〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例76】 株式会社スノーピーク 「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」 (2022.9.21) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社スノーピーク(以下「スノーピーク」という)が2022年9月21日に開示した「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」である。代表取締役の異動に関する開示であり(通常は「代表取締役の異動に関するお知らせ」というタイトルにされるが)、「異動の理由」には次のように記載されている。 奇妙な開示である。同社は適時開示の目的をよく理解していないのだろう。 2 個人的な理由だが 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、通常、「異動の理由」には「一身上の都合」と記載されるのみである。今回の開示における辞任理由も個人的な理由のはずだが、わざわざ「当社代表取締役社長執行役員である山井梨沙から、既婚男性との交際及び妊娠を理由として、当社及びグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出がありました。」と記載されている。 ENEOSホールディングス株式会社(以下「ENEOS」という)が2022年8月12日に開示した「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」においても、「異動(辞任)の理由」は「一身上の都合による」と記載されているのみである。後にマスコミの報道により、女性に対する不適切な行為があったため、辞任したことが明らかになったが、それも、会社内部の事情によるのではなく、あくまで個人的な理由である。 なお、山井梨沙氏(以下「梨沙氏」という)はスズキ株式会社の社外取締役も辞任し、同社は2022年9月21日に「取締役の辞任に関するお知らせ」を開示しているが、その辞任の理由には、当然だが、「本人から一身上の都合による辞任の申し出があったため。」と記載されているのみである。 3 「誹謗中傷」に対して 今回の開示に対しては様々な反響があったようである。スノーピークは、2022年9月24日、自社のホームページ上に「誹謗中傷等に対する法的措置について」を開示し、最初に次のように記載している。今回の開示が招いた「誹謗中傷」に対して法的措置を講じるという。 今回の開示に対して様々な反響が生じることは容易に想像できたはずである。「誹謗中傷等に対する法的措置について」にも、次のように記載されている。それなのに、なぜ「既婚男性との交際及び妊娠」などと記載したのだろうか。 なお、「誹謗中傷等に対する法的措置について」には次のような記載があるが、「叱咤激励」と「誹謗中傷」の線引きについて、同社はどのように考えているのだろうか。まさか同社の関係者によるものは「叱咤激励」で、それ以外は「誹謗中傷」ではあるまい。 4 適時開示の目的 後でマスコミによって報道されるよりも先に開示した方がいいと考えたのだろうか。あるいは、「一身上の都合」と書くと、様々な憶測を呼ぶので、最初から書いてしまおうと考えたのだろうか。いずれにしても、その判断は誤りだった。今回の開示は、あくまで梨沙氏の個人的な問題をスノーピークの問題にしてしまった。 適時開示の目的は、投資家に対して投資判断に資する情報を提供することである。「既婚男性との交際及び妊娠」という記載が投資判断に資するとは思われない。プラスの印象を与えることもない。奇妙な開示を行う会社というマイナスの印象を与えるだけである。 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、その理由について、マスコミが関心を持つことはあっても、投資家が関心を持つことはない。代表取締役が会社内部の事情により異動するのであれば別だが、個人的な理由による場合、投資家にとって重要なのは、異動の事実のみである。そのため、通常、辞任の理由は「一身上の都合」で問題ないのである。 ENEOSは、マスコミの報道があったため、2022年9月21日、自社のホームページ上に「当社元会長に関する一部報道について」を開示し、代表取締役が「不適切な言動に及んだと判断」したため、彼に辞任を求めたのだとしている。具体的な記載を避けているのも、TDnet上にではなく自社のホームページ上に開示しているのも、それが適時開示の対象ではないことを同社が理解しているからだろう。 今回の開示においても、辞任の理由は「一身上の都合」とすべきだった。そして、あくまで梨沙氏個人が「憶測」の対象となるべきだった。どうしても「既婚男性との交際及び妊娠」を言いたいのならば、スノーピークによる開示においてではなく、梨沙氏個人の立場で公表すべきだった。 5 何を反省? 「誹謗中傷等に対する法的措置について」には、「ご叱責を頂いており、当社は、これを真摯に受け止め、深く反省する所存です」という記載がある。スノーピークは何を反省するのだろうか。奇妙な開示を行ったことだろうか、あるいは、梨沙氏が辞任したことだろうか。奇妙な開示を行ったことを反省するのならば、理解できるが、梨沙氏が辞任したことだとしたら、理解し難い。梨沙氏の辞任は個人的な理由によるもので、同社とは無関係である。