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令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第7回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第7回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   (7) 通算内適格合併又は連結内適格合併をした場合の取扱い 資産調整勘定等対応金額(100%分)は、離脱法人を合併法人とする通算内適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額がある場合には、その被合併法人調整勘定対応金額を加算した金額とする。 ここで、通算内適格合併とは、その通算終了事由が生じた時前に行われた適格合併のうち、その適格合併の直前の時において通算親法人との間に通算完全支配関係がある法人を被合併法人及び合併法人とするもの並びに通算親法人との間に通算完全支配関係がある法人のみを被合併法人とする合併で法人を設立するものをいう。 また、被合併法人調整勘定対応金額とは、通算内適格合併に係る被合併法人の株式について、加算措置の適用を受けた場合におけるその適用に係る資産調整勘定等対応金額に相当する金額をいう。 つまり、離脱法人(合併法人)が他の通算子法人(被合併法人)を適格合併した場合に、当該他の通算子法人(被合併法人)では通算終了事由が生じ、当該他の通算子法人の株式について投資簿価修正が行われるが、その時に当該他の通算子法人の株式について加算措置が適用されている場合、その加算された被合併法人の株式に係る資産調整勘定等対応金額について、合併法人である離脱法人が加算措置を適用する場合に引き継ぐ(その離脱法人の株式に係る資産調整勘定等対応金額に加算する)こととなる。 〈図表15〉 通算内適格合併をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 また、連結納税制度からグループ通算制度に移行した通算子法人(移行通算子法人)が連結納税制度の適用期間中に自社を合併法人とした連結内適格合併(令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日以前に行われた連結法人間の適格合併)を行っていた場合は、その連結内適格合併を通算内適格合併とみなして、被合併法人である連結子法人の被合併法人調整勘定対応金額を計算し、その離脱法人の株式に係る資産調整勘定等対応金額に加算することとなる。 この場合、連結親法人であった通算親法人が、令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度終了の日までに、この適用を受ける旨その他一定の事項を記載した書類を納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(この届出により被合併法人である連結子法人の株式について、連結終了事由が生じた時に加算措置が適用されたものとみなされることとなる)。 また、この適用を受ける場合には、通常の保存書類のほか、そのみなされる被合併法人調整勘定対応金額の計算の基礎となる事項に関する通常の保存書類に準ずる書類を保存しておくことが必要となる。 〈図表16〉 連結内適格合併をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ここで、被合併法人調整勘定対応金額を引き継ぐこととなる通算内適格合併(連結内適格合併)は、その適格合併の直前の時において通算親法人との間に通算完全支配関係がある法人(連結親法人との間に連結完全支配関係がある法人)間の適格合併となるため、グループ通算制度の開始前又は加入前(連結納税制度の開始前又は加入前)の完全支配関係法人間の適格合併の場合、その適格合併に係る被合併法人調整勘定対応金額が合併法人に引き継がれない。 そのため、例えば、単体納税制度の適用期間中に100%設立子法人(A社)と100%買収子法人(B社)が適格合併をした場合、A社(100%出資)とB社(100%買収)のいずれを合併法人としたかによって、資産調整勘定等対応金額が生じるかどうかが変わってくる。まず、A社を合併法人、B社を被合併法人とした場合、出資は対象外株式となるため、A社では資産調整勘定対応金額等は計算されず、また、単体納税制度の適用期間中の合併であるため、B社の被合併法人調整勘定対応金額はA社に引き継がれない。一方、A社を被合併法人、B社を合併法人とした場合、単体納税制度の適用期間中の合併であるため、A社の被合併法人調整勘定対応金額はB社に引き継がれないが、B社の100%買収による対象株式の取得時の資産調整勘定対応金額等は生じることとなる。 〈図表17〉 単体納税制度の適用期間中に完全支配関係法人間で適格合併をした場合の取扱い(100%出資子法人を合併法人とした場合) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表18〉 単体納税制度の適用期間中に完全支配関係法人間で適格合併をした場合の取扱い(100%出資子法人を被合併法人とした場合) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (続く)

