〈2024年11月施行〉 フリーランス法のポイント 【前編】 「フリーランス法の概要と下請法・労働関係法令との相違点」 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 1 はじめに 近年、働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が普及している中で、フリーランスが発注者から一方的に契約を打ち切られたり、支払期日までに報酬が支払われなかったり、発注者からハラスメントを受けたりする等のトラブルが多く発生している。 このようなフリーランスの取引上のトラブルについては、独占禁止法(優越的地位の濫用規制)や下請法の適用による解決も考えられるが、競争秩序維持という公益保護を目的とする独占禁止法や資本金区分などにより適用対象が限定された下請法による規制には限界があり、フリーランスとの取引の適正化を図ることには困難が伴うことも多い。 また、フリーランスの就業環境に関するトラブルについては、労働関係法令の適用による解決も考えられるが、労働法上の規制による画一的な保護は、使用者の指揮命令に拘束されない多様で柔軟な働き方を選好したフリーランスにとって、かえってそのような多様で柔軟な働き方を阻害し得る側面があることに留意しなければならない。 「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「法」または「フリーランス法」という)は、こうした状況を踏まえ、フリーランスが当事者となる取引を包括的・実効的に規律する新法として制定された法律であり、2024年11月1日に施行される。 フリーランス法は、「個人」として業務委託を受けるフリーランスと、「組織」として業務委託を行う発注事業者との間に交渉力や情報収集力の格差が生じやすいことを踏まえて、「取引の適正化」(第2章)と「就業環境の整備」(第3章)を2本柱として制定されており、競争法(独占禁止法・下請法)と労働法の両面の規律を併せ持つ内容となっているが、一方で、発注事業者に対する過度な規制によりフリーランスへの発注控えが起こっては本末転倒であるから、発注事業者の過度な負担とならないような配慮がなされている点も本法の特徴の1つといえる。 2 適用対象取引 フリーランス法は、発注事業者と「特定受託事業者」(フリーランス)との間の「業務委託」取引に適用される。 「特定受託事業者」とは、「個人であって、従業員を使用しないもの」または「法人であって、1名の代表者以外に役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの」をいい(法2条1項、以下「フリーランス」という)、「業務委託」とは、「製造委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託(修理委託を含む)」の各取引をいう(法2条3項)。 当事者の性質と取引内容から適用対象を定める方法は下請法と同様であるが、下請法とは異なり、発注事業者およびフリーランス(受託事業者)のいずれについても資本金区分(下請法2条7項・同8項参照)を設けていないことから、フリーランス法の適用対象は下請法よりも広く、発注事業者がフリーランスに業務を委託する場合は、基本的にフリーランス法の適用があると考えておくほうがよいであろう。 3 取引の適正化(フリーランス法第2章) フリーランス法第2章は、フリーランスとの取引の適正化に関し、下請法の規律をベースとして、フリーランスと取引をする発注事業者に対して、①取引条件の明示義務(法3条)、②支払期日の設定および期日における報酬支払義務(法4条)、③発注事業者の禁止事項(法5条)の3つの内容を定めている。 各規律の内容および下請法との相違点は、以下のとおりである。 〈フリーランス法の規律の内容および下請法との相違点〉 取引の適正化に関する規律のうち、4条と5条は、従業員を使用する個人または法人等である「特定業務委託事業者(組織性のある発注事業者)」(法2条6項)とフリーランスとの間の取引に適用されるのに対し、3条は、組織性の有無にかかわらず、すべての発注事業者に適用されるため、フリーランス間の取引においても、3条通知は必要となる。 また、下請法と異なり、書類の保存義務がなく、禁止事項が一定期間以上の継続的な取引に限定されているのは、前記のとおり、発注事業者への過度な負担を回避することと、経済的な依存関係が生じやすい継続的な取引ほどフリーランスの保護の必要性が高いことを考慮して、規律の範囲を定めたことによる。 4 就業環境の整備(フリーランス法第3章) フリーランス法第3章は、フリーランスの就業環境の整備に関し、労働関係法令の規律をベースとして、フリーランスと取引をする発注事業者に対して、①募集情報の的確表示義務(法12条)、②妊娠・出産・育児・介護と業務の両立に対する配慮義務(法13条)、③ハラスメント対策に係る体制整備義務(法14条)、④中途解除等の事前予告・理由開示義務(法16条)の4つの義務を定めている。 各規律の内容および労働関係法令との相違点は、以下のとおりである。 〈フリーランス法の規律の内容および労働関係法令との相違点〉 5 違反した場合の制裁等 公正取引委員会は、フリーランス法第2章(取引の適正化)の規定の違反が認められる場合には、発注事業者に対して、勧告(法8条)、正当な理由なく勧告に従わない場合の命令(法9条1項)および命令の公表(法9条2項)を行うことができる。