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相続税の実務問答 【第111回】「非課税特例の適用を受けた住宅取得等資金の相続税の課税価格への加算-令和6年以降に相続時精算課税を適用した場合」

相続税の実務問答 【第111回】 「非課税特例の適用を受けた住宅取得等資金の相続税の課税価格への加算-令和6年以降に相続時精算課税を適用した場合」   税理士 梶野 研二   [答] お父様から贈与を受けた住宅取得等資金の額40,000,000円から、住宅取得等資金の非課税特例を適用した金額10,000,000円と相続時精算課税に係る基礎控除額1,100,000円を控除した残額28,900,000円が相続税の課税価格に加算される金額となります。   ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 生前贈与財産の相続税の課税価格への加算等 被相続人からの生前贈与が相続時精算課税の適用に係るものでない場合には、相続税法第19条第1項の規定により、相続開始前7年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額を、相続税の課税価格に加算しなければなりません(※)。 (※) 平成12年までに相続が開始した場合には、経過規定により加算対象期間が縮小されています(平成5年所得税法等の一部を改正する法律附則19②③)。また、加算される贈与により取得した財産のうち、相続開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、その合計額から100万円を控除した残額が相続税の課税価格に加算されます(相法19①)。 また、被相続人からの生前贈与が相続時精算課税の適用に係るものである場合には、相続税法第21条の15及び同法第21条の16の規定により、生前贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算又は算入することとなりますが、令和6年以降の相続時精算課税の適用に当たっては、受贈者ごとに110万円の基礎控除が認められていますので、当該生前贈与を受けた金額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額が相続税の課税価格に加算又は算入されることとなります(平成5年所得税法等の一部を改正する法律附則19④、相法21の11の2①②、措法70の3の2①)。   2 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例 父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」といいます。)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、この住宅取得等資金のうち非課税限度額までの金額は贈与税の課税価格に算入しません(措法70の2①)。この特例が、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税特例です(本稿ではこの特例を「住宅取得等資金の非課税特例」といいます。)。 この非課税特例を適用した金額については、相続税法第19条第1項の規定の適用においても、相続税法第21条の15第1項及び同法第21条の16の規定の適用においても、相続税の課税価格への加算又は算入の対象とはなりません(相法19①、21の15①、21の16①、措法70の2③)。   3 ご質問の場合 あなたは、お父様から相続により預金などを相続されるとのことですので、お父様からの生前贈与で、相続時精算課税の適用に係るものの金額は、相続税法第21条の15第1項の規定により、相続税の課税価格に加算しなければなりません。 しかしながら、あなたが、お父様から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、住宅取得等資金の非課税特例を適用した金額については、その贈与が相続時精算課税の適用に係るものであったとしても、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 また、令和6年以降の相続時精算課税に係る贈与については、基礎控除額を控除した残額を相続税の課税価格に加算することとされています(相法21の15①)。 一方、相続時精算課税に係る特別控除額に相当する部分については、この金額を加算の対象から除外する旨の特段の規定は設けられていませんので、相続税の課税価格に加算することになります。 したがって、令和6年にお父様から贈与により取得した住宅取得等資金40,000,000円のうち、住宅取得等資金の非課税特例を適用した10,000,000円及び相続時精算課税に係る基礎控除額1,100,000円を控除した残額28,900,000円を相続税の課税価格に加算することとなります。 なお、あなたが令和6年分の贈与税として納付した780,000円は、算出された相続税額から控除し(相法21の15③)、控除しきれない金額がある場合には、その控除しきれない金額の還付を受けることができます(相法33の2①)。 (了)

#No. 636(掲載号)
#梶野 研二
2025/09/18

給与計算の質問箱 【第69回】「役員が入院のため役員報酬を減額した場合の注意点」

給与計算の質問箱 【第69回】 「役員が入院のため役員報酬を減額した場合の注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社は12月決算です。代表取締役Aが病気のため9月から3ヶ月程度入院することになりました。入院予定の9月~11月の3ヶ月間の役員報酬を月額100万円から月額0円に減額した場合の注意点についてご教示ください。 A 以下に解説する。 * * 解 説 * * 1 定期同額給与に該当 病気のために職務執行ができないとして役員報酬を減額した場合、臨時改定事由による改定と認められ、定期同額給与に該当する(役員給与に関するQ&A[Q5]参照)。   2 傷病手当金の受給 健康保険から傷病手当金が支給される。 支給の条件として、以下の①~④の要件のすべてを満たさなければならない。   3 月額変更届の提出は不要 3ヶ月連続で2等級以上の報酬の増減があった場合には月額変更届を年金事務所へ提出しなければならないが、病欠の場合については月額変更届の提出は不要とされる。したがって、月額100万円にかかる健康保険料、厚生年金保険料は変更なしである。   4 給与計算 社会保険料は免除されない。役員報酬が月額0円だと月額100万円にかかる健康保険料、厚生年金保険料を控除できないことから、代表取締役から会社の口座に振り込んでもらうなどの対応が必要である。 (了)

