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日本の企業税制 【第94回】「令和4年度税制改正の課題」

日本の企業税制 【第94回】 「令和4年度税制改正の課題」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   この8月末には例年、各省庁の概算要求と税制改正要望の取りまとめが行われる。それに伴い本稿では、令和4年度税制改正に向けた課題を概観したい。 今年は、衆議院議員の任期満了が10月21日であることから、年末の税制改正シーズンの開始の前にいずれにせよ総選挙が実施されるため、落ち着いて税制改正の議論をする時間は限られている。   〇法人課税-オープンイノベーション及び5G導入促進税制の期限到来- 令和元年度税制改正で創設されたオープンイノベーション促進税制と5G導入促進税制とがそろって期限を迎える。 オープンイノベーション促進税制(特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の課税の特例)は、「既存企業が従前の閉鎖的でコストの高い自己開発にこだわることなく、新たな分野に投資するなど自ら事業革新を進めることは、この時代において企業が生き残るために必要不可欠である」との観点から、一定のベンチャー企業への出資を通じて新たなビジネスの創造に取り組む企業に対して、「極めて異例の措置」として、そのベンチャー企業の株式の取得価額の25%相当額の所得控除を認めることとされたものである。 ただ「極めて異例の措置」であることから、その適用要件は厳しく、例えば、取得する株式の額が、出資を受けるベンチャー企業(特別新事業開拓事業者)が内国法人である場合には、1億円(出資する企業(適用対象法人)が中小企業者である場合には、1,000万円)以上とされている。 また、その株式が特別新事業開拓事業者の資本金の額の増加に伴う払込みにより交付されるものであること、すなわち、特別新事業開拓事業者が第三者割当増資をする際に発行する株式など金銭の払込みにより取得するものに限られている(新株予約権の行使により金銭を払い込んで取得する株式も該当する)。 適用対象法人は、青色申告書を提出する株式会社、相互会社、中小企業等協同組合、農林中央金庫並びに信用金庫及び信用金庫連合会であり、投資事業有限責任組合等を通じて出資を行う場合の一定の組合員等であるこれらの法人も該当するが、合同会社がその対象に含まれていない。 Society5.0の実現に不可欠な社会基盤である5G(第5世代移動通信システム)を安全・信頼性、供給安定性、オープン性を保証しつつ早期に整備するため、特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律の認定導入事業者であるものが、その法人の認定導入計画に記載された認定特定高度情報通信技術活用設備の取得等をして、その事業の用に供したときに、その取得価額の30%の特別償却と15%の税額控除との選択適用ができることとされている。また固定資産税についても、認定導入計画に従って導入される一定の償却資産の課税標準が最初の3年間、価格の2分の1とする特例措置が講じられている。 5G環境の構築は首都圏を中心に急速に進展がみられるものの、対象エリアの拡大にはまだ時間を要することからその延長は不可欠とみられる。   〇中小企業税制-交際費等の損金算入の特例等の期限到来- 中小企業関係では、交際費等の損金算入の特例が期限切れとなる。 現行制度では、接待飲食費(交際費等のうち飲食費であって、その飲食費であることにつき法人税法上その整理保存を義務付けられている帳簿書類に一定の事項が記載されているもの)に係る損金算入の特例として、その各事業年度において支出する交際費等の額のうち接待飲食費の額の50%相当額以下の金額は、その事業年度において損金の額に算入できることとされている。 また、中小法人については、中小法人に係る損金算入の特例として、定額控除限度額(年800万円)を超える交際費等の額を、その損金の額に算入しないこととすることができることとされている。令和2年度税制改正では、接待飲食費に係る損金算入の特例の対象法人からその事業年度終了の日における資本金の額又は出資金の額が100億円を超える法人が除外されている。 新型コロナ感染症の長期化による影響が甚大な飲食業界からの期待も大きい課題である。 また、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例も期限を迎える。 この制度は、中小企業者等が取得等をし、その中小企業者等の事業の用に供した減価償却資産で、その取得価額が30万円未満であるもの(少額減価償却資産)を有する場合には、その事業の用に供した日を含む事業年度において、その取得価額の全額を損金の額に算入できるものである。   〇土地・住宅税制-土地に係る固定資産税への対応及び住宅ローン控除制度の期限到来等- 土地に係る固定資産税については、令和3年度税制改正において、「感染症により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置く特別な措置を講ずる」こととされたことから、改めて令和4年度税制改正における対応が注目される。 住宅ローン控除制度は本年末に期限を迎えるが、令和3年度税制改正大綱では、 とされており、令和4年度税制改正の議論において大きな課題の1つとなる。 住宅関係では、住宅ローン控除の他、新築住宅に係る固定資産税の軽減特例、居住用財産の買換え・売却に伴う特例、住宅取得資金の贈与特例、住宅取得に係る登録免許税の軽減特例、住宅及び住宅用土地の取得に係る不動産取得税の特例、認定住宅に係る特例など多くの制度の適用期限が到来することにも注意が必要である。   〇金融税制-金融所得課税の更なる一体化- 金融所得課税の更なる一体化が課題である。平成25年度税制改正において、損益通算範囲が特定公社債の利子・譲渡所得にまで拡大されて以降、デリバティブ取引について検討が進められてきたが、令和3年度与党税制改正大綱においては、 との記載が盛り込まれたことから、改正に向けた期待が高まっている。 (了)

