〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第22回】 「事業承継等事前調査チェックシートを活用しよう(後編)」 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの売り手に対して有効な財務・法務面の見方のヒントを得る。 売り手企業 ⇒M&Aに備えて財務・法務面のどこに着目したらよいかを知る。 支援機関(第三者) ⇒売り手に対する財務・法務面の見方のポイントを知りM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒売り手に対する視点を通じて対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。 前回は、「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」のうち、【財務DD・税務DD】の、調査項目への対応を行う際のポイントについて見ていきました。今回は、【法務DD】の内容を中心に確認していきます。 1 【法務DD】シートの中項目は、全部で11項目 【法務DD】(「事業承継等事前調査チェックシート(Excel版)」一部抜粋) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出典) 中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について」 前回紹介の【財務DD・税務DD】シートの中項目は、「貸借対照表」「損益計算書」「会計方針、議事録等の確認」「税務リスクの把握」の4項目で、デューデリジェンス(DD)にあたっては、同シートに従うと、ほぼ決算内容に関する調査項目ばかりが占めていました。 対して、【法務DD】の中項目は、全部で11項目あり、次のとおりです。 シート名は【法務DD】となっていますが、潜在的なリスクが顕在化すれば、やがて決算内容に影響しますので、【財務DD】や【税務DD】にも関係します。 また、不動産そのものに含まれる場合や製造過程などで生まれる可能性のある有害物質・公害問題などへの対応状況を確認するための環境問題の項目が設けられているなど、他のDD項目(環境DDなど)との関連も深く、【法務DD】の各項目について買い手や売り手が対応する際には、経営全般への意識と注視が自ずと求められます。 本稿では、中小企業のM&Aにおける大半のケースで何らかの不備が発見される「会社組織等」と「株式」の項目を中心に、【法務DD】に関わる当事者の皆様がM&Aにあたって今後気を付けたいポイントを紹介します。 2 会社組織等~ガバナンスと適法性~ 中小企業の多くは、大企業に比べて意思決定スピードが早く、柔軟性に富む一方で、例えば、経営者1人や、数人の経営幹部でなんでも決めてしまうなど、組織の意思決定が属人化しやすく、わざわざルールや仕組みを設けて標準化するような社内体制をとっていないケースが多いように思います。それだけに、会社組織を眺めると、適法性をはじめ、至る所に欠点や弱点が見られ、確認を重ねると、「元からルールが無い」「ルールが足りない」「ルールがあるのに守られない」といった様々なケースに出会います。 一例ですが、DDを通じて遭遇する可能性が高いのが、以下のような事項です。 いずれも会社組織の根幹に関わる事項ですので、不備や逸脱があれば、M&Aの相手や第三者機関からの不信を招きやすく、評価額への影響もあります。形だけを整えるためにルールが存在するわけではないのですから、M&Aに関わらず全ての中小企業が日頃から意識しておきたい項目です。 3 株式~株券の紛失、不明株主~ 非上場会社特有の株券発行会社のケースにおいて、肝心の株券が無いか紛失したという事実がDDなどの調査過程で判明し、しかも、所在不明株主がいる、相続後の株主との関係が疎遠になっている、という困った例も多く見受けられます。このようなケースに至ると、追跡調査など追加の対応に追われてしまいます。 相続を重ねていく結果、親族内外に分散してしまって争いに発展する可能性まで覚悟するのが株式の怖いところですが、日頃の会社経営では特段意識を払わないもの。だからこそ、いざという時のために必要以上に準備を意識したいところで、特に、「株券」「株主名簿」の動向や所在について常に明らかにしておくのは、最低限の売り手の務め、否、経営者の務めです。 「事業承継等事前調査チェックシート」の【法務DD】シートには、売り手の潜在リスクをあらかじめ漏れなく把握するために、適法性を含めて調査項目例が数多く挙げられています。現状で未整備の事項そのものが法的にアウトなものならば、M&Aに関わらず直ちに解消しなければならない問題になりますので、単にM&Aのためだけではなく、法的な側面からの経営チェックシートという位置づけで、売り手に限らず広く活用されるのを期待します。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第20回】 「請求済未出荷契約、顧客による検収など」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、次の事項について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 請求済未出荷契約 1 定義 請求済未出荷契約とは、企業が商品又は製品について顧客に対価を請求したが、将来において顧客に移転するまで企業が当該商品又は製品の物理的占有を保持する契約である(収益認識適用指針77項)。 例えば、顧客に商品又は製品の保管場所がない場合や、顧客の生産スケジュールの遅延等の理由により締結されることがある(収益認識適用指針159項)。 