#No. 636(掲載号)
#上前 剛
2025/09/18

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第76回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第76回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   イ RCASPと報告暗号資産交換業者等 CARFにおいて、顧客から提出された自己証明書の妥当性を確認し(デューデリジェンス義務)、税務当局に報告義務を負うのはRCASP(Reporting Crypto-Asset Service Provider)と呼ばれる暗号資産サービスプロバイダーである。 RCASPは、事業として、顧客のため又は顧客に代わって交換取引(報告の対象となる暗号資産と法定通貨との交換及び報告の対象となる暗号資産同士の交換)を実行する(effectuate)サービスを提供する個人又は事業体である。 つまり、RCASPは、暗号資産の流通・交換の場を提供し、利用者の代わりに取引を成立させる主体として、暗号資産等に係る報告制度の要となる。 こうしたRCASPの定義は、従来の金融機関に対してCRSが課していた報告義務の枠組みを、暗号資産の実務に合わせて再構築ないし別の枠組みとして拡張しようとする試みであるといえる。 RCASPには交換取引の相手方又は仲介者として行動する者や取引プラットフォームを提供する者が含まれる。RCASPの代表は、中央集権型の取引所であるCEXであるといってよい。 他方、単に、暗号資産の保管や移転に係るサービスを提供する者、ブロックチェーンのトランザクションの検証作業のみを行う者(マイナーやバリデータ)、暗号資産関連のソフトウェアやアプリケーションを開発・販売する者はRCASPに含まれない(OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 22, 53-54(2023))。 これは、報告制度の実効性を保ちつつも、技術インフラの維持・発展に関与する者に過剰な報告義務を課さないという、バランスある制度設計の表れであるとみることができよう。 かくして、純粋なカストディアンやウォレットサービスプロバイダーはRCASPに該当しないことになる(Raffaele Russo et al., Approval of the Cryptoasset Reporting Framework Is a Step in the Right Direction, 108 TAX NOTES INT’L 567, 569(2022))。 しかしながら、仮にそのカストディアンやウォレットサービスプロバイダーが、表向きには「保管サービス」を標榜していたとしても、実態として顧客の指図に応じて交換取引を実行しているのであれば、事業として、顧客のため又は顧客に代わって交換取引を実行するサービスを提供しているものに当たり、RCASPに該当すると判断される可能性が高い。 つまり、機能基準に基づく実質判断が制度上予定されており、形式的な業態区分に逃げ込む余地は少ない。 日本版CARFにおいて、RCASPに相当するのは「報告暗号資産交換業者等」である。 報告暗号資産交換業者等は、その年の12月31日において、自社との間でその営業所等を通じて暗号資産等取引を行った者(※1)が報告対象契約を締結している場合等には、次に掲げる一定の報告事項を、その年の翌年4月30日までに、その報告暗号資産交換業者等の本店等の所在地の所轄税務署長に提供しなければならない(実特法10の10①)。 (※1) CARFやCRSと同様に、脱税リスクの低いと考えられる事業体、すなわち上場法人等、上場法人の関連会社等及び国等は、報告対象外の者とされている(財務省「令和6年度 税制改正の解説」715頁)。 (※2) 外国の納税者番号に日本のマイナンバー(個人番号)は含まれない。上記の報告暗号資産交換業者等から所轄税務署長への報告事項は、CARFにおいて税務当局間で情報交換することとされている情報を踏まえたものとされており、いわゆる納税者番号については、外国の納税者番号は報告事項とされるが、日本のマイナンバーは報告事項とはされていない(財務省「令和6年度 税制改正の解説」699頁)。 上記の報告事項には、次の暗号資産等に係る公正市場価値額の合計額、総数量、合計件数などが含まれる。 報告暗号資産交換業者等とは次の〔1〕及び〔2〕のいずれの要件も満たす者である(実特法10の9⑤一、実特令6の18)である。 これにより、日本法上のライセンスを取得した事業者のうち、顧客の取引を仲介・実行する立場にある者が、RCASPと同等の義務、具体的には、情報収集・デューデリジェンス・税務当局への報告の一連の義務を担う主体となる。 いわば、ライセンス保有という形式的要件と、実質的な取引関与という機能的要件の双方が求められており、これはCARFの制度設計を国内法の枠組みに適合させるための工夫といえる。 日本版CARFにおける暗号資産等とは、①暗号資産(決済2⑭)②4号電子決済手段(決済2⑤四)、③電子記録移転有価証券表示権利等(金商29の2①八。ただし、資金決済法2条14 項各号に掲げる財産的価値に限る)である(本連載第75回参照)。 上記〔1〕の要件は、この日本版CARFにおける暗号資産等に対応する形で、報告暗号資産交換業者等に該当する者を定めていることがわかる。 CARFと同様に、暗号資産の「保管」や「移転」のみを行う事業者は報告義務者とはされない。 すなわち、媒介等に関与せずに、ウォレットサービス提供者といった技術的なインフラ提供者などは、原則として報告暗号資産交換業者等には該当しない。この点は、CARFとの整合性を意識したものと評価できよう。 このように、日本版CARFはCARFの制度趣旨を踏襲しており、課税情報の把握に実効性をもたらす主体を的確に捕捉する一方で、顧客の取引を仲介・実行するような役割を有していない事業者への過剰な規制を避けるバランスのとれた枠組みとなっている。 日本版CARFがCARFの枠組みを国内法に移植するにあたって、既存の規制法(資金決済法・金融商品取引法)との整合を図りつつ、取引当事者と媒介者との実態的関係に即した制度設計を行っていると評価することもできよう。 なお、日本版CARFにおいて、報告暗号資産交換業者等に対して、氏名や住所など所定の事項を記載した届出書を提出しなければならない利用者は、「暗号資産等取引実施者」と呼ばれている。 暗号資産等取引実施者とは、次の者である(実特法10 の9①前段)。 暗号資産等取引実施者は、特定対象者の氏名又は名称、住所又は本店等の所在地、居住地国、外国納税者番号等(※)の所定の事項を記載した新規届出書を、所定の期限までに、報告暗号資産交換業者等の営業所等の長に提出しなければならない(実特法10の9①)。 (※) 外国納税者番号等とは、特定対象者の住所等所在地国と認められる国・地域(外国に限る)として特定された国・地域においてその特定対象者が有する納税者番号又は内国法人である特定法人のうちその特定法人に係る実質的支配者(住所等所在地国と認められる国又は地域が外国であるものに限る)があるものが有する法人番号をいう(実特規16の16⑥、実特規16の3⑩)。   (了)

#No. 636(掲載号)
#泉 絢也
2025/09/18

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第79回】「非居住者期間の所得を合算課税することの可否が問題となった事例(地判平28.5.13、高判平29.5.25、最判平30.4.12)(その1)」

