公開日: 2020/04/16 (掲載号:No.365)
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2020年3月期決算における会計処理の留意事項~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~ 【後編】

筆者: 西田 友洋

2020年3月期決算における会計処理の留意事項

~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~

【後編】

 

RSM清和監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

連載の目次はこちら

【前編】公開以降の公表情報について

本連載【前編】の公開後にも、以下のとおり、金融庁、日本取引所等から様々な情報が公表されている。

1 金融庁

(1) 有価証券報告書等の提出について

2020年4月14日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」が公表された。内容は、以下のとおりである。

有価証券報告書等(※)の提出期限について、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長することができる

(※)四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書も含む。

例えば、以下のとおりとなる。
提出書類	期 限	延長後の期限 2020年3月期の有価証券報告書	2020年6月末	2020年9月末まで 2020年12月期の第1四半期報告書	2020年5月15日	 2021年3月期の第1四半期報告書	2020年8月14日

〔追記:2020/4/17〕
上表内の赤文字部分について、本稿公開時は「17」日となっておりましたが、正しくは上記の通りです。
お詫びの上、訂正させていただきます。

なお、正式な改正は、内閣府令の改正(本稿公開時点で未公布)で確認されたい。

(2) 株主総会について

2020年4月15日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」が公表された。内容は、以下のとおりである。

経理及び監査関係者が経理・監査業務を遂行する場合に、当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥するときは、関係法令が確保しようとした実質的な趣旨をかえって没却することにもなりかねない
そのため、3月期決算の場合は、通常6月末に開催される株主総会の運営に関し、以下の点を踏まえ、対応していくことが求められる。

株主総会運営に係るQ&A(経済産業省、法務省:令和2年4月2日)を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討する(【前編】4-2参照)。

法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではないため、日程を後ろ倒しにすることは可能である(【前編】3(1)参照)。

資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられる。

当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める(継続会)当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う

➤企業及び監査法人は、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する

➤継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。

計算書類、監査報告等の提供を、決算日から3ヵ月より後に行う方法については、基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する方法と継続会にする方法が考えられる。その際の留意点として、例えば以下が挙げられる。

〔基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する〕

➤定款で基準日を定めている場合、基準日を変更する必要がある。また、公告も必要である(【前編】参照)。

➤3月決算の場合、3月31日の株主に配当を行うことができなくなる。

〔継続会〕

➤定時株主総会を一度、開かないといけない。そのため、6月末では、新型コロナウイルス感染症の影響がどれくらい落ち着いているかわからないため、感染予防のためにどのような対策を行う必要があるか検討が必要である。

➤定時株主総会の日に、計算書類及び監査報告書の報告(又は承認)以外の事項について終わらせ、継続会では、計算書類及び監査報告書の報告(又は承認)のみ行うなど、どの時点でどこまで実施するかを検討する必要がある。

➤定時株主総会の日に継続会の決議を行う。

➤配当の決議は、当初の定時株主総会の日に行う。これにより、3月決算の場合、3月31日の株主に配当を行うことが可能となる。ただし、その後の決算作業で分配可能額が変動する可能性があるため、確定した分配可能額を超えないように配当を行う必要がある。

➤継続会は、定時株主総会の日から相当の期間内に行う必要がある。定時株主総会の日から2週間以内であれば、招集通知の再発送は不要、2週間を超えると、招集通知の発送が必要になるという説(考え方)もある。

実務上、他にも検討しなければいけない事項が発生する可能性があるため、顧問弁護士等に相談しながら、検討していただきたい。

 

2 日本取引所グループ

2020年4月14日に日本取引所グループより、「「有価証券報告書等の提出期限の延長」に伴う決算発表日程の再検討のお願い」が公表された。内容は、以下のとおりである。

上記の公表を踏まえ、短信発表についても役職員や取引先そのほかの関係者の健康及び安全の確保を最優先し、また、決算作業等の進捗状況を的確に把握し、決算発表日程を再検討するよう求めている。
なお、東京証券取引所の有価証券上場規程第601条第1項第10号に規定する「有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延」については、上場会社が新たに定められる期日(2020年9月末)までに有価証券報告書等を内閣総理大臣等に提出しなかった場合に限って適用することとなる。

