公開日: 2017/02/02 (掲載号:No.204)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第13話】「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

筆者: 関根 智美

▼ ステップ3 ▼
取引価格の決定

「ステップ2で履行義務、すなわち会計単位が決まったら、今度は測定の番だね。」

「えーと、ステップ3では、取引価格を決定するんでしたね。」
桜井は再び表に目を戻した。

取引価格は財又はサービスに係る対価の金額

「取引価格は、顧客への財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の金額のことを言うんだ。この時、第三者のために回収する金額、例えば消費税等は除くことになるんだよ。」

「なるほど。設例では、取引価格は1,750,000円となりますね。」

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

変動対価が含まれている場合は見積りで取引価格を算定する

「そうだね。設例では固定対価となっているけど、実務の中では変動対価が含まれている契約もあるよね。」

「そうですね。その場合は、取引価格はどうなるんですか?」

「契約に変動対価が含まれている場合は、その対価の金額を見積もらなければならないんだ。」

「へぇ。見積りが必要になるんですね。」

変動対価の見積りには制限がある

「それから、変動対価の見積りを算定しても、全てが取引価格に含まれるわけではないことに注意が必要だね。」

「え?どうしてですか?」
桜井は首を傾げた。

「見積もられた変動対価のうち、認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ、取引価格に含めなければならないという規定があるからだよ。」

「なるほど。見積りなので、後々重大な戻入れが生じる可能性があるんですね。そのために制限の規定が設けられているんですね。納得しました。」

取引価格に重要な金融要素が含まれている場合は調整が必要

「それから、取引価格の算定時に重大な金融要素が含まれている場合には、その影響について取引価格を調整することになるんだ。これも、日本基準にはない規定だね。」

「『重大な金融要素』って、確か前回の金融商品のときにも出てきた言葉ですね。確か、重大な利息が含まれているかどうか、という話だと記憶していますけど。」

重要な金融要素とは利息のこと

「そうだね。財又はサービスが移転された時期と支払の時期が異なることにより、契約で約束された対価に貨幣の時間的価値が含まれている場合が考えられるよね。その場合は、貨幣の時間的価値の影響額を取引価格から調整する必要があるんだ。」

「なるほど。支払サイトが遅い場合、支払額の中に利息分が含まれているから、それを調整して利息収益を認識する必要があるんですね。」

対価を前払いした場合にも重要な金融要素が含まれている可能性がある

「そうだね。それから、この規定は後払いだけでなく、顧客が対価を前払いした時にも適用されるんだよ。」

「へぇ。前払いのケースも考えないといけないんですね。」

重要な金融要素の調整には実務上の便法が設けられている

そこで桜井は思ったことを口に出した。
「でも、例え重大な金融要素と限定されていても、一つ一つの取引に金融要素の調整をするのは大変そうですね。」

「うん、そうなんだ。だからIFRSでもそこは考慮されていて、実務上の便法が設けられているんだよ。」

「そうなんですか?」

「契約開始時において、約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客がその財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が1年以内となると見込んでいる場合は、約束した対価から重大な金融要素の影響を調整する必要はないんだよ。」

「へぇ。それはありがたい規定ですね!」

▼ ステップ4 ▼
取引価格の履行義務への配分

「取引価格が決まったら、その取引価額をそれぞれの履行義務へ配分するという、ステップ4に移るんだ。」

「なるほど。設例のケースだと、契約の中には「機械の販売」と「メンテナンス・サービス」という2つの履行義務がありますね。」
伊崎は頷いた。

取引価格は履行義務の独立販売価格の比で按分

「取引価格は、それぞれの履行義務の独立販売価格(standalone selling price)の比で按分することになるんだよ。」

「独立販売価格って何ですか?」

「独立販売価格は、その財又はサービスを単独で販売した時の価格だよ。」

「なるほど。独立を単独と読み直せばいいんですね。」

独立販売価格が観察可能ではない場合は見積る

「この独立販売価格はもちろん観察可能なものであることが望ましいんだけど、中には難しいものもあるよね?」

「たしかにそうですね。その場合は、どうやって独立販売価格を決めるんですか?」

「これも見積りによって算定することになるんだ。基準では、調整後市場評価アプローチ、予想コストに適切なマージンを加算するアプローチ、残余アプローチといった手法があると書かれているんだ。」
そう言うと、伊崎は桜井が分かりやすいように、ホワイトボードに3つのアプローチを書き並べた。

【独立販売価格の見積方法】

  • 調整後市場評価アプローチ
  • 予想コスト + マージンアプローチ
  • 残余アプローチ

「へぇ。いろんな見積りの方法があるんですね。」

「では、設例に戻ってみよう。」

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

「はい。えーと、機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円となっているから、取引価格1,750,000を各履行義務に配分する計算式は、

[機械・据付]
1,750,000×{1,500,000/(1,500,000+500,000)}=1,312,500

[メンテナンス・サービス]
1,750,000×{500,000/(1,500,000+500,000)}=437,500

となり、機械・据付が含まれる履行義務に1,312,500円、メンテナンス・サービスに437,500円を配分することになるんですね。」

「うん、その通りだよ。」

「ここは、だいたい理解できたと思います。」
桜井の言葉を聞いて、伊崎は満足そうに頷いた。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第13話】

「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

とある中規模上場メーカーのリフレッシュルームの一角で、1人の女性が男性に詰め寄っていた。と言っても、艶っぽい雰囲気は皆無だ。男性の方は両手を顔の横に挙げ、「降参」のポーズを取っている。

