〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2026年4月】 期末決算(2026年3月31日) (最終回) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、期末決算(2026年3月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。基本的に2026年1月1日から3月31日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 期末決算でも、すでに公表した四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、月ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 会計関係 次のものが公表されている。 ① 企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」等 (内容:後発事象に関する会計処理及び開示について規定するもの。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する) ② 実務対応報告第48号「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」 (内容:防衛特別法人税の取扱いについて、実務対応報告を公表することにより短期的な対応を行うもの。2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する) Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「記述情報の開示の好事例集2025(サステナビリティ情報の開示)」 (内容:「全般、気候、個別テーマ」、「人的資本、従業員の状況」の開示例に関する好事例集) ② 「記述情報の開示の好事例集2025」の最終版 (内容:「MD&A、事業等のリスク」の開示例、「重要な契約等、コーポレート・ガバナンスの状況等」の開示例を追加) ③ 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告 (内容:スタートアップ等の資金調達ニーズの高まり、非財務情報の開示の拡充等などについて検討したもの) ④ 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告 (内容:主にサステナビリティ情報の第三者保証制度のあり方について記載) ⑤ 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第5号)等 (内容:サステナビリティ開示基準の適用、人的資本開示に関する制度見直し、株主総会前の有価証券報告書の開示などについて規定するもの) ⑥ 「人的資本可視化指針(改訂版)」等 (内容:企業が経営戦略と連動した人材戦略を策定し、企業価値向上につながる質の高い人的資本投資を実践・開示するために、人的資本投資・人材戦略を検討する際のフロー、どのような人的資本開示が企業と投資家の建設的な対話に有用であると考えられるか等について整理したもの) ⑦ 有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)について (内容:有価証券報告書の作成・提出に際して留意すべき事項等を記載) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「新規上場会社等の会計不正事例を踏まえた監査上の対応について(通知)」 (内容:最近の新規上場会社等の会計不正事例を踏まえて、監査業務実施上の留意事項を改めて取りまとめ) ② サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」 (内容:サステナビリティ情報の保証業務に関する新たな実務指針) ③ 品質管理基準報告書第1号「監査事務所における品質管理」及び品質管理基準報告書第2号「監査業務に係る審査」の改正 (内容:「サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」等に伴うもの) ④ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」 の改正について (内容:主に、AI条項の追加、東証ヒアリング等への対応について改正するもの) Ⅴ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2025年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)等 (内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号14項)。