2023年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅴ 会社法施行規則等の改正 2022年12月26日に、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 改正点は、以下のとおりである。 1 電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象の拡大 振替株式を発行する上場会社等は、2023年3月1日以降に開催される株主総会から株主総会資料を電子的に提供する制度(電子提供制度)の適用が義務付けられている(会社法325の2、社債、株式等の振替に関する法律159の2①)。 電子提供制度でも、書面による提供を希望する株主は、電子提供措置の対象となる事項(電子提供措置事項)を記載した書面(電子提供措置事項記載書面)の交付を請求することができる。ただし、株主総会資料のうち一部の事項は、定款の定めにより電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる(会社法325の5)。 今回の改正では、電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項の対象が、以下のとおり縮小されている。言い換えると、電子提供措置事項記載書面への記載を省略することができる事項の対象が拡大した。 〈主な電子提供措置事項記載書面に記載すべき(省略できない)事項〉 (※) 連結計算書類に対する会計監査人による会計監査報告、監査役による監査報告は、従来から、電子提供措置事項に該当しない(「「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3 意見の概要及び意見に対する当省の考え方1③(ウ))。 2 ウェブ開示によるみなし提供制度の対象の拡大 ウェブ開示によるみなし提供制度とは、株主総会資料の一部を、ウェブサイトに掲載し、そのアドレス等を株主に通知することにより、当該情報が株主に提供されたものとみなす制度である(会社法施行規則94①、133、会社計算規則133)。 今回の改正で、ウェブ開示によるみなし提供制度についても、以下のとおり、対象が拡大されている。 3 適用時期 公布日(2022年12月26日)から施行する。ただし、ウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正(上記2)は、2023年3月1日から施行する。 Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正 金融庁は、2023年1月31日に、以下の改正を公表した。 本改正の主な内容は、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示 (1) 開示内容 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令第二号様式 記載上の注意(30-2)、第三号様式)。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示に当たっては、連結ベースの開示が必要となる。 (※2) 有価証券報告書で記載する内容を全て、参照先に記載することはできない。参照先は、あくまでも補完情報であるため、重要な情報は、有価証券報告書に記載する必要がある(下記(6)参照)。 (2) 開示対象 「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示対象は、開示府令で具体的に定められていないが、記述原則別添(注1)に、以下の例示が示されている(記述原則別添(注1)、コメント対応No.109)。開示府令では具体的に定められていないため、各社で以下や他社事例等を参考に、何をサステナビリティとして開示することが投資家にとって有用であるかを検討することが必要である。 なお、温室効果ガス(GHG)排出量については、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況を鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)のGHG排出量について、積極的に開示することが期待される(記述原則別添(注2))。 (3) 開示に当たっての基本事項 「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに合わせて、以下の4つの構成要素に基づき記載する。 「ガバナンス」と「リスク管理」の記載は必須で、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについて開示する(重要性については、下記(4)参照)。 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される(記述原則別添)。 ただ、「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しない場合における判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではない。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられる(コメント対応No.99-100)。 一方、人的資本については、他のサステナビリティ項目とは異なり、「戦略」並びに「指標及び目標」(以下、(a)(b))について、重要性に関係なく、全ての会社が必ず開示する。 (4) 重要性の判断基準 サステナビリティ関連開示において、開示に当たっての重要性の判断基準は、開示府令で定められていない。 記述情報の開示に関する原則(以下、「記述原則」という)において、以下の考え方(記述原則2-2)が示されているため、参考にすることができる。 なお、重要性の考え方について、将来、記述原則の改訂を行うことが想定されている(記述原則別添)。 (5) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 また、開示に当たっては、他社事例を参考にすることが有用である(なお、サステナビリティの取組みは各社で異なるため、真似ることは適切ではない)。そこで、金融庁から2023年1月31日に公表された「記述情報の開示の好事例集2022」が参考になる。 (6) 参照上の留意事項 参照上の留意事項として、以下が挙げられる。 〈参照可能な他の書類等(例示)〉 2 多様性に関する開示 (1) 開示内容 多様性に関する開示として、【従業員の状況】に以下の指標を開示する(開示府令第二号様式 記載上の注意(29))。 (※) 女性活躍推進法は、既に公表が義務付けられている。一方、育児・介護休業法は、2023年4月1日から指標の公表が義務付けられる(詳細は、下記(2)参照)。 ポイントは、女性活躍推進法及び育児・介護休業法により開示が求められるかどうかを、連結グループ内の各社ごとに判定し、開示が求められる会社は、連結グループ内の財務的重要性に限らず開示が必須ということである。 (2) 女性活躍推進法等 女性活躍推進法、育児・介護休業法により、以下の多様性の指標について、ホームページ等での開示が求められている。 ① 女性活躍推進法 女性活躍促進法は、既に適用されている。労働者301人以上の事業者は、(ⅰ)「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」8項目(下記(ⅰ)①から⑧)から1項目を選択し、また、(ⅱ)「職業生活と家庭生活との両立」7項目(下記(ⅱ)①から⑦)から1項目を選択し、選択したそれぞれを公表する義務がある。また、これに加えて、労働者301人以上の事業者は、男女間の賃金格差(下記(ⅰ)⑨)について、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から実績を公表する義務がある。 労働者101人以上300人以下の事業主は、上記(ⅰ)の9項目、(ⅱ)の7項目の合計16項目から任意の1項目以上の公表が義務付けられている。 ② 育児・介護休業法 育児・介護休業法では、2023年4月1日から、労働者1,000人超の事業主は公表日の属する事業年度の直前の事業年度の男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられている。 (3) 開示に当たっての留意事項 開示に当たっての留意事項として、以下が挙げられる。 3 コーポレート・ガバナンスに関する開示 〇 開示内容 「コーポレートガバナンスの状況等」において、開示の追加等が求められている(開示府令第二号様式 記載上の注意(54)(56)(58))。 (※1) 「サステナビリティに関する考え方及び取組」と同様に、「コーポレート・ガバナンスの概要」においても、開示府令に定める内容を有価証券報告書に記載した上で、記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる(開示ガ5-16-4)。 (※2) 「開催頻度」とは、最近事業年度における実績である(コメント対応No.296)。 (※3) 「具体的な検討内容」として、取締役会等における全ての議案を記載することは必須ではなく、有価証券報告書の利用者である投資家にとってわかりやすいよう要約するなどして記載することが考えられる(コメント対応No.298)。 4 将来情報に関する虚偽記載の考え方の明確化 今回の改正では、有価証券報告書に記載する将来情報に関する虚偽記載の考え方が、以下のとおり明確化された。 5 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第42回】 「連結PLでよく起こる単純ミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 ここはミスが起こりやすい 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例42-1】 当期純利益数値の入力ミス。 (出所) キーウェアソリューションズ株式会社「第57回定時株主総会招集ご通知(訂正前のもの)」 【事例42-1】は、連結損益計算書のミス事例です。具体的には、連結損益計算書の下の方にある「当期純利益」の入力ミスです。 この事例の会社は、2022年5月27日に本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し(招集通知の日付は2022年6月8日)、2022年6月16日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 「556,045」を「566,045」と誤入力してしまったもので、明らかに単純なミスです。このような数字の並び順で入力ミスが起こる例は、本連載でもすでに紹介しています(【第22回】の【事例22-2】)。誰しも身に覚えがあることでしょう。 しかし、今回着目していただきたいのは、数字の並び順ではなく、ミスが起きた場所の方です。