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第79回】 「非居住者期間の所得を合算課税することの可否が問題となった事例 (地判平28.5.13、高判平29.5.25、最判平30.4.12)(その1)」   税理士 柿本 雅一     1 事案の概要 納税者は日本で生まれたが出国し40年以上にわたり欧州(スウェーデン、デンマーク、英国、ハンガリー)で生活していた。デンマークに居住していた1987年にA社を設立し、ログハウスの輸入代行業を行っていた。 納税者は2000年に英国に移住したが、その際デンマーク税法の適用を受け、出国直前に有していた株式等を譲渡したものとみなしてこれを時価評価課税する出国税を課された(出国税は分割納付により2011年に完納)。2002年には英国からハンガリーに移住した。 2008年1月22日にA社はA社の所有するC社株式のすべてを第三者に売却する契約を締結し、同月31日に当該売買代金の80%に相当する金額の支払いを受け、残り20%相当の代金は同年3月31日に支払いを受けた。 納税者は2008年2月1日に日本に入国し東京都での居住を始めた。納税者は2008年分と2009年分の所得税確定申告書を法定期限までに提出したが、いずれの申告書にも外国子会社合算税制の適用が除外される旨を記載した書類は添付されていなかった。 東京国税局は2012年に納税者と面識する等の税務調査を実施し、2013年2月に外国子会社合算税制を適用する内容の更正処分をした。納税者は同年3月に異議申し立てを行ったが同年6月に異議申し立てを棄却された。さらに、同年7月に国税不服審判所に審査請求をしたが2014年7月に審査請求を棄却する旨の裁決が行われたため、同年10月に裁判を提訴した。 【本事案の時系列】   2 争点 本事例において争われた争点は以下の4点であるが、本稿においては納税者の所得税の額の計算上外国子会社合算税制が適用されるかに焦点を当てることにする。 外国子会社合算税制の適用に関しては、納税者が居住者であることが求められるものの法令上は居住者となった時期等について何ら明文で限定されていないことの解釈として、文理解釈を全うして制限を加えないことを正とするのかそれとも制度趣旨を踏まえて一定の制限を加えることを正とするのかという解釈論が中心的に争われている。具体的には、長年非居住者であった者が海外で外国法人を設立し、日本居住者になる前に当該外国法人が外国で稼得した所得であるため、日本での課税を回避する目的が乏しいにもかかわらず、その後日本居住者になったこと等形式的に課税要件に該当することを理由として同税制を適用することが適切かどうか問題となっている。 そこで、以下において、(1)制度趣旨、(2)非居住者の範囲、(3)条文解釈について納税者、税務当局、裁判所の主張を見ていくことにする。   3 納税者の主張 (1) 制度趣旨について 「外国子会社合算税制は、基本的に国際的な租税回避を防止するために導入された税制である。具体的には、居住者又は内国法人が軽課税国に子会社を設立し、そこに所得を留保して配当しないことにより、課税時期を遅らせる(課税繰延べ)などの租税回避行為が可能となるから、このような租税回避を防ぐことがその趣旨である」と述べ、居住者が軽課税国に子会社を設立して所得移転するケースの防止を想定している点を強調している。 (2) 非居住者の範囲について 「原告は、当時、デンマークの居住者であり、デンマークに会社を設立し、デンマークを中心に、C社の現地法人を設立しながら、北欧・ヨーロッパ全域へとビジネスを拡大していったのであって、原告、C社及びA社に日本の課税権が及ぶことはなかったのである。原告は、日本国の租税負担を回避する必要はなく、租税回避のためにC社及びA社を設立したわけではない。 また、原告が設立したデンマークの会社における利益の発生は、原告が日本国の居住者となる以前に完了しており、当該利益をデンマークの会社に留保しているという状況であったところ、それ以後に、原告は、2年という短期間のみ日本の居住者の地位を取得することとなった。 このように、たまたま日本の居住者となった原告に対し、それ以前に非居住者としてデンマークで上げた利益を、デンマークの法人に留保しているからという理由で、硬直的・形式的に外国子会社合算税制を適用するのは、措置法の趣旨を考慮しないものといわなければならないから、原告については、措置法40条の4第1項の規定が適用される理由はない。」と述べ、高裁において、さらに「措置法40条の4第1項は、非居住者が、外国において会社を設立し、そこで利益を上げて、当該利益を当該会社に留保してあるという状況にあり、かつ、当該非居住者が当該外国において利益を発生させた時点より以後の時点において、我が国の居住者の地位にあることとなったという状態などは全く想定していないのであり、このような場合に、控訴人が居住者の地位にあるとされるとしても、居住者たる地位を取得する以前に非居住者として外国で上げた利益について、日本国の課税権が及ぶことはあり得ないといわなければならないから、原告については、措置法40条の4第1項の規定が適用される理由はない。」と述べ、非居住者時代に外国子会社が稼得した利益について、その後居住者になることは法の想定していない状態である点を強調し、このような利益に対して日本の課税権が及ぶことはあり得ないと主張している。 (3) 条文解釈について 「学説、判例は、納税者の権利侵害の方向での縮小解釈ないし限定解釈を認めているのであるから、納税者の有利な方向で規定の縮小解釈ないし限定解釈をして、権利を侵害する規範の適用を否定することができるにもかかわらず、それを排除するということはあり得ない。このことは、縮小解釈ないし限定解釈をしない限り、規定の立法の趣旨に明らかに反することとなる場合は、なおのこと当然である。 措置法40条の4の規定を形式的に読む限り、特定外国子会社等に該当すれば、適用除外要件をすべて満たさない限り、外国子会社合算税制の適用があるように読める。しかしながら、同規定の立法者の意思は、そのような形式的・硬直的なものではない。 そして、本来、日本国に対する納税義務がない主体が、海外で設立した会社で上げた利益を留保し、その後、日本国の居住者となった場合には、外国子会社合算税制が予定する時系列とは時間的な順序において齟齬があることから、このような場合に、形式的に要件を満たしたというだけの理由によって、外国子会社合算税制を適用して課税するのは、措置法40条の4の立法の趣旨を理解せず、その解釈・適用を誤ったもので、違法であり、取り消されなければならない。」