公開日: 2016/02/25 (掲載号:No.158)
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平成28年3月期決算における会計処理の留意事項 【第2回】「税効果会計の改正」

筆者: 西田 友洋

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2 「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」の主な内容

現行では、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日時点で公布されている税率である。しかし、決算日以前に税制改正の法律が成立していても、公布されていなければ改正前の税率で繰延税金資産及び繰延税金負債を計算することになり、有用な情報とはいえない(税率適用指針案15)。また、改正地方税等が決算日時点で公布されていても改正条例が決算日時点で成立していない場合の取扱いが明確になっていないなどの意見がある(税率適用指針案16)。そのため、以下の改正が提案されている。

なお、本解説は公開草案をもとに解説しているため、「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」が正式に公表された際には、公開草案からの変更点について確認する必要がある。

(1) 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率

法人税、地方法人税及び地方法人特別税について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している法人税法等(法人税、地方法人税及び地方法人特別税の税率が規定されている法)に規定されている税率とすることが提案されている(税率適用指針案5)。

(2) 住民税(法人税割)及び事業税(所得割)に関する税率

住民税(法人税割)及び事業税(所得割)(以下、「住民税等」という)について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している税法(住民税等の税率が規定されているもの(以下「地方税法等」という))に基づく税率によることが提案されている(税率適用指針案6)。

また、決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率とは、以下の税率をいうと提案されている(税率適用指針案7)。

① 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立していない場合(地方税法等を改正するための法案が国会に提出されていない場合を含む)

決算日において国会で成立している地方税法等を受けた条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率(以下、「超過税率」という))

② 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合

(ⅰ) 改正地方税法等を受けて改正された条例(以下「改正条例」という)が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立している場合

決算日において成立している条例に規定されている税率(標準税率又は超過税率)

(ⅱ) 改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合(標準税率の場合は(ア)、超過税率の場合は(イ))

【(ア) 決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されているとき】

改正地方税法等に規定されている標準税率

【(イ) 決算日において成立している条例に超過税率で課税することが規定されているとき】

改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率

この場合、原則として、次のいずれかの方法により算定する(税率適用指針案8)。

  • 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える数値を加えて算定する。算定した税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする(以下、「数値加算法」という)。
  • 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過税率における改正直前の地方税法等の標準税率に対する割合を乗じて算定する。算定した税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする(以下、「割合法」という)。

⇒ 2つの算定方法については、連結グループで統一することが考えられるが、統一しないことによる繰延税金資産及び繰延税金負債への影響に重要性が乏しい場合、統一しないことも認められると考えられる

《 設 例 》

  • 当社は東京に本社があり、資本金5億円である。
  • 現行の条例では、平成29年3月期においては、標準税率は1.9%、超過税率は2.14%の適用が予定されていた。
  • 平成28年3月31日に国会で改正法人税法等及び改正地方税法等が改正された。なお、ここでは、地方法人特別税の廃止された分、法人事業税・所得割の税率を引き上げている。
  • 一方、平成28年3月31日時点で改正条例は成立していない。
  • 現行の税率及び改正税率は、以下のとおりである。

(注) 下線部分が改正点である。

 

1 法人事業税(超過税率)の算定

上記(2)②(ⅱ)(イ)のとおり、算出方法は2つある。

(1) 数値加算法

現行の条例で平成29年3月期に適用される予定であった標準税率(1.9%)と超過税率(2.14%)の差を平成29年3月期以降の法人事業税(標準税率)に加算する。

平成29年3月期:0.7%+(2.14%-1.9%)=0.94%

平成30年3月期以降:3.6%+(2.14%-1.9%)=3.84%

(2) 割合法

現行の条例で平成29年3月期に適用される予定であった標準税率(1.9%)と超過税率(2.14%)の割合を平成29年3月期以降の法人事業税(標準税率)に乗じる。

割合法には、地方法人特別税を含む法人事業税率で計算する方法と含まない法人事業税率で計算する方法がある。

ここでは、地方法人特別税を含まない法人事業税率で計算する方法のみ取り上げる。

平成29年3月期 : 0.7%×(2.14%÷1.9%)=0.79%

平成30年3月期以降: 3.6%×(2.14%÷1.9%)=4.05%

当該設例では、(1)数値加算法による数値を採用し、上記表に記載している。

 

2 法定実効税率の算定

法人事業税(及び法人住民税)について超過税率適用の場合は、以下のように計算する。

【平成29年3月期まで】

【平成30年3月期以降】

(参考)法人事業税(及び法人住民税)について標準税率適用の場合は、以下のように計算する。

【平成29年3月期まで】

【平成30年3月期以降】

計算の結果は以下のとおりである。

 	平成28年 3月期	平成29年 3月期	平成30年 3月期	平成31年 3月期 法定実効税率 (超過税率適用の場合)	33.06%	30.90%	30.90%	30.66% 法定実効税率 (標準税率適用の場合)	32.11%	29.97%	29.97%	29.74%

法定実効税率が低下することで、繰延税金資産及び繰延税金負債が減少する。

(3) 適用時期

平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することが提案されている(税率適用指針案10)。

【参考】 ASBJホームページ

(了)

平成28年3月期決算における会計処理の留意事項

【第2回】

「税効果会計の改正」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

  • 【第1回】 平成27年度税制改正及び平成28年度税制改正大綱
  • 【第2回】 税効果会計の改正 ※本稿
  • 【第3回】 企業結合会計基準等の改正
  • 【第4回】 金融庁の平成26年度有価証券報告書レビューの審査結果

平成27年12月10日に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に関する税率に関する適用指針(案)(以下、「税率適用指針案」という)」が公表されている。また、平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収適用指針」という)」が公表されている。今回は、公表された2つの適用指針について解説する。

 

1 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」の主な改正点

回収適用指針では、以下の実務指針について、基本的にその内容を引き継いだ上で、必要と考えられる見直しが行われている。

  • 会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」、同第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」及び会計制度委員会「税効果会計に関するQ&A」のうち繰延税金資産の回収可能性に関する定め
  • 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い(以下、「監委66号」という)」及び監査委員会報告第70号「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い(以下、「監委70号」という)」のうち会計処理に関する部分

ここでは、以下の主な改正点について解説する。

【主な改正点】

(1) 企業の分類

(2) 「分類2」に該当する企業におけるスケジューリング不能な将来減算一時差異

(3) 「分類3」に該当する企業における将来の一時差異等加減算前課税所得の合理的な見積可能期間

(4) 「分類4」に係る分類の要件を満たす企業が「分類2」又は「分類3」に該当する場合

(5) 会計方針の変更

(6) 適用時期

(7) 未適用の会計基準等に関する注記

(1) 企業の分類

監委66号において、企業を5つに分類することが求められていた。回収適用指針においても基本的に踏襲した上で一部必要な見直しが行われている。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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