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組織再編におけるスピンオフについて~平成29年度税制改正へ向けた現状の課題~

組織再編におけるスピンオフについて ~平成29年度税制改正へ向けた現状の課題~   西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子   「スピンオフ(spin-off)」とは、現物配当その他の比例的分配により、株主に対して、既存子会社又は事業を切り出して設立した新設子会社の株式を交付することによって、当該子会社又は事業を切り離す組織再編をいう。米国では、例えば、2015年にeBayがPayPalを分離独立する際の手法として用いられる等、事業の切り離しの手段として広く普及している。 一方、日本においては、現在の組織再編税制の下では、スピンオフは、原則として、課税繰延べが認められる適格組織再編に含まれないことから、ほとんど実例がない。もっとも、平成29年度税制改正に関する経済産業省要望においては、この「スピンオフ」についても適格組織再編に含むべきとの要望がなされており、これが実現する場合には、下記に記載するとおり、組織再編税制について横断的な見直しがなされると考えられる。 まず、現在の会社法下では、子会社のスピンオフは、①(対象となる子会社株式の)現物配当により実行可能である。また、事業のスピンオフは、②「新設分割+当該新会社株式の現物配当」、又は③「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」により実現可能である。 なお、子会社のスピンオフにおいては、子会社株式の全部を分配する場合もあるが、子会社株式の一部だけを分配する場合もあり、後者の場合には、親会社は引き続き子会社の親会社又は株主であり続けることになる。 子会社のスピンオフ 事業のスピンオフ 次に、現在の組織再編税制の下でのスピンオフの帰結について検討すると、子会社のスピンオフである上記①(対象となる子会社株式の)現物配当については、原則として、法人レベルでは分配対象となる子会社株式に関する譲渡損益課税がなされ、株主レベルでは配当課税(ただし、資本剰余金を原資とする配当の額が存する場合には、その部分は「みなし」配当課税となる)及び場合により株式譲渡損益課税がなされることとなる。 また、事業のスピンオフである上記②「新設分割+当該新会社株式の現物配当」については、新設分割の手法として、分社型(単独)新設分割を用いた場合、第一段階の新設分割は、スピンオフ後に親会社(分割法人・図でのA社)が新会社の発行済株式総数の50%超を継続保有する部分的なスピンオフの場合を除くと、当該分割後に分割法人と分割承継法人との間に支配関係が継続することが見込まれているとの要件(法人税法2条12号の11ロ・同法施令4条の3第7項)を充足しないため、グループ内組織再編に該当しない。 また、単独新設分割においては、事業関連性の要件が欠けるため、共同事業要件も充足されず、結局、非適格組織再編成となり、分割法人である親会社の法人レベルでその保有資産等についての譲渡損益課税がなされる。また、第二段階の現物配当については、上記①と同じとなる。 加えて、事業のスピンオフである上記②「新設分割+当該新会社株式の現物配当」において、分割型単独新設分割を用いる場合でも、仮に、親会社にその発行済株式総数の50%超を保有する株主が存在すれば、グループ内組織再編として適格組織再編成に該当し得る余地があるが、そのような例外的な場合でなければ、単独新設分割においては事業関連性の要件が欠けるため共同事業要件を充たさず、非適格組織再編成となり、その結果、分割会社の法人レベルではその保有資産等についての譲渡損益課税がなされ、その株主レベルではみなし配当課税がなされる。 さらに、事業のスピンオフである上記③「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」については、法人税法上は「単独新設現物出資+現物分配」と整理されるため、上記②と同様に、第一段階の現物出資は、スピンオフ後に親会社が新会社の発行済株式総数の50%超を継続保有する部分的なスピンオフの場合を除くと、当該現物出資後に現物出資法人と被現物出資法人との間に支配関係が継続することが見込まれているとの要件(法人税法2条12号の14ロ、同法施令4条の3第13項)を充足しないため、グループ内組織再編に該当しない。 また、単独新設現物出資においては事業関連性の要件が欠ける結果、共同事業要件も充足されないことから、結局、非適格組織再編成となり、現物出資法人である親会社の法人レベルでその保有資産等についての譲渡損益課税がなされることとなる。また、第二段階の現物分配は上記①と同様となる。 これらの現行組織再編税制下での帰結は、現在の組織再編税制においては、法人レベルにおける移転資産に対する支配の継続が認められる組織再編のみについて課税繰延べを認め、(法人レベルでの支配の継続性は失われるが)株主レベルでの投資の継続性が認められる組織再編については課税繰延べを認めていないことによる。しかし、このような帰結は、組織再編全体を横断的に見た場合、必ずしも課税の中立性が保たれているとはいえない。 平成29年度税制改正において、スピンオフを適格組織再編の一類型と認める税制改正がなされる場合には、単にスピンオフに限った技術的な改正がなされるのではなく、このように、株主レベルでの投資の継続性との観点から、組織再編税制が横断的に見直されることとなると考えられる。 (了)

#No. 195(掲載号)
#柴田 寛子
2016/11/24

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第10回】「別表6(16) 雇用者の数が増加した場合又は特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(16)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」〈その1〉

