公開日: 2021/03/18 (掲載号:No.411)
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2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

筆者: 西田 友洋

Ⅸ 会社計算規則等の改正

 

1 会社計算規則の改正

2020年8月12日に「会計上の見積りの開示に関する会計基準」等の公表に伴い、会社計算規則が改正されている。2021年3月期に関係する改正については、【第2回】及びを参照されたい。

 

2 会社法施行規則の改正

(1) 2020年会社法施行規則の改正

改正会社法の成立及び公布に伴い、2020年11月27日に会社法施行規則が改正され、原則2021年3月1日から施行されている。

① 株主総会参考書類の記載の改正

株主総会参考書類の記載について、以下の改正が行われている。

役員等の選任議案に関する規定の主な改正		改正会社法において補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する規定(会社法430の2、430の3)が新設されたため、役員等の候補者と会社との間で補償契約を締結している場合(予定を含む)、又は候補者を被保険者とする役員等賠償責任保険契約を締結している場合(予定を含む)は、株主総会参考書類に補償契約や役員等賠償責任保険契約の内容の概要を記載する。 (2021年3月1日(改正会社法施行日)に締結される補償契約及び役員等賠償責任保険契約について適用) 		上場子会社における少数株主保護のために、株主総会参考書類における役員の候補者と親会社等の関係に関する記載事項を拡充する。 		社外取締役候補者が選任された場合に期待される役割を株主総会参考書類に記載する。 株式交付計画の承認に関する議案に関する規定の新設	改正会社法において、株式交付制度が設けられた。当該制度を利用するにあたり、株式交付計画の承認に関する議案を株主総会参考書類に記載する。

(注) 上記以外にも、有価証券報告書提出会社で監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)については、社外取締役が義務化されたため、社外取締役を置いていない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由を株主総会参考書類に記載しなければならない規定が削除された。当該改正は、2022年3月期から適用される。

② 事業報告の記載の改正

株式会社の現況に関する事項の拡充	上場子会社における少数株主保護のため、当該株式会社に親会社がある場合、親会社との間に当該株式会社の重要な財産及び事業の方針に関する契約等が存在するときは、事業報告においてその「内容の概要」を記載する。 役員等賠償責任保険契約に関する事項の拡充		役員等賠償責任保険契約に関して、以下の事項を記載する(施行日後に締結された役員等賠償責任保険契約に適用)。 	被保険者の範囲 	契約の内容の概要 株式会社の会社役員に関する事項の拡充		役員の報酬等に業績連動報酬等又は非金銭報酬等が含まれる場合、業績連動報酬等、非金銭報酬等及びそれら以外の報酬等の「金額」を記載する。 	業績連動報酬等については、「金額」、「選定した業績指標の内容」、「選定理由」、「金額又は数の算定方法」、「業績指標に対する実績」も記載する。 	非金銭報酬等については、「内容」も記載する。 	会社役員の報酬等についての定款の定め又は株主総会決議に関する事項として、以下を記載する。 	定款の定めを設けた日又は株主総会の決議日 	内容の概要 	役員数 		会社法第361条第7項の方針又は会社法第409条第1項の方針を定めている場合、以下を記載する。 	方針の決定方法 	内容の概要 	報酬等の内容が方針に沿うものと判断した理由 	役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定方針を定めている場合(上記を除く)、以下を記載する(※)。 	方針の決定方法 	内容の概要 (※) 「監査役会設置会社(公開会社、かつ、大会社に限る)で、かつ、有価証券報告書を提出しなければならない会社(上場会社)」、「監査等委員会設置会社」又は「指名委員会等設置会社」でない株式会社は、記載を省略することができる。 		取締役設置会社で、取締役会から委任を受けた取締役等が取締役(監査等委員は除く)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定した場合は、以下を記載する。 	委任を受けた者の氏名、地位、担当 	権限の内容、委任した理由、権限 	権限が適切に行使されるための措置を講じた場合は、その内容 補償契約に関する事項		株式会社が取締役、会計参与、監査役又は会計監査人と締結している補償契約に関する事項として以下を記載する。 	役員の場合  「役員の氏名」、「契約の内容の概要」、「会社役員に対して補償した場合に役員が法令に違反したこと又は責任を負うことを知ったときは、その旨」、「損失補填した旨及び金額」 (注) 会計参与及び会計監査人については、本解説では、省略している。 株式会社の株式に関する事項		当該事業年度中に会社役員(会社役員であった者を含む)に対して当該株式会社が交付した株式がある場合(※)は、以下の者(以下の者であった者を含む)の区分ごとの「株式の数」及び「人数」を記載する。 	取締役(監査等委員である取締役及び社外役員を除き、執行役を含む) 	社外取締役(監査等委員である取締役を除き、社外役員に限る) 	監査等委員である取締役 	取締役(執行役を含む)以外の会社役員 (※) 職務執行の対価として交付したものに限り、当該株式会社が会社役員に対して職務執行の対価として募集株式と引換えにする払込みに充てるための金銭を交付した場合、当該金銭の払込みと引換えに当該株式会社の株式を交付したときにおける当該株式を含む。

