〔会計不正調査報告書を読む〕 【第13回】 コーナン商事株式会社・ 「取締役の不適切な行為に関する 第三者委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【コーナン商事株式会社の概要】 コーナン商事株式会社(以下「コーナン商事」と略称)は1978年設立。大阪をはじめ西日本を中心にホームセンター278店舗を展開する(売上高では業界第4位)。売上高271,868百万円、経常利益14,300百万円。社員2,600名、パートタイマー6,854名(いずれも2013年2月期)。東証・大証1部上場。 【報告書のポイント】 1 調査結果により判明した事実 (1) 取締役による不適切な行為が発覚した経緯 平成25年9月、外部者から、コーナン商事取締役について、仕入取引先からの不適正な資金の受領の有無、コーナン商事と同取締役の関連当事者との取引開始の経緯等について照会がなされ、社内調査委員会による調査を行っていたところ、新聞報道がされたため、10月11日急遽、コーナン商事代表取締役社長疋田耕造氏(以下「疋田社長」という)が記者会見を行い、取引に問題があったことを認めるとともに、第三者委員会による実態解明を明らかにした。 (2) 調査の対象となった事実関係 (3) 調査結果(その1:不適正な資金受領の有無について) コーナン商事と荒川取締役の親密取引先である中国企業との間では、以下のようなコーナン商事にとって経済的に不利な取引が行われていた。 これらの取引によりコーナン商事は明らかに損失を被っており、荒川取締役又は同氏に近い関係者が、これらの親密取引先からリベート等の経済的利益を取得していた可能性は極めて高い。 一方、荒川取締役名義の中国国内の預金口座(7口座)には平成25年9月末時点で1,352万元(2億1,600万円相当)の残高が存在し、これは海外取引先から受領したリベートであることが推認される。 (4) 調査結果(その2:荒川取締役ないし関連当事者とコーナン商事の取引開始等の経緯) 2 調査報告書の特徴 (1) 調査の進捗より先行する新聞報道 本件の特徴の一つに、第三者委員会設置発表前の段階で、新聞報道でコーナン商事の女性取締役に関する不明朗な取引が次々に明らかになり、第三者委員会はいわばその報道の真偽を検証する役割を負うことになってしまったという点がある。 結果的には、調査報告書は、女性取締役が推進した中国企業からの仕入は、自らがリベートを受け取るためであったことが推認されるとするなど、報道内容のほぼすべてを追認する形となっている。 女性取締役が受け取ったと「推認」された多額のリベートの存在や、代表取締役から女性取締役への多額の資金貸与と贈与の認定には、新聞報道をきっかけに内部調査手続に入っていたと思われる税務当局にとっては、結果として有利に働いたこととなる。 (2) 本件不祥事の本質 ワンマン経営の創業社長(84歳)が、中国出身の女性社員(50歳)を内縁の妻(調査報告書には「生計を一にしていた」という表現しかないが、内容から「内縁関係にあった」ことがうかがわれる)としていただけでなく、多額の金員を貸与して購入させた土地に会社から賃料を支払わせ、上海のマンションを買い与え、親族が経営する中国企業との取引で得たリベートを蓄財することを容認したうえ、取締役・上席執行役員に就任させて実権を与えてきた。 そうして権力を得た女性取締役に対して、他の取締役、監査役、社員は反論もできず、マスコミに情報を洩らすことによって、会社を守ろうとした者が存在したのではないか。その結果、女性取締役は辞任に追い込まれ、ワンマン社長もまた経営の第一線から退かざるを得ない状況が作出された。 もちろん経営者による不正であるから、内部統制は機能しないし、創業社長の行為に異議を唱えられるような取締役・監査役も存在しなかったのであろうが、一部上場企業としてはあまりにもお粗末な管理体制であったといわざるを得ない。 (3) 関係者の処分 11月13日付で、疋田社長は代表取締役社長を退いて取締役相談役に、荒川取締役は辞任した。また、疋田取締役相談役は月額報酬の100%減額を6ヶ月、それ以外の取締役については月額報酬の10%から50%減額を6ヶ月間とする処分を発表するとともに、監査役についても報酬の一部返上を申し出た。 なお、荒川元取締役に対しては「法的手続きを法律事務所に依頼する」と発表しているが、具体的に何を意味しているのかは不明である。 (4) 再発防止策 11月15日のリリースにおける再発防止策は次のとおりである。 本件は、不適切な取引を行ってきた取締役とこれを容認してきた(と思われる)創業社長を辞任させることが、最大の再発防止策となるはずである。ただ、こうした不適切な行為を止められなかった取締役・監査役の監視・牽制機能の強化、意識改革が必要であることは、調査報告書も指摘するとおりであり、社外取締役の招聘や顧問弁護士を内部通報の窓口とすることは、一定の効果を上げる可能性はある。 とはいえ、調査報告書で「上場企業のトップとして、コンプライアンスに対する十分な理解や意識が備わっているとは認められない」と酷評された前代表取締役社長を相談役とはいえ取締役に残した点については、後継社長が2代目であるだけになおさら、その影響力をどこまで排除できるのか、懸念が残るのではないだろうか。 (了)
