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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第21回】「成年後見制度の改正」~法定後見開始の要件、効果等の見直し~

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第21回】 「成年後見制度の改正」 ~法定後見開始の要件、効果等の見直し~   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 成年後見制度の改正議論では、かなり大きな改正が行われるため制度の枠組み自体を学びなおす必要があると聞きました。どのように変わっていくのでしょうか。 【A】 本人の判断能力の程度に応じて後見、保佐、補助という3類型に区分された支援を行うという現行の枠組み自体の見直しも含めた議論がなされています。「成年後見人」「保佐人」「補助人」という支援者の名称や役割自体も変更される可能性があります。現行の成年後見制度に対する認識自体を改め、新たに理解しなおすことも求められます。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ●   1 現行の法定後見の開始の要件と改正の理由 現行の成年後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて家庭裁判所の審判により後見、保佐、補助の3類型いずれかの支援を行うとされています。 現行の制度は社会に定着しており、判断能力の低下した本人の保護や取引の安定に寄与していますが、本人の自己決定権を制約しているという内外の批判や、一度制度の利用が開始すると、実態として本人が死亡するまで終了させることができない運用になっているといった批判から見直しがされることになりました。   2 改正の方向性 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」では、法定後見制度の枠組み、開始要件及びその効果等として次のいずれかを採用する案が出ています。 甲案は現行の枠組みを維持しつつ、現行制度では後見類型の支援を受けるとされている者(意思能力を欠く状態が通常である者)であっても、保佐や補助の類型の支援を受けることを許容することや法定後見に期間を設けることで、現在問題とされている点について改善を目指す案です。 乙1案は、現在の枠組みを見直して、家庭裁判所が必要性を認めたうえで、請求者の請求により「保護者」に対して特定の法律行為について個別に必要となる同意権・代理権を付与する案です。なお中間試案では「保護者」という表現が使われていますが、改正後には制度の枠組みが変更されることに伴って、本人の支援者である「成年後見人」「保佐人」「補助人」という用語が変更される可能性もあります。乙1案では仮に現行制度においては後見類型による支援が行われる者であっても、保護者に対して包括的な代理権が与えられるわけではなく、あくまで個別に必要な権限を与えることになります。現行制度でいうところの補助に近い考えといえるかもしれません。 乙2案は、乙1案をベースとしつつ現行制度において後見類型の支援が行われる者については、保護者に一定の代理権等の権限を付与する案です。後見類型の支援が必要となる者については、かなり広範な範囲において支援が必要になるところ、個別に権限付与の判断を行っていると手続的コストが負担となることなどが乙2案の提案の理由となっています。   3 どの改正案が採用されるのか 現時点ではどの改正案が採用されるかは不明ですが、筆者個人としては甲案が採用される可能性は低いのではないかと考えています。乙1案、乙2案が採用された場合、制度利用にあたっては本人のために必要となる保護者の権限を慎重に判断する必要があるほか、取引相手が制度の利用者である場合には、どのような行為について保護者の同意や代理を必要とするのかをしっかりとチェックする必要があります。現行の制度からは大きく変わることを前提に改正動向に注視していく必要があります。 (了)

#No. 631(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/08/14

プロフェッションジャーナル No.630が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年8月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.630を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/08/07

monthly TAX views -No.150-「日本売りを招かない金融・財政政策を」

monthly TAX views -No.150- 「日本売りを招かない金融・財政政策を」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   今回の選挙での最大の争点は物価高対策だったが、選挙戦後半に外国人問題が浮上した。前者(物価対策)は財政ポピュリズムの下で消費税や所得税減税を主張する国民民主党を飛躍させ、後者(外国人問題)は外国メディアから極右とレッテルを張られた反グローバリズムの保守政党である参政党の躍進につながった。財政ポピュリズムと保守主義・反グローバリズムが結び付いた形で力を持ってきたことが大きな特色だ。 保守主義は本来、「小さな政府」や「財政健全性」を重視する思想だが、参政党は国民の支持を得ようと、既成政党やエリート(財務省等の官庁)、さらには言語・文化・生活習慣の違いからくる外国人との摩擦をSNSで訴えるだけでなく、財源なき消費税減税を訴えるなど財政ポピュリズムにも傾倒した。このような財政ポピュリズムと反グローバリズムの合体は欧州や米国でも生じている現象だ。 *  *  * さて物価高対策だが、物価高に追いつかない賃金上昇(実質賃金の目減り)からくる生活苦への対応として減税や給付が選挙で争点となった。しかし現下のインフレの原因は、グローバルインフレが円安により加速されたもので、円安の背景にある金融政策や、弛緩した財政規律による財政悪化から来るインフレ懸念が問われるべきである。アベノミクス以降の経済政策の総括をきちんと行うことが必要だ。消費税減税や給付といった小手先の近視眼的な対応策は、需要を喚起させるという点で物価対策としては逆効果になりかねない。 私なりにアベノミクスの総括をすると、以下のようになる。 異次元の金融緩和は円安・株高をもたらし、景気回復や雇用の改善につながった。一方で、有効な成長戦略は打たれず潜在成長率は低迷し、一人当たり賃金も伸び悩んだ。結局異次元金融緩和では2%の物価目標を実現することができず、財政規律の弛緩という弊害が残った。つまり「デフレはマネー現象だからマネー供給を増やせばデフレは解消される」というリフレ派の主張した処方箋は効果がなく副作用が残されたということである。消費税を2度引上げ、幼児教育の無償化などに振り向けたことは若者世代の支持を引き留めたが、所得格差、資産格差はともに拡大し、中間層の二極化が生じた。 その後コロナ禍や2022年のウクライナ戦争を機にグローバルインフレが生じ、低金利を続ける金融政策からくる円安と相まって、今日わが国のインフレ率は3%前後のインフレを3年以上続けている。金融政策の正常化は始まったものの、今回の日銀の政策決定会合でも金利の引上げは行われず実質金利はマイナスの水準にあり、円安の要因となっている。 財政政策はどうか。インフレにより税収は増加してきたものの、いまだ財政目標であるプライマリーバランス黒字化は未達成である。SNSや政治の世界では、アベノミクス以来のリフレ的な考え方が、MMT(現代貨幣理論)と結託しながら残っている。 このように現在のインフレの根源をたどっていくとアベノミクスの金融政策と財政政策に行き着く。参議院選挙では、昨今の物価高への対応として、このような政策議論が行われる必要があった。 日銀が金融正常化のスピードを遅らせる状況の下で、恒久財源なく消費税減税やガソリン税暫定税率の廃止などの財政拡張政策を行えば更なる円安(ひいてはインフレ)を招く可能性がある。 この政策の是非を判断するのは、わが国国民ではなく、「神の手」といわれる国債市場(マーケット)ということになる。しかし市場というのは「神」ではなく「グリードな投資家・投機家の集団」である。彼らの作るナラティブやストーリーが市場を動かし一般投資家からマネーを収奪しているというのが本質である。 そうである上、不透明な政治枠組み、意思決定機能の弱体化の中で、国際投機筋の餌食になるような安易な財政ポピュリズムに基づく消費税減税だけは避けなければならない。更なるインフレや日本売りを招かないためにも。 (了)

