公開日: 2017/02/02 (掲載号:No.204)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第13話】「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

筆者: 関根 智美

 

収益認識の5ステップ

  • IFRS第15号のポイント
  • 収益認識の5ステップ
  • 契約資産と契約負債
  • 開示

 

「では、続いて5つのステップについて見ていこうね。」

「はい。」

【収益認識の5ステップ】

各ステップの概要

「5つのステップを大きく分けると、ステップ1『契約の識別』とステップ2『履行義務の識別』で、会計単位を決定するんだ。」

「まず始めの2つのステップで、会計単位を決めるんですね。」

「そうだよ。そして、ステップ3『取引価格の決定』とステップ4『取引価格の履行義務への配分』が、測定の部分だね。」

「へぇ。『認識』の前に『測定』の話が先なんですね。そして、最後のステップ5『履行義務の充足による収益の認識』で収益が認識されることになるんですね。」

「そういうこと。今回は簡単な設例を使いながら、この5つのステップを確認しようか。」

「はい、分かりました。」

[設 例]

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

▼ ステップ1 ▼
契約の識別

ステップ1でIFRS第15号が適用される契約かどうかを判断する

「伊崎さん、ステップ1では『契約の識別』をするんですね。」

「そう。ここでは、まずIFRS第15号を適用する『契約』に該当するかどうかを判断するんだよ。『契約』に該当しない場合は、IFRS第15号は適用されないんだ。」

「へぇ。いわゆる入口の部分なんですね。」

「そうだね。まず、「契約」って普段よく使う言葉だけど、その定義から確認していこうか。」

「確かに、契約とは何か説明しろと言われても、正しく説明するのは難しいですね。」
伊崎は頷いた。

契約の定義と5要件

「契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意と定義されているんだ。IFRSでは、次の5つの要件が全て満たすものを契約と考えるんだよ。」
そう言うと、伊崎はホワイトボードに5つの要件を書き始めた。

【IFRS第15号 契約の要件】

  • 契約の当事者が、契約を承認しており、それぞれの義務の履行を確約している。
  • 企業が、移転すべき財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できる。
  • 企業が、移転すべき財又はサービスに関する支払条件を識別できる。
  • 契約に経済的実質がある。
  • 企業が、顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い。

「えーと、義務の履行を確約している、権利を識別できる、支払条件を識別できる、経済的実質がある、回収可能性が高い、の5つですね。」
桜井はホワイトボードの内容を口に出しながら確認した。

回収可能性はステップ1で検討する

「あの、5つ目の要件で、『対価の回収可能性が高い』とありますけど、契約の識別の時に判断するんですか?」

「よく気がついたね。回収可能性というと、通常、認識の時に出てくる要件だよね。桜井君の言った通り、収益認識では、ステップ1の入り口段階で回収可能性を検討するんだよ。」

「なるほど。」

「回収可能性が高い」とは50%超で発生する可能性があるかで考える

伊崎は“回収可能性が高い”という部分を〇で囲み、“50%超”と書き加えた。
「ちなみに、この『回収可能性が高い』とは、発生する可能性が高い(more likely than not)という意味で、50%超で発生する可能性があることを指すんだよ。」

「へぇ。」
ここで、4つの要件を眺めていた桜井はふと気がついた。

契約には文書だけでなく、口頭や取引慣行等による合意も含まれる

「あれ?契約というと、契約書をイメージするんですが、『文書により』という言葉は含まれていないんですね。」

「そうなんだ。書面に限らず、口頭や取引慣行等による合意も契約に該当し得るんだよ。」

「へぇ。そうなんですね。」

「設例ではこの契約の要件を全て満たしたものと仮定して、次のステップに移ろうね。」
「はい、分かりました。」

▼ ステップ2 ▼
履行義務の識別

「さて、契約の識別ができたら、次はその契約の中の履行義務(performance obligation)を識別していくんだ。」

「『履行義務』ですか?」
耳慣れない言葉を聞いて、桜井は首を傾げた。

履行義務とは「約束」のこと

「『履行義務』とは、顧客に

  • 別個の財又はサービス
  • ほぼ同一で、顧客への移転パターンが同じである一連の別個の財又はサービス

のいずれかを移転する約束(promise)のことだよ。」

「つまり『履行義務』は、顧客との財又はサービスを移転する『約束』ってことなんですね。」

履行義務が会計処理の単位になる

「そうだよ。この『履行義務』が会計処理の単位になるから、ここは重要なステップなんだ。」

「へぇ。契約ごとに会計処理するわけじゃないんですね。」

「そうなんだ。まず、契約開始時に企業は、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、当該約束により顧客に財又はサービスを移転する約束のそれぞれを履行義務として識別しなければならないんだ。」

「財又はサービスを評価して、次に履行義務を識別するんですね。ところで『財又はサービスの評価』って、具体的に何をするんですか?」
桜井はさっぱり分からないという表情で首を傾げた。