また、中小企業庁は、第2章の規定の違反が認められる場合には、公正取引委員会に対して、措置請求を行うことができる(法7条)。 厚生労働省は、フリーランス法第3章(就業環境の整備)の規定の違反が認められる場合には、勧告(法18条)、正当な理由なく勧告に従わない場合の命令および公表(法19条)を行うことができる。 命令に違反した事業者は、50万円以下の罰金に処せられる(法24条)。 以上のほか、公正取引委員会、中小企業庁および厚生労働省は、フリーランス法の施行に際し必要があると認めるときは、発注事業者に対し、指導および助言をすることができる(法22条)。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例98】 株式会社ファーマフーズ 「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」 (2024.9.24) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社ファーマフーズ(以下「ファーマフーズ」という)が2024年9月24日に開示した「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」である。同社の株主から、「最低でも向こうの5年間は配当を増額し株主の信用を取り戻すため」という理由により、1株当たり年間50円の配当を実施せよという提案がなされ、これに対して次のように反対している(赤い下線は筆者による)。 2 株主の信用を取り戻すため? 株主提案の理由として「株主の信用を取り戻すため」とあるが、ファーマフーズは株主の信用を失うようなことを行ったのだろうか。実は同社に対して、昨年にも同様の株主提案がなされている。 「昨年第3四半期に十分な説明も無く突如利益の殆どを広告宣伝費に充て株主の信用を裏切ったことが現在の株価に繋がっている。株主の信用を取り戻すべく配当の増額を要求する」という理由による、1株当たり年間100円の配当を実施せよという提案である(2023年9月19日開示「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」)。 同社は、これに対しても次のように反対している。 このとき提案した株主の保有議決権数が687個(議決権比率0.23%)、今回提案した株主の保有議決権数が676個(議決権比率0.23%)で、どちらの提案理由でも「株主の信用を取り戻す」という表現が使われているため、同じ株主である可能性が高い。 この株主は、「昨年第3四半期に十分な説明も無く突如利益の殆どを広告宣伝費に充て」たことが「株主の信用を裏切った」と考えているようである。2022年7月期の第2四半期までは黒字だったが(2022年3月7日開示「2022年7月期第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」)、第3四半期に赤字になっているため(2022年6月3日開示「2022年7月期第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」)、第3四半期における広告宣伝費を問題視しているのだろう。 次の表は、同社の2019年7月期から2023年7月期までの売上、利益、配当、株価をまとめたものである(第26期有価証券報告書)。 確かに2022年7月期は赤字になってしまったが、2023年7月期は黒字化している。また、2024年7月期も黒字で、1株当たり配当は25.0円と、2023年7月期よりも増えている(2024年9月12日開示「2024年7月期決算短信〔日本基準〕(連結)」)。株価も、2022年7月期以降は2021年7月期よりも低いようだが、2021年7月期は上がり過ぎだったようにもみえる。そもそも広告宣伝費は事前に株主に説明しなければならないものではないし、「株主の信用を裏切った」と言うのは乱暴なのではないだろうか。 3 株主への貢献とは? ファーマフーズは2019年7月期まで配当を実施しておらず、2020年7月期に配当を初めて実施した。2020年1月14日に開示した「剰余金の初配当(中間配当)の実施に関するお知らせ」の「2.理由」の記載は次のとおりである(赤い下線は筆者による)。 同社の経営方針は一貫しているように思われる。今回配当実施の提案を行った株主は、この開示を読んでいるのだろうか。2021年7月期の株価が高いときに株式を購入したのだろうか。株式投資は、会社の経営方針を理解した上で長期的な視点で行った方がよいように思われるのだが。 4 株主だけではなく バブル景気崩壊以降、日本企業の人件費は伸びていない(最近ようやく少しばかり伸びたが)。それに対して、株式持合いの縮小に伴い外国人株主やアクティビスト(物言う株主)が増えたせいか、株主に対する配当は増えている(最近では過大で適切とは思われない事例も見受けられる)。お金が従業員に回らず、株主に流出していく状態が続いてくと、どうなるのだろうか。そうした企業が成長できるのだろうか。 ファーマフーズは研究開発に積極的に投資するだけでなく、従業員の給与も増やしている。2019年7月期の従業員の平均年間給与は5.1百万円(平均年齢37.3歳)だったが(第22期有価証券報告書)、2023年7月期は6.3百万円(平均年齢37.8歳)になっている(第26期有価証券報告書)。人件費や研究開発費などが増えなければ、売上は伸びないだろう。株主への配当は、そうした上で得られた利益が配分されるべきである。 なお、念のため申し添えておくと、本稿は現時点における同社の開示をみた限りでの筆者の見解であり、筆者は同社が販売している育毛剤等の製品を使用したことはない。 (了)