#No. 630(掲載号)
#森信 茂樹
2025/08/07

令和7年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第6回】

令和7年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第6回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   ③ 分割型分割における分割法人の税務仕訳 分割型分割において、分割法人の税務仕訳は次のとおりとなる(法法24③、62①、62の2②③、法令8①十五、9九・十、23⑧、119①七・二十七、122の13、123の3②)。 (ⅰ) 非適格分割型分割 非適格分割型分割において、分割法人の純資産の部は次のように計算される。この計算において分割割合が使用される。 分割法人の税務仕訳は次のとおりとなる。 (注1) 分割法人の非適格分割型分割の直前の移転資産及び負債の帳簿価額をいう。 (注2) 完全支配関係法人間の取引に係る譲渡損益の繰延べの規定が適用されるものは繰り延べられる(法法61の11①、法令122の12②)。 (ⅱ) 適格分割型分割 適格分割型分割において、分割法人の純資産の部は次のように計算される。この計算において分割割合が使用される。 分割法人の税務仕訳は次のとおりとなる。 (注) 分割法人の適格分割型分割の直前の移転資産及び負債の帳簿価額をいう。 ④ 分割法人の株主の税務 分割型分割における分割法人の株主の課税関係において分割割合が使用される(法法24①二、61の2①④、法令23①二、119①六・二十七、119の7の2③、119の8①②、所法25①二、所令61②二・⑥九~十一、113①③⑤、所規18③、措法37の10①③二)。 なお、分社型分割については分割法人の株主に分割対価が交付されないため、分割法人の株主に課税関係は発生しない。 [分割法人の株主の税務] ◎:発生、×:発生しない、―:該当しない (注1) ここでいう株式とは、分割承継法人株式又は親法人株式をいう。親法人株式とは、分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間に当該法人による完全支配関係がある場合の当該法人の株式をいう(適格要件における分割承継親法人株式はさらにその完全支配関係が継続する見込みがあることが要件となる)。 (注2) みなし配当=分割対価の時価-持分対応資本金等の額(※1) (※1) 持分対応資本金等の額=分割資本金等の額(※2)×分割法人の株主の株式所有数/分割法人の発行済株式等の総数 (※2) 分割資本金等の額=分割法人の分割直前の資本金等の額×分割割合(※3) (※3) 分割割合は、分割直前の資本金等の額が0以下である場合には0と、分割直前の資本金等の額及び移転簿価純資産価額が0を超え、かつ、簿価純資産総額が0以下である場合には1とし、その割合に小数点以下3位未満の端数があるときはこれを切り上げる。なお、分割法人は、分割法人の株主等に対し,分割割合を通知しなければならない。 (注3) 株式譲渡損益=持分対応資本金等の額-分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額(※4) (※4) 分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額=分割直前の分割法人株式の帳簿価額×分割割合(※5) (※5) 分割割合は(注2)の(※3)と同じ。 (注4) 分割対価は時価で受け入れる。 (注5) 分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額は分割承継法人株式又は親法人株式の帳簿価額に付け替わる。この場合、株式の交付を受けるために要した費用を取得価額に加算する。なお、分割直後の分割法人株式の帳簿価額は分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額を控除した金額となる。 (注6) 分割承継法人株式又は親法人株式の帳簿価額は、分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額にみなし配当を加算した金額となる。この場合、株式の交付を受けるために要した費用を取得価額に加算する。なお、分割直後の分割法人株式の帳簿価額は分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額を控除した金額となる。 ただし、(注3)について、分割法人の株主と分割法人との間に完全支配関係がある非適格分割型分割における株式譲渡損益については、分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額を譲渡対価とみなすため、その所有する分割法人株式に係る譲渡損益は発生せず、株式譲渡損相当額が資本金等の額から減額(株式譲渡益相当額の場合は増額)される(法法61の2⑰、法令8①二十二)。 なお、株主均等割合保有関係がある場合の無対価分割型分割において、分割法人の株主では、株式譲渡損益は生じない(法法61の2④、所法25①二、所令113②③)。 また、適格分割型分割となる場合、みなし配当は発生しないが、非適格分割型分割となる場合、みなし配当が発生する(法法24①二・③、法令23⑦⑧、所法25①二・②、所令61④⑤)。 この場合、分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額が分割法人株式の帳簿価額から分割承継法人株式の帳簿価額に付け替わることとなる(法令119の3㉑㉒、119の4①、所令113②③)。みなし配当が生じる場合、分割承継法人株式の帳簿価額にみなし配当の額を加算する(法令119の3㉒、119の4①、所令113②)。 ⑤ 被株式分配法人の税務仕訳 株式分配において、被株式分配法人の税務仕訳は次のとおりになる(法法23①、24①三、61の2⑧、法令23①三、119①八、119の8の2①②)。この計算において分配割合が使用される。 なお、金銭等不交付株式分配を対象とする。 ここで、金銭等不交付株式分配とは、完全子法人株式以外の資産が交付されないもの(その完全子法人株式が現物分配法人の発行済株式等の総数のうちに占める現物分配法人の各株主の有する現物分配法人の株式の数の割合に応じて交付されたものに限る)をいう。 (ⅰ) 非適格株式分配 (注1) 完全子法人株式対応帳簿価額は、次の計算による。 完全子法人株式対応帳簿価額=分配直前の現物分配法人株式の帳簿価額×分配割合 (※1) (※1) 分配割合は、分子が0を超え、かつ、分母が0以下である場合には1とし、その割合に小数点以下3位未満の端数があるときはこれを切り上げる。なお、株式分配法人から被株式分配法人に対して分配割合は通知される。 (注2) みなし配当の額は、次の計算による。 みなし配当の額=完全子法人株式の時価-(株式分配法人の分配資本金等の額(※2)×被株式分配法人が株式分配の直前に有していた現物分配法人株式の数/現物分配法人の株式分配の直前の発行済株式等の総数) (※2) 株式分配法人の分配資本金等の額は、次の計算による。 株式分配法人の分配資本金等の額=株式分配の直前の資本金等の額×分配割合(※3) (※3) 分配割合は、株式分配の直前の資本金等の額が0以下である場合には0と、株式分配の直前の資本金等の額及び分子の金額が0を超え、かつ、分母の金額が0以下である場合には1とし、その割合に小数点以下3位未満の端数があるときはこれを切り上げる。なお、株式分配法人から被株式分配法人に対して分配割合は通知される。 (ⅱ) 適格株式分配 (注) 完全子法人株式対応帳簿価額は、上記(ⅰ)と同様の計算方法による。 ⑥ 株式分配法人の税務仕訳 株式分配において、株式分配法人の税務仕訳は次のとおりになる(法法62の5③、法令8①十六・十七、9十一)。この計算において分配割合が使用される。 なお、金銭等不交付株式分配を対象とする。 (ⅰ) 非適格株式分配 (注) 資本金等の額の減少額は、次の計算による。 資本金等の額の減少額=現物分配法人の分配直前の資本金等の額×分配割合 (※) (※) 分配割合は、上記⑤(ⅰ)と同様の計算方法とする。 (ⅱ) 適格株式分配 (3) 調整対象通算法人(離脱法人)の株式に係る投資簿価修正について 調整対象通算法人の取扱いは、あくまで分割型分割に係る分割割合及び株式分配に係る分配割合の計算上の取扱いである。 そのため、調整対象通算法人に該当する離脱法人の株式に係る投資簿価修正については、原則どおり、離脱日の前日の属する事業年度終了の時の簿価純資産価額に基づいて計算されることに留意する(法令119の3⑤⑥⑦)。   (続く)