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第10回】 「別表6(16) 雇用者の数が増加した場合又は特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(16)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」 〈その1〉   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第10回目は、最近改正された制度の中で比較的書籍等での掲載頻度が少ない「別表6(16) 雇用者の数が増加した場合又は特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(16)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書」を採り上げる。   Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の12第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)又は平成28年改正前の措置法第42条の12の2第1項から第3項まで(雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定(いわゆる「雇用促進税制」)の適用を受ける場合に作成する。 これは、平成23年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用者数を5人以上(中小企業等は2人以上)かつ10%以上増加させるなど一定の要件を満たした場合に税額控除の適用が受けられる制度である。なお、平成28年度の税制改正により、要件等の見直しが以下のようになされている。 [適用要件] この制度の適用を受けるためには、次の①から⑤までの要件を全て満たしている必要がある。なお、適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、②の要件は不要となる。 ① 当期末の雇用者の数から適用年度開始の日の前日の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を引いた数(以下「基準雇用者数」という)が5人以上(中小企業者等については2人以上)であること。 ② 基準雇用者数を適用年度開始の日の前日における雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数で除した数(以下「基準雇用者割合」という)が10%以上であること。 ③ 給与等支給額(当期の所得の金額の計算上損金の額に算入される雇用者に対して支給する給与等で、当期末に高年齢雇用者に該当する者に対して支給するものを除く)が「比較給与等支給額」以上であること。 比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×基準雇用者割合×30%) → 適用年度開始の日の前日における雇用者数が零である場合には、次の算式となる。 比較給与等支給額=前期の給与等の支給額+(前期の給与等の支給額×30%) ④ 雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業(一定の事業を除く)を行っていること。 ⑤ 前期及び当期に事業主都合による離職をした雇用者及び高年齢雇用者がいないこと。   なお、平成27年度の税制改正においては地方拠点強化税制が創設されたことに伴い雇用促進税制が拡充されているが、当該特例措置についての内容と書き方については、次回の〈その2〉で解説することにする。   Ⅲ 「別表6(16)」及び「別表6(16)付表」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表6(16) 雇用者の数が増加した場合又は特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書   別表6(16)付表 基準雇用者数等、給与等支給額及び比較給与等支給額の計算に関する明細書 〔基準雇用者数等の計算に関する明細〕 〔1欄〕から〔4欄〕まで、「① 法人全体」「② 同意雇用開発促進地域内に所在する事業所」「③ ②のうち特定業務施設に該当する事業所」「④ 特定業務施設」の各欄の該当する人数を記載。 なお、②及び③の各欄は、平成28年4月1日以前に開始した事業年度にあっては記載を要しない。また、④欄の内書には、特定業務施設のうち措置法42条の12第1項の規定の適用に係る特定地域事業所に該当するものに係る数を記載する。 〔給与等支給額の計算に関する明細〕 〔比較給与等支給額の計算に関する明細〕 (了)

#No. 195(掲載号)
#菊地 康夫
2016/11/24

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例44(法人税)】 「交換差金の額が20%を超えたため、固定資産の交換の特例の適用ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例44(法人税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆交換により取得した資産の圧縮額の損金算入(法法50) 「固定資産の交換の特例」とは、固定資産を交換した場合には、原則として交換取得資産の時価と交換譲渡資産の帳簿価額との差額を譲渡益として課税することになるが、同じ種類の固定資産を交換し、かつ、同一用途に供している場合には、従来の資産をそのまま引き続き使用しているのと変わりがないことから、一定要件に該当する交換については圧縮記帳を認めるものである。ただし、交換差金の額が交換取得資産と交換譲渡資産とのいずれか高い方の価額の20%を超えているときは、この特例は適用できない。 ◆資産の一部を交換とし他の部分を譲渡とした場合の交換の特例の適用(法基通10-6-5) 法人がその有する固定資産を交換する場合において、一体となって同じ効用を有する同種の資産のうち、その一部は交換とし、他の部分については譲渡としているときは、法第50条(交換により取得した資産の圧縮額の損金算入)の規定の適用については、当該部分を含めて交換があったものとし、その譲渡代金は交換差金等とする。       (了)

#No. 195(掲載号)
#齋藤 和助
2016/11/24

マイナンバーの会社実務Q&A 【第23回】「源泉徴収税額表の乙欄適用の従業員のマイナンバーの取得」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第23回】 「源泉徴収税額表の乙欄適用の従業員のマイナンバーの取得」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 年末調整の際、源泉徴収税額表の甲欄適用の従業員は給与所得者の扶養控除等申告書へマイナンバーを記載して会社へ提出しますが、乙欄適用の従業員は給与所得者の扶養控除等申告書を会社へ提出しません。 乙欄適用の従業員からもマイナンバーを取得する必要があるか教えてください。   〈A〉 平成28年中に退職した乙欄適用の従業員のうち給与支給額が30万円以下の従業員を除き、マイナンバーを取得する必要がある。その根拠は、以下の通りである。 〈根拠1〉 乙欄適用の従業員の平成28年中の給与支給額が50万円を超える場合、マイナンバーを記載した源泉徴収票を平成29年1月31日までに税務署に提出しなければならない。 〈根拠2〉 平成29年1月1日現在会社に在職する全従業員及び平成28年中に退職した従業員のマイナンバーを記載した給与支払報告書を平成29年1月31日までに従業員が平成29年1月1日(退職者は退職日)現在居住する市区町村に提出しなければならない。ただし、平成28年中に退職した従業員のうち給与支給額が30万円以下の場合は提出しなくてもかまわない。 なお、乙欄適用の従業員は、メインの勤務先に他社で働いていることがバレると思い込みマイナンバーの提供を拒否することがある。従業員がマイナンバーの提供を拒否した場合、会社はマイナンバーの提供を求めた経過を書面で記録、保存しておくようにする(国税庁 源泉所得税に関するFAQ Q1-13)。 (了)