《編集部レポート》 第50回日税連公開研究討論会が福岡で開催される Profession Journal 編集部 2024年10月18日(金)、日本税理士会連合会(太田直樹会長)は、第50回日税連公開研究討論会を福岡で開催した。 本年も会場での開催と同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリッド形式となった。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 (報道関係者に向けた記者会見の様子) 第50回の節目となる今回は、まず九州北部税理士会が担当した第1部「税はいかにあるべきか~格差から税の正義を考える~」では「公平・中立・簡素」という租税原則を再考すべく、「課税の公平」として税を分配する際の公平さ(分配における正義;タックス・ジャスティス)について、ジョン・レノンとジョン・ロールズ(社会哲学者)という2人のジョンの言葉を皮切りに、今日的な社会課題である格差の問題を題材とした発表が行われた。 次に南九州税理士会による第2部「税務コンプライアンスを考える~納税者のためにできること~」では南九州4県ごとにチームが編成され、日々変わりゆく経済社会において税理士が納税者のためにどのような取組みを行い社会的役割を担うべきかという観点から、書面添付制度やDX導入支援、租税教育などそれぞれの切り口で税務コンプライアンス向上に向けた発表が行われた。 第3部は沖縄税理士会により「消費税制の未来への提言~EUのVAT、ニュージーランドGST、消費税の比較を通じて~」と題して、複雑とされる日本の消費税制について、EUのVAT及びニュージーランドのGSTとの比較検証を行い簡素化に向けた提言を行うべく、松堂英斗NZ公認会計士を招いたパネルディスカッションが披露された。 研究発表後は伊藤恭彦名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授、山崎広道熊本学園大学会計専門職大学院特任教授、西山由美明治学院大学経済学部 法と経営学研究科教授より、それぞれ講評がなされた。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果へ熱心に耳を傾け、来賓として服部誠太郎福岡県知事、大石一郎福岡国税局長が来場、祝辞を述べられた。 (九州北部会の発表の様子) (南九州会の発表の様子) (沖縄会の発表の様子) (了)
《速報解説》 監査役協会、監査役会の実効性向上に向けた 監査役スタッフの業務について研究報告を公表 ~アンケートをもとに社外監査役の活動や三様監査のあり方等に言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年7月24日付で(ホームページ掲載日は2024年10月21日)、日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会は、「監査役会の実効性向上に向けた監査役スタッフの業務-社外監査役の活動及び三様監査会議の視点から-」を公表した。 これは、監査役会の実効性の向上に向けた監査役スタッフの業務について、社外監査役の活動と三様監査会議の視点で研究したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 社外監査役の監査活動と監査役スタッフ 最近の社外監査役の活動について、監査役スタッフ研究会に属している企業から情報収集を実施したところ、取締役会等の重要な会議体への出席や発言の機会は増加傾向にあり、活動が活発化していることがわかったとのことである。 例えば、社外監査役が取締役会で毎回発言する割合は、2007年と比較して2024年は増加しており、「必要に応じて発言あり」の割合も含めると8割以上の社外監査役が発言をしており、積極的な参加がうかがえるとのことである。 また、監査役の活動が活発になることにより、監査役スタッフに求められる能力も多様化し、監査役スタッフに対する期待も今まで以上に大きいものになっていることが推察されるとのことである。 Ⅲ 三様監査のあり方と監査役スタッフ 三様監査とは、「監査役監査」、「内部監査」、「会計監査人監査」の3つを併せたものをいい、三様監査において、監査役等は三様監査を統括する意識を持って、主体的な役割を果たすべきであるとのことである。 アンケート結果によれば、監査役、内部監査部門、会計監査人の三者が一堂に会して情報交換やコミュニケーションの機会を持つ(三様監査会議)を実施しているのは59.4%であったとのことである。 監査役スタッフの役割については、効果的なタイミングでの情報共有の実施やテーマ設定、スケジュール調整に留意している回答が多く見られたとのことである。 (了)