#No. 432(掲載号)
#小畑 良晴
2021/08/19

保険契約等に関する権利の評価に係る改正所得税基本通達の取扱いとその影響

保険契約等に関する権利の評価に係る 改正所得税基本通達の取扱いとその影響   税理士 三輪 厚二   令和3年6月25日、国税庁から所得税基本通達の改正が公表された。パブリックコメントによる意見公募を経ての改正で、いわゆる低解約返戻金型保険を使った節税策がこれにより封じ込められることとなった。   1 改正に至った経緯 今回、問題とされた取引の流れは、おおむね次のとおりである。 【設例】でその課税関係を確認すると、概略次のようになる。 [法人] [個人] [税効果] 一連の取引は、このような流れになるのだが、ここで問題になるのが、改正前の所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)の「使用者が役員又は使用人に対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約に関する権利については、その支給時において当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる契約返戻金の額により評価する」である。 【設例】では、80万円がその金額になるのだが、国税庁では、低解約返戻金型保険など解約返戻金の額が著しく低いと認められる保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されず、支給時解約返戻金の額で評価することは適当でないということから、今回の改正となった。   2 改正通達の内容 改正通達では、原則的な取扱いは従来どおりとし、法人税基本通達9-3-5の2(定期保険等の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合の取扱い)の適用を受ける保険契約等については、次の取扱いとされた。 (注1) 使用者は、法人又は個人を問わない。 (注2) 支給時資産計上額とは、使用者が支払った保険料の額のうちその保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金等で処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。 (注3) 復旧することのできる払済保険その他これに類する保険契約等とは、保険契約等を変更した後、元の保険契約等に戻すことができる保険契約等の全てが含まれる。 (注4) 法人が他の法人に保険契約等に関する権利を移転する場合も同じ取扱いになる。   3 改正通達の効果 通達の改正前と改正後の効果を上記1の【設例】で見てみると、次のようになっており、税効果はほぼ押さえ込まれた形となった。   4 施行日とその前後の取扱い 改正後の通達は、令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用されるが、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いが、令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用されていることから、同日前に締結した保険契約等は、原則として見直しの対象にならないこととされた。 なお、今回の見直し対象は、法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利であったが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する「解約返戻率の低い定期保険等」及び「養老保険」などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討するとしているので、今後注意する必要がある。 (了)

#No. 432(掲載号)
#三輪 厚二
2021/08/19

[令和3年度税制改正における]子育て助成に係る給付金の非課税措置

[令和3年度税制改正における] 子育て助成に係る給付金の非課税措置   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   令和3年度税制改正では、子育て支援の観点から、国や地方公共団体が実施する子育てに係る助成等について、所得税を非課税とする措置が講じられた。以下、解説を行う。   【1】 改正前の取扱いと改正の趣旨 国や地方公共団体が実施する子育てに係る助成等(※1)については、原則として課税の対象(雑所得)とされてきた。 (※1) ベビーシッター利用支援事業における利用料助成や、認可外保育施設等に対する地方公共団体独自の利用料助成等。 一方で、学資に充てるため給付される金品(学資金)は所得税法において非課税所得とされており、また、令和元年10月にスタートした幼児教育・保育の無償化の制度により国から受ける補助についても非課税とされている(所法9➀十五、子ども・子育て支援法十八)。 今回の改正は、これまで課税の対象とされてきた国や地方公共団体が実施する子育てに係る助成等を、学資金や幼児教育・保育の無償化による助成と同様に非課税とするものである(※2)。 (※2) 新型コロナウイルス感染症対策として、企業主導型ベビーシッター利用者支援事業の特例措置における割引券及び東京都のベビーシッター利用支援事業の特例措置における助成については、従来から非課税とされていた(国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」問9-2参照)。   【2】 改正後の取扱い 令和3年1月1日以後、国又は地方公共団体が(1)保育その他の子育てに対する助成を行う事業その他これに類する一定の事業により、(2)その業務を利用する者の居宅その他一定の場所において、(3)保育その他の日常生活を営むのに必要な便宜の供与を行う業務又は認可外保育施設その他の一定の施設の利用に要する費用に充てるため支給される金品については、所得税を課さないこととされた(所法9➀十六、所規3の2)。 (1) 非課税とされる事業の範囲 国又は地方公共団体が行う次の事業が非課税の対象となる。 (※3) ベビーシッターや生活援助、家事支援のサービスを含む。 (2) 非課税とされる事業が行われる場所 非課税とされる事業は、次の場所で行われるものが対象となる。 (3) 非課税とされる助成の範囲 (1)の事業により支給される金品で、次に掲げる業務又は施設の利用に要する費用に充てるために支給されるものが非課税の対象となる。 (注) 対象となる費用は、「利用に要する費用」とされていることから、送迎や家事支援サービス料、主食費や副食費等、サービスや施設利用と一体として提供される費用に対する助成も非課税の対象となると考えられる。 (了)

#No. 432(掲載号)
#篠藤 敦子
2021/08/19

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第42回】「買換家屋が50㎡未満でも、その物置が10㎡ある場合」-買換家屋の床面積要件の判定-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第42回】 「買換家屋が50㎡未満でも、その物置が10㎡ある場合」 -買換家屋の床面積要件の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、12年間居住の用に供してきた家屋とその土地を売却しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。 新居の購入にあたっては銀行で住宅ローンを組み、小さな家屋(床面積48㎡)とその物置(床面積10㎡)がある土地を購入し、現在、居住の用に供しています。なお、その家屋と物置の附属家屋は一体として利用しています。 買換家屋の床面積(50㎡以上)に係る要件以外の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 家屋と一体として利用される物置等の附属家屋は、その家屋の床面積に含まれることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」に係る買換家屋については、一棟の家屋の床面積のうちその個人が居住の用に供する床面積が50㎡以上であるものと規定されています(措令26の7⑤一)。 そして、買換家屋である床面積のうちその個人が居住の用に供する床面積が50㎡以上のものであるかを判定する場合において、その家屋と一体として利用される離れ屋、物置等の附属家屋は、その家屋に含むものとして取り扱われています(措通41の5-14(買換家屋の床面積要件の判定)(1))。 したがって、本事例の場合、その家屋と一体として利用される物置であることから、Xは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができることとなります。 (了)