まず、契約に含まれている全ての財又はサービスを識別する

「これはね、まず契約の中に含まれている財又はサービスを全て識別することを意味しているんだよ。」

「なるほど。設例の場合だと、機械とメンテナンス・サービスが契約に中に含まれている全ての財又はサービスですね。」

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

「それだけじゃないよ。」

「え?他にもありましたか?」
桜井は設例の文章を再び見返した。伊崎はにっこりと笑って言った。

「据付も立派なサービスなんだよ。」

「へぇ。ということは、この契約の中には、機械と据付、そしてメンテナンス・サービスという3つの財又はサービスが含まれていることになるんですね。」

「そういうことになるね。」と、伊崎は頷いて言った。

ステップ2では財又はサービスが「別個のもの」であるかどうかで履行義務を識別する

「では、次にステップ2として、履行義務を識別することになるんですね。」

「その通り。契約の中に複数の財又はサービスが含まれている場合は、その財又はサービスが別個のもの(distinct)であるかを判断する必要があるんだよ。」

「つまり、財又はサービスが別個の履行義務だと判断された場合、別々の会計単位として会計処理することになるってことですか?」

「そうだよ。反対に履行義務が別個のものではない場合は、それらの財又はサービスを結合して1つの履行義務と考えるんだよ。」

「へぇ。」

履行義務が「別個のもの」であるための要件は2つ

「とすると、履行義務が『別個のもの』ってどういうことか、という問題が出てくるね。」

「はい。」と桜井は頷いた。

「IFRSでは、次の2つの要件の両方を満たす場合には、顧客に約束している財又はサービスは別個のものだと考えるんだ。」
そう言うと、伊崎は2つの要件を読み上げた。

【履行義務の区分要件】

顧客が財又はサービスからの便益をそれ単独で又は顧客にとって容易に利用可能な他の資源と一緒にして得ることができる。

かつ

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が契約における他の約束と区分して識別可能である。

桜井は、その2つの要件を聞いてメモした後、設例ではどうなるのか考えてみた。

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

「えーと、設例では、機械の販売、据付、メンテナンス・サービスという3つの財又はサービスがありますね。」

「では、それぞれ別個のものであるための要件を満たすかを考えてみよう。」

「はい。まず、据付については設例の条件にある通り、他社からの調達は難しいことから、その会社からしか調達することができないんですよね。だとすると、1つ目の要件は満たさないから、別個のものではなく、販売される機械と結合して1つの履行義務と考えることになると思います。」
桜井は、設例の条件と、先ほど伊崎が言った要件に照らし合わせながら答えた。

「個々の財又はサービスレベル」と「契約の観点」から別個の履行義務かを検討する

「うん。それで大丈夫だと思うよ。では、メンテナンス・サービスはどうだろう?」

「メンテナンス・サービスは、単独で他社からサービスの提供を受けることができるため、機械の販売とは別個の履行義務になると思います。」

「そうだね。1つ目の要件は大丈夫そうだね。1つ目の要件は、個々の財又はサービスのレベルで区分できるか、という要件なんだ。」

「へぇ。では、2つ目の要件は、どういう意味なんですか?」

「2つ目の要件は、契約の観点から区別できるか、という視点なんだ。」

「契約の観点から、ですか・・・?」

意味が理解できない桜井は、眉をひそめて繰り返す。

「基準では、この判断するための要因が挙げられているんだ。一気に詰め込むと混乱しちゃうから今回は詳しくは説明しないけど、メンテナンス・サービスが機械の仕様に対して大幅な改変やカスタマイズをしないことや、通常はメンテナンス・サービスを利用しなくてもその機械を使用することができると考えられるから、契約の観点からもこの2つは別個の履行義務と考えるんだ。」

「なるほど。まずは、個々のレベルで別個の履行義務が判断して、続いて契約の観点から区分して識別できるのかを検討するんですね。」

「うんうん。このステップの理解は大丈夫そうだね。」
それを聞いた桜井はほっと一息ついた。

「つまり、この設例では、2つの履行義務が含まれているんですね。」

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

「イメージを図で表すとこんな感じですね。」
そう言うと、桜井は席を立ちホワイトボードに図を描いた。

「うん。さすがよく理解できているね。」
伊崎にほめられ急に恥ずかしくなった桜井は、すぐに席へ戻った。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第13話】

「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

とある中規模上場メーカーのリフレッシュルームの一角で、1人の女性が男性に詰め寄っていた。と言っても、艶っぽい雰囲気は皆無だ。男性の方は両手を顔の横に挙げ、「降参」のポーズを取っている。

「どういうこと?あの2人、全然変わってないじゃない。」
30代半ばの女性、橋本は同じ経理部の同僚である伊崎に言った。

事の発端は経理部内の若手2人、藤原と桜井が険悪ムードになったことから始まる。去年の夏にIFRSを導入することが決まったことを受けて、先輩である藤原が後輩の桜井にIFRSについて教えることになった。そこまでは良かったのだが、意識の高い藤原が次第に受身になっていく桜井の勉強態度に我慢できなくなり、ちょっとした諍いがあったようなのだ。

