こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第25回】 「少人数私募債の利子から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、社長が全株式を保有する同族会社です。平成27年4月1日に社長の親族のA氏に対して少人数私募債を発行し、3,000万円を調達しました。平成27年4月30日より毎月末に利子10万円を支払うことになっています。 少人数私募債の利子から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 少人数私募債の利子は、利子所得である。利子所得は、利子に20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税率を乗じて所得税・復興特別所得税・住民税が源泉徴収されて納税が完結する源泉分離課税の対象である。 ただし、平成25年の税制改正により、平成28年1月1日以後に少人数私募債の利子で同族会社の役員等が支払いを受けるものは総合課税の対象とされたので注意が必要である。同族会社の役員等とは、次の①~⑥に掲げる者をいう。 今回のケースにおいては、A氏は社長の親族なので上記②に該当するため、平成27年12月31日以前の利子は20.315%の源泉分離課税、平成28年1月1日以後の利子は総合課税のため源泉徴収は不要である。 1 平成27年12月31日以前の利子の処理 2 平成28年1月1日以後の利子の処理 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第25回】 「裁決例⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、飲食業を営む前賃借人からその各店舗を転借する際に支払った対価は営業権の対価ではなく、繰延資産の対価であるとした事件である。 本事件のように、営業権(現行法上の資産調整勘定)に大雑把に入れるのではなく、厳密に各資産に配分する必要があるという意味で、実務において参考になり得る事件であると考えられる。 なお、類似の事件として、昭和63年6月21日裁決(店舗を開設するに当たり、前の賃借人に支払った本件金員は、繰延資産たる「資産を賃借するために支出する費用」に該当するものであり、その償却期間は、店舗が設置されている建造物の耐用年数を基に見積もるべきであるとした事例)が存在する。 10 昭和55年3月31日裁決 (1) 事件の概要 審査請求人(以下、「請求人」という)は、特殊飲食物の製造販売を業とする会社であるが、店舗を賃借する際に、各店舗の前賃借人及び仲介人に対して、53,500千円の支払いを行った。そして、請求人は本件対価の額は、本件各店舗に係る営業権を取得するために支払ったものであるとし、本件対価の額を営業権の取得価額とするとともに、当該事業年度において営業権として償却額を計算し、5,349千円を損金の額に算入したところ、原処分庁は、本件対価の額は法人税法施行令第14条第1項第9号のロ(繰延資産の範囲)に規定する繰延資産に当ると認定し、29年から34年の間の償却期間により、償却限度額1,774千円を超える3,575千円について、損金の額に算入することを認めなかった。 これに対し、請求人は営業権であると主張して原処分の取消しを求めたが、国税不服審判所は、若干の計算ミスを認めたものの、結果的に償却超過額が3,579千円となり、原更正処分において加算した金額を上回っていることから、請求人の主張を認めなかった。 なお、請求人は、仮に賃借権譲受の対価であるとしても、①基本通達7-1-5に例示した出漁権等と共通する性格である、②借家権としての権利がないことから、店舗の見積耐用年数の10分の7ではなく、賃借期間で計算すべきであるという主張もしているが、本事件における主要な争点ではないことから、本稿においては解説を省略する。 (2) 原処分庁の主張 本件対価の額の支払先である本件各前賃借人の本件各店舗における業種目は、D町店及びI町店は喫茶、F町店は喫茶(1階)及びステーキ(2階)並びにG町店はラーメンであり、いずれも請求人の営む飲食店と同業種目であるが、請求人の営業店舗はすべて統一されたレイアウトにより経営されていること及び請求人の販売する主要商品である「特殊飲食物」は請求人が開発した独特の商品であるところから、本件各前賃借人が開発した顧客を承継する可能性は全くないから、請求人の主張する営業権を認識する余地はない。 (3) 請求人の主張 請求人は、本件各店舗の立地条件と、本件各前賃借人の開発した飲食店の顧客関係の承継の可能性を無形の営業上の財産的価値と評価し、これを営業権と認定したものである。 (4) 国税不服審判所の判断 D町店及びI町店の前賃借人は喫茶、F町店の前賃借人は喫茶及びステーキ並びにG町店の前賃借人はラーメンを事業種目としていたことが認められ、請求人が本件各店舗において事業を営むことを予定していた事業種目は、同人が開発した独得の食品である特殊飲食物等の販売であるところから、本件各前賃借人の客層と請求人が本件各店舗において営むことを予定していた特殊飲物販売との客層は、同一とはいえないから、本件各賃借人の有していた取引関係は、請求人にとって超過収益力を獲得できる無形の財産価値を有しているものとは認めることができない。 (5) 評釈 本事件においては、前賃借人の有していた客層と請求人が予定している客層が同一のものとはいえないという事実関係から営業権とは認められず、繰延資産であるという認定を行っている。 結論としては問題がないものの、論理構成としては、識別可能な資産である賃借権たる繰延資産に配分した残余としての営業権を認定するというのが本来の形であることから、類似の事案であれば、賃借権の対価であるという認定を直接的に行うべきであり、少なくとも、現在の法人税法の体系であれば、本事件のような、消去法のような認定は望ましくないと考えられる。 すなわち、ラーメン店を営む事業を廃止し、新たにラーメン店を営む事業者に同様の譲渡取引が行われる可能性は十分に考えられるところ、客層が同一であるという理由により、営業権という認定を行うべきではない。実際には、店名や従業員を引き継ぐ居抜き譲渡というものも考えられ、そのような場合には営業権としての性格が含まれることは否定できない。また、国税不服審判所の判断でも触れられているように、営業権を超過収益力と捉えたうえで、「その企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在、並びにそれらの独占性等」が含まれるものと考えると、立地条件を含む超過収益力を営業権と考えることもできなくはないため、営業権に含めるべき金額が存在することは否定できない。 しかしながら、営業権(現在の資産調整勘定)への配分は、他の資産及び負債に配分できない場合の配分残余としての性格であり、他に明確に配分できる資産があるのであればそれを優先すべきであると考えられる。 