#No. 630(掲載号)
#足立 好幸
2025/08/07

《税務必敗法》 【第3回】「青色申告承認申請書の提出を忘れた」

《税務必敗法》 【第3回】 「青色申告承認申請書の提出を忘れた」   公認会計士・税理士 森 智幸   【事例】 ある月の第1週目、税務署から会計事務所に電話がかかってきた。税務署によると、先月提出した新規の顧問先の株式会社の法人税の確定申告書が、青色申告として提出されているが、その株式会社は白色申告の法人であるということであった。 原因は、その株式会社を設立したときに、担当税理士が所轄の税務署に青色申告承認申請書を提出することを忘れていたためであった。   1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「青色申告承認申請書の提出を忘れた」というテーマを取り上げる。 「そんなことがあるのか?」と思われる方も多いと思うが、なんと筆者の周囲では青色申告承認申請書の提出を失念した税理士が3名もいた。そうなると、全国的には意外と多くの税理士が同様の失念をしているのではないかと筆者は考えている。 そこで、今回は、青色申告承認申請書の提出を失念する原因とその対策について解説する。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。   2 青色申告承認申請書の提出を失念する原因 (1) 後で出そうと思って忘れていた 前述の通り、筆者の周りで青色申告承認申請書の提出を失念した税理士が3名いたが、そのうちの2名にその原因を聞くと「後で提出しようと思っていてうっかり忘れてしまった」ということであった。 もう1名は、設立時から関与しているにもかかわらず「何で忘れたのかわからない・・・」ということであった。この税理士の場合、欠損金の繰越控除を行うことができず法人税が過大納付となり、損害賠償となったという。 (2) 時間が経過して忘れてしまった 青色申告承認申請書の提出の機会が多いのは、法人の新規設立時であるが、一方で、青色申告承認の再申請における提出というケースもある。 次の【損害賠償事例】は、青色申告の取消しを受けた法人から、青色申告の再申請の依頼を受けたものの、それを失念した事例である。こちらも、欠損金の繰越控除を行うことができず、法人税が過大納付となったため損害賠償となっている。 後述するが、青色申告取消しとなった場合は、取消し通知を受けた日から1年を超えた日以後でないと再申請はできない。1年後のことになるので、時間が経過してしまい、すっかり忘れてしまうということもありうる。 【損害賠償事例】 (株式会社日税連保険サービス『税理士職業賠償責任保険事故事例(2022年7月1日~2023年6月30日版)』の事例8より引用) (3) 青色申告承認申請書が提出されていると思い込んでいた 自ら提出を忘れたわけではないが、すでに青色申告承認申請書が提出されているものと思い込んでしまったケースもある。 筆者がかつて勤務していた会計事務所でこのようなことがあった。上司の税理士が担当していた任意団体の法人税の確定申告について、所轄税務署から電話がかかってきた。すると、上司は電話で「青色で提出されている? え? ここは白色なんですか!?」と驚いていた。 推測だが、上司はこの任意団体と契約するときに、過去に提出された法人税等の確定申告書の控えを閲覧したものの、その確定申告書が青色で提出されていたため、この任意団体が白色にもかかわらず「青色の法人」と思い込んだ可能性がある。 もちろん、この任意団体が青色で確定申告書を提出したのは誤りであるが、そのことに所轄の税務署もすぐに気付かず、数年経過した時点で初めて気付き、前述の通り、電話で連絡してきたのではないかと推測される。 このように、新規契約をする際に、青色申告承認申請書が提出されているかどうかを確認せず、青色申告であろうと思い込んでしまい、誤って青色の確定申告書で提出してしまう誤りもある。   3 青色申告承認申請書の提出を失念した場合の顛末 青色申告承認申請書の提出を失念した場合、次のような影響が想定される。 なお、④⑤は通常の減価償却で損金算入できるので損害にはならないが、各事業年度における納税額が変わってくるので、資金繰りに影響が出る可能性がある。   4 提出失念を防止するための対策 (1) 手続書やチェックリストを作成する 前述の通り、うっかりミスにより青色申告承認申請書の提出を失念したケースがよくみられる。 会社設立においては手続書や提出する書類に関するチェックリストを作成して、提出物の漏れがないようにするとよいであろう。 (2) 設立届と同時に提出する 提出期日も手続書に明記しておくべきであるが、多くの実務では法人設立届出書を提出するときに、同時に青色申告承認申請書などの書類を提出する。 したがって、会計事務所内で、青色申告承認申請書は、法人設立届出書と同時に提出すると決めておくとよいであろう。 なお、新規設立の場合の期日については、普通法人の場合、設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日までとなる(法人税法122条2項1号)。 また、新設法人の届出書類については、国税庁のタックスアンサー「No.5100 新設法人の届出書類」に記載されているので、参照されたい。 (3) 再申請の場合は複数人でデジタル管理する 青色申告の承認の再申請を行う場合、承認取消し通知を受けた日以後1年を超えた日から青色申告の承認の再申請が可能となる(法人税法123条3項)。 取消し通知を受けた日以後1年を超えた日からとなると、かなり注意しないと再申請を失念する可能性が高くなる。 そこで、再申請の場合はデジタル管理をおすすめする。例えば、電子カレンダーやToDoアプリで、1年経過後のスケジュールを決めておくとよいであろう。 ただし、担当者が退職してしまった場合、電子カレンダーやToDoアプリでの設定が引き継がれない可能性がある。したがって、担当者任せにするのではなく、上席も必ず電子管理することも必要である。また、引継書にも、青色申告承認の再申請を行うことを明記することも忘れないようにしたいところである。 (4) 契約時には必ず申請書の控えを閲覧する すでに設立された法人等と契約するときは、青色申告承認申請書の控えを閲覧すべきである。これは、前述の2(3)で紹介した例の通り、会社等が法人税等の確定申告書を青色で提出していたとしても、それが誤っている可能性があるためである。 (5) 申告書等閲覧サービスを利用する 前述の(4)のとおり、契約時には青色申告承認申請書の控えを閲覧すべきであるが、紙面提出の場合、会社等の管理不備により、申請書控えの所在が不明というケースがよく見受けられる。 このような場合、税務署による申告書等閲覧サービスを利用して、過去に提出した青色申告承認申請書を閲覧するとよいであろう。なお、コピーを取ることはできず、写真撮影のみが許可されている。   5 おわりに 今回は、青色申告承認申請書の提出の失念の原因や対策について解説した。青色申告承認申請書の提出を失念すると、過大納付による損害賠償となる可能性があるので、十分注意していただきたい。 本稿が、皆様の税務の参考になれば幸いである。 (了)