退職金制度の作り方 【第4回】 (最終回) 「退職金制度の課題」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 退職金制度をこれから新たに設けようとする場合は、仕組みをどうするか、原資をどうやって積み立てておくかを考えていけばよいが、既にある制度を変えようとすると、相当の労力がかかる。 では、退職金制度の課題をどう捉え、今後どのように考えていくべきなのか。 本当に退職金制度は必要か?を考える必要がある 退職金制度を仕組化し長期間運用していくためには、多大な費用負担を伴うものであり、これが果たして社員へのインセンティブになっているかどうかを考えるべきである。 つまり、企業は「費用対効果」をどこまで期待しているのか、退職金制度があることの「効果」とは何かを今一度整理することが重要である。 退職金制度をどこまで人事管理面で活用するのか 企業からすれば、退職金制度は長期債務である。この長期債務の仕組みを作ってまで企業に引き止めたい人材はどのような人材かを考えるべきである。 優秀な人材を引き寄せ、定年まで活躍してもらうステージを準備するためには、業務の成果とどの程度まで連動させた仕組みとする必要があるのか、また、このような人材に対する処遇として適した退職金制度はどのようなものかを明確にする必要がある。 年功的要素は必要か そうはいいつつも、やはり長期間にわたり会社に帰属している社員は、何かしらの形で貢献していると考えることもできる。 年功制度も取り入れ全社員を「一律」に扱うことにより、自然に長期勤続を促す効果を図る必要はあるのかも併せて検討していくべきである。 社員の自立意識を育てるかどうか 従来からある確定給付型の退職金制度から、選択制も含めた確定拠出型の退職金制度へ転換をし、又は併用することにより、社員が自ら、自身の将来の年金を考え自立を促すことも必要とするかどうかを、企業風土や企業のあり方として考えるべきかどうかも問われている。 * * * 以上4回にわたり、退職金制度についてお伝えしてきた。 将来の見通しが立てにくい世の中となった昨今、退職金制度は、一度制度を用意したら後戻りできるものではないことを十分に認識した上で仕組化していくべきである。 制度を設ける目的・意味、制度の運用と原資の積立方法を、外部の専門機関の意見も交えながら検討をしていただきたい。 (連載了)
現代金融用語の基礎知識 【第1回】 「NISA(ニーサ)」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 NISAとは NISA(「ニーサ」と読む)とは、2014年から始まる少額投資非課税制度の愛称である。 英国の個人貯蓄口座ISA(Individual Saving Accountの略。これを利用した証券投資に関わる売却益や配当は非課税になる)を参考にして創設されたもので、ISAに日本(Nippon)のNを加えてNISAとされた(したがって、NISAを文字どおり訳すと、実は「少額投資非課税制度」ではなく「日本版個人貯蓄口座」ということになる)。 NISAは、証券投資に関わる売却益や配当に対する税率を20%から10%に軽減する証券優遇税制が、2013年末で撤廃されるのと引き替えに導入されるものである。 英国のISAと同様、NISAの口座を利用した証券投資に関わる売却益や配当は非課税になる。個人の資産を証券投資に呼び込むための制度であり、利用できるのは、日本に住む20歳以上の個人である。 なお、現時点では、NISAの口座を開設できるのは、2014年から2023年までの10年間とされている。 2 対象となる金融商品 NISAの対象となる金融商品は、国内、海外の上場株式や公募株式投資信託のほか、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などである。預貯金や個人向け国債などの債券、公社債投信、外国為替証拠金取引(FX)は対象とならない。 なお、対象となるのは、2014年1月以降に購入した金融商品に限られる。