2015年9月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.137を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第15回】 「『一般に公正妥当と認められる基準』について」 税理士 山本 守之 Ⅰ 立法にいたるまで (立法の経緯) 法人税法第22条第4項においては、各事業年度の金額の計算上益金の額及び損金の額に算入すべき収益、原価、費用、損失の額の計算については、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」としています。 この規定は、昭和42年の法人税法の改正によって追加されたものですが、この規定に集約されるまでには、企業会計と税法との調整や税制の簡素化を背景として多くの論議がありました。 1 企業会計審議会の意見 昭和27年6月16日の「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」(企業会計基準審議会中間報告)においては、企業利益と課税所得について税制上又は税務上の理由により差異の生ずる事実は無視し得ないとしながら「公正妥当な会計原則に従って算定される企業の純利益は課税所得の基礎をなすものであり、税法上における企業所得の概念は、この意味における企業の利益から誘導されたものであることを認めなければならない」としています。 つまり税法における課税所得計算の基本理念も一般に公正妥当と認められた会計処理の基準に根拠を求めなければならないと述べているのです。 この考え方は、同審議会における昭和41年10月17日の「税法と企業会計との調整に関する意見書」に引き継がれました。 同意見書では、課税所得は企業利益を基礎として税法特有の規定を適用して計算されるものであり、このような趣旨を明確にするため法人税法の課税標準の総則的規定として「納税者の各事業年度の課税所得は、納税者が継続的に健全な会計慣行によって企業利益を算出している場合には、当該企業利益に基づいて算出するものとする」旨の規定を設けることが適当であるとして次のように述べています。 2 日本租税研究協会の意見 昭和41年8月25日には、日本租税研究協会が「企業利益は、健全な会計慣行にしたがって計算されるものであるから、課税所得も健全な会計慣行によって計算されるものであることを法令において明らかにすることが適当である」という意見を発表しました。 3 税制調査会の答申 このような会計学会、産業界の意見を受けて、税制調査会では、「税制簡素化に関する第一次答申」(昭和41年12月)を発表しましたが、このなかでは、次のように述べています。 なお、中間答申においては、企業会計審議会の考え方を受け入れ、 とし、さらに、 (答申第3-Ⅰ、1(1)) として、適正な会計慣行によって課税所得を計算すべきであることを明らかにしています。 4 制定当時の受け取り方 このような意見や答申を受け入れて実定法に規定したのが現行の法人税法第22条第4項ですが、この規定が創設された当時は、さまざまな受け取り方をされたようです。 会計学者のなかには、税法が企業会計原則を全面的に受け入れたとする者もあり、他方税務当局者のなかには、この規定は従来から採ってきた税法の原則を成文化したものにすぎず、単なる訓示的又は宣言的規定であるから、これによって課税庁は何ら新たな拘束を受けるものではないとする者もいました。 (『税務通信』1967年5月号、5頁) なお、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に対する考え方については、 (武田昌輔・後藤喜一編著『DHC 会社税務釈義』第1巻1449~1449の2頁) とする見解があります。 Ⅱ 公正妥当と認められる会計処理基準の内容 1 別段の定めとの関係 法人税法第22条第4項では、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額」について一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するものとしていますが、第2項に規定する収益の額は、「当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、・・・資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」としており、「前項各号(第3項各号)に掲げる額」についても、同条第3項では「・・・別段の定めがあるものを除き」とされているから、法人税法第22条第4項の適用除外となっていると考えるべきです。 