#No. 432(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/08/19

相続税の実務問答 【第62回】「相続人が不存在のため清算手続きが進行中の場合の死因贈与に係る相続税の申告期限」

相続税の実務問答 【第62回】 「相続人が不存在のため清算手続きが進行中の場合の死因贈与に係る相続税の申告期限」   税理士 梶野 研二   [答] 相続税の申告書は、被相続人に相続開始のあったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。あなたは、甲の相続開始を甲が死亡した昨年の11月8日に知ったとのことですから、その日の翌日から10ヶ月以内、すなわち今年の9月8日までに相続税の申告書を提出しなければなりません。このことは、相続開始のあったことを知った日の翌日から10ヶ月を経過する日において、あなたが死因贈与契約に基づく財産の引渡しを受けていないとしても変わりありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死因贈与により財産を取得した場合の相続税 相続や遺贈により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額の合計額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者の相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければならないこととされています(相法27①)。 ところで、相続税法は、死因贈与契約、すなわち贈与をした者の死亡により効力を生じる贈与を遺贈に含むと定めていますので(相法1の3①一)、死因贈与により財産を取得した者についても遺贈により財産を取得した者と同様に死因贈与契約により取得した財産に対して相続税が課されることとなります。 したがって、死因贈与により財産を取得した者は、被相続人から相続や遺贈及び死因贈与により財産を取得したすべての者の相続税の課税価格(相続や遺贈により取得した財産の価額の合計額から、債務・葬式費用を控除し、一定の生前贈与財産の価額を加算した金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者の相続税額が算出されることとなるときは、その者が被相続人の相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。   2 相続人が不存在の場合の手続き 相続人が存在しない場合には、家庭裁判所が、相続債権者や特定受遺者などの利害関係人又は検察官からの請求により相続財産管理人を選任し、その旨を公告します(民法952)。それから2ヶ月間、相続人の存在が明らかにならない場合には、相続財産管理人は、遅滞なくすべての相続債権者及び受遺者に対して一定の期間内にその請求の申出をすべき旨の公告(請求権申出の公告)を行うこととされています(民法957①)。この期間の満了後に相続財産の清算手続きが開始され、相続債権者や受遺者に対して弁済が行われます。 財産の遺贈があった場合、相続債権者に弁済した後でなければ、受遺者に弁済することはできないとされていますが(民法957②、931)、民法の適用上、死因贈与契約については遺贈の規定が準用されることから(民法554)、死因贈与契約に係る受贈者も相続債権者への弁済後でなければ死因贈与契約に係る弁済を受けることができないと考えられます(※1)。 (※1) 谷口知平・久貴忠彦『新版注釈民法(27)相続(2)(補訂版)』(2013年、有斐閣)584頁。   3 相続財産の精算中に相続税の申告期限が到来する場合 相続人が存在しない場合には、上記2のような手続きを経て死因贈与契約に係る弁済が行われることとされていることから、当該死因贈与契約における受贈者が、相続税の申告書の提出期限までに、死因贈与契約により取得することとされている財産のすべてを手にすることができるとは限りません。 しかしながら、死因贈与契約に係る受贈者は、相続開始日に、死因贈与契約に基づき財産の弁済を受ける権利を確定的に取得することとなり、この日に相続税の納税義務が成立しますので(通法15②四)、たとえ相続税の申告期限において相続財産の清算手続きの過程にあり、その弁済の履行が確定していなかったとしても、そのことによって相続税の申告書の提出期限が延長されることはありません。 〈参考裁決〉   4 ご質問の場合 甲との死因贈与契約に基づき、あなたは、甲の死亡と同時に甲の自宅建物及びその敷地並びに預貯金(総額3,500万円)を取得する権利が確定しました。この金額は、相続税の基礎控除額である3,000万円(※2)を超えており、また、あなたが死因贈与契約の相手方である甲の死亡を知ったのは、令和2年11月8日だったとのことですから、その翌日から10ヶ月以内、すなわち令和3年9月8日までに相続税の申告書を提出しなければなりません。このことは、相続の開始のあったことを知った日の翌日から10ヶ月を経過する日において、甲の相続財産の清算が完了しておらず、あなたが死因贈与契約に基づく財産の引渡しを受けていないとしても変わりありません。 (※2) 相続人が不存在の場合の相続税の基礎控除額は、3,000万円となります。なお、相続を放棄した者は、ここでいう相続人に該当します(相法15②)。 (了)

#No. 432(掲載号)
#梶野 研二
2021/08/19

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第25回】「〔第5表〕死亡退職金及び保険差益に対する法人税額等の計上」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第25回】 「〔第5表〕死亡退職金及び保険差益に対する法人税額等の計上」   税理士 柴田 健次   Q 甲株式会社の代表取締役である甲が令和3年8月に死亡しました。甲の死亡に伴い、生命保険金を甲株式会社が受け取り、その一部を原資として死亡退職金及び弔慰金を支払っている場合における甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになるのでしょうか。 なお、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A 本問における第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する資産の内訳は下記の通りとなります。 ◇資産の部 ◇負債の部  ◆  ◆  ◆ ① 生命保険金請求権及び保険積立金 被相続人の死亡を保険事故として、評価会社が受け取った生命保険金は、保険事故の発生により課税時期において生命保険金請求権が確定していますので、生命保険金を「帳簿価額」「相続税評価額」にそれぞれ計上します。 上記の生命保険金に対応する保険積立金がある場合には、その保険積立金を控除した残存保険積立金を帳簿価額に計上し、残存保険積立金の直前期末時点の解約返戻金を相続税評価額に計上します。   ② 未払退職金等及び弔慰金 被相続人の死亡により、相続人その他の者に支給することが確定した退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与の金額(以下「退職金等」という)については、本来的には相続開始時点において確定しているものではありませんので、負債に計上しないことになりますが、退職金等が個人の相続財産として課税されていることに鑑み、負債に計上することが認められています。 弔慰金については、原則として個人の相続財産として課税対象外とされていますので、負債に計上することができません。ただし、弔慰金でも実質的に退職金等として認められる部分又は一定金額を超える部分は、退職金等として課税されますので、課税対象となった部分は、負債に計上することができます。 上記の一定金額は、被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは、普通給与の半年分に相当する金額、被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは、普通給与の3年分に相当する金額となります(相続税法基本通達3-20)。 本問の場合には、死因は業務上以外の事由に基づくものですので、普通給与の半年分に相当する6,000千円は、課税対象外となり、負債に計上することはできません。   ③ 保険差益に対する法人税額等 評価会社が仮決算を行っていないため、課税時期の直前期末における資産及び負債を基として1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を計算する場合における保険差益(生命保険金-保険積立金-退職金等-弔慰金)に対応する法人税額等は、仮決算方式との整合性を図るため、負債に計上することが認められています。なお、評価会社に欠損金がある場合には、保険差益から欠損金を控除した残額に対して税率を乗じることになります。 したがって、保険差益に対する法人税額等は、下記の通り求めることになります。   ☆実務上のポイント☆ 生命保険金請求権、保険積立金、未払退職金等、弔慰金、保険差益に対する法人税額等の取扱いは個別論点として確認しておくことが重要となります。保険差益に対する法人税額等は、課税所得の算定が誤りやすい部分となりますので、留意しておきましょう。 (了)

