空き家をめぐる法律問題 【事例76】 「空き家特措法に関する指導を受けた場合の対応」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私と妹は、父が約10年間所有していた古い木造住宅を共同相続しました。当時はまだ倒壊の危険まではなく、相続登記も未了のままにしていました。 ところが、ある日、木造住宅のある市役所から「雑草や雨どいの破損、ゴミの散乱について近隣から苦情が入り、『〇月末までに清掃と仮補修を行うように』」との空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく通知書が届きました。 私は、この通知書に対して、どのように対応すればよいでしょうか。 1 検討の視点 遠方の実家を相続した場合のように、遠方に所有する建物については管理を十分に行えないことがあり、建物の管理が適切に行われないと、隣人との間の紛争が生じる可能性があるだけでなく、思わぬ行政上の不利益を受ける可能性もある。このような問題は、近年「実家じまい」の問題としても注目されているところである。 そこで、本事例では、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空き家特措法」という)を念頭に対応を検討する。 2 空き家特措法の概要 (1) 空き家特措法の対象となる空家等 空き家特措法は、当初、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態の空家等を含む4つの状態類型を「特定空家等」として定義し、行政機関による助言・指導、勧告、措置命令と代執行を通じて、危険な空き家が存在する状態を改善することを想定していた。 しかし、空き家特措法の施行後も空き家数は増加の一途を辿り、その中には、空き家特措法に規定する「特定空家等」にまで至らない程度の空き家も相当数含まれており、より早い時期から対策を講じることが期待されていた。そこで、このような「特定空家等の予備軍」のような空家等も、空き家特措法の対象とするために令和5年に改正が行われ、新たに「管理不全空家等」のカテゴリーが追加された。 (2) 管理不全空家等に対する規制の仕組み 管理不全空家等とは、空家等が適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にある空家等のことをいう(空き家特措法第13条第1項)。ここでいう「おそれ」は、そのまま放置した場合の悪影響が社会通念上予見可能な状態をさすものであって、実現性に乏しい可能性まで含むものではないと考えられている。 実際には、「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」に示された4類型ごとの基準を踏まえて、個別具体的に判断することになる。例えば、管理不全空家等に関する例として、清掃等がなされておらず、散乱し、又は山積したごみ等が敷地等に認められる状態や、雨樋等の破損した状態が示されている。 管理不全空家等に該当する空家等がある場合、市町村長は、①管理不全空家等の所有者等に対して、管理不全空家等が特定空家等になることを防止するために必要な措置を講じるよう指導することができる(空き家特措法第13条第1項)、また、②市町村長は、指導をしても、管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれが大きいときは、特定空家等になることを防止するために必要な措置を勧告することができる(同法第2項)。 管理不全空家等について勧告を受けると、特定空家等の場合と同様に、管理不全空家等の敷地が住宅用地特例制度(小規模住宅用地1/6、一般住宅用地1/3への課税標準軽減)の対象から除外されることになり、翌年度分以降の固定資産税等が増額されることになる(地方税法第349条の3の2、第702条の3)。 なお、管理不全空家等については、特定空家等の場合と異なり、措置命令の対象にはなっていないが、管理不全空家等が特定空家等の状態に至った場合には、措置命令や代執行の対象になることから早期の対応が期待される。 3 本事例において 市役所から届いた通知書の記載内容からすると、空き家特措法に基づく管理不全空家等の指導に留まる通知書であると想定される(実際の通知書にその旨の記載があるはずである)。相談者としては、勧告を回避するとともに、特定空家等の状態にならないようにするため妹と話し合い、通知書に記載された清掃や仮補修を行うことになろう。 妹との話合いが進まない場合には、共有物の保存行為は共有者単独で行うことができるため、相談者において当面の費用を負担して最低限の清掃や仮補修を行い、事後的に妹との間で費用負担の話合いを行うことになる。 このような対応をとったとしても、その後も実家の継続的な管理が必要になることや、その都度、妹との話合いをする必要が生じうることから、将来的な負担を回避するために、実家の売却も視野に入ってくるところであり、この場合には妹の同意を得て売却を行うことになる。 なお、相談者や妹が実家の売却をするか否かに関わらず、令和6年4月から相続登記が義務化されており、過去に相続した物件であっても対象になることから、早期に対応しておくことが期待される。 (了)
〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第5話 義足の浅川審判官① 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 永途が、審理部のドアを開けると、末席に座っている葛本審査官が、熱心に議決書を読んでいる。 葛本審査官の机の上には、書類が高く積まれている。 「・・・あの・・・」 永途は、葛本審査官の机の傍らに行き、声をかける。 審理部はシーンとしている。 職員は、黙々と書類を読んで、誰も喋っていない。 そのとき、小柄なメガネをかけた初老の職員が立ち上がった。 初老の職員は、永途を見ると、ニコッと笑いかけて、ドアに向かう。 少し足を引きずるように歩くので、そのたびに床の音が響く。 「・・・永途さんか」 葛本審査官は、顔を上げて、永途を見る。 永途は、慌てて、ドアから葛本審査官に振り向く。 「・・・ちょっと、事案についてお伺いしたいことがあって・・・」 永途は、持参してきた袋の中から事案の綴りを取り出す。 葛本審査官は、頷きながら、静かに立ち上がって、座席から少し離れたところにあるテーブルに永途を導く。 「どんな質問ですか?」 葛本審査官は、椅子に座ると、小さな声で訊ねる。 「・・・あの・・・交際費の件ですが・・・」 永途もつられて、小声になる。 「・・・交際費と会議費の区分なのですが・・・」 永途は、言葉を続ける。 「・・・通達で・・・交際費に該当しないものとして『会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用』となっています・・・この場合、会議の場所は、問われないのでしょうか?」 「・・・会議の場所・・・どういうことですか?」 葛本審査官は、永途の顔を見る。 永途は、袋に入っていた通達集を取り出し、それを開く。 「措置法通達61の4(1)-16では、次のように規定されています」 そう言うと、永途は、同通達を読み上げる。 「・・・このように、通達では、交際費か会議費かの区分について、会議としての実体があるかどうか、すなわち、実質的に判断すると規定しています・・・」 「・・・永途さんの事例は、どのようなケースなんですか?」 葛本審査官が再び訊ねる。 「ええ、審査請求人は、スナックの費用も会議費だと主張するのですよ・・・実際、そこで、会議を行っているのだから、交際費ではないと・・・」 永途は、苦笑しながら言う。 「・・・実質的判断ですか・・・」 そう言いながら、葛本審査官は、永途の持っている通達集を借りて、今度は、措置法通達61の4(1)-21を開く。 「・・・これも通達だけれど・・・会議費は、『通常会議を行う場所において』・・・となっていることから、スナックや料亭などは・・・一般的に、会議を行う場所でないことから、会議費とは認められず、交際費として扱われるだろう・・・」 葛本審査官は、通達を見ながら、言う。 「・・・審査請求人は・・・ドイツから取引先が来て、その担当者がたまたま日本のビールが飲みたいと言ったので、会社の近くのスナックに、その外人を連れて行き、そこでビールを飲みながら、日本で取扱う商品についての打ち合わせをしたと審査請求書で主張しているのです・・・ドイツでは、ビールは水と同じレベルの飲み物だと・・・」 永途は、審査請求人に同情的である。 「・・・法令では・・・会議の場所について・・・通達に書かれているように『会議に際して社内又は通常会議を行う場所』とは規定していないでしょう・・・」 こんどは、永途は法令集を袋から取り出す。 「・・・交際費の定義は、措置法61条の4第6項に規定していますが、その中で1号から3号まで、次のようになっています・・・」 「・・・この3号については、措置法施行令37条の5第2項で、1号から3号まで挙げていますが、『通常会議を行う場所』との規定はどこにもありません・・・」 永途は、自信を持って答える。 (つづく)