同社による反省の対象とはならない。 また、今回の開示には、「本件を重く受け止め、代表取締役会長執行役員山井太から役員報酬3ヶ月分の20%を、代表取締役副社長執行役員高井文寛から役員報酬3ヶ月分の10%を自主返上したいとの申し出があり、当社としてこれらの申し出を受理することを決定いたしました」という記載があるが、これも理解し難い。梨沙氏は個人的な理由により辞任したのに、なぜ山井太氏と高井文寛氏が報酬を自主返上しなければならないのだろうか。 山井太氏は梨沙氏の父親であるため、責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、高井文寛氏にとってはいい迷惑であるし、そもそも上場会社における経営にそうした感情を持ち込むこと自体が問題である。 あるいは、個人的な理由により職を途中で投げ出すような人物を代表取締役に選定したことに責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、代表取締役の選定は取締役会で行うのだから、取締役全員が報酬を自主返上すべきである。 6 反省すべきは 今回の開示からわかることは、スノーピークが、上場会社でありながら、山井家のファミリー企業としての意識が抜け切れていない会社だということである。山井家としての情報発信とスノーピークとしての情報発信、山井家の責任とスノーピークの責任、それらが峻別されず、混同されている。 反省するならば、その点である。確かに山井家は依然として同社の多くの株式を所有しているようだが(第58期有価証券報告書)、同社の所有者は山井家だけではない。上場した以上、ファミリー企業としての意識は捨て去らなければならない。それが無理ならば、上場すべきではない。 そのことに気付かないと、今後また、同社は今回のような奇妙な開示を行ってしまうだろう。 (了)
プラス思考の経済効果 【第8回】 「大谷翔平選手の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2022年もロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は大活躍をしています。9月27日現在で、打者として打率2割7分1厘、ホームラン34本、打点93、盗塁11、投手として14勝8敗、防御率2.47、奪取三振203と、二刀流としては伝説のベーブ・ルースを超える活躍をしています。そして、今年も昨年に続きアメリカンリーグの最高殊勲選手(MVP)の有力候補です。しかし、今年はヤンキースのアーロン・ジャッジ選手がベーブ・ルースのホームラン記録を超える61本(9月28日)を打つ大活躍をしていて、大谷選手のMVPの強敵となっています。 今回は、日米でブームを巻き起こしている大谷選手の経済効果を紹介しましょう。なお、今年はシーズン途中ですので、本稿での金額は昨年の数値です。 2 大谷選手の経済効果 大谷選手のアメリカと日本国内における直接効果の項目を次のように仮定します。 3 アメリカ国内の直接効果の推計 (1) 球場における観客増加による消費額 エンゼルス関係者の話では、大谷選手の出場する試合は以前と比較すると平均3,000人の観客が増えているとのことですので、本稿ではエンゼルスのホームゲームでは1試合につき約3,000人、ビジターでは約1,500人の観客が増加すると仮定します。MLBの試合数162試合で、ホームゲームとビジターを半分ずつとすると、ホームゲームでは約24万3,000人、ビジターでは約12万1,500人、合計約36万4,500人の観客が増加することになります。 次に、これらの増加した観客の消費額を計算します。アメリカの「マネーワイズ」が2019年に発表した「ファンにとって最も高額なメジャーリーグの球場」の特集では、全球場の平均消費額は4人家族で234.38ドル(当時の為替レートで約2万5,030円)でした。これには、チケット代、駐車場代、4人分の飲み物とホットドッグ代などが含まれています。この金額を参考にすると、大谷選手のファン増加による消費額は約22億8,086万円となります。 (2) 大谷選手によるMLBの放映権収入 MLBでは全国ネットの放映権は、各球団の収入ではなくMLBの収入になり、それらは全球団に配分されます。 本稿では日本のNHKとMLBの契約を見てみましょう。ウォール・ストリート・ジャーナルによりますと、日本のNHKとMLBとの放送権の契約は2004年~2009年の6年間で総額2億7,500万ドル(年平均約4,600万ドル:当時の為替レートで約49億8,000万円)でした。現在では正確な金額は不明ですが、毎日のように日本選手の活躍がNHKで放映されていることを考えれば、かなりの金額がMLBに支払われていると想定できます。MLBの要求はかなり厳しいので筆者は現在では少なくとも年平均約8,000万ドルがMLBに支払われていると想定しています。そして、そのほとんどが大谷選手の放映であることを考えれば、大谷選手の活躍を放送するためにNHKがMLBに支払う放送料の半分の約4,000万ドル(上記当時の為替レートで約44億円)の価値があると考えてもいいでしょう。 (3) 大谷選手の年俸 大谷選手の年俸はその成績から考えると非常に低いと言われています。一昨年大谷選手が結んだ契約は、2年間総額850万ドル(当時の為替レートで約9億3,500万円)で、2021年の年俸はたった300万ドル(当時の為替レートで約3億3,000万円)でした。