#No. 486(掲載号)
#足立 好幸
2022/09/15

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第42回】「会社の解散に伴う役員退職給与の支給」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第42回】 「会社の解散に伴う役員退職給与の支給」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 分掌変更による役員退職給与の支給 法人税法における所得計算において、完全な退職ではない場合に支給した役員退職給与においても、一定の場合には損金算入が認められる。その詳細は【第2回】で詳述した通りであり、役員の分掌変更等を理由に、その役員に対し退職給与を支給した場合には、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるのであれば、これを退職給与として取り扱うことができる。その具体例として、法人税基本通達では、取締役から監査役になった場合、一定の要件を充足する限りは退職給与と取り扱うことができる旨が示されている(法基通9-2-32(2))。 ここで、会社が解散する際、これまで取締役であった者が取締役を退任し、新たに清算人に就いたことで役員退職給与を支給した場合において、上記【質問】の通りいずれも法人税法上の「役員」であることに変わりなく(法法2十五)、かつ上記通達にも損金算入の可否は明記されていないため、退職給与の取扱いについて判断に迷うケースもあるかもしれない。   (2) 清算人に係る退職給与の取扱い ここで、所得税の領域を確認すると、所得税基本通達において引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等とされるものについて、以下のように例示されている。 したがって、会社が解散し、取締役が清算人となった場合において支払われる退職給与は、所得税法上において退職所得として取り扱われることとなる。 これに対して、法人税法における所得計算に対しては、上記(1)の通り、分掌変更による支給に該当することで損金算入が可能となるが、その判断は、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的な退職と判断できるか否かの実態判断となると思われる。 ここで、国税庁による質疑応答事例「解散後引き続き役員として清算事務に従事する者に支給する退職給与」では、法人が解散した場合において、引き続き清算人として清算事務に従事する旧役員に対しその解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与については、法人税法上退職給与として取り扱われる旨が示されている。 当該質疑応答事例は、回答要旨の理由に所得税基本通達との整合性を挙げている他、会社の解散後においては、当該会社が従来の営業行為を全て停止して債権債務の整理等に入ることから職務内容の激変に該当するため、分掌変更の論点に沿うものであることを鑑みた見解であると考えられる。 なお、仮に解散決議後に清算人が引き続き営業行為を行った場合、会社法上「清算人が清算の目的の範囲外の行為をしたときは、効果は会社に帰属しない」のに対し(※)、法人税法上の通則には実質所得者課税の原則が存在するため(法法11条)、税務上、清算中の会社に売上等が帰属すると判断される可能性も完全に否定はできないと思われる。 (※) 江頭憲治郎『株式会社法 第8版』(有斐閣、2021)1048頁。 したがって、少なくとも、解散決議に伴い取締役を退任した際に役員退職給与を支給した会社が、清算中に営業行為を行った場合には、損金算入の是非について疑いの余地があるだろう。   (3) 清算人について言及された裁判例 実際に取締役から清算人となることについて裁判所が言及した事例として、長崎地裁平成21年3月10日判決(税務訴訟資料259号順号11153、TAINS:Z259-11153)がある。 この事例は、取締役を退任し、監査役に就任した者に対して支給した役員退職給与について、退任時の役員報酬額と監査役報酬が同額であったことから、役員退職給与の損金算入の可否について争われた事例であり、納税者の主張が認められた事例である。その中で、裁判所は、課税庁が「会社が解散して取締役が清算人に就任した場合、清算人も役員であるが、その退職金は退職所得に該当するとして取り扱っており・・・、法人の役員である間は、原則として退職給与(退職所得)とならないとの被告(筆者注:国、すなわち課税庁)の立場に一貫性があるか疑問がある」とし、課税庁の主張を退けている。 これを見ると、上記国税庁質疑応答事例と同様、裁判所も所得税法上と法人税法上の取扱いに差異が生じることを適正ではないと判断していると思われる。 これらを総合すると、支給額が過大とされない限り、本件は原則として損金算入が認められると考えられる。しかし、上記の通り、解散の本旨に沿うことは最低限の前提となるだろう。   (4) 税額計算ロジックへの留意 一般的に中小企業は所有と経営が一致するため、取締役を退任して清算人に就いた役員は、株主でもあるケースが多い。この場合において、役員退職給与と清算結了に伴うみなし配当課税双方の税額計算ロジックにも留意したい。なお、この論点は、【第38回】で触れたM&Aにおける役員退職給与と株式譲渡に係る所得税の税率差への留意点と類似する論点である。 すなわち、役員退職給与とみなし配当課税はいずれも累進課税の対象となるものであるが、役員退職給与を含む退職所得は退職所得控除があり、かつ1/2を乗じた上で課税退職所得を算定するという計算ロジックとなっている。加えて、会社の解散決議から清算結了までには時間を要することもあり、役員退職給与の支給と清算結了の帰属年度がずれることもあるため、役員退職給与の支給と株主に帰属するみなし配当を検討するにあたっては、帰属年度や双方の税額計算ロジックの相違に留意したいところである。   (了)

#No. 486(掲載号)
#中尾 隼大
2022/09/15

基礎から身につく組織再編税制 【第44回】「現物分配の概要」

基礎から身につく組織再編税制 【第44回】 「現物分配の概要」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、現物分配の概要について解説します。   1 現物分配の概要 現物分配とは、法人がその株主に剰余金の配当や自己株式取得に伴うみなし配当など一定の事由(下記3参照)により、金銭以外の資産の交付をすることをいいます(法法2十二の五の二)。 平成22年度税制改正前は、金銭以外の資産を子法人から親法人へ配当した場合、子法人において譲渡損益を認識していましたが、改正後は、一定の現物分配については、譲渡損益が繰り延べられることとされました。 (注1) 「現物分配法人」とは、現物分配によりその有する資産の移転を行った法人をいいます(法法2十二の五の二)。 (注2) 「被現物分配法人」とは、現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けた法人をいいます(法法2十二の五の三)。   2 現物分配の課税関係 現物分配に係る課税関係を非適格・適格ごとに表にまとめると、次のようになります。 なお、今回は現物分配の課税関係のイメージをつかんでいただくことを目的としているため、現時点で下記の表をすべて理解する必要はありません。 現物分配法人、被現物分配法人の課税上の取扱いの詳細については、次回以降で説明していきます。   3 現物分配の事由 現物分配とは、法人がその株主等に対し、次に掲げる事由により、金銭以外の資産の交付をすることをいいます(法法2十二の五の二)。   ◆現物分配の概要のポイント◆ 現物分配は、現物分配法人から被現物分配法人へ資産が原則として時価で譲渡されたものとして取り扱います。 現物分配があった場合には、現物分配法人は移転資産の譲渡損益を原則として認識します。 特例として適格現物分配の場合には、現物分配法人は移転資産を簿価で移転したものとみなし、課税されません。   (了)

#No. 486(掲載号)
#川瀬 裕太
2022/09/15

相続税の実務問答 【第75回】「相続時精算課税適用者が特定贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続税の課税価格」