#No. 432(掲載号)
#柴田 健次
2021/08/19

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第29回】「最終報酬月額がゼロである場合の役員退職給与」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第29回】 「最終報酬月額がゼロである場合の役員退職給与」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 最終報酬月額をゼロとして役員退職給与を支給した事例 役員退職給与の損金算入限度額の算定方法として最も一般的な功績倍率法は、「損金算入限度額 = 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」という算式である(※1)。ここで、仮に最終報酬月額がゼロであった場合、ゼロに何を乗じてもゼロであるため、功績倍率法を採用する限り役員退職給与の損金算入は叶わない。 (※1) 法人税基本通達9-2-27の2(注)。 また、公的年金受給資格のある役員は、年金を満額受給するために、ゼロまでとはいかなくとも作為的に役員報酬額を引き下げるケースもある。さらに、役員報酬額の不自然な調整は、【第7回】で触れた邪といえるような動機もあり得よう(※2)。 (※2) 功績倍率法を採用する場合、役員報酬の年額を12で除した金額ではなく、純然たる毎月の支給額を以て最終報酬月額とすべきだと筆者は考えている。詳細は【第7回】参照。 ここで、役員報酬額がゼロであった役員に対して役員退職給与を支給し、損金算入したことが問題となった裁決例を紹介する(国税不服審判所平成23年1月24日裁決)(※3)。 (※3) 裁決事例集未登載、TAINS:F0-2-509。 本件は、役員報酬額がゼロであることや当該役員の職務内容等に鑑みて、課税庁により1年当たり平均額法による更正処分等が行われた事例である。なお、「1年当たり平均額法」とは、同業類似法人における退職した役員の勤続年数1年当たりの平均退職給与額に、対象役員の勤続年数を乗じて計算する方法である(※4)。 (※4) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019)401頁。   (2) 1年当たり平均額法による問題点 1年当たり平均額法は、功績倍率法と並んで役員退職給与における損金算入限度額の算定に用いられる方法であり、納税者の実情を踏まえていずれか有利な方法を選択すべきであると説かれている(※5)。 (※5) 金子・前掲(※4)401頁。 ここで、功績倍率法であれば、上記の通り「最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率」にて損金算入限度額が導かれるため、無理な功績倍率を用いない限り(※6)、自社内の情報のみで完結可能であるという利便性がある。 (※6) 功績倍率法及びその妥当な倍率水準については【第12回】参照。本来であれば、功績倍率法においても同業類似法人を抽出して功績倍率を算定すべきであるが、後述する情報格差により、代表者で功績倍率3倍であれば問題ないとする認識が支配的となっている。 これに対し、1年当たり平均額法は、裁判例や裁決例によって、退職役員らの最終報酬月額が在職期間中の職務内容等からみて著しく低額であるような特段の事情がある場合に、最終報酬月額を計算の基礎としない1年当たり平均額法によって算定するのがより合理的であると示されている(※7)。 (※7) 札幌地裁昭和58年5月27日判決(行政事件裁判例集34巻5号930頁、TAINS:Z130-5203)。この裁判例は、1年当たり平均額法の合理性について示した代表的事例である。裁決例については、国税不服審判所昭和61年9月1日裁決(裁決事例集32集231頁、TAINS:J32-3-09)がある。 近年になって法人税基本通達に功績倍率法が明記されたとはいえ、そもそも法人税法34条2項が委任する法人税法施行令70条2項には、「相当と認められる金額」の具体的算定方法は示されていない。このような背景より、功績倍率法や1年当たり平均額法は裁判例で確立し、実務上浸透してきた方法である。裁判所は、これらの方法が法人税法34条2項の趣旨や目的に沿い(※8)、公平課税の実現のために、納税者と課税庁間の同業類似法人情報に格差の存在を容認する立場であると思われる(※9)。すなわち、納税者としては、情報格差があるため、民間による同業類似法人の情報により損金算入性を主張しようとしても、実質的に困難であるといえよう。 (※8) 東京地裁平成29年10月13日判決(税務訴訟資料267号順号13076、TAINS:Z267-13076)。いわゆる1.5倍判決の地裁判決であるが、法人税法34条2項、法人税法施行令70条2項の合理性も示している。 (※9) 札幌地裁平成11年12月10日判決(税務訴訟資料245号703頁、TAINS:Z245-8543)。裁判所は、「必要な限度において、納税者の予測可能性が制限されることがあってもやむを得ないといわざるを得ない(平均功績倍率法に限らず、最高功績倍率法にせよ、1年当たり平均額法にせよ、比較法人の資料に基づいて計算する手法をとるのであるから、納税者の側での資料の入手が困難であることに変わりはないはずである。)」として、情報格差を是認している。 この点、納税者が民間データベースより取得した情報が認められなかった裁決例として、国税不服審判所平成20年7月31日裁決がある(※10)。この事例は、株式会社TKCが会員である多くの税理士らの関与先企業から抽出した情報として公表している「TKC・BAST月額役員報酬・役員退職金」情報が採用されなかったことが注目すべきポイントである。納税者は、課税庁が抽出した同業類似法人情報と上記TKC情報には大きな乖離があると主張したが、審判所は課税庁が抽出した同業類似法人の合理性を認めている。審判所が示した内容から推測するに、民間としては国内最大規模といえるTKCの統計情報であっても、客観的な同業類似法人として不十分であると示されたようにも思われる(※11)。 (※10) 裁決事例集未登載、TAINS:F0-2-331。 (※11) 他にも、納税者がTKC情報から抽出した同業類似法人が認められず、課税庁が抽出した同業類似法人が認められた事例として、東京高裁平成25年7月18日判決(税務訴訟資料263号順号12261、TAINS:Z263-12261)、東京高裁平成25年9月5日判決(税務訴訟資料263号順号12286、TAINS:Z263-12286)がある。 このようなことから、標本会社数が十分だと認められる同業類似法人情報は民間にとって極めて入手し難いため、実務感覚的には、自社内の情報で完結する功績倍率法によるべきケースが通常であるといえる。   (3) 1年当たり平均額法が採用される事例の傾向 このように、裁判所や国税不服審判所が合理的であると示す方法とはいえ、1年当たり平均額法を確定申告の場面で実際に用いることは困難であると考える。すなわち、1年当たり平均額法は同業類似法人の抽出に始まり、同業類似法人から退職給与の支給を受けた他社の役員の退職給与額や勤続年数を特定することが必要になるが、事前に民間の立場で入手できる情報には標本会社数という限りがあるからである。 現に、1年当たり平均額法を適正と示した東京地裁令和2年3月24日判決は(※12)、納税者が当初申告において功績倍率法(倍率:8倍)を採用していたところ、課税庁により1年当たり平均額法を採用した更正処分等がなされた事案となっている。裁判所は、1年当たり平均額法に合理性があると示し、納税者の主張を退けているのである。これと同様に、先に(※7)で示した裁判例や裁決例においても、課税庁側が1年当たり平均額法を採用して更正処分等をしたため、係争に発展したものである。さらに、上記(1)で紹介した裁決例でも、納税者が採用した無理な功績倍率法につき、課税庁が1年当たり平均額法を用いて更正処分等を行っている。 (※12) 東京地裁令和2年3月24日判決(裁判所ウェブサイト、TAINS:Z888-2350)。 このような例から、1年当たり平均額法は事実上、役員退職給与を支給した後に税務調査段階に移行し、更正処分等やその先の係争に発展することで決着し、つまり適正とされる損金算入限度額がそこで初めて判明するケースの方が現実的であると思われる。このような現状は、納税者の予見可能性の観点からは大いに問題があるといえよう。 仮に、確定申告段階で1年当たり平均額法を採用しようとする場合、少なくとも複数の民間データベース等から同業類似法人の情報を得てその客観性を検証する必要はあるだろう。しかし、民間データベース等においても、都市部の方が標本会社数は多いはずであるため、都市部以外の地域を指定して同業類似法人を抽出する場合、その妥当性・客観性に特に疑問符が付くことは避けられないと予測する。 (了)

