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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例103】トヨタ自動車株式会社「監査等委員会設置会社への移行に関するお知らせ」(2025.2.25)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例103】 トヨタ自動車株式会社 「監査等委員会設置会社への移行に関するお知らせ」 (2025.2.25)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という)が2025年2月25日に開示した「監査等委員会設置会社への移行に関するお知らせ」である。監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行を決定したという内容である。 この開示の翌日26日、日本経済新聞(以下「日経」という)は本件を「トヨタ経営『社外の目』強化-監査等委員会設置会社に」と題し大きく取り上げたが、監査等委員会設置会社への移行は、「トヨタ(TOYOTA)」という社名のインパクトを除き、記事にするほど価値のある決定といえるのか疑問である。 すなわち、日経の記事には「ガバナンスを向上させつつ、電気自動車(EV)など変化の激しい市場環境に対応する」や「ガバナンス向上で株主などからの理解を得たい狙いがあるとみられる」とあり、監査等委員会設置会社への移行によりガバナンスが向上するかのように記載されているが、本当にトヨタのガバナンスは向上するといえるのか、検証してみたい。   2 監査体制の充実への疑問 監査の担い手を監査役会よりも取締役会の中の監査等委員会とした方が、監査は充実するのだろうか。 確かに、監査役による監査は、法令や定款に反していないかを確認する適法性監査であるとされるのに対して、監査等委員は取締役であるため、監査等委員会による監査は、適法性だけでなく妥当性の確認にも及び、その責任が重くなるとされる。そのため監査等委員会設置会社の⽅が、広範で⽔準の⾼い監査が期待できると⾔えるのかもしれない。しかし、今回の開⽰も⽇経の記事もこの点について⾔及しておらず、そうした監査を期待してよいのか、また、監査等委員に就任する⽅々もその覚悟を持っておられるのか、判然としない。 また、監査役会の「半数以上」は社外監査役、監査等委員会の「過半数」は社外取締役でなければならない(会社法331条6項、335条3項)。確かに「半数以上」よりも「過半数」の方が高い比率であり、社外出身者が多ければ、それだけ客観的な視点での監査が期待できると言えるかもしれない。実際に現在のトヨタの監査役会において、社外監査役が占める比率は半数であり、移行後の監査等委員会において社外取締役が占める比率は過半数である。ただし、現在の監査役の人数は「6名」であるのに対して、移行後の監査等委員の人数は「4名」である。社外出身者の比率が高まるといっても、そもそも監査の担い手の人数を縮小することに、支障はないのだろうか。 上述のとおり監査等委員会による監査は、監査役会による監査よりも広範で水準の高いものでなければならないはずである。さらに監査等委員は取締役であるため、監査以外の役割も担わなければならない。今回の開示には「内部監査室との連携強化による組織監査を充実化」とあるが、内部監査との連携はこれまでも行われており、今回の監査等委員会設置会社への移行によって監査がより充実したものとなるのか否か、判断するのは難しい。   3 執行への委任に対する疑問 今回の開示の「監査等委員会設置会社への移行のポイント」には「今回の移行により、重要な業務執行の決定について、取締役会から執行への委任が可能になり、意思決定が迅速化、取締役会は監督業務に注力」という記載がある。確かに監査等委員会設置会社では、取締役の過半数が社外取締役である場合や、定款に定めた場合は、重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるとされている(会社法399条の13第5項・第6項)。 