と述べ、条文を形式的・硬直的に読んで当てはめるのではなく、縮小解釈ないし限定解釈をして、立法趣旨に反する課税は否定されるべきだと主張している。   4 税務当局の主張 (1) 制度趣旨について 「外国子会社合算税制は、我が国の経済の国際化に伴い、子会社等を軽課税国に設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図る事例が見受けられたために、税負担の公平の見地からこれを防止することを目的として設けられたものであって、同規定では、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められる等一定の要件に該当する場合には、その特定外国子会社等の適用対象留保金額について、適用除外とすることを明らかにしている。」と述べ、税負担の公平の見地から租税回避の防止に制度趣旨があるとしている。 (2) 非居住者の範囲について 「いわゆるタックス・ヘイブンを利用する租税回避について税負担の公平の見地からこれを防止すべきであるとの趣旨は、我が国の居住者が軽課税国に子会社等を設立した場合のみならず、非居住者が軽課税国に子会社等を設立した後に我が国の課税権の及ぶところとなった場合も等しく妥当するものであって、居住者となった時期と子会社等を設立した時期の先後を問わないものである。 そこで、措置法は、外国子会社合算税制の規定の適用対象となる居住者については、その者に係る外国関係会社の各事業年度の終了の時において措置法40条の4第1項1号及び2号に掲げた要件に該当する者と規定するのみで(措置法施行令25条の24第1項)、居住者となった時期については何ら限定をせず、我が国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人(所得税法2条1項3号)をすべからくその対象としている。」と述べ、租税回避の防止の観点からは居住者となった時期と外国子会社が設立された時期の先後を問わないとしている。そして、その根拠を租税特別措置法の文理解釈に求めている。すなわち、条文上は外国子会社の事業年度終了時点で居住者であれば良く、居住者となった時期については何ら限定をされていない点を強調している。 (3) 条文解釈について 「租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合にはじめて、規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容を明らかにする目的的解釈が行われるべきであって、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うべきではない。 また、納税義務は、法律の定める課税要件の充足によって成立し、納税義務の内容は、専ら法律の規定によって定まるものであって、当事者の意思によって左右されるべきものではないから、明文の規定がないにもかかわらず、当事者の意思や意図といった当事者の主観的事情によって納税義務の内容等を左右することは許されない。」と述べ、税負担の公平を図る観点から原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合にはじめて、規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容を明らかにする目的的解釈が行われるべきであると主張している。   5 裁判所の判断 (1) 制度趣旨について 「この規定は、我が国経済の国際化に伴い、居住者が法人の所得に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(いわゆるタックス・ヘイブン)に子会社等を設立して経済活動を行い、当該法人の所得を留保することによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事態に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を居住者の雑所得の計算上総収入金額に算入することとしたものと解される。」と述べ、税負担の実質的な公平を図ることを目的として租税回避行為を防止することにあるとしている。これは過去の判例を踏襲したものである。 (2) 非居住者の範囲について 東京地裁は居住者の定義については触れずに2008年2月1日から2011年10月2日までの間日本に居住していたこと及びA社が特定外国子会社等に該当することを認定し、措置法40条の4第4項の適用除外要件を充足しない限り、措置法40条の4第1項が適用されるとしている。 (3) 条文解釈について 東京地裁は、「租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くため、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容を明らかにする目的論的解釈によるべきであるところ、措置法40条の4の規定の文言や意味内容は、上記のとおりであって、その文言等に照らし、文理は明確であるというべきである。そして、同条4項が、経済合理性を有すると認められるための要件を法定した上、これらの要件が全て満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしていることに照らすと、上記のような経済合理性を有するか否かの判断は、同項の規定する適用除外要件を満たすか否かによって判断すべきであって、同項の規定を離れてその判断をすることは予定されていないものと解すべきである。」と述べ、さらに東京高裁では具体的に、「同条は、それ以上に、居住者が租税回避の意図目的を有することや、居住者がタックス・ヘイブンに子会社等を設立し、その後、同社に所得を留保して租税回避をしたことを要件として要求していないことは規定の文言上明らかであり、また、非居住者が外国において会社を設立し、当該会社の利益が留保された状況で、その後に居住者となった場合を対象から除く旨の定めもないこと、租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くため、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、措置法40条の4の規定の文言や意味内容は文理上明確であることは、前記1において説示したとおりである。」と述べ、措置法40条の4が規定する文言や意味内容が明確であるから目的論的解釈をする必要はないと判断している。 ((その2)へ続く)

