居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第15回】 「居住の用に供されなくなった家屋が災害により滅失した場合」 -災害跡地の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、6年前の12月に居住用家屋とその敷地を東京に取得しました。一昨年の4月に大阪へ転勤となり、その家屋は空き家となっていましたが、昨年の9月の大型台風でその家屋は滅失してしまいました。 本年の5月にその敷地を売却しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。なお、災害で滅失したその家屋の取得から滅失までの所有期間は、5年超の要件を満たしていません。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● その居住の用に供している家屋でその居住の用に供されなくなったものが「災害」により滅失した場合において、その居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡したときは、その譲渡は、譲渡資産の譲渡に該当するものとして取り扱うことができるとされています。 この場合において、その家屋の所有期間の判定にあたっては、その譲渡のときまでその家屋を引き続き所有していたものとして取り扱われます(措法41の5⑦一ロ、措通41の5-7(居住の用に供されなくなった家屋が災害により滅失した場合))。 なお、「災害」については、震災、風水害、火災その他政令で定める災害をいうものと規定されています(所法2①二十七、所令9、措通31の3-13(「災害」の意義))。 したがって、本事例の場合の土地の譲渡は、災害で滅失した家屋が居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡され、そして、その滅失した家屋の取得の日からその土地の譲渡の時までの期間、つまり、その家屋が現存すると仮定した場合の所有期間が5年超であることから、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 おって、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(同条⑦一ロ、措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第3回】 「国外関連取引に「重要な無形資産」が存在するか否かの判断」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 残余利益分割法は、内国法人及びその国外関連者の双方に重要な無形資産がある場合に用いられる方法であるが、国外関連者が有する重要な無形資産をどのように把握するのか。 〔A〕 国外関連取引の内容や法人及び国外関連者の活動・機能、市場の状況等を十分に検討し、国外関連取引に無形資産が関連しているか、また、所得の源泉になっているかを総合的に勘案する。 ●●●〔解説〕●●● 1 移転価格税制上の無形資産の考え方について 国税不服審判所令和元年7月2日裁決(※1)は、「(残余利益分割法とは)平成7年の『多国籍企業と税務当局のための移転価格の算定に関するガイドライン』(OECD移転価格ガイドライン)の公表に伴う平成12年9月8日付課法2-13ほかによる措置法通達の改正により、当時の措置法施行令で規定する利益分割法に含まれることが明らかにされた方法であり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合に適用される方法である(下線筆者)」と述べている。 (※1) 名裁(法)令元-1(TAINSコード:F0-2-890) そこで問題となるのが、移転価格税制上の無形資産とは何かについてである。規定上は、「(有形資産及び金融資産以外の資産で)これらの資産の譲渡若しくは貸付け又はこれらに類似する取引が独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って行われるとした場合にその対価の額が支払われるべきもの」と定義されている(租税特別措置法66条の4第7項2号及び租税特別措置法施行令39条の12第13項)。 また「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「事例集」)の【事例11】の《解説》では、「法人又は国外関連者の所得の源泉となる無形資産は、主に無形資産のうち重要な価値があると認められるものであるため、無形資産として『重要な価値』を有するかどうかの判断が必要となる。その判断に当たっては、国外関連取引の内容や法人及び国外関連者の活動・機能、市場の状況等を十分に検討する必要がある」と述べている。 さらに、「調査に当たっては、重要な価値を有し所得の源泉となるものを幅広く検討対象とし、国外関連取引にこれらの無形資産が関連しているか、また、所得の源泉になっているかを総合的に勘案する必要がある(事務運営指針3-12前段部分)」として、①技術革新を要因として形成される特許権、営業秘密等、②従業員等が経営、営業、生産、研究開発、販売促進等の企業活動における経験等を通じて形成したノウハウ等、及び③生産工程、交渉手順及び開発、販売、資金調達等に係る取引網等を掲げている。 事例集は、続けて、「法人又は国外関連者の有する無形資産が所得の源泉となっているかどうかの検討に当たっては、例えば、国外関連取引の事業と同種の事業を営み、市場、事業規模等が類似する法人のうち、独自の機能を果たさない法人(基本的活動のみを行う法人)を把握できる場合には、法人又は国外関連者の国外関連取引に係る利益率等の水準と基本的活動のみを行う法人の利益率等の水準との比較を行うとともに、法人又は国外関連者の無形資産の形成に係る活動、機能等(例えば、本事例における研究開発や広告宣伝に係る活動・機能など)を十分に分析する必要がある(事務運営指針3-12後段部分)」としている。 