(注) 上記以外にも、有価証券報告書提出会社で監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)については、社外取締役が義務化されたため、社外取締役を置いていない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告に記載しなければならない規定が削除された。当該改正は、2022年3月期から適用される。

(2) 2021年会社法施行規則等の改正

新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、2021年1月29日に会社法施行規則及び会社計算規則が改正されている。

◎ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正

(ⅰ) 改正内容

2020年5月に会社法施行規則及び会社計算規則が改正され、ウェブ開示によるみなし提供の拡充が行われたが、当該改正の効力は2020年11月15日をもって失われている。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響は収まっていないため、引き続きウェブ開示によるみなし提供を拡充する必要があることから、会社法施行規則及び会社計算規則が改正された。みなし提供制度の拡充対象は、以下のとおりである(前回と同様である)。

公開会社である場合:事業報告の「当該事業年度における事業の経過及びその成果」及び「対処すべき課題」

無限定適正意見等の場合:賃借対照表及び損益計算書に表示すべき事項(ただし、計算書類が株主総会の承認を要する場合は除く)

なお、上記を提供する際には、株主の利益を不当に害することがないよう特に配慮しなければならない。

(ⅱ) 施行期日

施行日(2021年1月29日)から2021年9月30日までに招集の手続が開始された定時株主総会に係る事業報告及び計算書類の提供に適用される。

 

3 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

改正会社法の成立に伴い、2021年2月3日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、有価証券報告書の記載が拡充されている。当該改正は、改正会社法の施行の日(2021年3月1日)から施行される。主な改正点は、以下のとおりである。

コーポレート・ガバナンスの概要 	補償契約及び役員等賠償責任保険契約の内容を記載する。 (注) 2021年3月1日(改正会社法施行日)後に締結された役員等賠償責任保険契約に限る。 役員の報酬等		取締役の個人別の報酬等についての会社法361条第7項又は409条第1項の決定方針を記載する。 	報酬等の種類別の記載に、非金銭報酬等を記載する。 	取締役会から一任された取締役等が取締役の個人別の報酬等の内容を決定した場合に、以下を記載する。 	その旨 	委任を受けた者の氏名 	内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当 	委任された権限の内容 	委任の理由 	権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容

(了)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

2021年3月期決算における会計処理の留意事項

【第3回】

 

RSM清和監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い

 

2014年7月の金融安定理事会(FSB)による提言に基づき金利指標改革が進められ、LIBORの停止が議論され、2021年3月5日にLIBOR運営機関であるICE Benchmark Administrationより、一部を除き、LIBORについて、2021年12月をもって公表を停止することが公表された。そして、LIBORが停止された場合に、ヘッジ会計の取扱いをどのようにするのかが論点として挙げられる。そこで、ASBJより、2020年9月29日に実務対応報告第40号「LIBOR を参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(以下、「LIBOR取扱い」という)」が公表されている。

なお、金利指標の選択に関する実務や企業のヘッジ行動について不確実な点が多いため、ASBJにおいて、LIBOR取扱いの公表から1年後に、金利指標置換後の取扱いについて再度確認される予定である(LIBOR取扱いの「公表にあたって」参照)。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

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