〔顧問先を税務トラブルから救う〕
不服申立ての実務
【第8回】
「実質審理に入る前の国税不服審判所の手続」
公認会計士・税理士 大橋 誠一
1 形式審査
(1) 形式審査の意義
形式審査とは、審査請求が法令に定める手続に従って適法にされたか否かについての手続要件の審査である。
審査請求書を受理した場合には、審査請求書の副本を原処分庁に送付するとともに、原処分庁に形式審査に必要な書類の提出を求め、その審査請求事件の担当審判官及び分担者として指定されることが予定される者を形式審査担当者に指名し、その形式審査担当者により形式審査が行われる。
(2) 形式審査の範囲と方法
形式審査は具体的には次のような事項について行われ、原則として書面審査の方法によるが、審査請求人及び原処分庁提出の資料では不十分な場合には、審査請求人又は原処分庁に対して調査を行うこともある。
① 審査請求の対象となる処分の存否
② 審査請求ができない処分でないかどうか
③ 不服申立適格及び請求の利益の存否
④ 適法な審査請求期間内かどうか
⑤ 再調査の請求の適法性
⑥ 不服申立先が適法であるかどうか
⑦ 裁決済みの処分についての審査請求でないかどうか
⑧ 審査請求中の処分について再度審査請求されたものかどうか
⑨ その他不適法事由の有無
(3) 補正の求め
審査請求書の記載内容及び添付書類の審査の結果、必要な記載事項を欠いているなどの不備があるが、その不備を補正することによって適法と認められる審査請求については、相当の期間を定めて、その補正を求めなければならない。
補正に当たっては、形式に捉われることなく、できる限り適法な審査請求として補正されるよう、審査請求人の意とするところを読みとった弾力的な取扱いをしている。
例えば、審査請求の前段階である再調査の請求についての再調査決定の取消しを求める審査請求がされた場合、再調査決定そのものの取消しを求めることは国税通則法の規定によりできないことになっているので、その審査請求の趣旨が明らかに再調査決定の取消しのみを求める趣旨のものでない限り、再調査決定を経た後の原処分についての取消しを求める審査請求とするように、審査請求人に十分説明した上で訂正を求めることになる。
補正の手続は、補正の確実性を期するために、書面による補正が望ましいが、審査請求人又は代理人が口頭による補正を申し出たときは、補正の内容を録取書に記録することにより、審査請求人等の意思の確実な伝達と証拠保全を図っている。
また、審査請求書の記載内容の欠陥又は不備が軽微なものについては、審査請求書の記載内容及び添付書類又は原処分関係書類等によって、審査請求書の必要的記載事項が判明するときは、審査請求人等の意思を確認しないで職権により補正し、他方、当該書類等では当該事項が判明しないときは、電話や書面により審査請求人等の意思を確認した上で職権により補正している。
なお、補正により、不備が訂正されたときは、初めから適法な審査請求がされたものとして取り扱われることはいうまでもない。
このように、補正手続はできる限り適法な審査請求となるようにするものであって、形式審査担当者は、審査請求人が機敏に補正に対応しないからといって、安易に却下裁決を起案すべきではない。
2 不適法な審査請求に対する審理手続を経ないでする却下裁決
(1) 却下裁決には2種類ある
形式審査を終了した後、適法と認められる審査請求及び不適法であることが明らかでない審査請求は、答弁書の提出を原処分庁に求めるとともに、担当審判官等を指名し、これらの者で構成する合議体に配付され、実質審理に入ることになるが、審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかな審査請求又は補正を求めても定められた期間内に補正されなかった審査請求は、国税通則法第92条の規定に基づき、審理手続を経ないで不適法な審査請求として却下の裁決がされる。
この場合の却下は、裁決の一態様ではあるが、他の裁決と異なり実質審理の対象として取り上げない旨の判断であるため、審理手続を経ないで行うことから、国税不服審判所長は合議体の議決に基づくことなく裁決を行う。
なお、形式審査の段階では不適法であることが明らかでなく、実質審理に着手した後に不適法な審査請求であることが判明したときは、国税通則法第98条の規定に基づき、合議体の議決に基づき却下の裁決がされる。
(2) 不適法であることが明らかな審査請求
例えば次のようなものがある。
① 審査請求の対象となった処分が審査請求をすることのできないものである場合
② 審査請求の対象となった処分が存在しない場合又は裁決がされるまでにその処分が取り消されるなどして消滅した場合
③ 審査請求の対象となった処分が審査請求人の権利又は法律上の利益を侵害するものでない場合
④ 審査請求の対象となった処分について、既に国税不服審判所長の裁決がされている場合
⑤ 審査請求が法定の審査請求期間経過後にされており、かつ、審査請求期間を経過したことについて正当な理由が認められない場合
⑥ 審査請求中の処分について再度審査請求された場合
なお、これらの不適法事由について若干補足すれば、②の処分の有無については、処分は行政庁の公権力の行使によって、直接国民の権利義務に影響を及ぼす法律上の効果を生ずるものであることを要するから、例えば、公売予告通知、延滞税の通知、予定納税基準額の通知等は、これに当たらず却下されることになる。
また、⑤の法定の審査請求期間の経過については、不服申立期間である3ヶ月(直接審査請求の場合)又は1ヶ月(再調査の請求を経る場合)の期間計算は、争訟手続上の要件であることから厳格に解釈されており、正当な理由がなければ宥恕されることはない。
(3) 正当な理由の該当例
審査請求が法定の審査請求期間経過後にされており、かつ、審査請求期間を経過したことについて認められる「正当な理由」には、例えば、次のような場合などの不服申立人の責めに帰すべからざる事由が一般的に該当するとされている。
① 原処分庁が誤って法定の期間より長い期間を不服申立期間として教示した場合において、その教示された期間内に不服申立てがされた場合
② 地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合
③ 火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合
3 答弁書の要求
(1) 答弁書提出の趣旨
形式審査の結果、審査請求が適法と認められる場合又は不適法であることが明らかでない場合については、首席審判官(各地域国税不服審判所長)は、原処分庁に対して答弁書の提出を求める。
答弁書は審査請求人の主張に対する原処分庁の主張を記載した書面であり、原処分庁は必ず答弁書を提出する義務があるとされている。
これは、審査請求人に審査請求の趣旨、理由を審査請求書に明確に記載することを要求することに対応して、原処分庁にもその主張を明確に表明することを義務付けたものである。
(2) 答弁書の記載事項
答弁書には審査請求の趣旨及び理由に対応して、原処分庁の主張が記載されていなければならないことが国税通則法において規定されている。
すなわち、審査請求の趣旨に対応してどのような裁決を求めるかが明らかにされるとともに審査請求の理由により特定された原処分の違法事由に対応して、原処分庁の主張を具体的に記載することになる。
原処分の理由は既に更正等の通知書又は再調査決定書において示されているところであるが、その処分理由に対する審査請求人の主張が審査請求書で明らかにされているのであるから、答弁書においては、原処分の理由の引き写しでは不十分であるのは当然であり、問題点をより一層絞り込み深度ある原処分庁の主張が記載されることが要求される。
(了)
「〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務」は、毎月第2週に掲載します。