#No. 630(掲載号)
#森 智幸
2025/08/07

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例77】「ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例77】 「ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、関東地方のとある県の県庁所在地に本社を置き、ソフトウェアの開発やシステム関連のコンサルティングを行うX株式会社(資本金3億円の3月決算法人)において、経理のみならず採用も担当する、何でも屋の総務部長を務めております。 国のDX(Digital Transformation)化推進政策の影響等もあって、現在、ソフトウェアの開発やITシステム業界は概ね好況で、わが社も多額の受注残を抱えてフル稼働しているところです。 しかし、現在のわが社の従業員数では、増え続ける受注をこなすことは到底困難であることから、昨年度から新卒採用のみならず第二新卒や中途採用にも力を入れていますが、残念ながら思うように採用できていないのが現状です。理工学部出身のわが社の社長は、数学ができない文系にはシステムなど分かるわけがない、採用は理工系学部出身か、最低でも高専出身者にしろと無理難題を押し付けてくるのですが、そのような「金の卵」は待遇のよい大手上場企業にすべてさらわれてしまい、私としては、文学部出身でシェークスピアや源氏物語を学んできた者でもいいから、とにかく人を集めたいと、今存亡の危機にある女子大にも足を伸ばして、学生を送り出してほしいと就職担当者に泣きついているところです。 さて、その一方で、社長は自分の道楽であるゴルフについては聖域であるかの如く日夜ふるまっていますが、今回の税務調査では社長の当該ゴルフ道楽に課税庁のメスが入ったところです。すなわち、わが社が会員となっているゴルフクラブのうち、1ヶ所が経営破綻したのですが、当該ゴルフクラブに係る預託金返還請求権につき切り捨てられた金額を退会手続の完了した日の属する事業年度(令和5年3月期)の損金の額に算入したことについて、調査官から問題視されました。 調査官の言うことには、当該金額はゴルフクラブが民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき切り捨てが確定した日の属する事業年度(平成30年3月期)に損金算入されるとのことでした。損金計上のタイミングがかなりずれるのですが、税法上いずれが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 法人の有する金銭債権(預託金制ゴルフ会員権における預託金債権を含む)について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなりますが、その具体的な要件としては、法基通9-6-1(1)の定めるとおり、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき確定した日の属する事業年度に、預託金返還請求権につき切り捨てられた金額について損金算入されるのが妥当と言えます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進施策 近年、企業経営においてDX(デジタルトランスフォーメーション、Digital Transformation)という用語が1つのキーワードとなっているが、DXとは一般に、データ(中でもビッグデータ)とAI、IoTといったデジタル技術を活用・融合して、企業の業務プロセスを改善するのにとどまらず、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織や企業文化をも改革することで、競争上の優位性を確立することをいうものとされている。 わが国において、産業界のDX推進に係る諸施策を管轄している官庁は経済産業省である。経済産業省は2020年11月に、企業のDXに関する自主的取組を促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめているところである。それによれば、企業のDX経営に求められる3つの視点・5つの柱は、以下の図のとおりとなる。 〇デジタルガバナンス・コードの全体像 (出典) 経済産業省HP「デジタルガバナンス・コード」   (2) 貸倒損失の損金算入時期 法人の有する金銭債権について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなる。ここで問題となるのは、当該金銭債権が果たして貸倒れとなったかどうかの判断であり、それは事実認定の問題となる。とはいえ、判断基準なしに事実認定の問題だと言われても租税実務が混乱するばかりであることから、国税庁は、金銭債権の貸倒れに係る損金算入時期の判断に関する一般的な基準を示している(法基通9-6-1~3)。 当該通達によれば、以下に掲げる事実が発生した場合には、金銭債権の額のうち以下に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入される(法基通9-6-1)。 なお、上記のような事実が発生した場合には、法人がそれを貸倒れとして損金経理しているか否かにかかわらず、その事実が発生した日の属する事業年度において損金の額に算入されることとなる。   (3) ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失についての損金算入時期が争われた事例 それでは本件と同様に、ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失について、その損金算入の時期が争われた事例(東京地裁令和5年1月27日判決・TAINSコード:Z888-2625)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 電子計算機利用技術の開発及びコンサルテーション等を目的とする株式会社である原告(7月決算)は、本所税務署の職員による実地調査において、原告が本件事業年度等の法人税及び地方法人税の確定申告に会員権償還損として計上した、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定の確定により切り捨てられた預託金制ゴルフ会員権の預託金返還請求権が、本件事業年度等の損金の額には算入されない旨指摘されたことを受けて、本所税務署長に対し、本件事業年度等に係る法人税等の修正申告書を提出した。 本件は、本件修正申告をした原告が、上記のとおり切り捨てられた預託金返還請求権については、退会手続の完了した日の属する本件事業年度の損金の額に算入されるべきであるとして、本件事業年度等に係る法人税等の各更正の請求をしたところ、本所税務署長が令和2年3月16日付けで更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、その取消しを求める事案である。 ② 事案の争点 本件預託金債権の貸倒損失を損金の額として算入すべき時期はいつか。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁令和5年9月14日判決・TAINSコード:Z888-2598)、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件は、ゴルフ会員権に係る預託金債権の貸倒損失につき、その損金算入のタイミングについて争われた事案である。 原告・納税者側は、平成29年7月25日に本件ゴルフクラブを退会したことにより、返還を受けられなかった預託金債権に係る損失額については、本件事業年度(平成29年7月期)に発生した損失として損金の額に算入されるべきである旨主張したところであるが、裁判所はそれを斥け、元本金額の97.5%に相当する部分(損失額)については、民事再生法の規定により確定した認可決定によって認可された再生計画に従い、「支払免除の効力」が生じた平成17年1月31日に顕在化した上で切り捨てられて消滅したことから、平成17年7月期において損金の額に算入されるべきと判断した。これは、先に上げた法基通9-6-1に掲げられた要件のうち、(1)に該当するものである。 金銭債権の貸倒れについては、第一義的にはその金銭債権が「消滅したか」どうかによって判断されるわけであるが、課税庁はその具体的な判断基準として、法基通9-6-1において(1)から(4)までの要件を示しているわけである。当該(1)の文言では、損金計上のタイミングが明示されているわけではないが、通達ではその前提として、「その事実の発生した日の属する事業年度において」損金算入するとあるので、民事再生法の規定により確定した認可決定によって「支払免除の効力」が生じた日の属する事業年度(すなわち平成17年7月期)に損金算入するという裁判所の判断は、妥当と言えるだろう。   (4) 本件へのあてはめ 法人の有する金銭債権(本件で問題となっている預託金制ゴルフ会員権における預託金債権を含む)について貸倒れが生じた場合の貸倒損失については、一般に、法人税法第22条第3項の規定により損金の額に算入されることとなるが、その具体的な要件としては、法基通9-6-1(1)の定めるとおり、民事再生法の規定に基づく再生計画認可の決定につき確定した日の属する事業年度に、預託金返還請求権につき切り捨てられた金額について損金算入されるのが妥当と言える。   (了)

