公開日: 2020/11/19 (掲載号:No.395)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第11回】「共有不動産はどうして価値が下がるのか」~税務の常識と鑑定評価の常識~

筆者: 黒沢 泰

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第11回】

「共有不動産はどうして価値が下がるのか」

~税務の常識と鑑定評価の常識~

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

不動産は一般の物と異なり価格も高額で、自分一人だけでその購入資金を調達することができないケースも多くあります。このような場合、単独所有というわけにはいかず、資金を提供する他の者との「共有」という形態をとらざるを得ません。

また、相続が発生し、相続人も何人か存在するという場合、相続財産である不動産が共有形態で引き継がれていくケースが多く見受けられます。それだけにとどまらず、相続人が多数存在する場合もあり、各々の持分が細かく分割されていることも珍しくありません。

ここで厄介なのは、共有の場合、単独所有の場合と比較して価値が下がるケースが多いということです(もちろん、すべてにこのような現象が生じるわけではないことは後掲のとおりです)。

ただ、税理士業務に携わる方にとっては、このことを疑問に感ずる向きも多いのではないでしょうか。その理由は、相続税の財産評価では、共有不動産であっても全体の評価額を単純に各々の持分で按分して、各人の評価額を決定していることによると思われます(すなわち、ここでは共有による減価という考え方は反映されておらず、これを仮に「税務の常識」と名付けておきます)。

一方、不動産の鑑定業務に携わる者にとっては、共有により減価が生ずるという捉え方をすることが多く、全体の評価額を各々の持分で按分するだけでは済まないケースがあります(これを仮に「鑑定評価の常識」と名付けておきます)。

今回は、共有不動産の評価に当たり、税務と鑑定評価の捉え方の相違を対比させた後に、共有減価というものがどのような根拠に基づいて発生するのかについて述べます。

 

1 相続税の財産評価における共有不動産の評価~税務の常識

財産評価基本通達では、共有財産の持分の価額につき次の規定を置いています。

〇財産評価基本通達
(共有財産)

2 共有財産の持分の価額は、その財産の価額をその共有者の持分に応じてあん分した価額によって評価する。

また、国税庁ホームページ(質疑応答事例)では、共有地の評価につき次の回答を行っています。

〇国税庁・質疑応答事例
(共有地の評価)

【照会要旨】
共有地の各共有者の持分の価額はどのように評価するのでしょうか。

【回答要旨】
評価しようとする土地が共有となっている場合には、その共有地全体の価額に共有持分の割合を乗じて、各人の持分の価額を算出します。したがって、例えば共有地全体の価額が1億円の宅地を甲が4分の3、乙が4分の1の割合で共有している場合には、甲の持分の価額は7,500万円(1億円×3/4)、乙の持分の価額は2,500万円(1億円×1/4)となります。

【関係法令通達】
財産評価基本通達2

このように、相続税評価の上では不動産の評価額(総額)に共有持分割合を乗じた金額そのものが共有者各人の持分の価額とされており、共有減価という考え方は登場しません。

 

2 鑑定評価の常識では

共有持分の評価に当たり参考になる考え方が、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のホームページで次のとおり紹介されています(下線は筆者によります)。

マンション共有持ち分権の評価

:夫婦で共有持分2分の1ずつのファミリーマンションのうち夫の持分2分の1が競売で売りに出ています。共有持分の評価はどのようにするのでしょうか。

:競売においてファミリーマンションの共有持分のみが売却対象となるケースは稀にはあります。そこでまず共有持ち分に係わる競売物件の評価について、原則的な考え方を記します。
 通常の競売物件の評価では一般市場における適正な時価を基礎とし、競売市場特有の要因(所有者の協力が得られない、心理的抵抗感、内覧に制約がある、資金的余裕を要するなど)を考慮し、競売市場修正を行って売却基準価格(最低売却価額)を求めますが、売却不動産固有の要因によって需要が限定されることが予想される場合、競売市場修正を行う前段階で市場性修正を行っています。
 共有持ち分には比較的分割し易い更地から分割し難い土地建物まで様々なケースが考えられますが、ファミリーマンションの一室は分割できないので換価分割(注1)、代償分割(注2)に限られ、分割の選択肢は限られるので分割の時間的、経済的負担を考慮し20%前後の市場性減価を行っているのが一般的です。このように共有持ち分のみの売却の場合は共有減価を行いますが、すべての共有持ち分(100%)を売却するときは、共有減価は行いません。買受人は100%の所有権を取得することになるからです。

