企業不正と税務調査
【第11回】
「粉飾決算」
(2) 架空売上・架空循環取引
税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝
本連載の第4回でも触れたが、粉飾決算によって業績を良く見せる場合の手口としては、
(1) 売上高を実際よりも過大に計上して、利益を過大に計上する
(2) 売上原価や販売費及び一般管理費を実際よりも過少に計上して、利益を過大に計上する
という2つの方法しかない。
あらゆる粉飾は、これらの手口が単独で、又は、組み合わされて行われる。
前回取り上げた棚卸資産の過大(架空)計上は、上記の(2)に属する手法であったので、今回は、(1)の手法として、架空売上と架空循環取引をテーマとして取り上げたい。
単純な架空売上は、売掛債権が回収できないという致命的な欠陥を有しているため、すぐに不正が見抜かれてしまう。そこで、売掛債権が通常どおり回収されたように見せかけ、不正を長期間続ける手法として、架空循環取引が注目を浴びることとなった。
その手法自体は、古くから環状取引として知られ、その損失負担をめぐる裁判例もあったのだが、平成16年11月において株式会社メディア・リンクスによる架空循環取引の実態が報じられて以来、毎年のように、大きな架空循環取引事件が発覚しては、話題を集めてきた。
近時では、さすがに架空循環取引の手口も周知のものとなり、大きな事件はあまり聞かれないようになっていたところ、5月8日にリリースされた老舗機械商社の椿本興業株式会社の調査報告書では、長く、架空循環取引が行われてきたことが明らかになった(本事案の調査報告書については、本誌同号掲載の拙稿「会計不正調査報告書を読む【第9回】」を参照いただきたい)。
今回は、架空売上の計上、架空循環取引について、その手口と、財務諸表上に表れる特徴について検討したい。
1 架空売上の計上とその効果
(1) 架空売上計上の手口
最も単純な手口としては、期末に、何の根拠もなしに、売上を計上するというものである。
黒字達成まであと利益が20万円不足していたとする。平均的な粗利益率が20%の会社であれば、あと100万円の売上を計上する必要がある。
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