会社を利用する場合は、収入側(参加料収入)、支出側(決済代行手数料)に関して、それぞれ次の点に留意する必要がある。 1 収入側(参加料収入) (1) インボイスの代理交付 適格請求書発行事業者である学会においては、参加者に対してインボイスを交付する義務がある。 インボイスの交付に関しては、学会事務局で対応する方法も考えられるが、通常、決済代行会社を利用するケースは、参加人数が多いと思われるため、学会事務局で対応しようとすると事務負担が大きいと考えられる。そのため、決済代行会社を利用するような場合は、決済代行会社のシステム上において、インボイスが代理交付される形が望ましいといえる。 なお、インボイス制度開始後、多くの決済代行会社においては、インボイスの代理交付が可能なシステムを導入していると思われるが、その際は、決済代行会社のシステム上におけるインボイスの設定を確認し、インボイスの記載事項(学会の登録番号等)に漏れがないように留意する必要がある。 (2) インボイスの写しの保存 インボイスを交付した場合、その写しを保存する義務がある。不特定多数を対象としたセミナーや講習会の場合、仮に受講者の氏名を確認していたとしても、適格簡易請求書を交付することが可能である(【第1回】「セミナー受講料のインボイス対応」参照)。そして、適格簡易請求書の場合、インボイスの写しとしては、一覧表や明細表で問題ない(インボイスQ&A「適格請求書等の写しの範囲」)。そのため、セミナーや講習会のインボイスの写しに関しては、決済代行会社のシステムから出力された参加料の明細等を保存しておくことになる。 (3) 学会内の情報共有 学会のセミナーや講習会においては、学会事務局ではなく、セミナー等を担当する委員が、直接、決済代行会社を利用して参加料の管理をしているようなケースがある。この場合、決済代行会社のシステム上、インボイスの代理交付の設定が必要となる点やインボイスの写しを保存することが必要になる点について、学会事務局とセミナーを担当する委員との間で情報共有を図っておくことが重要となる。 (4) 学術集会で利用する場合 学術集会の参加料に関しては、単なるセミナーや講習会の参加料と異なり、会員か非会員かによって、課税区分が異なる(会員:不課税、非会員:課税)。 そのため、学術集会の参加料の場合は、会員か非会員かによって、決済代行会社のシステム上、交付する領収書の形式を変更する必要がある(【第3回】「学術集会の参加料のインボイス対応」参照)。 〈学術集会の参加者区分と交付する領収書〉 2 支出側(決済代行手数料) 決済代行会社を利用した場合、決済代行手数料を支払うことになる。決済代行手数料に関しては、システム利用料など課税取引となる取引内容と、クレジットカード決済に係る手数料など、消費税が非課税となる取引内容の両方が含まれているケースが多い。 すなわち、決済代行手数料に関しては、「一律、課税」又は「一律、非課税」というよりも、複数の課税区分が混在しているケースが多いため、課税区分にあたっては、決済代行会社からの請求明細の内容に従って、課税部分と非課税部分を区別することが重要となる。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第45回】 「市街化調整区域のうち都市計画法34条12号の対象となる宅地は、「地積規模の大きな宅地」に準じて評価することができないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷地積規模の大きな宅地 「地積規模の大きな宅地」の評価は、平成29年度の税制改正大綱において相続税等の財産評価の適正化が明記され、従来から評価方法の1つとしてあった広大地の評価が廃止される代わりに設けられた評価方法である。 広大地の評価は、標準的な宅地の地積に比して著しく地積が大きな宅地について開発行為を行った場合、道路や公園のような「潰れ地」が生じることから、この部分を減額させるために正面路線価に広大地補正率と地積を乗じていた。しかし、この評価方法には問題があった。広大地に該当するか否かの判断が難しく、納税者と課税庁の見解が異なるケースが散見され、数多くの訴訟が行われた。 そこで新たに設けられたのが、地積規模の大きな宅地の評価である。この評価は、「戸建住宅用地として分割分譲する場合に発生する減価を反映させることを趣旨とするものであることから、戸建住宅用地としての分割分譲が法的に可能であり、かつ、戸建住宅用地として利用されるのが標準的である地域に所在する宅地が対象となる。」(※1)と説明されている。 (※1) 国税庁ホームページ「「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)(平成29年10月3日付資産評価企画官情報第5号、資産課税課情報第17号)」4頁 このような趣旨であることから市街化調整区域においては、原則的には適用不可であるが、都市計画法34条10号又は11号に基づく地域は、戸建住宅用地としての分譲が法的に可能であること、戸建住宅用地として利用されるのが標準的である地域であることから適用可能とした。それでは、同条10号及び11号以外の法令に基づく市街化調整区域について、地積規模の大きな宅地として評価はできるのだろうか。 今回は、市街化調整区域のうち都市計画法34条12号の対象となる宅地についても、地積規模の大きな宅地に準じて評価できるかで争われた事例を検討する。 なお、都市計画法34条12号(令和2年法律第43号による改正前のもの)は次のように定められていた。 ▷どのような事例か 納税者は、相続により取得した市街化調整区域のうち都市計画法34条12号の対象となる宅地について、財産評価基本通達(以下「評価通達」という)に基づいて宅地の価額を算定して相続税の申告をした。