連結損益計算書の当期純利益であり、この場所はミスが起こりやすいと考えられるのです。 2 別の会社で同じミス 連結損益計算書の当期純利益でミスが起きた例をもう1つ紹介しておきます。 【事例42-2】 当期純利益の欄に法人税等の合計を記載してしまったミス。 (出所) 株式会社エンプラス「第61回定時株主総会招集ご通知」 【事例42-2】は、当期純利益の欄に「法人税、住民税及び事業税」と「法人税等調整額」の合計額を記載してしまったというミスです。この事例の会社は、2022年6月3日付で本事例を含む定時株主総会招集ご通知を公表し、2022年6月10日付で当該誤記載の訂正を公表しています。 一番下の「親会社株主に帰属する当期純利益」は正しいので、そこに至る計算過程の表示の仕方をうっかり間違ってしまったのかもしれません。いずれにしても、連結損益計算書の当期純利益で間違ってしまったことは確かです。 以上、わずか2事例ですが、別の会社で同じ箇所の間違いが起きたことは注目に値します。同様の事例を過去にさかのぼって集計したことはありませんが、筆者の経験的には、ここは間違いやすい箇所だと認識しています。 3 ここでミスが起こる理由は? 連結損益計算書の当期純利益で単純なミスが起こりやすい理由を考えてみたいと思います。その理由は2つ思い当たります。 第一は、連結損益計算書の当期純利益は関心の低い項目だということです。【事例42-2】を見るとわかるとおり、当期純利益は連結損益計算書の末尾の項目ではありません。末尾の項目は「親会社株主に帰属する当期純利益」であり、当期純利益はそこに至る途中段階の利益にすぎないのです。厳密に表現するなら、税引後かつ非支配株主に帰属する当期純利益控除前の利益といえます。 また、【事例42-1】の会社のように、非支配株主が存在しない連結グループの場合は、当期純利益は「親会社株主に帰属する当期純利益」と同額になります。つまり、当期純利益を算定する意味合いが薄れてきます。 こうしたことから、連結損益計算書の当期純利益は経営の場において取り上げられることが少なく、できあがった決算書をチェックする際も関心が向かないのかもしれません。 第二は、クロスチェックできる相手箇所が基本的にないことです。クロスチェックについては【第36回】を参照いただきたいですが、要は、連結損益計算書の当期純利益の数値が、株主総会招集通知の他の箇所に掲載されていることがほとんどないということです。これは第一の理由で述べたことと関係していますが、関心の低い項目なので、事業報告等で言及されることがなく、クロスチェックする相手箇所がないのです。したがって、複数の経路で数値のチェックをする機会がなく、ミスを見逃しやすいというわけです。 では、ここで起こるミスを公表前に発見するにはどうしたらよいのでしょうか。関心の低い項目とはいえ、決算書本体の数字なので、ミスは開示書類として致命的です。 確実にいえることは、最低でも計算チェックは行うべきということです。上記2つの事例はいずれも計算チェックで発見可能です。あとは、「この箇所は間違いやすい」ということを頭に入れた上で、作成・チェックにあたっていくことです。人間の限られた注意力を間違いやすい箇所に集中して投入することで、ミスを未然に防ぐことができます。 〈今回のまとめ〉 単純なミスが起こりやすい箇所を頭に入れて作業すると、ミスに気付く可能性が高まります。 (了)
開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第9回】 「会計方針の変更に関する注記」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における会計方針の変更に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表・個別注記表ともに、会計方針の変更の内容、変更の理由等を注記する必要があります。 なお、連結注記表における注記と個別注記表における注記が同一であるときでも、会計方針の変更の内容、変更の理由等、個別注記表で記載を省略できない項目があるため、注意が必要です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】 2 注記事項の解説 (1) 会計方針の変更に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき会計方針の変更に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第102条の2第1項)。 (①~⑥の付番は筆者加筆) (※1) 個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しません。 (※2) 当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なとき(例:減価償却方法を変更したとき)は、当該事項の注記は要しません。 (※3) 会計監査人設置会社以外の株式会社及び持分会社にあっては、当該事項の注記を省略することができます。 (2) 注記事項の解説 原則として、一度適用した会計方針は毎期継続して適用する必要がありますが、会計基準等の改正に伴う場合や自発的に会計方針を変更し、その変更に正当な理由がある場合には会計方針を変更することが認められます。 そのときに、会計方針の変更によって計算書類にどのような影響があったかを利用者に示すため、一定の内容の注記が求められます。 