有価証券報告書及び計算書類の提出の延期にあわせて、短信発表についても延期が必要かどかを検討する必要がある。

 

3 日本公認会計士協会

(1) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」

2020年4月10日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表された。会計上の見積の監査にあたっての留意事項がまとめられている。概要は、以下のとおりである。

① 新型コロナウイルス感染症の影響による不確実性の高い環境下でも会計上の見積りの監査が困難であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされるべきである。

② ASBJから2020年4月10日に公表された「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」に留意する(本稿【後編】Ⅲ参照)。

③ 監査人は、会計上の見積りの合理性の判断を行う際には、企業が、見積りに影響を及ぼす入手可能な情報をもとに、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく見積りを行っていることを確かめる
 経営者の過度に楽観的な会計上の見積りを許容したり、過度に悲観的な予測を行い、経営者の行った会計上の見積りを重要な虚偽表示と判断することは適切ではない。

④ 会計上の見積りの不確実性が財務諸表の利用者等の判断に重要な影響を及ぼす場合、有価証券報告書や計算書類に追加情報等の注記を記載すること、及び監査報告書に強調事項を記載することを検討する。

会社は、できるだけ内部及び外部情報を入手し、その情報に基づき仮定を設定した上で、(悲観的でも楽観的でもない)事業計画を作成することが重要である。また、その作成過程をしっかりと監査人に説明することが重要である。

(2) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」

2020年4月15日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」が公表された。上記1(1)及び(2)に関連して、日本公認会計士協会からアナウンスが行われている。具体的な内容は、上記1(1)及び(2)と同様である。

なお、計算書類及び有価証券報告書の提出が伸びることで、後発事象(本稿【後編】Ⅱ(10)参照)の検討期間も伸びることになる。そのため、後発事象の検討についても、監査人と十分に協議することが重要である。

 

4 国税庁

2020年4月8日に国税庁より、「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表された。また、2020年4月13日に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の更新版が公表された。

【前編】Ⅰ1から更新されたもののうち、特に重要であると考えられるものは、以下のとおりである。

(1) 法人の申告・納付の期限の個別延長

新型コロナウイルス感染症の影響により、法人がその期限までに申告・納付ができないやむを得ない理由がある場合には、申請により期限の個別延長(※)が認められる。

(※)法人税、消費税、源泉所得税に係る各種申請や届出なども同様である。

【やむを得ない理由】
やむを得ない理由には、例えば、法人の役員や従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したようなケースだけでなく(【前編】1(2)参照)、次のような方々がいることにより通常の業務体制が維持できない、事業活動を縮小せざるを得ない、取引先や関係会社においても感染症による影響が生じているなどにより決算作業が間に合わず、期限までに申告が困難なケースなども該当する。

① 体調不良により外出を控えている方がいる

② 平日の在宅勤務を要請している自治体にお住いの方がいる

③ 感染拡大防止のため企業の勧奨により在宅勤務等をしている方がいる

④ 感染拡大防止のため外出を控えている方がいる

また、上記以外の理由であっても、感染症の影響を受けて申告・納付期限までに申告・納付が困難な場合には、個別に申告・納付期限の延長が認められる。

(2) 申告・納付期限

新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することが困難な法人は、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内の日を指定して申告・納付期限が延長される。つまり、申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行うことになる。

(3) 個別延長の手続

別途、申請書等を提出する必要はなく申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記する

このため、当初の申告期限以降に、申告書を提出する際には、新型コロナウイルス感染症の影響による申告期限及び納付期限を延長する旨を申告書(手書の場合)や送付書(電子申告の場合)に記載し、提出する。源泉所得税においては、納付を行う際に所得税徴収高計算書の「摘要」欄に「新型コロナウイルスによる納付期限延長申請」 である旨を付記する。

(4) 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額

新型コロナウイルス感染症により、以下のような状況(例示)のため、役員給与を減額した場合、「業績悪化改定事由による改定」に該当する。したがって、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することができる。

