《速報解説》 国税庁、税制適格ストックオプション要件の株価算定ルールを整備した改正通達を公表 ~あわせて「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂、新問6問追加~ Profession Journal編集部 既報のとおり、税制適格ストックオプションの要件の1つである権利行使価額要件(措法29の2①三)に関し、取引相場のない株式については株価算定ルールが明示されていないこと等からこれらを整備した改正通達案が5月30日付でパブリックコメントに付されていたが(意見募集は6月30日まで)、国税庁は7月7日付でこれらの改正通達を発遣した。 本改正通達は通達の発遣日(7/7)以後に新株予約権の行使を行う場合について適用することとされ(「経過的取扱い」)、後日改正通達の解説が公表されることも予告されている。 改正案からの変更はなく原案通りとなったが、寄せられた意見に対しては「意見公募の結果ページ」において国税庁の見解が示されており、その中で言及されたとおり本改正通達による具体的な株価の算定方法を解説したQ&Aが、去る5月30日に信託型ストックオプションの課税関係について見解を示した「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂するかたちで公表された。 今回の改訂によって追加された問答は下記6問。上述のとおり改正通達を踏まえた具体的な株価の算定方法を解説したものの他、問12では信託型ストックオプションが税制適格ストックオプションと認められるための要件が示されている。 なお、問4(源泉所得税の納付について)において、発行会社がストックオプションの行使に係る経済的利益について源泉所得税を納付していなかった場合のその源泉所得税について、ストックオプションを行使した者に求償しないこととした場合の取扱いについて注記が追加されるなど、既存の問答にも一部情報が追加されているため、留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年7月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.526を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.125- 「進む税務行政のDXと日本版記入済み申告制度」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 6月23日、国税庁から「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像 2023-」が公表された。 令和3年6月に公表していた「税務行政の将来像2.0」をアップデートしたものだが、目指すべき方向性や最新の取組内容等が盛り込まれており、ここまで進んだのかと評価できる内容である。 中でも筆者が評価するのは、「納税者の利便性の向上」の面で、令和3年6月に「税務行政の将来像2.0」に掲げた「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に大きく近づいたことである。 令和4年から地震保険料、ふるさと納税、医療費(保険診療分)が、令和5年から公的年金収入、社会保険料控除等が、マイナンバー制度のマイナポータルを通じて情報連携(自動入力)が行われ、e-Taxが使いやすくなっているが、令和6年の確定申告から、給与所得情報(源泉徴収票)についても自動⼊⼒の対象となる。 自動⼊⼒の対象となるのは、企業・事業者から国税庁に源泉徴収票がオンライン提出されている場合に限られるが、今後、雇⽤者、各企業・事業者による源泉徴収票のオンライン提出は進んでいくだろう。 この点、デジタル庁の「河野大臣記者会見(令和5年4月21日)」が参考になる。 また、源泉徴収票の提出義務のない給与等の支払金額が年間500万円以下の者については、国と地方の情報連携(eLTAX)を通じて令和9年からの自動入力が可能になる。地方公共団体に提出された給与支払報告書のデータが国税に連携されることになる。 筆者は、マイナンバー制度のマイナポータルを活用して、欧州諸国が導入している記入済み申告制度のわが国への導入を提案してきたが、ほぼ完成することになる。国税庁の資料にも「『日本版記入済み申告書』(書かない確定申告)」と明記されている。 * * * 今後は、フリーランスやギグワーカーの事業所得や雑所得などの税務情報をどのようにマイナポータル経由で入手していくかが課題となる。国税庁も、その点は「実施時期未定」としている。本来的には法律改正により、法定調書制度に基づく情報入手を進めていくということであろう。 しかし、法律改正には時間がかかる。一方マイナポータルへの情報連携は、民間同士のやり取りなので、原則当事者同士が合意すれば可能だ。