アメリカの「Bleacher Report」は、2021年の大谷選手は現在もらっている年俸の10倍の価値(3,000万ドル:当時の為替レートで約33億円)があると述べています。大谷選手の年俸は、彼の生活のための消費に使われ、さらに残額は預金されるでしょう。金融機関に預けられた預金は金融機関により投資に使われます。したがって、大谷選手の年俸は経済効果の直接効果になるのです。 (4) アメリカにおける大谷選手のグッズの売上高 本拠地のエンゼル・スタジアムでの大谷選手のグッズの売れ行きは、驚くほど好調であるとのことです。エンゼルスの商品販売担当のエリック・アースア・ゼネラルマネージャーによると、「選手のグッズの売上げは対前年比で8%であれば「アメ-ジング(素晴らしい)」との評価を受けるが、大谷選手のグッズの売上げは2桁の伸びであった」と述べています。 本稿ではエンゼル・スタジアムに足を運ぶファンの約5%がオオタニグッズを購入すると仮定します。エンゼルスは年平均ホームゲームで約302万人のファンを集めるので、約15万1,000人のファンが何らかのオオタニグッズを購入すると仮定します。そして、オオタニグッズの平均価格を約8,000円とすると、オオタニグッズの売上げは約12億800万円となります。 (5) 大谷選手のスポンサー契約料 昨年、エンゼルスのジョン・カーピーノ球団社長は「オオタニと契約して日本の6企業と新しいスポンサー契約を結んだ」と述べています。日本の場合では、大谷選手のスポンサー契約は1社当たり約1億円ですので、その金額を仮定すると約6億円になります。 (6) アメリカ国内の直接効果の合計 以上の計算からアメリカ国内の直接効果の合計金額は約88億1,886億円となります。 4 日本国内の直接効果の推計 続いて、日本における大谷選手の直接効果を推計しましょう。 その結果、日本における大谷選手の直接効果は約17億円となります。 5 大谷選手の経済効果の計算 これまで計算してきた直接効果に基づいて経済効果を計算します。今回は最新のアメリカの産業連関表を入手することができなかったので、日本の産業連関表を参考にして経済効果を求めます。アメリカと日本では、産業構造は少し異なりますが、先進国としては一番類似した産業構造をしている上に、財政乗数もほぼ同じです。内閣府作成の日本の最新の全国産業連関表を用いても誤差は少ないと考えられますので、2015年の内閣府作成の「全国産業連関表」を用いて、これまで計算してきた直接効果約105億1,886万円(約88億1,886万円+約17億円)の経済効果を計算すると、次のように約227億2,074万円となりました(詳しい計算式については割愛します)。 〈大谷選手の経済効果〉 6 まとめ 本稿では、大活躍しているロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の経済効果を分析して約227億2,074万円の経済効果があることがわかりました。これは驚くべき金額です。 例えば、2011年の中日ドラゴンズ優勝の経済効果は約219億円(共立経済研究所試算)、2013年の東北楽天ゴールデンイーグルス優勝の経済効果は約230億円(宮本研究室試算)であったことから考えれば、大谷選手1人で約227億円の経済効果をもたらすことになれば、いかに大谷選手が偉大な選手であるかということがわかるでしょう。 2022年~23年には、年俸のアップ、アメリカのインフレ、為替の円安などでさらに大きな経済効果が期待されるでしょう。 (了)
《速報解説》 金融庁、令和4年公認会計法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表 ~合わせて会計士協会からは協会制度変更要綱案が示される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022(令和4)年10月21日、金融庁は、令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022(令和4)年5月11日に成立した「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(令和4年法律第41号)の施行に伴い、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものである。 意見募集期間は2022年11月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等 1 上場会社等監査人登録制度に係る規定の整備 2 監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限に係る規定の整備 監査法人の社員が被監査会社等の役員等と配偶関係を有する場合に、監査法人の業務が制限されることとなる社員の範囲等を定める。 3 その他 4 施行期日等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行(2023(令和5)年4月1日)の予定である。 経過措置が規定される予定である。 Ⅲ 日本公認会計士協会の「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案) 1 主な内容 2022年10月21日、日本公認会計士協会は、「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、前述の公認会計士法の改正による改正項目のうち、日本公認会計士協会の会則等を変更する必要のあるものに関して、その制度変更の方向性について取りまとめたものである。 なお、公開草案は、上述の令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を踏まえたものである。 公開草案は次の項目を取り上げている。 意見募集期間は2022年11月4日までである。 2 適用時期等 2022年改正公認会計士法は、公布の日(2022年5月18日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。変更規定は、経過措置を含め法令の施行に従う。 (了)