事例集では、具体例として、①研究開発及びマーケティング活動により形成された無形資産【事例11】、②販売網及び品質管理ノウハウに関する無形資産【事例12】、③従業員の事業活動を通じて企業に蓄積されたノウハウ等の無形資産【事例13】、④無形資産の形成・維持・発展への貢献【事例14】、⑤無形資産の形成費用のみ負担している場合の取扱い【事例15】、及び⑥出向者が使用する法人の無形資産【事例16】についてそれぞれ解説している。 2 残余利益分割法に係る裁判例 残余利益分割法を適用するに際し、実務上問題となるのが果たして国外関連者が無形資産を有するか否かの検証であろう。この点に関し、残余利益分割法の適用が争点となった上村工業事件(※2)を取り上げる。 (※2) 第一審は東京地裁平成29年11月24日判決(平成25年(行ウ)第263号・税資第267号-141(順号13090))(TAINSコード:Z267-13090)。控訴審は東京高裁令和元年7月9日判決(平成29年(行コ)第382号・判例集未掲載)(TAINSコード:Z888-2290)。 《上村工業事件》 (1) 事件の概要 本件は、めっき薬品の製造販売等を業とするX(原告・控訴人)が、国外関連者であるB社(Xが発行済株式総数の50%超を有する台湾子会社)及びC社(Xが発行済株式総数の100%を有するマレーシア子会社)との間でめっき薬品の製造・販売に係る技術やノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引(本件国外関連取引)を行い、当該取引について当該国外関連者から支払を受けた対価の額を益金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、所轄税務署長Yから、上記支払を受けた対価の額は独立企業間価格に満たないとして、更正処分及び賦課決定処分を受けたところ、Xはかかる処分等を不服として、申告額等を超える部分の取消しを求めた事案である。 なお、B社は製造しためっき製品について直接あるいはD社(Xが発行済株式総数の100%を有するシンガポール子会社)を通じて非関連者に販売し、C社は同製品をD社を通じて非関連者に販売していた。 (2) 裁判所の判断 本件において、Xは、Xの関係会社ではない韓国所在のE社とのめっき製品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供取引を比較対象取引(Eライセンス取引。いわゆる内部コンパラ)であると主張したが、第一審である東京地裁は、本件国外関連取引とEライセンス取引を比較すると、その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し、その影響を具体的に把握することは極めて困難であって、生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから、両取引が『同様の状況』の下でされたものということはできないとしてEライセンス取引は本件国外関連取引の比較対象取引になるということはできないとした。 そして、X及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができると判示した。本件控訴審である東京高裁判決も、かかる第一審の結論判旨を支持した。 (3) 国外関連者が有する重要な無形資産の認定について 本件第一審は、「X及びその国外関連者においてXのライセンス製品の製造、販売等により所得(利益)を得ているのは、①Xが、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、顧客のニーズに沿っためっき薬品を開発した上、国外関連者に対して当該めっき薬品の製造、販売等に関する技術情報やノウハウを提供するほか、国外関連者やその顧客に対する技術支援も行うことによって、Xのライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させていること、並びに、②B社及びD社においても、Xからノウハウの提供や技術支援を受けながら、顧客に対する営業及び技術サポートを行うことで、台湾やASEAN諸国においてXのライセンス製品を市場に浸透させて付加価値を創出し、その販売先となる顧客を開拓、維持していること(例えば、B社は、ユーザーに対する徹底的な技術サポートによって商品に付加価値をつけ、D社も、日系企業に対する営業・技術サポートを行うことにより、当該日系企業を販売先として確保するなどしている)によるものということができる」とし、さらに「このうち①はXの、②はB社及びD社のそれぞれ重要な無形資産(※3)であって、これらの無形資産が総合的に活用されることにより、本件国外関連取引は事業成果を上げ、所得(利益)を生み出しているものといえる」と事実認定することで、「Xとその国外関連者双方に重要な無形資産が存在する」と結論付けた。 (※3) なお、C社はその製造した製品等をすべてD社を通じて販売しているため、B社やD社の有する②のような無形資産は有していないと判断している。 (了)
〔強制適用前におさえておきたい〕 監査上の主要な検討事項(KAM)への対応と留意点 【第2回】 「早期適用事例の分析」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 2020年3月期より、KAMが早期適用されている。早期適用している会社が複数あるため、今回は、その事例の分析結果を解説する。 (注) キャノン(株)については、US基準のため(米国は日本よりもKAMの適用が早いため)、2019年12月期の有価証券報告書における監査報告書においてKAMを記載している。 1 KAMの早期適用 (1) 早期適用会社 早期適用会社は合計で50社(上場会社46社、非上場会社4社)ある。このうち、連結財務諸表においてKAMを記載した会社は48社で、KAMの総数は104個(平均2.2個)であった。個別財務諸表においてKAMを記載した会社は39社で、KAMの総数は50個(平均1.3個)であった。 