そこで、個人事業者(納税者)は、自らの収入先(発注先や場合によってはプラットフォーマー)から、データによるAPI連携により自らのマイナポータルで情報を受け取り、それを申告につなげる方策も考えられる。 これは、国税庁の立場という観点からではなく、本人の申告利便の向上という視点から進めることが必要だ。さらには、彼らのセーフティネットに活用するという視点も必要である。つまり、今後フリーランス・ギグワーカーなどへのセーフティネットの拡充が考えられるが、その際に必要となる収入(報酬)の情報を自ら正確に収集するという観点である。 また、仮想通貨取引やシェアリングエコノミーについても、法定調書の対象にする方向での検討と並行して、仲介者(仮想通貨交換業者、プラットフォーム事業者等)と納税者の間で(いわば民間同士で)情報入手を行い、それを申告につなげるという手法も広げていく必要がある。 * * * いろいろとトラブルが続いているマイナンバー制度だが、国民の不安を払しょくしつつ、納税利便を高めるためのマイナポータルの活用は大いに進めていく必要がある。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例53】 「建築工事に係る簿外で支出したコンサルタント料の損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中国地方の政令指定都市に本社を置き総合建設業を営む株式会社X(資本金2億円で青色申告法人)において、経営企画部長を務めております。首都圏や近畿圏、中京圏といった三大都市圏の政令指定都市ほどではありませんが、中国地方の県庁所在地ではサラリーマン向けのマンション建設が堅調であり、おかげさまでわが社も常に受注工事を抱えている状況であります。 とはいえ、取引金額が大きくなる不動産については、有象無象の輩が介入して分け前をくすねようとする行為が後を絶たず、わが社の場合もその対応には苦慮しております。マンション建設の場合、その敷地として、ある程度まとまった広さの土地が必要となりますが、権利関係が複雑で当事者が多い場合、それらの意向をまとめるまでには紆余曲折があり、担当者はストレスで胃がやられるケースも珍しくありません。また、駐車場へのスムーズな通路確保や接道要件を満たすためにどうしても必要な土地を入手する目的で、その持ち主に対し相場よりも相当高い金額で売却してくれるよう依頼するケースもあります。そのため、蛇の道は蛇ということで、地方ごとに存在する不動産取引のエキスパートと称する仲介者に、コンサルタント料を支払うこともあります。 今回の税務調査で問題となったことの1つは、当該コンサルタント料の支払いのうち1件が帳簿に記載されていた内容(広告宣伝費)と異なるという点についてでした。調査官は、コンサルタント料の支払先に反面調査を行ったものの、契約書記載の住所地には会社は存在せず、また、その代表者にも会えなかったことから、その存在は架空である可能性が高く、そうなると青色申告法人である当社の場合、当該支払いには損金性はないと主張してきました。契約を行った当事者である当社不動産開発部の社員に確認したところ、確かに帳簿に記載されていた内容とは異なるものの、コンサルタント会社の代表と対面で契約を締結し、実際契約書通りの成果(土地の買収)を収めたため、コンサルタント料の支払いには実体があり、損金性は疑いがないと真っ向から反論しております。私としましては社員の肩を持ちたいところですが、税法上はどのように判断するのでしょうか、教えてください。 【A】 青色申告法人の場合、仮に帳簿書類に記載された内容と異なる経費(簿外経費)の存在とその損金性を主張するためには、納税者自身において、当該経費を支出した金額、支出年月日、支払先、支払内容等の事実につき、その詳細及び業務との関連性を明確に主張することが求められます。そのため、仮に当該主張及び立証が十分になされない場合には、当該支出を法人の業務に関連する経費として損金に算入することはできないということになるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 青色申告制度の意義 青色申告制度は、申告納税制度の定着を図るため、シャウプ勧告に基づいて導入された制度である。シャウプ勧告当時(1950年頃)において、わが国では、既に申告納税制度が導入されてはいたが、その前提となる、納税義務者自らが正規の簿記の原則に従って記帳した帳簿書類に基づき申告書を作成するという実務慣行が根付いているとは言い難い状況であった。そこで、シャウプ勧告に基づき、帳簿書類を基礎とした正確な申告書の作成を促す意味で、一定の帳簿書類を備え付けている納税者に限って(文字通り)青色の申告書を用いて申告することを認め、かつ当該青色申告を行う納税者(青色申告者)にのみ各種の特典を与えるという仕組み、すなわち青色申告制度が導入されたのである(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)961頁参照。 