ストーリーで学ぶ
IFRS入門
【第6話】
「IFRSに基づいた5つの財務諸表」
仰星監査法人
公認会計士 関根 智美
● ○ プロローグ ○ ●
桜井は大きな欠伸をした。朝型の人間にとって残業は辛いだけではなく、眠気との戦いになる。外はとっぷりと暮れ、窓ガラスに煌々と映し出された自分の疲れた顔を見つめ返していた。
気がつけば7月。経理部にとっては第一四半期決算の真っ盛りだ。後輩ができたとはいえ、入社3年目、まだまだ下っ端の桜井は、監査対応に自分の担当業務、さらに後輩のフォローと慣れない仕事に追われ、連日大忙しだった。日課の早朝勉強も今は休止状態で、朝残業に取って代わっている。
「お疲れさん。どんな調子だ?」
桜井の2年先輩の藤原が給湯室から2人分のコーヒー持ってきて桜井を労う。コーヒーは夕方淹れたものらしい。数時間保温され続けたことで生じる独特の匂いが鼻につく。
「ありがとうございます。日程通り順調に進んでいますよ。」
桜井は、煮詰まって酸味の増したコーヒーを一息に飲んで、眠気を飛ばそうと試みた。
「今年は監査対応をお前がやってくれているから、助かってるんだ。結構大変だろ?しかも山口の仕事のフォローもあるからな。」
藤原もコーヒーを一口飲んで、顔をしかめた。山口とは、今年2年ぶりに経理部に配属された新人で、桜井の初めて後輩だ。
「そういえば、IFRSの件で打ち合わせの日程調整をしたいって監査法人の吉田さんが帰り際に言っていましたよ。」
「了解。別件で相談があったから、ちょうど良かった。」
「IFRS導入の方は、もう本決まりですか?」
「ああ。この間の経営会議で承認されたから、これから本格的にスタートだな。」
「じゃあ、いよいよですね。最近は忙しくて勉強どころじゃないですが、僕もIFRS任意適用会社の有報をいくつか見たりはしていますよ。」
「ほう。頑張ってるじゃないか。そういえば、IFRSの財務諸表と日本基準の財務諸表との違いを説明する約束だったよな。」
藤原は残りのコーヒーをぐいっと飲み干すと、「コホン」と咳払いをした。
● ○ IAS第1号「財務諸表の表示」 ○ ●
「まず、財務諸表の表示について定めている基準は知っているな?」
「えーと、たしかIAS第1号『財務諸表の表示』ですよね?」
「そうだ。財務諸表の表示に関する全般的な要求事項や、その構成に関する指針について最小限の要求事項を定めているのがIAS第1号だ。この基準では、財務諸表の目的や一般的特性の規定、各計算書の構成及び内容が定められているんだ。」
「一般的特性って・・・また〇〇性というやつですか?」
桜井はあからさまに嫌そうな顔をした。よほど概念フレームワークの時に懲りたらしい。藤原は苦笑しながら、桜井をなだめた。
「落ち着け。基本的な内容は日本基準とそう変わらない。一般的特性として挙げられている項目を読み上げてやろう。①適正な表示とIFRSへの準拠、②継続企業、③発生主義会計、④重要性と集約、⑤相殺、⑥報告の頻度、⑦比較情報、そして⑧表示の継続性、の8つだ。
な?表題からも日本基準で聞いたことある項目ばかりだろう?内容も然りだ。」
桜井は頷いた。確かに今まで知っている言葉ばかりで、初めて聞いたものはない。
「これらの特性を概念フレームワークのように一つひとつ解説はしない。日本基準を知っていれば対応できるからな。」
「それを聞いて安心しました。」
IFRSからの離脱規定
「ただ、この中で変わっている規定については簡単に教えておこう。『①適正な表示とIFRSへの準拠』の項目で触れられている離脱規定だ。」
「離脱規定?何ですか、それは?」
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