その後、地積規模の大きな宅地に準じて評価額を減額される土地に当たるとして、相続税の更正の請求をした。しかし、処分庁から更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた。納税者はこの処分に不服であるとして、処分の全部取消しを求めて審査請求をしたのが本事例である。 ▷争点は この宅地が、地積規模の大きな宅地に該当するか否かである。 ▷審判所の判断は 審判所は、審査請求に理由がないとして請求を棄却した。市街化調整区域に所在する宅地であって、市街化調整区域のうち都市計画法34条10号又は同条11号の規定に基づき宅地分譲に係る開発行為を行うことができる区域(以下、それぞれを「10号区域」、「11号区域」という)に所在しないことから、評価通達20-2《地積規模の大きな宅地の評価》(以下「本件通達」という)の適用対象とならない。また評価通達5や、評価通達6の適用もない。よって、地積規模の大きな宅地に準じて評価することはできないとした。 ▷納税者の主張に対する審判所の判断は (※2) 前掲(※1)のあらまし * * * このように納税者の主張は全く認められなかった。一旦、評価通達に基づいて申告し、その後更正の請求を行う場合、受け入れられる可能性は低いといわれている。地積規模の大きな宅地は適用要件が明確化されたため、公式に当てはめれば、原則的には評価額が導かれる評価方法であるので、指定された法令以外の法令に基づいて、準じた方法で評価することは認めないということだろう。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第60回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 ウ 紙片を発行せずに振替式を利用する定めのある外国信託も含まれるとする見解②(社債等振替法に係る振替受益権との関係) (ア) 信託法と社債等振替法 社債等振替法の適用がある振替受益権に関する考察を手掛かりとして、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」には、少なくとも社債等振替法の振替制度に類似した振替式を採用し、(電磁的方式により)受益権を発行する定めのある外国信託も含まれるというような解釈を採用することに一定の合理性を認める見解も考えられる。 現在では、社債等振替法によって、有価証券に表示される権利全般について、権利の移転等に関して、ペーパーレス化を通じて、その流通の円滑化が図られている(高橋康文編著=尾崎輝宏『逐条解説 新社債、株式等振替法』28頁(金融財政事情研究会、2006)参照)。 受益権を表示する紙片を発行しないで社債等振替法を適用する振替受益権に係る信託であっても、信託法185条3項の受益証券発行信託として法人税法2条29号ハの特定受益証券発行信託に該当しうる。 会社法が株券の不発行を原則としているのに対し(会社214)、信託法上の受益証券発行信託は、受益権について受益証券の発行を原則としている。つまり、株式会社の株式と比較すると原則と例外が逆転している。この点は、投資信託の受益権と受益証券も同様である(投信法6②)(小島新吾編著『逐条解説 投資信託約款』94頁(金融財政事情研究会、2019)参照)。 特定受益証券発行信託とは信託法185条3項の受益証券発行信託のうち一定のものであるところ、受益証券発行信託の受益権は社債等振替法による振替制度の対象となっている。 社債等振替法は、社債、株式その他の有価証券に表示されるべき権利の振替に関し、振替を行う振替機関及び口座管理機関、振替に関する手続き並びに権利を有する者の保護を図るための加入者保護信託その他の必要な事項を定めることにより、社債、株式その他の有価証券に表示されるべき権利の流通の円滑化を図ることを目的としている(社債等振替1)。 社債等の有価証券に表示されるべき権利は有価証券によって流通の円滑化が図られているが、同法は、その権利関係を振替口座簿の記録により定まることとする振替制度を創設して、社債等の発行、譲渡及び償還を迅速に行うことを可能にし、かつ、物理的な券面(有価証券)の受渡しに伴う費用やリスクをなくそうとするものである。振替制度の対象となるものは、「社債、株式その他の有価証券に表示されるべき権利」であり、具体的には同法2条1項の社債等である(高橋=尾崎・前掲書28頁参照)。 この社債等の中には、投信法上の投資信託や外国投資信託の受益権、信託法上の受益証券発行信託の受益権が含まれている(社債等振替2①八、十、十一)。 まず、信託法では、信託行為においては、同法8章の定めるところにより、1又は2以上の受益権を表示する証券(受益証券)を発行する旨を定めることができるとされている(信託185①)。ただし、その信託行為において一部の受益権(特定の内容の受益権)については受益証券を発行しない旨を定めることもできる(信託185②)。上記の受益証券を発行する定めのある信託は受益証券発行信託と呼ばれる。 この受益証券発行信託においては、信託の変更によって上記各定めを変更することはできず、また、上記の受益証券を発行する定めのない信託においては、信託の変更によって上記各定めを設けることはできない(信託185③④)。受益証券発行信託の受託者は、信託行為の定めに従い、遅滞なく、その受益権に係る受益証券を発行しなければならない(信託207)。 次に、社債等振替法では、上記の受益証券発行信託の受益権(ただし、上記の特定の内容の受益権について受益証券を発行しない旨の定めのある受益権を除く)で振替機関が取り扱うものを振替受益権と呼び、この振替受益権についての権利の帰属は、同法6章の2の規定による振替口座簿の記載又は記録により定まるものとされている(社債等振替127の2①)。 