しかし、監査等委員会設置会社へ移行した後の社外取締役は過半数ではなく半数とされており(10名中5名)、定款の変更も行っていないようであるため(定款の変更に関しては適時開示が必要だが、行っていない)、トヨタの言う「重要な業務執行の決定について、取締役会から執行への委任が可能」は、この会社法で定められた「重要な業務執行の決定を取締役に委任すること」を指しているわけではないようである。 同社の言う、監査等委員会設置会社への移行により可能となる「重要な業務執行の決定について、取締役会から執行への委任」が何を指すのかは不明だが、今回の開示によると、「執行役員」に権限を委譲するようである。監査等委員会設置会社への移行後、その「執行役員」は9名になるという(これまでは8名。2025年2月25日に開示された「役員人事に関するお知らせ」によると、「執行役員」を兼務する取締役は3名なので、6名は取締役以外の者)。 指名委員会等設置会社の場合、取締役会から少数の執行役へ重要な業務執行の決定を委任することができるため(会社法416条4項)、それによる意思決定の迅速化を期待できる。しかし、10名の「取締役会」から9名の「執行役員」へ重要な業務執行の決定を委任することにより、果たして意思決定が迅速になると言えるのだろうか。   4 指名委員会等設置会社へ移行しないことへの疑問 監査等委員会設置会社は2015年に導入された機関設計だが、多くの上場会社が監査役会設置会社からそれに移行した。本稿執筆時現在(2025年3月11日)、東京証券取引所上場会社のうち監査役会設置会社が2,096社であるのに対して、監査等委員会設置会社は1,625社であり、この傾向が続けば、近い将来、監査等委員会設置会社が上場会社における主流の機関設計となるかもしれない(ちなみに2002年に導入された指名委員会等設置会社(当時は「委員会等設置会社」)は95社にとどまる)。 監査等委員会設置会社がこれだけ広まった理由は、同じ2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」において、上場会社は複数の社外取締役の設置が必要とされたからだろうと思われる(原則4ー8。会社法でも上場会社における社外取締役設置義務の定めが設けられた(会社法327条の2))。 上述のとおり監査役会は3人以上の監査役で構成され、そのうち半数以上は社外監査役でなければならないため、監査役会設置会社のままだと、複数の社外監査役に加えて複数の社外取締役も置かなければならない。それならばと、監査等委員会設置会社へ移行した会社が多かったのではないだろうか。実際に監査等委員は監査役からの横滑りが多かった(トヨタの場合も4名の監査等委員のうち2名が監査役からの横滑り)。 そのため、多くの投資家は、監査等委員会設置会社への移行によりガバナンスが向上するとは思っていないようである。日経の記事には「ガバナンス向上で株主などからの理解を得たい狙いがあるとみられる」とあるが、期待したほどの評価は得られないのではないだろうか。 投資家からの評価を得たいならば、むしろ指名委員会等設置会社へ移行した方がよいのではないだろうか。トヨタの取締役会の中には「役員人事案策定会議」と「報酬案策定会議」という会議が置かれているが、同社の「コーポレートガバナンス報告書(2024年6月25日更新)」によると、「役員人事案策定会議」は指名委員会等設置会社における指名委員会、「報酬案策定会議」は報酬委員会と同様の役割を果たしている。指名委員会等設置会社における指名委員会と報酬委員会は過半数を社外取締役としなければならないのだが(会社法400条3項)、今回の開示の「コーポレートガバナンスの変遷」を見ると、「役員人事案策定会議」と「報酬案策定会議」は2019年から過半数が社外取締役とされている。 指名委員会等設置会社では、取締役会から執行役へ重要な業務執行の決定を委任することができるのは上述のとおりであり、同社がなぜ指名委員会等設置会社へ移行しないのか分からない。先の日経の記事では指名委員会等設置会社へ移行しない理由について、同社の総務・人事本部長が「全員参加で議論したい」と答えたとされているが、その真意も不明である。 (了)