(注1) 筆者注:換価分割とは、共有物全部を売却し、売買代金を持分に従って共有者間で分割する方法を意味します。

(注2) 筆者注:代償分割とは、特定の共有者が他の共有者から持分を買い取る(=代償金を支払う)結果、その不動産を単独所有することを意味します。

なお、ここに紹介されているケースは共有減価の生じる(=共有減価を認識する必要の生じる)一例であり、このようなケースは他にも多くあります。ただし、ここに記載されているように、すべての共有持分を一括して特定の一人に売却する場合には共有状態が解消し、買主は単独所有の物件を取得することになるため、共有減価の必要はなくなります。

 

3 共有不動産はどうして価値が下がるのか

以上、税務の視点及び鑑定評価の視点から共有不動産の価値の捉え方の相違を検討してきました。そこで、共有不動産はどうして価値が下がるのかという素朴な疑問に対する考え方を述べてみたい思います。

(1) 売買との関連から

共有不動産の持分は、現実には親族間又は他の共有者との間で売買されるケースの方が圧倒的に多いといえます。また、一般に共有不動産といっても、共有者が2名で、その一方が他方から持分を譲り受ける場合は同時に完全所有権の状態が実現するため、購入後の制約に伴う市場性減価の生ずる余地はなくなります。

しかし、第三者が共有持分を購入しても、赤の他人である元々の共有者との折衝等に多くの手間を要するなど機動性に欠けるため、相応の減価(市場性減価)をしなければ購入者を見つけることが困難です。

このように、共有持分による所有形態の場合、土地建物の価格を単純に持分割合で按分した金額がそのまま評価額につながらないケースの方が多いといえます。しかも減価の程度は共有者の数が多くなればなるほど大きくなる傾向にあります。それだけでなく、持分のみの売買が市場で成立するかどうか難しいといえます(買手は特殊な専門業者に限定されるのではないでしょうか)。

(2) 維持管理面から

共有物の現状を維持管理していく上でも、また共有物を改良してその価値を高めていく上でも、その行為に関しては各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決しなければならない(民法第252条)こととされています。このように、各所有者が単独で意思決定できないところに共有の煩わしさがあり、減価要因となります。

また、共有物の維持管理には費用がかかり、その費用負担に関しても各共有者は持分に応じて管理費用を支払い、共有物から生ずる公租公課等の負担を負うこととなります(民法第253条第1項)(管理費用を立替払いした共有者のうちの1人が、立替払いを受けた他の共有者に対して持分割合に応じた費用償還請求をすることもできますが)。

(3) 共有であることによる様々なリスク

共有物の場合、民法第256条の規定により他の共有者からいつでも分割を請求される可能性があります。

その際、共有物の分割につき協議が整わないとき、共有者はその分割を裁判所に請求することができます。そして、現物を分割することができないとき、又は分割によって共有不動産の価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所はその競売を命ずることができるため、共有物全体が第三者の手に渡るリスクも生じます(民法第258条第2項)。

共有持分に関しては、共有者間の人間関係や協調関係がスムーズにいっている限り特段の問題は生じませんが、共有者のうちの1人が持分の処分を検討する場合、あるいは他の共有者に対して分割請求をする場合等を契機として、共有者は完全所有権の場合と比較してリスクを負うことになります。共有減価の発生要因は、このような点にも見い出すことができます。

最後に、区分所有建物(マンション)で専有部分が単独所有、敷地部分が共有という場合には、建物利用上の制約は生じないため、鑑定評価上も共有減価は織り込んでいないのが一般的です。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

税理士が知っておきたい

不動産鑑定評価常識

【第11回】

「共有不動産はどうして価値が下がるのか」

~税務の常識と鑑定評価の常識~

 

不動産鑑定士 黒沢 泰

 

不動産は一般の物と異なり価格も高額で、自分一人だけでその購入資金を調達することができないケースも多くあります。このような場合、単独所有というわけにはいかず、資金を提供する他の者との「共有」という形態をとらざるを得ません。

また、相続が発生し、相続人も何人か存在するという場合、相続財産である不動産が共有形態で引き継がれていくケースが多く見受けられます。それだけにとどまらず、相続人が多数存在する場合もあり、各々の持分が細かく分割されていることも珍しくありません。

ここで厄介なのは、共有の場合、単独所有の場合と比較して価値が下がるケースが多いということです(もちろん、すべてにこのような現象が生じるわけではないことは後掲のとおりです)。