それ以前に通常の課税口座で保有していた金融商品をNISAの非課税口座に移すことはできない。 3 1人1口座 現時点では、NISAの非課税口座は1人につき1口座しか開設できないこととされている。 そのため、どこの金融機関に口座を開設すべきかが問題となる。 なぜなら、金融機関によって、扱う金融商品の品揃えが異なるからである。 また、いったん口座を開設すると、4年間は金融機関を変更できないこととされていることもあるので、金融機関選びは慎重に検討する必要がある。 ただし、これについては改正が検討され、2015年からは異なる金融機関でNISAの非課税口座を開設できるようになる予定である(「平成26年度税制改正大綱」)。 4 非課税枠は年100万円・非課税期間は5年間 NISAの非課税口座を利用した証券投資は、年100万円まで行うことができる(2014年から2023年までの間、年100万円まで投資できる)。例えば、2014年は100万円まで、2015年は加えて100万円まで、2016年はさらに加えて100万円まで、というように投資できる。 そして、5年間は課税されない。したがって、非課税枠をフルに利用して投資した場合、非課税投資の元本総額は最大500万円になる。 なお、非課税期間を終えた枠の資産は、新たな非課税枠に移すことができる。 〈非課税枠をフルに利用して投資した場合〉 5 損益通算・非課税枠の再利用は不可 NISAの非課税口座を利用した証券投資により損失が生じた場合、通常の課税口座との損益通算はできない。非課税メリットを享受できるのは、利益が生じている場合に限られる。 また、購入した金融商品はいつでも売却できるが、その分の非課税枠を再利用することはできない。 例えば、100万円の非課税枠を用いて、A商品60万円、B商品40万円を購入した場合、Bを売却したからといって、その分の40万円の枠を再利用して、他の金融商品を購入することはできないのである。 6 制度変更の可能性 このようにNISAは、その口座を利用した証券投資に関わる売却益や配当は非課税になるというメリットがあるものの、対象となる金融商品が限定されている、通常の課税口座との損益通算ができない、非課税枠の再利用ができないといった、使い勝手の悪さがある。また、そもそも10年間の時限措置である。 しかし、金融庁は、利用状況を見ながら、利用しやすい制度への見直しを検討していくとしている(さっそく1人1口座は改められることになった)。 今後も制度変更の可能性があるので、その動きを注視していく必要があるだろう。 (了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第29回】 「経費管理のKPI (その③ 支払承認)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、経費管理を構成する複数のKPIから、経費支払の「支払承認」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 経費管理においても、仕入・買掛債務管理の場合と同様に、事前に取引内容の承認を経て、発注、物品や役務の検収、請求書の受領、支払承認という手続を経る必要があるが、経費管理の対象となる取引件数が多い会社では、あらかじめ設定した予算の範囲内であれば、個別の事前承認を経ないで発注し、請求書を受領した時点で取引承認と支払承認を兼ねる簡便な承認手続で済ませる場合もある。そこで、経費管理においては、支払承認にかかる事務処理のあり方が、効率性や正確性を左右する。 そこで、今回は、経費支払の業務プロセスから得られる情報を活用して、効率性や正確性を評価するKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、経費管理において、会社が担う一般的な機能を、「年度予算管理」と「日常管理」に分けている。 今回解説するKPIは、「日常管理」を構成する「通常経費処理」、「仮払決済」、「差額決済」に共通して現われる経費支払に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:経費管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、経費支払に関連する業務プロセスを「通常経費処理」に対応させて明記していないが、「仮払決済」と「差額決済」に対応させて次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:7.4.1使用内容精査〉 〈経済産業省スタンダード:7.4.2振替計上〉 〈経済産業省スタンダード:7.5.1差額決済準備〉 〈経済産業省スタンダード:7.5.2支払依頼〉 〈経済産業省スタンダード:7.5.5差額決済準備〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 「通常経費処理」、「差額決済」、「仮払決済」における経費支払の業務プロセスの概要は前回述べたので、このKPIと関係する要点のみ触れる。 