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〔誤解しやすい〕各種法人の法制度と税務・会計上の留意点 【第6回】「社会福祉法人(後編)」

〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第6回】 「社会福祉法人(後編)」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏   ▷〔前編〕はこちら ▷〔中編〕はこちら ▷ 税務・会計について 2 社会福祉法人固有の注意点を確認する(承前) (2) 税務(法人税) 法人税計算では、会計同様、資本金の額がないことに加え、税務上の拠出資本を表す資本金等の額が存在しないことになる。税務上の純資産額は、利益積立金額のみになる。所得計算は、株式会社のようにすべての所得に課税されるのではなく、34業種の収益事業にのみ課税される点は、一般社団法人・一般財団法人と同じである(【第1回】・【第2回】参照)。 ここで注意すべきは、社会福祉法で定める収益事業の概念と、法人税法の収益事業との概念は、全く別物だということである。社会福祉法に従って特別会計とした収益事業会計の内容をそのまま法人税申告に用いることは、通常できない。 会計ソフトで作成した特別会計の処理内容に調整計算が入るので、実務的には、各法人で表計算ソフトによる法人税法の収益事業集計表から法人税申告書用の損益計算書を作成していることも多いだろう。 ここでは、一般社団法人・一般財団法人の場合と同様、必要に応じて、法人税法の収益事業としての損益計算書・貸借対照表を作成することになる(法基通15-2-1本文)。 ただし、共用資産については、通常、収益事業分だけを抽出することが困難である。抽出できるのであれば、共用資産ではないとも言えるので、当然でもあろう。このため、これらの共用資産の区分はせず、費用のうち収益事業に係る分だけを区分経理することとされている(同注)。 (3) 税務(寄附税制) 社会福祉法人にとって、寄附金は大きな活動原資であり、寄附税制についてはいくつか知っておくべき点がある。 ① みなし寄附金制度は利用可能 NPO法人の回でも説明したみなし寄附金の制度(法法37⑤)は、適用可能である。この場合、社会福祉法人における寄附金損金算入限度額は、所得金額の50%となっている点に注意が必要である(法令73①三ロ)。ただし、寄附金の額が200万円までは、200万円が損金算入限度額とされている。 なお、あくまでも法人税法における収益事業から、非収益事業への資金移動に伴う繰入額を寄附金とみなす制度である。社会福祉法における区分とは対応していない点は、繰り返しになるが注意されたい。 ② 特定公益増進法人に対する寄附制度と受配者指定寄附金制度 寄附者が一般の株式会社である場合、社会福祉法人への寄附金は、社会福祉事業に使われることを前提として、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、一般の寄附金限度額とは別枠で、資本金等の額の1000分の3.75と所得金額の100分の6.25との合計額の2分の1が損金算入枠とされている(特定公益増進法人に対する寄附制度(法法37④・法令77五・同77の2①一))。 しかし、あまり知られていないが、共同募金会を使うことによって、共同募金会に寄附するのと同様に、全額を損金算入することが可能になる制度がある。それが「受配者指定寄附金制度」である。詳細は、都道府県共同募金会に相談されたい。 なお、特定公益増進法人に対する寄附は、所得税の場合、特定寄附金として寄附金控除の対象になる(所法78)。 ③ 社会福祉協議会の会費は寄附金税額控除対象になるか 社会福祉協議会もまた社会福祉法人だが、この会費は、所得税の確定申告で、寄附金税額控除対象になるかという論点がある。結論から言えば、なるものとならないものがある。対価性があると考えられる住民会費のようなものは該当しない。賛助会費のように対価性がないものは、寄附扱いできる。 ④ 譲渡所得非課税(措法40条)申請と相続税における非課税制度(措法70条) 社会福祉法人の社会福祉事業に対して現物財産を寄附する場合に本来生じる譲渡所得については、承認申請により、非課税となる場合がある(措法40)。あくまでも承認申請手続きであるため、譲渡者と受入側法人とで協力しつつ、申請手続きを行うことが必要になる。 また、相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限内に、社会福祉法人に寄附する場合には、相続税の課税財産に算入しないことが認められる(措法70①・措令40の3五)。 ただし、同族関係者に対する租税回避防止の例外や、寄附から2年以内に公益目的事業の用に供しなくなる場合や未だ公益目的事業に供用していない場合には、修正申告等が必要になる(措法70⑥⑦)。 なお、この相続税における非課税制度は、最近悪用事例の報道があった。税理士逮捕も絡んだ事件である。 今後、何らかの悪用防止規制あるいは運用がされる可能性もあるので、安易な税金削減ありきの利用は慎みたい。 (4) 税務(消費税) 寄附金収入や補助金・助成金などの多いことから、特定収入計算が必要になることが多いのは、一般社団法人等と同じである。 しかし、社会福祉法人の場合、他の非営利法人とは異なる、社会福祉法人ならではの非課税規定があり(消法別表第1七ロ)、これについて、消費税基本通達6-7-5以下で解説がある。 なお、以下では、広島国税局作成の「確定申告で誤りやすい事項【消費税編】平成27年12月」より、「社会福祉事業等(確定申告で誤りやすい事項(消費税))」の部分を引用して、読者の参考に供する。   3 純資産規定が異なることが影響する項目に注意する (1) 資本金 法人税法においては、交際費限度額計算や中小企業税制において、資本金基準が存在するが、これらについて、別途規定により計算することになる。 (2) 資本金等の額 寄附金限度額計算において、資本金等の額を用いる計算は使えない。また、地方税均等割計算における基準でも同様である。   4 会計監査人就任時期についての留意事項 日本公認会計士協会自主規制・業務本部から、平成28年4月1日付で、「社会福祉法人の会計監査人就任に当たっての独立性に関する留意事項」(平成28年審理通達第1号)が発遣されている。 この審理通達では、これまで社会福祉法人の監事に就任していた公認会計士が、退任して会計監査人に就任する場合、監事の退任期限があることを示している。 つまり、平成29年4月1日から平成30年3月1日までの平成29年度の監査対象年度の会計監査人に就任する場合、会計監査人就任の契約日を平成29年6月25日とすれば、遡って1年前の平成28年6月24日が退任期限となるというものである(公認会計士法24①一)。 この他、過去に自分が役員として承認した取引を監査する自己レビューの問題や馴れ合いの問題が生じる可能性を考慮した対応を行うことを注意喚起している。 また、税務顧問に就任している場合、同様に会計監査人就任の契約日を平成29年6月25日とすれば、前日である平成29年6月24日が税務顧問業務解消期限になるとしている(公認会計士法24①三・②、同施行令7①六)。 ただし、自主規制における取扱いとして、外観的独立性の観点から、可能であれば、平成29年3月31日までに税務顧問業務を解消すべきとしている。 この税務顧問の場合も、自己レビューの問題が生じる可能性が同様に指摘されている。また、会計監査人候補者の選び方などについては、検討会資料が出ているので、読者の参考に供したい。 ところで、都市部を除くと、全国的には、既に監査に対応できる公認会計士の不足問題が生じているようである。 法定監査のための研修を受講していない場合には、監査人として就任できないこともあり、個人会計士の中には、そもそも自分が就任不適格であることを知らないケースもあると思われる。契約後に発覚して、対応不能になることのないよう注意が必要であろう。 なお、監査に対応できるだけの内部統制が果たして構築できるのか、監査の現場では、既に懸念の声が上がっているようである。規模だけで監査対象法人を割り切ってしまった厚労省の対応方針に疑問は多分に残るが、現場としてはいかんともし難いところである。 (了)