相続税の実務問答 【第75回】 「相続時精算課税適用者が特定贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続税の課税価格」   税理士 梶野 研二   [答] 相続時精算課税適用者が、相続時精算課税に係る特定贈与者の相続開始により財産を取得した場合には、その特定贈与者から贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 しかしながら、その贈与を受けた財産が住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例規定を適用することにより贈与税の非課税財産とされたものであるときには、その非課税財産とされた金額は、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ご質問の場合、令和3年中にお父様から贈与を受けた3,200万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額(1,700万円)だけが相続税の課税価格に加算されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例 【第74回】「住宅取得等資金の贈与を受けていた場合の相続開始前3年以内の贈与加算」で説明しましたように、平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間、又は令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属から贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築若しくは取得又は増改築等(以下「新築等」といいます)の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」といいます)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、一定の金額について贈与税の非課税財産として、贈与税は課されないこととなっています(令和4年法律第4号による改正前の租税特別措置法(以下「改正前租税特別措置法」といいます)70の2、措法70の2)。この特例を「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」といいます。   2 特定贈与者に相続が開始した場合の相続時精算課税の適用を受けた贈与財産について (1) 相続等により財産を取得した相続時精算課税適用者 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した相続時精算課税適用者は、その被相続人からの贈与財産で、相続時精算課税制度の適用を受けたものについては、その財産の贈与の時における価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません(相法21の15①)。 (2) 相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者 被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、その被相続人からの贈与財産で、相続時精算課税制度の適用を受けたものについては、その被相続人から相続(その相続時精算課税適用者が特定贈与者である被相続人の相続人以外の者である場合には遺贈)により取得したものとみなされます(相法21の16①)。その場合、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、その贈与の時における価額となります(相法21の16③)。 (3) 贈与を受けた財産が住宅取得等資金である場合 住宅取得等資金の贈与を受け、この住宅取得等資金について住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用した場合には、改正前租税特別措置法第70条の2第3項又は租税特別措置法第70条の2第3項の規定により相続税法第21条の15第1項の規定が読み替えられ、「贈与により取得した財産の価額」とは、同法第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定並びに(改正前)租税特別措置法第70条の2の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものの価額をいうこととされていますので(改正前措法70の2③、措法70の2③)、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用することにより非課税とされた金額は、その贈与が特定贈与者からの贈与であっても、相続税の課税価格に加算する必要はないこととなります。 また、相続税法第21条の16第1項の規定により、相続又は遺贈により取得したものとみなされる贈与財産は、相続時精算課税制度の適用を受けたものとされていますが、(改正前)租税特別措置法第70条の2第1項の規定により贈与税の課税価格に算入されない金額は、相続時精算課税制度の適用を受けていませんので、相続又は遺贈により取得したものとはみなされません。 〈参考〉 改正前租税特別措置法第70条の2創設時の説明 (※) 『平成21年版改正税法のすべて』(大蔵財務協会、2009年)561頁。 このように、相続時精算課税適用者が特定贈与者の死亡に伴い同人から相続又は遺贈により財産を取得したかどうかにかかわらず、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用することにより贈与税の課税対象とされなかった部分については、特定贈与者の死亡に伴う相続税の計算には影響しません。   3 ご質問の場合 あなたは、特定贈与者であるお父様から不動産を相続しましたので、お父様から贈与により取得した財産の贈与の時における価額は相続税の課税価格に加算しなければなりません。あなたは、特定贈与者であるお父様から、相続時精算課税の選択をした令和3年に3,200万円の贈与を受けていますが、このうち1,500万円については、改正前租税特別措置法第70条の2第1項に規定する住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例を適用しており、贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されていません。 したがって、相続税の課税価格に加算しなければならない金額は、令和3年中にお父様から贈与を受けた3,200万円のうち、この非課税の特例規定を適用した1,500万円を控除した残額の1,700万円だけということになります。 なお、あなたの令和3年分の贈与税の申告においては、相続時精算課税に係る贈与税の特別控除額1,700万円の控除をしていることから、控除後の贈与税の課税価格はありませんが、相続税の課税価格に加算する金額は、この特別控除額を控除する前の金額となります。 (了)

