公開日: 2017/02/02 (掲載号:No.204)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第13話】「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

筆者: 関根 智美

▼ ステップ5 ▼
履行義務の充足による収益の認識

履行義務の充足には2パターンある

「とうとう最後のステップ5ですね。履行義務の充足により収益を認識することになるんですね。」
ここで、伊崎が再びホワイトボードに図を描き始めた。

伊崎は書き終えると、桜井の方へ振り返った。
「収益の認識のパターンには大きく2つあるんだ。1つが一定期間にわたり履行義務を充足するパターン。そしてもう1つが一時点で充足されるパターンだよ。」

「なるほど。」

「一定期間にわたり履行義務が充足されるもの」に該当する3要件

「IFRSでは、一定期間にわたり履行義務が充足される要件を設けて、それに該当しない場合は、一時点で履行義務を充足される履行義務だと考えるんだ。」

「へぇ。まずは、その履行義務が一定期間にわたり充足される履行義務かどうかを検討すればいいんですね。」

「そうだね。要件は3つある。これらの3つのうち、いずれかに該当した場合は、一定期間にわたり充足される履行義務に該当するんだ。」
そう言うと、伊崎はさらに説明を続けた。

要件① 顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する

「まずは、顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する場合。」

「便益を企業が履行すると同時に消費・・・」
桜井は伊崎が言った言葉を復唱してみたが、まだピンと来ない表情をしている。

「これにはサービス契約が当てはまるんだ。例えば、清掃サービスとかね。清掃のおじさんがこの部屋を掃除してくれたとする。その場合、「清掃」というサービスの提供と同時に僕たちは綺麗になった部屋という「便益を受けて消費する」と考えるんだよ。」

「ああ、なるほど。」

要件② 企業の履行が資産を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する

「続いて、企業の履行が資産を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配するというものだよ。これは、顧客の土地の上に建設を行う場合が例えとして挙げられるね。」
伊崎はちらりと桜井を見て、桜井の表情を確認した。

「はい。ここは大丈夫です。」
これには、少し安心した表情で桜井は答えた。

要件③ 企業の履行が、企業が他に転用できる資産を創出せず、かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している

「最後の要件は、企業の履行が、企業が他に転用できる資産を創出せず、かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している場合だよ。」

「これならイメージできます。個別受注生産の場合がこれにあてはまりますね!」

いずれの要件も満たさなければ、一時点で充足される履行義務に分類する

「そうだね。そして、これらの要件①~③に該当しない場合は、一時点で充足される履行義務に分類されるんだよ。」

「なるほど。分かりました。」

「では、設例の機械の販売とメンテナンス・サービスの履行義務の充足パターンを考えてみよう。」

[設例](再掲)

  • 当社は機械の販売及び据付と当該機械に関するメンテナンス・サービス(5年)を含んだ契約を結んだ。
  • 当該契約は、IFRS第15号の契約の要件を全て満たす。
  • 機械は特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能である。
  • 機械は当社独自の技術を使用しており、据付サービスのみを他社から調達することはできない。
  • メンテナンス・サービスは他社から容易に調達可能である。
  • 契約価格は1,750,000円である。
  • 機械の販売及び据付とメンテナンス・サービスの独立販売価格は、それぞれ1,500,000円と500,000円である。
  • 顧客は機械の据付確認をもって、支払義務が生じる。
  • 機械の据付確認後のメンテナンス・サービスの解約はできない。

設例 機械の販売及び据付は一時点で充足される履行義務

「はい。まず1つ目の履行義務である機械の販売及び据付ですね。えっと、機械の販売についてですが、要件①はサービス契約についての要件ですし、要件②にある資産を創出・増価する履行義務でもないですから、要件①及びは当てはまらないですね。それに、この機械は、条件にあるように特別な仕様ではなく、他の顧客に転売可能ということですから、先ほどの要件③も満たさないですね。据付についてもどの要件も満たさないため、一時点で充足される履行義務になると思います。」

「うん、そうだね。」

設例 メンテナンス・サービスは一定期間にわたり充足される履行義務

「では、メンテナンス・サービスはどうかな?」
伊崎は、腕を組みながら続けて桜井に尋ねた。

「メンテナンス・サービスは、5年間継続してそのサービスを受けることができるんですよね・・・。これはサービス契約ですから、企業の履行によって提供される便益を企業が履行するにつれて同時に受け取って消費するという1つ目の要件を満たすと思います。」