#No. 612(掲載号)
#鈴木 広樹
2025/03/27

プラス思考の経済効果 【第34回】「2025年お花見の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第34回】 (最終回) 「2025年お花見の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 新型コロナの流行が落ち着いてから、お花見の人々が増加しています。いくつかの調査会社が実施した「お花見」に関する事前アンケートを見ると、2024年は、ほとんどすべての調査で「2023年よりお花見に行く」という回答でした。この傾向は2025年も継続すると予想されます。また昨今の観光客の増加傾向から、お花見客もさらに増加すると想定されます。 今回は2023年、2024年に続いて、今年のお花見の経済効果について分析してみましょう。   2 お花見の経済効果 「経済効果」とは、専門的には「経済波及効果」(以下「経済効果」と呼ぶ)と呼ばれ、「直接効果」、「一次波及効果」、「二次波及効果」の3つの効果を合計したものです。 お花見の「直接効果」は、お花見に行った観光客が直接消費する交通費、飲食費、土産代などの金額のことです。「一次波及効果」とは直接効果の原材料の売上増加額のことです。さらに、直接効果、一次波及効果を生み出す企業、店舗、工場などで働く経営者や従業員の所得増加額から消費に使われる金額が「二次波及効果」です。 以上の3つの効果の合計が、お花見の経済効果なのです。   3 日本在住の人たちのお花見の直接効果(消費支出額) (1) 日本の総人口 総務省統計局の2025年1月20日の発表によると、2024年8月1日の日本の総人口(日本人+在日外国人)は〈第1表〉のとおり、確定値で約1億2,389万人です。 〈第1表〉日本の総人口 本稿では、自主的に個人や家族、または友人たちとグループでお花見に行って1人分の経費がかかる年齢層を「10~84歳」と仮定しますと、合計約1億844万人となります。 (2) お花見に行く日本在住の人数 携帯電話向けの天気予報アプリケーションの「ウェザーニューズ」(2024年4月1日発表)によると、「お花見に行きます」と答えた割合は、52%(調査人数:1万1,115人、調査日:2024年2月25日~26日)でした。 また、体験型情報サイト「株式会社ファンくる」が2024年3月22日に発表した報道関係向け資料(調査対象:男性226名、女性786名、合計1,012名)によると、お花見に「行きたい」人は71%の割合でした。 本稿では、この2つのアンケート結果の平均値61.5%を採用します。 ① 10~84歳でお花見に行く人数 10~84歳の人口の約61.5%がお花見に行くと仮定すると、約6,669万人が自主的にお花見に行くことになります。 このうち10~19歳の学生や若者でお花見に行く人数は約657万人、20~84歳の大人でお花見に行く人数は約6,012万人となります。 ② 9歳以下の子供でお花見に行く人数 9歳以下の子供は両親や家族がお花見に連れて行くと考えられるので、同じ割合でお花見に行くと仮定しますと、約535万人が一緒にお花見に行くことになります。 また、85歳以上の高齢者も元気な人は、1人またはご夫婦、家族、友人とお花見に行くと考えられますが、本稿ではお金のかからない近くの公園や堤の桜を鑑賞すると仮定します。 ③ 0~84歳でお花見に行く人数 これまでの計算の結果、消費を伴うお花見に行く人数は約7,204万人となります。 (3) お花見における1人当たりの消費額 次に、お花見における1人当たりの消費額を推定します。マーケティング調査会社の株式会社インテージが2024年3月13日に発表した調査結果(15歳~79歳の2,500人の男女対象:調査期間2024年2月15日~2月19日)によると、お花見の1人当たりの予算は平均6,872円でした。 2024年12月24日公表の総務省統計局の資料では、総合物価指数は対前年同月比で3.6%の上昇でしたので、2025年も同じ比率で上昇すると仮定しますと、1人当たりの消費額は約7,119円となります。金額には、飲食費、交通費、土産代、雑費などが含まれています。 本稿では、9歳以下の幼児・子供の1人当たり消費額は大人の約3分の1の2,291円、そして10~19歳の学割を使用する場合や飲酒をしない学生や若者の平均消費額は6,872円より2,000円少ない約4,872円と仮定し、総合物価指数の上層率を加味すれば、それぞれ約2,373円、約5,047円となります。 (4) 日本在住の人たちのお花見の総消費額 以上の計算から、2025年の日本在住の人たちのお花見の総消費支出額は、約4,738億4,862万円となります。   4 訪日外国人のお花見の直接効果(消費支出額) (1) お花見に行く訪日外国人数 ① 春に日本を訪問する外国人数 昨年もお花見を目的に、春に訪日した外国人観光客はかなり増加しました。そして、今年は円安の影響もかなりの追い風になると考えられています。 株式会社JTBは、2025年の1月~12月の訪日外国人旅行者数は約4,020万人と、過去最多を予想しています。これは対前年度を9%上回る人数です。 この増加率を春の桜の時期の訪日外国人にも適用しますと、2025年の花見の時に訪日する観光客数の予測値は、〈第2表〉のようになります。 〈第2表〉春に訪日する観光客数 (注) 〈第2表〉は2024年の訪日外国人数のうちのビジネス客などの客を除いた純粋な観光客数であり、2025年の予測値も同様です。 ② お花見に行く訪日外国人数 日本の桜は、南から北まで3月中旬から5月中旬まで咲き誇るので、訪日外国人は長期間にわたって日本の桜を楽しむことができます。 桜を楽しむ外国人観光客は3月下旬(1か月の1/3)と、4月の1か月、5月上旬(1か月の1/3)にお花見に行くと仮定しますと、この間の訪日観光外国人の総数は約502万人となります。 (2) お花見に行く観光客の支出額 ① 訪日外国人観光客の1人当たりの支出額 国土交通省観光庁のインバウンド消費動向調査(2025年1月15発表)によると、2024年の訪日外国人の1人当たり消費支出額は22万7,000円でした。滞在日数として訪日観光客の滞在日数の平均値約7日を用いると、訪日外国人観光客の1人1日当たりの消費額は約3万2,429円となります。 そして前述のとおり、総合物価指数は対前年同月比で3.6%の上昇であったので、2025年も同じ物価上昇率を仮定しますと、訪日外国人観光客の1人1日当たりの消費額は約3万3,596円となります。 ② 訪日外国人のお花見の消費支出額 お花見に行く訪日外国人の人数は約502万人、1人当たりのお花見の支出金額は約3万3,596円として計算すると、訪日外国人のお花見の消費支出額は約1,686億5,192万円となります。   5 経済効果 (1) 2025年のお花見の経済効果 これまで計算してきた日本人と訪日外国人観光客のお花見の直接効果の総額(消費支出の総額)約6,425億54万円(約4,738億4,862万円+約1,686億5,192万円)の経済効果を推計します。 総務省内閣府が作成した最新の「全国の産業連関表」(2024年に発表した2020年版の「全国の産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析すると、〈第3表〉のように約1兆3,878億117万円となりました。 〈第3表〉経済効果 (2) 過去のお花見の経済効果 本連載でも昨年、一昨年と取り上げてきましたが、過去のお花見の経済効果の一覧表は、〈第4表〉のとおりです。 〈第4表〉過去のお花見の経済効果の推移   6 まとめ (連載了)