振替制度を利用するためには、信託受益権の発行者は、「信託行為の定めにより」、あらかじめ振替機関で取り扱うことについての同意をしておかなければならない(社債等振替13①、127の2②)。この振替受益権については、原則として、受益証券を発行することができない(社債等振替127の3①)。振替受益権に関する信託法の規定の適用については、振替受益権は、「受益証券発行信託の受益権」とみなされる(社債等振替127の30)。 受益証券は発行されないものの、受益証券発行信託の受益権は存在していることになる。 要するに、振替制度では受益権について受益証券が発行できないが、受益証券がなくとも受益証券発行信託の受益権として信託法185条以下の適用があることが明確にされていることになる(高橋=尾崎・前掲書299頁参照)。 このような振替制度を利用する場合、信託法185条の受益証券の発行があったものとみなされたり、振替受益権が同条の受益証券とみなされたりする建付けにはなっていないものの、そうであるからといって信託法185条3項の受益証券発行信託に該当する可能性が遮断されるわけではない。 受益証券発行信託の受益権には、次の4種類があり、それぞれ規律される内容が異なる(道垣内弘人『信託法〔第2版〕』353~354頁(有斐閣、2022))。 補足すると、振替制度を利用する場合、発行された受益証券が振替受益権になるのではなくて、受益証券は発行されることがないまま、振替受益権が発生するという仕組みがとられること、受益証券は発行されないものの受益証券発行信託には該当するので信託法上の受益証券発行信託の特則もすべてそのまま適用されることになる。 法律の規定に照らし合わせると、次のように整理される(能見善久=道垣内弘人『信託法セミナー(4) 信託の変更・終了・特例等』205頁(有斐閣、2016)、弥永真生『条解 信託法』〔道垣内弘人編著〕851頁(弘文堂、2017)参照)。 (イ) 法人税法 法人税法の規定に視線を移してみると、同法2条29号ハ柱書は、「信託法185条3項に規定する受益証券発行信託」のうち一定のものを特定受益証券発行信託と定義付けしている。受益権を表示する証券を発行する信託という表現はとられていないことから、紙片を発行しない振替受益権であっても、信託法185条3項の受益証券発行信託に当たるのであれば、特定受益証券発行信託に該当する可能性は排除されない。 信託法では、信託行為においては、同法第8章の定めるところにより、1又は2以上の受益権を表示する証券(受益証券)を発行する旨を定めることができ(信託185①)、このように信託法第8章に基づいて受益証券を発行する旨の定めのある信託が受益証券発行信託と定義されている(信託185③)。上記のとおり、振替制度を利用する場合に信託行為において、「①受益証券を発行する、②受益権は振替機関において取り扱う」と定められるのであれば、信託法第8章の定めるところにより受益権を表示する証券(受益証券)を発行する旨が定められているといえるため、信託法185条3項の受益証券発行信託に該当する。 このように整理されるのであれば、仮に、法人税法において、特定受益証券発行信託の前提として、受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託であることを求める表現が採用されたとしても、紙片を発行しない振替受益権がそのような信託に該当する可能性は排除されない。 このように、振替制度を利用することにより、受益権の流通の円滑化が図られている場合に、受益権を表示する紙片を発行するか否かによって、課税上の取扱いが変わらないことは、特定受益証券発行信託を集団投資信託に追加した趣旨(本連載第58回参照)に照らして、合理性がある。 紙片を発行せずに振替制度を採用する信託が、特定受益証券発行信託の要件を満たさない場合には、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」(法法2二十九の二イ)に該当するかを検討することになるが、振替受益権について、上記のとおり、実際には受益証券は発行しないものの、信託行為においては「受益証券を発行する」と記載されるのであれば、少なくとも形式上は、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に該当することになる。 他方、受益権を表示する「紙片」を発行する旨の定めがない信託は「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に含まれないという見解を採用した場合には、本信託のように、紙片を発行せず(電磁的方式による)振替制度を採用する外国信託の場合には、信託契約等に紙片を発行する旨の定めがないことにより、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に該当しないということが起こりうる。 このような比較が示すバランスの悪さを考慮すると、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」には、少なくとも社債等振替法の振替制度に類似した振替式を採用し、(電磁的方式により)受益権を発行する定めのある外国信託も含まれるというような解釈を採用することに一定の合理性を認めることができる。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第64回】 「国際裁判官の恩給課税取消請求事件(地判令5.3.16)(その2)」 ~所得税法35条、ICJ規程32条等~ 税理士 青木 幹 6 裁判所の判断 ICJ規程32条8は、租税を免除されなければならない対象を、「salaries, allowances, and compensation」として規定する。