無論、前述のように、ほとんどの金額が営業権(現在の資産調整勘定)に配分されてしまう事例も考えられなくもないが、そのような場合には、個別の事案ごとの合理性を判断していく必要があると考えられる。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【59】 〔第7章〕判例の探し方 (その6) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 前回に続き、ある特定の分野(事件)の裁判例だけをまとめた裁判集について紹介する。 (20) 『行政裁判月報』『行政事件裁判例集』 『行政裁判月報』は、最高裁判所及び各地の高等裁判所・地方裁判所から送付される行政事件(農地・選挙・工業所有権・地方自治・公務員・その他の一般行政関係)の裁判(判決・決定)の中から、最高裁判所事務総局行政局が重要なものを選択して編纂し、発行していた。昭和22年分掲載(発行は23年3月(収録事案は昭和22年分)の第1号から昭和25年10月(収録事案は昭和24年分)の24号まで発行されていた。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「行政裁判月報」と入力して検索。 裁判所図書館には、索引と合わせて、全号所蔵されている。 CiNiiによれば、現在64大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 行政裁判月報 『行政事件裁判例集』は、上記の『行政裁判月報』の内容が引き継がれ、(第1巻~第4巻は最高裁判所のものを含む)各地の高等裁判所・地方裁判所から送付される行政事件(農地・選挙・工業所有権・地方自治・公務員・その他の一般行政関係)の裁判(判決・決定)の中から、最高裁判所事務総局行政局が重要なものを選択して掲載していた。昭和25年1月の1巻1号から平成10年7月(収録事案は昭和9年分)の48巻11・12号まで発行されていた。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「行政事件裁判例集」と入力して検索。 裁判所図書館には、索引と合わせて、全号所蔵されている。 CiNiiによれば、公文書版として、現在29大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 行政事件裁判例集 また法曹会より出版された市販本版(雑誌)が現在161大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 行政事件裁判例集(法曹会) (21) 『訟務月報』 国が訴訟当事者となった裁判を中心として、民事・行政(租税事件を含む)事件の重要判例について、訟務重要判例集データベースとして、当初は法務省訟務局、次いで法務省大臣官房訟務企画課により編纂され、発行されている。裁判年月日順に、各裁判例の判示事項、主文、事実、理由のほか判例解説も掲載されている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「訟務月報」と入力して検索。 裁判所図書館にも所蔵されているが、初期の頃のいくつかは、所蔵がない。 法務省の図書館である「法務図書館」には、全号所蔵されている。 CiNiiによれば、公文書版として、現在112大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 訟務月報 また民事法情報センター発行の市販本版(雑誌)が現在14大学の図書館に所蔵されている(下記リンク参照)。 なおこの民事法情報センター発行の市販本版は、56巻4号(平成22年4月)で刊行中止となっている。 訟務月報(民事法情報センター) (22) 『税務訴訟資料』 国税庁が租税関係行政・民事事件裁判例のうち国税に関する裁判例の中で重要と思われるものを収録して発行したものである。 昭和25年発行の「税務行政事件訴訟判決集1(ただし収録事案は昭和23年と24年分)」が「税務訴訟資料第1号」であるが、昭和26年の「租税関係刑事事件判決集1」が「税務訴訟資料第6号」となるというように、「税務訴訟資料」という統一名称のものの中で「租税関係行政・民事事件判決集(初期は「税務行政事件訴訟判決集」)」と「租税関係刑事事件判決集」とがあり、号数としても2つ併記される。なおこの前者は国税庁の課税部審理室が編集し、後者は調査査察部査察課が編集していた。 さらに、税務訴訟資料の2~5号は「訴訟月報集録1~4」であったり、30号は「税租税関係行政・民事事件判決要旨集」、84号や98号は「税務調査等関係刑事事件判決集1」「税務調査等関係刑事事件判決集2」であったりと、上記の「租税関係行政・民事事件判決集」「租税関係刑事事件判決集」以外のものもいくつか存在する。 また「租税関係刑事事件判決集」については、平成10年分が収録されている「税務訴訟資料236号」の「租税関係刑事事件判決集91」を最後として、その後は税務訴訟資料とは切り離されて発行されている。すなわち平成12年に「租税関係刑事事件判決集92」が発行されているが、これは税務訴訟資料ではなくなっている。 したがって、平成10年以降は、税務訴訟資料としては「租税関係行政・民事事件判決集」のみとなっている。 なお、事案の通し番号として、「順号〇〇号」が付されている。 裁判所図書館蔵書検索頁の「フリーワード検索」欄に「税務訴訟資料」と入力して検索。 裁判所図書館には、初期のものに若干の欠号はあるが、平成20年までは、概ねそろっている。 法務省の法務図書館にも、初期のものに若干の欠号はあるが、平成20年までは概ねそろっている。法務図書館の検索結果のリストを見ると、税務訴訟資料の通巻号数と、「租税関係行政・民事事件判決集」「租税関係刑事事件判決集」等の号数について、詳細に示されている。 下記の法務図書館蔵書検索(簡易検索)頁の「フリーワード検索」欄に「税務訴訟資料」と入力して検索。 初期のものを所蔵しているところは少ないが、税務大学校の租税史料室にも所蔵があるので、ここにリンク先を示しておく。 税務訴訟資料の検索結果(国税庁) CiNiiによれば、この税務訴訟資料は、上記の「租税関係行政・民事事件判決集」「租税関係刑事事件判決集」等の内容ごとの区分で登録している図書館もあるため、「税務訴訟資料」の検索結果をもとに、その区分ごとで確認されたい。 「税務訴訟資料」の検索結果 なお初期のものは、裁判所図書館や法務図書館、税務大学校租税史料室にも欠号があるが、静岡大学には、税務訴訟資料1号~5号(上記「税務行政事件訴訟判決集1」「訴訟月報集録1~4」)が所蔵されている。 訴訟月報集録 税務行政事件訴訟判決集 また、現在は、税務訴訟資料258号(租税関係行政・民事事件判決集(課税関係判決)平成20年1月~平成20年12月)以降の分について(現在は1年分を1号としている)、国税庁ホームページにおいて公開している(ただし徴収関係判決は平成21年分以降)。 税務訴訟資料(国税庁) なお国税庁ホームページにおいては、課税関係判決と徴収関係判決は分けて公開しており、徴収関係判決においては、各年で順号を付している。例として、平成21年分を参照。 租税関係行政・民事事件判決集(徴収関係判決)平成21年1月~平成21年12月(国税庁) (続く)