#No. 612(掲載号)
#宮本 勝浩
2025/03/27

《速報解説》 リース会計基準等の公表を受けた「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行される

《速報解説》 リース会計基準等の公表を受けた「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年3月24日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第20号)が公布された。「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」等の一部改正も行われている。これにより、2024年12月24日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。 内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財務諸表等規則等の主な改正 財務諸表等規則8条の6を改正し、「リースに関する注記」として、以下のように規定する。 下記のほか、財務諸表等規則8条の6第1項1号ロ及びハ、2号並びに3号に掲げる事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、当該事項の記載を省略することができる(財規8条の6第3項)などを規定する。 1 借手のリースに関する注記事項 2 貸手のファイナンス・リースに関する注記事項 3 貸手のオペレーティング・リースに関する注記事項 4 その他 上記のほか、例えば、次の改正事項がある。 第一種中間財務諸表及び第二種中間財務諸表の規定や、連結財務諸表規則についても、リースに関連する改正が行われている。 コメント対応No.3では、リース負債に係る利息費用の金額が営業外費用の総額の100分の10以下で一括して表示することが適当と認められるときに、他の費用と一括して表示する場合にも、リース負債に係る利息費用が含まれる科目と当該費用の金額を注記する必要がありますと記載されている。   Ⅲ 財務諸表等規則ガイドラインの主な改正 「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)」についても改正されている。 例えば、重要な会計方針の記載に関して、「ファイナンス・リース取引に係る収益及び費用の計上基準等」から「リースに係る収益及び費用の計上基準等」へ改正する(財務諸表等規則ガイドライン8の2の3、3(6)①)。 また、企業会計の基準の指定については、適用時期も含めて行われるものであることから、個々の企業会計の基準の適用時期については、特段の定めのない限り、個々の企業会計の基準の規定に従うものとする(財務諸表等規則ガイドライン1-3、2(1))。 販売費及び一般管理費に属する費用の例示から、「不動産賃借料」が削除されている(財務諸表等規則ガイドライン84)。 「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(連結財務諸表規則ガイドライン)」も改正されている。   Ⅳ 施行日等 公布の日(2025年3月24日)から施行する。 経過措置に注意する。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#阿部 光成
2025/03/25