ただし、実務対応報告第46号13項の四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めについては、実務対応報告第46号14項の定めにかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号15項)) ② 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正 (内容:包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正するもの。早期適用の可否については、各会計基準等をお読みいただきたい。改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。改正「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第10号)は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する) ③ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」 (内容:ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価に関するもの。2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ④ 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等 (内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) * * * なお、2022年1月よりスタートした本連載「〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説」は、今回をもって最終回となる。これまで長きにわたりご愛読いただいた皆さまに、心より感謝申し上げる。 (連載了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第31回】 「育児休業から復帰したときの社会保険の手続き」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 育児休業から復帰後、短時間勤務等により、勤務時間が短くなり、報酬が減額される場合があります。今回は、育児休業から復帰後の社会保険の手続きである標準報酬月額の改定と特例措置について解説します。 * * 解 説 * * 1 標準報酬月額の改定(育児休業等終了時改定) (1) 育児休業等終了時改定とは 3歳未満の子を養育する被保険者が育児休業等(※)を終了し、職場に復帰した際に報酬が従前の額より低下する場合があります。この報酬の低下は、育児・介護休業法の定めにより、短時間勤務等の措置を講じた場合に、勤務時間を短縮した分に相当する報酬の減額により生じます。 (※) 育児休業等とは、育児・介護休業法に規定する育児休業又は同法に定める育児休業に準ずる措置をいい、3歳に達するまでの子を養育する人が対象になります。 しかし、標準報酬月額の改定の1つである随時改定は、標準報酬月額が原則として2等級以上変動しなければ行われないため、その変動がなければ、標準報酬月額の改定がなされず、従前の高いままの標準報酬月額に基づく保険料を負担しなければなりません。 標準報酬月額が2等級以上の変動にならない場合でも、育児休業等終了日において3歳未満の子を養育している被保険者が、事業主に申出をすることにより改定できるものが、育児休業等終了時改定です。 (2) 報酬月額の算定方法及び改定月 育児休業等終了日の翌日が属する月以後3か月間(報酬支払基礎日数が17 日(短時間労働者は11 日)未満の月があるときは、その月を除きます)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額が決定されます。 改定の要件に該当したときは、育児休業等終了日の翌日から起算して2月を経過した日の属する月の翌月から標準報酬月額が改定されます。 標準報酬月額が改定されることにより、本人負担及び事務所負担の保険料が軽減されます。 〈事例〉 (3) 手続き 被保険者の申出に基づき、事業主が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を事務所を管轄する年金事務所に提出します。特に添付書類は必要ありません。 2 標準報酬月額の特例措置 (1) 標準報酬月額の特例措置とは 3歳に満たない子を養育する(※)ために短時間勤務措置等により、前述1の改定等により、標準報酬月額が低下した場合には、被保険者が事業主に申し出ることによって、子の養育期間中の報酬の低下が将来の年金額に影響しないよう、その子を養育する前の標準報酬月額が将来の年金計算の基礎となる標準報酬月額とみなされる制度です。 (※) 子を養育するとは、子と同居し監護することをいい、育児休業を取得して、育児に専念をしている場合をいうわけではありません。 