だが、そのせいで10名程度しかいない、こぢんまりとした経理部内の雰囲気を悪化させていることに、当人たちは気づいていない。

そこで、橋本と伊崎がそれぞれに話をして和解させようと試みたのが先月。しかし、2月に入っても2人の仲は元に戻っていなかった。

「えー、僕はちゃんと仕事したよ?ほら、桜井君の方を見てごらん。」
伊崎は、いつもと変わらずゆったり笑みを浮かべながら答える。橋本はリフレッシュルームの入口から経理部のシマをちらりと見た。

桜井は相変わらず右隣の藤原を一瞥もせずPCに集中していた。だが、表情は先月と比べると心なしか晴れやかに見える。

「ほら、ちょっと明るくなっているでしょ?」
伊崎は得意げに言う。橋本もしぶしぶ認めた。

「確かにそう見えるわね。伊崎さん、一体何を桜井君に言ったの?」
橋本は不思議そうに尋ねた。

「簡単だよ。『仲直りしなくていいよ』って。」

「はぁ?」
橋本のこめかみが痙攣しているのは気のせいじゃないな、と伊崎は冷静な目で観察した。

「藤原君の方を見ていると、どうやら橋本さんは直球勝負したんでしょ?」
橋本は図星を指されて言葉に詰まった。橋本は気まずさを紛らわせるために再び経理部の方に視線を移した。桜井の隣に座る藤原は、眉間に皺を寄せて仕事に没頭している。

「あれじゃ、冬眠明けの低血圧の熊にしか見えないよ。」
伊崎はわざとらしく溜め息をついた。

「悪かったわよ。ちょっと頭ごなしに言ったかもしれないわね・・・」
橋本は素直に自分のやり方がまずかったことを認めた。伊崎はふわりと笑って、橋本の頭をポンと叩く。

「ま、種は蒔いておいたから、ひとまずこれで様子を見ていこう。」

「よいしょっ。」
掛け声をあげて、桜井は請求書の束を机に置いた。

「圧巻だな。ここから探し出すのかー」
ミーティングルームの長机には、所狭しと資料の束が山積みにされている。監査対応の事前準備のため、指定された取引の証憑類に付箋を貼っていくのが今日の主な作業だ。藤原と気まずい状態が続いている桜井にとっては、別室の作業は息抜きになって正直嬉しい。

桜井が一覧表を元に請求書に付箋を貼っていると、ノックする音が聞こえた。桜井がドアの方を振り向くと、伊崎が部屋へ入ってきた。

「今、いいかな?これ、財務から来たよ。」
そう言うと、紙の束が入ったクリアファイルを桜井に手渡した。

「得意先への確認状ですね。では、明日、会計士さんが来た時に渡しておきます。」
桜井は用紙をパラパラ捲りながら、ざっと中身を確認する。一方の伊崎は、手近にあった椅子に腰かけると部屋を見渡した。資料のファイルから付箋がチラホラ飛び出しているのが見える。

「これ、全部一人でやるの、大変でしょ?」

「そうですね。でも、地味な作業は好きなので、案外平気です。」
桜井も少し離れた席に座り、休憩を取ることにした。伊崎と雑談を軽く交わし、話の区切りがついたところで、桜井は少し勇気を出して切り出した。

「あのー、伊崎さん・・・つかぬことを伺いますが・・・」

「何だい?」

「先月、IFRSを教えてくださるって話をしたと思うんですけど。」

「ああ、そう言えばそうだったね。」
伊崎は、顎に指を置いて思い出す仕草をした。

「それで、できればIFRSの収益認識の基準について教えてほしいんです。」
藤原がIFRSを教えてくれていた時は藤原が勉強する機会を率先して作ってくれていたため、桜井はそれに従えばよかったのだが、伊崎は自分からは決してIFRSのことを口にしないことに桜井は気づいていた。

「それはいいけど。どうして知りたいと思ったの?」
伊崎は、机に片肘をついて桜井の方を見た。桜井は、ちょっと緊張しながらも説明した。

「日本基準でも収益認識の会計基準が話題になっているし、今、監査対応で売上や仕入れの資料を用意していたんですけど、IFRSが導入されたらどう変わっていくのかな、って疑問に思って・・・」

「なるほど。確かに日本でもIFRS第15号を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されているから、IFRS第15号を勉強することはその理解に役立つね。それに、前回も収益認識については藤原君から教えてもらってないって言っていたもんね。」

「はい、お願いしてもいいですか?」

「もちろんだよ。もともと僕が藤原君の代わりに教えるって言ったんだしね。ちょうどここにはホワイトボードもあるし、講義するにはピッタリだね。」
伊崎はいたずらっぽく笑うと、2人はホワイトボードの近くに席を移動した。

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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