#No. 174(掲載号)
#北詰 健太郎、濱田 康宏
2016/06/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例6】株式会社シャープ「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ(2016.5.12)」

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例6】 株式会社シャープ 「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ」 (2016.5.12)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、シャープ株式会社(以下「シャープ」という)が平成28年5月12日に開示した「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ」である。 台湾の鴻海精密工業の子会社となる予定であるシャープについては(平成28年2月25日開示「第三者割当による新株式の発行並びに親会社、主要株主である筆頭株主及び主要株主の異動に関するお知らせ」参照)、現時点でシャープ自体による開示はないものの、鴻海精密工業の意向による人員削減が行われるようであるという報道がなされている(例えば、平成28年5月14日付日本経済新聞では「シャープに人員削減要求-鴻海が3000人規模、士気低下も」という記事が掲載されている)。 そのように今後どうなるかわからない状況のなか、人材の流出が進んでいるようであり、平成28年4月29日に開示した「B種種類株式の取得及び役職員向けインセンティブプログラムの導入方針に関するお知らせ」において、「当社の再生・成長に必要な人材の維持・獲得のため、株式を活用したインセンティブプログラムを導入する方針を決議しました」としていた。 その株式を活用したインセンティブプログラムが、今回取り上げる適時開示で示されているストック・オプションである。   2 目的は? シャープが導入することにしたストック・オプションは、新株予約権(会社から株式を取得することができる権利)を利用するものであり、「新株予約権の発行要領」ではその新株予約権の特徴が以下のように示されている。 新株予約権と引き換えに払い込む金銭 ⇒ストック・オプションを付与された者には新株予約権が無償で発行される。 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額 ⇒新株予約権を行使すると、この行使価額で株式を取得することができる。 新株予約権の行使期間 ⇒新株予約権はすぐには行使できない。 新株予約権の行使の条件 ⇒シャープを辞めると、新株予約権を行使できない。 ストック・オプションを付与された者は、新株予約権の行使期間までシャープを辞めず、その時の同社の株価が行使価額を上回っていれば、利益(新株予約権を行使して取得した株式の売却益)を得られる。したがって、行使期間まで同社を辞めないだろうし、株価が上がるほど多くの利益が得られるため、業績を向上させて株価を上げるべく一生懸命に働くだろう。 同社はそうした考えによりこのストック・オプションを導入したのだろう。「ストック・オプション制度を導入する目的及び特に有利な条件による発行を必要とする理由」には、次のように記載されている。   3 効果はあるのか? このストック・オプションを付与された方のうち、「多くの利益を得られるように、新株予約権の行使期間までシャープを辞めずに頑張ろう」と思う方はどれほどおられるのだろうか。そう思う方は決して多数派ではないはずである。このストック・オプションにあまり大きな効果は期待できないだろう。 4月29日の開示の「株式を活用したインセンティブプログラムを導入」を見て、何か画期的な仕組みが導入されるのだろうかと思っていたところ、このストック・オプションであった。こうしたストック・オプションは、特に画期的なものではなく、「通常型」あるいは「従来型」のストック・オプションと呼ばれ、多くの企業で導入されているものである。 大企業では、最近こうしたストック・オプションが付与されることは少なく、役員に対する株式を活用した報酬としては、株式報酬型ストック・オプション(注1)や業績連動型株式報酬(注2)が主流となりつつある。 これまで画期的な製品を生み出してきたシャープだが、人材流出を抑えるための画期的なアイデアは生まれてこないようである。生まれてくるようならば、現在のような状況は避けられたのかもしれないが。 (注1) 行使価額が通常1円とされるうえ、実質的に無償発行といえる新株予約権を利用したストック・オプション。「実質的に無償発行」といったのは、次のような理由による。  株式報酬型ストック・オプションにおいて発行される新株予約権は、無償発行ではなく、その価値を計算して、それを払込金額とするが、併せてそれと同額の報酬を割当先の役員に対して支給することにする。その役員は、新株予約権の払込金額を会社に対して支払わなければならない債務とそれと同額の報酬を会社から受け取ることができる債権とを持つことになり、その債権と債務を相殺することができる(会社法246条2項では、新株予約権者は、金銭の払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、または会社に対する債権をもって相殺することができるとされている)。したがって、株式報酬型ストック・オプションにおいても、新株予約権の発行に当たっての金銭の払込みが必要とされないのである。 (注2) 役員に対して、業績達成等に応じて在任時または退任時に自社株式を交付する仕組み。信託を利用した場合、会社が資金を出して設定した信託が、同社または株式市場から同社株式を取得し、それを同社役員に対して交付する。 (了)

#No. 174(掲載号)
#鈴木 広樹
2016/06/23

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔経営面のアドバイス〕 【第2回】「資金繰りの検討(その1)」~融資制度の概要・検討ポイント~

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔経営面のアドバイス〕 【第2回】 「資金繰りの検討(その1)」 ~融資制度の概要・検討ポイント~   公認会計士・税理士 中谷 敏久   復旧予定時期の設定後、次に経営者としてなすべきことは資金繰りである。 得意先が被災している場合には契約通り入金されないことも考えられる。また、自らが被災しているからといって従業員の給料支払いを遅延することは避けるべきである。業者に対する支払いも同様である。平常時においても資金繰りに余裕がないことが多いのに、非常時にはなおさらである。 このような企業の資金繰りを救済するためさまざまな融資制度が設けられているが、それらの融資制度の特徴を把握していない結果、適時に融資を受けることができない、あるいは、復旧を急ぐあまり緩い融資基準に惑わされ、結果的に過剰な融資を受け以後の返済に苦労している事業者は多い。 このため、復旧予定時期までに必要な運転資金あるいは設備資金を慎重に算出し、返済可能な範囲で融資を受けることが重要である。 融資制度の概要とその検討ポイントは以下の通りである。 災害時に設定される様々な融資制度の中から自社の資金繰りに適したものを選択すればよいのであるが、既往債務がある場合は当然二重債務となることを忘れてはいけない。据置期間、低金利、担保不要等の緩い条件に惹かれて融資を受けたものの受注が戻らず、ローン地獄に陥るリスクもあるのである。 やはり、地震保険、利益保険などの損害保険が入金されるまでの一時的な資金繰りのために融資を受けるという考え方が安全である。 金融機関も既往債務の期日延長や返済方法の変更等に柔軟に対応してくれると思うので、それらをまず利用することによって資金繰りができないか検討すべきである。 (了)

#No. 174(掲載号)
#中谷 敏久
2016/06/23

《速報解説》 「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」が確定~税制改正に限定した緊急対応、今後は会計基準の開発着手も~