『IFRS適用レポート』を受けて 「IFRSの適用と会計システムの影響」を再考する 公認会計士 坂尾 栄治 公認会計士 小田 恭彦 ▷「IFRS適用レポート」の公表を受けて 2014年6月24日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」において、「IFRSの任意適用企業がIFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにどのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、IFRSへの移行を検討している企業の参考とするため、『IFRS適用レポート(仮称)』として公表するなどの対応を進める。」とされたことを受けて、2015年4月15日に金融庁より「IFRS適用レポート」が公表されました。 当該レポートでは、IFRSの任意適用企業(適用予定企業を含む)69社へのアンケート(回答企業は65社)および28社に対してのヒアリングに基づくIFRSへの移行に際しての課題や対応へのメリットについてとりまとめられていますので、レポートの内容を受けて、以前に本誌上で連載した「IFRSの適用と会計システムの影響」の内容を再考してみようと思います。 ▷IFRSを適用するメリット ⇒レポートP4 「IFRSの適用と会計システムの影響」【第1回】では、「IFRSをめぐる現状」としてIFRSを適用するメリットについて大きくは以下の3つがあると考えられる旨記述しました。 「IFRS適用レポート」では、IFRSの任意適用を決定した理由又は移行前に想定していた主なメリットについて以下の項目から選択する形で解答を求めており、IFRSの任意適用を決定した理由又は移行前に想定していた主なメリットとして1位に順位付けした項目別の回答数は以下のようになります。 「IFRSの適用と会計システムの影響」で提示したメリットと比較すると、「1.経営管理への寄与」、「4.業績の適切な反映(のれんの非償却、有給休暇引当の計上等)」、「5.資金調達の円滑化」が一致します。「IFRS適用レポート」で上位を占める「2.比較可能性の向上」や「3.海外投資家への説明の容易さ」がないとの指摘もあるかもしれませんが、それぞれグローバルマネーの呼び込みの手段とも考えられるため項目のレベル感をあわせるとほぼ同じ項目がメリットとして認識されているといえるのではないでしょうか。 ただ、ここで注意すべきはIFRSの任意適用企業(適用予定企業を含む)の半数近くが、業種別の時価総額で上位5社に入っている会社であり、またグローバルで広くビジネスを展開している企業だということです。 IFRSの適用を検討するにあたり、上に挙げられたIFRSの任意適用を決定した理由又は移行前に想定していた主なメリットを鵜呑みにせず、自社の企業規模やグローバル化の段階、直面する課題を十分に勘案して検討する必要があります。 ▷システム対応 ⇒レポートP44 「IFRSの適用に際して導入又は更新を行ったシステムの内容」に関して29社からの回答が公表されており、以下のようになっています。 IFRSは連結財務諸表を対象としているので、連結システムの導入又は更新が多い一方、会計システムの導入又は更新と回答した企業はほとんどありません。「IFRSの適用と会計システムの影響」【第2回】「『複数元帳』への対応」で取り上げたIFRSと日本基準の両方の基準での個別財務諸表を会計システムに保持する方法は多くの企業で検討されると考えられてきましたが、アンケートの回答結果からはIFRS対応後のシステムは以下のようなパターンが多いと想像されます。 まず、日本基準とIFRSとの差異を集計するにあたり、システムによる集計や計算が不可避な差異についてサブシステムの改修を行っております。回答の中では、「固定資産システム」、「販売システム」、「購買システム」がそれに該当します。特に固定資産については、個々の固定資産の減価償却計算や評価などを手作業で集計するのは不可能に近いので多くの企業が改修を行ったことが回答から読み取れます。 次に、日本基準とIFRSとの差異は総勘定元帳システム(複数元帳)による管理は行わず、表計算ソフトなどを使用して集計したその他の差異とあわせてシステムの外で管理したうえで、連結システムにのみ反映させる方法を採用しているかと思われます。 複数元帳を採用しない理由については、さまざまな理由が考えられますが大きな理由のひとつに、日本基準とIFRSのコンバージェンスが進み、個別財務諸表レベルで帳簿をパラレルで保持しなければ収拾がつかないほどの差異はなくなり、システム外ないしは簡易なデータベースツール程度で差異を把握しておけば対応可能な状況になったということが挙げられるのではないかと思われます。 事例として筆者の関与先では、総勘定元帳システムから別のシステム(比較的安価な会計ソフト)にセグメント別の試算表を連携させたうえで、そこに差異の仕訳を投入してIFRSベースの試算表を作成し、それを連結システムにつなげるという方法を採用している企業もあります。 なお、回答コメントの中には といった回答もあり、IFRSベースの個別財務諸表の作成及び管理を現地法人に委ねる場合や、IFRS導入を機にIFRSベースの経営管理を推進する場合など、その必要性に応じて複数元帳を採用する企業もあることが読み取れます。 ▷移行コスト ⇒レポートP9 ここでいう移行コストは、IFRSに移行するに当たってのコスト(主としてシステムにかかるコスト)であり、IT業界でよく使われる旧システムから新システムへの過去データの移し替えのことではありません。 「IFRS適用レポート」では、IFRSへの移行に直接要した総コスト別の企業数(売上規模別)が公表されています。 IFRSへの移行に直接要した総コスト別の企業数(売上規模別) 「IFRS適用レポート」P9より 大きくは企業規模と移行コストに正の相関が見受けられますが、より注目すべきは、目的と移行コストの関連性です。この関連性はデータとして明示されていませんが、ヒアリングを通じて考察されています。 概してIFRS導入の目的・メリットで「1.経営管理への寄与」に重点が置かれている場合には移行コストが高く、「2.比較可能性の向上」や「3.海外投資家への説明の容易さ」等に重点が置かれている場合には移行コストが低く抑えられているようです。 