第4項の規定を別段の定めに及ぶという主張をする者も見受けられますが、法人税法第22条第4項では、収益の額、原価、費用、損失の額としないで、わざわざ「第2項に規定する」「前項各号に掲げる額」としたのは、別段の定めについて適用除外をするためと考えられるのが自然でしょう。 2 企業会計原則・商法との関係 実定法上で表現されている「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、具体的にはいかなるものを指すのかについては議論の存するところです。一般的には、客観的な規範性を持つ公正妥当と認められる会計処理の基準という程度の意味であり、企業会計原則のような明文化された特定の基準を指すものではありません。 もともと公正妥当な会計処理は、社会情勢や経済的要因によって相対的に変化していくものであり、固定的な概念と解すべきではないからです。 もっとも、 (故中村利雄著『法人税の課税所得計算』81頁) とする見解も存します。 課税標準である所得の計算は、企業会計に依存せざるを得ないため、法人税法第22条第4項の解釈として企業会計原則自体が法規範性を持つという考え方については、多くの批判があります。 この批判の基礎となるのは、 (松沢智著『租税実体法』139頁) という考え方なのです。 確かに、企業会計原則そのものが法的規範ではありませんが、この原則によって会計処理が行われることが慣行化され、社会もそれを容認していけば、その部分については規範性を帯びることになります。 つまり、企業会計原則そのものを法規範とするのではなく、そのうちの社会的に妥当なものとして容認され、慣行化したものが結果として規範性を持ち、「一般に公正妥当な会計処理の基準」となり得るというのです。 この意味では、企業会計原則は社会的・経済的変化に伴って修正が行われたといっても、長い年月にわたって企業における会計処理の基準として現実に容認され、多くの企業における会計処理がこれに依拠した事実を考えれば、そのすべてではないとしても、相当部分が結果として規範性を持っているといえましょう。 「企業会計原則に従って処理がなされておれば、公正妥当な処理基準と考えて差し支えなかろう」としているのは、このような考え方をふまえているものと考えられます。 ただ、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準は、税法の別段の定めのない白地部分に適用されるものですから、「企業会計原則に反する法律の規定は違法である」という論理は成立しません。 つまり法人税法第22条第4項で「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は・・・」としているのは、法人税法に定める別段の定め及び資本取引に係るものを除外した収益、原価、費用、損失の額に適用される規定であることを意味しているのです。 商法では、「商業帳簿ノ作成ニ関スル規程ノ解釈ニ付テハ公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」(商法第32条第2項)旨が明文化されています。 ここでいう「公正ナル会計慣行」が、法人税法にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」といかなる関係があるかについては議論のあるところです。 この点については次のような見解もあります。 (武田昌輔・後藤喜一編著『DHC 会社税務釈義』) 3 「一般に」の意味 公正妥当と認められる会計処理基準における「一般に」については、税法的要求を除外して考えられたものであり、政策的要求を含む商法的要求(繰延資産の償却等)も除外して考えるべきであると解説されています(武田昌輔稿「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」『税大論叢』第三号)。 また、この場合の「一般に」は、誰にとって一般になのかが問題になります。 これについては、ある学会で会計学者から次のような発言がありました。 つまり、「一般に」は「会計学者にとって」という意味だというのです。 確かに、当初アメリカで論議されたように、「一般に」は会計学者や会計処理を行うという固定的な考え方だけでは解決できない複雑な事態なのです。 「会計処理の基準」には、税法的又は商法的要求がなく、あくまでも会計上の適正処理基準であるとしても、これが補充規定ではあっても税法という法律のなかに組み込まれた以上は、政策的要素を除外しても公平な課税標準計算の規定として適正であるか否かの検討を免れるわけにはいきません。 もちろん、公正処理基準は概念的・抽象的なもので客観的基準の存在をその内容とするものではないかもしれません。