#No. 195(掲載号)
#上前 剛
2016/11/24

金融・投資商品の税務Q&A 【Q21】「投資一任口座(ラップ口座)における株式の譲渡に係る所得区分及び必要経費の控除」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q21】 「投資一任口座(ラップ口座)における 株式の譲渡に係る所得区分及び必要経費の控除」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等の譲渡に係る課税の概要 上場株式等の譲渡から生じる所得については、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡に係る事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「上場株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 上場株式等が証券会社等の特定口座内の源泉徴収選択口座で保管されており譲渡益について証券会社等により源泉徴収がなされる場合を除き、原則として申告が必要となります。 株式等の譲渡による所得の所得分類について、所得税基本通達は以下の通り定めています(所基通23~35共-11)。 さらに、租税特別措置法所得税関係通達において、次に掲げる株式等の譲渡による部分の所得については、(株式等の譲渡に係る)譲渡所得として取り扱って差し支えない、とされています(措通37の10・37の11共-2)。   2 本件へのあてはめ おたずねの投資一任契約(キーワード参照)は、所有期間1年以下の上場株式の売買を行うものであり、また、顧客である個人が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行をA証券会社に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式の売買を行っていると認められますので、その株式の譲渡による所得は、株式等の譲渡に係る事業所得又は雑所得に当たるものと考えられます。 【Q20】で解説したように、株式等の譲渡に係る事業所得又は雑所得の場合、株式等の譲渡に係る総収入金額から控除できる株式等の譲渡に係る必要経費としては、株式等の取得費(取得に要する付随費用を含む)のほか、株式取得のための借入金利子、譲渡のために要した委託手数料、管理費等が含まれます。 したがって、支払うべき投資顧問報酬として固定報酬及び成功報酬については、各事業年度の上場株式等に係る譲渡収入から差し引くことができるものと考えらえます。   (了)

#No. 195(掲載号)
#箱田 晶子
2016/11/24

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第2回】「申告・納付期限の延長」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第2回】 「申告・納付期限の延長」   公認会計士・税理士 新名 貴則   1 平常時の申告・納付期限 ① 申告期限 法人税及び消費税の申告期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内」である。 ただし、次のような理由により申告期限までに法人税の確定申告書を提出できない常況にある法人については、「申告期限の延長の特例の申請書」を所轄税務署長に提出することにより、法人税の申告期限延長の特例の適用を受けることができる。 消費税については、上記の特例の適用はないので注意が必要である。 ② 納付期限 法人税及び消費税の納付期限は、①申告期限と同様に、原則として「事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内」である。 法人税の申告期限について、上記の申告期限延長の特例の適用を受ける場合であっても、納付期限は延長されない。したがって、本来の申告期限に納付できない場合、納付を延長した期間の日数に応じて利子税が課されることになる。 そこで、実務上は本来の申告期限に見込納付を行い、実際の申告時に差額を精算することになる。このとき、見込納付額が確定納付額に足りない場合、その不足部分については利子税が課される。 【法人税の申告・納付期限】 【消費税の申告・納付期限】   2 災害時の申告・納付期限 国税庁長官、国税局長、税務署長等は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する申告・納付等をその期限までにできないと認められる場合、その理由がやんだ日から2ヶ月以内に限り、申告・納付等の期限を延長することができる(通法11)。 この規定による納付期限の延長期間については、延滞税及び利子税は免除される(通法64③、63②)。 この延長には、①地域指定による期限延長と②個別指定による期限延長がある。 ① 地域指定による期限延長 災害その他のやむを得ない理由により、都道府県の全部又は一部にわたり期限までに申告・納付等ができないと認められる場合は、国税庁長官が地域及び期日を指定して当該期限を延長する(通令3①)。 つまり、指定がなされた地域に納税地がある法人は、指定された期日までに法人税及び消費税の申告を行えばよく、別途申請書等を提出する必要はない。 ② 個別指定による期限延長 災害その他のやむを得ない理由により、期限までに申告・納付等をすることができないと認められる場合で、地域指定による期限延長がなされていない場合は、納税者の申請に基づいて、所轄税務署長が期日を指定して当該期限を延長する(通令3②)。 つまり、地域指定がなされた地域以外に納税地がある法人が、法人税や消費税の申告・納付等の期限の延長を受けたい場合、災害等がやんだ後相当の期間内(原則として1ヶ月以内)に、所轄税務署長に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出する必要がある(通令3③)。 地域指定による期限延長があった場合で、さらに、災害その他のやむを得ない理由により確定申告書をその延長された期限までに提出できないと認められるときは、所轄税務署長は納税者の申請により、その理由のやんだ日から2ヶ月以内に限り、期日を指定して申告・納付等の期限を再延長することができる(通法11、通令3②)。 ▷期限までに申告・納付等をすることができないと認められる場合 地域指定がなされた地域以外に納税地がある法人が、災害その他のやむを得ない理由により、期限までに申告・納付等をすることができないと認められる場合とは、次のような場合をいう。 ▷「災害等がやんだ日」とは 特別な事情がある場合を除き、客観的に見て、期限延長の申請をした者が、申告・納付等を行うのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日をいう。例えば、交通の途絶があった場合には、交通機関が運行を始めた日などをいう。 ③ 決算が確定しない場合の法人税の申告期限の延長 上記②の「個別指定による期限延長」を受ける場合を除き、災害その他のやむを得ない理由により決算が確定しないため、期限までに法人税申告書を提出できないと認められる場合には、法人の申請書提出を受け、所轄税務署長は期日を指定して提出期限を延長することができる(法法75①)。 なお、事業年度終了の日の翌日から45 日以内に、決算が確定しない理由等を記載した申請書を所轄税務署長に提出する必要がある(法法75②)。 【災害時の期限延長制度とその特徴】 ④ 納税の猶予 災害によって損失を受けた場合、国税の納税猶予制度がある。 ▷納付期限前の納税猶予 災害により財産に相当な損失を受けた場合において、災害のやんだ日から2ヶ月以内に所轄税務署長に「納税の猶予申請書」を提出することにより、一定の国税の全部又は一部の納税猶予を受けることができる。 具体的には、損失を受けた日以後1年以内に納付すべき国税について、その納付期限から1年以内の期間に限り、納税猶予を受けることができる(通法46①)。 ▷納付期限経過後の納税猶予 災害により財産に相当な損失を受けた場合において、所轄税務署長に「納税の猶予申請書」を提出することにより、次の国税の納税の猶予を受けることができる。 これらの国税について、1年以内の期間に限り、納税猶予を受けることができる(通法46②)。 *  *  * 上記の納税猶予を受けた場合において、その猶予期間内に納付することができないやむを得ない理由があると認めるときは、納税者の申請に基づき、その期間を延長することができる。ただし、既に納税猶予をした期間とあわせて2年以内とする(通法46⑦)。   (了)