連結財務諸表作成会社でKAMがないとしている事例はなかった。個別財務諸表においては、純粋持株会社やこれに準ずる会社(以下、「純粋持株会社等」という)の個別財務諸表の監査報告書10件(監査基準委員会研究資料第1号「「監査上の主要な検討事項」の早期適用事例分析レポート」(以下、「監基研1」という)3(2)③ウ)及び鳴門ゴルフ(株)でKAMの記載がなかった。 なお、純粋持株会社等でもKAMを記載している事例は6件ある(監基研1.3(2)③ウ)(※)ため、純粋持株会社等の個別財務諸表において、KAMを記載するかどうかは、各社ごとに判断が異なっている。 (※) (株)AOKIホールディングス、(株)りそなホールディングス、(株)日本取引所グループ、第一生命ホールディングス(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱UFJ証券ホールディングス(株)。 【KAMを早期適用している会社一覧】 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (2) 項目別のKAMの個数 KAMの項目ごとの個数は、以下のとおりである。 【KAMの項目ごとの個数】 特徴としては、以下が挙げられる。 KAMは、会計処理について記載されることが多いと考えられるが、ITシステムの評価(内部統制)について記載している事例もあった。ITシステムの評価(内部統制)は連結で3個(3社)、個別で3個(3社)で合計4社(連結のうち2社では個別でも記載している)で記載があった。このうち、3社は収益認識に係るITシステムの評価であり、残りの1社は人事システムの評価であった。 また、開示(注記)について記載している事例(上記の表では「その他」に含まれている)もあった。 (3) 参考事例 早期適用事例の会社では、今後のKAMの記載にあたって、参考になる事例がある。ここでは、その事例を紹介する。 ① (株)AOKIホールディングス-重要な虚偽表示リスクと監査への影響について、表形式で記載している事例及び新型コロナウイルス感染症の影響について記載している事例 (株)AOKIホールディングスの事例では、重要な虚偽表示リスクと監査への影響について、表形式で説明し、潜在的影響額と発生可能性が共に「高」の項目についてKAMとして記載している。監査上、どこにどれだけのリスクがあると想定しているかがわかり、この会社で監査人が注力している項目もわかる事例である。また、新型コロナウイルス感染症の影響が監査上のどの項目に影響したかわかる事例である。 〈(株)AOKIホールディングス:2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ② 三井物産(株)-KAMを1つの事象をベースに記載している事例及びKAMの内容及び選定理由の記載が金額をもとに丁寧に記載されている事例 三井物産(株)の事例では、KAMが将来の油価という1つの事象をベースに、関連する会計処理について記載している。また、KAMの決定理由が金額をもとに丁寧に記載されている。 〈三井物産(株):2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ③ 綜合警備保障(株)-のれんの評価の監査手続が具体的に記載されている事例 綜合警備保障(株)の事例では、のれんの評価の監査手続が具体的に記載されている。また、事業ごとの将来の事業計画の重要な仮定が記載されている。 〈総合警備保障(株):2020年3月期の連結財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ④ ソフトバンク(株)-ITシステムの信頼性について記載している事例 ソフトバンク(株)の事例では、ITシステムの信頼性をKAMとして記載している。 〈ソフトバンク(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ⑤ 三菱地所(株)-個別財務諸表のKAMが連結財務諸表と同じ場合の事例 三菱地所(株)では、連結財務諸表のKAMと個別財務諸表のKAMが同じため、個別財務諸表のKAMにおいては、連結財務諸表と同一である旨を記載している。 〈三菱地所(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書(抜粋)〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 ⑥ 野村不動産ホールディングス(株)-個別財務諸表においてKAMがない事例 野村不動産ホールディングス(株)では、個別財務諸表においてKAMがないため、監査報告書において、その旨を記載している。 〈野村不動産ホールディングス(株):2020年3月期の個別財務諸表に係る監査報告書〉 ※上記監査報告書の赤色の強調は筆者による。 (4) まとめ 2 会社法におけるKAM 会社法では、任意でKAMを記載することができるが、早期適用会社のうち、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループのみ会社法でもKAMを記載していた。内容は、有価証券報告書に記載のKAMと同様である。 〈(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ:2020年3月期の連結計算書類に係る監査報告書(抜粋)〉 〈(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ:2020年3月期の計算書類に係る監査報告書(抜粋)〉 (了)