《速報解説》 ASBJが「金融商品に関する会計基準」等の改正を公表 ~譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲を明確化~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年6月2日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準」(改正企業会計基準第10号)、「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)等を公表した。 これにより、2026年2月27日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されている。 これは、金融資産の譲渡において、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融資産の消滅の認識要件 金融商品会計基準の(注4)を次のように改正し、特別目的会社が発行する「証券」を保有している投資者と特別目的会社に対して「貸付け」を行っている融資者とで異なる取扱いを設ける特段の理由はないと考えられるため、特別目的会社に対する融資者を特別目的会社に対する投資者と同様に取り扱うことを示す(アンダーラインが改正点)。 上記の改正に合わせて、「金融商品会計に関する実務指針」35項、40項など、「連結財務諸表に関する会計基準」7-2項なども改正(新設を含む)する。 Ⅲ 適用時期等 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から適用する。 上記の定めにかかわらず、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後実施される金融資産の譲渡から2026年改正会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する。 (了)
《速報解説》 国税庁が「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表 ~令和9年1月1日以後に生ずる所得から源泉徴収実務に影響、合計税率2.1%は据置き~ Profession Journal編集部 令和8年5月、国税庁は、「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」を公表した。 これは、令和8年度税制改正により創設された防衛特別所得税及び改正された復興特別所得税について、源泉徴収義務者からの照会が想定される事項を整理したものであり、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する源泉徴収実務を見据えた取扱いの明確化を図るものである。 1 改正の概要 令和8年度税制改正により、所得税の源泉徴収義務者は、所得税を徴収する際に防衛特別所得税(源泉徴収すべき所得税の額の1%相当額)を併せて徴収し、所得税の法定納期限までに所得税と併せて納付しなければならないこととされた。 同時に、復興特別所得税については、税率が2.1%から1.1%に引き下げられるとともに、課税期間が令和19年12月31日までから令和29年12月31日までに10年間延長された。 これらの改正は、令和9年1月1日以後に生ずる所得に対する所得税について適用される。 ここで実務上特に重要な点は、改正前(復興特別所得税2.1%)と改正後(防衛特別所得税1.0%+復興特別所得税1.1%)とで合計税率(2.1%)に変更はないということである。すなわち、源泉徴収税額の計算方法そのものに変更は生じない。 2 Q&Aの主な内容 公表されたQ&Aは全16問で構成されており、源泉徴収義務者、対象となる支払、税額の算出方法、年末調整、退職手当等、租税条約適用時の取扱い、法定調書等の各論点について取りまとめられたものである。主なポイントは以下のとおりである。 (1) 源泉徴収義務者及び対象支払(Q2、Q3) 防衛特別所得税及び復興特別所得税は、所得税の源泉徴収義務者が所得税と併せて源泉徴収することとされており、所得税の源泉徴収義務者がそのまま両税の源泉徴収義務者となる。源泉徴収の対象も、所得税法及び租税特別措置法の規定により所得税を源泉徴収すべきこととされている支払の全般に及ぶ。 (2) 源泉徴収税額の算出(Q5、Q6) 源泉徴収すべき税額は、支払金額等に合計税率(所得税率×102.1%)を乗じて算出し、1円未満の端数を切り捨てる。所得税率10%の場合の合計税率は10.21%、20%の場合は20.42%となる(改正前と同じ)。 端数計算については、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額で行う点に留意が必要である。 (3) 給与等及び年末調整(Q7、Q8) 毎月の給与等に係る源泉徴収については、各年分の「源泉徴収税額表」に当てはめて算出する。令和9年分以後の源泉徴収税額表は防衛特別所得税及び復興特別所得税を含んだ税額表となる予定であり、令和8年8月頃に国税庁ホームページに掲載される見込みである。 