対象となる期間は、3歳未満の子の養育開始月から養育する子の3歳の誕生月の前月までです。 (例) 養育を開始する前の標準報酬月額が22 万円であった被保険者が、育児休業終了後、短時間勤務により20 万円に低下した場合 (2) 特例措置の対象者 育児休業の取得の有無にかかわらず、子を養育しているため標準報酬月額が下がっている厚生年金保険の被保険者です。 〈主な対象者の例〉 (3) 手続き 被保険者の申出に基づき、事業主が、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」と下記添付書類を事務所を管轄する年金事務所に提出します。 〈添付書類〉 3 留意点 育児休業等終了時改定も標準報酬月額の特例措置も、前述のとおり、本人からの申出がない限り、手続きができません。事業主の判断でできるものではありませんので注意が必要です。 しかし、従業員の中には、この制度を十分に理解していない人も多いと思いますので、育児休業から復帰予定の人には、この制度があることをあらかじめ周知しておかなければなりません。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例114】 KDDI株式会社 「当社連結子会社における不適切な取引の疑いに関する特別調査委員会の調査報告書の受領及び今後の当社の対応について」 (2026.3.31) 公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、KDDI株式会社(以下「KDDI」という)が2026年3月31日に開示した「当社連結子会社における不適切な取引の疑いに関する特別調査委員会の調査報告書の受領及び今後の当社の対応について」である。 同社は2026年1月14日に「当社連結子会社における不適切な取引の疑いの判明及び特別調査委員会の設置に関するお知らせ」を開示して、連結子会社であるビッグローブ株式会社とその子会社であるジー・プラン株式会社(以下、両社を併せて「本件子会社」という)による広告代理事業において不正会計の疑いがあるため、外部の弁護士と公認会計士で構成される特別調査委員会を設置したとしていた。 今回の開示は、その調査報告書を受領したというものである。 2 売上のほぼすべてが架空 本件子会社において行われていた不正会計は架空循環取引(以下「本件架空循環取引」という)だった。広告代理事業において行われており、他の複数の広告代理店との間で架空循環取引が繰り返されていた。その広告代理事業の売上の実に99.7%が架空だったと認定され、KDDIは合計で連結売上高を2,461億円訂正することになった(今回の開示と併せて「過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信等の訂正に関するお知らせ」と「過年度の内部統制報告書の訂正報告書の提出及び財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」を開示)。 本件子会社と架空循環取引を行っていた他の広告代理店は21社にのぼり、その取引の流れは28種類もあった。架空循環取引は、本連載【事例108】で取り上げた株式会社オルツにおけるもののように、取引先が少数であれば、判明しやすいが、取引先が多くなればなるほど、判明しにくくなる。本件架空循環取引は判明しにくいものであったとはいえるだろう。 3 6年半放置 本件架空循環取引は本件子会社の従業員2名によって行われていた。彼らのうち1名の主導により開始された広告代理事業の業績が思わしくなく、そのままでは同事業の撤退を余儀なくされるため、2018年8月から行われるようになった。 それが判明することになったきっかけは、6年半後の2025年2月、KDDIの経営戦略会議において、当時の同社代表取締役社長から、本件子会社における広告代理事業について、「あまりにも伸びているので怖い」、「通信より大きくなっている。事業として指標で管理していることを見せてほしい。これだけ伸びているといつか何かが起きるかもしれないので注意してほしい」といった指摘とともに「コンプライアンス的に問題ないか」といった懸念が示されたことである(しかし、その場で同様の懸念を示す役員は他にいなかった)。この当時のKDDI代表取締役社長の懸念を受けて、社内調査が行われることとなり、本件架空循環取引が判明することとなった。 このように本件架空循環取引は、本件子会社の従業員によって行われており、経営者は関与していない。また、判明したきっかけも、経営者による指摘である。そのため、経営者が関与した、組織ぐるみの不正会計と比べれば、悪質ではないといえるかもしれない。しかし、6年半も不正会計が見過ごされてきたわけであり、それを防止・発見するための内部統制を整備・運用することができていなかった責任は、当然、経営者にあるといえるだろう。 4 200社近くの子会社 調査報告書では、本件架空循環取引を早期に発見することができなかった原因として、まず広告代理事業に関する知見の不足があげられている。