税効果会計を学ぶ 【第22回】 (最終回) 「表示と注記」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 最終回となる今回は、繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法と注記事項について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 繰延税金資産と繰延税金負債の表示は次のように行われる(「「税効果会計に係る会計基準」の一部改正」(企業会計基準第28号)2項)。 土地再評価差額金に係る繰延税金資産又は繰延税金負債は、他の繰延税金資産又は繰延税金負債とは区別して、貸借対照表の投資その他の資産又は固定負債の区分に、再評価に係る繰延税金資産など又は再評価に係る繰延税金負債など、その内容を示す科目をもって表示する(税効果適用指針63項)。 Ⅲ 注記事項 連結財務諸表規則では、次の事項について注記すると規定している(連結財務諸表規則15条の5)。 注記事項を検討する際には、連結財務諸表規則などの開示に関する規定だけでなく、「税効果会計に係る会計基準」、「「税効果会計に係る会計基準」の一部改正」なども参照していただきたい。 税効果会計の会計処理は、財務諸表における繰延税金資産又は繰延税金負債として表示されることになるが、下記に記載する注記事項についても、税効果会計の会計処理と同時に作成することをおすすめする。注記事項が適切に記載できない場合には、会計処理自体が誤っている可能性が考えられるためである。 1 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生の主な原因別の内訳 繰延税金資産の算定に当たり繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)がある場合には、次の事項を併せて注記しなければならない。 (1) 当該評価性引当額 (2) 当該評価性引当額に重要な変動が生じた場合には、その主な内容 (3) 繰越欠損金を記載する場合であって、当該繰越欠損金が重要であるときは、次の事項を併せて注記しなければならない。 ① 繰越期限別の繰越欠損金に係る次に掲げる事項 イ 繰越欠損金に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額 ロ 繰越欠損金に係る評価性引当額 ハ 繰越欠損金に係る繰延税金資産の額 ② 繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産を回収することが可能と判断した主な理由 2 当該連結会計年度に係る連結財務諸表提出会社の法人税等の計算に用いられた税率(法定実効税率)と法人税等を控除する前の当期純利益に対する法人税等(税効果会計の適用により計上される法人税等の調整額を含む)の比率(税効果会計適用後の法人税等の負担率)との間に差異があるときは、当該差異の原因となった主な項目別の内訳 ※法定実効税率と税効果会計適用後の法人税等の負担率との間の差異が法定実効税率の100分の5以下である場合には、注記を省略することができる。 3 法人税等の税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額 4 連結決算日後に法人税等の税率の変更があった場合には、その内容及び影響 Ⅳ 終わりに 「税効果会計を学ぶ」は、今回の【第22回】で終了することとなる。 税効果会計は税法の知識、繰延税金資産の回収可能性の判断など難しい論点が複数あり、会計処理等の誤りが生じやすいものである。 また、2013年に「税効果会計を学ぶ」の旧シリーズを公開してから行われた会計基準等の移管及び見直しを踏まえて、本シリーズでは改めて税効果会計の基本的な考え方から解説しているので、今回の連載が少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第11回】 「買い手・売り手の特徴の違いを見逃さない」 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒売り手の特徴をつかみ、M&A後の計画や戦略に活かす。 売り手企業 ⇒買い手が売り手の特徴のどこを気にするかを理解し、M&Aの際に参考にする。 支援機関(第三者) ⇒買い手・売り手双方の特徴に着目してM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒買い手・売り手の特徴の違いから対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。 1 統合後の姿を描く 中小企業のM&A実務を経験すると、買い手と売り手が全く同じ業種だったとしても双方の企業の特徴は大きく違う場合があると気づくことが多いのではないでしょうか。M&Aの成否を決めるのは統合後の姿を具体的に描けるかどうかにかかっていますが、そのための前提として、買い手と売り手の特徴の違いをよく理解しておくのが必要です。 大別すると統合後のグループ組織は、買い手と売り手双方が従来の形のまま存続するか、あるいは買い手の組織寄りに売り手の仕組みを変更するかに分けられます。 いずれの場合も、買い手と売り手の特徴の違いをつかんだ上で統合後の組織をイメージできるのが大事ですから、M&Aの過程で入手する情報や資料はこのために積極的に活用し検討しましょう。 今回は、中小企業のM&Aを成功に導くために、M&Aの過程で買い手と売り手の特徴の違いをつかむにはどのような点に着目すればよいかについて解説します。 2 買い手と売り手の特徴の違いを“知ろうとする" 買い手と売り手双方の特徴を数え上げればきりがないですが、本稿ではM&Aに関連するものを一例として紹介します。ポイントは、違いを“知ろうとする"意識です。相手を知ることは自分の特徴を再認識する意味でも役立ちますが、そもそも知ろうとしなければ何も見えてこないものばかりです。多くの場合、相手企業に対する興味や関心の度合いが高いほど、互いの特徴が見えてくる傾向にあります。 以下では、一例ですが中小企業のM&Aで特に意識したい相手企業の特徴例と、こうした特徴を発見した場合の検討事項を挙げましたので参考にしてください。 【中小企業のM&Aで意識したい特徴例と検討事項】 ◆決算期 決算期が異なると比較する対象月がずれますので、業績の変化を正しく捉えることや、相乗効果を見極めるのが難しくなるおそれがあります。