「通常経費処理」、「差額決済」のいずれも、その経費を必要とする主管部門が取引先から請求書等の証憑を受領した後、勘定科目、取引日、取引金額、取引先等を明記した支払依頼書を作成する。支払依頼書の内容が承認されれば、経費として計上される。支払依頼書を支払伝票と呼ぶ会社もあるだろうが、両者は機能において同じである。 「仮払決済」における経費支払では、金銭の支出後、主管部門が取引先から領収証等の証憑を受領した後、勘定科目、取引日、取引金額、取引先等を明記した振替伝票を作成する。振替伝票の内容が承認されれば、経費として計上される。 今回のKPIは、このような経費支払に関連する業務プロセスを前提に、請求書受領日から支払承認完了日までの平均日数を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「起票部門」とは、請求書に基づき支払承認の対象となる経費伝票を起票する部門をさす。 通常はその経費を使う主管部門が該当する。 経理財務部門が使う経費の主管部門となる場合はもちろん、経理財務部門が他の主管部門の経費の経費伝票を起票する会社では経理財務部門が該当する。 「請求書受領日」の定義は不明確ではないだろうが、記録に残していないことが多い。 そのような場合は、「請求書受領日」として、請求書に記載された発行日を使う。 「支払承認」の定義は、実務によって分かれる。 もっとも、①の場合でも、経費の取引承認のために請求書が必要であれば、結局、KPIの測定値の日数は、②の場合と同じになる。 「経理財務部における支払承認」とは、「支払承認」を経理財務部門が行うことを前提にした定義だが、主管部門が「支払承認」を行う場合、主管部門における支払承認をさす。 「平均」とは、承認対象となる経費管理の取引の請求書受領日から支払承認完了日までの日数を合算して、それを承認対象取引の件数で割った平均値をさす。 データを取る場合、前月1ヶ月のデータに基づいて記入すればよい。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、経費支払の承認を早期に完了することが望ましいという単純な価値判断に基づいて設定されている。 経費支払の承認を早期に完了することに、どんな意味があるのか。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、どういう事態が想定されるのか。 まず、そのような会社では、経費支払の承認まで時間がかかってしまうので、取引先に対する支払の遅延が起こりやすい。 さらに、経費計上の期ずれや計上漏れが多く発生するため、正しい財務諸表を作成するためには、後工程である決算作業に大きな負荷がかかり、決算の完了が遅れてしまう。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、請求書の受領から支払承認までの業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 それを前提に、例えば、一定期間の経費支払承認伝票と請求書又は台帳を試査により閲覧し、請求書又は台帳に記録された請求書受領日から経理財務部門における承認日までの平均日数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、請求書受領日から支払承認完了日までの平均日数は何日になっただろうか。 * * * 次回も、引き続き「経費管理」を構成する複数のKPIから、「仮払処理」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第12話】 「P子の失敗」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ ◆ ◆ ◆ワンポントアドバイス◆ 原則と特例、また原則だけではなく、簡易的な方法が認められている場合には、その適用要件をよく検討する必要があります。考えうるケースでシミュレーションをして、有利不利を考えましょう。 その際、他の担当者に頼んで、違った眼で見てもらったり、数人で検討会を行うことも必要です。 そして、検討した結果をお客様によく説明して、最終的な意思決定はお客様にしていただきましょう。