調査報告書では、「事業構造については十分な理解が不足していたにもかかわらず、ビッグローブの説明を信頼していた」、「内部監査部門に広告業界や広告代理事業の有識者がおらず、商慣習といった言葉を用いたビッグローブの説明を信じてしまった」、「KDDIは通信事業についてはプロフェッショナルではあるが、専門外であった広告代理事業については、事業構造の理解自体が不足していた」、「事業自体を十分理解できておらず、説明を聞いても適切な指摘をすることができなかった」といったKDDIの役員らの発言が記載されている。 確かに本件架空循環取引は判明しにくいものであったといえるかもしれないが、広告代理事業に関する知見のある者ならば、もっと早くその不自然さに気付けたかもしれない。2025年3月末におけるKDDIの子会社は189社に及ぶ(第41期有価証券報告書)。その多くは通信事業と関連する事業を行っているようだが、そうではない会社も見受けられる。そうした子会社においても今回と同様の不正会計が生じていないか、あるいは今後生じないか心配になる。子会社を取得するにあたっては、それを監督できる体制を整備する責任が経営者に求められるはずである。 5 人事ローテーションが行われていれば 調査報告書では、KDDIと本件子会社において検討すべき再発防止策が示され、それを受けて、KDDIは様々な再発防止策を実施するとしている。その中でも、筆者が最も重要だと思うのは「属人化リスクの可視化及び対応」である。 非上場の小規模な会社で生じる不正会計というと、横領だが、それは、通常、長年にわたり一人の人物がお金の管理を行い、誰もそれをチェックしない場合に生じる。人事ローテーションは、不正会計を防止・発見するための基本的な内部統制である。業務の担当者が定期的に代わるならば、不正会計を継続することは難しいし、新たな担当者によって不正会計が発見される可能性がある。 本件子会社における広告代理事業も、同社の同じ従業員2名によって行われ、人事ローテーションは行われていなかった(知見不足により同事業に対するチェックも適切に行われていなかった)。人事ローテーションが行われていれば、本件架空循環取引はもっと早く判明していたかもしれない。 (了)
《編集部レポート》 東京財団、「給付付き税額控除」導入に向けた具体的制度設計を政策提言 ~勤労者向けの新たなセーフティネットとして迅速な導入に言及~ Profession Journal 編集部 公益財団法人東京財団(以下「東京財団」という)は、2026年4月10日(金)に公表した「政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」」について、メディア・政策関係者向けに4月20日(月)に記者懇談会を開催した。 本会では、提言を取りまとめた研究メンバー(下記参照)が登壇し、提言のポイントや政策的意義についての発表と質疑応答が行われた。 〈研究メンバー〉 今回の提言については、高市政権において給付付き税額控除が「本丸の制度」と位置づけられ、社会保障国民会議で議論が進む中、制度の目的・実効性の両面から整理が必要との問題意識から、具体的制度設計を示すことを目的とする。 本会では、まず「給付付き税額控除」についてすでに欧米等で導入されている4つの類型(①勤労税額控除、②児童税額控除、③社会保険料負担軽減税額控除、④消費税逆進性対策税額控除)について説明が行われた。 その上で、日本において長年の課題となっている就職氷河期世代の非正規雇用者など、既存の制度でカバーしきれていない中低所得勤労者への支援として、就労支援と所得再分配の両立を図る「給付付き税額控除」を、日本に即した形で実現するための具体的制度設計として、以下6つの提言の紹介がされた。 (※) 東京財団ホームページより引用 上記のとおり、今回の提言は給付付き税額控除導入の目的を明確化し、勤労者に対する新たなセーフティネットとして具体的な制度設計を示した。 その上で、早期の実施が望ましいことから、1年後に市町村保有の所得情報と公金受取口座を活用して給付付き税額控除を先行導入し、3年後にガバメント・データ・ハブ(仮称)を活用して企業から直接・毎月の所得情報連携を行い(英国型)、本格稼働する2段階の制度設計を提言している。 (了)
《速報解説》 会計士協会が一体書類に対する監査報告書の実務ガイダンスを公表 ~監査報告書の文例について再検討、旧ガイダンスは廃止~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年4月17日付けで(ホームページ掲載日は2026年4月20日)、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス実務ガイダンス第3号「事業報告等と有価証券報告書の一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書に係る実務ガイダンス(2026年4月版)」を公表した。 