経済取引の変化に伴って相対的に変化するものでしょう。いわんや、現在のところ特定の会計処理基準といえる国際会計基準が、また直ちにその全部が「一般に」公正妥当と言い切れるものではありません。 一般に公正妥当と認められる会計処理基準を尊重するとした法人税法第22条第4項の規定は、現実に企業が会計処理に際して用いている基準や慣行のうち、一般に公正妥当と認められないもののみを税務でも認めないこととし、原則として企業の会計処理を認めるという基本方針を示したと考えるべきでしょう。 したがって、企業が特殊な会計処理を行った場合に、それが一般に公正妥当な会計処理基準に適合しているか否かは、具体的事例についての判断(裁決・判決等も含む)を積み重ねていくことにより、次第に明らかになっていくものと考えます。 この意味からすれば「一般に」は決して「会計学者にとっての」と解すべきではありません。 Ⅲ 「一般に公正妥当」が問題となった裁判 1 競走馬の売却収益計上時期 (事例の検討と私見) 法人税基本通達2-1-1では、棚卸資産の販売収益計上の日を「引渡しのあった日の属する事業年度」としています。 ところで、この場合の「引渡し」をどのように認識するかが問題です。 法律上の引渡しには、現実の引渡し(民法182条1項)、簡易の引渡し(民法182条2項)占有改定(民法183条)、指図による占有移転(民法184条)等がありますが、法人税法における引渡しの考え方は、必ずしも法的な基準を予定しているわけではなく、経済的実態に適合する限りは、企業会計の記帳慣行を尊重すべきであるとするものもありますから、以上のような基準を継続適用し、この基準がその棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であれば、これが税務上も認められます(法基通2-1-2)。 事例の場合の引渡日の判定については、課税庁では馬匹の売買契約書で平成X+1年10月末日となっており、その後に引渡日を変更した事実は認められないとして、同日の収益の額に算入すべきであるとして更正処分をしたのです。 しかし、収益の認識基準を決定するためには、その商品を取り扱う業界の取引や経理処理の慣行は尊重されなければなりません。 馬匹の場合は、これを譲り受けた側ではすぐに競走馬として使い物になるわけではありませんので、売主の牧場で飼育、調教を相当期間受けなければならなくなります。調教やトレーニングをしたが競走馬として使い物にならないという場合は、代わりの馬を引き渡すか前受金を返さなければならないでしょう。 売買代金を手形としているのは、トラブル防止の意味もあるかもしれません。競走馬として使い物になるか否かの見極めに、ある程度の期間が必要ですから、使い物にならない場合は決済を留保することになるでしょう。 一方、売主の側でも、競走馬のわずかな瑕疵を理由に支払いを拒絶されるおそれもあるので、代金を受け取ってみなければ安心できないという取引といえましょう。 このため、売主である牧場が所属する農業協同組合等では、馬匹の売買に係る所有権の移転を契約締結時等早期に行うと、買主が馬匹のわずかな瑕疵を理由に残代金の支払いを拒絶する例があることから、その譲渡代金の全額入金時以後に馬匹の引渡しを行うように組合員に指導しているところがあるようです。 つまり、買主は引き渡され馬匹が競争馬として満足できるものか否かを見極めるために代金の全額支払いをできるだけ先に延ばそうとし、一方売主は買主の引渡し後の代金支払拒否を担保するために、代金の全額受領後に馬匹の引渡しをしようとする。このようなそれぞれの異なった立場の事情がせめぎ合いながら取引慣行が成立するのです。 この事件を取り扱った国税不服審判所では、 (平成4年6月8日裁決) としています。 この裁決では、法人税法第22条第4項の具体的適用について次のように述べています。 一般に公正妥当と認められる基準については、次のように述べているものもあります。 (金子宏著『租税法(第20版)』318頁) 2 分掌変更の場合の役員退職給与の分割支給の損金性 この事例では、課税庁はもとより、審査請求を審理した国税不服審判所も国側の更正処分を支持し、裁判所の判決ではじめて「課税要件法定主義」に基づく納税者勝訴としました。 この判決は筆者が早くから主張していたものですが、多くの税理士や学者は国の考え方に沿った解説をしていました。 国税不服審判所では、次の第二金員は退職給与に該当せず、法人税法第34条第1項の適用を受けて損金不算入となると裁決しました。平成27年2月26日の東京地裁では、第二金員は退職給与であるから法人税法第34条第1項の適用はできず、損金の額に算入されるという逆転判決を出し、国側は高裁への控訴を断念したので、納税者勝訴が確定しました。 (通達の解釈) 役員退職金については、次のような2つの通達があります。 まず、第一通達では、ただし書きで退職給与の支給額を支給日の属する事業年度で損金経理することと認めています。役員退職の翌期に支払った第二金員も、この取扱いによれば損金の額に算入できるというのが納税者の主張です。 これに対して、国側は、第一通達のただし書きは完全退職の場合のみに適用され、分掌変更の場合は適用できないとしました。 なお、納税者反論のなかに「中小企業における事業承継の実態」がありますが、これは とする納税者主張でもうなずけます。 訴訟においても、納税者の次のような主張があります。 (了)
