〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載43〕 共同再編・複数再編における適格判定 公認会計士・税理士 有田 賢臣 Q 当社(P社)は、分社型分割により完全子会社(S社)を新設し、同日に、A社とB社を合併により吸収する予定です。 この連続して行う組織再編成の適格判定に関して、注意すべき点をご教授下さい。 A 3社以上の会社で組織再編成を行う(以下、「共同再編」という)場合や複数の組織再編成を連続して行う(以下、「複数再編」という)場合には、組織再編成の個数と順序について正しく理解した上で適格要件を判定する必要がある。 また、国税庁より「三社合併が行われた場合において、当該三社合併に係る個々の合併に順序が付されているときには、その順序に従って個々の合併に対する適格判定を行う」旨の文書回答事例が公表されているが、適格再編成とすること又は非適格再編成とすることのみを目的として不自然な組織再編成の順序を定めている場合には、行為計算否認規定が適用される可能性がある。 解 説 1 組織再編成の個数と順序 共同で会社を設立する行為である共同新設分割(会762②)と共同株式移転(会772②)については、1個の組織再編成として扱われる。会社1社を設立するのに、複数の設立行為を想定することはできないため、「共同」で1個の組織再編成が行われるものと整理されている。 一方、P社がA社とB社を吸収する合併は、PA間の吸収合併とPB間の吸収合併の2個の組織再編成が行われたものと考える。X社とY社がZ社に共同で吸収分割する場合も同様に、XZ間の吸収分割とYZ間の吸収分割の2個の組織再編成が行われたものと考える。 吸収合併は、消滅会社が存続会社に消滅会社の権利義務の全部を承継させる行為であり(会2二十七)、吸収分割は、分割会社が分割承継会社に分割会社の権利義務の全部又は一部を承継させる行為であることから(会2二十九)、消滅会社・分割会社の数だけ組織再編成が行われるものと整理されている。 ◆ ◆ ◆ 1個の組織再編成の場合には順序は問題とならないが、2個以上の組織再編成の効力が同日に生じる場合には順序が問題となる。 P社がA社とB社を吸収する合併(会社法の定義に沿えば、「A社をP社に吸収させる合併」と「B社をP社に吸収させる合併」)において、組織再編契約で順序を付していない場合には、PA間の吸収合併とPB間の吸収合併の効力が同時に生じることになる。 一方、組織再編契約にて、「PA間の吸収合併(第1合併)の効力発生を停止条件として、第1合併の効力発生直後にPB間の吸収合併の効力が生じる」と順序を付すことも可能である。 では、ご質問のケースにおいて、組織再編契約で順序を付していない場合には、どのような順序で効力が生じるのだろうか。 4月1日の効力発生を意図した場合、PA間の吸収合併とPB間の吸収合併は4月1日の午前0時0分に同時に効力が生じるのに対し、S社を新設する分社型分割は4月1日の登記申請が受理された時刻(例えば、午前10時)に効力が生じる。つまり、三社合併が先で、新設分割が後という順序になる。 三社合併の前に新設分割の効力を生じさせたい場合には、合併契約書において「新設分割の効力発生を停止条件として、新設分割の効力発生直後に三社合併の効力が生じる」という趣旨の記載が必要となる。 2 共同再編・複数再編における適格判定 国税庁のホームページにて、平成21年1月27日付けで「三社合併における適格判定について(照会)」という文書回答事例が公表されており、共同再編・複数再編における適格判定を行うに当たって、次の2つの指針が示されている。 P社がA社とB社を吸収する三社合併が行われた場合、順序を付さなければ、PA間の吸収合併とPB間の吸収合併のそれぞれについて適格判定を行うのに対し、「PA間の吸収合併(第1合併)の効力発生を停止条件として、第1合併の効力発生直後にPB間の吸収合併の効力が生じる」と順序を付した場合には、PA間の吸収合併について適格判定を行い、次に、A社を合併した後のP社とB社との間の吸収合併について適格判定を行うことになる。 順序を付すか否かにかかわらず、三社合併では2個の組織再編成が行われることになるから、2つの適格判定が行われ、1つの吸収合併が適格合併で、他の吸収合併が非適格合併なら、そのように適格合併と非適格合併として個々の合併を処理することになる。 ◆ ◆ ◆ 一方、3社(A社・B社・C社が共同でP社を設立)で行う共同新設分割・共同株式移転の場合には、1個の組織再編成が行われることになるから、適格判定も1つになる。 具体的には、共同事業要件適格では、A社とB社、A社とC社、B社とC社のそれぞれで適格判定をし、1組でも適格要件を満たさなければ、全体を非適格再編成と判断することになる(法法2十二の十一 ハ)。また、完全支配関係・支配関係にある法人間の適格判定では、4社(A社・B社・C社・P社)間の関係が、当事者間適格又は同一者間適格のいずれかに該当するかを判断することになる(法法2十二の十一 イロ)。 なお、適格再編成とすること又は非適格再編成とすることのみを目的として不自然な組織再編成の順序を定めている場合には、行為計算否認規定が適用される可能性があるので注意が必要である。 例えば、P社がA社とB社を吸収する三社合併において、B社はA社の100%子会社であり、P社とABグループとの間には資本関係がなく、共同事業要件を満たすことによる適格合併を意図しているケースを想定する。 この場合、AB間の吸収合併を第1合併とし、PA間の吸収合併(P社とB社を合併した後のA社との間の吸収合併)を第2合併とするか、又は、PA間の吸収合併を第1合併としPB間の吸収合併(A社を合併した後のP社とB社との間の吸収合併)を第2合併とするのが一般的と思われる。Bを被合併法人とする合併が、完全支配関係下の合併となるため適格要件も満たしやすく、かつ、無対価合併になるため合併比率の算定も不要となるからである。 それでもあえて、PB間の吸収合併を第1合併としPA間の吸収合併(B社を合併した後のP社とA社との間の吸収合併)を第2合併とした場合、第1合併・第2合併共に合併比率の算定が必要となり、第1合併によりA社に交付されたP社株式が第2合併でP社の自己株式になってしまう。さらに、第1合併・第2合併共に共同事業要件を満たさない限り適格合併にならない。 この順序で三社合併を行う理由が、PA間の吸収合併において共同事業要件を満たすためには、PB間の吸収合併を第1合併とせざるを得なかったからということのみであれば、行為計算否認規定が適用される可能性があると思われる。 (了)