#No. 486(掲載号)
#梶野 研二
2022/09/15

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第51回】「賃貸併用住宅(一部空室あり)に係る配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の適用」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第51回】 「賃貸併用住宅(一部空室あり)に係る配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の適用」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は令和4年9月6日に相続が発生し、甲が所有していた下記の土地建物について、配偶者乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権を長男丙が取得しました。相続開始の直前において、乙及び丙は2階で甲と同居しており、小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例対象者です。なお、1階部分については、被相続人が貸付事業を営んでおり、相続後は、その貸付事業を丙が承継していますので、丙は小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例対象者となります。 (※) 配偶者居住権の存続年数に応じた複利現価率 相続開始前後における1階の賃貸状況は、下記のとおりとなります。4部屋の各階の床面積は同じとなります。 101号室については借家権控除の対象とし、102号室及び103号室については借家権控除の対象にならないものとして評価します。 小規模宅地等の特例の選択にあたっては、減額金額が最大になるように選択した場合には乙及び丙の特例の適用面積はそれぞれ何㎡になりますか。 [A] 減額金額が最大になる選択特例対象宅地等の面積は、次のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③かっこ書、相令5の7)。 本問の場合には、敷地利用権の価額の計算過程(90,000,000円×(200㎡-60㎡)/200㎡=63,000,000円)において、60㎡(120㎡/4×2部屋)部分は「賃貸の用に供されている部分」として、敷地利用権の評価額の計算基礎となる金額から除外されています。 なお、貸家及び貸家建付地の評価をする場合において、いわゆる「一時的な空室」の部分を財産評価基本通達 26(2)の「賃貸されている各独立部分」に含むこととしたときは、当該各独立部分を配偶者居住権等の評価をする場合の「賃貸の用に供されている部分」 に含める必要があります(相基通 23の2-1)。 上記の通達の取扱いは、民法上は101号室については、相続開始時点において空室となりますので、配偶者居住権の設定対象となりますが、税務上は、財産評価で借家権控除の対象としたことによる整合性を考慮し、借家権控除の対象としたものは、「賃貸の用に供されている部分」と考え、配偶者居住権及び敷地利用権はないものとして評価することを明確にしたものとなります。仮に101号室について借家権控除の対象としない場合には、配偶者居住権及び敷地利用権があるものとして評価を行うことになりますが、実務上は、借家権控除の対象とした方が評価額が低くなることもあり、通常は、継続賃貸している場合で一定の条件を満たす場合には、借家権控除の対象になるものとして評価をします。 借家権控除の適否については、本連載【第43回】で解説していますが、103号室については、空室期間が長いため、通常、借家権控除の対象とすることはできません。 したがって、101号室及び104号室については、「賃貸の用に供されている部分」として、配偶者居住権は及ばないものとして取り扱います。これに対して、102号室及び103号室については、「賃貸の用に供されている部分」以外に該当し、配偶者居住権及び敷地利用権があるものとして評価を行います。 配偶者居住権の及ぶ範囲を図にまとめると下記のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   2 小規模宅地等の特例の適用範囲について (1) 2階部分の特定居住用宅地等の特例について 本問の場合には、乙も丙も特定居住用宅地等の特例対象者となりますので、乙が取得した2階部分に係る敷地利用権、丙が取得した2階部分に係る敷地所有権が特例の対象になります。 (2) 1階部分の貸付事業用宅地等の特例について 賃料の帰属は、建物所有者に帰属することになりますので、丙が家賃を受領することになります。乙は不動産賃貸事業を承継していませんので、貸付事業用宅地等の特例の対象にはなりません。丙が取得した1階部分のうち貸付事業を継続している部分が特例の対象になります。 アパート等の空室がある場合の貸付事業用宅地等の特例の適否については、本連載【第43回】で解説していますが、貸付事業用宅地等の特例は、空室期間がある程度長い場合であったとしても、その期間の間、募集もしており、かつ、いつでも入居可能な状態であれば、貸付事業を継続していることになると考えられます。 したがって、103号室の敷地所有権については、借家権控除の対象になっていませんが、貸付事業を継続していますので、貸付事業用宅地等の特例の対象になります。 〔借家権控除、貸付事業用宅地等の特例のまとめ〕 (※) 借家権控除の対象となる101号室及び104号室については、配偶者居住権がないものとして評価を行いますので、丙が通常の所有権を取得することになります。   3 利用区分ごとの相続税評価額の算定と面積の計算 本問の場合には、居住用と貸付事業用の利用区分についてそれぞれ敷地利用権と敷地所有権を考える必要があります。計算手順としてステップ❶で居住用と貸付事業用に区分して計算し、ステップ❷で敷地利用権と敷地所有権に区分して計算することになります。 ステップ❶ 土地の相続税評価額について2階部分と1階部分の各部屋で区分して評価します。 1階部分については、必ずしも部屋ごとに相続税評価額を算定する必要はありませんが、配偶者居住権の対象の有無(借家権控除の対象にしないものと対象としたもの)に区分する必要があります。また、自用地評価で貸付事業用宅地等の特例の対象になるもの(103号室)については、優先的に貸付事業用宅地等の特例を適用するために区分して考える必要があります。 ステップ❷ 1階部分と2階部分の敷地利用権と敷地所有権の相続税評価額を算出します。その後、敷地利用権及び敷地所有権のそれぞれの土地の面積を算出することになります。 (1) 敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の対象となる建物の床面積は、2階部分80㎡と1階部分のうち102号室及び103号室の2部屋部分の床面積60㎡(120㎡/4×2部屋)の140㎡となります。したがって、2階部分、102号室及び103号室の敷地利用権の価額は、下記のとおり計算することができます。 (2) 敷地所有権の相続税評価額 (※) 配偶者居住権の存続年数に応じた複利現価率を0.4としていますので、敷地利用権と敷地所有権の価額比は6:4となります(相法23の2)。 (3) 敷地利用権及び敷地所有権の面積 〔敷地利用権の面積〕 〔敷地所有権の面積〕   4 本問の場合の特例対象宅地等 特例対象宅地等を整理すると下記のとおりとなります。   5 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 減額金額が最大限になるように適用した場合の適用順位は、下記のとおりとなります。 〔特定居住用宅地等の選択特例対象宅地等の面積〕 特定居住用宅地等の限度面積は、330㎡となりますので、乙が取得した土地面積115.2㎡、丙が取得した土地面積76.8㎡を選択することになります。特定居住用宅地等の面積は、合計で192㎡(115.2㎡+76.8㎡)となります。 〔貸付事業用宅地等の選択特例対象宅地等の面積〕 特定居住用宅地等の特例を併用する場合の貸付事業用宅地等の限度面積は下記のとおり計算します。限度面積の計算については、連載【第6回】で解説しています。 103号室の自用地評価の敷地所有権部分28.8㎡を優先適用し、貸家建付地部分は差額54.83636363㎡(83.63636363㎡-28.8㎡)を選択することになります。   ★実務上のポイント★ 賃貸している場合には、財産評価との整合性の観点から配偶者居住権の及ぶ範囲を正確に理解しておく必要があります。借家権控除の適否、貸付事業用宅地等の特例の適否については、部屋ごとに検討をする必要があります。   (了)