《速報解説》 JICPA、「監査法人の計算書類及び 監査報告書の文例に関する研究文書」を公表 ~廃止となった研究報告の内容をベースに一部変更・新設~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年10月16日、日本公認会計士協会は、「監査法人の計算書類及び監査報告書の文例に関する研究文書」(監査基準報告書700研究文書第1号)を公表した。 これは、監査法人が作成する年次報告書「業務及び財産の状況に関する説明書類」に含まれる計算書類の作成及び開示に当たり、参考となる内容を取りまとめたものである。また、一定の要件を満たした有限責任監査法人は、公認会計士法において当該計算書類の監査が求められていることから、当該監査において使用する監査報告書の文例も示されている。 研究文書の公表に伴い、監査事務所情報開示検討プロジェクトチーム「監査法人の計算書類及び監査報告書の文例に関する研究報告」は廃止された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究文書は、プロジェクトチーム研究報告の内容を基本的に引き継いでいるが、次の変更・新設が行われている。 (了)
2024年10月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.590を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第132回】 「労務費の転嫁促進など取引価格適正化に向けた取組み」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 自民党の石破総裁は、10月1日、第102代の内閣総理大臣に選出され、石破内閣が発足した。10月9日には衆議院が解散、第50回衆議院選挙は10月15日に公示され、10月27日が投票日である。 各政党の選挙公約も公表されているが、多くの政党で、中小・中堅企業における賃上げの促進とそのための取引価格の適正化が掲げられている。 例えば自民党の「総合政策集2024 J-ファイル」では、次のような記述がある。 〇買いたたきの規制 下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」)上禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」とされている(下請法4①五)。 「通常支払われる対価」は通常「市価」と解されているが、下請取引は個別性の高い委託取引が多く、「市価」の把握が困難であることから、従来、運用上の工夫として、市価の把握が困難な場合には「従前の対価」を「市価」として取り扱う運用が行われてきた。 しかし、近年のような労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇局面や、生産量が減少するなどの場合においては、下請代金が引き下げられていなくても、問題のある事態が生じている。例えば、コスト上昇局面においても価格が据え置かれる場合や、下請代金が引き上げられたものの、その上げ幅がコストアップに見合ったものではない場合、発注数量が大幅に減少しているにもかかわらず、単価が見直されることなく、量産時の発注数量を前提とした単価が継続している場合などである。 公正取引委員会は、本年5月27日に公表した「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」では、上記の価格据え置きのケースを念頭に、「主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額」を明示し、労務費等のコスト上昇局面では取引価格の据え置きも買いたたきに該当することが明確化されたところである。 また、7月22日から検討が開始された公正取引委員会と中小企業庁との共催の「企業取引検討会」では、適切な価格転嫁をわが国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、上記のような買いたたきの規制の一層の見直しも含め、下請法の改正も念頭に検討が進められている。 〇下請代金等の支払条件 下請法では、「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」が禁止されている。「支払期日」は、「給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日)から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない」とされている。この規定が制定された昭和37年当時の国会審議では、下請代金の支払いは現金払いが原則である旨の考え方が示されていた。 しかし、昭和40年の下請法の改正では、当時の金融情勢のひっ迫を踏まえ、手形での支払いを容認する運用を前提に、一般の金融機関による割引を受けることが困難と認められる手形を交付することを禁止する規定(下請法4②二)が設けられ、現在に至っている。 公正取引委員会及び中小企業庁は、昭和41年3月以降、繊維業は90日、その他の業種は120日をほぼ妥当と認められる手形期間(サイト)として、これを超える長期の手形を割引困難手形として指導してきた。平成28年には、公正取引委員会から、下請代金の支払いはできる限り現金によるものとすること等の要請も公表されてきた。令和3年には、公正取引委員会事務総長及び中小企業庁長官の連名の文書をもって関係事業者団体に対して、下請代金の支払いに係る手形等のサイトについては60日以内とするよう要請が行われた(手形通達の見直し)。 