《速報解説》 会計士協会が監基報600「グループ監査における特別な考慮事項」の改正案を公表 ~コミュニケーション・職業的懐疑心の重要性を強調、品質管理への取組み等見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年10月18日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022年4月に国際監査・保証基準審議会(IAASB)から公表された、International Standard on Auditing 600 (Revised), Special Considerations- Audits of Group Financial Statements (Including the Work of Component Auditors)に対応するためのものである。 意見募集期間は2022年11月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 本報告書は、構成単位の監査人が関与する状況を含む、グループ財務諸表の監査(以下「グループ監査」という)に関して、特に考慮すべき事項を中心に実務上の指針を提供するものである(1項)。 グループ財務諸表は、連結プロセスを通じて作成された複数の企業又は事業単位の財務情報を含む財務諸表である(14項(11))。 このように「グループ財務諸表」の定義を具体化し、個別財務諸表監査であっても複数の事業単位(例えば、支店又は部門)が存在する場合、グループ監査の対象になり得ることを明確化している(14項(11))。 2 グループ監査人 現行監基報600の「グループ監査チーム」を廃止し、「グループ監査人」を新設している。 グループ監査人とは、グループ監査責任者及び構成単位の監査人以外の監査チームのメンバーをいう(14項(8))。 3 構成単位の監査人 構成単位の監査人とは、グループ監査の目的で構成単位に関連する監査の作業を実施する監査人をいう(14項(3))。 4 品質管理への積極的な取組み グループ監査人が、グループ財務諸表に対する重要な虚偽表示リスクを識別及び評価し、評価したグループ財務諸表に対する重要な虚偽表示リスクに基づいて、リスク対応手続を決定することがより強調されている(13項(2))。 重要な構成単位の概念は廃止されている。 監査の作業を実施する構成単位の決定の柔軟性の確保とともに(5項及び22項(1))、適用指針において、決定に影響する要素の例示として、事業単位における資産、負債及び取引の規模並びに内容が含まれている(A51項)。 5 重要性 現行の「構成単位の重要性の基準値」に代えて、構成単位の財務情報の監査手続を立案及び実施する際に適切な「構成単位の手続実施上の重要性」の決定を要求している(35項)。 6 コミュニケーションの強調 グループ監査人と構成単位の監査人の双方向のコミュニケーションの重要性を強調している(8項)。 7 職業的懐疑心の重要性の強調 グループ監査人の職業的専門家としての懐疑心を行使することの重要性を強調している(9項)。 8 構成単位の監査人の作業の妥当性の評価 グループ監査人は、構成単位の監査人の作業がグループ監査人の目的に照らして十分ではないと結論付けた場合、どのような追加的な監査手続を実施すべきか、及びその追加的な監査手続を構成単位の監査人又はグループ監査人のいずれが実施すべきかを決定しなければならないとしている(48項)。 9 適用の柔軟性 本報告書は、規模や複雑さを問わず、すべてのグループ監査を対象としている(10項)。 ただし、本報告書の要求事項は、各グループ監査の性質又は状況に照らして適用されることを意図している。 Ⅲ 適用時期等 原則として、2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する予定である(12項)。 適用時期等が詳細に規定されているので、注意が必要である。 (了)