現在においては、国税庁の統計(令和3年度分会社標本調査)によれば、法人の場合、青色申告の割合は約99.2%と個人事業主のケース(約63.2%(※2))と比較して非常に普及しており、シャウプ勧告時に掲げた目的は既に達成済みといえるだろう。 (※2) 国税庁「令和3年度版国税庁統計年報」の事業所得者に占める青色申告者の割合をいう。 (2) 青色申告法人の記帳義務 青色申告の承認を受けた法人の納税義務者は、財務省令の定めるところにより、帳簿書類を備え付けて取引を記録し、かつ当該帳簿書類を保存する義務を負う(法法126①)。また、税務署長は、必要があると認めるときには、当該帳簿書類について必要な指示をすることができることとされている(法法126②)。 仮に青色申告法人が青色申告の前提となる要件を満たさなくなった場合、すなわち、帳簿書類の備付、記録又は保存が財務省令で定めるところによって行われていない場合や、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載・記録し、その他記載・記録事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるといったような場合においては、税務署長は青色申告の承認を取り消すことができる(法法127①②)。 (3) 建築工事に係る簿外コンサルタント料の損金性が争われた事例 それでは、本件と同様に、建築工事における簿外のコンサルタント料に係る損金性が争われた事例(東京地裁令和3年12月23日判決・TAINSコード:Z888-2401)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 昭和25年2月15日に設立された、土木建築工事の設計施工管理及び請負業務等を目的とする株式会社である原告は、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの事業年度(平成27年3月期)及び平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度(平成28年3月期)において、東証一部上場でタクシー事業や不動産事業を営むC株式会社との間で、2件のマンション建築工事の請負契約を締結するために、第三者(H及びV)とコンサルタント業務契約を締結し、同契約に基づいて情報の提供を受け、コンサルタント業務の対価として金員を支払ったとして、同金員を対応する上記工事の完成工事原価として損金に算入した。 ところが、処分行政庁はこれを否認した上、原告が隠蔽ないし仮装に基づく過少申告をしたとして、平成29年6月20日頃、平成27年3月期の法人税の更正処分及びそれに基づく過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分、平成28年3月期の法人税の更正処分及びそれに基づく重加算税の賦課決定処分、平成28年3月期の地方法人税の更正処分及びこれに基づく重加算税の賦課決定処分をしたため、原告が、各処分が違法であるとして、その取消しを求めた事案である。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 争点2 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、青色申告法人である原告が、帳簿書類では記帳していないものの損金算入した項目につき、事後的にその損金性を主張した場合において、その主張が認められるか否かが争点となった事案である。青色申告法人の場合、その年の帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載・記録し、その他その記載・記録事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるときには、青色申告の承認の取消事由となる(法法127①三)。 本裁判例は、青色申告の承認の取消事由となるかどうかは判断されていないが(※3)、簿外経費が存在しており、「その記載・記録事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由」が存する可能性があることから、青色申告法人の帳簿書類の記帳義務を十分に果たしていると言えないであろう。そのため、裁判所は、「帳簿書類の記載と異なる経費の主張、すなわち簿外経費の存在を主張する場合には、納税義務者において、必要経費として支出した金額、支払年月日、支払先、支払内容等の事実につき、具体的に特定して主張立証をし、業務との関連性についても主張立証すべきであり、そのような主張立証がされない限り、当該経費を当該業務の経費として損金に算入することはできないというべき」として、原告の主張を斥けている。 (※3) 取消理由があるからと言って、税務署長は直ちに承認を取り消さなければならないというわけではない。金子前掲(※1)書964頁参照。 なお、本裁判例における裁判所の判示は、令和4年度の税制改正で簿外経費を厳格化する改正が行われたこととも整合性があるものと考えられる。すなわち、所得税の税務調査で、家事関連費の計上が発見された後に、納税者が簿外経費の存在を主張し、課税当局が多大な事務量を投入して当該簿外経費がすべて存在しないことを立証して更正に至ったという悪質な事案があり、政府税制調査会の「納税環境整備に関する専門家会合」において、そのような事案への対応策について議論がなされたところである。 同会合においては、特に悪質な納税者への対応として、「課税の公平性を確保するために、税務調査時に簿外経費を主張する納税者、虚偽の書類を提出する等調査妨害的な対応を行う納税者への対応策や、調査等の働きかけに応じない納税者(中略)への有効な対応策の検討を行う」旨が政府税制調査会に報告された(※4)。このような議論を踏まえ、令和4年度の税制改正で、隠蔽仮装行為がある事業年度又は無申告の事業年度において、納税者が主張する簿外経費の存在が帳簿書類等から明らかでなく、課税庁による反面調査等によってもその簿外経費の基因となる取引が行われたと認められない場合には、その簿外経費の額を損金の額に算入しないこととする措置が講じられたところである(令和5年1月1日から施行、法法55③)。 (※4) 政府税制調査会「納税環境整備に関する専門家会合の議論の報告(令和3年11月19日)」参照。 (4) 本件へのあてはめ 青色申告法人の場合、仮に帳簿書類に記載された内容と異なる経費(簿外経費)が存在し、かつ当該経費に関しその損金性を主張するためには、納税者自身において、当該経費を支出した金額、支出年月日、支払先、支払内容等の事実について、その詳細及び業務との関連性を明確に主張することが求められることとなる。そのため、仮に当該主張及び立証が十分になされない場合には、当該支出を法人の業務に関連する経費として損金に算入することはできないということになるものと考えられる。 (了)
令和5年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (続く)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q80】 「株式の譲渡所得の特例が認められない株式交付」 PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 株式交付制度の概要 株式交付制度は、ある企業を買収する際に、株式交付子会社(対象会社)の株主に対して、株式交付親会社(買収会社)の株式を交付するという、株式を対価としたM&A手法のひとつです。株式交換が買収の対象となる会社の発行済株式の100%を取得する場合にしか用いることができないのに対して、株式交付は、株式交付子会社の発行済株式を部分的に取得し、既存株主を残すことができます。 また、株式交付親会社は、株式交付子会社の株主に対して、株式交付親会社の株式に加えて、金銭等他の財産を交付することも認められています。 2 令和5年度税制改正による株式交付制度に基づく株式の譲渡に係る譲渡所得等の課税の特例の見直し (1) 株式等に係る譲渡所得等の課税の繰延べ 令和3年度税制改正において、株式交付子会社の株主に生じる株式の譲渡益について、課税を繰り延べる措置が講じられました。 本措置では、個人が有する株式を発行した法人を株式交付子会社とする株式交付が行われ、その個人が有する株式を譲渡し、その株式交付に係る株式交付親会社の株式の交付を受けた場合に、その株式の譲渡をなかったものとみなします。そして、その個人における株式交付親会社の株式に係る取得価額については、株式交付子会社の株式に係る取得価額(株式交付親会社の株式の交付を受けるために要した費用の額を含みます)を引き継ぐことになります(詳細は【Q66】「株式交付制度により譲渡した株式の譲渡所得の特例」参照)。 (2) 令和5年度税制改正による見直し 株式交付制度により対象会社を子会社化する取引は、対象会社の旧株主にとって株式の譲渡益に対する課税が繰り延べられることになったことで、活用のメリットが大きくなりました。しかしながら、令和5年度税制改正により、例えば、企業のオーナーである経営者が自身の資産管理会社を株式交付親会社として100%の支配関係にはない対象会社を子会社化する場合など、同族会社を株式交付親会社とする株式交付は、譲渡益に対する課税の繰延対象から除外されることになりました。 