その他ICJ規程32条には、同条1で規定する「annual salaries」、同条2で規定する「special annual allowance」、同条3で規定する「special allowance」、同条4で規定する「compensation」がそれぞれ用いられており、これらが、ICJ規程32条8に照らして、免税となることに疑いはない。他方、同条7において用いられている「retirement pensions」と同一の文言は、32条8には用いられていない。かかるICJ規程32条8の規定ぶりに照らせば、ICJ規程32条8が免税の対象とする「salaries, allowance, and compensation」には、同条7に規定する「retirement pensions」は含まれないと解するのが、条約法条約による用語の解釈として自然なものである。 原告は「allowances」 は、フランス語正文では(allocations)と表記されており、英語及びフランス語の辞書の複数で、すべての報酬の意味も含むとされており、「retirement pensions」が、免税を規定している同条8の直前に置かれている上、「The above」が、「salaries, allowances, and compensation」を指し示しており、「retirement pensions」もICJ規程32条8の免税に含まれると主張する。 しかし、前述のとおり、「salaries」、「allowances]、「compensation」のそれぞれの文言が、ICJ規程32条1ないし6において現れた後に、同条8において「salaries、allowances、compensation」を免税の旨定める同条の文脈に照らせば、ここでいう「allowances」とは、社会通念上「allowances」の語句に相当するような金銭一般を意味するのではなく、同条2及び3で「allowances」(「special annual allowance」及び「special allowance」)と規定された具体的金銭を指しているとするのが自然である。「retirement pensions」が「allowances」の一種という説明が辞書に記載されていることから直ちにICJ規程32条8にいう「allowances」に含まれると解することはできない。 加えて、同条1から7の一連の規程がICJ裁判官及び書記に対する報酬の種別、決定主体及び法定手続についての国連組織内におけるいわば内部的な法律を定めているものと解されることからすると、同条7と同条8の順序を入れ替えることは規定ぶりの並びにおいてやや不自然であるともいえ、同条8の位置からその租税免除対象に同条7の「retirement pensions」が含まれる(その解釈を避けたかったのであれば同条7と同条8を入れ替えれば足りたはずである)との原告の主張は、その前提においていささか無理があるといわざるを得ない。ICJ規程32条8の免税に「retirement pensions」が含まれないことは、「The above」の文言があることによっても左右されるものではない。 英国において、ICJ規程32条8に規定する「retirement pensions」が租税免除の対象となる「emoluments」(報酬)に含まれるとして課税していないとして、ICJ規程32条8の免税の対象に含まれると主張するが、条約法条約上、ある条約の解釈に当たり他国の慣例が考慮されるのは、それが「条約の適用について後に生じた慣行であって、条約解釈についての当事国の合意を確立するもの」に該当する場合であるところ、外務省が2000年以降にICJ裁判官を輩出した国のうち、「retirement pensions」を非課税と解している国が2ヶ国、課税と解している国が6ヶ国であり、フランス及びオランダの最上位の裁判所判決も課税するとしていることから、「retirement pensions」を課税しない慣行は確立していないといえる。 原告は、外務省調査が英国の事例を載せていないので信頼性がなく参照する価値はないと主張するが、非課税とする国も載せており、仮に英国の例を載せても、原告の主張するような当事国の合意を確立するような慣行にまで至っていないとみることができる。フランス及びオランダの裁判例は、書記(Registrar)に関するもので裁判官の受ける「retirement pensions」にはあてはまらない旨主張するが、ICJ規程32条7は、裁判官と書記が受ける「retirement pensions」に特段差異を設けた規定ぶりとなってない以上、裁判所書記に対する判決は、裁判官にも当てはまると解するのが自然である。 7 判例についての考察 ICJは、United Nations Charter(国連憲章)で、国連の主要な司法機関と定められおり、「Annex Statute(附属規程)」に従って機能を果たすとされている(※1)。また、Convention on the Privileges and Immunities of the United Nations(国際連合の特権及び免除に関する条約(国際連合特権免除条約)において、国際連合が支払った給与及び手当に対する課税を免除することとなっている(※2)。United Nations Charter(国連憲章)のAnnex Statute(附属規程)であるICJ規程は、条約に該当するとして、Vienna Convention on the Law of treaties(条約法条約)(※3)を解釈のよりどころとして、判示していると考えられ、被告が証拠として提出した規程制定の経緯やフランス及びオランダの最高裁判所の判示、外務省の調査結果からも、判決には共感できる。