《速報解説》 金融庁、「記述情報の開示の好事例集2024」の最終版を公表~重要な契約等、経営方針等、MD&A及び中堅中小上場企業の開示例に言及~

《速報解説》 金融庁、「記述情報の開示の好事例集2024」の最終版を公表 ~重要な契約等、経営方針等、MD&A及び中堅中小上場企業の開示例に言及~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年3月24日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2024」の最終版を公表した。 昨年11月以降、次のように、「記述情報の開示の好事例集2024」が公表されており、今回の公表はこれらに続いて、重要な契約等、経営方針等、MD&A及び中堅中小上場企業の開示例について議論したものであり、「記述情報の開示の好事例集2024」の最終版として公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 投資家・アナリスト・有識者が期待する開示を充実化させるための取組み 海外の情報開示姿勢に変化があったとしても、政策と情報開示は別であり開示しなくてはいけない内容に変化はないため、企業価値向上のために必要な開示が何かという明確なポリシーを持って開示をすることが重要であることなどが記載されている。   Ⅲ 経営上の重要な契約等の開示例 主な開示のポイントとして、重要な契約等と、経営方針や事業等のリスクなどの有価証券報告書の他の記載項目との連動性、関連性を意識した開示が有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(適時開示文書から必要な部分を的確に抜粋したことなど)。 好事例のポイントとして次のことが記載されている。   Ⅳ 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(経営方針等)の開示例 主な開示のポイントとして、経営環境の大きな変化等を踏まえて中期経営計画等をアップデートする場合には、アップデートに至った背景等を含め具体的に記載することが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(文章での記載から表形式の記載に変更し、見やすさ・理解しやすさを追求したことなど)。 好事例のポイントとして次のことが記載されている。   Ⅴ 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)の開示例 主な開示のポイントとして、経営判断に用いる独自指標、財務数値の分析結果や、環境変化の認識について具体的に開示することは有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(具体的な開示に基づき資本市場とのより深い対話が可能になり、当社への関心が高まったことなど)。 好事例のポイントとして次のことが記載されている。   Ⅵ 中堅中小上場企業の開示例 主な開示のポイントとして、有価証券報告書で開示しづらいネガティブな情報であっても、具体的に開示をすることで経営課題として認識して対処していることが伝わり、企業の開示姿勢や信頼性の向上につながるため、積極的に開示することが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(ストーリー仕立てで目標値を設定することで、なぜ取り組むのか、社員の納得感が深まったことなど)。 好事例のポイントとして次のことが記載されている。 (了)

#阿部 光成
2025/03/24

《速報解説》 会計士協会、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」等の改正を確定~我が国の職業倫理に関する規定に従った独立性の記載を追加~

《速報解説》 会計士協会、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」等の改正を確定 ~我が国の職業倫理に関する規定に従った独立性の記載を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年3月18日付けで(ホームページ掲載日は2025年3月19日)、日本公認会計士協会は、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第1号)などの期中レビューに関する報告書を公表した。これにより、2025年2月14日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。   Ⅲ 適用時期等 2025年4月1日以後開始する中間財務諸表に係る会計期間の中間財務諸表に対する期中レビューから適用する。 2025年4月1日以後開始する期中財務諸表に係る会計期間の期中財務諸表に対する期中レビューから適用する。 いずれも倫理規則(2024年7月18日変更)を早期適用する場合に注意する。 (了)

#阿部 光成
2025/03/21

プロフェッションジャーナル No.611が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年3月19日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.611を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/03/19

日本の企業税制 【第137回】「所得税の基礎控除の上乗せ(特例)に係る修正案」

日本の企業税制 【第137回】 「所得税の基礎控除の上乗せ(特例)に係る修正案」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇税制改正法案修正への経緯 令和7年度税制改正法案である「所得税法等の一部を改正する法律案」は、与党による修正を経て、3月4日に衆議院を通過した。本稿公開現在、参議院での審議中である。 今回の修正内容は、2月18日に再開した与党と国民民主党との間の税制協議の中で、与党側が提示したものである。この協議自体は、与党と国民民主党による合意には至らなかった。 国会に提出された当初の税制改正法案では、いわゆる「103万円の壁」への対応として、給与所得控除の最低保障額(現行:55万円)と基礎控除(現行:48万円(最高))とをそれぞれ10万円ずつ引き上げる(これにより課税最低限は123万円へ引き上がる)こととされていた。 与党による法案の修正案では、当初案の上乗せとして、租税特別措置法(案)第41条の16の2が追加されており、大きく恒久措置と時限措置に分けられる。   〇恒久措置 租税特別措置法(案)第41条の16の2では、第1に、給与収入200万円相当(給与所得控除後の合計所得金額ベースでは132万円)以下について、基礎控除の特別枠(恒久措置)として37万円を新設して上乗せすることとされている。これにより基礎控除は当初案58万円+上乗せ37万円=95万円(最高)となる。最低賃金で週40時間、休暇等も考慮して、年で48週働くと概ね200万円くらいになることが、その念頭にある。 上記の結果、給与収入200万円相当以下については、国会に提出されている税制改正法案(当初案)により123万円とされていた課税最低限が、160万円(基礎控除95万円(最高)+給与所得控除の最低保障額65万円)に引き上げられることになる。この水準は、東京の生活保護(生活扶助+住宅扶助)の水準(159万円)を念頭に置いたものである。   〇令和7年分及び8年分の時限措置 第2に、給与収入200万円相当を超えて475万円相当(給与所得控除後の合計所得金額ベースでは336万円)以下、つまり限界税率5%が適用される層については、基礎控除を30万円上乗せし、当初案の10万円と合わせて現行から40万円増加(48万円→88万円)とする。給与所得者の平均的な年収が460万円であることから、平均水準以下の層が概ねカバーされることとなる。 第3に、限界税率10%が適用される給与収入475万円超~665万円相当(給与所得控除後の合計所得金額ベースでは489万円)以下については、10万円上乗せし、当初案の10万円と合わせて現行から20万円増加(48万円→68万円)とする。 第4に、限界税率20%が適用される給与収入665万円超~850万円相当(給与所得控除後の合計所得金額ベースでは655万円)以下については、5万円上乗せし、当初案の10万円と合わせて現行から15万円増加(48万円→63万円)とする。 なお、第2から第4の措置については、物価高騰対策として令和7年分及び8年分に限定した措置とされている。 これらの措置により、減税額が平準化(1人当たり2~4万円程度)された形で、納税者5,600万人の8割強の約4,600万人がカバーされると見込まれている。   〇今後の物価上昇に伴う基礎控除の見直し方針 さらに、附則(案)第81条が設けられ、今後の物価上昇を踏まえて基礎控除を見直すこととされている。具体的には次のとおりである。 (了)