「そうだね。ということは、メンテナンス・サービスは一定期間にわたり充足される履行義務になるね。ここはもう大丈夫そうだね。」

「はい。」と頷き、桜井は再びほっと一息をついた。

充足パターン別の収益認識方法

「パターンが2つあることが理解できたら、それぞれのパターンの収益がどのように認識されるのかを確認していくよ。」

「はい。とうとう収益の認識ですね!」

一定期間にわたり充足される履行義務は進捗度に応じて収益認識

「まずは、一定期間にわたり充足する履行義務の場合、進捗度に応じて収益を認識することになるんだよ。」

「進捗度に応じて、ですね。分かりました。」

進捗度はアウトプット法又はイントプット法を用いて測定

「それから、進捗度を測定する適切な方法として、基準では『アウトプット法』と『インプット法』が挙げられているんだ。」

「アウトプット法というと、達成した成果の鑑定評価、達成したマイルストーン、経過期間や、生産単位数等を用いて進捗度を測定する方法ですね。」

「うん。よく知っているね。」
桜井は、照れ臭そうに笑った。

「最近読んだ情報誌に載っていたんです。たしか、インプット法は、消費した資源や労働時間、発生コスト、経過期間や期間使用時間等を用いて進捗度を測るんですよね。」

「その通り。そして、進捗度を測定する適切な方法を決める際には、顧客に移転する財又はサービスの性質、それから企業の履行の性質の両方を考慮する必要があるんだよ。」

「はい、分かりました。」

「設例だと、メンテナンス・サービスが一定期間にわたり充足される履行義務だったよね。」

「はい。ということは、メンテナンス・サービスは進捗度に応じて収益を認識することになるんですね。」

「そうだね。このケースでは、5年という期間に基づいて収益を認識することになるだろうね。」

そこで、桜井は手許にあった電卓を叩いた。
「ということは、437,500円÷5年÷12ヶ月で、毎月約7,291円の収益を認識することになるんですね!」

一時点で充足される履行義務は財又はサービスの「支配」が移転した時に収益認識

一定期間にわたり充足される履行義務の理解ができたことで調子づいた桜井は、続けて伊崎に質問した。
「では、一時点で充足される履行義務は、いつのタイミングで収益認識されることになるんですか?」

伊崎は桜井のその様子に頬を緩めて答えた。
「一時点で充足される履行義務は、財又はサービスの支配(control)が顧客に移転した時点で収益を認識することになるんだよ。」

「支配、ですか。リース会計の時もそうでしたけど、IFRSを勉強しているとよく耳にする言葉ですね。」

「そうだね。この「支配」とは、資産の使用を指図し、その資産から残りの便益のほとんど全てを獲得する能力のことを言うんだよ。これには、他の企業が資産の使用を指図し、資産から便益を得ることを妨げる能力も含まれるんだ。」

「へぇ。」

支配が顧客に移転したことを示す5つの指標

「でも、『支配の移転』と言われても漠然としすぎていて、どの時点で移ったと言えるのかイメージが湧かないです。」
不安そうな表情で桜井は言った。

「そうだよね。でも、基準に支配が顧客に移転したことを示す指標がいくつか列挙されているから、これらの指標を考慮して、どの時点で顧客が約束された資産に対する支配を獲得して、企業が履行義務を充足したかを決定することになるんだよ。」

「え、ここは要件ではなくて、指標なんですね。」

「そうなんだ。具体的には、以下の指標が挙げられているよ。もちろんこれらの指標が網羅的なものではないことには留意が必要だよ。」
そう言うと、伊崎はホワイトボードに5つの指標を簡単にまとめた。

【「支配の移転」の指標】

  • 企業が資産に対する支払を受ける現在の権利を有している。
  • 顧客が支配に対する法的所有権を有している。
  • 企業が資産の物理的占有を移転した。
  • 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している。
  • 顧客が資産を検収した。

「えーと、この指標を基に考えると、設例にある機械の販売及び設置は、機械の据付を顧客が確認して検収した時点で支配が移転したと考えられるため、その時点で収益を認識することになるんですね。」

「そういうことだね。」
伊崎はにっこり笑って頷いた。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第13話】

「日本でも話題の収益認識(IFRS第15号)」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

とある中規模上場メーカーのリフレッシュルームの一角で、1人の女性が男性に詰め寄っていた。と言っても、艶っぽい雰囲気は皆無だ。男性の方は両手を顔の横に挙げ、「降参」のポーズを取っている。

「どういうこと?あの2人、全然変わってないじゃない。」
30代半ばの女性、橋本は同じ経理部の同僚である伊崎に言った。

事の発端は経理部内の若手2人、藤原と桜井が険悪ムードになったことから始まる。去年の夏にIFRSを導入することが決まったことを受けて、先輩である藤原が後輩の桜井にIFRSについて教えることになった。そこまでは良かったのだが、意識の高い藤原が次第に受身になっていく桜井の勉強態度に我慢できなくなり、ちょっとした諍いがあったようなのだ。