これにより、2026年2月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対して、特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、2021年8月に公表されたものを改正するものであり、現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について再度検討を行い、より実務的なガイダンスとして新たに取りまとめたものである。 なお、2026年4月17日付けで、監査基準報告書700 実務ガイダンス第2号「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に係る実務ガイダンス」は廃止された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 実務ガイダンスは、現行の法制度下における一体書類に対する監査報告書の文例について検討し、各種の文例を示している。 一体書類とは、一つの書類により、計算書類、事業報告(これらの附属明細書が含まれるときはこれらの附属明細書を含む)及び連結計算書類並びに有価証券報告書を作成する場合における当該書類をいう(3項)。 2 適用される財務報告の枠組み 一体書類においては、表示及び開示に関する財務諸表等規則等及び会社計算規則の両方が適用されることとなる(4項)。 一体書類に含まれる財務諸表等(財務諸表及び連結財務諸表並びに計算書類(その附属明細書が一体書類に含まれるときは附属明細書を含む)及び連結計算書類をいう)に対して監査を行う場合、監査人は、現行法制度下においては、金融商品取引法及び会社法のそれぞれの財務報告の枠組みが同時に適用されるものと考えている(5項)。 キャッシュ・フロー計算書は、会社法及び会社計算規則において開示対象及び監査対象とされないことから、監査報告書上も、その点が明確になる文例を示している(6項)。 3 一体書類に含まれる財務諸表等に対する監査報告書と内部統制監査報告書の一体作成 有価証券報告書提出会社が金融商品取引法及び会社法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体的に作成することを妨げる理由が見当たらず、そのため、実務ガイダンスにおいては一体的に作成することとしている(7項)。 (了)
2026年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.665を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第150回】 「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 2月26日、社会保障国民会議の第1回会合が開催された。同会議は、政府と、消費税が社会保障の貴重な財源であるとの認識を有し、給付付き税額控除の実現に取り組む政党が共同で開催するものとして設置された。国民にも見える形で丁寧かつスピード感をもって検討を進めることとされており、夏前までに中間とりまとめが行われる予定である。 社会保障国民会議そのものは、下図のように親会議の位置付けにあり、議論の開始時や中間とりまとめなどの節目で開催される見込みである。具体的な議論については、親会議の下に設置された「給付付き税額控除等に関する実務者会議」と「有識者会議」が担うこととなる。 〈図:社会保障国民会議全体イメージ図〉 実務者会議のメンバーとしては、自由民主党の小野寺五典税制調査会長が議長を務め、各党から2名の「実務者」が参加する。また、城内実全世代型社会保障改革担当大臣と有識者会議座長も政府側を代表して参加するほか、必要に応じて財務大臣と総務大臣も参加する。実務者会議は3月12日に初回が開催されて以降、4月8日までにすでに5回開催されており、参加する政党も徐々に拡大している。これまで主に消費税に関する関係者からのヒアリングが行われているほか、有識者会議の模様も随時報告されている。 〈第5回実務者会議(4月8日開催)の政党側出席者〉 有識者会議では、日本赤十字社社長で慶應義塾学事顧問の清家篤氏が座長を務め、学者や研究者、エコノミスト、経済団体等から成る12名の「有識者」が参加する。給付付き税額控除や食料品の消費税率ゼロの制度化を念頭に、様々な立場から、専門的・技術的な論点を集中的に検討・精査する。有識者会議は3月24日に初回が開催されて以降、4月9日までに3回開催されている。給付付き税額控除については、論点を洗い出した上で制度化に向けた議論を深めているほか、実務者会議の模様も報告されている。 〈有識者会議構成員〉 こうした中、経団連は4月14日、提言「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方」を取りまとめて公表した。経緯としては、高市政権で動き出した「責任ある積極財政」と社会保障国民会議の設置という好機を捉え、2024年12月9日に公表した「Future Design 2040(FD2040)」のロードマップの一環として、税・財政・社会保障一体改革の実現に向けた基本的考え方を示したものである。 一体改革を通じて目指す姿は、FD2040で示した内容を踏襲して、公正・公平で持続可能な社会である。