《速報解説》 「平成28年度税制改正に係る 減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」が確定 ~税制改正に限定した緊急対応、今後は会計基準の開発着手も~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年6月17日、企業会計基準委員会は「平成28 年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第32号。以下「減価償却報告」という)を公表した。これにより、平成28年4月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物の法人税法上の減価償却方法について定率法が廃止され、定額法のみとなる見直しが行われている。 減価償却報告は、当該税制改正に合わせ、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物に係る減価償却方法を定額法に変更する場合に、当該減価償却方法の変更が正当な理由に基づく会計方針の変更に該当するか否かに関して、必要と考えられる取扱いを緊急に審議したものである。 減価償却報告の公表に際して、「実務対応報告公開草案第46号『平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 会計方針の変更に関する取扱い 会計方針の変更に関する取扱いとして次の事項が規定されている(減価償却報告2項、3項、17項。以下、アンダーラインは筆者が記入)。 減価償却報告2項では「法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業」と規定されているが、これは「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第81号)における「法人税法に規定する普通償却限度額を正規の減価償却費として処理している企業」と異なることを意図したものではないとのことである(コメント対応2)。 減価償却報告は、取り扱う範囲を平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に限定して緊急に対応したものであり、今回に限られたものである(減価償却報告16項)。 また、今後、企業会計基準委員会において、抜本的な解決を図るために減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを速やかに行うことを前提としている(減価償却報告15項)。 2 開示 減価償却報告2項に従って会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、過年度遡及会計基準10項、19項及び20項の定めにかかわらず、次の事項を注記する(減価償却報告4項、18項)。 減価償却報告4項に記載する注記事項は、建物附属設備又は構築物を減価償却報告の適用初年度に取得したかどうかにかかわらず、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合に、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図しているため(減価償却報告17項)、建物附属設備又は構築物を取得していない場合も記載する(減価償却報告18項)。 減価償却報告4項(2)に定める会計方針の変更による当期への影響額は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記と同様の内容を求めることを意図しているため、1株当たり情報に与える影響は記載を要しない(コメント対応10)。 3 その他の留意点 公開草案に対する「変更後の減価償却方法が明らかに実態と相違する場合の取扱いを明確にすべきである」との趣旨のコメントに対して、次のように記載されている(コメント対応3)。 また、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備又は構築物のうち、一部の資産について減価償却方法は定率法のまま変更せず、残りの資産について定額法に変更する場合の取扱いについて、次のように記載されている(コメント対応4)。   Ⅲ 適用時期等 (了) ↓お薦め連載記事↓

#No. 173(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/21

《速報解説》 会計士協会、「公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人における監査上の取扱い」に関する実務指針の改正(公開草案)を公表~過年度遡及会計への対応等を追加~

《速報解説》 会計士協会、「公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人における監査上の取扱い」に関する実務指針の改正(公開草案)を公表 ~過年度遡及会計への対応等を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年6月16日、日本公認会計士協会は、非営利法人委員会実務指針第34号「公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人における監査上の取扱い」の改正について(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成28年3月23日に内閣府公益認定等委員会から公表された「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(内閣府公益認定等委員会 公益法人の会計に関する研究会。以下「27年度報告」という)に基づいて検討を行い、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)に係る監査上の取扱いを追加した上で、形式的な変更を行ったものである。 実務指針の標題は「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」と改正される予定である。 意見募集期間は平成28年7月15日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 1 適用範囲 公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人における法定監査及びこれに準ずる監査上の取扱いについて規定している(公開草案1項)。 2 財務報告の枠組み 公益法人会計基準を適用した財務諸表は、一般目的として受入可能であり、また、公益法人会計基準は、監査基準委員会報告200第12項(13)に規定する適正表示の枠組みの要件を満たしていると考えられるため、一般目的・適正表示の枠組みであると考えられる(公開草案9項)。 3 過年度遡及会計基準 27年度報告では、過年度遡及会計基準について原則適用とするのではなく、本基準の企業への適用状況、公益法人の実態等に鑑み、「自主的に適用することは妨げない」という取扱いが示されている。 また、27年度報告では、「公益法人が会計監査を受ける場合の取扱いについては、別途、日本公認会計士協会において、ご検討いただきたい。」という取扱いも示されている。 会計方針や表示方法の変更、過去の誤謬の訂正があった場合には、過年度遡及会計基準を適用することにより、「財務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性が向上し、財務諸表の意思決定有用性を高めることができる」という趣旨は、非営利組織における財務報告の目的を達成する観点からも、企業と公益法人の間で違いはないため、監査対象となるような公益法人においては、通常、過年度遡及会計基準を適用することとなる(公開草案23項)。 なお、公益法人の財務諸表に過年度遡及会計基準を適用した場合の記載例等については、別途、非営利法人委員会実務指針第38号「公益法人会計基準に関する実務指針」において取り扱うと述べられている(公開草案23項)。   Ⅲ 適用時期等 実務指針は、平成29年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する予定である。 (了)