2 支配の概念 企業は約束した財又はサービス(資産)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する(収益認識会計基準35項)。 そして、約束した財又はサービス(資産)が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてであり(収益認識会計基準35項)、支配の概念がポイントになっていると解される。 資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)をいうと規定されている(収益認識会計基準37項)。 3 会計処理 請求済未出荷契約の収益認識については、商品又は製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたって、顧客が当該商品又は製品の支配をいつ獲得したかを考慮することになる(収益認識適用指針78項)。 請求済未出荷契約においては、収益認識会計基準39項及び40項の定め(一時点で充足される履行義務)を適用したうえで、次の①から④の要件のすべてを満たす場合には、顧客が商品又は製品の支配を獲得することになる(収益認識適用指針79項)。 4 残存履行義務 請求済未出荷の商品又は製品の販売による収益を認識する場合には、取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば、顧客の商品又は製品に対する保管サービスに係る義務)を有しているかどうかについて、収益認識会計基準32項から34項に従って判断する(収益認識適用指針160項)。 Ⅲ 顧客による検収 1 検収と支配 前述のとおり、収益認識においては、「支配」の概念がポイントとなる。 顧客による検収の検討に際しても、「支配」の概念がポイントであり、収益認識適用指針は、顧客による財又はサービスの検収は、顧客が当該財又はサービスの支配を獲得したことを示す可能性があると規定している(収益認識適用指針80項)。 契約において合意された仕様に従っていることにより財又はサービスに対する支配が顧客に移転されたことを客観的に判断できる場合には、顧客の検収は、形式的なものであり、顧客による財又はサービスに対する支配の時点に関する判断に影響を与えないこととなる(収益認識適用指針80項)。 例えば、顧客の検収が、所定の大きさや重量を確認するものである場合には、それらの大きさや重量は顧客の検収前に企業が判断できる(収益認識適用指針80項)。 また、顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると客観的に判断することができない場合には、顧客の検収が完了するまで、顧客は当該財又はサービスに対する支配を獲得しないことになる(収益認識適用指針82項)。 2 残存履行義務 顧客の検収前に収益が認識される場合には、他の残存履行義務があるかどうかを判定する(収益認識適用指針81項)。 3 試用販売 商品又は製品を顧客に試用目的で引き渡し、試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合、顧客が商品又は製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで、当該商品又は製品に対する支配は顧客に移転しないことになる(収益認識適用指針83項)。 Ⅳ 返品権付きの販売 1 返品権 顧客との契約においては、商品又は製品の支配を顧客に移転するとともに、当該商品又は製品を返品して、次の①から③を受ける権利を顧客に付与する場合がある(収益認識適用指針84項)。 2 会計処理 返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売した場合は、次の①から③のすべてについて処理する(収益認識適用指針85項)。 次のことに注意する(収益認識適用指針87項~89項、161項)。 Ⅴ 重要性等に関する代替的な取扱い 収益認識適用指針では、「重要性等に関する代替的な取扱い」として、次の規定を設けている。 これは、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」における取扱いとは別に、個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めるものである。 代替的な取扱いを適用するにあたっては、個々の項目の要件に照らして適用の可否を判定することとなるが、企業による過度の負担を回避するため、金額的な影響を集計して重要性の有無を判定する要件は設けていない(収益認識適用指針164項)。 (了)
対面が難しい時代の相続実務 【第9回】 「一度も対面しない「完全オンライン」での対応は可能か」 クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎 前回までの解説においては相続実務における具体的な場面を取り上げ、各ケースにおいてオンラインで対応する場合の工夫や注意点を説明してきた。 今回は、これらに共通する総論的な問題点として、相談・依頼の始めから終わりまでの間、リアルでの対面を一度も行わない「完全オンライン」の方式で事件処理をすることに問題はないのかという点につき考えてみたい。 1 相談者・依頼者にまったく会わないという対応はあり得るか 世の中の動きが非対面化/オンライン化にあるといっても、「相談者・依頼者に一度もリアルで対面することなく案件を処理してよいか」というのは、また別個の問題であると思われる。 すなわち、物理的には初回相談からオンラインでの対応が可能であるとすると、依頼を受けた業務を処理し、案件が終了・解決するまでの間に、依頼者本人には一度もリアルで対面せず終わってしまうというケースも十分考えられるし、実際に生じている。 