#No. 432(掲載号)
#中尾 隼大
2021/08/19

基礎から身につく組織再編税制 【第31回】「非適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」

基礎から身につく組織再編税制 【第31回】 「非適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   今回は、非適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて解説します。   1 非適格分社型分割を行った場合の資産・負債の受入れ(原則) 分割法人が非適格分社型分割により、分割承継法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、分割時の時価による譲渡をしたものとされるため、分割承継法人の移転資産等の取得価額は、分割時の時価となります(法法62)。   2 非適格分社型分割により受け入れた「棚卸資産」の取扱い 移転を受けた棚卸資産については、時価で取得したものとされるため、取得価額は分割時の時価となります。   3 非適格分社型分割により受け入れた「減価償却資産」の取扱い (1) 取得価額 移転を受けた減価償却資産については、時価で取得したものとされます。取得価額は、分割時の時価に事業の用に供するために直接要した費用の額を加算した金額となります(法令54①)。 (2) 耐用年数 耐用年数については、中古資産の耐用年数を使用することができます(耐令3①)。   4 非適格分社型分割により受け入れた「繰延資産・一括償却資産」の取扱い 移転を受けた繰延資産・一括償却資産については、時価で取得したものとされるため、取得価額は分割時の時価となります。一括償却資産に該当するかどうかは、分割承継法人の取得価額が20万円未満かどうかで判定することになります。   5 資産(負債)調整勘定 非適格分社型分割により、分割法人が分割事業に係る主要な資産又は負債のおおむねすべてを分割承継法人に移転する場合に、分割承継法人が受け入れた資産等の時価純資産価額と交付した新株等の価額の合計額(分割対価)に差があるときは、資産(負債)調整勘定を計上することとなります(法法62の8)。 (1) 資産調整勘定 非適格分社型分割による分割対価が、移転資産等の時価純資産価額を超えるときは、超える部分の金額のうち資産等超過差額以外のものが資産調整勘定となります。資産調整勘定として計上された金額は、60ヶ月で損金算入されます(法法62の8①④、法令123の10①④)。 (2) 資産等超過差額 資産等超過差額とは、非適格分社型分割による分割対価の分割時の時価と分割契約時の時価に著しい差異が生じている場合の差異及び実質的に分割法人の欠損金に相当する金額をいいます(法令123の10④、法規27の16)。 資産等超過差額については、損金に算入されることはありません。 (3) 負債調整勘定 非適格分社型分割による分割対価が、移転資産等の時価純資産価額に満たないときは、満たない部分が負債調整勘定となります。負債調整勘定として計上された金額は、60ヶ月で益金算入されます(法法62の8③⑦)。 (4) 退職給与負債調整勘定 ① 内容 退職給与負債調整勘定とは、非適格分社型分割に伴い分割法人から引継ぎを受けた従業者につき、退職給与債務の引受け(②参照)を行った金額に係る負債調整勘定をいいます(法法62の8②)。 ② 退職給与債務の引受け 「退職給与債務の引受け」とは、非適格分割後の退職その他の事由により非適格分割に伴い引継ぎを受けた従業者に支給する退職給与の額につき、非適格分割前における在職期間その他の勤務実績等を勘案して算定する旨を約し、かつ、これに伴う負担の引受けをすることをいいます。 ③ 益金算入額 引継ぎを受けた従業者が退職したとき、又は、引継ぎを受けた従業者の退職給与の支払いを行ったときに、次のいずれかの方法により計算した金額を、益金の額に算入することとなります(法法62の8⑥、法令123の10)。 (5) 短期重要負債調整勘定 ① 内容 短期重要負債調整勘定とは、非適格分社型分割により分割法人から移転を受けた事業に係る将来の債務(②参照)で、その履行が非適格分社型分割の日からおおむね3年以内に見込まれるものについて、分割承継法人がその履行に係る負担の引受けをした場合のその債務の額に相当する金額をいいます。 この場合の「債務の額に相当する金額」は、移転資産の取得価額の20%を超える債務引受け額に限定されています。 ② 将来の債務 「将来の債務」とは、その事業の利益に重大な影響を与えるものに限るものとし、退職給与債務引受けに係るもの及び既にその履行をすべきことが確定しているものを除きます。 ③ 益金算入額 短期重要負債調整勘定については、次の区分に応じて、それぞれの金額を益金の額に算入することとなります(法法62の8⑥)。   6 非適格分社型分割により増加する資本金等の額 分割承継法人において、分割により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①七)。 ① 加算項目 (※) 非適格分社型分割により、分割法人が分割事業に係る主要な資産又は負債のおおむねすべてを分割承継法人に移転しない(事業ごと移転しない)場合には、移転資産の価額から移転負債の価額を減算した金額。 ② 減算項目 非適格分社型分割により増加する資本金等の額を図にすると、下記のようになります。 〔事業ごと移転する場合〕 〔事業ごと移転しない場合〕   7 非適格分社型分割により増加する利益積立金額 非適格分社型分割の場合には、分割承継法人は分割法人の利益積立金額を引き継がないので、利益積立金が増加することはありません。   8 完全支配関係法人間の非適格分社型分割の取扱い (1) 内容 グループ法人税制により、完全支配関係がある法人間で譲渡損益調整資産((2)参照)を譲渡した場合には、譲渡損益が繰り延べられるため、完全支配関係がある法人間で非適格分社型分割が行われたときも、譲渡損益調整資産については譲渡損益が繰り延べられ、帳簿価額で受け入れたのと同様の結果となります。 (2) 譲渡損益調整資産 「譲渡損益調整資産」とは、固定資産、棚卸資産である土地等、有価証券(売買目的有価証券を除きます)、金銭債権、繰延資産のうち、直前の帳簿価額が1,000万円以上の資産をいいます。   9 具体例 〔前提〕 〔分割承継法人の受入税務仕訳〕   ◆非適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いのポイント◆ 原則として資産・負債は時価で受け入れます。 非適格分社型分割の場合は、非適格合併と異なり、分割法人が分割事業に係る主要な資産又は負債のおおむねすべてを分割承継法人に移転するときのみ、資産(負債)調整勘定を計上することとなります。 分割承継法人は分割法人の利益積立金額を引き継ぎません。 完全支配関係がある法人間で非適格分社型分割が行われたときは、譲渡損益調整資産を帳簿価額で受け入れることとなります。   (了)