#No. 636(掲載号)
#柿本 雅一
2025/09/18

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第12回】「サステナビリティ情報はどんな基準に従って開示されるの?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第12回】 「サステナビリティ情報はどんな基準に従って開示されるの?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔ジャーナル食品社の登場人物〕 *  *  * 英語圏には「アルファベット・スープ」という表現があります。アルファベットの形をしたパスタ入りのスープのように、略語や頭字語のアルファベットがあふれ、理解しにくい状況を指す比喩です。 サステナビリティ情報開示への関心が高まるなかで、さまざまな機関や団体により、自主的な開示基準やフレームワークが数多く策定されてきました。これらの基準の存在は、企業によるサステナビリティ情報開示を促進するうえで大きな役割を果たしてきたといえます。 一方で、複数の基準やフレームワークが並立することとなり、アルファベット・スープと揶揄されることがありました。 *  *  * *  *  * (開示イメージ) 【GRIスタンダード対照表】 *  *  * *  *  * GRI(Global Reporting Initiative)は、1997年に米国で発足したプロジェクトに端を発します。非営利団体CERES(※1)と研究機関Tellus Instituteが共同し、国連環境計画(UNEP)の支援のもとで立ち上げられたものです。 (※1) CERES(Coalition for Environmentally Responsible Economies)は、1989年のアラスカ沖原油流出事故を機に設立された組織で、環境保全に関し企業が守るべき倫理原則として「バルディーズ原則(後の「セリーズ原則」)」を定めた。同原則には環境報告書の原型となる概念も含まれ、これはサステナビリティ報告書の源流と言える。 GRIは、サステナビリティ報告書に関する体系化されたガイドラインを公表しました。その後、GRIガイドラインは構造的に整備され、正式な報告基準「GRIスタンダード」へ移行しています。 GRIスタンダードは、企業や組織が経済・環境・社会に与える重要な影響について、投資家を含む幅広いステークホルダーに対し透明かつ比較可能な情報を開示することを目的とします。 *  *  * *  *  * SASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、2011年に米国で設立された非営利団体です。投資家の意思決定に役立てるため、企業にとって財務的に重要なサステナビリティ情報が一貫性・比較可能性のある形で開示されることを求めています。 2018年にサステナビリティ情報開示に関する基準である「SASBスタンダード」を公表しました。 *  *  * *  *  * IIRC(International Integrated Reporting Council;国際統合報告評議会)は、2010年に英国で設立された組織で、設立には当時のチャールズ皇太子(現・チャールズ3世国王)の支援も受けています。IIRCは、企業の財務情報とサステナビリティ情報を統合し、長期的な価値創造に焦点を当てた報告を促進することを目的として、「国際統合報告フレームワーク」を公表しました。 *  *  * *  *  * CDPは、2000年に英国で設立された国際的な環境非営利団体です。当初はCarbon Disclosure Projectの名称で脱炭素を働きかけていましたが、現在は森林保全や水資源管理にも活動範囲を広げ、略称のCDPを正式名称としています。CDPは、その活動に賛同する機関投資家や購買企業を代表して、環境課題に関する取り組みについての質問書を世界中の企業に送付し(※2)、その回答を収集して情報開示を促しています(【第8回】参照)。 (※2) 日本企業に関しては、2022年以降、プライム市場に上場する全企業が調査対象とされる。 また、CDPが中心となり、2007年にCDSB(Climate Disclosure Standards Board;気候開示基準審議会)が設立されました。CDSBは、企業の気候変動に関連する情報を、財務報告書類(年次報告書)のなかで開示する枠組みを提案することを目的とし、「CDSBフレームワーク」を公表しました。 *  *  * *  *  * 【ISSB設立前の「アルファベット・スープ」の状況】 *  *  * *  *  * こうした問題意識を背景に、サステナビリティ情報開示に関する統一した基準を設けようと各機関が協力する機運が2020年頃から高まりました。 *  *  * *  *  * IFRS(国際会計基準)の設定に関わるIFRS財団は、会計基準設定における実績や専門知識、各国との関係を活かし、財務報告と整合性のあるサステナビリティ報告の基準を開発することを提案しました。こうして2021年に設立されたのがISSB(International Sustainability Standards Board;国際サステナビリティ基準審議会)です。ISSBは、IASB(International Accounting Standards Board;国際会計基準審議会)と並ぶ形でIFRS財団のもとに置かれています。 *  *  * *  *  * SASBとIIRCは合併した後、ISSBに統合されています。CDSBもISSBに統合されました。TCFDは解散し、企業による気候変動に関する情報開示のモニタリングをISSBに委任しています。 *  *  * *  *  * 【ISSB設立後の状況】 2023年、ISSBは、サステナビリティ開示に関するグローバル・ベースライン(※3)として次の2つの基準を公表しました。 IFRS S1「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」 IFRS S2「気候関連の開示」 (※3) IFRS S1及びS2は、各国・地域がこれを共通基盤として採用したうえで、必要に応じ追加の開示要件を上乗せすることもできる設計となっている。これにより国際的な一貫性と比較可能性が確保される。 IFRS S1及びS2は、投資家等の意思決定に資するサステナビリティ関連財務情報を提供することを主な目的としています。サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表に含まれる情報を補足・補完するものと位置付けられています。 *  *  * *  *  * IFRS S1及びS2は、白紙の状態から開発されたのではなく、それまでに存在した基準やフレームワークを基礎として開発されました。TCFD提言における枠組みが踏襲され、SASBスタンダード及びIIRCの国際統合報告フレームワークはともにISSBに移行しています。 *  *  * *  *  * IFRS S1及びS2は、2024年1月1日以降に開始する事業年度から任意適用が可能となっています。法定開示書類における適用の義務化、すなわち制度としての開示は、各国当局の対応に委ねられています。 こうした動きを受け、我が国でも2022年にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が設立されました。SSBJも、FASF(財務会計基準機構)のもとASBJ(企業会計基準委員会)と並ぶ組織として位置付けられています。 SSBJは、IFRS S1及びS2に相当する日本版のサステナビリティ情報開示基準を策定し、2025年3月に次の3つを公表しています。 *  *  * *  *  * これらのSSBJ基準は、IFRS S1及びS2との整合性が図られ、原則としてIFRS S1及びS2の要求事項がすべて取り入れられています。SSBJ基準は、2025年3月期から任意適用が可能となっており、また、今後、プライム市場上場企業に対し、有価証券報告書におけるSSBJ基準に基づく開示が段階的に義務化される予定となっています(※4)。 (※4) 2025年7月に金融庁 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」から公表された「中間論点整理」によれば、プライム市場上場企業を株式時価総額に基づき次のようにグループ分けし、段階的にSSBJ基準の適用を開始する方針が示されている。 ⅰ 株式時価総額3兆円以上:2027年3月期より適用 ⅱ 株式時価総額3兆円未満1兆円以上:2028年3月期より適用 ⅲ 株式時価総額1兆円未満5,000億円以上:2029年3月期より適用  ただし、ⅲのグループについては引き続き検討し、2025年中に結論を出すものとされている。  上記に含まれない株式時価総額5,000億円未満のプライム市場上場企業については、数年後を目途に結論を出す方針が示されている。 *  *  * *  *  * Q サステナビリティ情報はどんな基準に従って開示されるの? A 従前、サステナビリティ情報開示に関する基準やフレームワークが複数並立しており、それを改善するべくISSBが設立されました。ISSBはこれらの基準を基礎に、サステナビリティ開示のグローバル・ベースラインとしてIFRS S1及びS2を公表し、我が国でもこれと整合するSSBJ基準が公表されています。SSBJ基準に従った開示は、今後、プライム市場上場企業について段階的に義務化される予定です。 (了)