#No. 486(掲載号)
#柴田 健次
2022/09/15

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第8回】「不確実な将来にどう向き合う?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第8回】 「不確実な将来にどう向き合う?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 【プロジェクトの正味現在価値(割引率10%として計算)】 〈市場の反応が良くたくさん売れる場合〉 〈市場の反応が悪くほとんど売れない場合〉 ●  ●  ● 新しく事業を始める方法として、「リーン・スタートアップ」という考え方があります。必要最低限の投資を行い小さくスタートして、最低限の製品やサービス、最低限の機能だけを持った試作品などを短期間で作り、顧客の反応を観察・分析して、製品・サービスの改良や軌道修正を繰り返していく方法です。仮に事業の成功が見込めずに撤退する場合でも、損失やかける時間を小さくとどめることができます。 例えば、現在は多くの人が利用する「Instagram」は、位置情報アプリとしてスタートしたことで知られています。スタート当初はまったく人気が出なかったものの、利用者がアプリの写真共有機能を使っていることに着目して、写真に特化した「Instagram」へと改良され、飛躍的に成長しました。 リーン・スタートアップは10年以上前に提唱された手法ですが、損失が生じるリスクを最小限におさえつつ機動的に事業を始めるスタイルは、現在の不確実な企業環境においても活用できるシーンがあると考えられます。 ●  ●  ● ●  ●  ● 正味現在価値法や内部収益率法といった伝統的な割引キャッシュ・フロー法は、「“現時点”で投資を実行するかしないか」を考える方法で、それ以外の選択肢を考慮していません。しかし、実際の企業経営においては、市場動向などを考慮し、時の経過とともに柔軟に判断を切り替え、不確実性に対応していくことも多いはずです。 例えば、「投資の判断をいったん先延ばしにする」、「最初は一部分のみ投資し、うまくいったら段階的に投資を拡大する」、「事業環境が悪化した場合に撤退しやすい方策を事前に用意しておく」といった柔軟な経営判断をすべきシーンもあると考えられます。 割引キャッシュ・フロー法の欠点を補い、不確実性の高い投資について価値評価や意思決定を行う際に役立つ考え方として、「リアル・オプション」があります(企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~【第16回】参照)。 金融商品のオプションは、将来の一時点(あるいは一定期間)に、ある資産について、一定のレートや価格で取引する権利です。オプションの買い手(オプションを持っている側)は、将来の一時点(あるいは一定期間)になった段階で、自分にとって有利な場合にはオプションを実行し、不利な場合にはオプションを実行しないことを選択することができます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 この考え方を、ビジネス上の投資やプロジェクトなどの価値評価に応用したものがリアル・オプションです。リアル・オプションの考え方を利用すると、現時点では不確実なことが将来になって確実になったとき(不確実性が下がったとき)に、自社にとって有利なように意思決定をすることができます。 いったん実行してしまうと撤回することができない投資で、将来の不確実性が高い状況にあり、意思決定のタイミングに柔軟性を持たせることができる場合には、リアル・オプションの考え方が有効です。先述のリーン・スタートアップも、リアル・オプションに類似の考え方といえます。 ●  ●  ● ●  ●  ● リアル・オプションの価値を計算するには様々な手法があり、これらについての詳細は割愛しますが、企業経営においては、精緻なリアル・オプション価値は算定しないとしても、リアル・オプション的な思考で、不確実な環境を逆手にとって柔軟に対処すると良い場合があります。判断をあえて先に延ばし、損失を限定しつつ利益のチャンスを逃さないような柔軟な仕組みを自ら作り出すという発想は、役立つ局面があると考えられます。 ・・・後日・・・ ●  ●  ● 『幸運は用意された心のみに宿る』という言葉があります。不確実で先の読めない時代だからこそ、リスクを抑えつつ、将来に利益獲得のチャンスが訪れた時にはそれを逃さないような仕組みを用意しておきたいですね。 (了)

#No. 486(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/09/15

給与計算の質問箱 【第33回】「2022年10月からの給与計算の注意点」

給与計算の質問箱 【第33回】 「2022年10月からの給与計算の注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 毎年10月頃に最低賃金の引上げが行われるそうですが、2022年10月以降の給与計算に関して何か注意点があればご教示ください。 A 注意点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 最低賃金の引上げ 2022年10月1日から東京都の最低賃金は現行の1,041円から1,072円に引き上げられる。その他の道府県の最低賃金の引上げについては、下記のサイトを参考とされたい。 最低賃金の引上げに伴い、従業員の給与額をこれまでの最低賃金額としていた企業については、賃金の改定の対応等が必要となる。   2 雇用保険料率の引上げ 2022年10月から労働者負担・事業主負担の雇用保険料率が変更になる。労働者負担の雇用保険料率は、一般の事業の場合、現行の3/1,000から5/1,000に引き上げられる。なお、賃金締切日が10月1日以降に到来する給与から変更後の雇用保険料率が適用される。 〈具体例〉 (※) 厚生労働省ホームページ「令和4年度雇用保険料率のご案内」より抜粋。   3 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大 2022年10月からパート・アルバイト等の短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用が拡大される。 事業所の規模の要件について、被保険者(短時間労働者を除く)の総数が現行の「常時500人超の事業所」から「常時100人超の事業所」に変更になる。 また、短時間労働者の要件について、現行の「雇用期間が1年以上見込まれる」から「雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれる」に変更になる。 〈要件早見表〉 (※) 日本年金機構ホームページ「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」より抜粋。 短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大に伴い、2022年10月から新たに被保険者となる従業員がいる場合は「被保険者資格取得届」等の提出など企業として対応が必要となる。 (了)