#No. 195(掲載号)
#新名 貴則
2016/11/24

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第20回】「租税法上の評価④」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第20回】 「租税法上の評価④」   公認会計士 佐藤 信祐   前回では、東京高裁平成17年1月19日判決について解説を行った。 本稿では、東京地裁平成17年10月12日判決について解説を行う。本事件は、特例的評価方式を採用した納税者の判断を認めた事件である。   4 東京地裁平成17年10月12日判決・TAINSコード:Z255-10156 (1) 事実の概要 本事件は、原告が、その取引先である非上場会社の株式を、同社の会長職にあった者から売買によって譲り受けたところ、税務署長である被告が、当該株式の譲受けは相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当すると認定し、当該譲受けの対価と被告が独自に算定した当該株式の時価との差額に相当する金額を課税価格とする贈与税の決定処分及び無申告加算税賦課決定処分をしたため、原告がこれらの各処分は違法であると主張して、その取消しを求めた事件である。 原告は、財産評価基本通達の規定に従い、特例的評価方式を採用したが、被告は、特例的評価方式によって算定することは極めて不合理であり、評価通達に基づく評価方式によらないことが正当と是認されるような特別の事情があるといえるとして否認している。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は納税者の主張を認め、課税処分を取り消した。なお、「特別の事情がある」という被告の主張については以下のように否定している。 このように、課税庁の主張はやや強引であり、一つひとつ裁判所に否定されている。また、本事件の否認の根拠は、売買実例価額の平均額である1株当たり794円と評価するものであるが、 としたうえで、本事件はその事案に該当しないとしている。 なお、客観的な取引事例がある場合に、財産評価基本通達に定める評価額と異なる価額で課税処分を行うことまでは否定していないが、どこまでのレベルであれは客観的な取引事例と判断できるのかが不明であるため、実務上、慎重な判断が必要になる。 次回では、東京地裁平成19年1月31日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 195(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/11/24

税務判例を読むための税法の学び方【95】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その23:「文理解釈と立法趣旨③」(最判平22.3.2))

税務判例を読むための税法の学び方【95】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その23:「文理解釈と立法趣旨③」(最判平22.3.2))   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   (2) 控訴審の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張として付加された点も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。 控訴審においては、前回紹介した第一審の判断をそのまま承認し、同じ判断を下している。そして、控訴人の控訴審における追加した主張に対して、その判断を示している。 源泉所得税額は当然に画一的・機械的に計算できることが予定されていると解すべきであるから、「当該支払金額の計算期間の日数」の意義は各集計期間の全日数と解すべきという主張に対して、以下のように判示する。 次に、租税法の解釈に当たっては文理解釈に徹すべきという主張に対しては以下のように判示する。 そして、施行令322条の表にある括弧書き中の「当該期間」が前回述べたような細分化した計算期間でないことから、同じ規定中で「期間」の意味が異なる不都合を指摘した点について、以下のように判示する。 この他にも、控訴人の追加主張に対しての判断が示されているので、ぜひ判決文を一読していただきたい。 (3) 上告審(最高裁)の判断 これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 まず、結論を導くための理由を説明する。 上記から、以下を結論として示している。 この結論は形式的には、法命題(大前提)となっており(【69】参照)、次の「上告人らは、本件各集計期間ごとに、各ホステスに対して1回に支払う報酬の額を計算してこれを支払っているというのであるから」が事実認定であり、最後の結論が以下となる。 上記のように判示し、原審に差し戻した。   6 判決の意義 第一審が、文理上判然としないとして、立法趣旨から解釈したのと異なり、最高裁は、文理上疑義は生じていないため立法趣旨ではなく文理解釈のみで判断すべき旨、判示した。 この判決は、形式的には法的三段論法によっているが、法令解釈が争いとなっていることから、全体としては結論と思われる部分が大前提の法命題となっている。したがって冒頭の租税法規解釈のあり方を示した部分は、判例にはなりえない。 よって、判例法としての射程は限定的であるが、法令解釈の基本的スタンスとして、立法趣旨等による論理解釈は、法令の意味が文理からでは不明な点がある場合に限られるものであって、文理からその意味が明らかな場合には文理解釈によるべきことを示した判決といえる。 *   *   * 次回テーマは、政令委任の合憲性が争われた事案(東京高裁平成7年11月28日判決)他、複数の事案を検討し、政令委任のあり方について考察する。なお、東京高裁平成7年11月28日判決は、別のテーマで【67】で紹介しているが、政令委任の合憲という点から、再度検討する。 (続く)