連結やグループ全体での決算の見やすさ、わかりやすさを優先したいなら、決算期統一を将来の選択肢の1つとして考慮します。連結決算が義務付けられない企業でも、経営管理上や管理会計上の観点から連結会計の導入をお勧めします。 ◆本社や主要拠点の所在地 距離が遠い企業間のM&Aは、統合後の独立性が保たれやすい一方で、統合効果を実感しにくい面があります。グループの一体性を重視するならば、買い手主導のもと主従の関係を明確にするのも有効です。 人材採用を有利に進められそうな場所に、本社や主要拠点を置きたい意向がある場合や、経営資源の集約による効率化を目指す場合には、戦略的に買い手・売り手の拠点の移転や、将来のホールディングス化を視野に入れる場合もあります。 ◆従業員の平均年齢・平均年収 企業の特徴の違いが大きく出る事項の1つです。給与体系や人事評価は従業員の仕事や生活に直接影響するので、規程のあり方、昇給や昇格、各種手当、賞与や退職金制度、福利厚生関係についての今後の方針は、早い段階で検討しなければなりません。 ◆経営理念・経営方針 企業文化の要であり、相手企業の社風を知る手がかりとなります。M&A後のグループ意識の統一に向けては、理念・方針の変更や代表取締役の交代が効果的ですが、一方的な変更や急な変更を従業員の意識変化が追い付かないまま行うと、既存の従業員の離散を招くなどマイナスの効果になりやすい点に注意が必要です。 ◆社内インフラ 広く言えば経営管理や業務管理をするための土壌、狭く言えばシステム、社内ルール(仕組み)、設備や備品などです。こうした社内インフラは、共通化への対象企業の考え方や幅が出やすいものの1つです。 M&Aにあたっては目先の買収コストを意識しがちですが、実は社内インフラの共通化コストをどこまでかけるべきかも合わせて検討しなければなりません。特にシステム関係は、買い手側でも老朽化で更新時期が近い場合が多く、共通化を目指して新規導入を検討する機会にもなります。 ◆文書管理 契約書、請求書、納品書、領収書といった取引関係書類や、会議体の議事録、稟議制度などの文書管理は、制度の有無や管理体制のレベルに違いが生じやすい事項です。M&Aを機に管理レベルの底上げを念頭に置いた様式やルールの変更を行う場合のほか、取引先と契約のまき直しを行う場合があります。 ◆与信管理 金融機関からみた与信、取引先に対する与信は、企業規模の違いと管理レベルの違いが表れやすい点の1つです。なかでも得意先に対する与信管理は、債権回収のレベルにもつながりますから、信用力の低い取引先との関係整理が必要な場合があります。 ◆会計方針 見えている決算内容は、多少なりとも自社とは異なるアプローチで作られたものであり、相手企業の属する業種特性に応じた商慣行や会計慣行が反映されやすいものとなっています。なかには修正しなければ内容の吟味(良し悪しの判断)ができない取引内容もあります。 このため、M&Aの過程で相手企業の財務内容を調べる手続きを実施しますが、通常、会計方針については、統合後に買い手の方針に合わせる調整が求められます。 3 統合後の戦略を人任せにしない 中小企業のM&Aでは、M&A仲介会社、金融機関、コンサルティング会社といった外部の第三者が何らかの形で関与するケースが多く見受けられます。M&Aの入り口から出口までの間はこれらのプレイヤーと悩みを共有し、妥当な解決策を探るために同じ方向に進むことができますが、案件が終わると、基本的には買い手と売り手のみが取り残されます。ですから、M&Aの当事者である買い手と売り手には、M&A当初からM&A後の戦略と実行までを見据えてこれらを担う人材又は部署を配置するのが望まれます。 この場合、買い手に依存するのが正しいとは限らず、売り手側が統合後の成功のカギを握るケースもあります。そこで、M&Aの過程で両者の特徴を整理する際には、統合後の組織体のあり方について、検討事項ごとに買い手と売り手のより優れた特徴ができるだけ多く採用されるように協力することが、M&Aの成功に近づくためのポイントです。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例31】 「相続開始後の空き家の賃貸と取得時効に関する問題」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 父は、自宅建物を所有しておりましたが、20年以上前に亡くなりました。父の死後、しばらく空き家となっておりましたが、5年ほど前から賃貸を行って賃料収入を得ています。 父の相続人は、私と兄妹2人の合計3人ですが、兄妹は父の生前から音信不通のため、父の死後、私が自宅の建物の修繕管理や固定資産税を支払い続けてきました。 ところが、最近になって、兄妹2人が、私が賃料を不当に取得しているといって支払いを求めてきました。 1 はじめに 現行の相続法制度においては、相続登記が義務化されていないため、相続開始後も、遺産分割協議が行われず、長期間にわたって被相続人名義のままの状態となっている不動産が存在する。権利関係が不確定の状態のまま事実関係が積み重ねられると、事後的に共同相続人間で財産の清算をめぐって争いになることもある。 そこで、今回は、相続開始後、長期間事態を放置したことによって生じた問題を取り上げることで、注意喚起を図ることとしたい。 2 相続財産の管理と法定果実の取扱い 相続が開始し、相続人が複数存在する場合、遺産分割協議が成立するまでの間、共同相続人は相続財産を共有することになるため、共有の理論に従って遺産の管理を行う必要がある。 具体的には、①民法第602条に定める期間を超えない範囲で相続財産を賃貸することは管理行為にあたるため、共同相続人は法定相続分の過半数で決定する必要があり、②それを超える期間の賃貸をすることは処分行為にあたるため、共同相続人全員で決定する必要がある。 本件のように共同相続人が3人存在し、かつ、法定相続分の割合も同じであるような場合には、各人の持ち分が過半数を超えないため、たとえ管理行為であったとしても、自らの判断で相続財産を賃貸に供することはできないことになる。