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第12回】 「現実世界の取組みで ホームページの訪問者を増やす」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 前回は、「集客できる」良いホームページになるためには、まず「ホームページの訪問者数が多く」、次に「訪問者数に対する問合せ件数の比率が高い」ことが必要だということからスタートしました。 そして、これらの効果を測定するためには、事務所ホームページへの訪問者数を調べる(アクセス解析をする)必要があり、その方法として、グーグル・アナリティクスを使った方法のご紹介、また「アクセス解析でどのようなことがわかるのか?」についてお話しました。 これでようやく、訪問者数を増やす準備ができました。 今回からは、事務所ホームページへの訪問者数はカウントできるとして、 というお話です。 これには、 と とがあります。 前者①では、皆さんの名刺や事務所のチラシ・封筒などに事務所ホームページのアドレス(URL:ユー・アール・エル)を印刷する方法がよくありますね。 後者②では、検索サイト(グーグルやヤフー)などから呼び込む方法が多くとられています。 今回は上記の「① 「現実の世界」で訪問者を呼び込む方法」について、より実践的にお話します。 * * * すでにご自分の事務所ホームページを公開している方は、名刺をはじめとして、多くの人に配布する印刷物(チラシや封筒)に、ホームページのURLを記載していることと思います。 ただし、ここで考えてみてください。 それらの印刷物を受け取った人が、ブラウザのアドレスバーにそのURLを打ち込んで事務所ホームページを表示させるケースって、いったいどれほどあるでしょうか? 大多数の人は、あなたの名前や事務所の名称を検索サイトで検索して、そこからあなたの事務所ホームページを訪問するはずです。 この方が手間がかかりませんし、あなたやあなたの事務所に関する情報が他にあれば検索結果に表示されるため、ついでに調べることができるからです。 もちろん、だからといってURLの記載がいらないというわけではありません。 URLが記載されていれば「事務所ホームページが存在する」ということを表していますので、それにより「検索してみよう」という動機づけになるからです。 * * * さて、現実の世界で認知された名前によって検索されるということは、とにかく現実の世界において名前を広めれば、ホームページへの訪問者は多くなるということになります。 そのため、現実の世界において、 名刺を配る 著書を出版する 講演を行う マスコミに紹介される など、およそ「人前に露出すること」=「ホームページへの訪問者を増やすこと」につながります。 これは、営業トークが苦手な人にとって、ありがたいことともいえます。 対面で、あるいは著書や講演の中で、露骨に営業活動をしなくとも、名前さえ広めれば、名前を知った何%かの人は、あなたの事務所ホームページを訪問してくれるはずです。 そして、事務所ホームページの中であなたの業務内容や実績を知ってもらい、あなたの顧客となってもらえるかもしれないからです。 つまり、 それにより誘導した という役割分担ができるのです。 実はこのような営業手法は、個人の名前を前面に出している会社経営者やフリーライターの間ではよく行われている手法です。 ネットを使いこなしている人にとっては意外なことかもしれませんが、実際に会って手渡す名刺や、紙媒体としての新聞や雑誌、テレビやラジオという現実の世界の情報の方が、ネットの世界の情報より、社会的な認知度や信頼性は高いようです。 また、次回お話しますが、ネットの世界だけで自分の事務所のホームページに訪問者を呼び込むのは、それなりに大変で時間のかかる作業です。 そのため、名前を知ってもらったり、ある程度の信頼性を獲得したりするには、現実の世界の方が効果的だといえます。その反面、現実の世界では、自分や自分の事務所のことを詳しく聞いてもらう時間は、通常はありません。 そこで、ネットの世界のホームページにおいて、わかりやすく、かつ、具体的に自分の業務を説明することで、興味のある人に、その人の望む時間に好きなだけ、あなたやあなたの事務所の業務内容を検討していただくことができるのです。 * * * さて、このように「現実の世界」と「ネットの世界」はうまく使い分けができるのですが、現実の世界には大きな制約があります。 実際に会って名刺交換できる人の数は限られていますし、紙媒体としての新聞や雑誌、テレビやラジオに記事として取り上げてもらえることは希でしょう。