#No. 611(掲載号)
#小畑 良晴
2025/03/19

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第70回】「合同会社の社員に対する事前確定届出給与の支給」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第70回】 「合同会社の社員に対する事前確定届出給与の支給」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 株式会社と合同会社の相違 ネット上において「個人事業の法人成りは、手続き等が簡単な合同会社がお勧めです」等、合同会社のメリットを強調する内容が散見される。具体的には、合同会社の設立について、定款認証が不要であったり、登録免許税が株式会社設立の場合より低かったり、利益配分の自由度が高かったり、所有と経営が一致する形態であったりと、様々な内容が解説されている。 他方、法人成りについて株式会社を選択した場合、合同会社に比べてコストや自由度の面で劣る面があることは否めない。例えば、利益配分は原則的に株式数に応じる必要があるし、役員の選任(会社法329①)やその任期(会社法332)、そしてその職務執行の対価(会社法361①)、つまり役員報酬の額は株主総会の決議により定めなければならない。また、計算書類の承認についても定時株主総会で承認されなければならない(会社法438)。 このうち、職務執行の対価は株式総会の決議によって定めなければならないことは、いわゆるお手盛り防止と理解されている。これを前提に、定められる役員給与及び役員賞与の額は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると考えられ、その職務執行の開始の日は定時株主総会の開催日となると認識されている。そして、この職務執行の開始の日は、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限の判断に影響を及ぼすこととなる(※)。 (※)  事前確定届出給与に関する届出書については本連載【第17回】参照。 ここで、合同会社に関しては、会社法上、職務執行の対価を総会で決定すべきとする旨の規定がないため、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限の判断に迷うこととなる。   (2) 国税庁による文書回答事例 この点について、令和7年2月28日、東京国税局が文書回答事例「合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて」を公表したので、その内容を確認する(以下、「文書回答事例」という)。 文書回答事例では、合同会社が事前確定届出給与の制度自体を活用できるかどうか、かつ、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限について「社員総会の開催日から1月を経過する日」と理解してよいかを照会したものであり、東京国税局は、当該理解で差し支えない旨を回答している。 注目したいのは、照会した背景として、 とされていることである。 さらに照会者は、自社の状況について「前事業年度以前の決算の状況を踏まえた当事業年度の業績見込みを考慮してその決定を行うため、前事業年度の決算が確定する定時社員総会において、その役員給与及び本件役員賞与の支給日及び支給金額をその総社員の同意をもって決定することとして」おり、かつ「定時社員総会の開催日を業務執行社員の『職務の執行の開始の日』としている」ことを示している。   (3) 合同会社における事前確定届出給与の支給 文書回答事例では、これまで曖昧であった、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限について見解を示したものである。 照会者と同様、上記前提であれば事前確定届出給与損金算入が認められ、かつ提出期限の起点を定時社員総会の開催日として差し支えないと示された点は、実務上参考となるものであるといえる。   (了)