そうすると、共同相続人の1人が、他の共同相続人との協議を得ることなく、賃貸したことによって賃料収入を得た場合、他の共同相続人に対する関係で不当利得又は不法行為があるとして、賃料収入の法定相続分相当額を請求される可能性があることになる。 3 取得時効による建物所有権の取得の可否 それでは、賃料収入の法定相続分相当額を請求された場合、建物の管理を行ってきた共同相続人は、相続開始時から20年以上にわたって建物を占有し続けたことを理由に、時効取得の主張を行うことで、当該請求を排斥することができるだろうか。 一般論としては、共同相続人の1人が単独で相続財産を現実に占有していたとしても、他の共同相続人の共有持分は、権原の性質上、客観的に見て所有の意思を欠くことになるため、自主占有をしているとは認められないはずである。そのため、自主占有が認められるためには、民法第185条に規定する①自主占有の意思があることを表示するか、②新権原に基づいて自主占有を始める必要がある。 この点に関して、数人の共同相続人の共有に属する相続財産の不動産について、その1人が他に相続持分権を有する共同相続人のいることを知らないため、単独で相続権を取得したと信じて当該不動産の占有を始めた場合など、その者に単独の所有権があると信ぜられるべき合理的な事由がある場合には、例外的に自主占有への転換が認められる可能性があると解されている。 この基準からすると、現在の相続法制のもとにおいて、共同相続人の1人が、他に共同相続人がいることを認識しているにもかかわらず、自己に単独の相続権があると信ぜられるべき合理的な事由が認められる場合は、相当限定された場合になるものと考えられる。 例えば、他の共同相続人が相続放棄をしたものと誤信していたような事例も考えられるが、前記の基準からすると、自己に単独の相続権があると誤信したことについて合理的な理由が必要となるため、単に誤信したというだけでは足りないものと考えられる。 また、自宅の建物の修繕管理や固定資産税を支払い続けていたことについても、他の共同相続人の存在を認識した状態で管理行為を継続していたということであるから、修繕管理や固定資産税の支払いの事実のみをもって、自主占有への転換を認めることは難しいように思われる。 4 本件の場合 本件において、相談者が5年前から第三者に賃貸したことによって賃料収入を得ていた場合、他の兄妹からの法定相続分相当額の請求は認容される可能性がある。 また、相続開始時点において、単独で建物の自主占有をしていたものとは認められる事情を見出しがたいことから、時効取得によって相続開始時点から単独所有していることを理由に、上記請求を排斥することも難しいように思われる。 このような問題が生じたのは、相続開始後も遺産分割協議を怠り、漫然と事実関係を積み重ねてきたことに由来するものである。相続人間の紛争を予防する意味でも、早期に遺産分割協議を行い、権利関係を確定させておくことが望まれる。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第3回】 「ブロックチェーン技術の活用事例の全体像」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 1 ブロックチェーンの特徴まとめ 前2回のまとめとしてブロックチェーン技術を踏まえ、従来型の中央集権管理との比較において、ブロックチェーンの主な特徴を整理すると、下記のとおりである。 2 ブロックチェーン技術の展開が有望な事例とその市場規模 少し古いデータではあるが、経済産業省が公表した「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」によると、ブロックチェーン技術を様々な分野に活用・応用することで、取引やデータ管理の効率化・自動化が進むと期待されており、影響を及ぼす可能性のある市場規模は67兆円と試算されている。 【図3-1】ブロックチェーンが影響を及ぼす可能性がある市場規模 (出典:「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」より筆者作成) なお、この市場規模67兆円は市場規模が新たに誕生するという金額を示しているのではなく、既存のビジネスに影響を及ぼす金額である。特に、暗号資産(仮想通貨)に代表される金融業だけでなく、記録したデータを改ざんすることができないなどのブロックチェーンの仕組みや特徴が、様々な業界で注目され活用が開始されている。以下、同報告書の内容を簡単に紹介する。 A; オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現 この分野では、製品の原材料から製造過程と流通・販売までをブロックチェーン上で追跡を行い、サプライチェーン全体が活性化・効率化するとともに、川上の交渉⼒の強化につなげることで、32兆円(全体の47.7%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、製造、卸売、小売店と、従来は分断されていた在庫情報の共有や、小売店に集中していた商流情報が共有できることになる。そのため、電化製品等においては、IoTの進展や製品保証とも連携することで、最終消費者への販売後のプロダクトライフサイクルをトラッキング可能となり、売切りではないビジネスへ転換することが容易になる。なお、小売り、貴金属管理、美術品等真贋認証等でブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 B; プロセス・取引の全自動化・効率化の実現 この分野では、契約条件、履行内容、将来発生するプロセスなどをブロックチェーンで記録し管理することで、20兆円(全体の29.9%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、各企業におけるバックオフィス業務(契約や取引の執⾏、⽀払・決済、稟議などの意思決定フロー等)の⼤半を置きかえることが可能である。