さらに、公正取引員会は、下請代金の支払手段に関して定める指導基準等を本年4月に変更し、本年11月1日以降に手形期間が60日を超える長期の手形等を交付した場合、下請法上の割引困難な手形等に該当するおそれがあるとし、10月1日、親事業者約600者に対し、下請代金の支払いにおける手形等のサイトを60日以内に短縮するよう求める注意喚起を実施した。 また、前記の「企業取引検討会」では、電子記録債権や一括決済方式(ファクタリング)についてもサイトについて同様の問題があるとしている。ファクタリングについては、利用手数料が差し引かれた金額しか受け取ることができないとの指摘もある。類似の問題として、民法上は債務者(発注者)負担が原則(民法485)とされている振込手数料を債権者(受注者)に負担させる商慣習も挙げられている。 〇振込手数料の消費税の取扱い インボイス発行事業者が国内で行った課税資産の譲渡等につき、返品や値引き、割戻しなどの売上げに係る対価の返還等を行った場合には返還インボイスの交付義務があるが、その金額が税込1万円未満である場合には、返還インボイスの交付義務が免除される(消法57の4③、消令70の9③二)。 受注者が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合も、振込手数料相当額が1万円未満であれば、これに該当すると考えられるが、振込手数料を受注者が負担する商慣習が改められれば、こうした取扱いも不要となるのかもしれない。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第66回】 「功績倍率と功労加算」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 裁判例にみる功績倍率法の起源 今日では、税務上の役員退職給与の過大性判定において、代表取締役の退任であれば功績倍率を3倍以下とすることが無難である旨が実務上浸透していることは、本連載の各所で触れてきた通りである。ここで、功労加算の検討のため、昭和40年における法人税法の大改正以降の裁判例にいくつか触れる。なお、その当時は旧法人税法36条「内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、当該事業年度において・・・・・・損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」という規定が争点となっていたことに留意したい。 判例データベース上、功績倍率という用語が初出として確認できるのは、おそらく東京地裁昭和46年6月29日判決であると思われる(※1)。 (※1) 税務訴訟資料62号1002頁、TAINS:Z062-2753。 この裁判例は、課税庁側が同業類似法人を抽出し、功績倍率法を用いて更正処分等をしたことに対し、地裁が、旧法人税法36条等が設けられているのは、退職給与の損金性を決定する尺度となる役員の会社に対する貢献度を測る基準がなく、「個々具体的な退職給与金額には多分に益金処分としての性格を有する支出の含まれている事例が少なくないところから、・・・法人の行為計算のみにとらわれることなく、その合理性の検討について特に注意を喚起せんとするにとどまり、損金としての要件を具備する役員退職給与であっても、当該事案における特殊事情をすべて捨象して同業種、同規模の他の会社の役員退職給与の支給金額をこえる部分の損金算入をすべて否定せしめんとする趣旨に出たものではないと解すべきである」とし、役員の貢献度は設備投資の有無や功罪によっても異なるとし、損金算入の是非は支給実態による旨を示して、課税庁が同業類似法人を抽出した上で功績倍率法の主張をしたものの退けられた事例である。 これに対し課税庁が控訴した東京高裁昭和49年1月31日判決では(※2)、課税庁側が同業類似法人を抽出したうえで平均功績倍率法にて更正処分等をしたことは、旧法人税法36条の趣旨に合致する旨を示し、一転して納税者の主張が退けられている。 (※2) 税務訴訟資料74号293頁、TAINS:Z074-3261。 この当時、この事例を皮切りに、課税庁側が同業類似法人を抽出し、功績倍率法によって不相当に高額な役員退職給与を否認するという事例が相次いでみられる(※3)。 (※3) 例えば、東京高裁昭和51年9月29日判決(税務訴訟資料89号777頁、TAINS:Z089-3861)、東京高裁昭和52年9月26日判決(税務訴訟資料95号597頁、TAINS:Z095-4057)、長野地裁昭和62年4月16日判決(税務訴訟資料158号104頁、TAINS:Z158-5909)等がある。 この中でも、判決文の中で当時の企業の状況が垣間見える事例として、東京地裁昭和55年5月26日判決がある(※4)。 (※4) 税務訴訟資料113号442頁、TAINS:Z113-4599。なお、納税者によって控訴・上告がなされているが、高裁・最高裁ともに地裁の判断を支持している。 