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第1回】 「主な改正事項の確認」 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成25年9月13日に「企業結合に関する会計基準」等、組織再編に関する一連の会計基準を改正した。 これらの改正会計基準等は、平成27年4月1日以後開始する年度から適用される(早期適用については後述参照)。 主な改正項目は、次のとおりである。 本連載では、これらの主な改正事項を数回に分けて連載する。第1回は、主な改正事項を概観し、設例等による具体的な会計処理は、次回以降に記載する。 なお、日本公認会計士協会(JICPA)では、「連結財務諸表に関する会計基準」等の改正に伴い「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」等の改正を予定している。 2 取得の会計処理に関する事項 (1) 取得関連費用の取扱い(企業結合会計基準第26項及び第49項) 企業結合における取得関連費用のうち一部について、改正前の会計基準では、取得原価に含めることとされていたが、改正会計基準等では、発生した事業年度の費用として処理することとされた。また、主要な取得関連費用を注記により開示することとされた。 なお、個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定される。 これらの会計処理は、共通支配下の取引の会計処理にも同様に適用される。 (2) 暫定的な会計処理の確定の取扱い(企業結合会計基準(注6)、結合分離適用指針第70項、第73項、EPS会計基準第30-6項及びEPS適用指針第36-3項) 暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合、改正前の会計基準では、企業結合年度に当該確定が行われたとしたときの損益影響額を、企業結合年度の翌年度において特別損益に計上することとされていたが、改正会計基準等では、企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させることとされた。 その場合、当該企業結合年度の翌年度の財務諸表と併せて表示する企業結合年度の財務諸表の1株当たり当期純利益、潜在株式調整後1株当たり当期純利益及び1株当たり純資産は、当該見直しが反映された後の金額により算定することとされた。 3 共通支配下の取引等の会計処理に関する事項 (1) 支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動(連結会計基準第26項、第28項から第30項、事業分離会計基準第17項から第19項) 改正前の会計基準では、子会社株式を追加取得した場合や一部売却した場合のほか、子会社の時価発行増資等の場合には損益を計上する取引とされていたが、改正会計基準等では、親会社の持分変動による差額は、資本剰余金に計上することとされた。 (2) 非支配株主持分 改正前の会計基準における「少数株主持分」を、改正会計基準等では「非支配株主持分」に変更することとされた。 4 表示その他に関する事項 (1) 当期純利益の表示(連結会計基準第39項) 改正前の会計基準における「少数株主損益調整前当期純利益」は、改正会計基準等では「当期純利益」とされた。 これに伴い、改正前の会計基準における「当期純利益」は、改正会計基準等では「親会社株主に帰属する当期純利益」とされた。 また、改正会計基準等では、2計算書方式の場合には、「当期純利益」に「非支配株主に帰属する当期純利益」を加減して「親会社株主に帰属する当期純利益」を表示することとし、1計算書方式の場合には、「当期純利益」の直後に、「親会社株主に帰属する当期純利益」及び「非支配株主に帰属する当期純利益」を付記することとされた。 2計算書方式を採用した場合の連結損益計算書の改正後のイメージは、以下のとおりである。 (2) 連結株主資本等変動計算書の様式の変更 連結株主資本等変動計算書の表示区分における「少数株主持分」を「非支配株主持分」へ、利益剰余金の変動事由における「当期純利益」を「親会社株主に帰属する当期純利益」へ改められた(株主資本会計基準第7項及び株主資本適用指針第6項)。 また、暫定的な会計処理の確定の処理が改正されたことに伴い、暫定的な会計処理の確定年度の株主資本等変動計算書のみの表示が行われる場合の取扱いについて所要の改正が行われた(株主資本会計基準第5-3項)。 (3) 1株当たり当期純利益の算定方法 EPS会計基準の適用に当たっては、連結財務諸表において、連結損益計算書上の「当期純利益」は「親会社株主に帰属する当期純利益」、連結損益計算書上の「当期純損失」は「親会社株主に帰属する当期純損失」とするものとされた(EPS会計基準第12項)。 5 適用時期 適用時期については、以下のとおりである(企業結合会計基準第58-2項、連結会計基準第44-5項及び事業分離会計基準第57-4項)。 ※早期適用する場合には、③の取扱いを除き、すべてを同時に適用する必要がある。 (了)