#No. 630(掲載号)
#安部 和彦
2025/08/07

租税争訟レポート 【第80回】「更正の請求の特則/遺留分減殺請求に基づく価額弁償金額が確定した日(第1審:東京地方裁判所令和5年6月29日判決、控訴審:東京高等裁判所令和5年12月13日判決)」

租税争訟レポート 【第80回】 「更正の請求の特則/遺留分減殺請求に基づく価額弁償金額が確定した日 (第1審:東京地方裁判所令和5年6月29日判決、 控訴審:東京高等裁判所令和5年12月13日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【判決の概要】 〈第1審判決の概要〉 〈控訴審判決の概要〉   【事案の概要】 原告は、被相続人乙の相続について、相続税の申告をした後、裁判上の和解により定められた価額弁償金を遺留分権利者に支払ったことから、当初の申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったなどとして、更正の請求をした。これに対し、新宿税務署長は、上記価額弁償金は上記裁判上の和解の成立によって「弁償すべき額が確定」したものであり、原告は当該事由を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をしていないから更正をすべき理由がないとして、これを前提とする更正処分をした。 本件は、原告が、上記価額弁償金は現実にこれを支払うことによって「弁償すべき額が確定」すると主張して、上記更正処分のうち、上記価額弁償金に係る更正の請求を認めなかった部分の取消しを求める事案である。 訴訟に至る経緯を時系列にまとめると次のようになる。   【争点】 争点は、本件価額弁償金は、本件和解の成立により、弁償すべき額として「確定」したか、である。   【争点に対する第1審での主張】 1 被告の主張 第1審被告は、民法1031条に基づく遺留分減殺請求に基づく和解が成立した場合、和解の効力により、受遺者は遺言のとおり財産を取得する一方、遺留分権利者は財産について有していた権利等を喪失する代償として金銭支払請求権を取得することとなり、その和解が裁判上の和解であれば、裁判上の和解の成立をもって弁償すべき額が確定したことになることから、裁判上の和解の成立をもって、相続税法32条3号に規定する「弁償すべき額が確定した」に該当するとするのが文理に即すると主張して、本件価額弁償金は、本件和解の成立により、弁償すべき額として「確定」したものであるとした。 2 原告の主張 第1審原告は、遺留分減殺請求事件の訴訟上の和解によって価額弁償金の支払が認められた場合の相続税法上の法的効果は、価額弁償金の支払が現実になされたときに生じ、弁償すべき額が確定することになると主張して、その理由を次のように説明した。   【東京地方裁判所の判断】 第1審である東京地方裁判所は、結論として、和解の成立により、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額が「確定」したものであり、原告は、和解の当事者であるから、和解の成立日である平成28年4月13日に、「弁償すべき額が確定した」ことを知ったものと認められることから、本件更正請求は令和2年9月7日にされたものであって、原告が「弁償すべき額が確定した」ことを知った日の翌日から4か月以内にされたものではないから、本件更正請求のうち本件価額弁償金に係る部分について更正をすべき理由がないとした本件更正処分に誤りはないと判示し、本件更正処分は適法であり、原告の請求は理由がないから棄却する判決を下した。 1 東京地方裁判所による判決理由 東京地方裁判所は、丙及びAが、原告らに対して遺留分減殺請求権を行使し、相続財産である不動産につき所有権の一部移転登記手続などを求めて提起した訴訟において、丙及びAと原告らとの間で、原告らが、丙及びAに対して、遺留分として一定の金額の支払義務があることを認めるという裁判上の和解が成立することで、原告と丙及びAとの間で、亡乙の相続について、原告が支払うべき価額弁償の額が定まったものであるから、遺留分権利者である丙及びAからの遺留分減殺請求に基づき、原告が弁償すべき本件価額弁償金が確定したと解するのが、相続税法32条3号の文言に沿うという判断を示した。 さらに、東京地方裁判所は、民法における遺留分制度は、遺留分権利者による遺留分減殺請求権の行使により当然に物権的効果が生じ、受遺者が価額弁償を選択した場合に遺留分権利者の現物返還請求権が金銭支払請求権になるという構造であったものであるから、遺留分権利者と受遺者との間で、受遺者が支払うべき遺留分の額を定める裁判上の和解が成立した場合には、裁判上の和解は、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を免れるためにすべき価額弁償の額を確定させるものと解するのが相当であり、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額は、本件和解の成立によって「確定」したものというべきであると断じた。 2 原告の主張に対する判断 一方、原告による主張に対して、まず、相続税法32条3号は、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」したことを受けて、当初申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったか否かを判断しようとするものであり、価額弁償金に係る資産の譲渡の有無や時期とは無関係な規定であり、所得税法上の資産譲渡が生じる時期から相続税法32条3号を解釈しようとする主張は、採用することができないとの判断を示した。 また、原告による、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を免れるためには、価額弁償を現実に履行し、又はその履行の提供をしなければならないとされており、相続税法32条3号の「弁償すべき額が確定」の意義も同様に解すべきであるという主張に対しては、相続税法32条3号は、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」したことを受けて、当初申告に係る課税価格及び相続税額が過大になったか否かを判断しようとするものであり、受遺者が遺贈の目的物の返還義務を実際に免れるか否かとは無関係な規定であるとして、これを斥けた。 