#No. 195(掲載号)
#長島 弘
2016/11/24

〈業種別〉会計不正の傾向と防止策 【第4回】「ホテルレストラン業」

〈業種別〉 会計不正の傾向と防止策 【第4回】 「ホテルレストラン業」   公認会計士・税理士 中谷 敏久   どのような業種業態か? 今回のテーマであるホテルレストラン業は、宿泊部門、レストラン部門、宴会婚礼部門等を兼ね備えた大規模ホテルを想定している。このようなホテルの中には、売上規模、従業員数からみて上場会社に引けを取らないものが少なくない。 他業種には見られないホテルレストラン業の特色としては、『あらゆる場面で最高のサービスが求められる』ということである。 製造業であれば高性能な機械設備さえ備えておれば、たとえ建物が粗末であっても生産には支障がない。その意味でコスト削減を図る余地が残されている。しかしながらホテルレストラン業は、お客様に対してハード面ソフト面の両面において最高のサービスが求められるため、コスト削減する余地が狭い。経営的には投資回収に長期間を要することになる。 また、ホテルレストラン業のもう一つの特色として、従業員の現金の取扱頻度が高いこと、現金等価物として転売可能な高額物品が身近に存在する環境で業務に従事する機会が多いことが挙げられる。   どのような不正が起こりやすいか? 部門別にどのような不正が起こりやすいか、以下、整理してみよう。 1 宿泊部門 宿泊部門では、まず、滞在未収金を利用した不正が考えられる。 「滞在未収金」とは、宿泊客が滞在中に利用した料金のうち未だ精算されていないものをいう。室料、レストランでの食事代、アミューズメント施設の使用料などの料金は、その都度支払うのではなく、部屋付けにすることがある。それらの未精算額の合計がまさしく滞在未収金である。 滞在未収金はルームナンバーごとに管理されるが、チェックアウトがなされていないために金額が確定しておらず、いわゆる仮の状態の売掛金であるといえる。未だ仮の状態であるということで、管理部のチェックも甘くなりがちである。このような滞在未収金の特質を悪用して、着服した宿泊代金に対応する利用料を他の宿泊客の滞在未収金の中に混在させるのである。 また、団体客の宿泊料金は代表者が一括清算するケースがあり、これに対応するためにダミービルが設定され、そこに全ルームの滞在未収金が集計されることがある。ダミービルの発行は本来例外的な処理であるが、実務上常態化しており、複数のダミービルが長期間存在しても不信感を抱かなくなる。 このような状況を悪用し、着服した宿泊代金に対応する利用料をダミービルの中に混在させたり、さらに他のダミービルに移し替えたりして不正の発覚を遅らせることも行われる。 宿泊部門では客室が商品である。客室の状態は「空室」か「使用中」か「掃除中」かのいずれかであるが、このステータスを操作して宿泊代金を横領する不正もある。 すなわち、実際には空室であったため客室を販売したにもかかわらず、使用中又は掃除中と偽って販売がなされなかったように処理するのである。 フロントが複数で対応している時間帯はこのような操作は難しいが、一人で深夜勤務をしている場合など比較的容易に行えるケースが少なくない。 2 レストラン部門 レストラン部門では、宿泊客は食事代を部屋付けにするケースが多いが、一般客は現金支払いである。この現金で支払われた食事代を着服する不正がある。 方法としては、売上伝票を取消処理あるいは廃棄処理して食事の提供がなかったことにする例が一般的であるが、割引クーポンをお客が提示したように偽装して割引相当額を着服するケースもある。最近ではスマホの画面に表示されたクーポンを見せるだけで割引がされる場合があり、証拠が残らないため、悪意を持った従業員には絶好の機会となる。 レストランの厨房では、食材や飲料の不正持ち出しもたびたび発生する。このようなホテルでは高級な食材やワインなどが存在するため、月次単位あるいは年単位では結構な不正金額になることがある。不正持ち出しによって原価率がアップするが、原価率管理が十分でないホテルでは不正持ち出しがなされても判明しづらい。 