「連結財務諸表の用語、様式及び 作成方法に関する規則等の一部を 改正する内閣府令」の解説 ―IFRS任意適用要件緩和の内容とその背景、 今後の展望について― 公認会計士・税理士 大矢 昇太 2013年6月19日、金融庁企業会計審議会は、 を整理した、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、「方針」という)を公表した。 当該方針に基づき、8月26日には、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「連結財規」という)等の一部を改正する内閣府令(案)」等が公表され、10月28日に内閣府令(第70号)が公布された。 当改正の趣旨は、IFRS任意適用企業を増加させることにあるといえる。以下では、主な改正内容やその背景等について概説する。 1 主な改正内容 改正前の連結財規では、IFRSを任意適用するには、 という要件のすべてを充足した特定会社であることが要請されていた。 このうち、④の要件については、 のうちいずれかの要件を満たすことが必要とされていた(注2)。 当改正では、上記①と④の要件が削除された。すなわち、②及び③の要件(注3)さえ充足した株式会社であれば、外国に大規模な連結子会社を有していない上場会社であっても、また、そもそも上場会社でなくても、IFRSを任意適用することが可能となったのである。 現在、我が国におけるIFRS任意適用企業数は適用予定公表企業も含めて20社(注4)に留まっているが、この緩和により任意適用可能企業数が大幅に増加するため、IFRS任意適用の裾野が広がることになる(注5)。 2 背景 当改正は、我が国においてIFRSの任意適用事例を積み上げることで、IFRSの設定等に関する日本の発言権を確保しなければならない、という危機感の表れとも解釈できる。 現在、金融庁長官はモニタリング・ボード(The Monitoring Board)(注6)のメンバーである。 2013年3月1日には、このメンバー要件としての「IFRSの使用」の定義が明確化され、「実際にIFRSが“顕著”に適用されている状態となっている(prominence of IFRS application)、もしくは、妥当な期間でそのような状況へ移行することを既に決定していること」、とされた。任意適用企業が20社しかないような国は、IFRSが顕著に適用されている国とは判断されないであろう。 2016年には、新たな要件に照らしてメンバーの見直しが行われる(注7)。 3 エンドースメントされたIFRSの設定 一方、ピュアなIFRSの一部を修正して採択するエンドースメント(endorsement)の仕組みを設けることで、我が国に適したIFRSを策定することも検討されている。いわゆる、日本版IFRS(J-IFRS)の新設である。 具体的な検討はASBJに委ねられており(注8)、例えば、のれんを償却することや、持合株式の売却益を当期利益として認識すること等の措置についての検討が行われることが想定される。確かに、我が国の企業に親和性のある基準とすることで、IFRSの任意適用は行いやすくなるであろうが、限定的な修正を逸脱した修正は、適切なカーブアウトとは認められないだろう(注9)。 また、J-IFRSが設定されると、我が国において4つの基準(日本基準、米国基準、ピュアなIFRS、J-IFRS)が併存することになる。このことに対しては、制度としてわかりにくく、投資家等の利便に反するのではないかという懸念もある。 4 その他関連する動向 自由民主党は、より具体的に、IFRS適用企業を2016年末に300社程度まで増やすとの目標を掲げている(注10)。 また、ROE、海外売上比率、IFRSの導入等、経営の革新性等の面で評価が高い「グローバル300社」のインデックスを東証において創設する等、提言している(注11)。 任意適用という枠組みの中で、経済界に対するさらなる要請も予想される。 (了)
減損会計を学ぶ 【第2回】 「減損会計の特徴」 公認会計士 阿部 光成 減損会計基準を理解するためには、同会計基準が設定された背景を理解する必要がある。 固定資産に関する会計手法として、減価償却がある(「企業会計原則」第三、五)。 減損会計基準の設定の背景を理解するために、まず、減価償却の考え方を整理し、次に減損会計を必要とした理由を考えてみる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減価償却 1 概要 「企業会計原則」は、減価償却について規定しており、固定資産に関する基本的な会計処理は減価償却と考えられる。 貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、取得原価を基礎とし、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、取得原価は各事業年度に配分される(「企業会計原則」第三、五)。 有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならないと規定されている(「企業会計原則」第三、五)。 2 減価償却に関する基本的な考え方 「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 第三 有形固定資産の減価償却について」は、減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行うことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることであると述べている。つまり、減価償却の基本的な考え方は、費用配分の原則に基づいて有形固定資産の取得原価をその耐用期間における各事業年度に配分することにある。 減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的、規則的に実施される。利益に及ぼす影響を考慮して減価償却費を任意に増減することは、正規の減価償却に反するとともに、損益計算をゆがめるものであり、認められない。 