成長と分配の好循環を継続させ、分厚い中間層を形成し、中福祉・中負担程度の社会保障制度を構築することを掲げている。しかし、現状では、少子高齢化・人口減少の加速で、現役世代の社会保険料負担が今後もさらに増加することが懸念されている。 内閣府の中長期試算をもとにすると、企業がマインドセットを転換し、積極的に投資を拡大する投資牽引型経済によって、全要素生産性(TFP)上昇率が過去40年平均の1.1%程度まで高まり、実質成長率が1%を安定的に上回る成長、名目成長率は中長期的に3%程度の成長を実現することが、とりもなおさず、財政健全化や社会保障の持続可能性を高めることに繋がる。そのため、税・財政・社会保障一体改革では、個々の政策による部分最適ではなく、全体最適を目指すことが肝要となる。政府のみならず、企業、国民がそれぞれの役割を果たすことで、初めて一体改革が実現する。 例えば、経済財政運営のあり方としては、市場の信認維持に十分留意する必要性があり、債務残高対GDP比の安定的・継続的な引き下げを財政健全化目標とすることや、さらに、複眼的な視点でのモニタリングとして、複数年度のプライマリーバランスや利払費にも着目すべきである。予算編成については、歳出の目安の見直しや、複数年度予算、当初予算での措置が重要となる。加えて、国会等への独立財政機関の設置も検討すべきである。 社会保障国民会議では、中長期の給付と負担の見通し等を示すことを通じて、広く国民の理解を得つつ、ビジョンを共有しながら議論を進めることが求められる。当面、給付付き税額控除と消費税減税の検討を集中的に行うこととされているが、給付付き税額控除については、2年を待たずに簡素な形で導入すること、マイナンバーの徹底活用を進めることを提言している。また、消費税減税については、代替財源の確保が大前提であり、それ以外の様々な課題に対しても議論を尽くす必要がある。また、早期に検討すべき事項としては、医療・介護の提供体制やDX、テクノロジーの活用、攻めの予防医療と健康経営、高齢者医療・介護の自己負担の見直し等も列挙している。 社会保障国民会議の役割には大いに期待が高まっており、広く国民を巻き込んで議論していくことが重要である。データを用いて、現状と将来見通しをわかりやすく説明しつつ、全体最適の観点から改革の全体像を示していくことが求められる。経団連では、今後も必要に応じて改革の実現に向けた提言を行う所存であり、同時に、企業のマインドセットを転換し、「投資牽引型経済」を実現することを通じて、「成長と分配の好循環」を加速・拡大させるべく取り組んでいく予定である。 (了)
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第1回 従業員用の借上げ社宅① ~従業員社宅制度の基本と税務上のメリット~ 公認会計士・税理士 桝井 康弘 ◇◆◇連載開始にあたって◇◆◇ 法人が従業員や役員に社宅を貸与する際の税務処理は、多くの実務家が直面する重要なテーマです。適切な家賃設定を行わなければ、給与認定による源泉徴収漏れや追徴課税といった重大なリスクを招く可能性があります。 本連載では、社宅制度における税務上の取扱いやその周辺知識を体系的に解説してまいります。従業員と役員では課税上の扱いが大きく異なり、福利厚生費として処理できるか、給与課税されるかの分岐点を正確に理解することが不可欠です。 特に役員社宅については、裁判例や税務通達における判断基準が複雑で、実務上も判断を誤りやすい論点といえます。税務調査でも着目されやすい項目であることから、国税庁の見解(タックスアンサー・質疑応答事例)や裁判例を交えながら、実務的な対応策や判断のポイントを丁寧に紹介していきます。 〇社宅制度の導入の相談 〇課税の仕組み 〇具体的なシミュレーション 【物件情報】 〇経済効果の比較 【住宅手当の場合】 【借上げ社宅の場合】 (次回に続く)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第80回】 「渡切交際費と役員給与等」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員給与と渡切交際費の関係 法人が、取引先との関係を円滑にするため等の目的で交際費を支出した場合、その際に受領した領収書をエビデンスに、税務上の交際費等として取り扱うのが通常である。これに対して、法人が役員や従業員に対して使途を明らかにすることを求めず、精算も行わないことを前提に、交際費見合いの金銭を前渡しの形で支給することがある。いわゆる「渡切交際費」と呼ばれるものである。このような渡切交際費は、中小企業の実態に鑑みれば特に役員に対して支給するケースが大多数であるだろう。 渡切交際費は、法人税基本通達9-2-9(9)にて「役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの」とされているものであり、これは役員給与について定める法人税法34条4項にて、役員に対する経済的利益に当たるとされている。