これまでの連載で説明した注記では、連結注記表と同一の内容である旨を記載することで個別注記表での詳細な記載を省略できる事項が多かったですが、会計方針の変更に関する注記では、連結注記表と同一の内容であっても個別注記表で詳細な記載を省略できない事項があるので注意が必要です。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [日本曹達株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※日本曹達株式会社「第153回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示情報」9頁より抜粋。 [ヴィスコ・テクノロジーズ株式会社 2021年3月期 連結注記表] ※ヴィスコ・テクノロジーズ株式会社「第18回定時株主総会招集ご通知」26頁より抜粋。 [ヤマトホールディングス株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※ヤマトホールディングス株式会社「第157期定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」4頁より抜粋。 * * * 次回の第10回は、「会計上の見積りの変更に関する注記」をテーマに解説します。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例81】 フジテック株式会社 「臨時株主総会決議の結果等に関するお知らせ」 (2023.2.24) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、フジテック株式会社(以下「フジテック」という)が2023年2月24日に開示した「臨時株主総会決議の結果等に関するお知らせ」である。タイトルどおり同日開催された臨時株主総会の決議結果が記載されているのだが、それだけではない。タイトルをよく見ると、「臨時株主総会決議の結果」の後に「等」が付されている。この「等」は何かというと、2023年2月21日に開示された「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」の一部訂正である。 まず臨時株主総会の決議結果の方は、Oasis Investments Ⅱ Master Fund Ltd.及びOasis Japan Strategic Fund Ltd.(以下「オアシス」という)により招集請求された臨時株主総会において(2022年12月6日に「株主による臨時株主総会の招集請求に関するお知らせ」を開示)、フジテックの元々いた社外取締役5名のうち3名が解任され、オアシスが提案した社外取締役4名が選任されたという内容である。 タイトルからこの臨時株主総会の決議結果が主たる内容かと思われるのだが、「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」の一部訂正の方が、フジテックの企業実態をよく表しているように思われるので、本稿ではそちらを取り扱うこととする。 2 一部訂正の内容 「社外取締役辞任及び当社臨時株主総会付議議案の一部撤回に関するお知らせ」には、「辞任の理由」として次のように記載されていた。 今回の開示では、下線を付した「一身上の都合により」を「ガバナンスに関する考え方が当社とは大きく異なるため」に訂正している。2023年2月24日開催の臨時株主総会では引頭麻実氏(以下「引頭氏」という)も解任の対象とされていたため、2月21日の開示を見た際は、「解任されるのは格好悪いので、その前に辞任しておこうということかな」と思っていたのだが、そうではなかったようである。「訂正の理由」の記載は次のとおりである。 おそらく、2月21日の開示の後、引頭氏がフジテックに対して訂正するよう要求したのだろう。辞任の理由とし、また、あえて開示の訂正を求めていることから、引頭氏は、フジテックの企業統治(コーポレートガバナンス)に関する考え方に対して強い違和感を抱いていたように思われる。引頭氏とフジテックの間で企業統治に関する考え方がどのように異なっていたのだろうか。 3 ガバナンス先進企業? フジテックは、2023年1月20日に開示した「臨時株主総会の付議議案及び株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」において(この中でフジテック取締役会は、オアシスが提案したすべての議案に反対している)、取締役9名のうち6名が社外取締役であり、それはTOPIX構成銘柄比上位約3.8%であることや、取締役9名のうち2名が女性取締役であり、それはTOPIX構成銘柄比上位約13.3%であることなどをあげて、自社を「日本におけるガバナンス先進企業」であるとしている。 どうもフジテックは、社外取締役が多いほど企業統治が進んでいると考えているようなのだが、その考え方は適切なのだろうか。確かにコーポレートガバナンス・コードの「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」では、次のように定められている。 しかし、これは、社外取締役の数が少ないと、その影響力を期待できないので、一定数必要だという意図で、多ければ多いほど良いということではないと思われる。同社は監査役設置会社であり、監査役設置会社の場合、取締役会が重要な業務執行を決定する(会社法362条4項)。社内取締役が3名、社外取締役がその倍の6名という構成で、同社の意思決定に支障が生じないのだろうか。同社の事業を熟知しているはずの社内取締役ではなく、必ずしも熟知しているとは限らない社外取締役の判断が優先されてしまう場合があり得る(指名委員会等設置会社の場合は、通常、取締役の大半を社外取締役にしても、執行役は社内出身者で固める)。