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2 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」の主な内容
現行では、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日時点で公布されている税率である。しかし、決算日以前に税制改正の法律が成立していても、公布されていなければ改正前の税率で繰延税金資産及び繰延税金負債を計算することになり、有用な情報とはいえない(税率適用指針案15)。また、改正地方税等が決算日時点で公布されていても改正条例が決算日時点で成立していない場合の取扱いが明確になっていないなどの意見がある(税率適用指針案16)。そのため、以下の改正が提案されている。
なお、本解説は公開草案をもとに解説しているため、「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」が正式に公表された際には、公開草案からの変更点について確認する必要がある。
(1) 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率
法人税、地方法人税及び地方法人特別税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等(法人税、地方法人税及び地方法人特別税の税率が規定されている法)に規定されている税率とすることが提案されている(税率適用指針案5)。
(2) 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)に関する税率
住民税(法人税割)及び事業税(所得割)(以下、「住民税等」という)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している税法(住民税等の税率が規定されているもの(以下「地方税法等」という))に基づく税率によることが提案されている(税率適用指針案6)。
また、決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、以下の税率をいうと提案されている(税率適用指針案7)。
① 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合(地方税法等を改正するための法案が国会に提出されていない場合を含む)
決算日において国会で成立している地方税法等を受けた条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率(以下、「超過税率」という))
② 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合
(ⅰ) 改正地方税法等を受けて改正された条例(以下「改正条例」という)が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立している場合
(ⅱ) 改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合(標準税率の場合は(ア)、超過税率の場合は(イ))
【(ア) 決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されているとき】
改正地方税法等に規定されている標準税率
【(イ) 決算日において成立している条例に超過税率で課税することが規定されているとき】
改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率
この場合、原則として、次のいずれかの方法により算定する(税率適用指針案8)。
- 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える数値を加えて算定する。算定した税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする(以下、「数値加算法」という)。
- 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率における改正直前の地方税法等の標準税率に対する割合を乗じて算定する。算定した税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする(以下、「割合法」という)。
⇒ 2つの算定方法については、連結グループで統一することが考えられるが、統一しないことによる繰延税金資産及び繰延税金負債への影響に重要性が乏しい場合、統一しないことも認められると考えられる。
《 設 例 》
- 当社は東京に本社があり、資本金5億円である。
- 現行の条例では、平成29年3月期においては、標準税率は1.9%、超過税率は2.14%の適用が予定されていた。
- 平成28年3月31日に国会で改正法人税法等及び改正地方税法等が改正された。なお、ここでは、地方法人特別税の廃止された分、法人事業税・所得割の税率を引き上げている。
- 一方、平成28年3月31日時点で改正条例は成立していない。
- 現行の税率及び改正税率は、以下のとおりである。
(注) 下線部分が改正点である。
1 法人事業税(超過税率)の算定
上記(2)②(ⅱ)(イ)のとおり、算出方法は2つある。
(1) 数値加算法
現行の条例で平成29年3月期に適用される予定であった標準税率(1.9%)と超過税率(2.14%)の差を平成29年3月期以降の法人事業税(標準税率)に加算する。
平成29年3月期:0.7%+(2.14%-1.9%)=0.94%
平成30年3月期以降:3.6%+(2.14%-1.9%)=3.84%
(2) 割合法
現行の条例で平成29年3月期に適用される予定であった標準税率(1.9%)と超過税率(2.14%)の割合を平成29年3月期以降の法人事業税(標準税率)に乗じる。
割合法には、地方法人特別税を含む法人事業税率で計算する方法と含まない法人事業税率で計算する方法がある。
ここでは、地方法人特別税を含まない法人事業税率で計算する方法のみ取り上げる。
平成29年3月期 : 0.7%×(2.14%÷1.9%)=0.79%
平成30年3月期以降: 3.6%×(2.14%÷1.9%)=4.05%
当該設例では、(1)数値加算法による数値を採用し、上記表に記載している。
2 法定実効税率の算定
法人事業税(及び法人住民税)について超過税率適用の場合は、以下のように計算する。
【平成29年3月期まで】
【平成30年3月期以降】
(参考)法人事業税(及び法人住民税)について標準税率適用の場合は、以下のように計算する。
【平成29年3月期まで】
【平成30年3月期以降】
計算の結果は以下のとおりである。
法定実効税率が低下することで、繰延税金資産及び繰延税金負債が減少する。
(3) 適用時期
平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが提案されている(税率適用指針案10)。
【参考】 ASBJホームページ
- 企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」
- 企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
- 企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」
(了)