#No. 636(掲載号)
#石王丸 香菜子
2025/09/18

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第69回】「定期建物賃貸借契約の基本的な仕組みと不動産鑑定の関わり(その2)」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第69回】 「定期建物賃貸借契約の基本的な仕組みと不動産鑑定の関わり(その2)」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回、借地借家法の適用される建物賃貸借契約の形態には、更新の有無に応じて2つのものがあり、「普通建物賃貸借契約」と「定期建物賃貸借契約」に分かれることを述べました。 そして、定期建物賃貸借契約に関しては書面なしでの契約の成立は認められないこと、貸主は借主に対し事前に書面を交付して「当該契約には更新がない」旨の説明を行わなければならない(これを欠いた場合は普通建物賃貸借契約とみなされてしまう)ことも併せて述べました。これらは主に契約という側面から定期建物賃貸借契約の特徴を捉えたものです。 そこで今回はこれらを踏まえた上で、鑑定評価という側面から定期建物賃貸借契約との関わりについて述べてみたいと思います。   2 鑑定評価と定期建物賃貸借契約との関わり 建物(敷地も含みます)を賃貸している状態で売買等を行う目的で鑑定評価が実施されることがしばしばあります。これを「貸家及びその敷地」の鑑定評価と呼んでいますが、評価に際しては、対象不動産に関して結ばれている契約が普通建物賃貸借契約であるか、定期建物賃貸借契約であるかにより、価格計算の基になる純収益の捉え方に大きな相違が生じます。 不動産鑑定士が鑑定評価の入口段階で契約形態の確認を行う理由はここにあります。 (1) 普通建物賃貸借契約の場合 普通建物賃貸借契約の場合は、更新を繰り返すことにより純収益を長期間にわたる継続的なものとして捉えるのに対し、定期建物賃貸借契約の場合は、更新がなく一定期間経過後に建物(敷地も含みます)が確実に貸主に返還されることを前提に、純収益を有限のもの(短期的なもの)として捉えることになります。 そのため、普通建物賃貸借契約の場合は、鑑定評価に際して土地建物に帰属する一期間(それも初年度)の純収益を還元利回りで割り戻し(=還元し)、土地建物一体としての価格を求める手法が適用されます。この場合、純収益は未来永劫に継続することを前提とするため、事実上、貸主の元に土地建物が返還されるという考え方は計算過程に織り込まれないこととなります。 この方法は、鑑定評価の用語でいえば、「直接還元法」あるいは「永久還元の手法」と呼ばれ、計算式は以下のとおりです(【第24回】にも掲載しましたが、同じものを再掲します。後掲の〈DCF法による計算式〉についても同様です)。 〈直接還元法による計算式〉 (2) 定期建物賃貸借契約の場合 一方、定期建物賃貸借契約の場合は、契約の残存期間にわたり年々の純収益を現在価値に割り引いてこれらを合計し、さらに契約期間終了後に貸主に返還される土地建物の時価から売却費用を控除した残額(=復帰価格)を現在価値に割り引いたものを合計した結果が「貸家及びその敷地」の価額となります。この方法は、鑑定評価の用語でいえば、「DCF法」と呼ばれ、計算式は以下のとおりです。 〈DCF法による「貸家及びその敷地」の価額〉 (※1) 将来時点での復帰価格は、契約期間終了の翌年の純収益をその時点での還元利回り(これを特に「最終還元利回り」と呼んでいます)で割り戻して求める方法が鑑定評価では一般的です。なお、最終還元利回りは、先々の時点におけるリスクを反映する分だけ高めとなる傾向があります。このようにして求めた結果を現在価値に割り引いたものがここに入ります。 〈DCF法による計算式〉   3 定期建物賃貸借契約と市場における賃料の関係 「貸家及びその敷地」の鑑定評価額は、市場において実際に授受されている賃料の水準によって大きな影響を受けることは改めて述べるまでもありません。賃料の高低が収益性に反映され、その結果が土地建物に帰属する純収益のいかんにつながるからです。 もちろん、賃料の高低のみが純収益を構成する要素ではありません(純収益=総収益-総費用として計算されるためです)。しかし、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約との間に賃料水準の相違があるのであれば、これを上記2で述べた収益還元法の計算式に反映させる必要があります。 定期建物賃貸借契約においては、特に居住用建物の場合、貸主は賃料を普通建物賃貸借の相場よりも安めに設定するケースもありますが、一般の賃貸市場において、定期建物賃貸借契約の物件が必ずしも安めとなっているとは限らない旨を前回の終段で述べました。 そこで今回は、公表された調査資料の中から参考となるものを紹介し、賃料水準を捉える一助としたいと思います。 ちなみに、アットホーム株式会社が2025年5月22日付で公表したニュースリリース「『定期借家物件』の募集家賃動向(2024年度)」(アットホーム調べ)によれば、例えば次の点が特徴として報告されています(※2)。 (※2) アットホーム株式会社の上記ニュースリリースより一部引用。なお、当該調査の対象エリアは、首都圏(1都3県)及び札幌市、仙台市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市です。 なお、具体的な賃料水準の調査結果については当該資料を参照いただくこととし、本稿では、「定期借家であるから賃料水準は普通借家よりも低い」という先入観は必ずしも正しくないという点を指摘しておきたいと思います。例えば、市場に供給されている定期借家の物件が、駅に近く利便性も良ければ、これよりも条件の劣る普通借家の物件と比較してやや高い賃料でも成約が見込めるからです。 不動産鑑定士としては、鑑定評価の対象となる物件が定期建物賃貸借契約に基づくものである場合、このような点にも留意の上、業務に携わっています。 (了)