「IFRSの適用と会計システムの影響」【第5回】「連結会計システムへの影響」では、連結会計システムのIFRSへの対応としてあまり大きな変更は必要ないと書きました。これはまさに「2.比較可能性の向上」や「3.海外投資家への説明の容易さ」等に重点が置かれている場合の対応にあたるもので、IFRS導入の目的をIFRSベースの財務諸表を作成するといった点を満たすことに限定すれば、移行コストは低く抑えることが可能と考えられます。 一方で、IFRSの任意適用を錦の御旗にして、この機会にあれもこれも実現したいと大掛かりな計画を立てる企業もあります。間接部門ではそれ相応の口実がないと大掛かりな投資ができないことが多く、その意味ではIFRSはそれなりに良い口実になります。前項で記したような複数元帳対応の会計システムを全子会社で統一して導入する等、グループ経営管理のレベルアップを図るために大掛かりな対応を行った企業では期間とコストがかかったものと考えられます。 * * * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。 (了)
海外先進事例で学ぶ「統合報告」 ~「情報の結合性」と「簡潔性」を達成するために~ 【紹介事例①】 「ユニリーバ社」 (UNILEVER 「Annual Report and Accounts 2013」) 公認会計士 若松 弘之 1 はじめに 2013 年 12 月、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council、以下「IIRC」という) は、統合報告のフレームワーク(The International Integrated Reporting Framework、以下「〈IR〉フレームワーク」という)を公表した。この〈IR〉フレームワークの公表を境に、日本における統合報告書の作成企業数は2012年に61社、2013年に96社へと増加し、2014年度には142社となった(ESGコミュニケーション・フォーラム 「国内統合レポート発行企業リスト 2014年版」より)。 【統合レポートを発行している国内企業数】 (出所:ESGコミュニケーション・フォーラム) 2 統合報告によってディスクロージャー情報は減ったのか? 統合報告はその名の通り、企業がこれまでに開示してきた様々な報告書を1つに統合し、ステークホルダーに対する情報提供を簡潔で分かりやすいものにすることを目指している。 2013年度の統合報告開示企業50社あまりを対象に、統合報告の作成により実際の開示情報量が減っているかを分析した結果、それを明確に達成できている企業は10社程度にとどまっているとの見方もある((株)日本政策投資銀行 設備投資研究所「経済経営研究Vol.35『統合報告の制度と実務』(No.1 2014年7月)」)。 日本での統合報告への取組みは始まったばかりであり過渡期でもあるため、実際にはCSR報告書、サステナビリティ(持続可能性)報告書、ガバナンス報告書などの任意報告書も残しつつ、新たに「統合報告書」を作成するケースや、これら既存の報告書を単に1つにまとめただけの「統合報告書」となっているケースなども多く、統合報告が目指している開示情報の「結合」や「簡素化」には必ずしも結びついていない実態がうかがえる。 3 統合報告に取り組むことになったら何から手をつけるか? 仮に、みなさんが企業の開示責任者であり、トップから「うちも統合報告にチャレンジしよう!」と言われた場合、何から手をつければいいのだろうか? もちろん、まずは、〈IR〉フレームワークやその関連情報、参考書などを勉強することになると思う。ところが、まず突き当たる壁が「抽象的な概念が多く、結局のところ自社の開示イメージが湧かない」ということではないだろうか。これは、〈IR〉フレームワークが、国際財務報告基準(IFRS)と同様に、原則主義的なアプローチを採っているためである。 具体的に言うと、〈IR〉フレームワークでは、統合報告にあたっての具体的な測定方法や課題、事例などを定めるものではなく、統合報告の基礎概念を示しながら、〈IR〉フレームワークに準拠した統合報告の要件である7つの「指導原則」や8つの「内容要素」を規定するにとどまっている(それゆえに約40ページに収まっている)。 (〈IR〉フレームワークの基礎については、拙稿「基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に―」を参照)。 しかし、諦めるのはまだ早い。本連載では「統合報告に長く取り組んでいる海外先進事例をいろいろ分析しながら自社に置きかえることで、具体的なイメージをつかむ」ことを目指している。 実は、これはIIRCが統合報告を世界に普及させるための戦略でもある。昨年来日したIIRCのポール・ドラックマンCEOも、IIRCは細かいルール主義や規制によって、組織のユニークな価値創造ストーリーである統合報告を横並びで退屈なものにするのではなく、参加者の積極性や市場原理に任せながら、IIRCとしては先進事例やベスト・プラクティスを幅広く紹介していきたいという趣旨のコメントをしている。 したがって、今、海外先進事例から統合報告を学び始めることは、理にかなっていると言えるのではないだろうか。 4 IIRCが提供する「統合報告データベース」 上記のとおり、IIRCは自社のホームページにおいて、7つの「指導原則」および8つの「内容要素」を検索条件にして、様々な国や業種の統合報告書の最新事例の該当ページを容易に検索・閲覧できるようにしているため、ぜひ一度アクセスすることをお勧めする。 実際に検索してみよう。例えば、【消費財(Consumer goods)】企業における【2011年~2014年(Any Year)】のレポートを母集団として、【内容要素:ビジネスモデル(Content Elements:Business model)】の記載に関して、【指導原則:情報の結合性(Guiding Principles:Connectivity of information)】の観点で検索を実行すると、(株)ローソンを含む世界各国5件の先進事例が表示される(【〇〇】部分を条件選択してウェブ検索できる)。 本連載では3回にわたり、この統合報告データベースを利用して、特に統合報告を象徴している【情報の結合性】や【簡潔性】、そして持続的成長と密接につながる【戦略的焦点と将来志向】の3つの「指導原則」に関して、筆者が明瞭かつ秀逸と考えるいくつかの最新事例を「内容要素」別に紹介したい(下図参照)。 みなさんが「指導原則」および「内容要素」と照らし合わせながら具体的事例にふれることで、〈IR〉フレームワークの目指す統合報告の理想像をイメージしていただくとともに、今後、企業報告の主流を担うであろう統合報告を少しでも身近で有用なものとして理解していただけると幸いである。 