このようなケースでは、突き詰めて考えると第三者が依頼者本人へとなりすまし、依頼をしてくる危険性が存在する。第三者が悪意をもってなりすましを行う場合はもちろんのこと、家族や友人が、(主観的には)本人の権利保護を目的として、その意味では“よかれと思って”なりすますというケースもあり得よう。 このような危険性があることを考えれば、依頼者に一度も会わない「完全オンライン」での事件処理は、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もゼロとはいえない。 2 「完全オンライン」の可否を考える上での考慮基準 以上のようなリスクがある反面、依頼者が遠隔地に居住しているケースや、病気等により外出することが困難であるケースといったように、税理士等と一度もリアルで対面せず、すべてオンラインで相談に乗ってほしい、そして事件を受任してほしいという「完全オンライン」での対応を希望するニーズは確かに存在する。 考え始めると非常に悩ましい問題ではあるが、筆者の場合は、次に挙げるような様々な要素を考慮し、総合的に判断して実施している。 〈「完全オンライン」での対応を検討する際の考慮要素〉 以上の要素を具体的に考えてみると、まず①依頼を受ける案件の規模・内容という点は、一番初めに考慮されるべき要素と思われる。 問題となる案件が数万円程度の規模の案件であるのか、それとも億単位の事件であるかで、本人確認の必要性等を含めた“慎重さ”が要求される度合いが異なることは、自明のことであろう。 ②争訟性・紛争性の大小についても同様であり、相手方や関係者が特に存在せず、相談者・依頼者から提示された内容につき専門的な検討・分析を加えて解決策を提案すれば足りる業務であれば、対面する機会を無理に設ける必要性は低いといえる。 相談内容に助言だけを求められているというケースの場合にも、たとえそれが単発ではなく数回のやり取りを要するような内容であったとしても、特段リアルで対面する機会を設ける必要はないであろう。 また、③相談者の属性として、初めての問い合わせで、かつ、紹介者がいない初対面の相談者の場合には、やはり一度は相談者本人と実際に会ってみないとどのような人物であるのか、信頼できる人物であるのか、他人のなりすましの可能性はないのか等については、適切な判断は困難ではないかと思われる。 ただ、これについても、前述したように案件の規模が小さかったり、争訟性・紛争性が小さいという事案であれば、完全オンラインでの対応も考えられる。 他方、過去に関わりがあった元依頼者であるとか、信頼できる人物からの紹介があった相談者である等の事情がある場合には、前記のような懸念はほとんど生じない。 たとえば、筆者の実際の取扱例でいえば、幼稚園から高校まで同じ学校に通った幼なじみであったが、高校卒業後20年以上もまったく会うことはなく、直接に連絡を取り合っていなかった、しかしFacebookの投稿を通じて筆者が元気にしている近況は把握していたという郷里の友人から突然に連絡が入り、ある紛争案件で相手方と会って示談交渉をしてほしいと依頼された事案があった。 このときには、紛争の相手方とはもちろん直接に会って示談交渉を行い、無事に示談解決ができたが、当の友人とのやり取り・打ち合わせはすべて電話で行ったため、一度も対面では会わなかった。 このケースでいえば、20年以上というブランクがあったとしても、長年の友人であり、相談内容や電話口での声・話し方の様子等を含めて考えれば、第三者のなりすましの可能性は低いと判断した。このようなケースであれば、依頼者への対応を最初から最後まで非対面で処理したことも許容されるのではないかと思われるが、いかがであろうか。 ただし、自身の身を守るためには、依頼者本人に直接会って、本人確認を行う機会を設けるに越したことはないし、それが安全策であることはいうまでもない。 そのように考えると、「完全オンライン化」の可否につき少しでも迷う案件があれば、最低一度、それも案件の正式受任前にリアルで対面し、直接に会って本人確認をする機会を設けたほうが無難ではないかと考えられる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第52話】 「実額経費控除と消費税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 中尾統括官は、机の上に積まれている書類を整理している。 「そろそろ確定申告の時期ですね」 浅田調査官も不要の書類を廃棄するために、ロッカーの中を整理している。 「毎年、確定申告の時期になると・・・憂鬱になる」 そう言うと、中尾統括官は、顔をしかめる。 「どうしてですか・・・僕なんか、確定申告の時期は、税務調査に出なくて良いから、むしろ、楽しいですよ」 浅田調査官は、ニコニコしている。 「ところで・・・ほとんどのサラリーマンは、年末調整によって、確定申告をしないのですが・・・これって、どう思いますか?」 浅田調査官は、廃棄する書類を仕分けしながら、尋ねる。 「そりゃ、我々、税務職員としては、確定申告をする納税者の数が少ないに越したことはないだろう」 中尾統括官も、机の上の書類を整理しながら答える。 「しかし、サラリーマンにも、特定支出控除以外に、確定申告をする途を創るべきではないかと思うのですが・・・」 浅田調査官は、大嶋訴訟事件(最高裁昭和60年3月27日判決)を契機に、昭和63年度から「給与所得者の特定支出控除」(所法57条の2)が認められ、サラリーマンの確定申告が認められたことをあまり評価していないらしい。 「もっとも、特定支出控除の適用者(申告者)の人数は、昭和63年は16人だったけど、その後は一桁の数が続き、それから、特定支出控除の改正が、平成24年と26年に行われて、ようやく1,900人ぐらいになった・・・」 中尾統括官がコメントを続ける。 