3 減価償却の方法 「企業会計原則」注解20は、固定資産の減価償却の方法として次の方法をあげている。 Ⅱ 減損会計の必要性 前述のように、減価償却は固定資産の取得原価を、所定の減価償却方法に従って、計画的、規則的に各期間に費用配分するものである。 費用配分の原則に基づいて、固定資産の取得原価の一部を減価償却費として費用処理する一方、費用化されなかった取得原価については資産として貸借対照表に計上されることとなる。 減価償却では、固定資産を直接的に評価することが行われないこともあり、「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)では、次の問題点を指摘している。 Ⅲ 減損会計の基本的な考え方 固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理である(減損会計意見書三、3)。 減損会計意見書は、減損会計に関する基本的な考え方として次のことを述べている。 これらの規定に鑑みると、減損会計は、 という特徴をもつものと解される。 「固定資産の減損に係る会計基準及び注解」や「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)の規定を解釈する場合には、「Ⅱ 減損会計の必要性」と上記の基本的な考え方を理解することにより、その趣旨が理解しやすくなるものと考えられる。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第23回】 純資産会計① 「自己株式の取得」 ─自己株式は株主資本の控除項目 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 〈事例による解説〉 自己株式を市場価格100百万円で取得した場合(付随費用2百万円)の会計処理は以下のとおりです。 〈会計処理〉 (単位:百万円) 〈会計処理の解説〉 企業が自己株式を取得した場合、上記の会計処理のように借方に自己株式勘定を計上します。 一見、他の資産の取得と同様の会計処理のようですが、自己株式勘定は資産勘定ではなく純資産の部に属する勘定科目であり、その借方計上は純資産の部のマイナスを意味します(会計基準7項)。 自己株式については資産として扱う考え方と資本の控除として扱う考え方がありますが、上記の会計処理は「自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有する」ことを論拠に、資本の控除として扱う考え方を採っています(会計基準30項)。 自己株式の取得は株主に金銭等を配分することから、配当と同様に株主還元効果があります。自己株式を資本の控除として扱う考え方は、配当が株主資本の減少であることと整合しています。 次に表示についてですが、連結貸借対照表及び個別貸借対照表上、自己株式は以下のように純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形で表示します(会計基準8項)。なお、個別貸借対照表では資本剰余金及び利益剰余金の内訳を表示することになりますが、ここではこの記載を省略しています。 また、自己株式を取得する際に発生する付随費用は財務費用として扱い、営業外費用に計上することになります(会計基準14項)。付随費用は株主との間の資本取引ではないためです。 次回は自己株式の処分・消却の会計処理について解説します。 (了)
年俸制と裁量労働制 【第1回】 「給与の支払方法(年俸制)と 労働時間管理の方法(裁量労働制)は別物」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 年俸制と裁量労働制の違いを正しく理解する 「うちは年俸制で給与を支払い、裁量労働制を導入しているので残業代を支払っていない」という声をよく耳にする。特に設立間もない企業や、比較的小規模な企業で顕著であるように感じられる。 「年俸制」とは月給制・日給月給制など賃金の支払方法の一つであり、「裁量労働制」は労働時間管理方法の一つである。 年俸制は賃金の支払方法の一つであるために規制はないが、裁量労働制は労働基準法に定められた内容に基づいて運用する必要がある。基本的には、裁量労働制適用者には年俸制を適用するという関連性を持たせてもよいものではあるが、いわゆる固定費=人件費を削減する目的だけで年俸制を導入し、割増賃金が適正に支払われないという状況は避けなければならない。 年俸制でも割増賃金の支払いは必要 年俸制と裁量労働制を組み合わせて導入している場合、勤務時間には社員に裁量性を持たせ、給与額を年額で定めて年俸制として支給し、この年俸額には割増賃金(時間外勤務・深夜勤務・休日出勤)が含まれているとして、年俸額を超えた割増賃金を支給しないケースがある。 一見すると勤務時間にも裁量制があり問題がないように捉えられがちであるが、年俸制を導入していても、元々の年俸額に一定時間の時間外手当相当分が含まれていない場合には、深夜勤務や休日出勤分も含め割増賃金の支払いが必要となる。 また専門型裁量労働制を適用する場合は一定の職種に限られるが、職種に限らず裁量労働制を導入しており、例えば、本来、専門業務型裁量労働制を適用できないプログラマーにも裁量労働制を導入し、時間管理を全く行わないというケースもみられる。 労働基準法との関係 年俸制を採用した場合には、労働基準法の法定労働時間や賃金支払との関係が問題になる。 労働基準法では、1週間に40時間、1日に8時間の労働が原則である。この「法定労働時間」を超える労働時間を定めた労働契約は労働基準法違反となり、その場合、年俸は自動的に年間の法定労働時間に対する賃金と解釈され、時間外労働・休日労働・深夜労働等の割増賃金については、年俸と別に支払わなければならない。 ただし、あらかじめ一定の金額を割増賃金分として含んだ金額を年俸額とするのであれば、その内訳(年俸○○円、うち時間外労働分××円、深夜勤務分××円など)を明らかにしておくことが必要となる。また、実際に働いた結果、事前に決められた割増賃金相当分を超過した場合には、正しい割増賃金との差額を追加して支払うことが求められる。 * * * 次回は、年俸制の支払方法についてお伝えしたい。 (了)