#No. 486(掲載号)
#上前 剛
2022/09/15

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第33回】「面積の正確な把握が鑑定評価額を左右する」~なぜ登記簿面積と実測面積の相違が起こるのか~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第33回】 「面積の正確な把握が鑑定評価額を左右する」 ~なぜ登記簿面積と実測面積の相違が起こるのか~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 土地や建物の評価額は、対象となる物件の経済的な価値という側面と、個々の物件の面積(土地の場合は地積とも呼ばれます。なお、以下、主に土地を対象に述べていきます)を基礎に成り立っています。しかし、ともすれば主な関心は価値的な側面に注がれ、面積はすでに固定して動かないものと受け止められているのではないでしょうか。 しかし、経済的な価値としての単価がいくら適切なものであったとしても、対象となる面積が実態を反映せず信憑性に欠ける場合には、結果として求められた評価額は不適切なものと化してしまいます。その意味で、今回は、普段あまり意識せず評価額の算定基礎として使用している土地面積について、登記簿面積の生い立ちや実測面積との関連を含めてその意義を振り返ってみます。   2 登記簿地積の多くが実測地積と相違する理由 鑑定評価だけでなく、相続税の財産評価や固定資産税の評価にも共通することですが、土地の評価に当たり登記簿地積が評価数量として採用されているケースは日常茶飯事です。しかし、現在法務局(登記所)に備え付けられている登記簿の地積は実測面積と相違することがむしろ多いのが実情です(登記簿地積<実測地積という傾向にあります)。 そして、その基となっている面積は、明治時代に実施された地租改正時に、地租の徴収を受ける国民自らが測量を行って申告し、これを役所が検査の上、土地台帳(土地台帳法という法律に基づくもので、既に廃止されています)に登録したものとされています(そのため、実際の面積よりも過少申告されたケースが多いといわれています)。 このように、土地台帳はもともと地租徴収のための資料という性格をもつことから税務署で保管され、上記の経緯を辿って作成された図面が土地台帳附属地図として一体的に管理されてきました。その後、1950年(昭和25年)の税制改革時に、土地家屋に関する台帳事務が税務署から法務局(登記所)に移管され、しばらくは土地台帳(附属地図も含みます)と土地登記簿(不動産登記法に基づきます)とが併存する形となっていました。 しかし、1960年(昭和35年)に不動産登記法の大幅改正が行われ、その時点で土地台帳や附属地図は法的な拠り所を失うこととなりました。これに代わり、法務局には附属地図とは別の精度の高い地図(隣接者との境界確定を行い精密に測量した上で作成した図面で、現地復元能力が高く、いわゆる「法14条地図」と呼ばれるものです)を備え付けるものとされました。しかしながら、このような精度の高い地図を備え付けるまでには相当の年月を要することから、これが整備されるまでの間は、土地台帳附属地図(これが日頃接する機会の多い公図に該当します)も「地図に準ずる図面」として取り扱うこととされ、現在に至っています。 このような経緯を踏まえれば、登記簿地積の多くが実測地積と相違する理由を推察することができるとともに、公図上の寸法が実測の結果と比べて幾分不正確なものとならざるを得ない背景を垣間見ることができます。加えて、当時の測量方法(縄)や測量技術が粗雑なものであったという問題も指摘されていますが、その反面、市街地内にある宅地の場合、地番ごとの位置関係や境界の形状(直線か曲線か等)については現状と符合していることが多いともいわれています。   3 地図の整備事業とその進捗状況~国土調査法による地籍調査 (1) 地籍調査の性格 地籍調査とは、主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査であり、昭和26年に制定された国土調査法に基づいて行われています。これは、土地に対する戸籍調査ともいうべき調査であり、地籍を明確化し、土地取引の円滑化と土地資産の保全を図る(土地境界トラブルを防止する)等をはじめ、様々な目的のために行われています。そのため、地籍図の精度は高く(作成に当たり高度の測量技術が必要となります)、仮に境界標識が毀損や紛失した場合でも現地復元能力を有する性格のものです。 上記のとおり、現在法務局に備え付けられている図面は、境界の正確な位置などが現実とは異なっている場合が多くあり、また、登記簿に記載された土地の面積も、正確ではない場合があるのが実態です。そのため、地籍調査が行われることにより、その成果は法務局にも送られ、登記簿の記載が修正されて地図が更新されることになります(※1)。 (※1) 国土交通省地籍調査Webサイト「地籍調査とは」参照。 (2) 地籍調査の進捗状況 地籍調査は昭和26年から行われ、開始から70年が経過しているものの、令和3年度末時点における全国的な進捗率は52%に留まっています(地帯別にみると、都市部(DID:人口集中地区)及び山村部(林地)で地籍調査の進捗が遅れており、特にこれらの地帯においてより早急な調査の実施が必要とされています)。 また、全国の地籍調査の実施状況についてみれば、地域間の進捗の差が大きくなっており、北海道、東北、九州の各地方では調査が比較的進んでいますが、関東、中部、北陸、近畿の各地方では大幅に遅れている府県があります(※2)。 (※2) 国土交通省地籍調査Webサイト「全国の地籍調査の実施状況」参照。   4 土地評価における地積の捉え方 (1) 財産評価基本通達では 「財産評価基本通達8」では、「地積は、課税時期における実際の面積による」と規定しています。この場合の「実際の地積による」ことの意義についてですが、国税庁ホームページ「質疑応答事例」には下記の旨掲載されており、必ずしもすべてのケースで実測が要求されるわけではないとされています。 (2) 固定資産評価基準では 固定資産税の評価において採用する地積は、原則として土地登記簿に登記されている地積(登記地積)とされています。 このような地積認定の考え方は、次のとおり固定資産評価基準に明記されています(下線は筆者によります)。 なお、下線を付した「次に掲げる場合」とは、以下に該当する場合です。 このような取扱いがなされている根底には、課税の公平性という視点が存在するものと思われます。 (3) 不動産鑑定評価基準では 不動産鑑定評価基準には、土地価格を形成する個別的要因として「地積」という項目が列挙されていますが、登記簿地積を採用するか実測地積を採用するか等についての具体的な規定は置かれていません。 鑑定実務としては、測量士等による信頼性の高い実測図が作成されており、そこにおける地積が登記簿地積と相違する場合は実測地積を評価数量として採用しているのが通常です(実測図が作成されていない場合は登記簿地積を前提とした評価を行っています)。   5 まとめ 地積の問題を探っていった場合、本文に述べたとおり相当奥深いものがあります。しかし、評価を実施するという目的のみで、測量費用を投じてまで事前に実測を行うというケースはむしろ少ないのが実情です。 そのため、実測が行われていない土地に関しては、評価の上では登記簿面積を採用し、売買の際に実測を行って面積を確定した上で、 として取引価額を決定する方法も実務ではしばしば採用されています。 公示価格や路線価の発表時には単価のいかんに関心が向きがちですが、面積も評価額を構成する重要な要素であることに留意が必要です。 (了)

#No. 486(掲載号)
#黒沢 泰
2022/09/15

〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第5回】「なぜ今、病院のM&Aが注目されるのか」-医療業M&Aにおける譲渡側・譲受側それぞれのメリット①-

〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第5回】 「なぜ今、病院のM&Aが注目されるのか」 -医療業M&Aにおける譲渡側・譲受側それぞれのメリット①-   株式会社日本M&Aセンター 医療介護支援部 永泉 耀   【第5回】は、近年注目されている医療業界のM&Aについて、ご紹介します。 今日の医療業をとりまく経営環境を整理しながら、「なぜ今、病院のM&Aが注目されるのか」というテーマに基づき、譲渡側のメリット、譲受側のメリットとそれぞれの視点に焦点を置き、実例を挙げていきながら解説します。   1 後継者問題の解決✕独立開業の実現-譲渡法人P診療所✕譲受者Q医師の場合 譲渡法人の理事長である自分は高齢でいつまで事業を続けられるかわからず、かといって適当な後継者もいない。診療所理事長の多くが抱えている問題です。本事例では、「独立したい」という想いを持った買い手側の医師とのマッチングが大きなポイントになりました。 【譲渡側・譲受側のデータ】 ※情報管理の観点から、実際の事例とは一部内容を変更しております(以下、他の事例も同様)。 (1) 譲渡側の視点~子供が医師であっても後を継ぐとは限らない~ P診療所は首都圏にある一人医療法人です。理事長の子供は医師ですが、研究者として研究に専念しており、診療所を継ぐ意思はありません。理事長は70歳代後半で、直近で病気入院したことをきっかけに健康に不安を覚えるようになりました。廃業することになれば患者さんに迷惑がかかりますし、かといって自身の健康にも気遣わなければなりません。約40年間続けてきた診療所の継続と自身の健康問題で、逡巡する日々が続いていました。 P診療所の理事長は悩んだ末に、顧問会計事務所に相談することにしました。その会計事務所は日本M&Aセンターの提携先の1つであったため、その会計事務所を通じて相談に来られました。 (2) 譲受側の視点~首都圏で独立開業を成し遂げたい~ 譲受者となったQ医師は、大学の医局から民間病院へ出向勤務していましたが、以前から開業志向を強く持っており、P診療所と診療科目が同一であったことで、譲受けを検討してもらうことになりました。Q医師には小さな子供がおり、今後の教育のためにも、現在務める病院のある地方から首都圏へ生活拠点を移したいという希望もありました。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット ご子息が後継者とならないため、承継できなければ廃業することになり、患者さんに迷惑がかかります。Q医師への事業譲渡によって、診療所の継続と自身の健康問題で逡巡する日々から解放され、しっかりと次の世代へバトンを渡すことができました。 ② 譲受側のメリット Q医師にとっては以前から強く持っていた開業意志が叶えられ、今後の子供の教育のために首都圏へ生活拠点を移したいという当初の希望も叶えられました。   2 「経営」の業務負担軽減✕病床規制や地域への新規参入障壁の回避-譲渡法人G会✕譲受法人H株式会社の場合 本事例は出資者が一般企業という、病院のM&Aとしては希少なケースです。経営者として、医師・看護師の確保に代表される病院の労務管理や先行投資などに苦労する病院の経営を行うよりも、医師として患者を診ることに集中したいと希望される理事長医師にとっては、非常に参考になるM&A案件です。 【譲渡側・譲受側のデータ】 (1) 譲渡側の視点~医師と経営者の二足のわらじは困難~ 創業者でもあるG会の理事長は30年間近く地域医療に尽くしてきたところ、組織も大きくなり個人経営の域を超えていると実感していました。多くの経営者がそうであるように当理事長も60歳代も半ばになり、後継者を真剣に考えていました。 しかし、子供が医師として当病院に勤務しているものの、従業員も300人を超え、医師・看護師を筆頭に多くの資格者を抱える規模となっています。経営は順調ですが、計画的な投資をしながらこの医療法人を運営していくのは、親の目からみても子供には承継するのは難しいと判断しました。子供も将来の病院経営を考えた場合、自分は医師として勤務医、もしくは診療所で医療に貢献したいと望んでおり、経営者になることは望んでいなかったのです。 金融機関からの借入金も未だ20億円以上あり、子供が無理ならと同病院に勤務する幹部医師への承継を打診しましたが、幹部医師と経営者である理事長の責任の大きさや質は当然異なります。そのため、個人保証までしての医療経営はとても無理と断られてしまいました。子供への承継、同病院の幹部医師への承継を諦めたG会の理事長は、昔からの付き合いで信頼できる経営コンサルタントヘ相談することにしました。第三者へ譲渡するなら、M&Aの専門会社へ依頼すべきとの勧めで、その経営コンサルタントの方と一緒に日本M&Aセンターへ相談に来られました。 (2) 譲受側の視点~参入障壁が高い医療業界に事業展開したい~ H社は以前より周辺業種である医療介護事業に興味があるとの意向を持っており、日本M&Aセンターを通じてそれに合致する譲渡企業の探索を行っていました。医療・介護の周辺業種の企業として少子超高齢化のなか、病院・介護施設経営への強い想いがあったからです。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット G会の理事長は、今まで経営と医療の全責任を一身に担っていたためにプライベートな時間はほとんどありませんでした。M&A成約後、友人との会食や家族との旅行に時間が使えることを特に喜んでいました。その後、ご子息は当初の希望通り診療所を開設し、御一家はそれぞれの形で医療に携わっています。 ② 譲受側のメリット H社は出資者として間接的に経営に参画し、自社の事業とのコラボレーションを図りながら、医師と企業の役割分担にて企業として計画的な投資を実施し、法人の成長とともに地域医療・介護に貢献しています。   3 地域医療のための病院存続✕規模拡大により、病病・病診連携を強化-譲渡法人A病院✕譲受法人B会の場合 A病院は、40年以上にわたり地域における医療の拠点となっています。そのA病院を経営し、高齢となった理事長には医師の子供がなく、経営は順調ですが後継者は不在の状態となっていました。本事例は、病院をどうすればよいのか、地域の医療拠点を存続させるためにはどうすればよいのか、という多くの病院が抱えている代表的な問題を取り上げます。 【譲渡側・譲受側のデータ】 (1) 譲渡側の視点~地域の医療拠点を守りたい~ A病院は40年以上続く歴史ある病院で、地域に欠かせない医療機関として貢献してきました。金融機関からの借り入れもなく、下降気味ではあるものの利益も確保しており順調な経営を続けていました。しかしご子息は医師ではなく、他のビジネスに従事しています。 70歳代である理事長は数年前から後継者問題に悩んでいました。A病院の理事長には、常に何事にも親身に相談に乗ってもらっている顧間税理士がいました。その顧間税理士の先生が日本M&Aセンター開催のM&Aセミナーに参加し、理事長に「M&Aを考えてみてはどうか」とアドバイスをされたところ、詳しい話を聞いてみようということなりました。 (2) 譲受側の視点~意欲的な事業拡大で地域医療をさらに盛り上げたい~ 譲受側の医療法人B会は、A病院と隣接した地域で病院・老健施設・診療所を運営しています。B会も地域医療に根ざした経営をしており、理事長は40歳代半ばで、これからまだまだ拡大していく意欲を持っています。B会理事長は、日本M&Aセンターが医療業界のM&Aを支援していることを知り、M&Aで事業を拡大していきたい想いから直接相談をすることにしました。 (3) それぞれのメリット ① 譲渡側のメリット A病院理事長は後継者問題の解決ができ、従業員の雇用継続を確保し、残余財産の現金化による創業者利潤も獲得しました。そして何よりも大きいのは、「A病院」という地域における重要な医療拠点を守ることができたことです。医療サービス提供を継続させることができ、地域住民への責任を果たせた理事長は、「胸のつかえが取れた」とほっとしています。 A病院の理事長は、今は引継期間を終えて完全に引退しています。M&A終了後、「おかげで長年楽しみにしていた夫人と2人揃っての海外旅行に、気兼ねなく行くことができます」とおっしゃっていた満面の笑顔がとても印象的でした。 ② 譲受側のメリット ー方でB会理事長は、規模拡大により自前での病病・病診連携により、地域での存在感強化等、多くのメリットを得られました。40歳代とまだ若い理事長のもと、A病院も活気のある病院グループで新たなスタートを切ることになりました。 (了)