特にワインについては銘柄によって価格の開きが大きく、かつ、レストラン担当者以外は高級なワインと安価なワインとを区別することが難しいことから、在庫本数を明細と合わせるため高価なワインを安価なワインに入れ替えておくという不正もある。 3 購買部門 購買部門は昔から不正の温床と言われている。食材、飲料、備品類などホテルで消費使用するすべての物品が購買部を通して発注、納入される。 良いものをいかに安くタイムリーに仕入れることができるかによって、ホテルの評判やコスト削減効果が左右されるため、能力のある購買担当者が長期間担当することが少なくない。 その結果、購買担当者の権限は絶大となり、仕入先から過度な接待や贈答、キックバックが行われるのである。 さらに発注と検収を同一人物が担当する場合は、商品の横流し、架空仕入れ等の不正も起こりやすい。「架空仕入れ」とは、仕入れ業者と共謀して正規の発注検収を装い、納品もないのに会社に仕入れ代金を振り込ませる方法である。あるいは、担当者が自ら納品書、請求書を偽造して指定の口座に仕入れ代金を振り込ませるケースもある。 4 経理総務部門 最後に経理総務部門の不正であるが、ホテル全体の現金が集まる部署であるので、当然のことながら金銭着服の不正の機会は少なくない。 それ以外の会計不正として、固定資産の取得価額を故意に耐用年数の長いものに振り分け、減価償却費を過少に計上しようとする不正がある。 建設業者から入手した見積書には設計費、基礎工事費、建物躯体工事費、内装費、電気設備費などの詳細が記載されており、実務的にはこれらの見積金額を分解して建物と建物付属設備に振り分ける。建物付属設備とは電気設備、給排水衛生ガス設備、冷暖房通風ボイラー、昇降機設備、消化排煙災害報知設備などであるが、建物躯体と一体になっている部分もあり、建物との区別が難しいケースがある。 それを合理的な基準で振り分けるのであれば問題ないが、何ら根拠もなく、故意にそれらの費用を建物に振り分けるのは会計上、不正な処理である。 建物付属設備の耐用年数は主に15年であるのに対し、建物のそれはホテル用鉄骨鉄筋造の場合39年であり、2倍以上の開きがあるため、極端に言えば年間の減価償却費を半分に軽減することができるのである。   事例検証 公表されている不正事例を毎回紹介しているが、ホテルレストラン業においては適当なものが見当たらなかったため、今回は省略させていただく。   不正の防止策 各部門別に様々な不正を紹介したが、防止策として最も効果的な方法は、やはり内部統制の適切な運用及び内部監査の強化である。ホテルレストラン業の不正は比較的単純なものが多いので、一つ一つ伝票等をチェックすればすぐに判明する。 宿泊部門の滞在未収金やダミービルについては、長期間未精算になっているものはないかという観点から経理部門や内部監査部門が伝票を精査すること、ステータスの操作による客室不正については、販売客室数と清掃客室数を照合することが必要である。 また、レストラン部門の売上伝票の取消処理については、処理した従業員にサインをさせ、回数の多い者に対してヒアリングすること、売上伝票の廃棄処理については伝票に連番を付し欠番の有無を確認すること、割引クーポンについては必ず伝票に添付させることが有効である。食材や飲料の不正持ち出しについては、厳格な原価率管理やワインセラーの定期的な棚卸を実施すべきである。 購買部門については担当者の定期的な入れ替え、あるいは発注者と検収者の分離が効果的である。 経理部門については、現金出納帳及び預金元帳を日々正しく記帳させ、現金残高及び預金残高と一致しているか、管理者が日々チェックすることが必要である。 建物と建物附属設備間の振り分け不正については、内部監査部門が減価償却明細表を入手して建物の取得価額が過大になっていないか確認するとともに、実際に見積書まで遡って合理的に振り分けられているかチェックすべきである。   同様の不正が起こりうる業種業態は? 百貨店業界もホテルレストラン業と同様、従業員の現金の取扱頻度が高く、現金等価物として転売可能な高額物品が身近に存在する環境で業務に従事する機会が多いことから、同様の不正が起こりうると考えられる。 (了)