#No. 432(掲載号)
#川瀬 裕太
2021/08/19

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第116回】株式会社ショーエイコーポレーション「外部調査委員会調査報告書(要約版)(2021年6月18日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第116回】 株式会社ショーエイコーポレーション 「外部調査委員会調査報告書(要約版)(2021年6月18日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社ショーエイコーポレーション外部調査委員会の概要】   【株式会社ショーエイコーポレーションの概要】 株式会社ショーエイコーポレーション(以下「ショーエイ」と略称する)は、1968(昭和43)年2月設立。設立時の社名は昭栄製袋株式会社。包装資材の企画、製造、販売及び自動包装などの営業促進支援事業と、日用雑貨品の企画・販売などの商品販売事業を主たる事業とする。連結売上高19,115百万円、連結経常利益632百万円、従業員数399人(いずれも2020年3月期実績)。東京証券取引所1部上場。本店所在地は大阪市中央区。会計監査人は、EY新日本有限責任監査法人大阪事務所(以下「新日本監査法人」と略称する)。   【調査報告書の概要】 1 外部調査委員会設置の経緯 本件は、ショーエイの大阪本社営業部長であるs1氏が、2021年3月29日、執行役員であるs2氏に対し、B社から3月末に入金予定であった売掛金が未回収となる報告を行ったことから発覚したものであり、s1氏の報告により、ショーエイは、A社代表取締役a氏が主導する架空循環取引に巻き込まれていたことが明らかになったものである。 ショーエイは、社内における事実確認の結果、ステークホルダーに対して、正確かつ迅速で透明性がある説明を行い、安心と信頼を得るためには、ショーエイと利害関係のない外部専門家の関与により調査の客観性及び信頼性を確保しつつ、本件循環取引の全容解明を期するとともに、類似取引の有無等を把握することが必要と判断して、2021年4月30日、外部調査委員会の設置を取締役会において決議し、調査を開始した。 2 架空循環取引の概要 外部調査委員会は、調査の結果、「本件循環取引は、①A社のa氏が他社(B社、D社及びE社)名義を利用して、②実際にはモノの手配や製作及びプロモーション等のサービス発注の実体を伴っていない架空の発注をショーエイに対して行うこと等によって一連の取引を仮装し、③「当該サービス等を調達・提供するための必要資金を『前金』名目で受領する」という形でショーエイ又はC社等による資金提供を受けることを主たる特徴とした取引である」と定義している。 3 架空循環取引が行われた期間、売上計上額など(調査報告書別紙2) 外部調査委員会がまとめた、「2014年10月以降の、a氏を実質的な拠出先とする態様での前金取引一覧」によれば、取引開始日は2014年10月30日であり、取引当初、前金負担者はショーエイであったが、2015年3月以降はC社が前金を負担し、取引が続けられている。2021年2月25日に計上された最後の売上までの累計は請求額が約1,814百万円、ショーエイのマージンは約225百万円(消費税額等を含まない)となっており、ショーエイの帳簿上は最後の2回の取引に係る請求額合計約78百万円が未回収となっている。 4 過年度の売上修正を行わないこととした根拠(一連の取引に関する法的な位置づけ) 外部調査委員会は、一連の架空循環取引について、 という視点から、取引の法的な位置づけを検討した。 その上で、「実質的当事者間における取引の有効性」の判断については、本件の一連の取引については、当事者間で取引を成立させるという意思の合致があり、両当事者が認識する取引の内容に大筋でずれはなかったと考えられる以上、取引書類の記載と実態が符合していないとしても、個々の取引について実質的な当事者間でなお有効であると解するのが妥当と考えると判断した。したがって、既に決済の完了した取引についてはそれを覆す理由はないし、決済が完了していない取引についても、合意された額面どおりの請求権及び支払債務が存続していると結論づけた。 一方、「第三者からショーエイに対する請求権の成否」に関しては、実質的な当事者以外の第三者については、本件一連の取引を構成する契約の当事者でない以上、ショーエイに対して本件循環取引自体を原因とする契約上の請求権が発生する余地はないとした上で、さらに、投資家や取引銀行等のショーエイに対する何らかの請求権が発生するかが問題となるものの、過年度の財務諸表への修正が生じた場合にそれを原因とした金融商品取引法上の損害賠償請求権が発生し得るのは格別、単に本件循環取引が不適切な取引であったことのみを理由として損害賠償請求権が生じるとは考え難いとして、本件循環取引そのものを根拠とした第三者からショーエイに対する請求権は生じないと考えられると判断をした。 こうした外部調査委員会の判断に基づき、ショーエイは、過年度の売上高等の決算修正を行わず、2021年3月期における請求済金額のうち未回収となった売掛金を貸倒損失として計上する会計処理を行ったものと考えられる。 5 外部調査委員会による原因分析(調査報告書41ページ以下) 外部調査委員会は、「企業風土」「内部統制機能の脆弱性」「s1氏への過度の信頼」という3つの視点から、原因分析を行っている。 (1) 企業風土 外部調査委員会は、s1氏の供述、社内アンケートとヒアリングをもとに、ショーエイの企業風土として、(a)営業部門の偏重、(b)営業個人の能力・スキルへの依存及び(c)営業の数値目標への強い傾倒を挙げている。 こうした企業風土のもと、営業目標が前年比10%超で増加していくことをはじめとする営業目標達成のプレッシャーが存在したことが、s1氏が本件循環取引について実需の伴わないものと認識した後もなお取引を継続・拡大するに至った要因となっていたし、数値目標を達成していればその他の点を特に考慮しないという企業風土の影響が、s1氏の上司が本件循環取引の不自然さに気づくことがなかった原因であったことは否定できないとまとめている。 (2) 内部統制機能の脆弱性 外部調査委員会は、s1氏が本件循環取引を実行する上で能動的に行ったのは外部の会社であるC社を前金の支払主体として巻き込んだという点のみであり、逆に社内で隠ぺい工作等を積極的に行わなくともその他はショーエイ社内の通常のフローに基づき実行・継続できていたことが認められ、それにもかかわらず本件循環取引が不正なものであることについて本件発覚前に社内で気づいた者が認められないことから、以下の点に、内部統制上の不備が存在すると指摘した。 (3) S1氏への過度の信頼 外部調査委員会は、s1氏の上司が、本件循環取引に関してその取引規模等にもかかわらず仕入先等の詳細を確認したり、得意先であるB社に挨拶に行ったりしていないことについて、s1氏が優秀な営業担当者であり信頼していたという供述を行っていること、他の従業員も、s1氏は優秀だからうまく案件をとったのだろうという印象であったという供述が多数得られていることなどから、会社全体としてs1氏個人に対する過度な信頼があったものと考えられ、これが、取引を継続する中で早期に中止することができなかった組織的原因と評価するのが適切と考えられるとまとめている。 6 再発防止策の提言(調査報告書43ページ以下) 外部調査委員会は、上記の原因分析を踏まえ、次のように提言を行っている。 外部調査委員会による原因分析を端的にまとめるとすれば「営業偏重の企業風土」であり、その改善のためには、「バックオフィス部門の拡充及び機能強化」と「営業目標の設定方法及び人事考課制度の見直し」が、再発防止策の眼目となることが考えられるため、まず、この2項目について、提言内容の詳細を見ておきたい。 「バックオフィス部門の拡充及び機能強化」について、外部調査委員会は、「営業部門が仕入先の選定をも行い得る等強い権限を有していることは、仕入先等を通じた不正な取引の温床と考えられることからも、購買部をはじめとするバックオフィス部門の機能強化は必須」であるとした上で、購買部については、「人員の拡充」「帳票における記載の明確化」「出荷確認」などの機能を購買部が有することにより、営業部門から独立した機能を持たせること、また、内部統制監査室についても、「人員の拡充」「適切な予算措置」「重点的な監査が必要な取引を抽出するための業務手順の改善」などの必要性を述べている。 次いで、「営業目標の設定方法及び人事考課制度の見直し」として、外部調査委員会は、「前年実績値をベースに営業目標を増加させていくというあり方は、創業以降会社規模を拡大していく段階にあっては有効であったことや、実際にこれによってショーエイが近時も会社規模を拡大することができているという側面があり得ること」を否定するものではないとしながら、「一部上場企業となって会社規模が大きくなり、抱える従業員数が増え、取り扱う商材も移り変わり、また会社を取り巻く事業環境や社会情勢も変化していく中で、従前どおりの営業目標の設定方法を硬直的に継続することは適切ではなく、より実態に即した適切な方法を模索していくこと」が適切と考えると指摘して、「少なくとも個々の営業担当者や部門単位で保有する案件の概略及び当該顧客との取引に関する今後の展望、当該営業担当者や部門単位での新規顧客獲得の方向性及びそれを踏まえた可能性等を考慮した形での営業目標の設定を行っていくことが望ましい」という提言を行っている。 同時に、人事評価についても、「実績としてどのような数字を達成したかが重要な考慮要素となることは営業担当者の評価に当たって当然」であると認めながら、それ以外にも評価すべき事項がある場合にそれを適切に評価に反映することができる仕組みを整備することが適切であるという提言をしている。 提言の最後には、「トップマネジメントによる法令及び会計基準遵守のメッセージ」として、外部調査委員会は、再発防止を徹底する上では、トップマネジメント自らが本件循環取引について真に重く受け止めるとともに、再発防止策に通底する命題として、営業目標その他の会社としての課題の達成は法令及び会計基準を遵守した上で実現されなければならないという当然のルールを徹底するという姿勢を明確に打ち出すこと、そして全役職員に対して上記ルールの徹底を求めるとともに、逸脱行動に対して適切に懲戒処分を行うこと等を周知することが不可欠であるとして、トップマネジメントの姿勢について言及している。   【調査報告書の特徴】 7月30日に公表されたショーエイの「有価証券報告書」によれば、2021年3月期の決算は大幅な増収増益となっており、本件循環取引の発覚によって計上された貸倒損失102百万円の影響について、「連結財務諸表等に対する金額的な重要性は乏しい」ことから、過年度の「連結財務諸表等の訂正は行わない」とした、ショーエイの判断を裏付けるものとなった。 1 過年度の決算修正を行わない論拠 上述のとおり、外部調査委員会は、ショーエイが巻き込まれた架空循環取引について、「実質的当事者間における取引の有効性」と「第三者からショーエイに対する請求権の成否」という2つの観点から、既に決済の完了した取引についてはそれを覆す理由はないし、決済が完了していない取引については、合意された額面どおりの請求権及び支払債務が存続していると考えられるという結論を導き出し、会計監査人である新日本監査法人もこれを容認したことが思料される。この判断には、ショーエイはa氏発端の架空循環取引に巻き込まれたこと、ショーエイが本件循環取引によって得ていた利益の累計額が約225百万円であり、A社に対する請求権が全額貸倒れになった場合でもなお約72百万円の利益が残る計算となるという、外部調査委員会による事実認定があった。 新日本責任監査法人は、2021年3月期の有価証券報告書における「独立監査人の監査報告書及び内部統制監査報告書」で適正意見を表明しているが、同時に、監査上の主要な検討事項として、「営業促進支援事業の売上高の実在性」について、「監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由」と「監査上の対応」を開示しているので、以下に引用したい。 2 定時株主総会における質問と回答の公表 6月24日に開催されたショーエイの第54回定時株主総会における質問と回答が、7月19日付で、開示されている(※1)。その中で、監査等委員会の責任に関して、次のような質問と回答が行われたことが公表されているので、引用したい(※2)。 (※1) 「第54期定時株主総会のご質問とその回答について」参照。 (※2) 「第54期定時株主総会動画」として公開されている映像は、代表取締役社長による本件の概要説明が中心で、株主との質疑応答については公開されていない。 なお、監査等委員である取締役4名については、8月26日開催予定の臨時株主総会の第3号議案として、そのまま「再任」することが上程されている。 3 ショーエイによる再発防止策 ショーエイは、7月30日に、「不適切取引に関する再発防止策のお知らせ」をリリースして、再発防止策を公表した。その中では、再発防止策として、次の2項目を掲げるとともに、コンプライアンス委員会内に「再発防止プロジェクト」を設置して、具体的な防止策の検討及びその適切な遂行の推進役とし、実施・検証は2022年3月末までに終了させることを明言している。 上述のとおり、外部調査委員会は、7項目の再発防止策の提言を行っているが、ショーエイが公表した再発防止策は、そのうち2項目に過ぎず、「営業偏重の企業風土」をいかにして是正していくかといった項目(外部調査委員会による再発防止策の(3)、(5)及び(7))については、黙殺した格好となっているのが気になるところである。 (了)