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第6回】 「企業文化を就業規則に落とし込んだ会社の実例①」 特定社会保険労務士 下田 直人 前回は、企業文化を就業規則に落とす方法について述べてみた。 今回と次回を使って、企業文化を就業規則に落とした会社の実例を紹介したい。 〈価値観が合わず退職する社員には3,000ドル〉 まずは、アメリカの例から。すでにご存じの方も多いかもしれないが、アメリカで靴の通信販売サイトを運営している会社でZappos(ザッポス)社という会社がある。 この会社は、戦略的な企業文化の構築とその定着で業績を伸ばしている会社だ。 Zappos社では、入社後1ヶ月程度のトレーニング期間がある。この間に、自社の文化を理解する様々なトレーニングが行われる。コア・バリューの理解から、コールセンター業務(通信販売業であるため)の実習を通して体感するトレーニングまである。 新入社員は、Zappos社のことをよく理解し、あこがれて入社してくる社員が多い。また、Zappos社の方でも自社のカルチャーにフィットするか相当慎重に試験を行っている。 それにもかかわらず、トレーニングを受けると、「自分の価値観と合わない」と感じる社員が少なからずいるようだ。 Zappos社では、価値観と合わないと思っている社員が、生活のためにやむを得ず会社に残ってしまうことは文化を維持するうえで非常に良くないことだと考えている。 そこで、お金のために社員が残ることがないよう、 という制度が整備されているのだ。 3,000ドルあれば、次の職が見つかるまでの間の当座の生活費として十分にやっていける額である。 つまり、Zapposは3,000ドルよりも会社の価値観を守ることの方が重要だと考え、このようなルールを制定しているのである。 〈リフレッシュ休暇は写真の提出が義務〉 今度は日本の会社に目を向けよう。 この会社は、土木業を営む社員数60人程度の会社である。 この会社では、昨年より「リフレッシュ休暇制度」を導入した。 通常の休日、休暇とは別に、3日間連続した休暇がとれる制度である。土日と合わせて5連休とすることが可能となっている。 リフレッシュ休暇制度を導入している会社は多いが、この会社では、 という社内ルールがある。 だいたい5連休となると、旅行に行くことが多いと思われる。その旅行中の写真を一枚会社に提出するのだ。 もちろん、旅行である必要はなく、仮に、5日間ゴロゴロ家で寝ていたというのなら、そんな写真でも構わない。 そして提出された写真は、会社の休憩室に貼られる。 この狙いは、その写真を見た社員間のコミュニケーションが活発化されるということ。 そして、楽しそうな雰囲気を醸成すること。 また、働く時と休む時のメリハリをはっきりとつける組織とすることだ。 この会社では、社長が働く時と休む時のメリハリをはっきりさせること、そして、チームワークを非常に大切にしている。 そのメッセージを伝えるための制度が、このリフレッシュ休暇制度なのだ。 〈退職の早期申し出奨励金〉 ある歯科医院では、退職を早期に申し出た場合は、手当を出している。 つまり といった具合だ。 この医院では、円滑な業務の遂行を何よりも大切にしている。 そのために、スタッフが急きょ退職して人手が足りない、引き継ぎがうまくいかないといった事態は、絶対に避けなければならない。 特に歯科衛生士は、良い人材を採用しようと思うと時間がかかる。 また、退職する側の立場で考えると、なかなか退職の申し出は言い出しにくいという現実もある。 少し現金なやり方かもしれないが、早く申し出をすることによってお金がもらえるとなると、それを言い訳材料にして退職を申し出やすくなる。 医院側も退職の意思表示を早く受け取ることができるので、十分に余裕を持って採用活動に臨むことができ、良い人材とめぐり合う可能性が格段に高まる。 * * * 以上見てきたとおり、会社によってさまざまな制度がある。 ここで私が申し上げたいのは、その表面だけを見ないでほしいということだ。 事例で紹介した会社は、その会社の「価値観」を大切にしている。 その価値観を伝えるメッセージとして何かないかと考えた結果、上記のようなルールが出来上がったのであって、決してルールありきではない。 したがって、読者の皆様も「うちの会社ではリフレッシュ休暇制度は導入できない」などという発想はしないでほしい。私は、リフレッシュ休暇制度の導入を皆さんに勧めているのではない。 皆さんの会社の価値観をどんなルールで表現するのか、その発想法をこの中から感じ取っていただければと思う。 (了)
親族図で学ぶ相続講義 【第11回】 「遺留分と減殺請求の額」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 [被相続人甲野一男 相続関係説明図] 今回は、きわめて単純な相続関係を元に、遺留分の問題を考えてみましょう。 上記のような相続事件が発生しました。 依頼者は甲野太郎で、その依頼の内容は、甲野一男がした遺贈(受遺者は、乙山花子)について、乙山花子に対して遺留分の減殺請求をしてほしいというものです。 まず、第一に注意すべき点は、「依頼の日がいつか」ということです。 というのは、遺留分減殺請求権は、きわめて短い期間で消滅してしまうのです。 この規定があるので、仮に、依頼の日が、甲野太郎が父の死と遺贈の存在を知ってから1年を経過した後であるときは、甲野太郎は、遺留分の減殺請求をすることはできません。 では、依頼の日が、この期間内であったとしましょう。 遺留分は、相続人のうち次の者に存在します。 