そして、同通達9-2-11(3)では、役員に対する渡切交際費を毎月定額で支給する場合には、「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」(法令69①二)に該当するとしている。つまり、毎月一定の額を渡切交際費として役員に支給している場合、定期同額給与としての損金算入の可否判断に移るものとして整理されることとなる。なお、このように整理される場合、所得税において給与課税を行う必要がある(所法36①)。さらに消費税において仕入税額控除の対象とならない(消基通11-2-23)。 このように、渡切交際費は使途を明らかにしないまま支出されるものであるが、役員に支給された役員給与であるために、その部分についての所得税等を負担した役員が個人的に交際費を費消したものとして整理されている。 (2) 渡切交際費と使途秘匿金の関係 上記(1)に対して、法人が金銭を費消し、その使途等に加え相手方が不明な場合に適用される「使途秘匿金」課税がある。使途秘匿金が認められた場合、損金算入が認められないばかりか、その額に対して40%に相当する法人税が課されるものであり(措法62①)、法人にとって負担は大きいといえる。 この使途秘匿金課税は、他者を通じた支出であっても実質的に使途秘匿金であると認められた場合にも適用されるため(措令38③)、上記のような役員に対する渡切交際費の形を取ることで使途秘匿金課税の適用があるのではないかとも思われる。また、法人税基本通達9-7-20では、「使途不明金」について「法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない」としており、こちらについても渡切交際費との関係について整理が必要となる。 これらの点については、詳細に整理した見解が存在している。具体的には、役員に対する渡切交際費を支出した場合には租税特別措置法施行令38条3項の適用はないとした上で、「明らかに『使途秘匿金』とすべきものを役員に支給したように仮装している場合は、・・・使途秘匿金の支出がある場合の特例が適用され」るとするものがある(※1)。役員への渡切交際費は、定期同額給与への該当性に留意することで損金算入が可能となるため、法人が使途を明らかにしたくない支出を渡切交際費として仮装することで、損金算入を図ることもでき得るのである。この場合において、同見解では、使途秘匿金課税と法人税基本通達9-7-20による費途不明の交際費等としての損金不算入、そして重加算税の適用があるという可能性について指摘されている。 (※1) 森田政夫・西尾宇一郎『令和7年6月改訂 問答式 交際費・寄附金等の税務と会計』(清文社、2025)429頁以降。なお、渡切交際費のため役員給与とすべきところ、仮払金として処理すると、その仮払金が使途秘匿金と認定される恐れがあるとも指摘されている(430頁)。 (3) 使途不明金と役員賞与との関係 中小企業における税務調査においては、使途不明金と役員賞与の線引きについて議論となるケースがある(※2)。例えば、法人が、取引先をかばう意図で取引先に支払った内容を課税庁に説明したがらない等の意図的な場合や、法人の帳簿書類管理等がずさんで調査時に支払いの使途を明らかにできない等の無自覚な場合等が考えられる。つまり、法人が支出した金銭が、法人の必要経費であるのか、それとも代表者等の役員らが個人的に費消したものなのかが帳簿書類等から説明できないケースである。 (※2) 認定賞与については、【第21回】参照。この回は代表取締役自身が行った横領を取り扱っている。 この場合、上記法人税基本通達9-7-20の使途不明金として損金不算入となる。しかし、税務調査時において代表取締役らに対する認定賞与に該当する旨の指摘を受けたことで、それを回避するために役員貸付金として処理する交渉や調整が行われたりするケースがある。役員賞与とされ得る要件について裁判例や裁決例を確認すると、事例自体は相当数が存在しており、例えば以下のものがある。 国税不服審判所平成19年10月3日裁決では(※3)、「いわゆる同族会社で、代表者が当該法人の実権を唯一有する場合においては、代表者によって支出された現金等の使途が不明で、会社のために支出したと認められないときには、他の役員、株主等による抑制が困難であり、代表者はその取得・費消することが極めて容易な立場にあることから、他に特段の事情がない限り、当該法人の実権を唯一有するその代表者がその現金等を取得したものと推認するのが相当である」とされている。また、東京高裁昭和56年6月19日判決では(※4)、「代表者個人の認定賞与と認めるには、右払戻金を被控訴人代表者において取得した事実、少くとも同人において取得したと合理的に推認することができる事実について、課税当局である控訴人においてこれを主張、立証する必要がある」とされている。 (※3) 裁決事例集74巻111頁。 (※4) 税務訴訟資料117号675頁。 これらのことから、役員賞与と認定されるためには、少なくとも、代表取締役等の役員が法人の金銭を個人的に費消したものと認められる事情が必要となると思われる。もっとも、この件は事実認定の問題となるが、税務調査の現場においては、金銭消費貸借契約書を準備することにより、役員貸付金とすることで終結させるケースも一定数あるといえるだろう。要因となった使途不明金の発生について、役員が負う善管注意義務がその背景にあると考えられる。 (了)