#No. 195(掲載号)
#中谷 敏久
2016/11/24

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第32回】「ストック・オプションの基本」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第32回】 「ストック・オプションの基本」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、ストック・オプションの「基本」の会計処理について解説する。 「ストック・オプション」とは、自社株式オプション(※1)のうち、特に企業がその従業員等(※2)に、報酬として付与するものをいう。ストック・オプションには、権利行使により対象となる株式を取得することができるというストック・オプション本来の権利を獲得すること(権利の確定)につき条件が付されているものが多い。当該権利の確定についての条件(権利確定条件)には、勤務条件や業績条件がある(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準(以下、「基準」という)」2(2))。 (※1) 「自社株式オプション」とは、自社の株式(財務諸表を報告する企業の株式)を原資産とするコール・オプション(一定の金額の支払により、原資産である自社の株式を取得する権利)をいう。新株予約権はこれに該当する。 なお、基準においては、企業が、財貨又はサービスを取得する対価として自社株式オプションを取引の相手方に付与し、その結果、自社株式オプション保有者の権利行使に応じて自社の株式を交付する義務を負う場合を取り扱っている(基準2(1))。 (※2) 「従業員等」とは、企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者をいう(基準2(3))。 そして、基準は、以下の取引に対して適用される(基準3)。 (1) 企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引 (2) 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社株式オプションを付与する取引であって、(1)以外のもの (3) 企業が財貨又はサービスの取得において、対価として自社の株式を交付する取引 なお、(2)又は(3)に該当する取引であっても、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」等、他の会計基準の範囲に含まれる取引については、基準は適用されない。   したがって、下記のような取引に対しては、基準は適用されない(基準27)。 (1) 自社株式オプション又は自社の株式を用いない取引 (2) 付与した自社株式オプション又は交付した自社の株式が、財貨又はサービスの取得の対価にあたらない場合 (3) デット・エクイティ・スワップ取引 (4) 取得するものが事業である場合 (5) 従業員持株制度において自社の株式購入に関し、奨励金を支出する取引 (6) 敵対的買収防止策として付与される自社株式オプション   なお、本解説では、上記(1)「企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引」を前提に解説する。また、条件変更がある場合は解説しない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 従業員等は、ストック・オプションを対価としてこれと引換えに企業にサービスを提供し、企業はこれを消費しているから、費用認識する(基準34(1)、39)。具体的には、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用(=ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額)として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5)。 ここで、ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数(権利不確定による失効の見積数を控除)を乗じて算定する。 一般的にストック・オプションは権利確定条件が付されているものが多いため、まず、権利確定以前の会計処理について検討する。 (1) 公正な評価単価の算定 ① 評価時点 公正な評価単価は、付与日現在で算定する。条件変更の場合(本解説では解説していない)を除き、その後は見直さない(基準6(1))。 ② 評価方法 ストック・オプションに関しては、通常、市場価格が観察できないため、株式オプション価格算定モデル等の算定技法を利用して公正な評価単価を見積る(基準48)。 「株式オプション価格算定モデル」とは、ストック・オプションの市場取引において、一定の能力を有する独立第三者間で自発的に形成されると考えられる合理的な価格を見積るためのモデルであり、市場関係者の間で広く受け入れられているものをいう。例えば、ブラック・ショールズ式や二項モデル等が考えられる(基準48)。 算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える(基準6(2)、企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(以下、「適用指針」という)」5、6、7)。 ただし、失効(※)の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない(基準6(2))。 (※) 「失効」とは、ストック・オプションが付与されたものの、権利行使されないことが確定することをいう。失効には、権利確定条件が達成されなかったことによる失効(「権利不確定による失効」)と、権利行使期間中に行使されなかったことによる失効(「権利不行使による失効」)とがある(基準2(13))。 実務上は、評価単価の算定は、専門家に依頼することが多いと考えられる。 なお、算定技法の変更が認められるのは、原則として以下の場合に限られる(適用指針8)。 (1) 従来付与したストック・オプションと異なる特性を有するストック・オプションを付与し、その特性を反映するために必要な場合 (2) 新たにより優れた算定技法が開発され、これを用いることで、より信頼性の高い算定が可能となる場合   【未公開企業の場合】 未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができる(基準13)。言い換えると、未公開企業の場合、公正な評価単価を見積る方法、単位当たりの本源的価値を見積る方法、どちらでも認められる。 付与日現在でストック・オプションの単位当たりの本源的価値を見積り、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(基準13)。 ここで、「単位当たりの本源的価値」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいう。 【自社株式の株価 > 行使価格の場合】 【自社株式の株価 < 行使価格の場合】 一般的に、行使価格は付与日における自社株式の株価より高く設定されることがほとんどであると考えられる。そのため、未公開企業では、本源的価値がゼロとなり、費用計上額はゼロとなることが多いと考えられる。   (2) ストック・オプション数の算定 付与されたストック・オプション数(「付与数」)から、権利不確定による失効の見積数を控除して算定する(基準7(1))。 (3) 権利確定日の判定 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額として算定する。すなわち、ストック・オプションの公正な評価額を、これと対価関係にあるサービスの受領に対応させて、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて費用計上することになる。 ここで、対象勤務期間とは、付与日から権利確定日までの期間であるため、権利確定日を判定する必要がある。そして、権利確定日は以下のように判定する(適用指針17)。 ① 勤務条件が付されている場合には、勤務条件を満たし権利が確定する日 ② 勤務条件は明示されていないが、権利行使期間の開始日が明示されており、かつ、それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職した場合に権利行使ができなくなる場合には、権利行使期間の開始日の前日。この場合には、勤務条件が付されているものとみなす。 ③ 条件の達成に要する期間が固定的ではない権利確定条件が付されている場合には、権利確定日として合理的に予測される日   (4) 付与時の会計処理 上記(1)で算定したストック・オプションの公正な評価単価に(2)のストック・オプション数を乗じて算定した金額のうち、(3)の対象勤務期間をもとに、当期に発生したと認められる額を「株式報酬費用」として計上する。そして、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に「新株予約権」として計上する(基準4、5、適用指針〔設例1〕)。 