また、著書の出版や講演活動も誰にでもできるというわけではありません。 しかし効果はありますので、そういったチャンスがあれば多少無理をしても積極的に活用すべきです(といっても、聞いたこともない雑誌に高額な費用を払って記事を掲載するなどという勧誘には充分注意してください)。 ※もちろんこのProfession Journalは違いますよ。 また、何か新しいサービス提供を始めたり、著書を出版したりするときなどは「プレスリリースを配信する」という方法もあります。 プレスリリースは、マスコミに掲載されるという保証はありませんが、業者任せにしても数万円で配信できますので、興味のある人はネットで配信会社を検索して調べてみるとよいでしょう。 ◆ ◆ ◆ 次回は、インターネットの世界で事務所ホームページに訪問者を呼び込む方法についてお話しましょう。 (了)
ドアが開き、今夜一人目の客。 「いらっしゃい」顔を見て一声掛ける。スーツ姿のたぶん30代後半、新顔だ。 「ここ、いいですか」カウンターの壁側の端席を選んだ。音楽にあまりこだわらない人は大体ここになる。豆を入れた小皿を出し、荷物を置いたり上着を掛けたりを終えて席に落ち着いたころを見計らって注文を訊く。 「なんにしましょうか」 「なんにしましょうかね」 「もし飲んだことなかったら、『え、これもウイスキー?』ってのどうですか」 「へえ、じゃ、それで」 この酒を飲んだことのない人にはいつもすすめている。 まだ店を作る前、御茶ノ水界隈のバーを市場調査のつもりで廻っていた。小川町の交差点の東北のブロック。その裏道にある半地下のバーでこの酒に出会った。最初に飲んだ感想は『え、これもウイスキー?』で、驚きとともに感動を味わった。 「あ、うまいですね」 「そうですか。それはよかった」 「なんだか薫製みたいな」 「ヒースって草からできた泥炭をピートっていうんですが、そこを流れてきた水を使ったり、ピートを燃やして燻す工程があるんで、そんなふうになるみたいですよ」 「これは今まで知らなかった味ですね」 「スコットランドの西にあるアイラ島の酒です。この島のはみんなスモーキーで、私はこれが一番強烈で好きなんですよ」 「なんだか新しい世界が広がりました」 こうしてまたこの酒を飲む客を増やした。勧誘の仕方は怪しい薬の売人のようでもある。同じ手口で元雑穀問屋で今は貸しビルオーナーの旦那と、出版社の元文学青年と、越後の怪人は、「いつもの」という一言で3、4杯飲むようになった。顔を覚えていない客にも「マスター、こないだすすめてくれたヤツ」と注文されることもしばしばある。 二人目の客が来た。またひとり客。カウンターのもう一方の端席を選んだ。やはり30代、いや20代かもしれない。スーツを着ているがあまり似合っていない。 「今、こちらの方も飲んでるんですが、飲んだことなければこの酒どうですか」 勢いで同じものをすすめる。 「あ、はい、じゃ、それお願いします」 私は微笑みを浮かべ酒を出した。 「ウえー、こりゃすごいですね、線香みたいな、あ、正露丸だ」 この酒ではないが同じ島のものを「夕方の運動部の部室の裏でね、正露丸と乾燥アンズを水で溶いて2Hのえんぴつの芯を削って入れた味だよ」とモルトに詳しい熊谷さんが隣席の若者に話していたことがあった。 正露丸の味と表現されようと、味わえる人はその奥に潜む遥か彼方のアイラ島へ辿り着ける。 私は2軒目とか3軒目でバーに来たら、この酒みたいに味のはっきりしたものの方がいいですよなどと誰かに聞かされた話もする。 「これはいいですよ」一人目は同じものをもう一杯飲んで帰った。 「氷が溶けてきたら、おいしくなってきました」二人目はなんとか飲み干して帰った。 今夜の三人目は安藤さんだった。安藤さんもアイラ好きで、さっきの二人にすすめたものもよく飲むが、今は一杯目のベルギービールを飲んでいる。 「マスター、コーヒーカップでさっきから何飲んでんの」 「ジンですよ。それも一番安いヤツ」 「あれ、アイラ好きなんじゃなかったっけ」 「好きですけど飲みませんよ。だって高いじゃないですか」 さっきの酒はうまいが高い。高い酒を飲ませるコツ、そりゃいろいろあります。 (了)