同社の取締役の構成はバランスを欠いているように思われる。 なお、2名の女性取締役はいずれも社外取締役であり、社内取締役は全員男性である。 4 企業統治上問題ないとは? 臨時株主総会へと至る、フジテック取締役会とオアシスの対立は、オアシスが、フジテックと同社代表取締役の内山高一氏(当時。以下「内山氏」という)及びその関係会社との間で為されている関連当事者取引などについて企業統治上問題があると指摘したことから始まっている。その指摘に対して、フジテックは、1名の弁護士による調査を受けたうえで2022年5月30日に「当社株主による主張に対する取締役会決議に関するお知らせ」を開示したのだが、それには次のような記載がある(5月29日に決議したのなら、30日ではなく29日に開示すべきだが)。 その開示には弁護士による調査結果が添付されているが、そこで示されているのは、法的に問題ないということだけである。法的に問題ないということと、企業統治上問題ないということとは、当然イコールではない。フジテック取締役会は、同社の「取締役会、社外取締役のみによる会議体その他で重ねてきた審議、検討の結果を踏まえ」、「企業統治上も問題ない」と判断している。同社の企業統治が機能しているか否かが問われているのに、それを同社内部で判断しており、これは、患者が医師に診てもらわず、自身で病状を判断するようなものである。同社は企業統治について誤解しているのではないだろうか。 その後、同社は、2022年6月17日「第三者委員会による追加調査実施に関する取締役会決議のお知らせ」を開示し(2022年8月10日に「第三者委員会に関するお知らせ」において第三者委員会の構成を開示)、初めに次のように記載している。5月30日の開示に対して多くの疑念の声が出たのだろう。 5 仏作って魂入れず? フジテックは、企業統治について「形さえ整えれば」と捉えているように見える。引頭氏にも、考え方が異なるというより、同社は企業統治の意味を理解していないように見えたのではないだろうか。ただ、同社のような日本の上場会社は、ほかにもたくさんあるように思われる。 なお、同社は2022年6月23日に「第75期定時株主総会付議議案の一部撤回のお知らせ」を開示し、同日開催の定時株主総会へ付議予定だった内山氏の取締役選任議案を撤回している(同日併せて「代表取締役の異動に関するお知らせ」において、内山氏が代表権のない会長へ就任することを開示)。その「撤回する理由」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 内山氏は、第三者委員会から問題ないというお墨付きをもらって、正々堂々と代表取締役に返り咲いてやろうと考えているのかもしれない。第三者委員会の結論がどうなるか、本稿執筆時点では不明だが、仮に問題ないという結論を得られたとしても、オアシスが提案した者が社外取締役に入ったため、揉めに揉めることになるだろう。 (了)
《速報解説》 東証、有価証券上場規程等の一部を改正 ~スタートアップの新規上場手段多様化を図る観点から、IPOに関する上場制度等を見直し~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年3月10日、東京証券取引所は、「IPOに関する上場制度等の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 東京証券取引所は、2022年12月16日から、上記の見直しに関する要綱を公表し、意見募集を行っていた。パブリック・コメントの結果についても公表されている。 これは、2022年8月24日の「IPO等に関する見直しの方針について」において公表済みの内容を具体化したものであり、スタートアップにおける新規上場手段の多様化を図る観点から、新規上場プロセスの円滑化やダイレクトリスティングの環境整備など、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」(2022年6月7日閣議決定)等に掲げられた事項も含めて、所要の上場制度等の見直しを行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 新規上場プロセスの円滑化 1 新規上場申請書類 2 形式要件 3 上場審査 新規上場申請者は、定時株主総会の到来(決算の確定)にかかわらず、新規上場申請日から1年の間は、改めて新規上場申請を行わず上場審査を継続できる。 4 初値形成 直接上場銘柄の上場日の売買において成行売呼値及び成行買呼値を禁止する。 Ⅲ ダイレクトリスティングの導入 ダイレクトリスティング(上場する際に、新株の発行を行わないで、既存の株式だけを上場する方法)について、グロース市場への新規上場申請者は、新規上場時において時価総額が250億円以上となることが見込まれる場合には、新規上場に際して公募の実施を求めない。 Ⅳ 純資産の額に関する上場維持基準の見直し グロース市場上場会社が、事業年度の末日において純資産の額が正でない状態となった場合においても、時価総額が100億円以上である場合(当該状態となった理由が中長期的な企業価値向上に向けた投資活動に起因して生じた損失によると当取引所が認めた場合に限る)であって、基準の適合に向けた計画を適切に開示しているときには、当該計画の計画期間に基づき改善期間を設定するものとする。 Ⅴ 実施時期等 原則として、2023年3月13日から施行する。 「新規上場日の売買における成行呼値の禁止(呼値に関する規則の一部改正)」については、2023年6月26日以後に新規上場を行う銘柄から適用する。 詳細な規定が設けられているので、実際の実施に際しては注意する。 (了)