#No. 432(掲載号)
#米澤 勝
2021/08/19

給与計算の質問箱 【第20回】「固定残業手当支給における給与計算等の注意点」

給与計算の質問箱 【第20回】 「固定残業手当支給における給与計算等の注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社では今後入社する従業員に固定残業手当を支給することを検討しています。当社は本社が東京都にあり、1ヶ月の平均所定労働時間は176時間です。以下の①~③のケースにおいて給与計算等の注意点があれば教えてください。 A 注意点は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 基本給を1時間あたりの賃金額(時給)に換算して最低賃金以上に設定すること なお、東京都の最低賃金は令和3年10月から1,041円に引き上げられる予定である。   2 残業時間が固定残業手当に含まれる残業時間数を超えた場合は差額の残業手当を追加で支給すること   3 固定残業手当を正確に雇用契約書や求人票に明示すること 固定残業手当が何時間分の残業手当なのかを雇用契約書や求人票に明示する必要がある。 なお、明示しなくても罰則はないが、雇用契約書については労使トラブルの予防になるし、求人票については、例えば、ハローワークに「基本給22万円 + 固定残業手当3万円(残業手当25時間分)」といった正確ではない求人票を提出した場合、残業手当19時間分以下に訂正するよう指導される。 (了)

#No. 432(掲載号)
#上前 剛
2021/08/19
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