#No. 486(掲載号)
#株式会社日本M&Aセンター
2022/09/15

《速報解説》 日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定~企業に求められる人権尊重の取組を実態に即して具体的に解説~

《速報解説》 日本政府が「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン」を策定 ~企業に求められる人権尊重の取組を実態に即して具体的に解説~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和4(2022)年9月13日、日本政府は「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定したとし、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議から、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表された。 これにより、令和4(2022)年8月8日から意見募集されていたガイドライン原案が確定することになる。ガイドライン原案に寄せられた御意見に対する考え方も公表されている。 これは、欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進み、企業として取組の強化も求められていることもあり、わが国において、サプライチェーンにおける人権尊重の取組に関する業種横断的なガイドラインを作成するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 1 人権尊重の意義 ガイドラインにおいて、企業が尊重すべき「人権」とは、国際的に認められた人権をいう。 企業は、例えば、強制労働や児童労働に服さない自由、結社の自由、団体交渉権、雇用及び職業における差別からの自由、居住移転の自由、人種、障害の有無、宗教、社会的出身、性別・ジェンダーによる差別からの自由等への影響について検討する必要がある。 すべての企業には人権を尊重する責任があるとし、当該責任は、企業が他者への人権侵害を回避し、企業が関与した人権への負の影響に対処すべきことを意味している。 日本で事業活動を行うすべての企業(個人事業主を含む)は、国際スタンダードに基づく本ガイドラインに則り、国内外における自社・グループ会社、サプライヤー等(サプライチェーン上の企業及びその他のビジネス上の関係先をいい、直接の取引先に限られない)の人権尊重の取組に最大限努めるべきであるとしている。 「サプライチェーン」とは、自社の製品・サービスの原材料や資源、設備やソフトウェアの調達・確保等に関係する「上流」と自社の製品・サービスの販売・消費・廃棄等に関係する「下流」を意味している。 「その他のビジネス上の関係先」は、サプライチェーン上の企業以外の企業であって、自社の事業・製品・サービスと関連する他企業を指している(例:企業の投融資先や合弁企業の共同出資者、設備の保守点検や警備サービスを提供する事業者等)。 2 人権方針 人権方針は、企業が、その人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメント(約束)を企業の内外のステークホルダーに向けて明確に示すものである。 事業の種類や規模等は各企業によって様々であり、負の影響が生じ得る人権の種類や、想定される負の影響の深刻度等も各企業によって異なることから、人権方針の策定に当たっては、まずは、自社が影響を与える可能性のある人権を把握する必要があるとのことである。 ガイドライン原案に寄せられた意見には、人権方針について表明する媒体の例示として有価証券報告書を推奨してはどうかという意見があったが、有価証券報告書は、金融商品取引法に定められる法定開示書類であることから、本ガイドラインにおいて、有価証券報告書において説明・情報開示を行うことを推奨することは適切ではないと考えているとの考え方が示されている(No.536)。 3 人権デュー・ディリジェンス(人権DD) 人権DDは、企業が、自社・グループ会社及びサプライヤー等における人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為を指している。 ガイドラインは、人権に対する「負の影響」として次の3類型を示している。 次の事項について詳細に記載している。 4 人権尊重の取組にあたっての考え方 人権尊重の取組にあたっての考え方として、次のポイントを示している。 5 救済 救済とは、人権への負の影響を軽減・回復すること及びそのためのプロセスを指している。 企業による救済が求められるのは、自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合であるが、企業の事業・製品・サービスが人権への負の影響と直接関連するのみであっても、企業は、負の影響を引き起こし又は助長している他企業に対して、影響力を行使するように努めることが求められる。 適切な救済の種類又は組み合わせは、負の影響の性質や影響が及んだ範囲により異なり、人権への負の影響を受けたステークホルダーの視点から適切な救済が提供されるべきである。 具体例として、謝罪、原状回復、金銭的又は非金銭的な補償のほか、再発防止プロセスの構築・表明、サプライヤー等に対する再発防止の要請等が挙げられている。 救済の仕組みには、大きく分けて、企業を含む国家以外の主体によるものと国家によるものとがある。 苦情処理メカニズムと国家による救済の仕組みについて記載されている。 (了)

#阿部 光成
2022/09/14
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