《速報解説》 雑損控除等の見直し ~平成26年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成26年度税制改正大綱では、災害等で被害を受けた場合に適用可能な各種制度に関して、いくつかの見直しが示されている。これらの見直しのうち所得税に係るものについて、解説を行うこととする。 雑損控除や災害免除法に係る現行制度の詳細については、拙稿「平成24年分 確定申告実務の留意点【第5回】『各所得控除における留意点』」をご参照いただきたい。 (1) 雑損控除の見直し 雑損控除の対象となる「資産の損失金額」について、算定方法の見直しが示された。 雑損控除として所得控除できる金額は、次の①と②のいずれか多い方の金額である(所法72①)。 現行制度では、上記算式の資産の損失金額は、損失の生じた時の直前における資産の価額(時価)を基礎として計算するものとされている(所令206③)。今回の見直しでは、この時価を基礎として計算する方法に取得価額を基礎とする方法が追加された。 これにより、納税者が時価による方法と取得価額を基礎とする方法のどちらかを選択できることとなる。 従来の時価による方法では、原則として損失発生前後における資産の時価を把握する必要があるため、損失金額の算定が困難となる場合も多かった。取得価額を基礎とする方法を選択できるようになれば、損失金額の算定が容易になるものと考えられる。 取得価額を基礎とする方法を具体的に示すと、次の通りである。 〈資産の損失金額の計算:取得価額を基礎とする方法〉 *非業務用資産に係る減価償却費累積額相当額の計算は、非業務用資産を譲渡した場合の資産の取得費の計算方法と同じである。 (2) 東日本大震災に係る災害関連支出の対象期間の見直し ① 現行制度の概要 原状回復費用等のうち、雑損控除等(雑損控除及び雑損失の繰越控除、被災事業用資産の損失の繰越控除)の対象となる災害関連支出として扱うことができるものは、次の期間内に支出した金額に限られている(所令206①二)。 ② 見直しの概要 東日本大震災により被災した資産に関連する原状回復費用等について、その災害のやんだ日から3年以内に支出することが困難な事情があるときには、その困難な事情がやんだ日の翌日から3年以内に支出される金額も災害関連支出の対象にできることが示された。 見直しの対象となるのは、平成26年1月1日以後に支出する原状回復費用等である。 〈東日本大震災により被災した資産の原状回復費用等の取扱い〉 (3) 予定納税制度の見直し ① 現行制度の概要 その年の5月15日現在で確定している予定納税基準額が15万円以上である場合には、第1期及び第2期(*)において、それぞれ予定納税基準額の3分の1に相当する金額の所得税を納付しなければならない(所法104①)。 (*)第1期:その年の7月1日から7月31日まで、第2期:その年の11月1日から11月30日まで 税務署長は、予定納税額のある納税者に対し、その年の6月15日までに予定納税額の通知を書面で行う必要がある(所法106①)。 なお、災害その他やむを得ない理由により、申告や納付等が期限までにできないと認められるときには、税務署長等はその理由のやんだ日から2月以内に限り、当該期限を延長することができる(以下、災害等による納期限等の延長という。通法11、通法令3)。 ② 見直しの概要 災害等による納期限等の延長が行われる場合には、予定納税に関して次のような問題が生ずる。 そこで、災害等による納期限等の延長がある場合の予定納税について、次の見直しが示された。 (4) 所得税の減免申請の申告要件の見直し ① 現行制度の概要 地震等の災害によって住宅や家財等に甚大な損害(時価の2分の1以上)を受けたときは、所得税の全部又は一部の減免を受けることができる(災免法2)。ただし、減免を受けるためには、当該制度の適用を受ける旨、被害の状況及び損害金額を記載した確定申告書を期限内に納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(災免法令2①)。 ② 見直しの概要 所得税の減免申請が、期限内の申告だけでなく、期限後申告、更正の請求、修正申告においてもできることとされた。 (了)
《速報解説》 有価証券の国外移管等に係る 国外送金調書の提出義務の追加 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 改正の内容 「平成26年度税制改正大綱」によると、国内証券口座から国外証券口座に有価証券を移管した場合又はその逆の場合、金融機関から調書が提出されることになった。 2 現行の国外送金調書制度 銀行が顧客から海外送金の依頼を受けた場合、銀行は告知書の提出を受け、送金額が1回100万円超の送金については、調書を所轄税務署長に提出する義務がある。 3 改正の内容 証券会社の営業所の長が、顧客の依頼に基づき、当該営業所に開設された有価証券の保管等に係る口座(国内証券口座)から国外において金融商品取引行を営む者の営業所等に開設された有価証券の保管等に係る口座(国外証券口座)に有価証券の移管をした場合、又は国内証券口座に国外証券口座から有価証券の移管を受けた場合には、その移管に係る有価証券の種類、数又は金額その他の事項を記載した調書を、当該営業所の所在地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされた。 