また、IoTとスマートコントラクトによるマイクロペイメントを組み合わせることで、受益者負担をより正確に反映した公共サービス等のコスト負担の仕組み(例えば、ゴミの量や道路の利⽤量に応じた課税など)が構築可能である。なお、デリバティブ商品の決済、電力サービス(エネルギー管理)、遺言管理、IoTなどでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 C; 遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現 この分野では、対象資産等の利用権移転情報や金銭授受情報、利用者等の評価情報をブロックチェーンで記録し管理することで、13兆円(全体の19.4%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、遊休資産の稼働率管理や、⼊場券、客室、レンタカー、レンタルビデオ等の利⽤権限管理が効率化でき、究極的にはC2C取引が、現在のシェアリングエコノミーのプラットフォーム事業者を介在せずに⾏われる環境を構築することが可能である。これにより、企業と個人、生産者と消費者の垣根がなくなることで、「プロシューマ」というあり⽅が⼀般化する可能性がある。なお、デジタルコンテンツの管理、チケットサービス、C2C取引などで、ブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 D; 価値の流通・ポイント化、プラットフォームのインフラ化 この分野では、自治体等が発行する地域通貨を、ブロックチェーンで記録し管理することで、1兆円(全体の1.5%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、ポイントが、発⾏体以外との取引にも利⽤されるようになり、ポイントが転々流通することで通貨に近い利⽤が可能となり、ポイント発⾏額以上の経済波及効果が⽣じる。なお、地域通貨、国際送金、証券取引、電子クーポン、ポイントサービスなどでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 E; 権利証明行為の非中央集権化の実現 この分野では、土地の物理的現況や権利関係の情報を、ブロックチェーンで記録し管理することで、1兆円(全体の1.5%)の影響を及ぼす可能性が期待されている。 例えば、⼟地の登記や特許など、国管理のシステムをオープンな分散システムで代⽤可能になり、届出管理等の地⽅⾃治体業務減少といった、政府の業務負担減少が可能となる。また、本⼈証明としての印鑑⽂化や、各種契約時(スマホ、銀⾏⼝座開設等)の際の本⼈確認のための書類提出等のプロセスが変化・代替される可能性がある。なお、土地登記、電子カルテ、各種登録(出生、婚姻、転居)などでブロックチェーン技術による変革の可能性が提案されている。 3 ブロックチェーンの活用可能性 日本国内では実用化に向けて法整備も進めてきており、経済産業省も「あらゆる産業分野における次世代プラットフォームとなる可能性をもつ」として調査を行っている。また、諸外国では金融業以外でも実用化されたサービスが開始されている。暗号資産(仮想通貨)以外のあらゆる業界への応用が始まっているブロックチェーンであるが、実際の活用事例を分析すると、下記の条件を複数満たす場合、ブロックチェーンを有効に活用でき、価値を生み出せる可能性が高いと考えられる。 具体的には、民間企業においては、様々なサービスにおいて、『中間的な第三者』が介在しない形でのサービスを提供できる業務など、すでに様々な分野への活用が開始されている。また、行政機関などにおいては、既存の業務をブロックチェーンに置き換えることにより、業務コストの削減ができることから、いくつかの国では、実際に公共インフラとしての採用を開始している。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第41話】 「押印義務の見直し」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「大丈夫かな・・・」 中尾統括官は眼鏡を外して、怪訝そうに、机上に開かれた、分厚い「令和3年度税制改正大綱」の冊子を見つめている。 「何がですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の持っている冊子を覗きながら、尋ねる。 「これだよ・・・」 中尾統括官は、大綱95頁の「納税環境整備」に書かれている「税務関係書類における押印義務の見直し」の項目を指す。 「ということは・・・納税者から提出される確定申告書には、押印の必要がなくなる・・・ということですね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官から冊子を受け取り、大綱の内容を確認する。 「そうなるな・・・私なんか・・・納税者が確定申告書に押印するのは・・・当然のことだと考えていたから・・・」 中尾統括官は、机の上にある「税務六法」を手に取り、国税通則法124条のページをめくる。 「ええっと・・・国税通則法124条では・・・国税に関する法律に基づき税務署長その他の行政機関の長又はその職員に申告書、申請書、届出書、調書その他の書類を『税務書類』といい、同条2項で、『税務書類』については、押印しなければならないと規定している。」 そう言うと、中尾統括官は、国税通則法124条2項を読み上げる。 「・・・納税者が税務書類に記名、押印をするということは、その書類が真正に作成されたことを示す上で当然に要求されることであって・・・法律云々以前に、社会常識だと思うのだが・・・」 中尾統括官は、不満そうにつぶやく。 「ただ・・・電子申告では、押印は必要とされていませんよね・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の様子を伺いながら話す。 「もっとも電子申告の場合、本人認証のために、利用者識別番号と暗証番号が必要になります。そして・・・これの方が押印よりも信憑性は高い・・・」 浅田調査官は、付け加える。 