なお、ここで取り上げる統合報告書とは、単に「統合報告書」という名称が付されたものだけでなく、法的な開示書類であるアニュアル・レポートにサステナビリティなどの非財務情報を組み込み統合的に開示しているものをはじめ、〈IR〉フレームワークの要素を取り入れて財務情報と非財務情報の統合を図っている企業の公式な開示報告書を広く含んでいることをあらかじめお断りしておく。 【〈IR〉フレームワーク「指導原則」および「内容要素」と本連載紹介事例の関連】 【紹介事例①】 「ユニリーバ社」(UNILEVER 「Annual Report and Accounts 2013」) ~内容要素「ビジネスモデル」の記載部分に関して、指導原則【戦略的焦点と将来志向】【情報の結合性】【簡潔性】の観点で事例紹介~ ユニリーバ社の2013年度アニュアル・レポートでは、このUSLP に沿った形で同社のサステナビリティに係る実績等を報告し、かつUSLPに基づく活動が社会的に有用なインパクトをもたらすと同時に、同社の持続的な利益成長を促し、企業価値の好循環を形成していることも報告している。 なお、IIRCの統合報告データベースは、同レポート22ページから25ページにおける内容要素【ビジネスモデル】に関する記載を、【戦略的焦点と将来志向】、【簡潔性】、【情報の結合性】の3つの指導原則に沿った最新事例として掲載している。 みなさんの理解を助けるため、該当ページに注釈を付したものが以下である。 (※クリックすると別ウィンドウでpdfが開きます) 1 ビジネスモデルに関する全体像 ユニリーバ社は、自社のビジネスモデルがどのように利益の増加やコストの削減、持続可能な技術革新をもたらすかを明らかにするため、長期にわたり持続可能な成長を可能にするUSLPに焦点をあてている。そして、USLPこそが、不確実性が高い世界の中でどのようにビジネスを行っていくべきかを最も統合的に示すものであり、他社との差別化につながるとしている(22ページの冒頭記載)。 USLPでは、「健康・衛生の改善」、「環境負荷の削減」、「経済発展」の3つの分野における2020年までの長期目標を掲げ、この長期目標を達成するために会社が遂行すべき7つのコミットメントを設定している。そして、各コミットメントの具体的内容と、2013年における達成状況を記載している【図A】。 これらの記載は、アニュアル・レポート22ページからの2ページ分の見開き1枚分のスペースに、定性的な記述と定量的指標の組合せを用いながら、視覚的に相互のつながりがわかるように色分けや図で工夫されている。【図A】の記載は明瞭かつ簡潔に1文から2文でまとめられ、必要に応じてそれぞれの項目についての詳細な説明が、その【図A】の周辺に記載されている。 2 具体的内容 同社はアニュアルレポートの冒頭で「環境負荷を減らし、社会に貢献しながら、ビジネスの規模を2倍に」するという企業理念を掲げている(下図)。 (UNILEVER「Annual Report and Accounts 2013」P1から抜粋) その企業理念を実現するための3つの長期目標の1つとして、2020年までに「製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減」することを掲げている【図A①「REDUCING ENVIRONMENTAL IMPACT」】。 そして、この長期目標を達成するための3つの具体的コミットメントの1つである温室効果ガス対策として「製造工程から生じる温室効果ガスについては、製品の生産量が大幅に増えても、2020年までに工場からのCO2排出量を2008年と同等の水準またはそれ以下に削減する」ことを目指している【図A②「3.GREENHOUSE GASES」】。 さらに、この目標の2013年における達成状況として、「2008年度に対して(CO2排出量は)生産量1トンあたり32%削減されている。」と記載されている【図A③】。 これらの記載から、同社が企業理念のうちの「環境負荷を減らす」という部分でどのような目標を設定し活動を行っているのか、そして現在その目標をどの程度達成したのかが、この1枚の見開きページから容易に見て取れるのである。 また、この2013年度のCO2排出量の削減実績は、外部コンサルタントによる第三者保証を得た客観的な数値であることも特筆すべき点である。同社は、今後2020年までにサステナビリティの業績指標に対する保証を段階的に増やしていくとしており、より信頼性の高い非財務情報の提供を目指す真摯な取組みがうかがえる。 3 ビジネスモデルと持続的成長の結合 これらのUSLPとサステナビリティに係る実績等を記載した後、このようなUSLPに基づく企業活動が、同社の利益成長を促し、結果的に価値の好循環を支えていることが24ページ以降に記載されている。 同社がレポートを通して図解しているビジネスモデルである「価値の好循環」【図B】を形成する3つの要素(矢印)のそれぞれについて、「ブランドの成長」、「イノベーションの促進」、「コストやリスクの削減」といった観点で利益や成長をもたらしている具体的事例が、24ページ以降に関連づけて記載されている。 4 まとめ 今回紹介したユニリーバ社の先進事例を3つの「指導原則」に照らして整理してみる。 (1) 戦略的焦点と将来志向 ユニリーバ社が持続可能な成長戦略を実現する上で何に焦点を当てているのかが、その長期目標とともに記載されている点で、〈IR〉フレームワークの「指導原則」の【戦略的焦点と将来志向】を的確に実践している事例と言える。 (2) 情報の結合性 ユニリーバ社の長期目標がどのような具体的な戦術にブレークダウンされているか、それが現状どの程度達成されているか、そしてそのような目標達成の積み重ねである企業活動が具体的にどのように企業に価値をもたらしているのかを、図のレイアウトや色分けなどの工夫を通じて相互に関連づけて記載することにより、企業の長期にわたる価値創造能力に影響を及ぼす要因や、企業の現在と将来の行動の関連性を概観することができ、まさに「指導原則」の【情報の結合性】に沿った好事例と言える。 (3) 簡潔性 世界各国で様々な企業活動を行うグローバル企業の成長やサステナビリティに関する戦略とその実績のアウトラインがわずか4ページの図表と記述に集約されている点で、これまでの企業の報告ではなしえなかった「指導原則」の【簡潔性】に沿った報告事例と言える。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第16回】 「セグメント情報等の開示」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、セグメント情報等の開示について解説する。 セグメント情報等とは、以下の4つの情報をいう(企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準(以下、「基準」という)」1)。 上記(1)のセグメント情報は、マネジメント・アプローチで開示する(基準50)。