具体的には、株式交付の直後の株式交付親会社が法人税法第2条第10号に規定する同族会社(同族会社であることについての判定の基礎となった株主のうちに同族会社でない法人又は人格のない社団等がある場合には、当該法人又は人格のない社団等をその判定の基礎となる株主から除外して判定するものとした場合においても同族会社となるものに限ります)に該当する場合には、本措置の対象外とされます。 この改正は、2023年10月1日以後に行われる株式交付について適用されます。 3 本件へのあてはめ おたずねの株式交付が2023年10月1日以後に行われる場合には、株式交付制度に基づいて株式交付親会社となるB社が、株式交付の直後において同族会社に該当すると、A社株式の譲渡益について課税が繰り延べられない可能性があります。 ただし、課税の繰延措置の対象外となる同族会社は、同族会社であることについての判定の基礎となった株主のうちに同族会社でない法人がある場合には当該法人をその判定の基礎となる株主から除外するものとした場合においても同族会社となるものなどに限られます。つまり、株式交付親会社が非同族の同族会社である場合には除外されません。 したがって、株式交付親会社となるB社の株主構成を確認し、本措置の対象外となる同族会社に該当するか否かを判定する必要があります。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第21回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 2 暗号資産取引と所得区分(所得の種類) (1) 暗号資産取引と所得区分の概要 所得税は、所得をその性質やその発生源泉に応じて、利子・配当・不動産・事業・給与・退職・山林・譲渡・一時・雑所得の10種類に分けて(所法23~35)、それぞれに適した所得金額の計算方法を定めている。所得税の課税対象は広く経済的利得としての所得であるが、様々な種類の所得が一律に同じように課税されるわけではないのである。 資産を譲渡したこと又は役務を提供したことの見返りとして、暗号資産を受領する場合において、暗号資産特有の観点から考察しなければならないようなケースは稀であろう。 例えば、商品を販売し、販売代金として暗号資産を受領した場合には、暗号資産を譲渡しているのではなく、単にその商品を譲渡しているにすぎない。この場合の所得は、事業所得又は雑所得のいずれかに該当することが多いであろう(所法27、35)。 不動産を貸し付けて、賃料を暗号資産で取得した場合には、賃料を現金で受領した場合と同様に不動産所得である(所法26)。この場合の所得は、あくまで不動産の貸付けから生じているのであって、暗号資産の譲渡からではない(ただし、もともと暗号資産で賃料を支払う契約ではなく、暗号資産による支払が代物弁済(民法482)として構成される場合には、賃料の額と暗号資産の支払時の時価との差額の課税関係について別途の考慮を要する可能性がある)。 暗号資産を受領するケースで少し考察を要するのは、例えば、収益計上時の暗号資産の時価と実際の支払時における暗号資産の時価との間に大きな乖離がある場合や、無償で暗号資産が配布される行為であるエアドロップの場合などに限定されるであろう。 そこで問題関心を個人が暗号資産を譲渡(売却や使用)した場合の所得区分はいずれとなるかという点に向けてみたい。次の点も考慮し、とりわけ、一般に税負担が小さくなる譲渡所得(所法33)に該当するかという、納税者の関心が高い論点を検討する。 (※) 所得税基本通達33-1(譲渡所得の基因となる資産の範囲) 国会の質疑においても、早くから譲渡所得該当性の論点に言及されている。 平成26年2月25日付けの大久保勉議員による「ビットコインに関する質問主意書」では「ビットコインによる取引には課税されるか」との質問がなされた。これに対して、同年3月7日付けの内閣総理大臣名による答弁書では、次のとおり回答がなされた。 これを受けた同年3月10日付けの大久保議員による「ビットコインに関する再質問主意書」では、次のような質問がなされた。 これに対して、内閣総理大臣名による答弁書(平成26年3月18日)では、次のとおり回答があった。 その後、平成27年5月19日に行われた参議院財政金融委員会において、麻生太郎財務大臣は、次のとおり答弁している。 政府の上記見解も、暗号資産の譲渡所得(キャピタルゲイン)該当性を肯定するかのような麻生大臣の上記答弁も、いずれも、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に該当するか否かという論点について、十分な議論がなされていない段階か、国税庁の見解が固まっていなかった段階でなされたものであるという見方をなしうる。 現在の国税庁FAQ「2-2 暗号資産取引の所得区分」は、次のような見解を示している。 このFAQでは、暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得に区分されるという見解を述べている。