消費税の軽減税率を検証する 【第8回】 「日本型軽減税率制度」 税理士 金井 恵美子 平成27年9月10日、「与党税制協議会」の下に設けられた「消費税軽減税率制度検討委員会」(以下「検討委員会」という)は、「日本型軽減税率制度」の発案を受け、議論を再開した。 検討委員会では、軽減税率の導入について、自民党、公明党が合意できる案がまとまらず、5月27日の会議の後は、協議が中断していた。「さまざまな問題を克服できる案を出せ」と投げられた財務省が示したのが「日本型軽減率制度」である。 その後の報道では、与党内において「袋叩き」とさえ表現されているが、本年末の策定を目指す制度案として、生き残ることができるのだろうか。 Ⅰ 「日本型軽減税率制度」とは 「日本型軽減税率制度」は、「対象品目」への支出に係る消費税額の一部を「ポイント制度」の仕組みを活用して消費者に還付するものである。 Ⅱ 軽減税率の検討課題に対応 検討委員会においては、確認された軽減税率の問題点について、その解決策を見出すことができなかったのである。財務省は与えられた課題を解決するものとして、「日本型軽減税率制度」を示した。 否定的な意見が多い案であるが、制度構築の方向性としては、一定の評価が与えられるべきであろう。 それは、取引の対価に適用する税率を単一にし、還付の制度によることとした点である。 「日本型軽減税率制度」は、EU型の複数税率制度を模索し続けた検討委員会の議論を前進させ、「給付制度」に転換する潮目となる可能性がある。これを機に、検討委員会は、「消費税という税目の枠内で低所得者対策を解決する」という呪縛から解き放たれるかもしれない。 税制抜本改革法において、複数税率制度の対案であった給付付き税額控除制度には、所得の把握を待つ必要があるという欠点がある。生活に困窮する人に、「来年お金をあげる」といっても暮らしは成り立たない。 軽減税率の実質的な効果は、タイムリーな救済という点である。 「日本型軽減税率制度」は、年に一度の確定申告の時ではなく、各個人が必要に応じて還付請求を行うことができこととしている。還付の制度でありながら、軽減税率の唯一ともいえるメリットに、ある程度近づいたといえる。 しかし、番号制度を利用して購入実績を基礎に還付する方法は、実現可能性に乏しく、新たな問題を孕むものである。 Ⅲ 「日本型軽減税率制度」の問題点 1 購入実績による還付 「日本型軽減税率制度」は、消費に対する負担軽減という観点から、各個人が食料品購入の際に支出した消費税の一部を還付することとしている。そのため、各個人の購入実績を把握するために、個人番号(マイナンバー)を利用する。 また、所得の把握を待つことを避けつつも高所得者に大きな恩恵が及ぶことを回避し、所要財源を抑えるため、還付については限度額を定める。 しかし、そこには矛盾が生じる。購入実績による限り、高所得者は満額の還付を受けるが、消費額の少ない低所得者ほど、限度額を余らせるからである。 したがって、財務省は、還付の限度額は、低所得層における平均的な消費額をもとに算定するという。低所得者において満額となる水準を探るのである。そうであっても、やはり低所得者対策としての効率は悪い。 購入実績による還付は、実際の購入額が低所得層における平均的な消費額にさえ満たない、よりいっそう貧しい人に限度額を余らせるものとなるからである。 2 「消費者の負担」と「事業者の負担」 (1) 消費者の負担 消費者は、買い物やレストランでの食事のたびに個人番号カードを差し出さなければならない。人気店のレジは、これまで以上に混雑するだろう。個人番号カードを持参するのを忘れた人は、自宅に取りに戻って買い物をやり直すのか、ポイント獲得をあきらめるのかの選択を迫られる。 食品の購入頻度は高いから、日に何度もかざすことになり、個人番号カードの盗難や紛失の危険が日常化することになる。たとえ悪用されずに済んだとしても、大切な個人番号カードをなくしてしまったときの不安は想像に難くない。 