最後に、原告による、価額弁償金を取得する遺留分権利者の担税力を考慮すれば、価額弁償金の現実の受領をもって相続税法32条3号の「弁償すべき額が確定」したと解すべきであるという主張に対しては、遺留分による減殺の請求に基づき「弁償すべき額が確定」し、受遺者について更正処分がされた場合には、価額弁償を受けた遺留分権利者に課税することが予定されているものの、「弁償すべき額が確定」する時期の解釈に当たり、遺留分権利者の資力を考慮すべきことを根拠付ける規定は見当たらないとして、原告の主張は、原告が弁償すべき本件価額弁償金の額は、本件和解の成立によって「確定」したものというべきであるという判断を左右するものにはならないとした。   【東京高等裁判所の判断】 控訴審である東京高等裁判所は、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却する判決を言い渡した。 本項では、控訴審における控訴人の主張と、それに対する東京高等裁判所の判断を引用したい。 1 控訴審における控訴人の主張 控訴人は、相続税法における遺留分減殺に基づく更正の請求の規定は、民法からの借用概念であるとしたうえで、最高裁昭和54年7月10日第三小法廷判決(以下、「昭和54年最判」と略称する)を引用し、遺留分減殺請求に対する価額弁償は、「単に価額弁償の意思表示をしただけでは足らず、価額弁償を現実に履行し、又は価額弁償のための弁償の提供をした」ときに効力が生じることから、和解により価額弁償によることが認められたときの「確定」の意義は、「和解の確定」のときではなく、和解の内容としての価額弁償(代物弁済)の効力の確定したとき、と解すべきことになると主張を行った。 さらに、控訴人は、現行民法における遺留分侵害額請求の制度に関する所得税基本通達33-1の6は、「遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転」の場合の考え方について、「民法第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含む)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。」と規定していることを挙げて、相続税法32条3号における「弁償額の確定」の意義を所得税法上の資産の譲渡の確定(現実的な財産の移転を履行時とするもの)と同義に解することを肯定するものである。価額弁償が和解手続においてされた場合でも、価額弁償という実体的内容が変わらない以上、同様に、現実的な資産の移転があったときに「確定」されると解すべきことになると主張した。 2 控訴審における控訴人の主張に対する東京高等裁判所の判断 最初の相続税法32条3号の「確定」は現実に資産が移転したときと解釈すべきであるという控訴人の主張に対して、東京高等裁判所は、相続税法32条3号の解釈上問題となるのは「確定」の文言の意義であり、価額弁償の規定である民法1041条においては「確定」という文言が用いられているものではなく、また、昭和54年最判も、遺留分減殺請求権を行使された者が現物返還義務を免れるための要件について判断したものにすぎないことから、「確定」は借用概念ではなく、控訴人の主張は、民法1041条の解釈に関する昭和54年最判の結論部分を立法目的の異なる相続税法32条3号の解釈に妥当させようとするものといえ、かつ、訴訟上の和解が成立すれば価額弁償による実体的権利義務関係が有権的に確定することと整合しないものであるから、採用できないとの判断を示した。 さらに、所得税基本通達33-1の6の規定の趣旨を相続税法32条3号に及ぼすべきであるという趣旨の控訴人の主張に対しては、所得税基本通達33-1の6の規定は、譲渡所得の規定である所得税法33条における「譲渡」の意義に関するものであることに照らすと、この規定から当然に、遺留分減殺請求に対して価額弁償をした場合に更正の請求をすることができる期間を画するものと解することはできないというべきであるとして、斥けている。   【判決の特徴】 本件は、判決文に代理人の氏名の記載がないことから、原告による本人訴訟であると思料できる。被相続人の三男である原告その子Dは、被相続人の公正証書遺言により、被相続人の遺産の一部を相続又は遺贈による取得したものの、この遺言が、被相続人の長男丙、次男の代襲相続人であるA及び四男丁の遺留分を侵害する内容であったことから、丙及びAに対しては訴訟上の和解による価額弁償金及び和解金の支払いというかたちで、死亡した四男丁の子であるEに対しては解決金名目の金員を支払うことで、相続に係る諍いの解決を図ったものである。 訴訟上の和解が成立した平成28年4月13日から、原告らが丙及びAに対して価額弁償金と和解金を支払った令和2年5月13日までの間に何があったかは判決文からは読み取れないのだが、原告としては、まだ和解が成立していない四男丁の子Eとの間での和解の見通しがつくまで支払いを保留したものかもしれないという推測はできる。ところが、相続税法32条3号は、更正の請求の起源について、「すべての」遺留分減殺請求者との間で弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内にしなければならないという規定にはなっていないことから、本件における新宿税務署長による原告に対する更正処分を裁判所も支持したものである。 1 国税不服審判所の裁決 第1審原告(控訴人)は、本件訴訟を提起する前に、国税不服審判所に対して不服申し立てを行っている。国税不服審判所の裁決要旨検索システムから、その裁決の要旨を引用しておきたい。成立した和解に基づく価額弁償金を支払わなくても、相続税法32条3号に規定に該当することを明確に述べている。 2 遺留分侵害請求権に関する民法の定め 2019年1月1日に施行された改正民法では、それまでの「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害請求権」と名称が変更され、同時に、遺留分の侵害による精算が、現物返還(現物分割)ではなく、金銭の支払により行うことが規定された(民法第1046条第1項)。 遺留分侵害の精算は金銭の支払いによることで一本化されたことにより、現物返還による遺留分侵害の精算においては、減殺請求の結果、権利関係が複雑になること、つまり、目的財産は受遺者または受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、目的物の円滑な処分に支障をきたしたり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じたりするなどの弊害が解消されることになったと評価されている。 なお、遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと、時効により消滅し、相続開始のときから10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅する(民法1048条)。この事項と除斥期間については改正前民法と同じである。   (了)