相続税の実務問答 【第118回】 「両親からの贈与について相続時精算課税を適用した場合の基礎控除額」 税理士 梶野 研二 [答] 2名以上の者からの贈与について相続時精算課税を適用する場合、控除することができる基礎控除額は、110万円を贈与者ごとの贈与財産の価額で按分計算した金額となります。ご質問の場合には、お父様及びお母様のそれぞれから贈与により取得した財産の価額(課税価格)から、110万円をその価額比で按分計算して求めた価額が基礎控除額となります。 なお、相続時精算課税に係る特別控除額は基礎控除後の課税価格から控除することとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る基礎控除額 暦年課税制度においては少額不追及の観点から基礎控除額が設けられていましたが、相続時精算課税においては、生前贈与と相続を通じた税の課税を相続時に一括して行うことを前提とした制度であるため、基礎控除は設けられていませんでした。基礎控除額が設けられていないということは、相続時精算課税を選択した年の翌年以降は、少額の贈与についても申告が必要であることを意味し、そのことが相続時精算課税の利用が進まない原因の一つだとも指摘されていました。 そこで、相続時精算課税の利用を促進する観点から、令和5年の税制改正において、相続時精算課税に係る基礎控除額の定めが設けられ、令和6年1月1日以降の相続時精算課税を適用する贈与については、贈与を受けた財産の価額の合計額(贈与税の課税価格)から、最大110万円の基礎控除額(注)の控除をすることができることとなりました(『令和5年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2023年)447頁参照)。 (注) 相続税法第21条の11の2第1項では、基礎控除額は60万円と規定されていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項において、「60万円」は「110万円」に読み替えられています。 なお、相続時精算課税を選択した年分が、令和5年以前であったとしても、令和6年以降の特定贈与者からの贈与については、贈与を受けた財産の価額から基礎控除額の控除をすることができることとされています(令和5年所得税法等の一部を改正する法律附則19④)。 2 2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の基礎控除額 相続時精算課税適用者が、2人以上の特定贈与者から贈与を受けた場合の基礎控除額について、①特定贈与者ごとに最大110万円の基礎控除額を控除することができるのか、あるいは②すべての特定贈与者からの贈与を通じて最大110万円の控除を適用することとなるのか、その場合に特定贈与者からの贈与ごとの控除額をどのように計算するのかが問題となります。 この点について、租税特別措置法第70条の3の2第3項及び租税特別措置法施行令第40条の5の2は、②であるとし、その場合の特定贈与者ごとの基礎控除額を、110万円に特定贈与者ごとの贈与税の課税価格が当該課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて計算すると定めています。 これを算式で示すと次のとおりとなります。 なお、この計算結果は、その年における各特定贈与者からの贈与に適用する相続時精算課税の特別控除額のほか、翌年以降に繰り越される相続時精算課税の特別控除額や特定贈与者に相続が開始した場合の相続税の課税価格に加算又は算入する金額にも関わりますので、申告書の控えを確実に保管するなどして、特定贈与者に相続が開始するまで、確実に管理しておく必要があります。 3 ご質問の場合 あなたは、お父様からの贈与についてはすでに相続時精算課税を選択していますので、令和8年のお母様からの贈与について相続時精算課税を選択するとすれば、相続税の基礎控除額110万円は、次のとおりお父様からの贈与価額から控除する金額とお母様からの贈与価額から控除する金額に按分計算する必要があります。 ① お父様からの贈与に係る基礎控除額 ② お母様からの贈与に係る基礎控除額 なお、相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除は、暦年課税に係る贈与税の課税価格とは別の控除として定められていますので、同一の年において、相続時精算課税に係る基礎控除と暦年贈与に係る基礎控除をそれぞれ適用することができます。 ご質問の場合、令和8年分のお母様からの贈与について相続時精算課税を選択しなければ、お父様からの相続時精算課税を適用する贈与について110万円の基礎控除、お母様からの暦年課税贈与について110万円の基礎控除、併せて220万円の基礎控除額を適用することができます。 (了)