雑所得とは、「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得」であるから(所法35①)、国税庁は暗号資産取引により生じた利益が雑所得以外の9種類の所得に該当しない理由を説明する必要がある。この意味で、このFAQは説明が足りていない。 法令ではないFAQといえども、税務職員や納税者はそこに記載されている内容に従って、取引や申告を行うことが多いことを考慮すると、国税庁は、FAQに記載されている取扱いの法的根拠を明らかにすべきである。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第31回】 「外国子会社合算税制と二重課税の排除」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 外国子会社合算税制を適用した結果、内国法人に二重課税が発生する可能性があるとのことですが、二重課税とされるもののうち、例えば、合算対象となる外国子会社が我が国に支店等を有しており、我が国で法人税等が課税されていた場合、当該外国子会社の国内源泉所得に係る課税はどのように調整されるのでしょうか。 〔A〕 かつては、当該支店に係る法人税等についても、外国法人税等と同様外国税額控除の対象とするという取扱いとされていました(改正前措通66の6-20)が、当該通達の適法性について疑義が生じた(本稿の裁判例を参照)ため、平成29年度の税制改正で、外国税額控除の仕組みではなく、新たな税額控除の仕組みにより親会社である内国法人の法人税から控除することとされました。 さらに平成30年度の改正では、その税額控除の対象となる税目の範囲の拡大や法人税の額から控除しきれない場合の地方法人税の額及び法人住民税の額からの控除制度などが整備されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 二重課税の排除 (1) 概要 内国法人が外国子会社合算税制の適用を受ける場合には、当該内国法人に係る外国関係会社に対して課される我が国の所得税及び法人税等(※1)の額のうち、当該外国関係会社の課税対象金額、部分課税対象金額又は金融子会社等部分課税対象金額に対応する部分の金額として、以下により計算した金額(以下「控除対象所得税額等相当額」という)を、当該内国法人のその課税対象金額、部分課税対象金額又は金融子会社等部分課税対象金額について合算課税の適用を受ける事業年度の所得に対する法人税の額から控除する(措法66の7④、措令39の18㉓~㉖)。 (※1) 租税特別措置法(以下「措置法」という)66条の7第4項1号及び2号を参照 (2) 控除対象所得税額等相当額 ① 課税対象金額に対応する部分の金額(措令39の18㉓) 次のとおり計算した金額。 (注1) 課税対象年度:外国関係会社につきその適用対象金額を有する事業年度(措令39の18③)をいう。 (注2) 調整適用対象金額:課税対象年度に係る適用対象金額をいい、適用対象金額の計算上控除される金額(措令39の15①四、同②十七)(外国法人税の課税標準に含まれるものに限る)又は控除対象配当の額(措令39の15③)(外国法人税の課税標準に含まれるものに限る)がある場合には、これらの金額を加算した金額(措令39の18③)とする。 ② 部分課税対象金額又は金融子会社等部分課税対象金額に対応する部分の金額(措令39の18㉔㉕) 次のとおり計算した金額。 (注3) 部分課税対象年度等:外国関係会社につきその部分適用対象金額を有する事業年度(部分課税対象年度(措令39の18④))又は金融子会社等部分課税対象金額を有する事業年度(金融子会社等部分課税対象年度(措令39の18⑤))をいう。 (注4) 調整適用対象金額:外国関係会社が特定外国関係会社又は対象外国関係会社に該当するものとした場合に計算される適用対象金額をいい、その適用対象金額の計算上控除される金額(措令39の15①四、同②十七)(外国法人税の課税標準に含まれるものに限る)又は控除対象配当等の額(措令39の15③)(外国法人税の課税標準に含まれるものに限る)がある場合には、これらの金額を加算した金額(措令39の18③)とする。 (注5) 調整適用対象金額が分子の部分課税対象金額又は金融子会社等部分課税対象金額を下回る場合には、当該部分課税対象年度に係る部分適用対象金額又は金融子会社等部分課税対象年度に係る金融子会社等部分適用対象金額とする(措令39の18㉔㉕)。 (3) 適用要件等 上記の税額控除は、確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に控除の対象となる所得税等の額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用することとされる(措法66の7⑤)。 以下では、平成29年度改正前に、外国子会社に係る国内源泉所得の取扱いが問題となった事例について取り上げる。 