とりわけ、ICJ規程32条8の文言「The above salaries, allowances, and compensation shall be free of all taxation」には、文脈から「retirement pensions」を含まないと解釈することは、自然と考えられるが、課税していない国も存在する(※4)。 (※1) United Nations Charter, Chapter XIV: The International Court of Justice Article 92: The International Court of Justice shall be the principal judicial organ of the United Nations. It shall function in accordance with the annexed Statute, which is based upon the Statute of the Permanent Court of International Justice and forms an integral part of present Charter. (※2) Convention on the privileges and immunities of the United Nations, Section 18. Officials of the United Nations shall: b.be exempt from taxation on the salaries and emoluments paid to them by the United Nations; (※3) Vienna Convention on Law of Treaties: SECTION 3 INTERPRETAION OF TREATIES, Article 31 General rule of interpretation, 1 A treaty shall be interpreted in good faith in accordance with the ordinary meaning to be given to the terms of treaty in their context and in the light of its object and purpose. Article 32 Supplementary means of interpretation, Recourse shall be supplementary means of interpretation, including the preparatory work of the treaty and the circumstances of its conclusion, in order to confirm the meaning resulting from the application of article 31, or to determine the meaning when the interpretation according to article 31: (a) leaves the meaning ambiguous or obscure; or (b) leads to a result which is manifestly absurd or unreasonable. (以下、和訳) 条約に関するウィーン条約(条約法条約) 第3節 条約の解釈 第31条 解釈に関する一般的な規則 1 条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられた用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。 第32条 解釈の補足的な手段 前条の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の事情に依拠することができる。 (a) 前条の規定の解釈によっては意味があいまい又は不明確である場合 (b) 前条の規定の解釈により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらせられる場合 (※4) 黒神直純「国際裁判官の恩給に対する課税免除」ジュリスト1597号(令和5年度重要判例解説、2024年)268頁において、ICJ規程32条8の免税規程に恩給を含める慣行も含めない慣行も未だ確立しているとは言えないから、「租税免除を享受しない者からすれば、不満がくすぶり続けるわけであり、1日も早く国連として統一的な指針がうちだされることが望まれる。」との意見が国際法学者から表明されている。 一方で、この裁判では争われなかったが、Convention on the Privileges and Immunities of the United Nations Article V OFFICIALS Section 18 Officials of the United Nations shall: b. be exempt from taxation on the salaries and emoluments paid by the United Nations. (国際連合の特権及び免除に関する条約(国際連合特権免除条約)第5条第18項:国際連合の職員は、(b)国際連合が支払った給料及び手当に対する課税を免除される)とICJ規程32条8の規程とが一致していないことに触れておきたい。 