「・・・しかし、何千万人といるサラリーマンの数を考えると、所得税法57条の2は、十分にワークしていないと思う」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「そうなんですよ」 浅田調査官は、大きくうなずく。 「僕は、特定支出控除を認めるのではなく、事業所得者と同様に、給与所得者に実額経費控除を認めたら良いと思うのです・・・すなわち、概算経費控除と実額経費控除の選択適用にしたら良いと思うのですが・・・」 そう言うと、浅田調査官は、机の上にある罫紙に、図を描く。 「・・・しかし、給与所得控除額を上回る実額経費を支出するサラリーマンなんて、そんなにいないだろう」 中尾統括官は、首をかしげる。 「ええ、そうなんです」 浅田調査官は、素直に肯定する。 「ただ、給与所得を事業所得と同じ実額経費控除にすると、所得計算上は、事業所得との差異がなくなることになります・・・仮に、給与所得で実額経費控除を採用すると、まれでしょうが、マイナスが生じる場合があります・・・そうすると、給与所得のマイナスを他の所得と損益通算することも考えられます」 浅田調査官は、説明を続ける。 「そして、所得区分上、給与所得で実額経費控除を選択した場合、その給与所得は事業所得と一本化しても良いのではないかと思うのです」 「・・・給与所得と事業所得を1つの所得区分にするということか?」 中尾統括官は、腕を組んで、思案顔になる。 しばらくすると、突然、中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・では・・・消費税はどうなるの?」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「・・・給与所得であれば、消費税法では不課税に該当し、課税仕入れにならないが、事業所得(外注費)は、仕入税額控除を受けることができる・・・それを1つの所得にすると、消費税ではどうなるの・・・」 中尾統括官が尋ねる。 「それは・・・その給与所得についても仕入税額控除を受けることにしたら良いと思うのです・・・実質的に事業所得と同じ扱いを受けるのですから・・・したがって、給与所得者も事業者として消費税の納税義務者になるということです」 浅田調査官は、淡々と答える。 「もちろん、課税期間における課税売上高である給与等の収入金額が1,000万円以下であるならば、免税業者になりますが・・・給与所得者が実額経費控除を選択した場合、消費税法においては、事業者と同じ取扱いをすれば良い・・・これによって、外注費と給与の争いが少なくなると思うのです・・・」 「そうすると、消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)の規定は必要ないということか?」 中尾統括官が同通達を見ながら、尋ねる。 「ええ、給与所得者が実額経費控除を選択した場合、無条件に、消費税法において事業所得者と同様に取り扱うことになりますから、この通達は、概算経費控除を選択した場合にのみ検討されることになります」 浅田調査官は、図を描く。 中尾統括官は、目を閉じて、浅田調査官の想定外の「発想」を思案する。 (つづく)
《速報解説》 適格請求書等保存方式に係る制度関連の整備 ~令和4年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 「令和4年度税制改正大綱」(令和3年12月24日閣議決定)において、令和5年10月1日に導入予定の適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に係る見直しが行われた。これらの見直しを分類すると、「登録に関する見直し」と「制度関連の整備」に分けられる。 以下では、制度関連の整備(大綱57頁~58頁)について概説する。 なお、登録に関する見直しの概説は以下の拙稿を参照されたい。 1 制度関連の整備 (1) 仕入明細書による仕入税額控除の適用要件の見直し ① 現行 個人事業者による家事用資産の売却は「事業として」の売却ではないので、課税資産の譲渡等に該当しない。したがって、その個人事業者が適格請求書発行事業者である場合に、買い手から適格請求書の交付を求められたとしても、適格請求書を交付することはできない。 ただし、買い手が仕入明細書を作成して、適格請求書発行事業者である個人事業者(売り手)の確認を受けた場合、買い手では仕入税額控除が可能となる。 ② 改正案 仕入明細書による仕入税額控除は、その課税仕入れが売り手において課税資産の譲渡等に該当する場合に限定することとする。 (2) 電子区分記載請求書による仕入税額控除の経過措置適用について ① 現行 適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、適格請求書等保存方式導入から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられている(平成28年改正法附則52、53、国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問86)。 この経過措置の適用については、売り手から「書類」により交付された区分記載請求書等の保存が要件となっており、電磁的記録により区分記載請求書等の提供を受けた場合、それを保存しても経過措置の適用は受けられない。 ② 改正案 電磁的記録により区分記載請求書等の提供を受けた場合について、上記の経過措置を受けられることとする。 (3) インボイス経過措置期間における棚卸資産に係る消費税額の調整規定の見直し ① 現行 納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整(消法36)では、その棚卸資産に係る消費税額を仕入税額控除の対象としている。 