2 過去の裁判例 《シティグループ事件》(※2) (※2) (第一審) 東京地裁平成26年6月27日判決(平成23年(行ウ)第370号)・TAINSコード:Z264-12495 (控訴審) 東京高裁平成27年2月25日判決(平成26年(行コ)第278号)・TAINSコード:Z265-12612 (上告審) 最高裁平成28年9月30日決定(平成27年(行ツ)第241号、平成27年(行ヒ)第270号)〈上告棄却・不受理〉・TAINSコード:Z266-12911 (1) 事案の概要 X(原告・控訴人)は、平成20年5月1日、内国法人Bを吸収合併したが、Bは英国領ケイマン諸島に本店を、日本国内に支店を有する外国法人Cを100%子会社として保有していた。BはXに吸収合併される直前の平成20年4月期の法人税の確定申告につき、Cを措置法66条の6第1項及び措置法施行令39条の14第1項にいう特定外国子会社等に該当するものとして確定申告したが、その後、Cの平成19年4月1日から同年12月31日までの事業年度(C平成19年12月期。なお、C平成19年12月期において、Cは国内源泉所得のみを有していた)においてBに係る特定外国子会社等に該当しなかったとして、更正の請求を行った。 これに対し、所轄税務署長は、更正をすべき理由がない旨の通知処分をするとともに、Bの平成20年4月期の法人税につき、更正処分等を行った。その後、Xは、平成20年12月連結期の連結所得の金額の計算につき、XがBの平成20年4月期における繰越欠損金額を承継したものとして、平成20年12月連結期の法人税の申告をしたところ、所轄税務署長は、上記平成20年4月期更正処分を前提に、欠損金額の損金の額への算入額が過大であるとして、平成20年12月連結期更正処分をした。Xは各処分を不服として提訴した。 (2) 改正前措置法通達66の6-20 改正前措置法通達66の6-20は、「措置法第66条の7第1項並びに措置法令第39条の13第2項第1号及び第39条の18第9項に規定する外国法人税の額には、特定外国子会社等が法第138条又は所得税法第161条に規定する国内源泉所得に係る所得について課された法人税、所得税、及び第38条第2項第2号に掲げるものの額を含めることができる。」と定めており、その逐条解説(※3)において、「無税国所在の特定外国子会社等が、①我が国に支店を有するためその支店の所得に対して法人税を課されるケースや②我が国に直接投資を行うことによりその直接投資に係る所得に対して源泉所得税を課されるケースにおいては、当該特定外国子会社等の課される税が、我が国の法人税・源泉所得税であっても、措置法令第39条の18第9項の規定における『外国法人の税』にこれらを含めることができる旨が本通達において明らかにされ」たものと記載されていた。 (※3) 大澤幸宏『法人税関係措置法通達逐条解説-平成26年3月1日現在版-』(財経詳報社、2014年)1144頁参照 (3) 裁判所の判示 本件において、東京地裁は、「『外国法人税』の定義(法人税法施行令141条1項)に照らせば、それに我が国の法人税、所得税、及び法人住民税が含まれないことは文理上一義的に明らかであって、これらを『外国法人税』に含ませることができるとする措置法通達66の6-20は違法無効なものである。」と判示し、Xの請求を棄却した。 これに対し、本件の控訴審である東京高裁は、以下のとおり、改正前措置法66条の7第1項の当然解釈として、特定外国子会社等の国内源泉所得について課された日本の法人税も、「外国法人税」と同様、外国税額控除の対象となると判示し、上記通達は適法であると判示した。 ただし、東京高裁は、Xが「外国税額控除の制度の適用を受けることもできたものであるが、その適用を受けるためには、確定申告の手続において、『控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載』及び『控除対象外国法人税の額を課されたことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付』が必要とされているところ(法人税法69条16項)、Xは、そのような措置を執っていない(中略)のであるから、本件において、外国税額控除の制度を適用することはできない。」と判示し、Xによる手続的要件の瑕疵により、控訴を棄却した。 (4) 本件判決に対する批判とその後の動向 金子宏教授は、上記判決に対し「この場合には二重課税が生ずるが、タックス・ヘイブン対策税制の立法趣旨にかんがみ、これを排除するため、なんらかの解釈上又は立法上の手当てが必要であろう」(※4)と指摘していた。そこで、この問題を立法的に解釈するため、平成29年度改正において、新たな税額控除の制度が設けられたのは、上記1に記載したとおりである。 (※4) 金子宏『租税法(第22版)』(弘文堂、2017年)560頁 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第7回】 「国税通則法第23条第2項第1号の「判決」の具体的範囲」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 大阪国税不服審判所平成29年1月12日(TAINSコード:F0-3-545) (1) 裁決事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (3) 「訴えについての判決」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥 2 法令解釈の出所 上記1(3)の法令解釈は、東京地裁平成27年5月13日判決(TAINSコード:Z265-12660)などに見ることができる。 この「判決」の範囲としては、東京高裁平成26年10月30日判決(TAINSコード:Z264-12560)において、「その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を前提とする法律関係が判決の主文で確定されたとき又はこれと同視できるような場合をいう」とされており、上記事実の存否や効力が直接審理の対象となった事件の判決であることを要する。 しかし、上記の範囲であったとしても、当事者が専ら相続税の軽減を図る目的で、馴れ合いによって得たものであるなど、客観的、合理的根拠を欠くものであるときは、その確定判決としての効力の如何にかかわらず該当しない(東京高裁平成10年7月15日判決・TAINSコード:Z237-8202)とされている。 また、ここでいう「判決」には、請求人が訴訟の当事者である判決に限られ、刑事事件の判決、国税不服審判所の裁決、固定資産税評価額が過大であったことなどの通知の類いは含まれないとされている。 (了)
〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第6回】 「セール・アンド・リースバック取引と転リース取引」 公認会計士・税理士 喜多 弘美 【第5回】では、所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引の判定について整理しました。今回はリース取引の中でも、セール・アンド・リース取引と転リース取引について概要を見ていきます(会計処理は別の回で扱います)。 1 セール・アンド・リースバック取引 (1) セール・アンド・リースバック取引とは セール・アンド・リースバック取引とは、「所有する物件を貸手に売却し、貸手から当該物件のリースを受ける取引」をいいます(「リース取引に関する会計基準の適用指針」48)。 つまり、ユーザーが保有している物件をリース会社などに売却した後、すぐに同じ資産をリース会社などから借り受ける取引のことです。一度、「売却」(セール)し、同じ物件を「借り受ける」(リース)ので、セール・アンド・リースバック取引といいます。 では、セール・アンド・リースバック取引は、具体的にどのような時に利用されるのかというと、資金調達手段の1つとして利用されます。 ユーザーが保有している物件をリース会社へ売却することによって、ユーザーは資金を手に入れることができます。売却した後、すぐに同じ物件を借り受けるので、同じ物件をそのまま使用することができます。つまり、物件の使用はそのままで、資金調達が可能になるのです。 (2) メリット セール・アンド・リースバック取引のメリットは、主に3つあります。 上記の他にも、買主から再購入できるケースが多かったり、周りから売却したことがわからなかったりすることもメリットとして挙げられます。 (3) デメリット デメリットとしては、主に以下2点が挙げられます。 2 転リース取引 (1) 転リース取引とは 転リース取引は、「リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件を概ね同一の条件で第三者にリースする取引」をいいます(「リース取引に関する会計基準の適用指針」47)。いわゆる「また貸し」になります。 具体的には、グループ会社の親会社がリース会社との契約窓口となり、親会社から子会社へ転貸する場合、中途解約せざるを得ないユーザーが新しいユーザーへ同一条件で転貸する場合などが挙げられます。 (2) メリット リース契約を中途解約する場合、ユーザーはリース会社へ未経過リース料を支払ったり、違約金も発生したりすることがあります。そんな時に、転リース取引を契約できると違約金の発生を回避し、また、新しいユーザーからリース料を受け取ることができるメリットがあります。 (3) 注意点 一般的にリース契約では、また貸しが禁止されていることが多いため、転リース取引をする場合にはリース会社の承諾を得る必要があります。リース契約違反にならないように注意が必要です。 (了)