年末調整についても、年調所得税額に102.1%を乗じる方法に変更はなく、令和8年分と令和9年分とで計算方法に違いは生じない。 (4) 退職手当等(Q9) 退職所得の源泉徴収税額の速算表についても、令和8年分と令和9年分とで変更はない。「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合に退職手当等の収入金額に20.42%を乗じる取扱いも従前どおりである。 (5) 令和8年分年末調整の超過額の処理(Q11) 令和8年分の年末調整により生じた超過額を、令和9年1月以後に支払う給与等から源泉徴収した所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税から控除する場合であっても、所得税徴収高計算書(納付書)の「年末調整による超過税額」欄にその控除額を記載する。令和8年分の年末調整には防衛特別所得税が含まれていないものの、納付書の記載方法は通常どおりで差し支えない点が明確化された。 (6) 租税条約等が適用される場合(Q13、Q14) 租税条約の規定により限度税率が適用される場合又は所得税が免除される場合、及び外国居住者等所得相互免除法の規定により税率が軽減される場合又は所得税が非課税とされる場合には、防衛特別所得税及び復興特別所得税は課されない。なお、非居住者等への支払について、両税が含まれた税額と含まれない税額の双方を同時に納付する場合には、それぞれ別葉の所得税徴収高計算書(納付書)による必要があるとされた。 (7) 既存の納付書の使用(Q15) 「令和○年○月支払分源泉所得税及び復興特別所得税」と印字された手元の納付書は、令和9年1月以後の納付にもそのまま使用することができる。「納期等の区分」等の補正も不要である。 (8) 法定調書の記載(Q16) 「給与所得の源泉徴収票」「利子等の支払調書」等の法定調書の「源泉徴収税額」欄には、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税の合計額を記載する。 3 実務上の留意点 今回のQ&Aから読み取れる実務対応の要点は、以下のとおりである。 第一に、合計税率2.1%は変わらないため、毎月の給与等の源泉徴収や年末調整の計算について、源泉徴収義務者側の事務処理に大幅な変更は生じない。ただし、令和9年1月1日以後に生ずる所得から適用が開始されるため、令和9年分以後の源泉徴収税額表への切替えや、給与計算システムにおける税額の内訳(所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税)の表示・集計方法の見直しが必要となる場合がある。 第二に、令和9年1月1日「以後に生ずる所得」の判定について、Q1の(注)に給与等の場合の判定基準(支給日基準、株主総会決議日基準、給与規程改訂による遡及支給の場合の取扱い等)が示されており、年末年始をまたぐ支給に係る適用関係の判定実務において、当該基準の確認が必要である。 令和9年分の源泉徴収税額表の公表(令和8年8月頃予定)等に合わせて追加情報が示されることが見込まれるため、実務担当者においては国税庁ホームページの更新情報に引き続き留意する必要がある。 (了)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
令和6年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和6年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
2026年5月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.670を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第93回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 イ 実際のブロックチェーン分析ツール 現時点では、税務当局は民間企業が提供するブロックチェーン分析ツールに頼らざるをえないであろう。 この点について、米国財務省の担当官は、次の点を述べている(※)。 (※) U.S. GOVERNMENT ACCOUNTABILITY OFFICE, Economic Sanctions: Agency Efforts Help Mitigate Some of the Risks Posed by Digital Assets, GAO-24-106178(Dec. 13, 2023) ブロックチェーン上のデータ自体は公開されているものの、ウォレットアドレスの関連づけ(クラスタリング)、エンティティの推定、リスクスコアリング、トランザクション履歴の可視化といった高度な分析処理には、大量のデータの蓄積と専門的なアルゴリズムが必要となる。 