ただ、税理士業務に携わる方にとっては、このことを疑問に感ずる向きも多いのではないでしょうか。その理由は、相続税の財産評価では、共有不動産であっても全体の評価額を単純に各々の持分で按分して、各人の評価額を決定していることによると思われます(すなわち、ここでは共有による減価という考え方は反映されておらず、これを仮に「税務の常識」と名付けておきます)。

一方、不動産の鑑定業務に携わる者にとっては、共有により減価が生ずるという捉え方をすることが多く、全体の評価額を各々の持分で按分するだけでは済まないケースがあります(これを仮に「鑑定評価の常識」と名付けておきます)。

今回は、共有不動産の評価に当たり、税務と鑑定評価の捉え方の相違を対比させた後に、共有減価というものがどのような根拠に基づいて発生するのかについて述べます。

 

1 相続税の財産評価における共有不動産の評価~税務の常識

財産評価基本通達では、共有財産の持分の価額につき次の規定を置いています。

〇財産評価基本通達
(共有財産)

2 共有財産の持分の価額は、その財産の価額をその共有者の持分に応じてあん分した価額によって評価する。

また、国税庁ホームページ(質疑応答事例)では、共有地の評価につき次の回答を行っています。

〇国税庁・質疑応答事例
(共有地の評価)

【照会要旨】
共有地の各共有者の持分の価額はどのように評価するのでしょうか。

【回答要旨】
評価しようとする土地が共有となっている場合には、その共有地全体の価額に共有持分の割合を乗じて、各人の持分の価額を算出します。したがって、例えば共有地全体の価額が1億円の宅地を甲が4分の3、乙が4分の1の割合で共有している場合には、甲の持分の価額は7,500万円(1億円×3/4)、乙の持分の価額は2,500万円(1億円×1/4)となります。

【関係法令通達】
財産評価基本通達2

このように、相続税評価の上では不動産の評価額(総額)に共有持分割合を乗じた金額そのものが共有者各人の持分の価額とされており、共有減価という考え方は登場しません。

 

2 鑑定評価の常識では

共有持分の評価に当たり参考になる考え方が、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会のホームページで次のとおり紹介されています(下線は筆者によります)。

マンション共有持ち分権の評価

:夫婦で共有持分2分の1ずつのファミリーマンションのうち夫の持分2分の1が競売で売りに出ています。共有持分の評価はどのようにするのでしょうか。

:競売においてファミリーマンションの共有持分のみが売却対象となるケースは稀にはあります。そこでまず共有持ち分に係わる競売物件の評価について、原則的な考え方を記します。
 通常の競売物件の評価では一般市場における適正な時価を基礎とし、競売市場特有の要因(所有者の協力が得られない、心理的抵抗感、内覧に制約がある、資金的余裕を要するなど)を考慮し、競売市場修正を行って売却基準価格(最低売却価額)を求めますが、売却不動産固有の要因によって需要が限定されることが予想される場合、競売市場修正を行う前段階で市場性修正を行っています。
 共有持ち分には比較的分割し易い更地から分割し難い土地建物まで様々なケースが考えられますが、ファミリーマンションの一室は分割できないので換価分割(注1)、代償分割(注2)に限られ、分割の選択肢は限られるので分割の時間的、経済的負担を考慮し20%前後の市場性減価を行っているのが一般的です。このように共有持ち分のみの売却の場合は共有減価を行いますが、すべての共有持ち分(100%)を売却するときは、共有減価は行いません。買受人は100%の所有権を取得することになるからです。

(注1) 筆者注:換価分割とは、共有物全部を売却し、売買代金を持分に従って共有者間で分割する方法を意味します。

(注2) 筆者注:代償分割とは、特定の共有者が他の共有者から持分を買い取る(=代償金を支払う)結果、その不動産を単独所有することを意味します。

なお、ここに紹介されているケースは共有減価の生じる(=共有減価を認識する必要の生じる)一例であり、このようなケースは他にも多くあります。ただし、ここに記載されているように、すべての共有持分を一括して特定の一人に売却する場合には共有状態が解消し、買主は単独所有の物件を取得することになるため、共有減価の必要はなくなります。

 

3 共有不動産はどうして価値が下がるのか

以上、税務の視点及び鑑定評価の視点から共有不動産の価値の捉え方の相違を検討してきました。そこで、共有不動産はどうして価値が下がるのかという素朴な疑問に対する考え方を述べてみたい思います。