個人番号カードの再発行は有料と予定されているので、還付金の上限が低いことを考えると、ポイント取得のために携帯し、盗難又は紛失があった場合の不満は大きいと思われる。 マイポータルへのアクセスが難しいインターネット弱者の多くは、救済されるべき低所得者、あるいは高齢者であろう。制度が分かりにくければ、高齢者を狙った詐欺の危険も増すと考えられる。 (2) 事業者の負担 「日本型軽減税率制度」は、事業者の事務負担を慮るゆえに、消費者に負担を押し付けるものと批判されている。上述の通り、消費者の負担は相当に大きいが、対消費者の現場では、事業者の負担も解消されない。 川上の事業者に影響はないが、小売段階の事業者は、自身の納税額の計算は標準税率で行うにもかかわらず、顧客のために、ポイント化できる品目とそれ以外とを区別する必要がある。 物理的に、事務能力的に、経営的に、適切な区分が可能であろうか。 たとえば八百屋は、天井から吊り下げたザルに売り上げたお金を投げ入れる。これをやめて、オンラインのレジに切り替えろというのだろうか。 さらに飲食店では、酒類の提供だけ別に伝票を切らなければならない。なじみの客に「全部まとめてポイント付けといてよ」と頼まれたら、「今度だけですよ」と応える店主はいないだろうか。 小売段階の事業者は、事業者登録をし、カードリーダーを購入し、品目の線引きに悩み、「還付ポイント対象品目」とそれ以外を分けてレジ打ちし、「日本型軽減税率制度」に対する消費者の不満の矢面に立たされる。 3 個人番号カードの利用 (1) 情報セキュリティ 財務省は、購入情報の暗号化を行う等の厳格かつ高度な個人情報保護及び情報セキュリティ対策を講じるとともに、購入時にレジ等の端末において、個人番号及び基本4情報(氏名、住所、生年月日、性別)は読み取らず、「還付ポイント蓄積センター」では、「還付ポイント」を「符号」ごとに蓄積するものとしている。 情報セキュリティ対策の強化に係る政府の準備が整わなければ、制度の実現はあり得ないし、そのために巨額の費用を投じるとすれば、国民の理解は得られない。 (2) 個人番号カードの普及 個人番号カードの発行は、年間4,000万枚がキャパシティで、単純な計算でも国民全部に行きわたるのには3年がかかる。平成29年4月には到底間に合わない。たとえ実施時期を3年後に設定したとしても、番号法上、個人番号カードへの切替えは個人の自由である。 仮に、消費税の還付をエサにマイナバー制度を定着させたという謗りを受ければ、それは財務省の本意ではないだろう。 (3) 個人番号カードの利用に適さない購入形態 子供をお使いにやるときにカードを持たせれば、個人情報が無防備になり、子供が犯罪に巻き込まれる危険が懸念される。要介護者においては、介護ヘルパーに買い物を委託するため、番号法上の問題があるし、 学校給食、通信販売、自動販売機、通勤ラッシュ時の購入、レストラン等での食事の接待、共同購入等、個人番号カードの利用に適さない購入形態が多すぎる。 他人の個人番号カードの使用-ポイントを取得する権利の贈与-も行われるであろう。 事業用の仕入れを行う際にポイントを取得することをどう防ぐのか。 麻生財務大臣は、「軽減税率は面倒くさい」と言ったが、ポイントの蓄積も、相当に面倒くさい。 (4) 新たなスティグマ 還付の限度額は、低所得層における平均的な消費額をもとに算定するとされており、新聞報道によれば、年間一人当たり4,000円から5,000円程度とされている。消費額の多い人は早々に限度額に達するし、そもそも、裕福な人が、わずかな還付金のために個人番号カードを使用するだろうか。 そう考えると、買い物のたびに個人番号カードを差し出すのは、相対的に所得が低い人だということになる。食料品の買い物は、地元で行うのが普通である。今までの人間関係があり、これからも生活してゆくコミュニティの中で、「私は貧しい」と告白しなければ還付が受けられない。新たなスティグマが生じることになろう。 アメリカでは、低所得者にフードスタンプが支給される。人々がそれを使用することに抵抗を感じないのは(感じているかもしれないが受給して使用するのは)、彼らはスラムに住んでいて、まわりのみんなが貧しいからである。スラムに住んでいない人は、収入額の要件を満たしていても受給しないことが多いという。 4 対象範囲の線引き (1) 「酒類を除く飲食料品」の区分 還付の対象が「酒類を除く飲食料品」とされたのは、昨年6月5日の「消費税の軽減税率に関する検討について」において、 とされ、絞り込みのために食料品の中で線引きを行うとすれば混乱が避けられない、との判断があったからである。EUの付加価値税が滑稽ともいえる軽減税率の線引きで制度を歪ませていることに学んだ結果である。 「酒類を除く飲食料品」の定義については、食品表示法等を引用することを基本に、執行可能性の観点から精査するものとしている。