#No. 636(掲載号)
#黒沢 泰
2025/09/18

《税理士のための》登記情報分析術 【第28回】「相続登記について」~相続登記の申請義務化~

《税理士のための》 登記情報分析術 【第28回】 「相続登記について」 ~相続登記の申請義務化~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   2024年4月1日から相続登記の申請義務化がスタートしたが、税理士にも顧客から内容について問い合わせが寄せられることがあると思われる。相続登記の申請を促進するためには税理士の適切な助言や税理士と司法書士の連携が重要となるため、本稿では相続登記の申請義務化の内容やどのように向き合うべきかについて解説を行う。   1 相続登記の申請義務化の内容 (1) 申請期限と過料 相続登記の申請義務化では、相続や遺贈により不動産の所有権を取得した相続人等 に対して、不動産を相続等で取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けている(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処することとされている(不動産登記法164条)。義務化の施行日である2024年4月1日より前に発生した相続についても対象となり、原則として施行日から3年以内(2027年3月31日まで)に登記申請を行う必要がある。 【施行日前に発生した相続についての申請期限のイメージ】 【施行日後に発生した相続についての申請期限のイメージ】 (2) 過料手続の流れ 相続登記の申請義務の違反について過料に処せられる可能性があるというと慌ててしまう顧客も多いかもしれないが、当面は緩やかに運用される。法務省が発出した通達等から明らかになっている過料手続の流れは以下のとおりである。 ① 登記官による「申請の催告」 登記官は過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときに、過料事件を管轄する地方裁判所へ通知することとされているが(不動産登記法164条)、相続登記の申請に関して、登記官が地方裁判所に通知を行うのは登記官から申請義務に違反している者に対して相当の期間を定めて相続登記の申請を促す催告(申請の催告)を行ったが、期間内に正当な理由なく相続登記が申請されない場合に限るとされている。 登記官がいかなる場合に「申請の催告」を行うのかについては、次の2つのケースであるとされている。 例えば、遺言書や遺産分割協議書に5筆の不動産について登記申請をした相続人が承継する旨の記載があるにもかかわらず、4筆しか登記申請しなかった場合などが該当する。 不動産オーナーが税理士の顧客である場合、相続登記の申請に必要となる費用が多額になるため、遺産分割協議書に記載した不動産のうち活用が決まっている不動産のみ相続登記の申請を行うケースもあると思われる。そのようなケースでは申請の催告が行われることになる可能性があるため注意が必要である。 ② 登記を行わない「正当な理由」の申告 登記官から申請の催告を受けた者としては、催告に従って相続登記の申請を行うか、登記の申請を行わない「正当な理由」の申告を行い、登記官に認めてもらうことで過料の制裁を免れることができる。 通達に記載されている正当な理由の例としては次のものがある。 登記官としては、これら以外の事情であっても申請をしない理由に正当性が認められる場合には、「正当な理由」に該当すると認めて差し支えないとされている。 【過料手続の流れ】   2 相続登記の申請義務化にどのように対応すべきか 本稿で解説したとおり、相続登記の申請義務化がスタートしたからといって、過料に処される事例が多発することにはならないと思われる。しかし、今後過料の手続の運用がより厳しくなる可能性はあり、また相続登記の申請を行う意義が顧客の資産を保全することにあると考えると、義務化をよいきっかけとしてすみやかに相続登記の申請を行うことを顧客に促す姿勢が望ましいといえるだろう。   (了)

#No. 636(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/09/18

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第27回】「スイッチングとは」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第27回】 「スイッチングとは」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇金融庁が掲げる3つの要望 8月29日、金融庁は「令和8(2026)年度税制改正要望について」を公表しました。主な要望項目は3つありますが、その中でも私たちの暮らしに直結するNISAに関する点を今回は解説していきます。 今回NISAについては、「資産運用立国」の推進ということで、以下3つの要望項目を挙げています。 このうち、①の対象商品の拡大を含む制度の充実というところに、注目が集まっています。 まず要望としては、「あらゆる世代が自身のライフプランに沿った形で資産形成を行えるよう、対象商品の拡充を含め、NISAの一層の充実のための措置を講ずること」を挙げています。   〇こども向けNISAの拡充への期待 あらゆる世代という点では、こども支援の一環として、つみたて投資枠における対象年齢等の見直しをこども家庭庁と共同要望としています。もしかしたら2024年に新規投資ができなくなったジュニアNISAが復活するかも知れません。 教育資金作りとしては、従来の学資保険という選択肢の他、投資信託の積立を実行する方も増えているので、こどものための資産作りとしてのNISAの拡大は大いに期待されるところでしょう。同様になかなか認知が進んでいない子どもや孫への生前贈与の際の優遇制度も、こどもNISAを通じて活用できるようにすると喜ばれるかも知れません。 具体的には、教育資金1,500万円まで非課税で生前贈与できる仕組みです。金融機関に孫や子名義の口座を作り、そこに1,500万円までの資金を一括で入金します。この資金は贈与とみなされず非課税です。そして受贈者である孫や子は、実際に支払った教育費の領収書を金融機関に提出することで、それに相当する金額を引き出します。学校の授業料の他にも塾代や習い事の費用も含まれます。ただし、この手続きについては、後払いであることや領収書の提出が面倒であるなどという指摘もよく聞きます。 また30歳になった時に引き出されていない資金があれば、そこには贈与税が課されるという点と、現状2026年3月までの適用であるという点は注意が必要です。子どものための制度の充実は、国としても考えているところでしょうから、この非課税での贈与の仕組みとうまくマッチさせた使いやすいNISAがあったら良いのではと思います。   〇高齢者向け「プラチナNISA」への注目 またNISAの活用でいえば、高齢者向けも期待されています。一部メディアではすでに「プラチナNISA」と呼んで報道しているところもあります。高齢者のためのNISAといって、非課税の枠が単純に大きくなるとは思えませんが、高齢期のお金の使い方を見込んで現状の改善が図られると良いと思います。   〇現行NISA制度の課題:スイッチング機能の必要性 要望項目としても挙げられていますが、「投資商品の入替をしやすくするための、非課税保有限度額の当年中の復活」というのは、高齢者のリアルな資金活用という観点でも非常に重要なポイントだと考えます。 現状NISAには、年間の投資額上限と生涯の投資枠の上限が設定されています。その上限があるからこそ、自身のポートフォリオの入れ替えが自由にできないという難点があります。イメージしにくいと思うので、事例でご説明します。 現状のNISAはこのような時に具合が悪いのです。なぜならば、NISAでは一旦購入した投資商品をNISA口座の中で入れ替えることができません。それでも入れ替えをしようとすれば、一旦商品を売却して翌年以降年間360万円の投資枠の中で低リスク商品を購入していかなければならないのです。 そもそも3,500万円という資金は生涯投資枠をはるかに超えているので、収まりようがありません。するとNISAにある商品をまとめて売却し、預金や特定口座で低リスク商品を買っていくしか方法がなくなってしまうのです。   〇スイッチング機能導入への期待 そこで最近有識者などが指摘しているのがNISA口座内でのスイッチングです。これが可能となれば、Aさんは、3,500万円の資金をNISA内で一旦売却し、そのまま低リスク商品に切り替えることができます。またそこから毎月10万円ずつお金を取り崩していけば、一生涯NISAの非課税枠を有効に使うことができるのです。 スイッチングは、時間の経過とともにリスク許容度が変わることを踏まえるととても重要な機能で、実際iDeCoはこのスイッチングをいつでも自由にすることができます。 NISAは創設の背景に、一般投資家を保護するという目的がありました。当時は、知識の乏しい投資家に、商品を売りつけ、また短期で売却させ、別の商品を買わせるといった「回転売買」が大きな問題になっていましたから、それを牽制するには枠の設定はやむを得ないのかも知れませんが、高齢期になってもスムーズにNISAを活用するためには、やはりスイッチングはできた方が良いのではと筆者も考えます。 ただしスイッチングができるようにするためには、大きなシステム改修が必須になるとも言われています。金融庁の要望が具体的にどういうものなのかも明らかになっていない中、先走ってしまうのも良くないですが、NISAは国民の資産形成を支えるとても重要な仕組みであるからこそ、今後の改正がとても気になります。 (了)

