公開日: 2019/03/28 (掲載号:No.312)
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2019年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】

筆者: 西田 友洋

XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

2018年3月23日に金融庁より「平成29年度有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。これは、平成29年度の有価証券報告書レビューに関して、2018年3月23日時点までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき点を取りまとめたものである。

レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の2019年3月期決算においても参考となる箇所がある。

 

1 繰延税金資産の回収可能性

[事例(1)]
過去(3年)及び当期の事業年度において、課税所得が期末における将来減算一時差異を下回る年度があるにもかかわらず、(分類1)に該当すると判断している事例

《留意点》
企業を(分類1)に分類するためには、原則として、以下の要件をいずれも満たす必要がある(回収可能性指針17)。

① 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。

② 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

[事例(2)]
過去(3年)及び当期の事業年度において、課税所得(臨時的な原因により生じたものを除く)が生じていない年度があるにもかかわらず、(分類2)に該当すると判断している事例

《留意点》
企業を(分類2)に分類するためには、原則として、以下の要件をいずれも満たす必要がある(回収可能性指針第19)。

① 過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。

② 当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

③ 過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

[事例(3)]
(分類3)に該当する企業において、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異などの解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異について、スケジューリングが行われていない事例

《留意点》
(分類3)に該当する企業においては、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異などの解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異について、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)において当該将来減算一時差異のスケジューリングを行う必要がある(回収可能性指針35)。

[事例(4)]
繰延税金資産の計上額の見積りに用いた業績予測において、現時点において必ずしも合理性を欠くものではないが、将来の大幅な損益改善を見込んでおり、その達成状況によっては当該業績予測を適切に修正する必要があると考えられる事例

《留意点》
繰延税金資産の計上額を見積る場合に用いる将来の業績予測については、合理的な仮定に基づく必要がある(回収可能性指針32)。

 

2 企業結合及び事業分離等

[事例(1)]
企業結合が期首に完了したと仮定したときの連結損益計算書に及ぼす影響の概算額について、算定が困難と認められる特段の事情がないにもかかわらず省略しているなど、取得による企業結合が行われた場合の注記の一部を記載していない事例

《留意点》
企業結合等が行われた場合には、重要性が乏しい場合を除き、企業結合等の概要等を法令に従って具体的に記載する必要がある(連結財務諸表規則第15条の12、第15条の14、第15条の16、財務諸表等規則第8条の17、第8条の20、第8条の23等)。

[事例(2)]
取得の会計処理において、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)を、発生した事業年度の費用として処理せず、取得原価に含めている事例

《留意点》
取得の会計処理においては、取得関連費用を発生した事業年度の費用として処理する必要がある(企業結合に関する会計基準26)。

[事例(3)]
連結キャッシュ・フロー計算書において、連結範囲の変更を伴わない子会社への投資に係る支出について、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載せず、「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載している事例

《留意点》
連結範囲の変動を伴わない子会社株式等の取得等に係るキャッシュ・フローは、当該変動に関連するキャッシュ・フロー(法人税等に関するキャッシュ・フローを除く)を、非支配株主との取引として「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分に記載する必要がある(連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針第9-2項)。

[事例(4)]
社内基準により重要性が乏しいとして企業結合等の注記が省略されている場合において、当該社内基準を翌期以降継続することの要否について検討が必要と考えられる事例

《留意点》

➤重要性の基準は継続的に適用することが必要である。

➤ただし、会社の状況により、変更が必要ないかどうかも検討する必要がある。

2019年3月期決算における会計処理の留意事項

【第4回】
(最終回)

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

連載の目次はこちら

Ⅹ 企業結合会計基準等の改正

2019年1月16日にASBJより、改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等が公表された。

主な改正点等は、以下のとおりである。

1 条件付取得対価の定義の変更

2 対価が返還される条件付取得対価の会計処理

3 「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」の記載内容の改正

4 適用時期

 

1 条件付取得対価の定義の変更

条件付取得対価の定義が変更されている(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下、「結合基準」という)」(注2))。企業結合において、条件付取得対価がある場合に、企業結合日後に返還される場合もあるため、これについて定義に含めている。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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