地裁は、旧法人税法36条の合理性について、「株式会社政経研究所が昭和47年6月20日現在で全上場会社1,603社及び非上場会社101社を調査したところ、何らかの形で役員退職給与金額の計算の基準を有しているものが682社、そのうち右基準を明示したものが265社あったが、265社のうち167社が退任時の最終報酬月額を基礎として退職金を算出する方式をとっており、さらに、そのうち154社が最終報酬月額と在任期間の積に一定の数値を乗じて退職給与金額を算出する方式をとっていることが認められるのであるから、退職給与金額の損金算入の可否、すなわちその相当性の判断にあたって原告と同業種、類似規模の法人を抽出し、その功績倍率を基準とすることは、前記法令の規定の趣旨に合致し合理的であるというべきである」と示し、民間企業が最終報酬月額や勤続年数、そして一定数値を採用して役員退職金を算定していることから、功績倍率法が合理的であると示しているのである(※5)。 (※5) 課税庁が納税者の所轄税務署を含む5税務署管轄内の同業類似法人を抽出し、その結果をもって「当時の全上場1,603社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6であるところからみて相当な基準といえるものである。」と主張していることから、この裁判例が、代表取締役が3倍まで認められる根拠であるという見解も散見される。 なお、この裁判例は、対象となった納税者の取締役が昭和47年8月25日に退職していた状況を踏まえ、納税者が「同業種、類似規模の法人について算出した功績倍率を用いることは一般に是認されていない」と主張している。この点、この取締役の退任日が、上記で触れた東京地裁昭和46年6月29日判決で功績倍率を採用した課税庁の主張が退けられた後であり、かつその控訴審の判断が示される前だったことに鑑みると、当時の状況として、企業が役員退職金を算定する際に勤続年数や一定倍率を採用する傾向はあったものの、それを理由とした功績倍率法として役員退職給与の過大性を判断することは一般的ではなかったように思われる。 このような状況であったために、この当時は、法人が支給した役員退職給与についての過大性判断について争われた事例は、功績倍率法自体が認められるかどうかという点が中心となっており、功績倍率と功労加算の関係まで言及されているものは見当たらない。ここで、この裁判例が取り上げた株式会社政経研究所は、昭和39年にも『40年度版 役員退職慰労金の決め方』(以下「役員退職慰労金の決め方」という)を刊行しており、法人税法の大改正時の企業の状況が分かる資料となっているため、以下(2)にて触れる。 (2) 「役員退職慰労金の決め方」より 役員退職慰労金の決め方では、大東亜戦争時の経理統制令に触れ、理論的な役員退職慰労金の算定方法を示している。具体的には、役員退職慰労金について、経理統制令には「最終の受けた報酬の半年分に、任期の年数を乗じたものの範囲において支給すべきである」とする枠があったとし、昭和39年当時の大企業において、大体これを追っている企業が多いという言及がある他(5頁)、算定の基礎となる金額について「形としては退職時における報酬をとるのが一番望ましいと思う。それはその人の企業に対する貢献度を、現時点において最も正しく表現している報酬であると認められるから、その人が退職するときには、退職時点における報酬額の1年分の2分の1にしたものに在任年数を乗じたもの」が望ましいとしている(5頁)。 上記によると、この当時から役員報酬の額を基礎とした一定の額に勤続年数を乗じるという考え方自体は企業に浸透していたと思われる。また、企業を対象としたアンケート調査や取材等の結果、「退任時の報酬月額 × 在任年数(又は在任期数)× 役職別倍数」によって役員退職金の額を計算している企業が最も多かったことも明らかにされている(21頁)。 つまり、役員退職慰労金の決め方によれば、役員退職慰労金の算定方法は、経理統制令が色濃い役員報酬の半年分の額に勤続年数を乗じる形から、退任時の報酬月額に勤続年数と一定の役職別の倍数を乗じる形へと、主流の算定方法が変化していったことが示唆されていると思われる。なお、功労加算を規程として設けることについては、「退職役員の効労度(※6)については、取締役全員で判定できる問題である。従って功労加算を加えるかあるいは減額をするかという基準を、あらかじめ内規としてきめておくということはおかしなこと」として否定的な見解が示されている(8頁)。 (※6) 原文ママ。 これらのことから、当時から、多くの企業が現在の功績倍率法と同様の方法によって役員退職慰労金を算定していたため、これらの企業が同業類似法人として抽出される対象となるとともに、裁判所が功績倍率法を是認する根拠の1つともなり、これらの裁判例が蓄積された結果、課税庁が同業類似法人を抽出した功績倍率が3倍であれば過大ではないという現在の認識に収斂していったように思われる。 この点、国税庁が昭和57年、役員退職給与の適正額について不相当に高額なものをチェックするために「退職前適正報酬額 × 在任年数 ×『功績倍率』= 適正退職金額」という算式を作成したと説く見解がある(※7)。これによっても同業類似法人の平均率、つまり3倍程度までが適正とされているが、「国税庁の3程度(※8)というのは、・・・ポスト等から固定的に判定すべきものではない」とし、外形的なポストだけで功績倍率を判断すべきではないという注意喚起もなされている。 (※7) 吉牟田勲「役員退職金の不相当高額の判定-判例の分析から基準まで-」税務事例研究16号(1993)2頁。 (※8) 原文ママ。 (3) 功労加算をどのように考えるべきか (2)のように、功労加算については、加算することを基準として設けるべきではないとする見解が昭和39年当時から存在していた。