マネジメント・アプローチとは、経営上の意思決定や業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメント情報を開示する方法である(基準45)。 なお、セグメント情報等の開示は、財務諸表利用者が、企業の過去の業績を理解し、将来のキャッシュ・フローの予測を適切に評価できるように、企業が行う様々な事業活動の内容及びこれを行う経営環境に関して適切な情報を提供するものでなければならない(セグメント情報を開示する基本原則。基準4)。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) セグメント情報の開示のため、まず、報告セグメント(セグメント情報を開示する対象となるセグメント)を決定しなければならない(基準10) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 事業セグメントの識別 まず、事業セグメントを識別する。事業セグメントとは、企業の構成単位で、次の要件のすべてに該当するものをいう(基準6)。 (※) 新たな事業を立ち上げたときのように、現時点では収益を稼得していない事業活動を事業セグメントとして識別する場合もある(基準6)。一方、企業の本社又は特定の部門のように、企業を構成する一部であっても 収益を稼得していない、又は付随的な収益を稼得するに過ぎない構成単位は、事業セグメント又は事業セグメントの一部とならない(基準7)。 また、事業セグメントの要件を満たすセグメントの区分方法が複数ある場合、各構成単位の事業活動の特徴、それらについて責任を有する管理者の存在及び取締役会等に提出される情報などの要素に基づいて、企業の事業セグメントの区分方法を決定する(基準9)。 (2) 集約基準 上記(1)で識別した事業セグメントは、そのまま報告セグメントになるわけではない。(2)から(5)で報告セグメントを決定することになる。(2)では、集約基準を検討する。 複数の事業セグメントが次の要件のすべてを満たす場合、当該事業セグメントを1つの事業セグメントに集約することができる(基準11)。集約することができる事業セグメントは集約し、(3)を検討する。集約することができない事業セグメントは、個々の事業セグメントごとに(3)を検討する。 (3) 量的基準 ここでは、報告セグメントとして開示しなければならない事業セグメントを判定する。 次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示しなければならない(基準12)。いずれかを満たす場合、【STEP2】を検討する。いずれも満たさない場合には、(4)を検討する。 (注) なお、量的基準のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示することは妨げられていない。 (4) 経済的特徴の判断 量的基準を満たしていない複数の事業セグメントの経済的特徴が概ね類似し、かつ上記(2)③に記載した事業セグメントを集約するにあたって考慮すべき要素の過半数について概ね類似している場合には、これらの事業セグメントを結合して、報告セグメントとすることができる(基準13)。そして、次は【STEP2】を検討する。 経済的特徴が概ね類似していない場合や、経済的特徴が概ね類似しているが、上記(2)③の要素の過半数について概ね類似していない場合には、下記(5)を検討する。 (5) 外部顧客への売上高が損益計算書の売上高に占める割合 上記(4)まで検討した結果、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書又は個別損益計算書(以下「損益計算書」という)の売上高の 75%以上である場合、その他の事業セグメントは「その他」として開示する(基準14、15)。 75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加する。損益計算書の売上高の75%以上に達したら、その他の事業セグメントは「その他」として開示する(基準14、15)。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 【STEP1】で報告セグメントを決定したら、セグメント情報として、(1)報告セグメントの概要、(2)報告セグメントの利益(又は損失)、資産、負債及びその他の重要な項目の額並びにその測定方法に関する事項、(3)開示項目とこれに対応する財務諸表上額との間の差異調整に関する事項を開示する。 具体的には、以下を開示する(基準17~26、78、企業会計基準適用指針第20号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という」10・12)。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 上記の他にも、「その他」に含まれる主要な事業の名称等も開示する(基準15)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) セグメント情報そのものだけでなく、その関連情報も開示する。 具体的には、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、(1)製品及びサービスに関する情報、(2)地域に関する情報、(3)主要な顧客に関する情報をセグメント情報の関連情報として開示する。なお、当該関連情報に開示される金額は、財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づいて開示する(基準29~32、適用指針15~18)。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 なお、報告すべきセグメントが1つしかなく、セグメント情報を開示しない企業であっても、当該関連情報を開示する。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 損益計算書に固定資産の減損損失を計上している場合には、その報告セグメント別の内訳を開示する。なお、報告セグメントに配分されていない減損損失がある場合には、その額及びその内容を記載する。ただし、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合には、当該情報の開示は必要ない(基準33)。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 損益計算書にのれんの償却額又は負ののれんの償却額を計上している場合には、その償却額及び未償却残高に関する報告セグメント別の内訳をそれぞれ開示する。なお、報告セグメントに配分されていないのれん又は負ののれんがある場合には、その償却額及び未償却残高並びにその内容を記載する。