2022年10月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.491を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第108回】 「新しい資本主義実現会議が総合経済対策の重点事項を取りまとめ」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 10月4日、政府の「新しい資本主義実現会議」は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の実施についての総合経済対策の重点事項を取りまとめた。 本年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、人への投資、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX・DXへの重点投資を官民連携の下で推進するとともに、資産所得の倍増、経済社会の多極集中化、社会的課題を解決する経済社会システムの構築等に取り組むこととしていた。 政府では、10月中に総合経済対策を取りまとめる方向となっており、この「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の決定事項のうち、早期に実施する必要がある重点事項を総合経済対策に反映するため、今回の取りまとめに至ったものである。 今回の取りまとめには、税制改正に関連する事項が多数含まれている。 〇スタートアップ まず、スタートアップに関しては、「スタートアップに関わる税優遇措置を検討するとともに、公共調達によるスタートアップの支援の拡大や、創業時の経営者のリスクを軽減するために個人保証を不要とする制度を措置する」とされている。 10月3日の第210回国会における岸田総理の所信表明演説でも、「第2、第3のトヨタ、ホンダ、ソニーは、彼ら挑戦者の中から生まれる。その強い思いから、本年をスタートアップ元年とし、スタートアップ5年10倍増を視野に、5か年計画の策定に取り組んでいます。公共調達における優遇制度の抜本拡充、税制上の優遇措置や資金面の支援に加え、若く優れたIT分野の才能の発掘・育成、日本と海外のスタートアップ・エコシステムの接続など、スタートアップ人材への投資も進めます」と触れられていた。さらに具体的には、税制上の措置として次の5点が挙げられている。 政府では、スタートアップ育成5か年計画を本年末に策定するため、新しい資本主義実現会議のもとに検討の場としてスタートアップ育成分科会を設け、10月14日に第1回を開催した。 〇資産所得倍増 資産所得倍増プランに関連して、NISAについて、個人金融資産を貯蓄から投資にシフトさせるべく、その抜本的拡充や恒久化について検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得るとされている。また、iDeCoの加入可能年齢の引上げなど、iDeCo制度の改革について検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得るとされている。 特にNISAについては、岸田総理が9月22日のニューヨーク証券取引所での講演で、「日本には、2,000兆円の個人金融資産がある。現状、その1割しか株式投資に回っていない。資産所得を倍増し、老後のための長期的な資産形成を可能にするためには、個人向け少額投資非課税制度の恒久化が必須だ」と述べており、その恒久化の期待が高まっている。 政府では、資産所得倍増プランを本年末に策定するため、検討の場として資産所得倍増分科会を設け、10月17日に第1回を開催した。 〇暗号資産の期末評価 この他、Web3.0に関する税制上の措置として、暗号資産事業を行う法人が自ら発行して保有する暗号資産について、事業運営のために継続的に保有する場合は、法人税の期末時価評価課税の対象として課税されないように措置することについて検討し、本年末の来年度税制改正において結論を得ることとされている。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第3回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 3 暗号資産の私法上の性質・位置付け (1) 総論 暗号資産が所有権の客体となり得るならば、そのことから演繹的に暗号資産の法律関係を導く途が拓かれるが、有体物ではない、姿かたちのない暗号資産は所有権の客体にならないと考えられている(以下の記述については、金融法委員会「仮想通貨の私法上の位置付けに関する論点整理」のほか、泉絢也「暗号資産(仮想通貨)取引と課税」日本租税理論学会編『租税上の先端課題への挑戦』95頁以下(財経詳報社2020)及びそこで引用されている文献参照。後述の(2)の「《更なる考察》 『占有=所有』構成」、「《更なる考察》 私法の議論から得られる示唆」において同じ)。 暗号資産の私法上の性質ないし位置付けについては、上記のほか、知的財産権構成、財産構成、財産権構成、合意構成などによって説明を試みる見解が存在する。 結論を述べると、BTCに代表されるような暗号資産の私法上の性質は現時点では見解の一致をみないが、“消極的な形”での性質決定という点では局地的な共通理解を観察し得る。 すなわち、所有権の客体ではない、債権ではない、知的財産権ではないという点はおおむね見解が一致している。他方、“積極的な形”での性質決定、いい換えれば、暗号資産は所有権や債権などではないとしても、どのように説明すべきであるかという局面においては、見解が対立している。 (2) 各論 (1)のとおり、暗号資産の私法上の性質は現時点では見解の一致をみないが、個別の法的論点において、総論的な議論に関する、すなわち暗号資産の私法上の性質ないし位置付けに関する立場の違いによって結論が異なるかといえば、必ずしもそうとはいい切れない(もちろん、両者は無関係でもない)。 暗号資産の私法上の法律関係に係る個別の法的論点については、無権限者による移転、預託及び信託、ネットワーク参加者以外の者に対する効力(強制執行、相続等)など様々なものを想定し得るが、上記の総論的な議論との関係も含めて、個別の論点に関する私法上の議論はいまだ発展途上の段階にある。 