#No. 173(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/17

《速報解説》 公正取引委員会、消費税の転嫁拒否行為に関する具体的な事例を公表~2016年4月までの指導・勧告事例、よくある質問・相談を紹介

《速報解説》 公正取引委員会、消費税の転嫁拒否行為に関する具体的な事例を公表 ~2016年4月までの指導・勧告事例、よくある質問・相談を紹介   Profession Journal編集部   公正取引委員会は、このほど2013年10月から2016年4月までの消費税の転嫁拒否等の行為に関する具体的な事例をまとめ、公表した。 消費税の転嫁拒否を取り締まるための消費税転嫁対策特別措置法(消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法)は前回の消費税率引上げ延期により現在は平成30年9月30日までの時限立法とされている。今回の2年半再延期でさらに施行期限が延長されることになろう。 税理士はこの資料を通じ、消費税の転嫁拒否等の行為による下請け納入会社の被害の実態を認識して、関与先企業への指導の一助としたい。   〇消費税の転嫁拒否行為と対象となる事業者 消費税の転嫁拒否行為とは、「消費税の増税分を支払わない行為」のことであり、消費税転嫁対策特別措置法で禁止されている。本法律の対象となるのは以下の2種類の事業者であり、どちらも税理士の関与先となりうるが、税理士の大半は被害者となる売手側の事業者が関与先となるだろう。 (注1) 一般消費者により日常使用される商品の小売業を行う者で、前事業年度における売上高が100億円以上である者又は一定の店舗面積を有する者等をいう。 (注2) 地方公共団体や独立行政法人などの法人であっても、事業を行っていれば特定事業者に該当する。 (注3) 消費税の免税事業者であっても特定供給事業者に該当する。 (※) 公正取引委員会「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法及びガイドライン等について」を元に作成。   〇転嫁拒否として禁止されている行為 消費税転嫁対策特別措置法では消費税の転嫁拒否等の行為を主に4つに分類し、その行為を禁止している。つまり、商品や役務を提供する企業に対して、消費税分の値引きを強要する行為が禁じられるわけだ。 (※) 公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為に関する具体的な事例について」p2より 消費税率の引上げに伴う正しい価格への転嫁ができなければ、売手の企業は経営上のリスクを負うことになる。10%引上げが2年半延期されたとしても、今後、さらなる消費税率引上げに向けその経営環境が厳しさを増すなか、買いたたき等の転嫁拒否行為が増加することも十分想定できる。   〇転嫁拒否等の行為への勧告及び指導件数 次の表は、2013年10月から2016年4月までに、公正取引委員会が行った行為類型別の指導及び勧告件数と期間別の件数をまとめたもの。 2014年4月から消費税率が5%から8%へ上がり、それに応じた公正取引委員会の監督体制の強化もあって指導・勧告件数は2013年10月から2014年4月までのわずか7ヶ月間にも1,252件と、他の年度より圧倒的に増加していることがわかる。 〈期間ごとの指導・勧告件数〉 〈勧告及び指導件数の内訳(行為類型別)〉 (注) 買いたたきの勧告及び指導件数には、2013年3月31日以前に減額行為があり、同年4月1日以降に違反のおそれがあるものを含む。 (※) 公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為に関する具体的な事例について」を元に作成。 消費者庁では消費税転嫁阻害表示調査員の募集を継続していることからも、この傾向は今後8%から10%への引上げに向けた時期にも同様に増加する、つまり取締りがより厳しくなることが想定される。 では、消費税率の引上げに伴う転嫁拒否の具体的な事例には、どのようなものがあるのだろうか。   〇指導・勧告の具体的な事例 次の事例は2014年4月の消費税率の引上げに伴い生じた「買いたたき」の行為に対し、公正取引委員会による勧告が行われた代表的な事例である。 消費税3%の引上げに対して「販売促進企画」を名目として仕入価格を3%程度低く設定したうえで160社にものぼる納入業者に“協力を要請”したものだ。 (※) 公正取引委員会「消費税の転嫁拒否等の行為に関する具体的な事例について」p9より 今回公表された資料には、上記以外にも勧告事例がわかりやすくまとめられているので、一見の価値ありだ。 これらの事例から、実際の消費税の転嫁拒否行為がどのようなものかを認識し、関与先に対し同様の被害を受けていないか確認しておきたい。   〇転嫁拒否等の行為は政府等による取締りの対象となる 消費税転嫁対策特別措置法は、違反した行為に対し特定の罰則は定めていない。しかし、違反行為と認められた場合は政府等により指導・助言・勧告・公表といった取締りが行われる。 もし関与先が消費税の転嫁拒否等の行為等で被害を受けている場合は、以下が相談・違反情報の受付窓口となっているので活用されたい。 買手である特定事業者の値引き要請があった際に、納入会社が“被害”を公正取引委員会等に報告したことを理由として取引の停止等その他不利益な取扱いをすることは、「報復行為」として禁止されている。だが、通報が発覚した場合には明らかな報復行為とまでは至らないまでも、他を名目的理由として圧力をかけられるといったデメリットも想定できる。 しかし、税理士は税の専門家として正しい税の取扱いを広める責務があることから、今回公表された資料などを参考に、転嫁拒否に関する法への抵触及び、その実態、そして相談窓口の設置について関与先には周知したいところだ。 (了) ↓お薦め連載記事↓