この制度は、平成27年1月1日以降に行われる有価証券の移管について適用される。 4 改正の意義 国税当局は富裕層の海外保有資産の把握に力を入れている。その手段として、平成26年から「国外財産調書」の提出が始まる。これは各年度末における資産の保有状況を把握するためのものであり、いわばストック面での情報収集である。 一方、資産のフローの情報を把握するための施策として、「国外送金等調書」制度があり、100万円超の送金は調書が税務当局に提出される。しかし、証券会社等の口座に預託されている有価証券の国外口座への移管についてはこれまで調書提出義務は課されておらず、手当が必要であるとされていた。 5 実務上の留意点 平成26年1月に開始される国外財産調書は国外財産が5,000万円を超える場合に報告義務があるが、金融機関に預けている資産については、国外財産かどうかの判定は、その口座を管理する営業所の所在地による。 したがって、国内銘柄株式であっても国外の営業所に移管した場合には、国外財産として報告の対象になる。 (了)
《速報解説》 移転価格税制に係る 「みなし国外関連取引」適用対象の拡大 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 今回の大綱中、移転価格税制に関する改正として、「みなし国外関連取引」の適用対象を役務提供取引に拡大することが明らかにされている。 2 みなし国外関連取引とは 日本から海外にある子会社に商品を輸出する際、第三者を通じて販売することがある。典型的には、非関連者である商社を経由する販売である。 移転価格税制は親子間など支配関係のある法人間の取引を対象とするものであり、非関連者との取引は原則として適用対象外である。商社経由取引も形式的にみれば非関連取引である。 しかし、国外関連者との取引において形式的に第三者が介在しているに過ぎない場合にまで移転価格税制の適用がないとすると、第三者を介在させることによって意図的に移転価格税制を回避することが可能になる。 このため、一定の要件を満たす場合には、非関連者が介在していても国外関連取引とみなして、移転価格税制を適用することとしている(措法66の4、措令39の12⑤、39の12⑨)。 「みなし国外関連取引」となる条件は、上図の①、②の取引について、それぞれ以下の条件を満たすことである(措令39の12⑨)。 したがって、親子間で取引価格を決定する際、もとの商品の価格に一定の商社口銭分を上乗せして決めているような場合には、移転価格税制の適用がある。 3 現行法の問題点 みなし国外取引の対象は、「資産の販売等」(販売等には販売のほか、譲渡、貸付、提供が含まれる)とされており(措令39の12⑨)、役務提供が含まれていないことが実務上問題となるケースがあった。 典型的には、下図のような保険取引である。 A保険会社は世界各国に子会社を有しており、タックスヘイブン国に保険リスクを管理する法人を有している。A社の日本法人が第三者である元受保険会社Bに保険料100を支払い、BはA社がX国に設立したキャプティブ保険会社(※)に再保険料100を支払っている。 我が国では、保険業法上の海外付保規制により海外に再保険をする場合には、B社のような元受保険会社を通じる必要がある。 ここで、A社とX国法人が仮に独立企業間であったとした場合の保険料が50であったとすると、日本からX国に50の所得が移転していることになる。しかし、少なくとも現在の「みなし国外関連取引」の規定では、こうした役務提供取引に移転価格税制の適用があるかどうかは明らかでないという問題がある。 (※) キャプティブ保険は専属保険ともよばれ、自社製品の製造物責任賠償リスク等のリスクに見合う保険料のみを引き受ける保険会社である。リスクを自社で保有する場合に比べて、保険料を損金として認識できるメリットがあるほか、一般の保険会社が保険を引き受けないケースや、保険料が高額になってしまうケースでリスクを外部化できるメリットがある。キャプティブ保険会社は低税率国に設立されることが多い。 4 改正案 みなし国外関連取引の範囲が、役務提供取引にも拡大される。 5 実務への影響 関連者間の役務提供に第三者が介在する例は多くないが、上記のキャプティブ保険などにはよくみられるものである。 今後、キャプティブ保険を活用している会社は、保険料が移転価格調査においてチェックされ、独立企業間価格でない場合は更正を受けることになる。 調査に対する準備として、保険料についても移転価格文書化が必要になる。 (了)