以上です。 引き算をすると、兄弟姉妹には、遺留分がないわけです。 これは、他の兄弟の財産を自分の生活の基盤としてあてにするのは、人間としてあってはならないことだからだと言われています。 さて、というわけで、甲野一男の直系卑属である甲野太郎には遺留分があります。 そして、遺留分として受けることができる額は、甲野一男の財産の額の2分の1となります(民法1028条2号)。 では、次の事案で、甲野太郎が、乙山花子に遺留分の減殺請求をすることができるか、また、できるとしてその額はいくらであるかを考えてみましょう。 甲野一男の死亡時の財産は以下のとおりです。 では、計算しましょう。 遺留分の算定の基礎となる甲野一男の相続財産の額は、金600万円(1,600万-600万)です(民法1029条1項)。 ですから、甲野太郎の遺留分はその2分の1、つまり金300万円となります。 では、乙山花子に対して請求できる減殺額も金300万円なのでしょうか。 よく考えてみましょう。 今回の相続で、仮に、甲野太郎が減殺請求をしなければ、甲野太郎が相続によって受ける額は、△1,000万円となってしまいます。 郵便貯金の1,600万円は遺贈によって乙山花子のものとなり、甲野太郎は負債の1,000万円だけを相続してしまうからです。 ですから、甲野太郎が、乙山花子に300万円の請求しかできないとすると、甲野太郎の取り分は、△700万円(△1,000万+300万)にすぎないことになります。 これでは、一定の相続人に、被相続人の相続財産のうち遺留分にあたる額を保障しようという、民法の制度の趣旨に合わない結論となってしまうでしょう。 そこで、正解は、次のとおりとなります。 甲野太郎が乙山花子に請求できる減殺額は、金1,300万円です。 これによって、甲野太郎の手元には、300万円の遺留分(1,300万-1,000万円)がキレイに残ることになります。 以上、長々と述べましたが、被相続人が負債を有するときは、相続人の遺留分の額と、相続人が減殺請求をすることができる額は、必ずしも一致しないことに注意を要します。 (了)
常識としてのビジネス法律 【第3回】 「ビジネスと文書(その3)」 弁護士 矢野 千秋 1 往復文書(信書)を発信するときのポイント (1) 信書とは 信書とは、特定人から特定人に宛てて意思を伝達する文書である。伝達されるべき意思は公生活に関すると私生活に関するとを問わない。また、郵便に付したものに限らず、発信人・受信人は自然人、法人、その他の団体等を問わない。 (2) 名宛人の表示の仕方 名宛人は、横書きなら文頭、縦書きなら文末が普通である。 会社としていずれかに統一して置く方が整理・管理がしやすい。 内容証明郵便などはインパクトを強めるために縦書きが多く、その他取引文書は横書きが多い。横書きなら冒頭部分に4W(名宛人、発信人、年月日、件名)が来るため、カバーページを見ただけでほぼ文書自体を特定できるからである。取引文書に4Wが重要であるということは、逆に重要な4Wが特定されれば、ほぼその文書が特定されることを意味する。 例えば「株式会社東西物産 取締役営業本部長甲野太郎様」のように、氏名・肩書を正確に記載する。特に肩書は変化するので、データベースを常に最新のものにしておくことが必要である。肩書きの誤りは、相手方担当者に対して極めて失礼に当たる。 また、氏名は上記の「甲野太郎」のように、フルネームでデータに入れておくべきである。 個人の名称に付する敬称は「殿」か「様」であり、「様」の方がより丁寧である。データにフルネームを入れておけば、より丁寧な敬称である「様」を使うことができる。 フルネームを入れていないと、一般的には「甲野取締役営業本部長」と記載することとなり、肩書きに使用できる敬称は「殿」のみで、より丁寧な「様」が使えなくなってしまう。 (3) 発信人の表示の仕方 「発信人」は基本的に、横書きなら文頭の名宛人の直後、縦書きなら文末の名宛人の直前に記載する。 署名か記名・捺印が基本であるが、我が国では記名・捺印が通常であり(いわゆるハンコ文化)、ビジネス文書には記名・捺印の方が望ましい。 また発信人の欄に電話番号、ファックス番号、メールアドレスなども併記しておくとよい。受信した者が即座に疑問等を問い合わせることが可能となり、取引先に電話番号を調べる等の手間をかけさせないで済むからである。 (4) 内容証明郵便における配達証明とは 「配達証明」とは相手方に到達したことを郵便局が認証するものであり、「内容証明郵便」とはどのような内容の通知をしたかを郵便局が認証するものである。 重要な通知であれば、配達証明付内容証明郵便にするべきである。それは民法が到達主義の原則を採っており、発信しただけでは足りず、相手方に到達して初めて意思表示が効力を生ずることになるからである。 したがって、配達証明をとっておかないと、到達を否認されたときにその証明に困難をきたす恐れがある。 (5) 内容証明郵便の書き方 以下、簡略にまとめておく。 ① 用紙 基本的には何でもよいが、文房具屋で内容証明郵便用紙を購入すると便利である。 縦書きなら1行は20字以内、1枚に26行以内。半分に折るなら1ページ13行になる。横書きなら1行26字以内、1枚に20行以内又は1行13字以内、1枚40行以内である。 字数は、句読点でもハイフンでも、すべて1字に計算する。使用できる文字は、かな、漢字、数字、一般に使われている記号(ハイフンやプラスマイナス、括弧など)、英文は固有名詞のみである。 ② 筆記具 消えない筆記具で書く。 自筆で書くときは鉛筆で書いて誤りがあれば訂正した後、コピーを3通取れば、これが「消えない筆記具」で書いた内容証明郵便になる。最初からボールペンなどの消えない筆記具で書いていると、誤記をした場合に困る。訂正方法はあるが訂正方法自体が誤っていないかが不安になり、結局最初から書き直すことになる場合が多く、無駄な時間を使うことになるからである。鉛筆なら誤記は消しゴムで消せばよい。 もちろん、パソコン等で印字してもよい。