#No. 611(掲載号)
#中尾 隼大
2025/03/19

相続税の実務問答 【第105回】「特例施行前に贈与を受けた相続時精算課税適用財産が被災した場合」

相続税の実務問答 【第105回】 「特例施行前に贈与を受けた相続時精算課税適用財産が被災した場合」   税理士 梶野 研二   [答] あなたがお父様からアパートを贈与により取得したのは、令和2年であり、「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例」が設けられる前ですが、このアパートが被災したのは、この特例の施行日である令和6年1月1日以後の令和7年2月15日ですので、あなたはこの特例を適用することができます。 この特例を適用するためには、災害が発生した日(令和7年2月15日)から3年を経過する日までに、所轄税務署長に一定の書類を添付して「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する承認申請書」を提出し、その承認を受けなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 特定贈与者に相続が開始した場合の相続税の計算 相続時精算課税に係る贈与を行った者(特定贈与者)に相続が開始した場合には、相続時精算課税適用者は、相続時精算課税の適用を受けた財産の価額を、相続税の課税価格に加算又は算入して、相続税の課税価格を計算し、算出された相続税額から相続時精算課税に係る贈与税額に相当する金額を控除します (相法21の15①③、21の16①④)。相続時精算課税に係る贈与税額に相当する金額が当該算出された相続税額から控除しきれない場合には、その控除しきれない金額の還付を受けることができます(相法33の2①)。 相続税の課税価格に加算又は算入される相続時精算課税の適用を受けた財産の価額は、当該財産を贈与により取得した時の価額です(相法21の15①、21の16③一、相基通21の15-2、21の16-1)。例えば、贈与を受けた株式や土地の価額がその後、値上がりしたとしても値上がり前の価額を基に相続税の計算をすることとなりますので、値上がりが見込まれるこうした財産を相続時精算課税制度を利用して早期に贈与することは、相続税対策としては有効です(相続時精算課税制度の趣旨も、高齢者世代から現役世代に早期に財産の移転を図る点にありました)。 しかしながら、相続時精算課税の適用を受けた財産の価値が、大幅に下落してしまった場合やその財産が滅失してしまったような場合でも、贈与時の価額により相続税の計算をすることとなりますので、このような場合には特定贈与者の相続開始時には価値の減少した財産しかない、あるいは贈与を受けた財産が存在しないにもかかわらず、贈与時の価額で相続税の計算をすることとなり、納税者感情にそぐわないといえます。この点が、相続時精算課税の利用が進まない原因の1つであるとの指摘もされていたところです。   2 相続時精算課税適用財産が被災した場合の特例 (1) 特例の概要 令和5年度の税制改正において、相続時精算課税の適用を受けた土地又は建物が、一定の災害により相当の被害を受けた場合(この土地又は建物は災害発生時まで、相続時精算課税適用者が継続して所有していることが要件の1つとなっています)には、相続時精算課税適用者が所轄税務署長の承認を受けることにより、特定贈与者に相続が開始した際の相続税の課税価格の計算上、被災金額を減額することのできる特例措置が創設されました(措法70の3の3①)。この特例を「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例」といいます。 この特例は、令和6年1月1日以後に一定の災害により被害を受けた土地又は建物に適用されることとされており、同日前に贈与を受けた相続時精算課税に係る土地及び建物についても適用されます(注)。ただし、災害減免法との重複適用はできません(措法70の3の3③)。 (注) この特例は、令和6年1月1日から施行されており(所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)附則1三ニ)、施行日前に相続時精算課税に係る贈与により取得した土地又は建物であっても、施行日以後に被災した場合には適用するとされています(同法附則51⑤)。 (2) 特例の対象となる一定の災害による相当の被害 この特例の対象となる「災害」とは、震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害及び火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物による異常な災害をいいます(措法70の3の3①、措令40の5の3①)。 また、「相当の被害」とは、土地については、その土地の贈与の時における価額のうちにその土地に係る被災価額の占める割合が10%以上となる被害をいい、建物については、その建物の想定価額のうちにその建物に係る被災価額の占める割合が10%以上となる被害をいいます(措令40の5の3③)。被災金額の算定上、保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補填される金額は控除しなければなりません(措令40の5の3②) なお、この特例は、災害により土地そのものの形状が変わったことによる損失や建物の損壊及び滅失等による物理的な損失を対象としているため、近隣の環境変化(街路の破損、鉄道交通の支障)等により贈与により取得した土地の価額が下落するなど経済的な損失を受けた場合には、適用対象とはなりません。 (3) 特例を適用するための手続き この特例を適用するためには、災害発生日から3年を経過する日までに相続時精算課税適用者の贈与税の納税地の所轄税務署長に、被害を受けた部分の価額を明らかにする書類等を添付した「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する承認申請書」を提出し、その承認を受けなければなりません(措令40の5の3⑤)。承認申請書には、災害による被害を受けた部分の価額その他の一定の事項を記載します(措令40の5の3⑥)。 承認申請書の提出を受けた所轄税務署長は、審査のうえ、その申請について承認又は却下をし、その旨をその申請をした者に対して通知します(措令40の5の3⑦)。所轄税務署長が承認をしたときには、「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する承認申請に対する承認通知書」が送られてきますが、この通知書には審査を経た被災金額が記載されています(措令40の5の3⑧)。   3 ご質問の場合 あなたは、令和2年にお父様からアパートの贈与を受け、相続時精算課税を適用して贈与税の申告をしましたが、このアパートが令和7年2月15日に火災により焼失したとのことです。あなたがこのアパートを贈与により取得したのは、令和2年であり、特例が設けられる前ですが、このアパートが被災したのは、特例の施行日(令和6年1月1日)以後の令和7年2月15日ですので、上記2(1)のとおり、他の要件を満たす限り、あなたはこの特例を適用することができます。 この特例を適用するためには、災害が発生した日(令和7年2月15日)から3年を経過する日(令和10年2月15日)までに、あなたの住所地の所轄税務署長に、一定の書類を添付して「災害により被害を受けた場合の相続時精算課税に係る土地又は建物の価額の特例に関する承認申請書」を提出します。税務署長の審査を経て、申請が承認された場合には、承認通知書が送られてきます。その通知書に記載された「被災価額」を、お父様に相続が開始した場合の相続税の課税価格の計算上、アパートの贈与時の価額からその通知書に記載された「被災価額」を控除することとなります。それまでの間、税務署から送られてきた通知書や承認申請書の控えは、相続時精算課税選択届出書の控え、贈与税の申告書の控えとともに、確実に保管するようにしてください。 (了)