#No. 636(掲載号)
#山中 伸枝
2025/09/18

《速報解説》 石川県輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町の令和6年能登半島地震に係る国税の申告期限は令和7年10月31日に~今回の告示をもって延長措置は全て終了へ~

《速報解説》 石川県輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町の 令和6年能登半島地震に係る国税の申告期限は令和7年10月31日に ~今回の告示をもって延長措置は全て終了へ~   Profession Journal編集部   国税庁は、令和6年能登半島地震の発生を受け、石川県及び富山県に納税地のある個人・法人を対象として、令和6年1月1日以降に到来する国税の申告・納付等の期限を延長する措置を講じていた。しかし、すでに大部分の地域においては延長措置を終了し、引き続き延長措置が講じられている地域は、石川県輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町に限られていた。 これら地域における具体的な延長期限については、被災者の状況に十分配慮しつつ検討するとしていたところ、9月12日付けの官報において、上記地域に納税地がある個人・法人については令和7年10月31日を期限とする旨が告示された。 これにより、石川県・富山県に納税地のある個人・法人の令和6年1月1日以降に到来する国税に関する申告・納付等の期限を延長する措置は、今回の告示をもって全て終了することとなる。 なお、令和6年能登半島地震の影響により期日までに申告・納付等ができない場合には、所轄税務署長に申請して承認を受けることにより、引き続き期限延長措置を受けることが可能である。 また、申告は可能であっても、令和6年能登半島地震により財産に相当な損失を受けた場合や国税を一時に納付することが困難な場合には、所轄税務署長への申請により、原則として1年以内の範囲で納税の猶予を受けることができる措置は継続される。 そのほか、同じく9月12日付けで、石川県輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町における令和6年能登半島地震に係る審査請求の期限延長措置についても令和7年10月31日を期限とすること及び労働保険料、障害者雇用納付金などの申告・納期限の延長後の期限も同日とすることが、下記のとおり公表されている。 そのほか、上記告示に伴い地方税に係る申告等の期限の延長等についても総務省より下記のとおり通知が行われている。 *   *   * (了)

#Profession Journal 編集部
2025/09/16

《速報解説》 人事院、通勤手当の非課税限度額の引上げを勧告~令和7年4月からの遡及適用で年末調整での対応が必要となる可能性も~

《速報解説》 人事院、通勤手当の非課税限度額の引上げを勧告 ~令和7年4月からの遡及適用で年末調整での対応が必要となる可能性も~   Profession Journal編集部   Ⅰ はじめに 令和7年8月7日、人事院は「令和7年人事院勧告」を行い、令和7年4月1日以降の措置内容として、自動車などの交通用具使用者に対する通勤手当の額の引上げを勧告した。 人事院勧告は、国家公務員の給与水準の改定を主目的としており、民間企業の所得税法上の通勤手当の非課税限度額もこれに連動して改正されるのが通例である。今回も国税庁が今後の改正の可能性を示唆し、年末調整における対応を呼びかける特設ページを公開している。   Ⅱ 改正内容 今回の改正は、単なる金額の引上げにとどまらず、駐車場料金に関する新たな手当の創設、そして非課税限度額の適用時期が2段階に分かれる実務上極めて複雑な要素を含んでいる。 ②は令和7年4月実施、①及び③は令和8年4月実施が予定されており、②については令和7年4月1日以降の通勤手当に遡及適用されるため、既に支払われた通勤手当との差額調整が年末調整で必要となる可能性が非常に高いため、注意が必要である。 また、上記でお伝えした国税庁の特設ページには改正に係る情報が追加されていくものと思われるため、年末調整前には改めて確認したい。 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/09/11
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