#No. 173(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/06/17

プロフェッションジャーナル No.173が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年6月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.173を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/06/16

日本の企業税制 【第32回】「消費税率引上げ延期の影響」-見直しが必要な関係法令-

日本の企業税制 【第32回】 「消費税率引上げ延期の影響」 -見直しが必要な関係法令-   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   安倍首相は、6月1日、平成29年4月に予定されていた、消費税率の8%から10%への引上げについて、30ヶ月延期し、平成31年10月とすることを表明した。当初平成27年10月に予定されていた8%から10%への引上げは、これで当初の予定より4年間延期されることになる。 消費税率引上げを延期するためには関係法令の改正が必要であり、安倍首相は、「2019年10月からの引上げを明記した関連法案を秋の臨時国会で成立させたい」とした。 見直しが必要な関係法令を挙げると次の通りである。   1 消費税率・地方消費税率引上げの施行日 もともと、消費税率の平成26年4月と27年10月の二段階での引上げについては、平成24年8月に成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(税率は3条、その施行日は附則1条2号)及び「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(税率は2条、その施行日は附則1条3号)において規定されていた。 前回の延期の際には、平成27年度税制改正に関する「所得税法等の一部を改正する法律」(18条)と「地方税法等の一部を改正する法律」(3条)において、もとの法律の施行日を定める規定(上記の附則)の改正が行われていた。今回も同様に、施行日を定める規定の改正が必要となる。   2 消費税率引上げに伴う経過措置 引き上げられた税率は、適用開始日以後に行われる資産の譲渡等、課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税について適用され、適用開始日前に行われた資産の譲渡等、課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物に係る消費税については、改正前の税率が適用されるが、適用開始日以後に行われる資産の譲渡等のうち一定のものについては、改正前の税率を適用することとするなどの経過措置が講じられている。 平成26年の8%への引上げの際の経過措置が、附則の読み替え規定によって10%への引上げ時にも準用されるのだが、この日付に関して、引上げ時期の延期に伴う修正が必要となる。   3 軽減税率の施行時期 消費税率の引上げ時期の延期と連動して、軽減税率の施行日も延期されることとなる。 平成28年度税制改正に係る所得税法等の一部を改正する法律の附則34条において、平成29年4月から適用される経過措置としての軽減税率制度が規定され、その施行日は平成29年4月1日とされている(同附則1条6号ヘ)ことから、施行日の変更が必要となる(【第29回】を参照)。 また、附則34条では軽減税率の対象となる資産の譲渡等を「29年軽減対象資産の譲渡等」と規定していることから、この文言の修正も必要である。   4 転嫁対策特別措置法 平成26年の8%への引上げに先立って平成25年10月に施行された「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」は、もともと10%への引上げ日(平成27年10月1日)から1年半後の平成29年3月31日を期限とする時限法であったが、前回の18ヶ月延期の際に期限が18ヶ月延長され平成31平成30年年9月30日とされている。 〔追記2016/6/17〕上記年表記に誤りがございました。お詫びの上、訂正させていただきます。 今回、さらに30ヶ月の延期となることから、この期限も30ヶ月延長し、平成33年3月31日とする必要があろう。   5 その他の税目 今回の消費税率引上げ延期は、消費税以外にも影響を及ぼすことが考えられる。 例えば、消費税率引上げを背景として平成29年4月に行われることとされている地方法人税率の引上げ(4.4%→10.3%)と法人住民税率の引下げ及び地方法人特別税の廃止と法人事業税(所得割税率2.9%分)への復帰の延期が予想される。 また、平成29年4月1日に廃止が予定されている自動車取得税と、同日から施行が予定されている、自動車税及び軽自動車税における「環境性能割」も、延期になるものと見られる。 さらに、平成27年度税制改正では、平成29年末までが適用期限とされていた最大50万円の所得税が減税される住宅ローン控除の適用期限を平成31年6月末まで18ヶ月延長したが(租税特別措置法41条1項・10項等)、今回の消費税率引上げ延期に伴い、この措置のさらなる延長も考えられる。 加えて、住宅ローン控除可能額のうち所得税において控除しきれなかった額を個人住民税から控除する制度の適用期限は、前回の引上げ延期の際に1年半延長され平成31年6月30日までの入居分とされていたところ(地方税法附則5条の4の2、45条)、この延長も必要であろう。 住宅取得等資金贈与の贈与税非課税特例も、平成29年4月1日の消費税率引上げに向けた契約締結の経過措置終了後(平成28年10月1日~)の反動減への対応として特別非課税限度額の創設が行われているが(租税特別措置法70条の2第2項6号・7号)、この措置についても適用時期を延期する必要がある。 (了)