これらは単にブロックチェーンエクスプローラーを閲覧するだけでは実現できない。 よって、税務当局が単独で対応できるものではない。 これは、公開データであっても、それを意味ある情報に変換する能力は高度に専門化されていることを示している。 「誰でも閲覧できる」ことは、「誰でも分析できる」ことと同じ意味ではない。 ブロックチェーンの分析それ自体は、一般に公開されている(無料で使用できる)サイトやサービスを利用して行うことも可能である。 例えば、ブロックチェーンエクスプローラーを用いれば、特定アドレスの送受信履歴や残高を確認することができるし、無料サイトの中にはトランザクション履歴のグラフ化(資金移動経路のグラフ表示)のサービスを提供しているものもある。 しかし、無料ツールでは、アドレス同士の関係性の自動クラスタリング、既にアドレスの管理者を把握している場合の当該アドレスへのタグ付け、リスク評価、複雑な資金移動経路のグラフ表示などの機能は限定的である。 他方で、例えば、ブロックチェーン分析会社として著名なChainalysisが提供している暗号資産のトランザクションを追跡するリアクター(Reactor)というツールを使うことで、より精度の高い分析が可能となる。 リアクターに特定のウォレットアドレスを入力すると、そのアドレスと関連性のある複数のウォレットアドレスを1つのグループとしてまとめたクラスタが保有するアドレス群を認識できる。 このクラスタリングは、取引パターン、同時使用、入出金構造などのヒューリスティック(経験則)に基づいて行われるものである。 補足すると、特定のアドレスがどのようなエンティティ(個人、組織、CEX、団体など)につながっているのかを確認したり、トランザクションの流れをグラフ化し、資金がどのような経路でどこに渡ったのかを明らかにしたりできる(※)。すなわち、リアクターを使うと、次のことが可能となる。 (※) アンカーテクノロジーズ株式会社HP参照。ヒューリスティックを使用してアドレスをクラスタリングするリアクターの仕組みについて、United States v. Sterlingov, 719 F. Supp. 3d 65, 71-77(D.D.C. 2024)参照。 また、リアクターは、取引の流れやクラスタ間のつながりをヴィジュアル化することで、資金がどのように移動しているかを視覚的に理解させるものであり、資金の最終移転先や保管先を突き止めたい場合にも有効なツールである。 この可視化機能は、単なる追跡にとどまらず、調査仮説の構築や証拠化においても重要な意味を持つ。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第60回】 「相続税の申告を受任した税理士が空き家特例不適用の指摘をしなかったことは、税理士の説明・助言指導義務違反で損害賠償責任があるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷空き家特例とは 少子高齢化の進む日本の課題の一つとして、空き家が放置されていることがある。適切な管理・修繕をせずに家屋を放置することは、倒壊リスク等の問題が大きいことから、政府は空き家対策の政策をいくつも実施している。この空き家対策の税制として、空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除(以下「空き家特例」)がある(措法35③)。 この措置法35条3項で「相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下第5項までにおいて同じ。)による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人(包括受遺者を含む。以下この項において同じ。)」と定められていることから、家屋と敷地の両方を同一の被相続人から相続した場合についてのみ適用があり、敷地と家屋を異なる被相続人から相続した場合は適用がないとされる。 ところで、何代も相続された土地や家屋の相続が登記されず、登記の名義人が直近の被相続人でないことがある。このような不動産を売却する場合は、売却当事者に名義を変更する必要がある。そこで、直近の被相続人からの相続ではなく、以前に他界した被相続人からの相続による取得とすると、登録免許税等のコストが安くなる。しかし、直前の被相続人からの相続ではないことが登記から明らかとなる場合には、空き家特例の適用を受けるのは難しいと考えられる。 今回は、相続税の申告を受任した税理士が、遺産分割協議書の内容に関連して空き家特例が不適用であるという指摘をしなかったことにより、相続人から損害賠償請求を受けた事例を紹介する。 ▷事案の概要 令和3年3月5日 税理士は、母の相続税の申告を相続人であるX1、X2から受任。 