その場合は1行19字で全角に設定する。20字設定にしておくと、文末でジャスト20字になったとき、読点である丸が次行の文頭に行くと体裁が悪いので、パソコンは自動的に丸を同じ行の下部に引き戻す禁則処理があるからである。その結果、21字になってしまう。 また全角にする理由は、半角にしておくと句点などが1行に多数入ったとき容易に20字をオーバーしてしまうからである。当然ながら、オーバーしたものを郵便局は受けつけない。 ③ 印章 必須ではないが、縦書きなら発信人の下に押す(横書きなら発信人の右に押す)。 2枚以上になる場合はページとページにかけて契印を押す。これは発信人の下に使用した印章で、ページとページの綴じ目の中央辺りに押す。綴じ目の上の方に押すと駄目だという郵便局があるからである。 ④ 文末 縦書きなら、日付、発信人の住所・氏名・押印、次いで名宛人の住所・氏名の順で文末に記載する。 横書きなら、名宛人の住所・氏名、日付(日付は文頭右肩に記載する例も多い)、発信人の住所・氏名・押印の順で文頭に来るのが通常である。 ⑤ 通数 同じものを3通作成する。1通は名宛人郵送用、1通は郵便局保管内容証明用、1通は発信人保管用である。 この3通と名宛人の住所・氏名、発信人の住所・氏名を書いた封筒を用意して郵便局に持参する。封筒上の名宛人の住所氏名などは一字一句内容証明郵便中に記載したものと食い違わないようにする。郵便局は極めてこれらの点に細かい。 2 往復文書(信書)を受け取ったときのポイント (1) 会社宛の手紙を受け取った場合の処理方法 まず文書課や庶務課が一括受信し、私文書と公文書とに分け、公文書には受付印で受領日付の入ったものを押す。公文書は重要なものが多く、また「受領後何日以内に回答せよ」、「これこれの資料を提出せよ」等の内容が多いためである。 私信、親展文書は直接本人に渡し、その他はすべて開封する。受信簿に受信日付等を記入してから担当部課に仕分け配布する。 特殊郵便物(公文書が代表例)はやはり受信簿に記録し、名宛人から受信内容を受信簿に記載してもらう。 (2) 信書開披罪(信書隠匿罪が成立する場合) 信書に関して成立する可能性がある刑法上の犯罪も検討しておく。 会社宛の信書はすべて文書課などが開封することになるが、以下の犯罪の成否が疑問となる。 ① 信書開封罪(刑法133条) 正当な理由がないのに、封をした信書を開け、内容を了知し得る状態に置く場合に本罪が成立する。要は、信書の内容、いわばソフト面の保護である。 しかし、会社の担当部署宛の文書を文書課の課員が開封することは会社から与えられたその者の職務であり、まさしく「正当な理由がある」ので、本罪には当たらないことになる。文書課の課員は会社に対して内容の守秘義務を負っていることからも、この結論は肯定される。 会社宛のものを開封する際に、間違って個人宛の私信を開封すれば本罪に当たらないかとの疑問があるが、会社宛のものであると誤解して私信を開封した場合は過失による開封であり、本罪に過失犯処罰規定はないので問題ない。 ② 信書隠匿罪(刑法263条) 他人の信書を隠匿(通説は毀棄する場合を含むとする)する場合に成立する。要は、信書という物、いわばハード面の保護である。 したがって、たとえ文書課の課員であっても会社宛の信書は会社の物であるので、それを隠匿や毀棄すれば本罪に当たる可能性があることになる。 (3) 受信簿への記載要領 受信簿には、少なくとも文書番号、受信年月日時分、発信人、受信人(名宛人)、種類、受領者印の欄を設ける。返信の要否、返信期限も設ける。 特殊郵便物、すなわち、公文書、書留、速達、内容証明、配達証明、秘密扱い文書等は特に重要であるので、迅速に処理した上、名宛人・担当者から受信内容を受信簿に記載してもらう。 普通郵便物と特殊郵便物とは重要性に差がある場合が多いので、受信簿を別にするか、少なくとも区別して受信簿に分類記載した方が良い。 (4) 返信をしなければいけない場合とその要領 普通郵便物であれば、文中で返信を要求されているもの、儀礼上返信を要するもの、契約の申込に当たるもの、なんらかの期限を付しているもの等がこれに当たる。 特殊郵便物に関しては、返信が必要な場合が多い。書留、内容証明郵便、公文書(書類の提出を命ずるものが多い)等、なんらかの重要な理由があって特殊郵便物にしている。それらの重要な理由のあるときに、返信が不要であるような場合は少ないからである。 返信の書き方は、回答している件を特定明示することが重要である。そして返信には相手方の使用している件名、相手の文書番号等を明示するべきである。 いたずらに件名を変更したりすると後日通信間の対応関係が不明瞭になる可能性があるし、相手方の文書番号も記載する方が、直近の対応関係が分かる便宜もある。また、相手方にとっても検索などに便利だからである。 原則として、内容証明郵便には内容証明郵便で答える。勝手に重要性を低く判断して普通郵便で回答したりしない。 なんらかの理由があって相手方は内容証明郵便(いわば訴訟の準備)にしているわけであり、当方はその理由をまだ知らないような場合もあるからである。 また、相手方から内容証明郵便で来ているのであるから、当方も内容証明郵便で回答することは失礼には当たらない。 ◆返信の書き方の一例◆ (了)