2023年3月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.511を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第113回】 「パーシャルスピンオフに係る課税繰延べ制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 令和5年度税制改正に係る法案審議は、2月末に衆議院を通過したところである。今回の改正の1つに、社内ベンチャーの独立化等を念頭に、スピンオフ税制の特例措置が、1年限定という形ではあるが、盛り込まれている。 従前、スピンオフに係る課税繰延べ措置(適格分割型分割・適格株式分配)は、平成29年度税制改正において創設され、その母体から完全に分離独立する場合に限り認められていたところであるが、今回の特例措置は、完全分離ではなくとも、相当程度母体からの独立性が担保されている場合(パーシャルスピンオフ)にも、課税の繰延べを認めることとしている(措法68の2の2)。独立初期段階において母体の信用力、ブランド等を活用することで、早期のテイクオフを促す効果が期待される。 〇事業再編計画の認定が前提 今回の措置は、従前の適格株式分配の対象に、産業競争力強化法の認定を受けた事業再編計画に基づく完全子法人株式のみの現物分配(「認定株式分配」)で一定の要件を満たすものを追加するものである。 したがってパーシャルスピンオフの課税の特例を適用するには、税法上の要件に加えて、産業競争力強化法上の事業再編計画の認定要件をクリアする必要がある。従前の完全スピンオフの場合には、税制上は産業競争力強化法の認定は不要(会社法上の特例を受けるのであれば認定が必要)であるのと異なる点である。 事業再編計画の認定を受ける期間は、「令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間」とされている。この期間内に認定を受ければ、パーシャルスピンオフの実施が期間外であっても今回の措置の適用は可能である。 〇事業再編計画の認定要件 事業再編計画の認定要件の詳細は事業再編の実施に関する指針において規定されるが、すでに、事業再編計画の認定要件に関して、経済産業省から2月10日に事業再編の実施に関する指針の一部を改正する告示案がパブリックコメントに付されていたところである。 今回の告示案によれば、これまでも要件とされていた、計画開始から3年以内に、次のように、一定の生産性の向上及び一定の財務内容の健全性の向上が達成されることが必要である。 さらに、「認定株式分配」となるには、これら2つの認定要件に加えて、次のいずれかの要件をみたすことが求められている。 〇税法上の要件 税法上の要件については、法案レベルでは、株式分配直後に現物分配法人による持分割合が20%未満となることのみが規定されるにとどまり、詳細は政令に委ねられているが、税制改正大綱においては、概要は次のように示されている。 これらの要件は、従前の適格株式分配を規定する法人税法2条12号の15の3及び法人税法施行令4条の3第16項で規定されているものとほぼ同じであるが、②のところが80%ではなく90%とされている点が異なっている。 (了)
令和5年以後の 国外居住親族に係る扶養控除等の適用ポイント 【第1回】 「令和5年以後の制度の概要と源泉徴収の際の手続」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 令和2年度税制改正により、令和5年分の所得税から扶養控除の対象となる国外居住親族の範囲について見直しが行われている。 本連載では今回より3回シリーズで、見直し後の制度の概要及び具体的な手続や提出書類等について、実務的な観点から解説を行う。 【第1回】(本稿)は、見直し後の制度の概要と源泉徴収の際の手続について取り上げる。 【1】 見直し後の制度の概要 令和5年以後は、国外居住親族(※)のうち年齢が30歳以上70歳未満の者については、合計所得金額が48万円以下であったとしても、留学している等の一定の要件を満たしていなければ扶養控除の適用を受けることができない(所法2①三十四の二ロ)。 (※) 国外居住親族とは、親族のうち非居住者である者をいう。非居住者とは、居住者(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人)以外の個人をいう。 見直しの背景や見直しの詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 【2】 源泉徴収の際の手続 (1) 扶養控除等申告書の記載 給与所得者(居住者)が扶養控除の適用を受けようとする場合には、その年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与等の支払者に対し控除対象扶養親族の氏名等を記載した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下、「扶養控除等申告書」という)を提出しなければならない(所法194①)。 さらに、控除対象扶養親族が国外居住親族である場合には、その旨及び控除対象扶養親族に該当する事実を記載する必要がある(所法194①七)。 