要 因	例 示 新型コロナウイルス感染症により、現時点で業績が悪化し、経営環境が著しく悪化している。そのため、役員給与の減額を行った。	各種イベントの開催を請け負う事業を行っていて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、イベント等の開催中止の要請があったことで、今後、数か月間先まで開催を予定していた全てのイベントがキャンセルとなった。 その結果、予定していた収入が無くなり、毎月の家賃や従業員の給与等の支払いも困難な状況となったため、役員給与の減額を行った。 新型コロナウイルス感染症により、現状では、売上などの数値的指標が著しく悪化していない。しかし、今後の状況によっては回復する見通しが立たないため、経営環境は著しく悪化していると考えられる。また、役員給与の減額の経営改善策を実施しなければ、客観的な状況から判断して急激に財務内容が悪くなる可能性があるため、今後の経営環境が著しく悪化することは不可避である。そのため、役員給与の減額を行った。	新型コロナウイルス感染症の影響により、外国からの入国制限や外出自粛要請が行われたことで、主要な売上先である観光客等が減少している。そのため、当面の間は、これまでのような売上げが見込めないため、営業時間の短縮や従業員の出勤調整といった事業活動を縮小する対策を講じている。 また、いつになれば、観光客等が元通りに回復するのかの見通しが立たず、今後、売上げが更に減少する可能性もあるため、更なる経費削減等の経営改善を図る必要性が生じている。 一方で、従業員の雇用や給与を維持するため、急激なコストカットも困難であることから、経営判断として、まずは役員給与の減額を行うことを検討した。

 

Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項

 

新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。

(1) 上場有価証券の時価

(2) 関係会社株式の評価

(3) 非上場株式の評価

(4) 固定資産(のれんを含む)の減損

(5) 貸倒引当金

(6) 債務保証損失引当金

(7) リストラクチャリング関連の引当金

(8) 繰延税金資産の回収可能性

(9) 棚卸資産の評価

(10) 後発事象の注記

(11) 継続企業の前提に関する注記

(1) 上場有価証券の評価

新型コロナウイルス感染症が広まった3月以降、株価が下落傾向にある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要になる場合も多いと考えられる。

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2020年3月期決算における会計処理の留意事項

~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~

【後編】

 

RSM清和監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

連載の目次はこちら

【前編】公開以降の公表情報について

本連載【前編】の公開後にも、以下のとおり、金融庁、日本取引所等から様々な情報が公表されている。

1 金融庁

(1) 有価証券報告書等の提出について

2020年4月14日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」が公表された。内容は、以下のとおりである。

有価証券報告書等(※)の提出期限について、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等を改正し、企業側が個別の申請を行わなくとも、一律に本年9月末まで延長することができる

(※)四半期報告書、半期報告書及び親会社等状況報告書も含む。

例えば、以下のとおりとなる。
提出書類	期 限	延長後の期限 2020年3月期の有価証券報告書	2020年6月末	2020年9月末まで 2020年12月期の第1四半期報告書	2020年5月15日	 2021年3月期の第1四半期報告書	2020年8月14日

〔追記:2020/4/17〕
上表内の赤文字部分について、本稿公開時は「17」日となっておりましたが、正しくは上記の通りです。
お詫びの上、訂正させていただきます。

なお、正式な改正は、内閣府令の改正(本稿公開時点で未公布)で確認されたい。

(2) 株主総会について

2020年4月15日に金融庁より、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」が公表された。内容は、以下のとおりである。

経理及び監査関係者が経理・監査業務を遂行する場合に、当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥するときは、関係法令が確保しようとした実質的な趣旨をかえって没却することにもなりかねない
そのため、3月期決算の場合は、通常6月末に開催される株主総会の運営に関し、以下の点を踏まえ、対応していくことが求められる。

株主総会運営に係るQ&A(経済産業省、法務省:令和2年4月2日)を踏まえ、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにあらかじめ適切な措置を検討する(【前編】4-2参照)。

法令上、6月末に定時株主総会を開催することが求められているわけではないため、日程を後ろ倒しにすることは可能である(【前編】3(1)参照)。

資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられる。

当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める(継続会)当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う

➤企業及び監査法人は、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する

➤継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。

計算書類、監査報告等の提供を、決算日から3ヵ月より後に行う方法については、基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する方法と継続会にする方法が考えられる。その際の留意点として、例えば以下が挙げられる。