#No. 630(掲載号)
#米澤 勝
2025/08/07

金融・投資商品の税務Q&A 【Q96】「特定口座で保有する株式と同一銘柄の株式を一般口座で譲渡した場合の取得費」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q96】 「特定口座で保有する株式と同一銘柄の株式を一般口座で譲渡した場合の取得費」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○●   1 上場株式の譲渡に係る譲渡所得等の金額の計算 (1) 同一銘柄の株式を複数回にわたって購入した場合の取得費の計算 上場株式の譲渡により生じる譲渡益は、上場株式等に係る事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額(上場株式等に係る譲渡所得等の金額)として申告分離課税の対象となり、原則として確定申告が必要となります(申告分離課税)。適用税率は、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。 また、同一銘柄の株式を2回以上にわたって購入し、その株式の一部を譲渡した場合には、譲渡所得等の金額の計算上、譲渡収入から控除する株式等の取得費は、総平均法に準ずる方法によって計算することとされています。 (2) 特定口座制度と確定申告の関係 上場株式等の譲渡益課税については、上述のとおり、原則として申告分離課税が適用されますが、特定口座に保管されている上場株式等を譲渡した場合、金融商品取引業者等は、特定口座以外の口座(一般口座)で譲渡した他の株式等の譲渡による所得と区分して譲渡損益の計算を行い、投資家に「特定口座年間取引報告書」を交付します。これは、申告事務における投資家の利便性に配慮したものです。 また、特定口座内で生じる所得に対して源泉徴収されることを選択した場合には、上場株式等の譲渡損益について金融商品取引業者等により源泉徴収が行われます。 この場合、当該口座内の上場株式等を譲渡した都度、一定の計算により、譲渡益に相当する金額に20.315%の税率を乗じて計算した金額の所得税(復興特別所得税を含む)及び地方税が、その譲渡対価が支払われる際に源泉徴収されます。 源泉徴収選択口座における上場株式等の譲渡による所得は原則として、確定申告は不要となりますが、他の口座での株式等の譲渡損益と相殺する場合や上場株式等に係る譲渡損失を繰越控除する特例の適用を受ける場合には、確定申告が必要です。   2 本件へのあてはめ A株式(500株)を複数回にわたって取得し、その一部である200株を譲渡したとのことですので、原則として、上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上、取得費は総平均法に準ずる方法によって計算することとなります。 特定口座において保有する上場株式等を譲渡した場合は、一般口座で保管する他の株式等の譲渡による所得と区分して計算することが法令上明らかですが、同一銘柄の株式を特定口座と一般口座の両方で保有し、一般口座で保有する株式のみを譲渡した場合に、総平均法に準ずる方法で計算をする対象とすべき株式の範囲は、一般口座で保有する株式のみか、特定口座で保有する株式も含めて計算するのかという疑問が生じます。 この点、特定口座制度が個人投資家の申告事務の負担を軽減することを目的として他の口座との区分計算を定めたものであることや、特定口座への受入れは原則としてその特定口座において行われた取引により取得した上場株式等に限られるものとしていることなどの制度趣旨を考慮すると、一般口座に保管されている上場株式等を譲渡した場合にも、特定口座に保管されている上場株式等とは区分して取り扱うべきであり、たとえ同一銘柄の株式であっても、特定口座で保管されている株式はその銘柄が異なるものとして取り扱うのが相当であると考えられます。 したがって、一般口座内の200株のみを譲渡した場合の取得費は、特定口座内の株式を含めず、一般口座内の株式について総平均法に準ずる方法で計算するものと考えられます。   (了)

#No. 630(掲載号)
#西川 真由美
2025/08/07

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第73回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第73回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   29 CARF(暗号資産等報告枠組み)と日本版CARF (1) CARF・日本版CARFの概要① OECDは暗号資産の台頭がもたらす課税上の問題への対応に取り組んでいる。 暗号資産は、利用者自身で暗号資産を管理するためのプライベートウォレットなどを使うことで、従来の金融機関などの仲介者を介さずに移転・保有することが可能である。 仲介者を介さずに、個人で暗号資産を保有し、取引している場合には、税務当局にとっては情報の照会先や提出依頼先がない。 このため、税務当局においては、自国の納税者に係る暗号資産の取引又は保有等に関する情報を選別したり、入手したりすることが困難となる。 その結果、各国の税務当局はその管轄内で行われた課税に関連する活動を完全に把握することができず、関連する納税義務が適切に履行されているかを確認することが困難になっている。 このような状況は、CRS(共通報告基準)(※)によって実現された、世界的な課税の透明性の向上という成果を徐々に損なうという、重大なリスクをはらんでいる。 (※) CRSとは、自動的情報交換の対象となる非居住者の金融口座の特定方法や情報の範囲等を各国・地域で共通化する国際基準のこと。これを通用することにより、金融機関の事務負担を軽減しつつ、金融資産の情報を税務当局間で効率的に交換し、外国の金融機関の口座を通じた国際的な脱税及び租税回避に対処することを目的としている(国税庁「非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度(FAQ)」(平成28年7月(令和6年4月最終改訂))2頁)。 さらに、個人がプライベートウォレットを用いて暗号資産を保有し、かつ、国境を越えて自由に移転できることから、暗号資産が違法行為の手段として利用されたり、納税義務の回避に使われるリスクが存在する(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND AMENDMENTS TO THE COMMON REPORTING STANDARD 4-5(2022); OECD, INTERNATIONAL STANDARDS FOR AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION IN TAX MATTERS: CRYPTO-ASSET REPORTING FRAMEWORK AND 2023 UPDATE TO THE COMMON REPORTING STANDARD 11-12(2023))。 こうした背景を踏まえ、OECDは、2022年から2023年にかけて、暗号資産取引に関する税務情報を、納税者の居住地国との間で、標準化された方法により、自動的に交換することで課税の透明性を確保する世界的な枠組みであるCARF(Crypto-Asset Reporting Framework:暗号資産等報告枠組み)を策定した。 CARFの概要は下図のとおりであり、現在、日本を含む60以上の国・地域が令和9年又は令和10年からこの枠組みに従った情報交換を開始することを表明している(国税庁「非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の導入について」(令和7年6月)、OECD, Jurisdictions Committed to Implement the Crypto-Asset Reporting Framework (CARF) in Time to Commence Exchanges in 2027 or 2028 as Part of the Global Forum’s CARF Commitment Process(2025))。 情報交換の対象となる税務情報には、暗号資産の残高情報は含まれていないものの、利用者や事業体に係る実質的支配者の氏名、住所・所在地、居住地国、納税者番号、生年月日、出生地のほか、報告対象となる暗号資産の種類、法定通貨による購入や売却、暗号資産の交換、受領及び移転に係る暗号資産の名称、総額、総数量、件数などが含まれる(OECD, PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT, at 4-5; OECD, INTERNATIONAL STANDARDS, at 11-12, 14, 18-19, 34-35)。   (了)