ただし、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合には、当該情報の開示は必要ない(基準34)。 また、損益計算書に重要な負ののれんを認識した場合には、当該負ののれんを認識した事象について、その報告セグメント別の概要を開示する(基準34-2)。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」 【第1回】 「今回改正の背景と全体像」 特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治 本連載では現企業年金制度に関するあらましの知識をお持ちの方を対象にしているが、充分な知識をお持ちでないと思っておられる方々にも問題の本質をご理解いただけるよう努力している。現企業年金制度に関する情報については、厚生労働省のHPにある企業年金についてのコンテンツをご参照いただきたい。 なお、改正法律案そのものの説明を除き、筆者の私見が多数述べられていることを注記させていただく。 1 改正の背景 〈全体像〉 上図〈全体像〉にあるが、今回の企業年金制度改正の中心は確定拠出年金制度(DC)である。理由はいくつか考えられるが、 といったところが理由であろう。 加えて、退職給付会計の国際化の側面を見逃すわけにはいかない。DCが生まれる以前には、日本の制度は、退職一時金制度を含めてすべて確定給付の制度であり、社員に対して、予め決められた仕組みで退職金額を支払うこととなっていた。一般的だったのは、『退職時の給与水準×勤続年数×一定の係数』というもので、年功序列型賃金及び終身雇用を助長していた。 この仕組みに退職給付会計が導入され、社員にとっての想定退職金額は、企業にとっては時価評価に基づく現在価値としての退職給付債務となり、その裏付けとしての運用資産も時価評価することとなったから、市況が悪い時には、割引率の低下による債務金額の膨張、運用資産時価総額の減少のダブルパンチで、積立不足の大幅増に見舞われ、これがDC制度実施の引き金になったと言われている。 この傾向は、現在のように一時的にせよ市況が回復している時でさえ、大企業を中心にして既存制度からDC制度へのシフトが静かに実施されている。 同様に、中小企業の社員もその恩恵に浴していた“厚生年金基金制度”が前述の法改正により、その存続が非常に厳しいものとなり、既に始まっているが、厚生年金基金の解散、結果として中小企業社員の無企業年金化が静かに進行しようとしている。また、もともと企業年金制度を有してはいなかった企業に企業年金制度を持たせようとすれば、企業にとって負担の少ないDCにせざるを得ない。 このような流れを受けて、厚生労働省はDCをより使い勝手の良い制度にしていかねばならぬ、ということで、DCを中心とした法改正に踏み切ったわけである。 今までの議論は主として企業サイドから、会計基準の変更、年金資産の運用難、そして厚生年金基金制度の実質的な終了に伴うものだったが、実は、それ以外に国として考えなければならない重大な理由があった。それが上図の一番左側にある2つの事象、「公的年金給付水準の引き下げ」と「ライフスタイルの多様化」である。 ほんの10年前までは、定年まで勤めていた多くのサラリーマンにとって、老後は公的年金によって生活の基本はカバーできるので、企業年金ないし退職一時金は、老後をより豊かにする資金として使っていける、という明るい展望を持てる時代だった。 しかしながら、公的年金制度に年金保険料の上限設定とそれに伴うマクロ経済スライドという仕組みが入り、受け取れる公的年金は『毎年のインフレ率-約1%程度』でしか増加しない、結果として、毎年その額だけ実質的に公的年金受給額の目減りが発生することとなった。 「約1%の減額か」と思うかもしれないが、これは、運用の世界でよく言う“複利効果”の逆であって、毎年、年を重ねるごとにどんどん加速度的に効いてきて、大きな減額幅となる。これは実は、大変に恐ろしい事態なのである。 加えて、「ライフスタイルの多様化」とキレイな言葉で書いてあるが、実態は、正社員の非正規社員化によって、 という社員が、日本全体の労働者の4割弱を占める状態になっている。 かかる事態を踏まえ、厚生労働省は、公的年金だけで老後生活を送ることは今後極めて困難になった事実を公示し(公的年金の財政検証結果の公示)、公的年金を補完する企業年金及び自助努力年金(DC個人型)の普及強化に乗り出したわけである。 今までは公的年金制度が、制度的にも、また、対象者のカバー率においても、老後資金として確固たる地位を占めてきたことから、悪く言えば、企業年金は“付け足し”のようなものだった。要すれば、「やりたい企業が、労使でよく相談して好きなように実施してくれてよい」という程度のものだったと思われる。 加えて、税制適格年金制度(適年)や厚生年金基金制度(特に総合型)のように中小企業にとっても使い勝手の良い制度があったために、金額の多寡はともかくとして、「企業年金制度を有している」企業及びその恩恵にあずかっている従業員の全労働者に占める割合は60%を超え、まずまずの利用状況だったと考えられる。 しかしながら、適年は既に完全廃止され、厚生年金基金制度も前述のごとく極めて厳しい状況に置かれ、結果として、企業年金はDBであれ、DCであれ、いわゆる大企業のものというイメージになっている。つまり、大企業でなければ持てない制度になってきたわけである。 この点をもう少し詳しく述べると、 という状況により、中小企業への企業年金の普及が困難になっている実情がある。 したがって、今のままでは企業年金制度の恩恵に預かれない可能性の高い中小企業の社員、及びそもそも企業年金制度自体の対象となりえない契約社員・パート社員などにも、老後資金積立を計り得る仕組みの構築が喫緊の課題となってきており、今般の制度改正が不可避になったものと考える。 2 改正の全体像 上図〈全体図〉の右半分をご覧いただきたいが、諸項目のうち、実線で囲まれた四角の項目は、この4月に法改正案として盛り込まれた項目である。多くは、中小企業向け及び個人向けのDC拡充を目指したものであり、詳細は後に説明する予定である。 ただご注意願いたいのは〈DC資産運用の改善〉項目であり、これは税制上・システム上の課題というよりは、DCの運用実態を踏まえて“運営・運用上”の問題を解決したい、という厚生労働省の強い意思の現れで、今回の改正において極めて重要な意味を持っている。したがって、この項目は【第2回】で詳細に説明する。 下段にある項目群は破線の四角で囲っているが、これらの項目は、今回の法案化は見送られたものの、厚生労働省として解決の方向観は明確で、おそらく財務省との折衝を通じて今後実現されていくものと考えられる。 かつ、解決の方向観は、既存の企業年金制度の抜本的な改革を迫るものなので、改正法案に盛り込まれた内容より先に【第2回】で説明させていただく。すなわち、今回の改正案の大きな“うねり”を説明した後に、個別の法案説明に入る方針である。 なお、DBに関する改正法案内容であるが、 が中心で、今後検討予定の「DB・DCのイコール・フッティング」が最大の課題となるが、この内容については【第5回】【第6回】で詳しく触れる。 (了)