国際連合特権免除条約は、ICJ規程32条8のように、免税範囲を「salaries, allowance, and compensation」としておらず、単に職員に国際連合から支払われる「salaries and emoluments」を免税と規定している。「emoluments」の意味は広く報酬を意味し、退職金や年金も含むとの解釈も十分にあり得ると考えられる。「emoluments」の一般的な用語の意味の手がかりとしては、「Cambridge Dictionary」では「payment for work in the form of money or something else of value」と定義され、用例として「The emoluments of the highest-paid director totalled £382,000, including pension contributions」とあり、年金拠出金などすべての報酬という解釈もあり得ると考えられる。 英国でのICJ裁判官の恩給を非課税とする取扱いは、使用している用語が「emoluments」であり、この用語は国際連合特権免除条約18条の用語であることから、ICJ規程ではなく、国際連合特権免除条約18条が非課税の根拠となっている可能性があると考えられる。同条約とICJ規程の射程が明確になるような改正や統一的な解釈の合意が国際連合で図られることが望まれる。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第10回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】(追加情報)から(連結キャッシュ・フロー計算書関係)までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 追加情報 連結財務諸表規則で特に定めている注記のほか、連結財務諸表提出会社の利害関係人が企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記する。この注記を追加情報という。 追加情報は、追加情報として独立して記載する場合と、関連する他の注記と同じ箇所に記載する場合がある。そのため、投資家がわかりやすいように記載することが考えられる。 例えば、以下のような場合には、追加情報として注記することを検討する必要がある。 【事例:(株)プレサンスコーポレーション 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:(株)SHIFT 2024年8月期の有価証券報告書】 【事例:ヤマトホールディングス(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 【事例:山一電機(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 2 連結貸借対照表関係 連結貸借対照表関係注記では、連結貸借対照表に関係する注記を記載する。例えば、以下を記載する。なお、以下を注記する場合は、連結で注記する必要があるため、各子会社の情報も入手する必要がある。 【事例:萩原工業(株) 2024年10月期の有価証券報告書】 【事例:(株)ティア 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:アイビーシー(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:浜松ホトニクス(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:(株)進和 2024年8月期の有価証券報告書】 3 連結損益計算書関係 連結損益計算書関係注記では、連結損益計算書に関する注記を記載する。例えば、以下を記載する。なお、以下を注記する場合は、連結で注記する必要があるため、各子会社の情報も入手する必要がある。 【事例:(株)アトラエ 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:三洋貿易(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:ニシオホールディングス(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 4 連結包括利益計算書関係 連結包括利益計算書関係注記では、連結包括利益計算書に関する以下の注記を記載する。なお、連結で注記する必要があるため、各子会社の情報も入手する必要がある。 【事例:KNT-CTホールディングス(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 5 連結株主資本等変動計算書関係 連結株主資本等変動計算書関係注記では、連結株主資本等変動計算書に関する以下の注記を記載する。 【事例:(株)イチネンホールディングス 2024年3月期の有価証券報告書】 6 連結キャッシュ・フロー計算書関係 連結キャッシュ・フロー計算書関係注記では、連結キャッシュ・フロー計算書に関する注記を記載する。例えば、以下を記載する。なお、連結で注記する必要があるため、各子会社の情報も入手する必要がある。 【事例:(株)ミツウロコグループホールディングス 2024年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)九電工 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)