《設例1》 〈X1年3月期〉 (※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:9ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×9/60=675,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X2年3月期〉 (※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:21ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×21/60=1,575,000円(X2年3月期の新株予約権残高) 1,575,000円-前期末までの計上額675,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X3年3月期〉 (※3) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:33ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×33/60=2,475,000円(X3年3月期の新株予約権残高) 2,475,000円-前期末までの計上額1,575,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 〈X4年3月期〉 (※4) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:45ヶ月 5,000円×10個×(100名-10名)×45/60=3,375,000円(X4年3月期の新株予約権残高) 3,375,000円-前期末までの計上額2,475,000円=900,000円 (注) 期末時点において、将来の失効見込み(退職者)を修正する必要はないと判断している。 (5) ストック・オプション数の見直し 付与日から権利確定日の直前までの間に、権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合(条件変更による場合(本解説では解説していない)を除く)には、これに応じてストック・オプション数を見直す(基準7(2))。 これによりストック・オプション数を見直した場合には、見直し後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、その期までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を見直した期の損益として計上する(基準7(2))。 そして、最終的に、権利確定日には、ストック・オプション数を権利の確定したストック・オプション数(「権利確定数」)と一致させる。一致させた結果、これによりストック・オプション数を修正した場合には、修正後のストック・オプション数に基づくストック・オプションの公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき額と、これまでに計上した額との差額を権利確定日の属する期の損益として計上する(基準7(3))。 《設例2》 〈X5年3月期〉 (※1) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から当期末までの期間:57ヶ月 5,000円×10個×(100名-9名)×57/60=4,322,500円(X5年3月期の新株予約権残高) 4,322,500円-前期末までの計上額3,375,000円=947,500円 〈X6年3月期〉 (※2) 対象勤務期間:X0年7月からX5年6月 ⇒ 60ヶ月 付与日から権利確定日までの期間:60ヶ月 5,000円×10個×(100名-8名)×60/60=4,600,000円(X6年3月期の新株予約権残高) 4,600,000円-前期末までの計上額4,322,500円=277,500円 権利確定後には、権利行使又は権利不行使による失効がある。また、権利行使が行われた場合、企業が新株発行するケースと自己株式を処分するケースがある。 そこで、権利行使され、企業が新株発行する場合には、(1)を検討する。また、権利行使され、企業が自己株式を処分する場合には、(2)を検討する。さらに、権利行使されず失効となった場合、(3)を検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 新株発行する場合 ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(基準8)。 (2) 自己株式を処分する場合 ストック・オプションが権利行使され、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額とする(基準8)。 自己株式処分差額が正の値の場合、「自己株式処分差益」として、その他資本剰余金に計上する。負の値の場合、「自己株式処分差損」として、その他資本剰余金から減額する。なお、会計期間末において、その他資本剰余金の残高が負の値の場合、その他資本剰余金をゼロとし、負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」9、10、12)。 (3) 権利行使されず失効となった場合 権利不行使による失効となった場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を原則として「新株予約権戻入益」等の科目名称で特別利益に計上する。この会計処理は、当該失効が確定した期に行う(基準8、47)。 《設例3》 〈X8年3月期〉 ① 新株発行 (※1) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円 (※2) 4,600,000×45%=2,070,000円 ② 自己株式の処分 (※3) 10,000円×414株(=92名×10個×45%)=4,140,000円 (※4) 4,600,000×45%=2,070,000円 (※5) 9,000円×414株(=92名×10個×45%)=3,726,000円 (※6) 差額 ③ 権利行使期間満了による新株予約権の失効 (※7) 4,600,000×10%=460,000円 【ストック・オプションと税効果】 税制適格ストック・オプションと税制非適格ストック・オプションで、税効果の取扱いが異なる。 (1) 税制適格ストック・オプションの場合 税制適格ストック・オプションを付与された個人は、付与時、権利行使時ともに所得税の給与所得等による課税がなく、株式譲渡時に譲渡所得として課税される。 一方、会社側は、法人税法上、給与等として所得税が課税される場合にのみ損金算入が認められるが、給与等として所得税が課税されないため、永久に損金算入されない。 したがって、会計上は費用処理されるが、法人税法上は、永久に損金算入されないため、永久差異となる(将来減算一時差異は生じない)。 なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となるが、一時差異を認識しないため、税効果会計の適用対象にはならない。 (2) 税制非適格ストック・オプションの場合 税制適格ストック・オプションに該当しない場合、個人は権利行使時に行使時の時価から権利行使価額を控除した差額が給与所得等として課税される。 一方、会社側では、給与等として所得税が課税されるため、法人税法上、損金算入が認められる。 そのため、ストック・オプションの費用計上時は損金不算入となるが、権利行使時に損金算入されることから、将来減算一時差異が認識され、回収可能性がある場合、繰延税金資産を計上する。 なお、権利不行使による戻入益は益金不算入となり、減算されるため、権利行使時だけではなく、権利不行使が確定した時点でも将来減算一時差異が解消する。 したがって、権利行使時及び権利不行使確定時に繰延税金資産が取り崩されることになる。 以下の注記が必要となる(基準16)。 (1) 本会計基準の適用による財務諸表への影響額 (2) 各会計期間において存在したストック・オプションの内容、規模(付与数等)及びその変動状況(行使数や失効数等) (3) ストック・オプションの公正な評価単価の見積方法 (4) ストック・オプションの権利確定数の見積方法 (5) ストック・オプションの単位当たりの本源的価値による算定を行う場合には、当該ストック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各会計期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額 (6) ストック・オプションの条件変更の状況 (7) 自社株式オプション又は自社の株式に対価性がない場合には、その旨及びそのように判断した根拠 財貨又はサービスの対価として自社株式オプション又は自社の株式を用いる取引(ストック・オプションを付与する取引を除く。)についても、ストック・オプションを付与する取引に準じて、該当する事項を注記する。   なお、計算書類では上記のような注記は必ずしも求められていない。 *   *   * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)

#No. 195(掲載号)
#西田 友洋
2016/11/24
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