〔基準日を変更し、株主総会の開催日を延期する〕

➤定款で基準日を定めている場合、基準日を変更する必要がある。また、公告も必要である(【前編】参照)。

➤3月決算の場合、3月31日の株主に配当を行うことができなくなる。

〔継続会〕

➤定時株主総会を一度、開かないといけない。そのため、6月末では、新型コロナウイルス感染症の影響がどれくらい落ち着いているかわからないため、感染予防のためにどのような対策を行う必要があるか検討が必要である。

➤定時株主総会の日に、計算書類及び監査報告書の報告(又は承認)以外の事項について終わらせ、継続会では、計算書類及び監査報告書の報告(又は承認)のみ行うなど、どの時点でどこまで実施するかを検討する必要がある。

➤定時株主総会の日に継続会の決議を行う。

➤配当の決議は、当初の定時株主総会の日に行う。これにより、3月決算の場合、3月31日の株主に配当を行うことが可能となる。ただし、その後の決算作業で分配可能額が変動する可能性があるため、確定した分配可能額を超えないように配当を行う必要がある。

➤継続会は、定時株主総会の日から相当の期間内に行う必要がある。定時株主総会の日から2週間以内であれば、招集通知の再発送は不要、2週間を超えると、招集通知の発送が必要になるという説(考え方)もある。

実務上、他にも検討しなければいけない事項が発生する可能性があるため、顧問弁護士等に相談しながら、検討していただきたい。

 

2 日本取引所グループ

2020年4月14日に日本取引所グループより、「「有価証券報告書等の提出期限の延長」に伴う決算発表日程の再検討のお願い」が公表された。内容は、以下のとおりである。

上記の公表を踏まえ、短信発表についても役職員や取引先そのほかの関係者の健康及び安全の確保を最優先し、また、決算作業等の進捗状況を的確に把握し、決算発表日程を再検討するよう求めている。
なお、東京証券取引所の有価証券上場規程第601条第1項第10号に規定する「有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延」については、上場会社が新たに定められる期日(2020年9月末)までに有価証券報告書等を内閣総理大臣等に提出しなかった場合に限って適用することとなる。

有価証券報告書及び計算書類の提出の延期にあわせて、短信発表についても延期が必要かどかを検討する必要がある。

 

3 日本公認会計士協会

(1) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」

2020年4月10日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」が公表された。会計上の見積の監査にあたっての留意事項がまとめられている。概要は、以下のとおりである。

① 新型コロナウイルス感染症の影響による不確実性の高い環境下でも会計上の見積りの監査が困難であることを理由に監査意見を表明できないという判断は、慎重になされるべきである。

② ASBJから2020年4月10日に公表された「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」に留意する(本稿【後編】Ⅲ参照)。

③ 監査人は、会計上の見積りの合理性の判断を行う際には、企業が、見積りに影響を及ぼす入手可能な情報をもとに、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく見積りを行っていることを確かめる
 経営者の過度に楽観的な会計上の見積りを許容したり、過度に悲観的な予測を行い、経営者の行った会計上の見積りを重要な虚偽表示と判断することは適切ではない。

④ 会計上の見積りの不確実性が財務諸表の利用者等の判断に重要な影響を及ぼす場合、有価証券報告書や計算書類に追加情報等の注記を記載すること、及び監査報告書に強調事項を記載することを検討する。

会社は、できるだけ内部及び外部情報を入手し、その情報に基づき仮定を設定した上で、(悲観的でも楽観的でもない)事業計画を作成することが重要である。また、その作成過程をしっかりと監査人に説明することが重要である。

(2) 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」

2020年4月15日に日本公認会計士協会より、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」が公表された。上記1(1)及び(2)に関連して、日本公認会計士協会からアナウンスが行われている。具体的な内容は、上記1(1)及び(2)と同様である。

なお、計算書類及び有価証券報告書の提出が伸びることで、後発事象(本稿【後編】Ⅱ(10)参照)の検討期間も伸びることになる。そのため、後発事象の検討についても、監査人と十分に協議することが重要である。

 

4 国税庁

2020年4月8日に国税庁より、「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延長手続に関するFAQ」が公表された。また、2020年4月13日に「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」の更新版が公表された。