〈扶養控除等申告書の記載方法〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 確認書類の提出又は提示 国外居住親族について扶養控除の適用を受けるには、上記(1)の記載をした扶養控除等申告書を提出する際、その親族に係る一定の確認書類を提出又は提示する必要がある(所法194④)。 国外居住親族の年齢又は要件ごとに提出又は提示が必要とされる確認書類は、次のとおりである(所令316の2②③、所規73の2②二、③④)。 〈確認書類一覧〉 (注) 国外居住親族について配偶者控除、配偶者特別控除、障害者控除の適用を受ける際にも、上表と同様の確認書類の提出又は提示が必要である。 * * * 次回(第2回)は、各確認書類の詳細について解説を行う予定である。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第47回】 「M&Aを契機とした借地権の返還」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 借地権の無償譲渡等に係る課税関係 地主がその所有する土地に借地権を設定した場合、地主はその土地を自由に使用収益できなくなること等から、借地権の設定はその土地に関する権利の部分的な譲渡であると考えられている。このような事情に鑑みて、借地権の設定時及び返還時において、地主と借地権者との間で権利金(返還の場合には立退料)の受渡しが行われる慣行がある地域もある。 借地権の設定時においては、権利金に換えて相当の地代によることも税務上認められており、権利金や相当の地代の受渡しが行われた場合には、その取引は正常な取引条件でなされたものとして法人の課税所得が計算されることとなる(法令137)(※1)。 (※1) なお、法人税法上の借地権は、「地上権又は土地の賃借権」と定義されている(法令137かっこ書き)。 これに対して、借地権を返還する場合において、このような取引慣行があるにもかかわらず、地主から借地権者に対して立退料等の支払いが行われなかった場合には、地主に対して贈与があったものとされるのが税務上の原則的な取扱いである。この場合において、地主が法人の役員を兼ねていた場合には、役員に対する給与とされ、かつ定期同額給与等に該当しないとして税務リスクが生じる可能性を検討する必要がある。 ここで、立退料等の支払いがない場合においても、以下の法人税基本通達13-1-14(1)~(3)に該当する場合には、立退料等の授受がない場合でも例外的に認められる。 上記通達の理由のうち、(3)の下線を付した「その他これに類する理由」の該当性判断が難しいと思われるが、具体的な判断基準は通達中に示されていない。しかし、上記通達の理由(3)の解説として「経済環境の変化等により、従前の借地上の建物をそのまま利用することが経済的に困難となり、仮に他に転用するとすれば、相当の改造、改修その他の資本的支出をしなければならない状況において、このような再投資をしても、更に経営を継続することについて採算の見通しが全く立たないため、やむを得ず借地契約を解消するというような事例とか、従来、従業員宿舎用地等として借地していた状況において、工場移転に伴って従業員宿舎が不要になったので、これを取り壊して土地を返還するというような事例が、ここでいう借地権を存続させることが困難であると認められる事情に当たると考えてよいと思われる」とする解説がある(※2)。 (※2) 高橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説 十訂版』(税務研究会出版局、2021)1379-1380頁。 上記解説によれば、借地権を有する法人にとって、土地の上にある建物に経済的・状況的な利用価値がなくなったことを受け、コスト面に鑑みて借地権を返還したような場合には、無償返還が認められる事由に当たると判断してよいと思われる。 (2) 借地権を返還したことに関して課税関係が争われた事例 ここで、借地権の返還において上記通達の理由(3)の適用が争点となった事例として、国税不服審判所平成22年7月9日裁決がある(※3)。以下にその概要を記載する。 (※3) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-370。 この事例では、国税不服審判所によって法人税基本通達13-1-14(3)についての趣旨が示されている。それによると、「経済的合理性の面から見て、借地契約の存続が困難であるという場合には、借地権としての交換価値がほとんどなく、当事者間に借地権の価額に相当する贈与も認められず課税関係が生じないとするもので、ある程度弾力的に無償返還を認めるという趣旨であ」ることがその趣旨であるとされている。そして、その適用については、通達の例示中にある「著しく老朽化したこと」に限らず、「経済環境の変化等により、従前の借地上の建物をそのまま利用することが経済的に困難となり、仮に他に転用するとすれば、相当の改造、改修その他の資本的支出をしなければならない状況において、このような再投資をしても、更に営業を継続することについての採算の見通しが全く立たないため、やむを得ず借地契約を解消するというような場合などが当たる」とした。 また、国税不服審判所が認定した事実の中に、経営立て直しのために財産を処分する旨の覚書の取り交わしの日から3日後に、当該役員は納税者の代表取締役の地位を譲り、代表権のない取締役になった上、本件覚書等に役員あるいは株主としての権利を制限する事項が明確に盛り込まれたという点がある。これは事実上、当該役員は納税者の経営方針等に関する決定権限を失ったものと認められるとされた上で、その後になされた合意解除は、納税者において本件建物が従来の使用目的を果たせなくなり、不必要な賃借料の削減というコスト面から、土地所有者である当該役員に申し出て合意されたものとみることが相当であり、土地所有者の都合による解除とはいえない旨が示されている。 (3) M&Aの場面への適用について 上記通達の理由(3)の解説やこのような事例から、通達が例示する建物の老朽化という事情のほか、移転により借地権を維持することに経済合理性がなくなったために地主に返還した場合には、立退料等の支払いがない場合においても認められる余地があると考えられる。 M&A後に本社移転が検討されるのであれば、本社移転を選択したのは買手を含む法人側の経営上の判断であるため、地主である現代表取締役の個人的な都合ではないと捉えられる可能性は高いだろう。もっとも、このようなケースが想定されるのであれば、借地権の設定時において「土地の無償返還に関する届出書」を提出しておくことにも一考の余地がある。また、本社ではなく、工場等を移転させる場合には、ISO認証等のハードルが別途存在することについても留意する必要があるだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第50回】 「適格現物分配を行った場合の申告調整」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配を行った場合の申告調整の具体例について解説します。 1 適格現物分配を行った場合の現物分配法人の処理 (1) 前提条件 (2) 会計処理 現物分配法人B社の会計処理は、次のとおりです。 (3) 税務処理 現物分配法人B社の税務処理は、次のとおりです。 ① 資産の譲渡 現物分配法人が適格現物分配により被現物分配法人にその有する資産を移転したときは、現物分配時の帳簿価額による譲渡をしたものとします(法法62の5③)。 現物分配法人B社は、被現物分配法人A社に土地を帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じません。 ② 適格現物分配により減少する利益積立金額 適格現物分配による剰余金の配当等が行われた場合には、現物分配法人において交付資産の帳簿価額に相当する金額の利益積立金額の減少を認識します。 現物分配法人B社において減少する利益積立金額は、適格現物分配の直前の土地の帳簿価額に相当する金額である2,000となります。 ③ 適格現物分配により減少する資本金等の額 適格現物分配が行われた場合には、現物分配法人B社の資本金等の額は減少しません。 ④ 源泉徴収 現物分配法人B社は適格現物分配による配当金の額については、源泉徴収する必要はありません。 (4) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 会計上は、譲渡益が収益に計上されているため、別表4で所得を減算する処理が必要となります。 その他の調整仕訳については、損益項目が含まれないため、別表4での申告調整は行わず、別表5(1)のみで調整することとなります。 (5) 別表4の処理 別表4の処理については、次のとおりです。 (6) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 (注) ※印は調整仕訳により生じたものであることを表示するために記入しています。 ◆ポイント◆ ① 譲渡益の「減」の欄に記載されている3,000は別表4で減算したものです。 ② 現物分配法人B社において減少する利益積立金額が2,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 2 適格現物分配を行った場合の被現物分配法人の処理 (1) 資産の取得 被現物分配法人が適格現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けたときは、資産の取得価額は現物分配直前の帳簿価額となります(法法62の5⑥、法令123の6①)。 被現物分配法人A社が適格現物分配により取得した土地の取得価額は、現物分配直前の帳簿価額である2,000となります。 (2) 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、移転を受けた資産の帳簿価額相当額の全額が益金不算入となります(法法62の5④)。 適格現物分配の場合には、受取配当等の益金不算入の規定は適用されず、適格現物分配の益金不算入の規定により全額が益金に算入されません。 適格現物分配があった場合には、被現物分配法人A社において、土地の取得価額相当額である2,000の全額が益金不算入となります。 (3) 会計処理 被現物分配法人A社の会計処理は、次のとおりです。 会計上は、現物分配法人株式の一部を、配当で受け取る財産と引き換えたものとみなして、帳簿価額を減額することがあり、減額する帳簿価額を今回は1,000と仮定します。 (4) 税務処理 被現物分配法人A社の税務処理は、次のとおりです。 (5) 会計処理と税務処理の調整 会計処理と税務処理を比較すると、差異が生じているため、調整する必要があります。 調整仕訳は、次のとおりです。 会計上は、受取配当が過大に計上されているため、別表4で所得を減算する処理が必要となります。 その他の調整仕訳については、別表4で申告調整が必要なものはなく、別表5(1)のみで調整することとなります。 (6) 別表4の処理 別表4の処理については、次のとおりです。 (7) 別表5(1)の処理 別表5(1)の処理については、次のとおりです。 ◆ポイント◆ 被現物分配法人A社において増加する利益積立金額が2,000となっているかを別表5(1)で確認することが重要です。 (了)