Ⅴ 仮想通貨の会計処理
平成29年12月6日に実務対応報告公開草案第53号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)(以下、「仮想通貨取扱案」という)」がASBJより公表された。
仮想通貨取扱案は、平成28年に公布された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第62号)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号)が改正され、仮想通貨が定義された上で、仮想通貨交換業者に対して登録制が導入されたことを受け、仮想通貨の会計処理及び開示に関する当面の取扱いとして、必要最小限の項目について、実務上の取扱いを明らかにすることを目的とするものである(仮想通貨取扱案1、2)。
仮想通貨取扱案では、仮想通貨交換業者に対する財務諸表監査制度の円滑な運用が契機であったこと、及び適用範囲を明確にすることから、適用範囲を資金決済法上の仮想通貨としている(仮想通貨取扱案3、25)。具体的には、以下を参照されたい。
【資金決済法における仮想通貨の範囲】
(広義の)仮想通貨
資金決済法における仮想通貨
(以下3要件をすべて満たす財産的価値)
① 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨と相互に交換可能
② 電子的に記録され、移転可能
③ 法定通貨又は法定通貨建ての資産ではない
(※) 例えば、次のものは資金決済法における仮想通貨には含まれない。
・前払式支払手段発行者が発行するプリペイドカード
・ポイント・サービス(財・サービスの販売金額の一定割合に応じてポイントを発行するサービスや、来場や利用ごとに一定額のポイントを発行するサービス等)におけるポイント
ただし、仮想通貨の該当性等については、その利用形態等に応じ、最終的には個別具体的に判断する。
仮想通貨取扱案では、以下の事項が定められている。
1 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
2 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
3 開示
4 適用時期
1 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨の会計処理では、以下の論点がある。
論 点
(1) 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理
(2) 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格
(3) 仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い
(4) 仮想通貨の売却損益の認識時点
(1) 期末における仮想通貨の評価に関する会計処理
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、期末において保有する仮想通貨(仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨を除く。以下同じ)について、以下のように評価する(仮想通貨取扱案5~7)。
※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
ここで、活発な市場が存在する場合(以下、(2)参照)とは、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者の保有する仮想通貨について、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われている場合をいう(仮想通貨取扱案8)。
(2) 活発な市場が存在する仮想通貨の市場価格
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、保有している活発な市場が存在する仮想通貨の期末評価において、市場価格として仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所で取引の対象とされている仮想通貨の取引価格を用いるときは、保有する仮想通貨の種類ごとに、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いる。なお、期末評価に用いる市場価格には、取得又は売却に要する付随費用は含めない(仮想通貨取扱案9)。
仮想通貨交換業者において、通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所が自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所である場合、当該仮想通貨交換業者は、自己の運営する仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格等(取引価格、仮想通貨取引所の気配値及び仮想通貨販売所が提示する価格をいう。以下同じ)が「公正な評価額」を示している市場価格であるときに限り、時価として期末評価に用いることができる(仮想通貨取扱案10)。
(3) 仮想通貨の取引に係る活発な市場の判断の変更時の取扱い
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が保有する仮想通貨について、活発な市場の判断の変更があった場合、以下のように取り扱う(仮想通貨取扱案11、12)。
(4) 仮想通貨の売却損益の認識時点
仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者は、仮想通貨の売却損益を当該仮想通貨の売買の合意が成立した時点において認識する(仮想通貨取扱案13) 。
2 仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨の会計処理
仮想通貨交換業者が預託者から預かった仮想通貨は下のように会計処理を行う(仮想通貨取扱案14、15)。
3 開示
(1) 表示
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が仮想通貨の売却取引を行う場合、当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する(仮想通貨取扱案16) 。
(2) 注記
仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨、及び仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨について、以下の事項を注記する(仮想通貨取扱案17)。
注記事項
① 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
② 仮想通貨交換業者が預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額
③ 仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が期末日において保有する仮想通貨について、活発な市場が存在する仮想通貨と活発な市場が存在しない仮想通貨の別に、仮想通貨の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額。ただし、貸借対照表価額が僅少な仮想通貨については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。
ただし、以下の場合は注記を省略することができる。
- 仮想通貨交換業者は、仮想通貨交換業者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額及び預託者から預かっている仮想通貨の貸借対照表価額の合計額を合算した額が資産総額に比して重要でない場合
- 仮想通貨利用者は、仮想通貨利用者の期末日において保有する仮想通貨の貸借対照表価額の合計額が資産総額に比して重要でない場合
4 適用時期
平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する(仮想通貨取扱案18、63)。
公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することもできる(仮想通貨取扱案18、63)。
◆ ICO(Initial Coin Offering(仮想通貨技術を使った資金調達))の会計処理について
ICOの会計処理の主な論点として、ICOにより受領した対価について、収益計上するのが妥当か、負債で計上するのが妥当か、収益計上する場合、いつの時点で計上するのが妥当かということがある。
しかし、ICOの会計処理は、仮想通貨取扱案で定められていない。そのため、ICOの会計処理について、現状、どのように会計処理するか方向性も定まっていない。
実務対応報告第36号
「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」
企業会計基準適用指針第17号
「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」
企業会計基準第8号
「ストック・オプション等に関する会計基準」
実務対応報告第18号
「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」
実務対応報告第24号
「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」
実務対応報告公開草案第53号
「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。