#No. 611(掲載号)
#梶野 研二
2025/03/19

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第67回】「バークレイズ銀行事件-実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否-(地判令4.2.1)(その1)」~所得税法12条の規定の趣旨~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第67回】 「バークレイズ銀行事件 -実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否- (地判令4.2.1) (その1)」 ~所得税法12条の規定の趣旨~   税理士 吉村 優     1 事実の概要 外国法人である原告の東京支店(以下「東京支店」という)は、その事業資金を調達するために、英国ロンドン市にある原告の本店(以下「ロンドン本店」という)から本支店間取引として融資取引により資金調達を行っていた。 原告においては、日本の課税額に係る外国税額控除を十分に受けられない年度が継続し、外国税額控除を受けられずに繰り越された部分が多額となっていた。平成23年頃、原告グループにおいて財務効率を改善するため、その資金調達の方法を、東京支店からロンドン本店に対して社債(以下「本件社債」という)を発行し、ロンドン本店は、外国法人かつ原告の完全子会社であるBに、Bは、内国法人であるCに順次本件社債を譲渡するという形式に変更した。 本件は、原告が、本件社債の利子(以下「本件利子」という)の収益を実質的に享受している者はC又はロンドン本店であるとして、本件利子の各支払に際して源泉徴収をしなかったところ、A税務署長から、本件利子の収益を実質的に享受している者はBであり、本件利子の各支払は外国法人に対する利子の支払に当たるとして、本件利子についての源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という)を受けたことから、本件各処分の取消しを求めるとともに、本件各処分に基づいてされた源泉所得税の本税、不納付加算税及び延滞税の各納付は法律上の原因なく行われたものであるとして、被告に対し、過納金として53億4,717万6,776円の還付及びその還付加算金の支払を求める事案である。   2 前提事実 ◎ 原告について 〈関係図〉   3 争点 本件の争点は、本件利子の実質所得者(所得税法12条)がロンドン本店であるかBであるかである(なお、Cが本件利子の実質所得者ではないこと、ロンドン本店が本件利子の実質所得者である場合には、原告に本件利子に係る源泉徴収義務が生じないことは、当事者間に争いはない)。 ((その2)へつづく)

#No. 611(掲載号)
#吉村 優
2025/03/19
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