一方、上記(2)①の経過措置では、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、仕入税額相当額全額ではなく、一定割合(80%、50%)のみが控除できる。 現行の法令では、納税義務の免除を受けないこととなったタイミングで有する棚卸資産のうち、適格請求書発行事業者以外の者から仕入れたものについて、消法36による調整額は仕入税額相当額全額か、一定割合を乗じた額かが不明である。 ② 改正案 適格請求書発行事業者以外から仕入れた棚卸資産であっても、全額を消法36による調整額とする。 (4) 公売等において適格請求書を交付する場合の特例 ① 現行規定の問題点 公売とは、国税局又は税務署が差し押さえた財産を滞納国税に充てるため、広く不特定多数の買受希望者を募り、入札又はせり売りの方法により売却することをいう。 公売等による財産の売却についての適格請求書等の交付は、滞納者が交付するか、媒介者交付特例(国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問39)を適用して公売等の執行機関が滞納者に代わって交付することとなるが、いずれも困難が伴う。 ② 改正案 滞納者が適格請求書発行事業者である場合には、公売等の執行機関が適格請求書等を交付できることとする。 (5) 特定収入を課税仕入れに充てた場合の仕入控除税額の調整規定の整備 ① 現行 国、地方公共団体、公共・公益法人等については、補助金等の対価性のない収入(特定収入)により賄われる課税仕入れ等に係る税額を、仕入税額控除の対象から除外することとしており、除外する額(調整税額)を算出するための特例計算が設けられている(消法60、消令75)。 現行の特例計算の方法では、適格請求書等保存方式導入後、免税事業者等からの課税仕入れに充てられた部分も調整税額に含まれて算出されてしまい、調整税額が過大となる。 ② 改正案 交付要綱等により使途が特定されている特定収入について、免税事業者等からの課税仕入れに充てたことが国等へ報告することとされている文書等により事後的に確認できる課税期間において、調整税額のうち、免税事業者からの課税仕入れに応じた部分の金額を仕入控除税額に加算できることとする。 (※) 特定収入の5%を超える金額を免税事業者等からの課税仕入れに充てた場合に限る。 2 適用時期 上記の改正案は、令和5年10月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用される。 (了)
-お知らせ- いつもプロフェッションジャーナルをご愛読いただきありがとうございます。 2021年下半期(7月~12月)掲載分の目次をアップしました。 2021年下半期(7月~12月)掲載目次ファイル ※PDFファイル PDFファイルを開いて各記事タイトルをクリックすると、該当の記事ページが開きます。 (※) お使いのブラウザによって開かないものがあります。 パソコンやクラウド等に保存していただくと、PDFファイルから各記事ページへすぐに移動できますので、ご活用下さい(PDFファイル内の文字検索もできます)。 Back Number ページからもご覧いただけます。 ▷半年ごとの目次一覧 2021年 1月~6月(No.401~425)⇒[こちら] 7月~12月(No.426~450)⇒[こちら] ★ 2020年 1月~6月(No.351~375)⇒[こちら] 7月~12月(No.376~400)⇒[こちら] 2019年 1月~6月(No.301~324)⇒[こちら] 7月~12月(No.325~350)⇒[こちら] 2018年 1月~6月(No.251~274)⇒[こちら] 7月~12月(No.275~300)⇒[こちら] 2017年 1月~6月(No.201~224)⇒[こちら] 7月~12月(No.225~250)⇒[こちら] 2016年 1月~6月(No.151~175)⇒[こちら] 7月~12月(No.176~200)⇒[こちら] 2015年 1月~6月(No.100~125)⇒[こちら] 7月~12月(No.125~150)⇒[こちら] 2014年 1月~6月(No.51~75)⇒[こちら] 7月~12月(No.76~100)⇒[こちら] 2013年 1月~6月(No.1~25)⇒[こちら] 7月~12月(No.26~50)⇒[こちら] 2012年 創刊準備1号~5号⇒[こちら]
《速報解説》 住宅借入金等特別控除の見直し ~令和4年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 「令和4年度税制改正の大綱」(令和3年12月24日閣議決定)では、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下、住宅借入金等特別控除という)について、適用期限が4年間延長され、控除率や控除期間等に見直しが行われるとともに、環境性能等に応じた借入限度額の上乗せ措置が講じられることとなった。 以下、大綱及び国土交通省から公表されたQ&A等で示された内容について解説を行う。 なお本制度に係る昨年度の税制改正については、下記拙稿を参照されたい。 【1】 適用期限の延長 適用期限が4年間延長され、一定の家屋を令和7年12月31日までの間に居住の用に供した場合を対象とすることとされた。 【2】 借入限度額に係る上乗せ措置の見直し (1) 新築住宅・買取再販住宅 消費税率が8%に引き上げられた際、反動減対策として導入された借入限度額の上乗せ措置(※)は終了し、新たに住宅の性能等に応じた上乗せ措置が講じられる。 (※) 一般の住宅:上乗せ後の上限4,000万円(上乗せ前の上限2,000万円) 認定長期優良住宅・認定低炭素住宅:上乗せ後の上限5,000万円(上乗せ前の上限3,000万円) 具体的には、新築住宅及びリフォームにより良質化した上で販売する買取再販住宅においては、認定住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅)・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅について借入限度額の上乗せ措置が講じられる。 上乗せ措置の対象となる買取再販住宅の範囲、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅の概要は、次のとおりである。 (注) ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅として住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする場合には、確定申告時に一定の証明書類が必要となる見込みである。 なお、新築住宅及び買取再販住宅に係る控除期間は、原則として13年間とされる。 また、東日本大震災の被災者等に係る住宅借入金等特別控除の特例については、適用期限を令和7年12月31日まで4年間延長した上で、借入限度額、控除率及び控除期間が次のとおりとされる。 (※1) 上記は新築等の場合のもの。既存住宅の取得又は住宅の増改築等の場合には、借入限度額3,000万円、控除期間10年となる。 (※2) 居住が令和7年1月1日以後のものについては、警戒区域設定指示等の対象区域外に従前住宅が所在していた場合には適用できなくなる。 (2) 既存住宅 従来、借入限度額の上乗せ措置は新築住宅にのみ適用されていたが、既存住宅が認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅に該当する場合には、既存住宅についても一定の上乗せ措置が講じられる。 なお、既存住宅に係る控除期間は10年間とされる。 また、既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)については、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和される。 【3】 控除率、所得要件の見直し 会計検査院の平成30年度決算検査報告では、住宅借入金等特別控除の控除率である1%を下回る金利で住宅ローンを借り入れている者の割合が78.1%となっているとの指摘があった。 この指摘に対応する観点から、控除率を0.7%に引き下げるとともに、適用対象者の所得要件も合計所得金額2,000万円以下(現行:3,000万円以下)に引き下げることとされた。 【4】 床面積要件の見直し 床面積要件について、令和5年以前に建築確認を受けた新築住宅において、合計所得金額1,000万円以下の者に限り、40㎡(通常の床面積要件は50㎡)に緩和される。 * * * ここまでの改正についてまとめると、次の表のとおりとなる。 (※) 国土交通省公表資料に筆者一部加筆。 【5】 個人住民税における住宅借入金等特別控除 令和4年分以後の所得税で住宅借入金等特別控除の適用がある者(住宅の取得等をして令和4年から令和7年までの間に居住の用に供した者に限る)のうち、所得税から控除しきれなかった額を、翌年度分の個人住民税において、控除限度額の範囲内(所得税の課税総所得金額等の5%(最高9.75万円))において、個人住民税額から控除する措置が講じられる(この措置による令和5年度以降の個人住民税の減収額は、全額国費で補塡する)。 【6】 確定申告等手続の見直し 本制度適用にあたり確定申告及び年末調整の際に必要とされていた年末の借入金残高証明書の提出又は提示が不要とされ、これに代えて、銀行等が年末の借入金残高等を記載した調書を作成し所轄税務署長に提出することとなる。ただし適用を受ける者は銀行等へ住宅ローン控除に関する申請書を提出する必要がある。 また、新築の工事の請負契約書の写し等についても確定申告書への添付が不要とされるが、確定申告期限から5年間は、税務署長からの提示又は提出の求めに応じる必要がある。 上記の改正は、居住年が令和5年以後である者が、令和6年1月1日以後に行う確定申告及び年末調整について適用する。 【7】 その他 これらの他、住宅関係の所得税の改正項目として、認定住宅の新築等をした場合の所得税額の特別控除(措法41の19の4)の見直しが示されている。 (了)
《速報解説》 改正電帳法の宥恕規定適用における「やむを得ない事情」が改正通達等で明らかに Profession Journal編集部 既報のとおり12月27日公布の改正省令により改正電子帳簿保存法における宥恕規定が設けられたところだが、国税庁は本日12月28日に関連通達の改正及びQ&Aやパンフレットの内容を更新し、周知を図っている。 今回公表された情報は以下のとおり。 上記のうち①の改正通達では「7-10(宥恕措置における「やむを得ない事情」の意義)」「7-11(宥恕措置適用時の取扱い)」が新設され、7-10では宥恕規定を適用する際に求められる「やむを得ない事情」について、以下のように具体的なケースで示されている。 また②の改正通達の趣旨説明では上記について、以下のように補足されている。 なお③のQ&Aでは関連する下記の問答が追加されており、問41-5では下記のとおり、事前手続が不要との説明がある。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和3年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2021(令和3)年12月15日、「令和3年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法と相続税法が各4件、所得税法が2件、登録免許税法と国税徴収法が各1件で、合わせて12件となっている。