また、課税庁が功績倍率3倍を採用して更正処分等を行い、その結果不服申立てに移行して、納税者が特別功労加算金を加算すべきだと主張した裁決例として、国税不服審判所平成23年5月25日裁決がある(※9)。 (※9) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-514。 これによると「当該役員退職給与の額には、その支出の名目のいかんにかかわらず、退職により支給される一切の給与が含まれるのであるから、・・・特別功労加算金相当額は、本件同業類似法人の功績倍率に反映されているものと解され、これを基礎として算定した役員退職給与相当額(審判所認定額)は、特別功労加算金を反映したものというべきである」として、功労加算部分は既に功績倍率に含有されている旨が示されている。 また、【第12回】で触れた東京高裁平成25年7月18日判決においても(※10)、納税者が最高功績倍率3倍に功労加算30%を加えた額を裁判時点で主張したところ、平均功績倍率法が採用されて納税者の主張が退けられている。なお、本件裁判例についても、更正処分時には3倍が採用されていたため、当初申告で功績倍率を3倍として役員退職給与を計算していれば税務調査で否認されることはなかったという見解がある(※11)。 (※10) 税務訴訟資料263号順号12261、TAINS:Z263-12261。 (※11) 山下雄次『三訂版 オーナー会社のための役員給与・役員退職金と保険税務』(税務研究会出版局、2024)116頁。 これらのことから、実務上、課税庁は功績倍率が3倍までなら認めている実態があると思われるが、功労加算部分を含めたところで判断されている。したがって、功労加算を反映させる場合には、功労加算を含めたうえで3倍以内に収めた倍率で役員退職給与を計算すべきだといえる。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第69回】 「適格株式移転を行った場合の申告調整」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格株式移転を行った場合の申告調整の具体例について解説します。 1 適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人の処理 (1) 前提条件 【株式移転完全子法人A社の株式移転直前の貸借対照表(会計)】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には差異が生じていません。 【株式移転完全子法人B社の株式移転直前の貸借対照表(会計)】 会計上の資産・負債と税務上の資産・負債には差異が生じていません。 (2) 会計処理 株式移転完全親法人C社の会計処理は、下記のとおりです。 会計上、取得企業の完全子会社の取得原価は、適正な帳簿価額で算定し、被取得企業の完全子会社の取得原価は、時価により算定することとされています。 (3) 税務処理 株式移転完全親法人C社の税務処理は、下記のとおりです。 ① 株式移転完全子法人株式の取得価額 適格株式移転により株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、次のとおりです(法令119①十二)。 株式移転の直前においてA社の株主は、50人以上のため、株式移転完全親法人C社が取得するA社株式の取得価額は、A社の前期末の簿価純資産価額の9,000となります。 株式移転の直前においてB社の株主は、50人以上のため、株式移転完全親法人C社が取得するB社株式の取得価額は、B社の前期末の簿価純資産価額の5,000となります。 ② 資本金等の額 株式移転完全親法人において株式移転により増加する資本金等の額は、株式移転完全子法人株式の取得価額(取得のために要した費用を除く)となります(法令8①十一)。 株式移転完全親法人C社において増加する資本金等の額は、14,000(9,000+5,000)となります。 ③ 利益積立金額 適格株式移転の場合には、株式移転完全親法人C社の利益積立金額は増加しません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 上記の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注)※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ 株式移転完全親法人C社において増加する利益積立金額が0、増加する資本金等の額が14,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 2 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の処理 適格株式移転の場合には、株式移転完全子法人A社及びB社が有する資産について時価評価を行う必要はなく、特段の課税関係は生じません。 3 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の株主の処理 (1) みなし配当 適格株式移転が行われた場合には、株式移転完全子法人の利益積立金額は株式移転完全子法人の株主に交付されないため、株式移転完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (2) 譲渡損益 投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2⑪)。