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第3回】 「老齢基礎年金を受給するための要件」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 国民年金から支給され老齢基礎年金は、受給に必要な期間(受給資格期間)を満たしたときに65歳から支給される。 1 受給資格期間 老齢基礎年金を受給するためには、公的年金(国民年金、厚生年金保険、共済年金)の被保険者期間(※)が25年以上必要である。これを「受給資格期間」という。 (※) 「被保険者期間」とは加入期間のことをいい、月単位で、その年金制度に加入した月から加入しなくなった月の前月までの期間である。例えば、厚生年金保険の場合は、入社した月から退職した日の翌日が属する月の前月までが被保険者期間になる。 老齢基礎年金の受給資格期間は、下記のとおり様々な期間が合算される。 2 公的年金の加入期間 次の期間を合算したものである。 ① 保険料納付済期間 第1号被保険者として保険料を納付した期間のほか、厚生年金保険の被保険者期間である第2号被保険者期間(20歳以上60歳未満の期間)や第3号被保険者期間も含まれる。 (※) 第1号被保険者等については【第1回】参照。 ② 保険料免除期間(第1号被保険者のみ) 障害基礎年金・障害厚生年金等の受給権者や生活保護法による生活扶助を受けている人(法定免除)及び、低所得等により保険料の納付を免除されている人(申請免除)の加入期間である。申請免除の場合は、その人の所得により「全額免除期間」「4分の3免除期間」「半額免除期間」「4分の1免除期間」の4種類がある。 なお、第2号被保険者(厚生年金保険・共済年金の加入者)及び第3号被保険者は、個々に保険料の負担をしていないので、保険料免除期間は生じない。 ③ 合算対象期間(カラ期間) 年金額には反映されないが、受給資格期間には算入されるものをいう。 厚生年金保険の昭和36年4月以降の被保険者期間のうち20歳前や60歳以後の期間、サラリーマンの配偶者で昭和36年4月1日から昭和61年3月31日まで任意加入期間中に任意加入しなかった期間(20歳以上60歳未満の期間)等がある。 3 受給資格期間の特例(厚生年金保険・共済年金の被保険者期間の特例) 厚生年金保険に加入している人は、保険料の滞納がない。被保険者期間がそのまま受給資格期間になる。したがって、厚生年金保険に25年加入すれば受給資格期間を満たすことができる。 昭和31年4月1日以前に生まれた人は、共済年金及び厚生年金保険の年金の被保険者期間が20年から24年以上(単独、合算いずれも可)あれば、公的年金の被保険者期間が25年以上なくても、受給資格期間を満たすことができる。 4 受給資格期間の改正(平成29年4月1日施行予定) 老齢基礎年金の受給資格期間が、平成29年4月1日以降、現在の25年から10年に短縮される予定である。 《おさらいQ&A》 (了)
《速報解説》 会社法及びコーポレートガバナンス・コードを踏まえた「監査役監査基準」及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」の改定案が公表 ~「監査報告のひな型」の対応及び改定スケジュールも明らかに~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月28日付で、日本監査役協会は「監査役監査基準」及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」の改定案を公表し、意見募集を行っている。 これは、コーポレートガバナンス・コード原案の公表、会社法及び法務省令の改正などを踏まえたものである。 意見募集期間は、平成27年5月20日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査役監査基準の改定案 改定案は、コーポレートガバナンス・コード(原案)への対応、改正会社法及び法務省令への対応に大きく分かれている。 また、各規定の語尾について、法定事項は、原則として、「ねばならない」、「できない」に統一するなどとしている。 1 コーポレートガバナンス・コード(原案)への対応 2 改正会社法及び法務省令への対応 Ⅲ 内部統制システムに係る監査の実施基準の改定案 Ⅳ 今後の改定スケジュール ①「監査役監査基準等の今後の改定スケジュールについて」と②「監査報告のひな型改定予定等について」が公表されており、現在のところ、次のスケジュールが予定されている。 改正会社法の施行が目前の5月1日であることから、「監査報告のひな型改定予定等について」は、ぜひ、原文をお読みいただきたい。 (了)
《速報解説》 改正「中小企業の会計に関する指針」が関係4団体より公表 ~退職給付会計基準等の改正に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月21日(ホームページ掲載日は4月27日)、「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小会計指針」という)の改正が行われ、関係4団体(日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所及び企業会計基準委員会)より公表された。これにより、平成27年1月14日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 今回の改正は、「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)などの企業会計基準の改正等に対応するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 固定資産の減価償却 従来、減価償却計算に適用した耐用年数又は残存価額の修正を行う場合、過年度における減価償却累計額を修正し、その修正額を特別損失に計上するとしていた。 今回の改正により、中小会計指針では、資産の陳腐化その他一定の事由により使用可能期間が従来の耐用年数に比して著しく短くなった場合は、未経過使用可能期間(使用可能期間のうちいまだ経過していない期間)にわたり減価償却を行うこととされた。 2 退職給付債務・退職給付引当金 今回の改正により、確定給付制度、退職給付債務、確定拠出制度の用語を用いた表現に改正されている。 3 組織再編の会計 今回の改正により、「少数株主」から「非支配株主」の用語へ改正されている。 (了) ↓お薦め連載記事↓