国税通則法関連の裁決のうち3件も相続税に関するものであり、12件の公表裁決事例のうち半数の6件が相続税に関する賦課決定処分をめぐっての裁決となっている。 今回の公表裁決では、12件のうち11件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、納税者の審査請求が棄却されたものは1件となっている。 【表:公表裁決事例令和3年4月~6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、事例①から③の相続税の申告内容をめぐって争われた事例について、国税不服審判所が、原処分庁による過少申告加算税又は重加算税の賦課決定処分の一部取消しを認めた理由について、その判断を検討したい。 なお、複数の争点が存在する裁決に関しても、賦課決定処分取消しの可否に係る争点のみを取り上げることを、あらかじめお断りしておく。 1 相続財産の申告漏れについて、「正当な理由」を認めた事例・・・① 本件は、税理士である審査請求人が、亡母の相続に係る相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、亡母名義の預貯金口座から出金された現金の一部が請求人以外の共同相続人に預けられていたなどとして、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該共同相続人に預けられていたとされた現金は、相続税法第9条により当該共同相続人が贈与により取得したとみなすべきであり、また、請求人は、申告漏れとなった財産の存在を知り得る状況にはなかったのであるから、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するなどとして当該更正処分の一部の取消し及び当該賦課決定処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は以下のとおりであるが、本稿では争点②に関する「正当な理由」の存否に関する国税不服審判所の判断を検討したい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、申告漏れとなっていた①被相続人の孫K名義の家屋、②被相続人名義の口座から引き出され、相続開始時においてまだ費消されていなかった現金、③被相続人名義の口座から出金し、相続人Hら名義の口座に入金された金額について、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる」かについて、次のように判断を示した。 ① 被相続人の孫K名義の家屋 不動産については、一般的には登記簿上の名義人が、当該不動産の所有者と推定することができるところ、本件家屋は、本件相続開始時、所有者をKとする登記がなされており、しかも、請求人が関与税理士として本件家屋の売買に係る譲渡所得の申告を行っていること、また、被相続人は、平成21年頃から本件家屋に居住しておらず、譲受人であるKが居住しており、かつ、Kと同じく本件被相続人の孫に当たるQも、本件被相続人から土地の遺贈を受けており、本件被相続人が、Kに本件家屋を譲渡することが、特段不自然、不合理とはいえないことなどの事情からすれば、請求人において、殊更に、本件家屋の売買の有効性を疑うべき状況になかったと認められる。 このような本件家屋に係る相続税の申告以前の状況からみれば、請求人には、本件被相続人とKとの間の本件家屋の売買が有効に成立し、本件家屋の所有権がKに移転したと誤信せざるを得ない事情があったといわざるを得ない。 よって、本件家屋に係る税額については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる。 ② 被相続人名義の口座から引き出され、相続開始時においてまだ費消されていなかった現金 請求人は、相続税の申告期限までに本件被相続人名義の各預貯金口座の取引履歴を取得し、当該取引履歴から、本件現金を含む出金の事実及びその使途が不明であることを把握していたものと認められるにもかかわらず、請求人は、本件現金を含む出金された現金の使途について、相続人Hに口頭で数回尋ね、それに対し、相続人Hから本件被相続人のために使った旨の抽象的な返事をされただけで、具体的にその使途を追及し、調査することもなく、本件現金の全額が、本件相続に係る財産に含まれないとして、相続税の各申告書を提出し、過少申告したものである。 したがって、上記の過少申告について、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。 ③ 被相続人名義の口座から出金し、相続人Hら名義の口座に入金された金額 上記②と同様に、本件入金額に係る過少申告についても、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお請求人に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷であるとはいえないから、請求人に正当な理由があったとは認められない。 