#No. 173(掲載号)
#小畑 良晴
2016/06/16

平成28年度税制改正における役員給与税制の見直し 【第1回】「改正前の取扱いと過去の改正経緯」

平成28年度税制改正における 役員給与税制の見直し 【第1回】 「改正前の取扱いと過去の改正経緯」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成28年3月31日に公布された平成28年度の改正税法では、かねてより改正要望の多かった役員給与に関する税制の見直しが盛り込まれた。 これに先立ち、平成27年12月16日に与党(自由民主党及び公明党)から公表された平成28年度税制改正大綱によれば、本年度の税制改正もまた、経済の「好循環」を確実なものとするため、企業が収益力を高めて前向きな国内投資や賃金引上げに一層積極的に取り組んでいくよう促す観点から引き続き成長志向の法人税改革が盛り込まれており、その一環として役員給与税制の見直しも織り込まれたものである。 そこで本稿では、役員給与に関する税制改正内容について整理するとともに、実務上の留意点についてとりまとめることとする。 あわせて、これまでの税制改正の経緯も振り返ることで、役員給与に対する法人税法上の考え方を明らかにしたい。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見である。   2 平成28年度税制改正前における役員給与税制(条文番号は改正前) (1) 役員給与税制(役員給与の損金不算入) 内国法人がその役員に対して支給する給与(以下の(2)を除く)のうち、以下のいずれにも該当しないものの額は、損金の額に算入しない(法法34①)。 ① 定期同額給与 定期同額給与とは、その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものをいい、下表に掲げるものも含まれる(法法34①一、法令69①)。 【定期同額給与の範囲に含まれるもの】 ② 事前確定届出給与 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与(定期同額給与及び利益連動給与を除く)をいい、同族会社に該当しない内国法人の非常勤役員に対して支給される給与を除き、納税地の所轄税務署長に対してその定めの内容に関する届出をしている場合におけるその給与に限る(法法34①二)。 下表に、届出手続の要否と期限についてまとめておく。 【届出の要否】 【届出期限】(法令69②) ③ 利益連動給与 利益連動給与とは、利益に関する指標を基礎として算定される給与をいい、損金算入される利益連動給与は、同族会社に該当しない内国法人がその業務執行役員に対して支給する利益連動給与のうち、以下に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員のすべてに対して以下の要件を満たす利益連動給与を支給する場合に限る)をいう(法法34①三)。 【損金算入される利益連動給与の要件】(法令69⑦~⑩) (ア) 業務執行役員(法法34①三、法令69⑥) 対象となる業務執行役員は、利益連動給与の算定方法の決定又は手続(上表要件1-2)終了の日において、法人の業務を執行する次に掲げる役員に該当する者をいう。 取締役会設置会社における取締役 指名委員会等設置会社における執行役 上記に準ずる役員 (イ) 利益に関する指標 これは、有価証券報告書等に記載されている「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」といった「純粋な利益指標」を指すものである。 したがってそれ以外の指標(株価に関する指標、ROA等の利益に関連する指標)は対象とされていない。 (2) その他の役員給与税制 以下の①~④は、広義の役員給与に含まれるものの、(1)の役員給与税制の適用対象外とされるものであり、別の取扱いを受けることとなる(法法34①本文カッコ書き)。 このうち①~③については、原則として損金の額に算入されるものであるが、不相当に高額な部分とされる一定の金額は損金の額に算入されない(法法34②)。 また④については、その全額が損金不算入とされる(法法34③)。   3 法人税における役員給与の取扱いと過去の改正経緯 (1) 役員給与の取扱いの趣旨 法人税における役員給与の取扱いは、もともと、役員給与の支給の恣意性を排除して適正な課税を実現するという観点から設けられたものである。いうまでもなく、役員給与は役員の職務執行の対価であるから、支払われた役員給与の金額のうち、職務執行の対価として相当と認められる額に損金算入額を制限するという考え方である。 そのうえで、役員給与が職務執行の対価として相当か否かを個々の事例に応じて実質的に判断することが困難であることを踏まえ、平成18年度の税制改正前においては、この区別をもっぱら役員給与の外形的な支給形態に応じて行うこととし、定期に定額支給されるものを「報酬」として損金算入を認める一方、それ以外のものを「賞与」として損金不算入としてきた。 しかしこの区別については、基準としては明確なものである反面、画一的・形式的にすぎるといった指摘もあったところである。 (2) 平成18年度税制改正における見直し これを受けた平成18年度の税制改正では、会社法の制定(平成18年5月1日施行)や会計制度の改正等、周辺の制度が大きく変わる機会を捉えて、役員給与の損金算入のあり方を見直すこととなった。 具体的には、支給形態に着目するのではなく、「支給額に恣意性があるかどうか」との観点から損金算入の可否を判断することとし、恣意性の排除された「事前確定届出給与」及び「利益連動給与」について損金算入が認められることとなった。 しかしながら、特に利益連動給与については、法人の利益と連動して設定されるため課税上の弊害が最も大きいと考えられ、上表で触れたように、損金算入のための厳格な要件が付されているのである。 (3) 平成28年度税制改正へ向けた動き 利益連動給与については、この厳格な要件がネックとなって、経営者のインセンティブを確保するための柔軟な報酬設計が困難な状況となっているとの指摘がなされていた。平成27年8月25日に経済産業省より公表された「平成28年度税制改正に関する要望」においても、『役員報酬税制に関する上場企業の声』として、以下のような意見が紹介されていたところである。 さらには、平成27年6月より施行されているコーポレート・ガバナンス・コード(下参照)においても、経営者報酬について、中長期的な会社の業績等を反映させたインセンティブ付けを行うべきとされている。 (出典:『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引き~(平成28年6月3日時点版)』(経済産業省資料)p.4) (了)