以下では、各論レベルの議論のうち、税法の観点から注目すべき点を簡単に確認する。 ➤《更なる考察》 「占有=所有」構成 無権限者による処分の論点に関して、元の保有者が、無権限者に対し、物権に対する支配が妨げられたときに物権の内容を実現する物権的請求権(又はこれに類似する権利)として、BTCの返還を請求する権利を有するかという問題がある。 BTCについて、金銭における「占有=所有」と同じような規律を働かせる考え方があり得る。 金銭は、硬貨や紙幣といった動産によりその価値が表されているため、動産における事実上の支配すなわち占有の在りかによって、その権利(所有権)の帰属が定まることになり、占有を移転させることで、権利自体を移転させることができる。 BTCのような暗号資産についての事実上の支配は、秘密鍵(パスワード)とこれに対応するアドレスにより、ブロックチェーン上で電子的に記録されている残高を排他的に管理するという状態により実現される。 上記のようなブロックチェーン上の記録のみによって権利の帰属者が決せられるという考え方がある。これによれば、元の保有者に物権的返還請求権(又はこれに類似する権利)は認められない。 この考え方は、そのブロックチェーン上の記録の移転によりBTC自体も移転するとの関係を常に認めることにより、あたかも金銭における「占有=所有」と同じような規律を働かせるものである。 もっとも、BTCが、不特定の者との間で決済・売買等に用いることのできる支払手段として法的に通貨やこれに準じるものと評価できるものであるならば、ブロックチェーン上の記録のみによって権利の帰属が決せられると解し、金銭の「占有=所有」と同じような議論が可能になると考えられるが、BTC(あるいは他の暗号資産)がそのような意味での通貨やこれに準じるものといえるかについては、今後、暗号資産が社会にどのように受け入れられるか不透明であるということもあって、様々な見方があり得ることも指摘されている。 いずれにせよ、ここでは、暗号資産の性質を金銭に寄せることで、暗号資産の法律関係についても「占有=所有」理論を働かせる見解があり得ることに注目しておきたい。 ➤《更なる考察》 私法の議論から得られる示唆 暗号資産の私法上の議論は、暗号資産のあるべき課税関係を検討する際の参考になる。 以下、暗号資産の私法上の性質や法律関係などの議論から得られる示唆を検討する。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第43回】 「役員への保証料の支払いについて適正額が示された事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 経営者保証の実態 中小企業が資金調達を検討する際、金融機関から融資を受けるという方法が第一の選択肢にあることは疑いがないと思われる。その場合、その法人の財務内容等によっては、金融機関から信用保証協会による保証や、経営者保証として役員個人による保証等を求められることがある。 法人側として、一般的に、信用保証協会による保証を受ける対価として保証料を負担するよりは、役員個人による保証を行うことで、資金調達コストを少なくできる。役員個人が保証することで、信用保証協会への保証料がコストカットできるからである。 この場合において、経営者保証を行った役員に法人が保証料を支払うケースもわずかながら存在する。役員に保証料を支払う方法は、節税や社会保険料削減を実現する手段の1つとして紹介されているものも散見されるところである。 しかし、平成26年2月1日以降、全国銀行協会及び日本商工会議所による「経営者保証に関するガイドライン」が運用開始となったことを受け、金融機関が役員個人にも保証を求めるケース自体が減少傾向にあると感じられるが、本稿では役員個人に保証料を支払うケースを取り上げてみたい。 (2) 役員への保証料の支払いについて適正額が示された事例 役員に支払った保証料の適正額について言及した事例に、宮崎地裁平成12年11月27日判決がある(※1)。以下にその概要について触れる。 (※1) 税務訴訟資料249号731頁、TAINS:Z249-8779。 役員に対して支払った保証料が過大とされた場合、一般的には各損金算入要件に当たらないため損金不算入とされるところ、本件は、役員に支払う保証料率につき税務上相当とされる上限の判断が示された事例であるという点で注目される。 本件においては、納税者は年利率2%の保証料が適正額であると主張し、その根拠として信用保証協会は中小企業育成の見地から保証料率を低く設定していること、民間におけるカードローン等の保証料率は高利率であること等を示したが、このような主張は採用されなかった。 (3) 当該事例が示唆すること 当該裁判例で上記の結論が導かれた理由を要約して示す。 ① 当該役員個人は保証の受託を業としていないため、保証の危険負担に見合う収入のために大量の保証を受託することはあり得ず、債務保証に対して保証料を支払う合理性について他の保証事例を参考とせざるを得ないこと。 ② 納税者の財務内容は健全で経済的信用があるにも拘わらず金融機関が役員個人に債務保証を求めたのは、専ら役員たる地位に着目して債務保証を求めたためである。すなわち、当該役員に対して債務保証という厳格な法的責任を負わせることによって、当該役員に自覚と責任をもって経営に当たらせることを目的としていたこと。 ③ 納税者の本店所在地を管轄する熊本国税局管内の同業類似法人のうち、役員あるいはその親族が債務保証をしている場合において、保証料を支払っているケースは納税者以外に皆無であったこと。 ④ 民間の保証会社は営利行為であり、保証事故発生等に備えて利益を確保するのに対し、役員による保証については保証によって利益を上げるべき要請がないため、民間の保証会社の保証料を参考にすることは相当ではないこと。 ⑤ 信用保証協会は営利目的ではないという点で役員による保証と共通していること。 上記示された内容によれば、法人がその役員に対して保証料を支払うこと自体が異例であること、そして民間の保証会社の情報を参考とすることは適切ではないということが示されており、いわば消去法にて信用保証協会による利率が採用されたといえる。 他方で、裁判所は、「会社の役員が当該会社の債務を保証するについては、諸々の個別的な事情が存在し得るものであり、・・・個々の保証の個別的事情を考慮してその適用の可否及び修正が検討されるべき場合もあり得る」とも判示し、個別的事情が認められることで一定以上の保証料の支払いが認められ得ることを示唆した。 (4) 役員に保証料を支払う場合の実務上の対応 上記事例では、年利1%の保証料率が適正である旨が示されたが、これを根拠に「役員に対する保証料率は1%までなら損金算入可能」と表面上だけで判断することは危険だと考える。実務上において、役員個人に保証料を支給することを検討する場合、少なくとも、その時点で対象会社に適用される信用保証協会による保証料率を確認すべきだといえる(※2)。 (※2) 保証料率については、例えば東京信用保証協会HP「信用保証料率の体系」参照。 その上で、それ以上の保証料率にて保証料を支払うことを検討する場合、役員個人が他社等から保証を引き受けているか、他社における保証料の支払事例等を確認することで、その妥当性と個別的事情の有無を検証することは必要だろう。 また、保証料として支払うという選択肢の他に、実務上、経営者保証の実施の有無を加味して定期同額給与として支給する役員報酬額を判断することも考えられよう。この場合には当然ながら定期同額給与の諸条件を充足することが必要となる。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第45回】 「適格現物分配」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は組織再編税制における「現物分配」に関する基本的な考え方を解説しました。今回は、適格現物分配の要件について解説します。 1 適格現物分配の要件 適格現物分配の要件は、次の2つです(法法2十二の十五)。 2 内国法人から内国法人への現物分配に該当すること 「内国法人から内国法人への現物分配に該当すること」とは、内国法人を現物分配法人とする現物分配のうち、その現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人(普通法人又は協同組合等に限ります)のみであるものをいいます。 3 完全支配関係があること 「完全支配関係があること」とは、現物分配の直前において被現物分配法人と現物分配法人との間に完全支配関係があることをいいます。合併等と違い、完全支配関係の継続までは求められていません。 (1) 当事者間の完全支配関係 現物分配直前に、内国法人Aと内国法人Bとの間に完全支配関係があることが求められます。 (2) 同一の者との間の完全支配関係 現物分配直前に、内国法人Cと内国法人Dと内国法人Eとの間に同一の者による完全支配関係があることが求められます。 4 適格現物分配に該当しないもの (1) 現物分配を受ける株主が個人の場合 適格現物分配になるための要件は、現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであることとされているため、下図のように、個人が現物分配により資産の移転を受ける場合には、非適格現物分配になります。 (2) 現物分配を受ける株主に外国法人がいる場合 適格現物分配になるための要件は、現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみであることとされているため、外国法人が現物分配により資産の移転を受ける場合には非適格現物分配になります。 〇留意点 個人、外国法人に対する現物分配があった場合には、内国法人に対する現物分配も含めて全体が非適格現物分配になります。 5 具体例 ① 法人株主と個人株主がいる場合 〔前提〕 〇適格要件の判定 金銭による配当と金銭以外の配当が行われた場合には、別々の取引が行われたものとして考えます。この場合、Cに対する配当は金銭によってなされたものであるため、現物分配を行ったとは考えず、A社に対してのみ現物分配を行ったと考えます。現物分配により資産の移転を受ける者が内国法人との間に完全支配関係がある内国法人のみとなるため、適格現物分配に該当します。 ② 現物分配後に完全支配関係が継続しない見込みの場合 〔前提〕 〇適格要件の判定 現物分配を行った後に現物分配法人を売却することを予定している場合においても、現物分配を受ける者が内国普通法人であり、現物分配直前に完全支配関係がある限り、適格現物分配に該当します。合併等で求められているような完全支配関係の継続は、現物分配では要求されていません。 ◆適格現物分配の要件のポイント◆ 現物分配を受ける者は、内国法人(普通法人・協同組合等)のみに限られています。 現物分配を個人、外国法人が受ける場合には、非適格現物分配に該当します。 完全支配関係が現物分配直前にあることが求められています。 合併等と違い、完全支配関係の継続は求められていません。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第2回】 「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その2)」 ~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~ 税理士 中野 洋 7 判示2(コメンタリーが「解釈の補足的手段」となること) 本最高裁判決においては、もう1つ重要な判示がなされた。本件において、OECDモデル条約コメンタリー(以下、単に「コメンタリー」)が、「ウィーン条約32条にいう『解釈の補足的な手段』として参照されるべき資料」と判示されたのだ。 本件のように、国内法(CFC税制)と租税条約(7条1項)の抵触関係が問題となる場面における租税条約の解釈については、一般国際法であるウィーン条約法条約を参照することになる。原審では、OECDモデル条約に準拠した7条1項の解釈について「コメンタリーは、その性質上、法的拘束力を有するものではないが・・・・・解釈指針を説明した重要な資料として広く受入れられている」としていた。しかし、最高裁では、第一審よりも、一歩踏み込んだ判示をした。 では、ウィーン条約はどのような規定ぶりになっているのだろうか。下記は条約法に関するウィーン条約31条及び32条(以下、単に「31条又は32条」)の抜粋である。 上記31条と32条の関係については31条が原則的な規定である。32条の「解釈の補足的な手段」が問題となるのは、①31条の解釈手法により得られた意味を確認するため、又は、31条にあてはめて検討してもなお②32条(a)となる場合、あるいは③32条(b)となる場合である。32条の規定ぶりからは、解釈の補足的手段として、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情が想定されているが、最高裁はここにコメンタリーが入ることを示し、適宜、コメンタリーを参照することに後ろ盾を与えた。ただし、コメンタリーが32条の「解釈の補足的な手段」として参照されるのは、主に上記①~③のいずれかのケースということになり、一足飛びに32条の問題とはならないはずである。 第一審では、コメンタリーが31条3項(a)、(b)に該当するとした国税側の主張が却下されており、それだけに、この点を取り上げた最高裁においては、判断のプロセスについて、各条項に照らした検証が必要であったと思われる。本件においては、31条1項の文脈により得られた意味を確認するため、解釈の補足的手段としてコメンタリーを参照したということになろう。 ただ、租税条約の規定全体について考えた場合、②32条(a)に該当するケースが多くなるのではないか。すなわち、租税条約の規定は、その多くが課税の根拠規定ではなく制限規定である(※6)ことから、必然的に抽象的な表現にとどめる場合が多い。したがって、意味があいまい又は不明確ということになり、32条(a)により解釈の補足的手段としてコメンタリーが参照されるようになるのではないか。 (※6) 増井良啓・宮崎裕子『国際租税法 第4版』東京大学出版会(2019年)31頁。 8 遡及解釈の問題 では、判示が参照したコメンタリーとはどのようなものか。本件は、平成11年の課税事案であるが、平成15年に改訂されたコメンタリーを引用している。改定コメンタリーでは、その1条の23パラグラフで「抵触しないということを、その条約において、明示的に確認したいと考える国もあるが、そのような確認は不必要である」(※7)が、7条の10.1パラグラフでは、CFC税制が源泉地国の企業の利得に基づき算定されるにもかかわらず7条1項ではこれを制限していない点、そして、居住地国に対するCFC課税は源泉地国の企業の利得への課税ではない点を述べ、源泉地国課税の問題と居住地国課税の問題とを切り離して考えるべきことが追加された。 (※7) 川端康之『OECDモデル租税条約2003年版』日本租税研究協会(2003年)55頁及び103頁。 このような解釈は、平成14年のフランス国務院判決などを受けて公表されたものと考えられ、平成11年の課税事案である本件に適用するのは遡及解釈であるとの批判がある。コメンタリー改正と条文解釈の関係については、条文改正が行われていない状態でコメンタリーの改正・追加が行われた場合、それ以前に締結された租税条約の解釈及び適用にも、改正・追加後のコメンタリーが遡及して適用されるとする見解がある(※8)。 (※8) 川田剛・徳永匡子『OECDモデル租税条約コメンタリー逐条解説』税務研究会出版局(2018年)20頁。 最後に、コメンタリーについて留意すべき点を2点挙げる。 1つ目は、コメンタリーがOECD加盟国の行政府、つまり課税する側の解釈であり、課税する側の立場から適宜、公表される可能性が否めないことである。国内法のように国会での審議を経て制定されるものではないこと。 2つ目は、コメンタリーの法的位置付けである。コメンタリーに法的拘束力があるといえるのかどうかについて、直接的には法源とはなり得ないものの、事実上の間接的な法的拘束力を有するといえる余地があること。 ((その3)へ続く)