2 被相続人の借入金について、存在を仮装していたと認められないとした事例・・・② 本件は、被相続人の長男である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受けて相続税の修正申告を行ったところ、原処分庁が、相続税の申告において相続税の課税価格の計算上債務控除をしていた借入金は存在しない債務であり、あたかも同債務が存在したかのように装って金銭借用証書を作成し、当該債務控除をしたことが事実の仮装行為に該当するとして重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該仮装行為を行った事実はないとして、当該賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人に国税通則法第68条第1項に規定する「仮装」に該当する事実があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、認定した事実関係に基づき、請求人及び本件被相続人は、本件土地の売買契約に係る代金の決済に当たり、当初はその代金の一部を、本件被相続人を借主とする融資をM信用金庫から受けることを予定していたところ、当該融資がとん挫したことが認められ、このような融資のとん挫の経緯や、現金500万円が本件売買契約の代金決済日に近接した日に入金されていること及び本件証書の表題に一時的な貸借であることを意味する「一時」と付されていること等からすれば、本件被相続人が十分な金額の預貯金を有していた事実を踏まえても、請求人が本件被相続人に本件貸付けをすることとしたとしても不自然であるとまではいえないという判断を示した。 そのうえで、審判所の調査及び審理の結果によっても、本件被相続人の請求人に対する本件借入金がなかったと認めることはできないことから、請求人は、存在しない債務を実際に存在するかのように仮装していたとは認められないから、請求人に国税通則法第68条第1項の「仮装」に該当する事実があったとは認められないとして、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 3 税理士からの質問に対する、故意の虚偽回答を認めなかった事例・・・③ 本件は、被相続人の長男である審査請求人が、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき相続税の修正申告をしたところ、原処分庁が、相続財産の一部を申告していなかったことに隠蔽の行為が認められるとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該隠蔽の行為はないとして、当該処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 請求人に国税通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったか否か。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、本件共済契約に係る権利が申告漏れとなった原因として、請求人が相続税の申告代理を依頼した税理士からの「損害保険はどうなっていますか。」との質問に対して「共済は掛け捨てに移行している。」との回答をし、税理士が、当該回答を受けて、被相続人の相続財産中に申告すべき損害保険契約に関する権利はないものと誤解したこと、その後も、請求人は税理士に本件共済契約に係る「共済契約解約返戻金相当額等証明証」を提示することも、本件各権利があることを説明することもしなかったため、税理士が上記の誤解をしたまま、本件申告書を作成したことによるものと考えられると、事実関係を認定した。 そのうえで、上記の請求人の回答について、請求人は、税理士による質問を、損害保険の状況を問われたものと誤認したためであり、その後も本件各共済契約について説明しなかったのは、本件証明書を含めた全ての関係書類が税理士に提出されているものと認識していたことによるものであるという主張について、 などの事実に基づき、「共済は掛け捨てに移行している。」との請求人による回答は、必ずしも虚偽であるとまではいえず、さらに、税理士が上記各普通貯金通帳を子細に確認すれば、本件各権利の存在に気付き、請求人にその事実照会等を行うことも考えられたことに鑑みると、請求人が税理士に対して、本件各共済契約、ひいては、本件各権利を秘匿しようという意図があったとまで認めることはできないという判断を示した。 そのうえで、結論として、請求人が本件申告において本件各権利を申告しなかったことについて、国税通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、同項の重加算税の賦課要件を満たさないから、原処分の一部を取り消す裁決を行った。 (了)
《速報解説》 宥恕規定に係る電子帳簿保存法改正省令が公布される ~施行規則4条3項の読替え規定を附則にて新設~ Profession Journal編集部 既報のとおり令和4年度税制改正大綱では、来年から施行される改正電子帳簿保存法について宥恕規定を設ける旨が示されたが、本日(令和3年12月27日)付けの官報第645号において改正省令(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令の一部を改正する省令(財務八〇))が公布され、この規定が設けられた(施行は令和4年1月1日)。 具体的には、令和3年度税制改正に係る改正省令(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和3年財務省令第25号))の附則第2条第3項として、下記が規定された。 上記の読替えを行った施行規則第4条第3項は以下のとおり(下線部が読替箇所)。 上記の通り読替え後の規定においては、宥恕規定の適用に特段の手続は求められていない。なお、「やむを得ない事情」についての詳細は明らかとなっていない。 (※) 「災害その他やむを得ない事情」による宥恕規定については、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」の問41を参照されたい。 (了)