(1) 売買との関連から

共有不動産の持分は、現実には親族間又は他の共有者との間で売買されるケースの方が圧倒的に多いといえます。また、一般に共有不動産といっても、共有者が2名で、その一方が他方から持分を譲り受ける場合は同時に完全所有権の状態が実現するため、購入後の制約に伴う市場性減価の生ずる余地はなくなります。

しかし、第三者が共有持分を購入しても、赤の他人である元々の共有者との折衝等に多くの手間を要するなど機動性に欠けるため、相応の減価(市場性減価)をしなければ購入者を見つけることが困難です。

このように、共有持分による所有形態の場合、土地建物の価格を単純に持分割合で按分した金額がそのまま評価額につながらないケースの方が多いといえます。しかも減価の程度は共有者の数が多くなればなるほど大きくなる傾向にあります。それだけでなく、持分のみの売買が市場で成立するかどうか難しいといえます(買手は特殊な専門業者に限定されるのではないでしょうか)。

(2) 維持管理面から

共有物の現状を維持管理していく上でも、また共有物を改良してその価値を高めていく上でも、その行為に関しては各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決しなければならない(民法第252条)こととされています。このように、各所有者が単独で意思決定できないところに共有の煩わしさがあり、減価要因となります。

また、共有物の維持管理には費用がかかり、その費用負担に関しても各共有者は持分に応じて管理費用を支払い、共有物から生ずる公租公課等の負担を負うこととなります(民法第253条第1項)(管理費用を立替払いした共有者のうちの1人が、立替払いを受けた他の共有者に対して持分割合に応じた費用償還請求をすることもできますが)。

(3) 共有であることによる様々なリスク

共有物の場合、民法第256条の規定により他の共有者からいつでも分割を請求される可能性があります。

その際、共有物の分割につき協議が整わないとき、共有者はその分割を裁判所に請求することができます。そして、現物を分割することができないとき、又は分割によって共有不動産の価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所はその競売を命ずることができるため、共有物全体が第三者の手に渡るリスクも生じます(民法第258条第2項)。

共有持分に関しては、共有者間の人間関係や協調関係がスムーズにいっている限り特段の問題は生じませんが、共有者のうちの1人が持分の処分を検討する場合、あるいは他の共有者に対して分割請求をする場合等を契機として、共有者は完全所有権の場合と比較してリスクを負うことになります。共有減価の発生要因は、このような点にも見い出すことができます。

最後に、区分所有建物(マンション)で専有部分が単独所有、敷地部分が共有という場合には、建物利用上の制約は生じないため、鑑定評価上も共有減価は織り込んでいないのが一般的です。

(了)

「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

税理士が知っておきたい
不動産鑑定評価の常識

第1回~第40回 ※クリックするとご覧いただけます。

第41回~

筆者紹介

黒沢 泰

(くろさわ・ひろし)

大手鉄鋼メーカーの系列会社(部長職)にて不動産鑑定業務を中心に担当。不動産鑑定士。

【役職等】
不動産鑑定士資格取得後研修担当講師(財団の鑑定評価、現在)、不動産鑑定士実務修習修了考査委員(現在)、不動産鑑定士実務修習担当講師(行政法規総論、現在)、(公社)日本不動産鑑定士協会連合会調査研究委員会判例等研究委員会小委員長(現在)

【主著】
『土地の時価評価の実務』(平成12年6月)、『固定資産税と時価評価の実務Q&A』(平成27年3月)、『基準の行間を読む 不動産評価実務の判断と留意点』(令和元年8月)『不動産鑑定評価書を読みこなすための基礎知識』(令和2年12月)『土地利用権における鑑定評価の実務Q&A』(令和3年12月)『新版 実務につながる地代・家賃の判断と評価』(令和4年9月)『新版/税理士を悩ませる『財産評価』の算定と税務の要点』(令和5年7月)『税理士が知っておきたい/実務で役立つ 不動産鑑定評価の常識』(令和6年7月、以上清文社)、『新版 逐条詳解・不動産鑑定評価基準』(平成27年6月)『新版 私道の調査・評価と法律・税務』(平成27年10月)、『不動産の取引と評価のための物件調査ハンドブック』(平成28年9月)、『すぐに使える不動産契約書式例60選』(平成29年7月)『雑種地の評価 裁決事例・裁判例から読み取る雑種地評価の留意点』(平成30年12月、以上プログレス)、『事例でわかる不動産鑑定の物件調査Q&A(第2版)』(平成25年3月)、『不動産鑑定実務ハンドブック』(平成26年7月、以上中央経済社)ほか多数。

     

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