「どういうこと?あの2人、全然変わってないじゃない。」
30代半ばの女性、橋本は同じ経理部の同僚である伊崎に言った。

事の発端は経理部内の若手2人、藤原と桜井が険悪ムードになったことから始まる。去年の夏にIFRSを導入することが決まったことを受けて、先輩である藤原が後輩の桜井にIFRSについて教えることになった。そこまでは良かったのだが、意識の高い藤原が次第に受身になっていく桜井の勉強態度に我慢できなくなり、ちょっとした諍いがあったようなのだ。

だが、そのせいで10名程度しかいない、こぢんまりとした経理部内の雰囲気を悪化させていることに、当人たちは気づいていない。

そこで、橋本と伊崎がそれぞれに話をして和解させようと試みたのが先月。しかし、2月に入っても2人の仲は元に戻っていなかった。

「えー、僕はちゃんと仕事したよ?ほら、桜井君の方を見てごらん。」
伊崎は、いつもと変わらずゆったり笑みを浮かべながら答える。橋本はリフレッシュルームの入口から経理部のシマをちらりと見た。

桜井は相変わらず右隣の藤原を一瞥もせずPCに集中していた。だが、表情は先月と比べると心なしか晴れやかに見える。

「ほら、ちょっと明るくなっているでしょ?」
伊崎は得意げに言う。橋本もしぶしぶ認めた。

「確かにそう見えるわね。伊崎さん、一体何を桜井君に言ったの?」
橋本は不思議そうに尋ねた。

「簡単だよ。『仲直りしなくていいよ』って。」

「はぁ?」
橋本のこめかみが痙攣しているのは気のせいじゃないな、と伊崎は冷静な目で観察した。

「藤原君の方を見ていると、どうやら橋本さんは直球勝負したんでしょ?」
橋本は図星を指されて言葉に詰まった。橋本は気まずさを紛らわせるために再び経理部の方に視線を移した。桜井の隣に座る藤原は、眉間に皺を寄せて仕事に没頭している。

「あれじゃ、冬眠明けの低血圧の熊にしか見えないよ。」
伊崎はわざとらしく溜め息をついた。

「悪かったわよ。ちょっと頭ごなしに言ったかもしれないわね・・・」
橋本は素直に自分のやり方がまずかったことを認めた。伊崎はふわりと笑って、橋本の頭をポンと叩く。

「ま、種は蒔いておいたから、ひとまずこれで様子を見ていこう。」

「よいしょっ。」
掛け声をあげて、桜井は請求書の束を机に置いた。

「圧巻だな。ここから探し出すのかー」
ミーティングルームの長机には、所狭しと資料の束が山積みにされている。監査対応の事前準備のため、指定された取引の証憑類に付箋を貼っていくのが今日の主な作業だ。藤原と気まずい状態が続いている桜井にとっては、別室の作業は息抜きになって正直嬉しい。

桜井が一覧表を元に請求書に付箋を貼っていると、ノックする音が聞こえた。桜井がドアの方を振り向くと、伊崎が部屋へ入ってきた。

「今、いいかな?これ、財務から来たよ。」
そう言うと、紙の束が入ったクリアファイルを桜井に手渡した。

「得意先への確認状ですね。では、明日、会計士さんが来た時に渡しておきます。」
桜井は用紙をパラパラ捲りながら、ざっと中身を確認する。一方の伊崎は、手近にあった椅子に腰かけると部屋を見渡した。資料のファイルから付箋がチラホラ飛び出しているのが見える。

「これ、全部一人でやるの、大変でしょ?」

「そうですね。でも、地味な作業は好きなので、案外平気です。」
桜井も少し離れた席に座り、休憩を取ることにした。伊崎と雑談を軽く交わし、話の区切りがついたところで、桜井は少し勇気を出して切り出した。

「あのー、伊崎さん・・・つかぬことを伺いますが・・・」

「何だい?」

「先月、IFRSを教えてくださるって話をしたと思うんですけど。」

「ああ、そう言えばそうだったね。」
伊崎は、顎に指を置いて思い出す仕草をした。

「それで、できればIFRSの収益認識の基準について教えてほしいんです。」
藤原がIFRSを教えてくれていた時は藤原が勉強する機会を率先して作ってくれていたため、桜井はそれに従えばよかったのだが、伊崎は自分からは決してIFRSのことを口にしないことに桜井は気づいていた。

「それはいいけど。どうして知りたいと思ったの?」
伊崎は、机に片肘をついて桜井の方を見た。桜井は、ちょっと緊張しながらも説明した。

「日本基準でも収益認識の会計基準が話題になっているし、今、監査対応で売上や仕入れの資料を用意していたんですけど、IFRSが導入されたらどう変わっていくのかな、って疑問に思って・・・」

「なるほど。確かに日本でもIFRS第15号を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されているから、IFRS第15号を勉強することはその理解に役立つね。それに、前回も収益認識については藤原君から教えてもらってないって言っていたもんね。」

「はい、お願いしてもいいですか?」

「もちろんだよ。もともと僕が藤原君の代わりに教えるって言ったんだしね。ちょうどここにはホワイトボードもあるし、講義するにはピッタリだね。」
伊崎はいたずらっぽく笑うと、2人はホワイトボードの近くに席を移動した。

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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