会社を成長させる「会計力」 【第3回】 「リスク・リターンとバランスシート・マネジメント」 島崎 憲明 《リスク・リターン指標の導入と資本コストを大きく下回る実績》 住友商事の2000年3月期アニュアルレポート社長メッセージによると、同社ではコア(中核)ビジネス拡充による収益拡大を重要経営課題に掲げ、コアビジネスへの選択と集中を次のような手法で促進してきたと説明している。 さらに、2000年度にはリスク・リターンを税引前利益ベースで8%以上にするという目標を達成したいとしている。税引後リターンにすると4%強であるから資本コスト7.5%よりかなり低いリターンの達成を目標に掲げていたことになる。 直近の同社のリスク・リターンは15%、ROEは12%で、資本コストの2倍のパフォーマンスである。 この10年間における改善が著しいことが分かる。 《全体最適な全社共通のモノサシ》 過去を振り返ると、金融逼迫時には「キャッシュ・イズ・キング」と言われバランスシート・マネジメントの必要性が強調されたこともあったが、ビジネスの現場では損益実績偏重の時期が続き、バランスシートを重視する経営は根付かなかった。 2000年代に入って、総合商社各社は株主資本効率と資本コストを意識し、リスクの定量化などリスク管理の高度化を進めた。そして、従来型のP/L偏重からB/Sやキャッシュフロー(C/F)をも重視する経営に大きく舵を切った。 経営資源は有限であり、資金の効率的活用を経営の重要施策として掲げ、その実効を上げる具体的な対策をとったのである。 次の表は各社のROA(Return On Asset)、DER(Debt Equity Ratio)を2001年3月期と2013年3月期で比較したものである。 会社の体力以上に膨れ上がったバランスシート、すなわち資産と負債を適切なレベルまで圧縮するには、すべてのビジネスを同じモノサシで測って優劣を定量的に明確化することが必要であった。 従来は個々のビジネスに最適と思われる評価尺度を使っていたが、このやり方では個別ビジネスの特異性や特殊性が強調されるので、異なる分野のビジネスを横並びで比較してその存続の是非を議論することが難しかった。 すべてのビジネスに対して100点満点の評価方法ではないが、多岐にわたるビジネスの全体最適なモノサシは、事業の集中と選択を進め、低採算事業からの撤退を納得ずくで決定するツールとして極めて有効であった。 事業の集中と選択、バランスシート・マネジメントの浸透については各商社とも似たようなプロセスをとっているが、以下では住友商事でのケースを参考にしながら話を進めたい。 《事業パフォーマンスの「見える化」》 住友商事は、すべての部、事業子会社を「リスク・リターン」「成長性」「収益の規模」の3指標で次のように分類し、「見える化」して、集中と選択の議論を行った。 これらの要素に収益の規模を考慮して などを明確化した。 ビジネスの現場では新規案件への取り組みは積極的であるが、自ら手掛けた事業の縮小や撤退はなかなかできないとよく言われる。子供のオモチャ箱のように、雑多なもの、壊れたものまでが整理されずに詰め込まれているようなイメージである。 既に保有しているものが整理されずに残り、新しいものが買い足されるという状況であったように思う。 これらすべてを俎上に乗せて分析・検討することで、資産・負債の圧縮が一気に進んだのである。 《リスクの定量化とバランスシートを意識した経営》 リスク・リターンを計算するにはリスクアセット(※)の算出が必要になるが、原則として、資産価値変動アプローチに基づき次により算出する。 (※) 一定期間内に一定の確率の下で資産の価値が毀損することによって生じる最大損失可能性額。99%の確率で、向こう1年間の資産価値の下落がその範囲内に収まる金額。見方を変えると、100年のうち99年は、損失は「リスクアセット」の範囲に収まるが、100年のうち1年は、それを超えて損失が発生するとも言える。 ここで重要なことは、リスクアセットの補足元本は原則として各資産の簿価を対象としていることである。 経営層から現場の第一線まで、それぞれのレベルに応じて、リスクアセットを算出するプロセス、すなわち、バランスシート上の各資産にリスクウエイトを乗じてリスクアセットを算出する仕組みを理解することが必要となった。 リスク・リターンを高めるには、2つの方法がある。 1つ目は、分子である利益を増やすこと。 2つ目は、分母であるリスクアセットを減らすことである。 収益面での改善が難しければ、アセットを削減するという、バランスシートを意識したマネジメントが必要となる。B/SがP/Lと同様に重要な経営情報として、経理・財務・リスクマネジメントの部署のみならず、営業の現場においても関心がもたれ注目されるようになった。 これが、資産規模の適正性やキャッシュフローを意識した経営へと舵を切る契機となったのである。 《リスク・リターンと目標の連鎖》 目標の連鎖とは、経営計画や予算目標が全社目標から部門―本部―部―チームー個々人の目標へと落とし込まれていき、それぞれが連動して目標を達成することを目指すこと。すなわち、経営トップから個々人まで目標が連なった状態をいう。 それぞれの主体が目標を達成することが全体の目標達成に繋がるという体系構築が、目標の連鎖の仕組み作りであり、狙いでもある。 目標の連鎖によって、リスク・リターンという経営指標は全社から個人レベルまで同じコンセプトで目標を設定することができるので、ROEより実践的である。ROEは会社全体として計測はできても、個々のビジネス単位での計算は不可能だ。 つまり10%のROE達成を会社の目標と掲げることはできても、個々人にそれを落とし込むことは難しいのである。 IRのミーティングにおいて、特に海外の投資家から、「リスク・リターンよりもROEの方が分かりやすい」という意見をもらったことがある。 確かに、投資家目線では投資対象会社を横並びで比較検討するにはROEの方が客観的であり有用であることは理解できる。しかしながら、ビジネスの最前線で仕事する一人一人にROEで目標を設定することは難しい。 これはまさに、「投資家視点」と「経営視点」との違いでもあるように思う。 リスク・リターンであれば個々人が担当する一つ一つのビジネス単位で計測ができ、全社と個々人の目標を連鎖させることが可能となる。資本コストを上回るリスク・リターンの達成を全社として目指し、それを実現するには、まずは個々のビジネスや事業が資本コストを上回る実績を上げることが必要である。 この連鎖により、グループ全体の目標達成と個別事業のパフォーマンスの関連性が明確化されるのである。 * * * 次回は本連載の主眼である「会計力」とは何を示すのかを考えてみたい。 (了)