公開日: 2018/03/08 (掲載号:No.259)
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平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

筆者: 西田 友洋

 

Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果

 

平成29年3月31日に金融庁より「平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。これは、平成28年度の有価証券報告書レビューに関して、平成29年3月31日時点までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき点を取りまとめたものである。

レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の平成30年3月期決算においても参考となる箇所がある。

1 企業結合に関する会計基準

《事例(1)》

取得による企業結合に直接関連する、外部のアドバイザー等に支払った特定の手数料等があるにもかかわらず、「取得による企業結合が行われた場合の注記」において、主要な取得関連費用の内容及び金額を記載していない事例

《留意点》

主要な取得関連費用が生じている場合、「取得による企業結合が行われた場合の注記」において、その内容及び金額を記載する必要がある。

 

《事例(2)》

連結子会社における当該連結子会社の非支配株主との取引による親会社の持分変動の結果、連結財務諸表において資本剰余金の増加が生じているにもかかわらず、「共通支配下の取引等の注記」において、増加した資本剰余金の主な変動要因及び金額を記載していない事例

《留意点》

非支配株主との取引によって親会社の持分変動が生じている場合、「共通支配下の取引等の注記」において、非支配株主との取引によって増加又は減少した資本剰余金の主な変動要因及び金額を記載する必要がある。

 

2 工事契約

《事例(1)》

工事の変更契約が行われた場合において、当事者間で合意した内容を実質的に考慮すれば、当該変更契約を当初の工事契約と一体の取引単位として取り扱うべきであるにもかかわらず、当初の工事契約とは別個の取引単位として取り扱っている事例

《留意点》

工事契約に係る認識の単位は、当事者間で合意された実質的な取引の単位とする必要がある。

 

《事例(2)》

工事契約の当事者間に工事契約の変更(追加工事)についての対価に係る合意がないにもかかわらず、当該対価を工事収益総額に含めている事例

《留意点》

工事契約の変更としての対価の変更は、それが何らかの形で合意された時点で、それに基づく信頼性のある見積りができる場合に限り、合意された変更を工事収益総額に反映する。

 

《事例(3)》

追加で発生することが見込まれる費用を考慮していないなど、合理的な見積データを基礎として工事損失引当金の認識を行っていない事例

《留意点》

工事損失引当金の見積りは、合理的な見積データを基礎として行う必要がある。

 

《事例(4)》

別々に工事進行基準を適用している工事契約を複数まとめて工事損失の見積りを行っていることにより、工事損失引当金が過少になっている事例

《留意点》

工事損失引当金の認識は、原則として工事契約の認識の単位ごとに行う必要がある。

 

3 棚卸資産

《事例(1)》

仕掛品に係る正味売却価額を直近の製造原価としている事例

《事例(2)》

正味売却価額について、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除して算定していない事例

《留意点》

棚卸資産の正味売却価額については、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除して算定する必要がある。

 

《事例(3)》

正味売却価額の見積りに用いた売価について、販売(実現)可能性を考慮していない事例

《留意点》

売却市場における合理的に算定された価額を売価として用いる場合、当該価額は同等の棚卸資産を売却市場で実際に販売可能な価額として見積ることが適当である。

 

4 包括利益計算書

《事例(1)》

取得原価で計上されている有価証券に係る売却損益など、当期及び過去の期間にその他の包括利益に含まれていない項目を、組替調整額として開示している事例

《留意点》

組替調整額は、当期及び過去の期間にその他の包括利益に含まれていた項目が当期純利益に含められた金額に基づいて計算する必要がある。

 

《事例(2)》

繰延ヘッジ損益について、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額や、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額があるにもかかわらず、それらの金額を組替調整額等として開示していない事例

《留意点》

繰延ヘッジ損益について、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示する必要があること、また、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額は組替調整額に準じて開示する必要がある。

 

《事例(3)》

為替換算調整勘定について、連結子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩され当期純利益に含められた金額があるにもかかわらず、その金額を組替調整額として開示していない事例

《留意点》

為替換算調整勘定について、連結子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩され当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示する必要がある。

 

《事例(4)》

年金資産(退職給付信託を含む)の返還に伴い損益として認識した、当該年金資産に対応する未認識数理計算上の差異の金額があるにもかかわらず、その金額を組替調整額として開示していない事例

《留意点》

年金資産(退職給付信託を含む)の返還に伴い損益として認識した、当該年金資産に対応する未認識数理計算上の差異の金額については、組替調整額として開示する必要がある。

 

5 1株当たり情報

《事例(1)》

ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ワラントが期中に消滅又は行使された影響を考慮していない事例

《留意点》

ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定においては、ワラントが期中に消滅、消却又は行使された部分について、期首又は発行時から当該消滅時、消却時又は行使時までの期間に応じた普通株式数を算定する必要がある。

 

《事例(2)》

ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、期中平均株価ではなく過去数年の平均株価や期末株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を用いている事例

《留意点》

ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定にあたっては、希薄化効果を有するワラントが期首又は発行時においてすべて行使されたと仮定した場合に発行される普通株式数から、期中平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を差し引いて算出した普通株式増加数を用いる必要がある。

 

6 その他

《事例(1)》

質的重要性(当該事項の性質等)について全く考慮していない事例

《事例(2)》

金額的重要性について単一の指標のみ(例えば、総資産に対する比率のみ)を検討し、その他の指標について検討していない事例

《留意点》

重要性が乏しいことを理由として記載を省略する場合には、重要性の有無について、慎重かつ総合的に検討すべきことに留意する。

⇒注記を省略する場合、金額的重要性のみならず、質的重要性も考慮する必要がある。

⇒また、金額的重要性の検討においては、単一の指標のみならず、複数の指標をもとに検討が必要となる場合がある。

 

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

平成30年3月期決算における会計処理の留意事項

【第3回】

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

-全体構成-

【第1回】

Ⅰ 税制改正

Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理

【第2回】

Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理

Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正

Ⅴ 仮想通貨の会計処理

【第3回】(本稿)

Ⅵ マイナス金利

Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組

Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果

【第4回】 3/15公開

Ⅸ 収益認識

Ⅹ 税効果会計の改正

ⅩⅠ 監査報告書の透明化

 

Ⅵ マイナス金利

 

1 実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い

平成29年3月29日に実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(以下、「マイナス金利取扱い」という)」が公表された。

マイナス金利取扱いは、退職給付債務、勤務費用及び利息費用(以下、合わせて「退職給付債務等」という)の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する当面の取扱いを示すことを目的としている(マイナス金利取扱い1)。

(1) 会計処理

マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法による(マイナス金利取扱い2)。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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