#No. 173(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2016/06/16

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第9回】「募集株式の発行等⑧」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第9回】 「募集株式の発行等⑧」   公認会計士 佐藤 信祐   前回は、東京地裁平成4年9月1日判決、東京地裁平成6年3月28日判決について解説を行った。 【第9回】に当たる本稿では、東京地裁平成9年9月17日判決、千葉地裁平成8年8月28日判決、大阪高裁平成11年6月17日判決について解説を行うこととする。   12 東京地裁平成9年9月17日判決・判時1640号160頁 (1) 事実の概要 本事件は、株主総会の特別決議を得ずに新株の発行が行われ、発行済株式総数の51%を有していた株主の保有比率が33%まで減少したため、①株主総会及び取締役会の招集通知をしなかった、②有利発行に該当する、③会社支配のための不公正発行であるという点につき、それぞれ争われた事件である。 本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、②の争点についてのみ解説することとする。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、専門家の計算を求めることで、その結果が明らかに不合理である場合を除き、取締役は免責されると判断した。 なお、前年の路線価の使用、含み益に対する法人税額等相当額の控除などが不合理であったかどうかを検討した結果、明らかに不合理ではないと判断しているが、専門家でない取締役にそこまで技術的な判断を負わせる必要があったのかは疑問である。 実際は、専門家の計算を求め、かつ、その内容につき一応の説明を受けていれば、その内容が明らかに間違いでない限り、取締役は責任を負わないということになるのであろうか。この点については、取締役の損害賠償責任についての法務的な判断となるため、本稿では、これ以上は立ち入らないこととする。   13 千葉地裁平成8年8月28日判決・判時1591号113頁 (1) 事実の概要 本事件は、取締役が結託し、代表取締役を解任するとともに、公募により新株6万株を1株につき1,200円で発行したことに対し、①解任決議が不適法であること、②新株の発行が支配権獲得目的であり、かつ、有利発行に該当するものとして争われた事件である。 本稿は、非上場株式の評価についての連載であるため、後者についてのみ解説を行うこととする。 (2) 裁判所の判断 裁判所は、経営支配権獲得のための不公正発行であると判断したうえで、その損害額の算定につき、 と判示した。 (3) 評釈 このように、裁判所は、閉鎖的な中小会社であること、支配権争いの中での新株発行であることを理由として、時価純資産価額方式を採用した。なお、以前の裁判例(【第8回】参照)と異なり、非流動性ディスカウントは行われなかったようである。   14 大阪高裁平成11年6月17日判決・判時1717号144頁 (1) 事実の概要 本事件は、経営権争いがなされている株式会社が、反対派株主に株主総会招集通知をしないで、第三者に対し有利発行を行ったことにつき、取締役の損害賠償責任が争われた事件である。 本事件は、差戻前控訴審(大阪高裁平成5年11月18日判決)で取締役の義務違反がないとしたが、上告審(最高裁平成9年9月9日判決・判時1618号138頁)では取締役の義務違反があったとされたため差し戻された事件である。 本稿では、損害額の算定についてのみ解説を行うこととする。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、類似業種比準方式を2、時価純資産方式を1の割合で按分して株価の算定を行っている。この按分割合が妥当かどうかという点は疑問があるが、このような不可解な按分はいくつかの裁判例で見受けられるところであり、あまりその点は気にする必要はないと思われる。 本事件では、支配株主にとっての株式価値で評価がなされて、新株発行前の株価と新株発行後の株価との差額を損害額として認定しているという点のみを理解しておけば十分であると考えられる。 なお、本連載でも触れていくが、譲渡制限株式の譲渡についての売買価格決定の申立ての事件での最近の潮流はDCF方式、収益還元方式であり、本事件のような時価純資産方式と類似業種比準方式の按分というやり方はあまり採用されておらず、もし、本事件が最近の事件であれば、損害の算定方法は変わっていた可能性もあるという点にご留意されたい。 次回では、アートネイチャー事件(最高裁平成27年2月19日判決)について解説を行う予定である。 (了)

#No. 173(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/06/16
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