【前編】Ⅰ1から更新されたもののうち、特に重要であると考えられるものは、以下のとおりである。

(1) 法人の申告・納付の期限の個別延長

新型コロナウイルス感染症の影響により、法人がその期限までに申告・納付ができないやむを得ない理由がある場合には、申請により期限の個別延長(※)が認められる。

(※)法人税、消費税、源泉所得税に係る各種申請や届出なども同様である。

【やむを得ない理由】
やむを得ない理由には、例えば、法人の役員や従業員等が新型コロナウイルス感染症に感染したようなケースだけでなく(【前編】1(2)参照)、次のような方々がいることにより通常の業務体制が維持できない、事業活動を縮小せざるを得ない、取引先や関係会社においても感染症による影響が生じているなどにより決算作業が間に合わず、期限までに申告が困難なケースなども該当する。

① 体調不良により外出を控えている方がいる

② 平日の在宅勤務を要請している自治体にお住いの方がいる

③ 感染拡大防止のため企業の勧奨により在宅勤務等をしている方がいる

④ 感染拡大防止のため外出を控えている方がいる

また、上記以外の理由であっても、感染症の影響を受けて申告・納付期限までに申告・納付が困難な場合には、個別に申告・納付期限の延長が認められる。

(2) 申告・納付期限

新型コロナウイルス感染症の影響により、期限内に申告・納付することが困難な法人は、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内の日を指定して申告・納付期限が延長される。つまり、申告書等を作成・提出することが可能となった時点で申告を行うことになる。

(3) 個別延長の手続

別途、申請書等を提出する必要はなく申告書の余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」である旨を付記する

このため、当初の申告期限以降に、申告書を提出する際には、新型コロナウイルス感染症の影響による申告期限及び納付期限を延長する旨を申告書(手書の場合)や送付書(電子申告の場合)に記載し、提出する。源泉所得税においては、納付を行う際に所得税徴収高計算書の「摘要」欄に「新型コロナウイルスによる納付期限延長申請」 である旨を付記する。

(4) 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額

新型コロナウイルス感染症により、以下のような状況(例示)のため、役員給与を減額した場合、「業績悪化改定事由による改定」に該当する。したがって、改定前に定額で支給していた役員給与と改定後に定額で支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当し、損金算入することができる。

要 因	例 示 新型コロナウイルス感染症により、現時点で業績が悪化し、経営環境が著しく悪化している。そのため、役員給与の減額を行った。	各種イベントの開催を請け負う事業を行っていて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、イベント等の開催中止の要請があったことで、今後、数か月間先まで開催を予定していた全てのイベントがキャンセルとなった。 その結果、予定していた収入が無くなり、毎月の家賃や従業員の給与等の支払いも困難な状況となったため、役員給与の減額を行った。 新型コロナウイルス感染症により、現状では、売上などの数値的指標が著しく悪化していない。しかし、今後の状況によっては回復する見通しが立たないため、経営環境は著しく悪化していると考えられる。また、役員給与の減額の経営改善策を実施しなければ、客観的な状況から判断して急激に財務内容が悪くなる可能性があるため、今後の経営環境が著しく悪化することは不可避である。そのため、役員給与の減額を行った。	新型コロナウイルス感染症の影響により、外国からの入国制限や外出自粛要請が行われたことで、主要な売上先である観光客等が減少している。そのため、当面の間は、これまでのような売上げが見込めないため、営業時間の短縮や従業員の出勤調整といった事業活動を縮小する対策を講じている。 また、いつになれば、観光客等が元通りに回復するのかの見通しが立たず、今後、売上げが更に減少する可能性もあるため、更なる経費削減等の経営改善を図る必要性が生じている。 一方で、従業員の雇用や給与を維持するため、急激なコストカットも困難であることから、経営判断として、まずは役員給与の減額を行うことを検討した。

 

Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項

 

新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。

(1) 上場有価証券の時価

(2) 関係会社株式の評価

(3) 非上場株式の評価

(4) 固定資産(のれんを含む)の減損

(5) 貸倒引当金

(6) 債務保証損失引当金

(7) リストラクチャリング関連の引当金

(8) 繰延税金資産の回収可能性

(9) 棚卸資産の評価

(10) 後発事象の注記

(11) 継続企業の前提に関する注記

(1) 上場有価証券の評価

新型コロナウイルス感染症が広まった3月以降、株価が下落傾向にある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要になる場合も多いと考えられる。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

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