#No. 630(掲載号)
#泉 絢也
2025/08/07

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第55回】「国外財産調書に係る過少申告加算税の加算措置」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第55回】 「国外財産調書に係る過少申告加算税の加算措置」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 国外財産調書及び債権債務調書について過少申告加算税の加重措置が適用される「重要なものの記載が不十分である」とはどのような場合をいうのでしょうか。 〔A〕 国税不服審判所の裁決において、記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 国外財産調書及び債権債務調書 (1) 国外財産調書 ① 制度の概要 居住者で、その年の12月31日現在の国外財産の価額が5,000万円を超える居住者は、その財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、その年の翌年の6月30日までに提出しなければならない(国送法(※1)5①)。国外財産調書制度は平成24年度の税制改正で整備されたが、その導入趣旨について、税制改正の解説(※2)では以下のように説明されている。 (※1) 正式名称は、「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」という。 (※2) 財務省「平成24年度税制改正の解説」613頁 ② インセンティブ措置 国外財産調書制度の導入を促進するため、以下のような制度が設けられている。 (2) 財産債務調書 ① 制度の概要 所得税及び復興特別所得税の納税義務者で、その年の総所得金額及び山林所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(※3)を有する場合には、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書をその年の翌年の6月30日までに、所轄税務署長に提出しなければならない(国送法6の2)。 (※3) 国外転出特例対象財産とは、所得税法60条の2第1項に規定する有価証券並びに同条2項に規定する未決済信用取引等及び同条3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいう(国送法6の2①、所法60の2①~③)。 財産債務調書制度は平成27年度の税制改正で導入されたが、それまで所得税法上の「財産債務明細書」として所得基準に合致する納税者についてのみ提出を求めてきたものを、平成27年度改正で導入された国外転出時課税制度の実効性を担保する目的も持たせて、所得基準と資産基準を併用して対象者を大口納税者に絞ったうえで、資産を時価で記載させるなど記載内容を充実させたものである(※4)。 (※4) 青山慶二「国外送金等に係る調書の提出等に関する法律に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用した事案」(TKC税情2025.2)32頁脚注4参照 財産債務調書を提出する者が国外財産調書を提出する場合には、その財産債務調書には、国外財産調書に記載した国外財産に関する事項の記載は要しないとされている(国送法6の2⑤) ② インセンティブ措置 財産債務調書についてもその適用を促進するため、国外財産調書と同様、過少申告加算税の5%軽減又は5%加重のインセンティブ措置が設けられており、内容はほぼ同一のため、記載は省略する。 以下では、国外財産調書につき、過少申告加算税の加重措置の適用の是非が争われた最近の裁決例を採り上げる。   2 過去の裁決例 令和5年12月7日国税不服審判所裁決(東栽(所)令5-48)(※5) (※5) 国税不服審判所HP (1) 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、国外財産等に関して生じる所得の申告漏れ等があったとして修正申告書の提出をしたところ、原処分庁が、国送法に規定する国外財産又は財産債務に係る過少申告加算税の特例による加重措置を適用して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 請求人は、令和元年分ないし令和3年分(以下「本件各年分」という)の所得税等について、法定申告期限までに申告し、また、本件各年分に対応する国外財産調書及び財産債務調書をそれぞれ原処分庁に提出した。その後請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年3月5日、令和2年分の所得税等について、保有していた国内G株式に係る譲渡所得の計算誤り等があったとして、修正申告書を提出した。 さらに、請求人は、原処分庁の調査を受け、令和4年8月22日、本件各年分の所得税等について、米国に保有する賃貸用建物(以下「本件物件」という)に係る減価償却費の過大計上やG株式に係る譲渡所得の計算誤りに起因する各種申告漏れ等があったとして、修正申告書を提出した。原処分庁は、各修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定処分に当たり、各年分の国外財産調書及び財産債務調書に記載すべき事項に誤りがあることを理由に、国外財産調書及び財産債務の加重措置を適用した。 請求人は、原処分庁による各加重措置が適用されたことを不服として審査請求した。 (2) 主な争点 本件の争点は、過少申告加算税について、加重措置が適用されるか否か、具体的には、請求人が提出した各調書は、「重要なものの記載が不十分である」(国送法6③及び同法6の3②)と認められるか否かである。 (3) 審判所の判断 ① 法令解釈 国外財産調書の提出制度は、国外財産に係る課税の適正化の観点から、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める制度であり、国外財産調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして、国外財産軽減加重措置が設けられている。また、財産債務調書の提出制度は、所得税等の申告の適正性を確保するため、納税者の保有する財産及び債務に関する情報につき納税者本人から提出を求める制度であり、同様に、財産債務軽減加重措置が設けられている。 このような両調書の提出制度の趣旨から、国送法において、国外財産調書に「国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項」を記載すること、及び財産債務調書に「財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項」を記載することが規定されていることに照らすと、国送法第6条第3項及び同法第6条の3第2項に規定する「重要なものの記載が不十分である」と認められる場合とは、それぞれ、国送法施行規則第12条第1項(国外財産調書)及び同規則第15条第1項(財産債務調書)が規定する記載すべき事項について誤りがあり、又は記載すべき事項の一部に記載漏れがあることにより、修正申告等の基因となる国外財産又は財産ないし債務の特定が困難である場合をいうものと解され、これと同趣旨の国送法通達6-3(国外財産調書)の取扱い及び同通達6の3-3(財産債務調書)の取扱いは当審判所においても相当と認められる。 そして、国外財産軽減加重措置及び財産債務軽減加重措置が両調書の提出及び適正な記載を確保するためのインセンティブとして設けられていることに鑑みると、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、各軽減加重措置の適用の可否の判断は、各調書自体の記載内容から行うべきである。 ② あてはめ 審判所は、以下のように事実認定し、国外財産調書及び財産債務調書の各記載内容は、いずれも各調書に記載すべき事項のうち「重要なものの記載が不十分である」と認められるから、過少申告加算税について加重措置が適用されると判断した。 ➤本件物件について 本件物件は不動産所得を生ずべき業務の用に供されていたから、種類欄及び用途欄には、いずれも記載の誤りがあると認められる。また、その所在欄には居住用建物である旨の「Residence Property」との記載があるのみで、その所在地の記載はなく、さらに、戸数及び床面積の記載もない。 以上のように、令和元年分国外財産調書及び令和2年分国外財産調書は、本件物件の種類欄や用途欄の記載に誤りがあるだけでなく、所在地や戸数、床面積についても記載に誤りがあり、又は記載がないから、令和元年分修正申告及び令和2年分第2修正申告の基因となった本件物件を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。 ➤G株式について 請求人が(中略)G社の株式について記載したとする各順号3欄は、財産債務の区分欄に「匿名組合契約の出資の持分」と記載されているほか、その種類欄は、「株式」及び「G社」と記載すべきところを組合出資持分と解される「SECURITIES PARTNERSHIP INVESTM」と記載されており、記載の誤りがあると認められる。また、数量欄は「0」と誤って記載されており、取得価額の記載もない。 以上のように、(中略)G社の株式について、「株式」であるとの種類の記載やその数量の記載もないのであるから、令和2年分第1修正申告及び令和3年分修正申告の基因となった本件令和2年譲渡株式及び本件令和3年譲渡株式を当該各記載内容から特定することは困難であると認められる。   3 検討 請求人は、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」に当たるか否かは、国外財産調書又は財産債務調書の内容から財産の特定が困難か否かで判断するべきものではなく、自身が毎年確定申告していることや、原処分庁の調査担当職員から対象物件について確認等があったことに鑑みると、これらの財産は既に特定済みであるから、「重要なものの記載が不十分であると認められる場合」には当たらない旨主張した。これに対し審判所は、「重要なものの記載が不十分である」か否かを含めて、国外財産軽減加重措置又は財産債務軽減加重措置の適用の可否の判断は、国外財産調書又は財産債務調書自体の記載内容から行うべきであり、これらの記載内容に基づくと、本件において「重要なものの記載が不十分である」と認められることは上記のとおりであるとして、請求人の主張を排斥した。事実関係からして、請求人の主張が認められる余地は全くなかったものと思われる。   (了)

#No. 630(掲載号)
#霞 晴久
2025/08/07
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