【財産状況】家屋(亡父名義のまま)、敷地(母名義)(父母が居住) 令和3年8月27日 司法書士から2通の遺産分割協議書の案文をCCメールで受領。 【母遺産分割協議書案】母名義の敷地 X1、X2が2分の1ずつ相続。 【父遺産分割協議書案】父名義の家屋 X1、X2が2分の1ずつ相続。 令和3年9月2日 税理士の事務所で遺産分割協議書の署名押印。 【建物の登記名義を父から直接子供に変更することについての司法書士の説明】 【相続した不動産を売却した時の税金を懸念する相続人に対する税理士の回答】 令和3年9月6日 司法書士が不動産の相続手続き実施。 令和3年11月6日 【不動産売却の仲介業者からの疑問】 令和3年11月24日 【税理士の回答】 令和4年1月11日 土地を8,800万円で売却する契約を締結。 令和5年3月9日 空き家特例を適用せず確定申告。 ▷争点 争点は説明・助言指導義務違反による不法行為及び債務不履行の有無と損害額及び過失相殺の正否である。 ▷判決 地裁は以下のように判示した。 【争点1】説明・助言指導義務違反による不法行為及び債務不履行の有無 【争点2】損害額及び過失相殺の成否 ▷まとめ 本件は、譲渡所得の申告自体を受任していないにもかかわらず、相続税の申告業務に関連して行った助言が責任の対象となった。この事案を前提に税理士職業賠償責任保険の観点から考えると、税理士の説明助言義務違反による損害賠償義務が確定した場合、「主契約」の対象ではなく「事前税務相談業務担保特約」の対象となる可能性が高い。 税理士業務の無償独占(税理士法52)という権利の裏側が、顧客の売却のニーズを把握し、具体的に節税額まで提示した場合、たとえ、無償の助言であったとしても、確認ミスに基づく不十分な説明により損害を与えた場合は、責任を免れないという重い義務がある。 本件は、控訴されており、控訴審がどのように判断したか気になるところである。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例158(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆免税事業者の登録 (1) 登録申請書を提出することができる事業者(消法57の2、消令70の2) 適格請求書発行事業者の登録を受けることができるのは、課税事業者に限られる。免税事業者が課税事業者となる課税期間の初日から登録を受けようとするときは、原則として、その課税期間の初日から起算して15日前の日までに「登録申請書」を提出しなければならない。 (2) 登録に関する経過措置(消基通21-1-1) 免税事業者が令和5年10月1日から令和 11 年9月30日までの日の属する課税期間中に「登録申請書」を提出し、登録を受けることとなった場合には、登録日から課税事業者となる経過措置が設けられている。この経過措置の適用を受ける場合には、登録日から課税事業者となるため、「課税事業者選択届出書」を提出する必要はない。この経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者の登録を受けた場合には、基準期間の課税売上高にかかわらず、登録日から課税期間の末日までの期間について、消費税の申告が必要になる。 (3) 経過措置と2年縛り(平成28年改正法附則44⑤) 経過措置の適用を受けて令和5年10月1日を含む課税期間に適格請求書発行事業者になった場合には、いわゆる2年縛り(2年間は課税事業者として拘束される)の適用はない。しかし、令和5年10月1日を含まない課税期間に経過措置の適用を受けて適格請求書発行事業者になった場合には2年縛りの適用がある。 ◆登録のとりやめ(消法57の2⑩、消令70の5③) 適格請求書発行事業者は、納税地を所轄する税務署長に「登録取消届出書」を提出することにより、適格請求書発行事業者の登録の効力を失わせることができる。 この場合、原則として、「登録取消届出書」の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われる。ただし、「登録取消届出書」を、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合は、翌々課税期間の初日に登録の効力が失われる。 ◆提出期限が土日休日等の場合 提出日は発信主義(郵便等による場合はその郵便等の通信日付印により表示された日に提出されたものとみなす)により判断する。なお、「登録取消届出書」の提出期限である「翌課税期間の初日から起算して15日前の日」が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他一般の休日、土曜日又は12月29日、 同月30日若しくは同月31日であっても、期限はその翌日に延長されない。 (了)