だが、そのせいで10名程度しかいない、こぢんまりとした経理部内の雰囲気を悪化させていることに、当人たちは気づいていない。

そこで、橋本と伊崎がそれぞれに話をして和解させようと試みたのが先月。しかし、2月に入っても2人の仲は元に戻っていなかった。

「えー、僕はちゃんと仕事したよ?ほら、桜井君の方を見てごらん。」
伊崎は、いつもと変わらずゆったり笑みを浮かべながら答える。橋本はリフレッシュルームの入口から経理部のシマをちらりと見た。

桜井は相変わらず右隣の藤原を一瞥もせずPCに集中していた。だが、表情は先月と比べると心なしか晴れやかに見える。

「ほら、ちょっと明るくなっているでしょ?」
伊崎は得意げに言う。橋本もしぶしぶ認めた。

「確かにそう見えるわね。伊崎さん、一体何を桜井君に言ったの?」
橋本は不思議そうに尋ねた。

「簡単だよ。『仲直りしなくていいよ』って。」

「はぁ?」
橋本のこめかみが痙攣しているのは気のせいじゃないな、と伊崎は冷静な目で観察した。

「藤原君の方を見ていると、どうやら橋本さんは直球勝負したんでしょ?」
橋本は図星を指されて言葉に詰まった。橋本は気まずさを紛らわせるために再び経理部の方に視線を移した。桜井の隣に座る藤原は、眉間に皺を寄せて仕事に没頭している。

「あれじゃ、冬眠明けの低血圧の熊にしか見えないよ。」
伊崎はわざとらしく溜め息をついた。

「悪かったわよ。ちょっと頭ごなしに言ったかもしれないわね・・・」
橋本は素直に自分のやり方がまずかったことを認めた。伊崎はふわりと笑って、橋本の頭をポンと叩く。

「ま、種は蒔いておいたから、ひとまずこれで様子を見ていこう。」

「よいしょっ。」
掛け声をあげて、桜井は請求書の束を机に置いた。

「圧巻だな。ここから探し出すのかー」
ミーティングルームの長机には、所狭しと資料の束が山積みにされている。監査対応の事前準備のため、指定された取引の証憑類に付箋を貼っていくのが今日の主な作業だ。藤原と気まずい状態が続いている桜井にとっては、別室の作業は息抜きになって正直嬉しい。

桜井が一覧表を元に請求書に付箋を貼っていると、ノックする音が聞こえた。桜井がドアの方を振り向くと、伊崎が部屋へ入ってきた。

「今、いいかな?これ、財務から来たよ。」
そう言うと、紙の束が入ったクリアファイルを桜井に手渡した。

「得意先への確認状ですね。では、明日、会計士さんが来た時に渡しておきます。」
桜井は用紙をパラパラ捲りながら、ざっと中身を確認する。一方の伊崎は、手近にあった椅子に腰かけると部屋を見渡した。資料のファイルから付箋がチラホラ飛び出しているのが見える。

「これ、全部一人でやるの、大変でしょ?」

「そうですね。でも、地味な作業は好きなので、案外平気です。」
桜井も少し離れた席に座り、休憩を取ることにした。伊崎と雑談を軽く交わし、話の区切りがついたところで、桜井は少し勇気を出して切り出した。

「あのー、伊崎さん・・・つかぬことを伺いますが・・・」

「何だい?」

「先月、IFRSを教えてくださるって話をしたと思うんですけど。」

「ああ、そう言えばそうだったね。」
伊崎は、顎に指を置いて思い出す仕草をした。

「それで、できればIFRSの収益認識の基準について教えてほしいんです。」
藤原がIFRSを教えてくれていた時は藤原が勉強する機会を率先して作ってくれていたため、桜井はそれに従えばよかったのだが、伊崎は自分からは決してIFRSのことを口にしないことに桜井は気づいていた。

「それはいいけど。どうして知りたいと思ったの?」
伊崎は、机に片肘をついて桜井の方を見た。桜井は、ちょっと緊張しながらも説明した。

「日本基準でも収益認識の会計基準が話題になっているし、今、監査対応で売上や仕入れの資料を用意していたんですけど、IFRSが導入されたらどう変わっていくのかな、って疑問に思って・・・」

「なるほど。確かに日本でもIFRS第15号を踏まえた収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されているから、IFRS第15号を勉強することはその理解に役立つね。それに、前回も収益認識については藤原君から教えてもらってないって言っていたもんね。」

「はい、お願いしてもいいですか?」

「もちろんだよ。もともと僕が藤原君の代わりに教えるって言ったんだしね。ちょうどここにはホワイトボードもあるし、講義するにはピッタリだね。」
伊崎はいたずらっぽく笑うと、2人はホワイトボードの近くに席を移動した。

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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