「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 株式移転完全子法人の株主はC社株式のみの交付を受けているため、譲渡損益は生じません。 (3) C社株式の取得価額 株式移転完全子法人の株主が対価として株式移転完全親法人株式のみを交付された場合のその株式移転完全親法人株式の取得価額は、株式移転完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①十一)。 株式移転完全子法人の株主は株式移転によりC社株式のみを交付されているため、C社株式の取得価額は、A社の株主であったものは、株式移転直前のA社株式の帳簿価額、B社の株主であったものは株式移転直前のB社株式の帳簿価額となります。 (了)
相続税の実務問答 【第100回】 「先順位の相続人が相続を放棄したことにより相続人となった者の 相続税の申告期限」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出及び納付は、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヶ月以内に行わなければなりません。あなたと叔母様の場合には、それぞれが甲の相続放棄を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告及び納税をしなければなりません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続の放棄 (1) 相続が開始した場合、相続人は次の3つのうちのいずれかを選択できます。 (2) 相続人が、相続放棄又は限定承認をする場合には、家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。この申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(注)に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所にしなければならないと定められています(民法915①本文)。相続放棄の申述は、被相続人の住民票除票又は戸籍附票、申述人(放棄する者)の戸籍謄本など所定の資料を相続放棄申述書に添付して行います。相続放棄申述書を提出した後、家庭裁判所から「照会書」が送られてきます。照会に対して回答を行い、その回答に特段の問題がなければ、「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から送られてきます。 (注) 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続財産の状況を調査してもなお、相続を承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合には、利害関係人が相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをすることにより、家庭裁判所はその期間を伸ばすことができることとされています(民法915①ただし書き)。 2 相続税の申告書の提出期限等 相続税の申告書は、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヶ月以内に被相続人の住所地の所轄税務署長に提出しなければなりません。また、原則として、同日までに申告書に記載した相続税額を納付しなければなりません。 この「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうものと解されています(相基通27-4)。すなわち、被相続人に「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人が亡くなったことを知ったという事実だけでは不十分であり、自分がその被相続人の相続人であることを知ったという事実も必要です。 通常、自分が相続人であるにもかかわらず自分が被相続人の相続人であることを知らないということはないだろうと考えられます。しかしながら、先順位の相続人が相続を放棄したことにより、後順位の者が相続人となった場合には、先順位の相続人が相続を放棄して自分が相続人となったことを知った日が、その者が被相続人に相続の開始があったことを知った日となると考えられます。 3 ご質問の場合 甲の相続放棄は、その申述が受理された日に効力が生じることとなります。この申述が受理された日は、家庭裁判所から申述者に送付された相続放棄受理通知書に記載されています。あなた及び叔母様は、この申述が受理された日に伯父様の相続人になります。 つまり、あなたが、被相続人に相続の開始があったことを知った日とあなたが伯父様の相続人となったことを知った日は同じ日ではありません。ご質問の場合、あなたが伯父様の相続人になったことを知った日は、あなたが甲の相続放棄を知った10月15日となります。同様に、叔母様の場合には、10月20日となります。 したがって、あなたの相続税の申告書及び相続税の納税は、10月15日の翌日から10ヶ月を経過する日である令和7年8月15日、叔母様の相続税の申告書及び相続税の納税は、10月20日の翌日から10ヶ月を経過する日である令和7年8月20日となります。 (了)