Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
2021年4月8日に金融庁より「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。これは、令和2年度の有価証券報告書レビューの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たって留意点等を取りまとめたものである。
1 有価証券報告書の【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】の記載
2 有価証券報告書の【事業等のリスク】の記載
3 有価証券報告書の【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)】の記載
4 有価証券報告書の【監査の状況】の記載
5 収益認識に関する注記【収益の分解】
「収益の分解」に関する具体的な注記内容については、本連載【第2回】Ⅳ2(1)を参照されたい。
6 収益認識に関する注記【収益を理解するための基礎となる情報/契約及び履行義務に関する情報・履行義務の充足時点に関する情報】
「収益を理解するための基礎となる情報/契約及び履行義務に関する情報」に関する具体的な注記内容については、本連載【第2回】Ⅳ2(2)①④を参照されたい。
7 収益認識に関する注記【当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報/残存履行義務に配分した取引価格】
「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報/残存履行義務に配分した取引価格」に関する具体的な注記内容については、本連載【第2回】Ⅳ2(3)②を参照されたい。
8 収益認識に関する注記【その他】
◎ 令和3年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項
2022年3月25日に金融庁より「令和3年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。
「令和2年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」と同様の内容も含まれるため、以下では、「令和3年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」において、新しく記載された内容についてのみ、解説する。
1 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」における留意事項
➤ 開示すべき重要な会計上の見積り項目の識別においては、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクか否かについて、影響の金額的大きさ及び発生可能性に関する企業自身の適切な総合的判断が求められる。開示すべき会計上の見積り項目に漏れ等がないように慎重な判断が期待される。
➤ 開示するべき具体的な内容や記載方法(定量的情報若しくは定性的情報、又はこれらの組合わせ)は、開示目的に照らした企業自身による適切な判断が求められる。投資家がリスクの内容を十分理解できるように具体的な内容等の開示が期待される。
2 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」における留意事項
➤ 重要な会計方針として記載すべき項目の見直しの要否を定期的に検討することに留意する。例えば、以下のような場合には特に留意が必要である。
・関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が出現した場合
・業界特有の会計処理方針等、該当する事項はあるものの、重要性が乏しいために省略していたが、経営環境やビジネスの変化等により当該事項の重要性が増加した場合
3 有価証券報告書の「役員の報酬等」の留意事項
➤ コーポレート・ガバナンスの観点で、取締役会及び委員会等の活動の内容の記載が求められているため、役員の報酬等の額を取締役会等で決定していること(決定方針等)のみの記載では足りない。そのため、当事業年度における役員の報酬を決定する過程で、取締役会等において、いつ、どのような内容の審議を行って決定したか、具体的に活動内容を記載することに留意する。
➤ 役員報酬について、取締役会の決議によって決定の全部又は一部を取締役(例えば、代表取締役等)に再一任している場合、取締役会の活動内容(例えば、再一任に関する審議を行った取締役会の審議内容及び開催時期等や再一任を受けた取締役により決定された内容について取締役会で審議を行っている場合にはその審議内容及び開催時期等)を記載する。
4 有価証券報告書の「株券等の保有状況」の留意事項
➤ 投資家が期待する好開示のポイントの例は以下のとおりである。
・保有方針に関して、保有先企業のノウハウ・ライセンスの利用等、経営戦略上、どのように活用し得るかについて具体的に記載する。また、保有の上限の設定や売却の方針等がある場合は当該方針を記載する。
・保有の合理性を検証する方法に関して、純投資のように時価(含み益)や配当金によるリターンを評価するのではなく、事業投資と同様、事業の収益獲得への貢献度合いについて具体的に記載する。
・個別銘柄の保有の適否に関する取締役会等における検証の内容に関して、取締役会等の具体的な開催日時や議題等を記載する。
・定量的な保有効果を記載する。定量的な保有効果の記載が困難な場合、どのような観点で定量的な測定が困難だったかを具体的に記載する。
5 新型コロナウイルス感染症に関する開示の留意事項
(1) 新型コロナウイルス感染症に関する開示の全体的な留意事項
➤ 新型コロナウイルス感染症の影響により経営の不確実性が高まる中、経営者の視点による充実した開示を行うことは、投資家の投資判断にとって重要と考えられる。しかし、取締役会や経営会議等において議論された新型コロナウイルス感染症に関する経営環境、経営方針、経営リスク等の内容について、十分に開示されていない事例が見受けられた。経営者の視点による充実した開示が行われることを期待される。
➤ 新型コロナウイルス感染症の影響は、通常、セグメントごと(事業、地域等)に異なることが考えられる。セグメントごとの違い(あるいは、違いが少ない場合にはその内容も含む)について、十分に開示されていない事例が見受けられた。セグメントごとの情報に関して、経営者の視点による深度ある開示が行われることが期待される。
➤ 新型コロナウイルス感染症に関する開示は、通常、有価証券報告書の非財務情報及び財務情報の複数の箇所にまたがる。それぞれの箇所で記載されている内容の関係性が不明瞭な事例が見受けられた。それぞれの開示項目の目的に照らし、投資家にわかりやすく、首尾一貫した開示が行われることが期待される。
(2) 新型コロナウイルス感染症に関する開示の個別の留意事項
① 有価証券報告書の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題」
② 有価証券報告書の「事業等のリスク」
③ 有価証券報告書の「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」
④ 重要な会計上の見積り注記
6 収益認識に関する注記の留意事項
① 契約資産及び契約負債
② 取引価格及び履行義務への配分額の算定