「・・・確かに、確定申告書の押印は三文判でもかまわないから・・・その書類が本人によって作成された真性なものかどうか・・・わからないが・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「ところで、今回の改正のきっかけだと思うのですが、規制改革推進会が、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、また、デジタル時代を見据えたデジタルガバメントの実現のために、『行政手続における書面主義、押印原則、対面主義の見直しについて(再検討依頼)』(令和2年5月22日)を『各府省規制改革担当』に提出していて・・・その中で・・・押印が求められている趣旨とそれに対するコメントが次のように記載されています。」 浅田調査官は、自席のパソコンで資料を検索している。 「・・・そうすると・・・押印すること自体、あまり意味がない・・・ということか・・・」 中尾統括官は、浅田調査官の説明を聞きながら、ため息をつく。 「さらに規制改革推進会は、緊急対応として、押印を求めている根拠条文等に応じて、次の対応を行うことを求めています。」 浅田調査官は、パソコンに表示された資料を読み上げる。 「要するに・・・根拠条文等のレベルによって、その対応のニュアンスが異なる・・・ということですね。」 浅田調査官がコメントする。 「ところで、この押印原則不要の改正は、令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類について適用することとされているが、大綱の(注3)には、「改正の趣旨を踏まえ、押印を要しないこととする税務関係書類については、施行日前においても、運用上、押印がなくとも改めて求めないこととする」と明記している。」 中尾統括官は、不満そうに言う。 「そして、この閣議決定された大綱を受けて、国税庁はホームページで、「全国の税務署窓口においては、本件見直しの対象となる税務関係書類について押印がなくとも改めて求めないこととします」・・・と告知しているのだが、そもそも令和3年度税制改正の改正法がまだ成立していない段階で、国税庁が国税通則法に定められた取扱いの変更をすることができるのか、租税法律主義の観点からは、はなはだ疑問だと思うな・・・」 中尾統括官は、あらためて大綱の冊子を見つめながら、つぶやく。 (つづく)
《速報解説》 経産省、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の 別冊として実施事例集を策定 ~策定案への意見に対する経産省の考え方も併せて公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月3日、経済産業省は、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド (別冊)実施事例集」を公表した。これにより、2020年12月23日から意見募集していた案が確定することになる。実施事例集(案)に対する意見とそれに対する経済産業省の考え方も公表されている。 今般、ハイブリッド型バーチャル株主総会のさらなる実務への浸透を図るため、2020年の株主総会における実施状況等を踏まえつつ、実施ガイドの別冊として、実施事例集を策定したものである。 経済産業省は、2020年2月26日に、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 実施事例集は、表紙を含めて36ページのものである。 以下では主な内容について解説する。 1 ハイブリッド型バーチャル株主総会 バーチャル株主総会は、取締役や株主等がインターネット等を活用して遠隔地から株主総会に参加・出席することを許容する形態である(5ページ)。 「バーチャルオンリー型」と「ハイブリッド型」の2つの形態があるが、「バーチャルオンリー型」については、現行の会社法下においては解釈上難しいとの見解が示されている。 2020年6月に開催された株主総会では、上場会社のうち、ハイブリッド「出席型」は9社、ハイブリッド「参加型」は113社の実施であった(7ページ)。 2 実施事例集(論点別) 参加型・出席型共通の論点として次の事項を取り上げ、各論点に関する考え方や2020年株主総会における実施事例を簡潔に記載している。 また、出席型の論点として次の事項を取り上げ、各論点に関する考え方や2020年株主総会における実施事例を簡潔に記載している。 (了)
《速報解説》 令和2年分所得税の確定申告期限、緊急事態宣言の延長を受け全国一律「令和3年4月15日(木)」まで延長 Profession Journal編集部 令和3年2月2日、政府が公表した栃木県を除く10都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県)に対する緊急事態宣言の延長(3月7日まで)を受け、同日、国税庁は、緊急事態宣言期間が令和2年分所得税の確定申告期間(令和3年2月16日~3月15日)と重なることを踏まえ、確定申告会場の混雑回避の徹底を図るため、申告所得税(及び復興特別所得税)、贈与税及び個人事業者の消費税(及び地方消費税)の申告期限・納付期限について、全国一律で令和3年4月15日(木)まで延長することを公表した(法人税等の申告期限延長は公表されていない)。 上記に伴い、申告所得税及び個人事業者の消費税の振替納税の振替日についてもそれぞれ延長される。 延長後の申告期限・納付期限、振替日は下記のとおり。 〔申告期限・納付期限〕 〔振替日〕 今回の期限延長に当たり、既報のとおり「令和2年分の確定申告を行うまで」とされている令和元年分の申告期限も自動的に延長されることになるが、本稿公開時点で国税庁FAQの更新は行われていない。 なお国税庁は確定申告会場における換気・消毒・距離確保に加え時間指定の入場整理券の導入等の感染防止対策を行うとともに、確定申告会場へ来場することなく申告が可能なe‐Taxの利用を呼びかけている。 (了) ↓お勧め連載記事↓