これにより、食品の範囲がある程度固まるとしても、組合せ商品等についての取扱いが問題となろう。 輪島塗の重箱に詰めたおせち料理、ティーポットと紅茶のセット、テディベアに抱かせたチョコレート、カーネーションとカステラの母の日のギフト、ビールとジュースのお歳暮、酒とソフトドリンクのフリードリンク、食事付きの宿泊サービス、数え上げればきりがない。中身を明かさない福袋はどうするのか。これにより、玩具菓子という文化が姿を消す可能性もある。 結局、「日本型軽減税率制度」は、『対象品目の線引き』という軽減税率の問題を克服していない。 (2) 生活必需品の範囲 「酒類を除く飲食料品」以外の品目の取扱いについては、低所得者への配慮及び日々の痛税感の緩和等の観点から、引き続き検討するものとされている。住宅、ライフライン、衣料、子供の学用品、医薬品等、人の暮らしに欠かせないものは食品だけではない。 貧しい学生を考えよう。彼は何としても学業を修めたいと食費を削って本を買う。彼にとっての生活必需品は、牛肉ではなく本である。しかし、本は「還付ポイント対象品目」ではないので、還付は受けられない。 人はパンによってのみ生きるのではない(キリスト教では、この後に「信仰によって生きるのだ」と続く)。人が生きるために何を必要としているかは、その人にしかわからない。標準税率と軽減税率の境界線は、どのように引いても、どこかに不満が残る。 消費税の税率引上げが財政上避けられないのであれば、それゆえ、最低生活を維持するための所得に食い込む消費税負担を取り除く必要があるならば、その人それぞれにとっての生活必需品(パンであったり、本であったり)についての税負担を軽減することができる制度を考える必要があろう。 Ⅳ 「日本型軽減税率制度」プログレス論 購入実績による還付にこだわらなければ、「日本型軽減税率制度」は、理想的なプログレスを遂げることができる。 購入実績によらず、低所得層における平均的な消費額をもとに算定した額を、消費税率の引上げにあたってあらかじめ給付するのである(その後は、一定の時期を定め、毎年給付することになる)。 そうすれば、貧しい人の給付額が少ないという問題も、線引きの問題も生じないし、新たなスティグマを生み出すことなく、現実の支出に先んじての手当てが可能となる。「還付ポイント蓄積センター」設置のための費用も要らない。 高所得者を含め、すべての人に給付が行われることは、「日本型軽減税率制度」に織り込み済みであり、もともと軽減税率は、個人の所得に関係なく適用されるものである。人の収入は変化し、ましてや、フローの所得だけが貧富の基準ではない。救済されるべき人が誰であるかなど、リアルタイムで判断することはできないし、その基準を作るのも難しい。 「購入の際に支出する額が少なくて済む」という軽減税率のメリットを給付の方法で実現するためには、支出が行われる前に給付するしかない。 振込先の登録を個人番号が付された口座に限定すれば、不正受給や重複受給を防止することができる。個人番号制度は、還付ポイントの蓄積のためではなく、適正給付のためにのみ利用することになる。 財務省は、与党の批判を受け、個人にポイントカードを配る修正案を模索している。買い物した店頭で2%分のポイントが使え、支払額が減るため負担軽減を実感できるメリットがあるという。 ただし、本人確認のため氏名や写真を載せるポイントカードを新たに作るコストが必要となる。個人番号カードを利用しないドラスティックな修正案でありながら、上述した問題点の多くは解決されない。消費者は買い物のたびにポイントカードをかざす必要があるし、事業者はポイントが使用できる品目を分ける必要がある。 検討委員会は、軽減税率に「痛税感の緩和」という効果を期待している。2%の軽減で1,100円が1,080円になって痛税感が緩和されるのかどうかは知らない。筆者ならば、買い物のたびに、このシステムのためにかかるコストがもったいない、と感じることだろう。 そもそも、税制を考える上で、あるいは社会保障制度等を含めた財政全体をデザインする上で、「痛税感の緩和」とは、どのような意味を持つのか。 政府が何か負担を軽くしてくれたような気がすると国民が感じる、それだけのことであれば、「痛税感の緩和」には、制度構築の議論を混乱させる、あるいは問題を見えにくくする1つの弊害という側面があるといえるだろう。 「日本型軽減税率制度」プログレス論の最後のボトルネックは、「痛税感の緩和」かもしれない。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例30(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定期間(消法9の2④) 「特定期間」とは、法人の場合は原則として、その事業年度の前事業年度(7月以下の短期事業年度を除く)開始の日以後6ヶ月の期間をいう。 ◆特定期間における課税売上高(消法9の2③) 特定期間における課税売上高については、法人が特定期間中に支払った所得税法第231条1項(給与等、退職手当金等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき給与等の金額に相当するものの合計額とすることができる。 ◆特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例(消法9の2①) 法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務は免除されない。 ◆簡易課税制度の選択(消法37①) その基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税期間について「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、原則として提出日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については簡易課税制度の適用を受けることができる。なお、特定期間における課税売上高の判定で課税事業者となった場合においても、判定期間は変わらない。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第35回】 「非公開裁決事例⑥」 公認会計士 佐藤 信祐 今回、紹介する事件は、Tostnet市場における自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)による自己株式の買取りがみなし配当の対象になるか否かについて争われた事件である。 Tostnet市場における自己株式の買取りは、実務上も検討の対象になることが多く、重要な裁決例であると考えられる。 20 平成24年5月25日裁決(TAINSコード:F0-2-494) (1) 事件の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という)が、保有していた株式を東京証券取引所のTostnet市場における自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)を利用して当該株式の発行法人に売却し、その売却により交付を受けた金銭の額の一部が配当等の額とみなされるとして受取配当等の益金不算入の規定を適用していたことなどについて、原処分庁が、当該発行法人による当該株式(自己株式)の取得は、金融商品取引所の開設する市場における購入による取得に当たるから、当該株式の売却により交付を受けた金銭の額について配当等の額とみなされる金額は生じないなどとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、同処分等の全部の取消しを求めた事件である。 自己株式の取得については、原則として、みなし配当の対象となるが、金融商品取引法第2条第16項 (定義)に規定する金融商品取引所(これに類するもので外国の法令に基づき設立されたものを含む)の開設する市場における購入はみなし配当の対象にならないことが明らかにされている(法法24①四、法令23③一)。 本事件は、Tostnet市場が「金融商品取引所の開設する市場」に該当するか否かが争われた事件である。 (2) 原処分庁の主張 東証は、金融商品取引法第80条第1項に規定する内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する株式会社であるから、同法第2条第16項に規定する金融商品取引所に当たり、また、自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)は、東証が開設する市場のうち、立会市場以外の市場をいうTostnet市場で行われる取引である。 そうすると、自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)を利用した■■■■■■■■■■による自己株式の取得は、法人税法施行令第23条第3項第1号の「金融商品取引所の開設する市場における購入」による取得に該当するから、みなし配当規定の適用がある自己株式の取得には当たらない。 (3) 請求人の主張 法人税法施行令第23条第3項第1号の「金融商品取引所の開設する市場」とは、金融商品取引所が開設した市場すべてを含むのではなく、自己株式の取得か投資家間の売買かの区別ができず、みなし配当額としての課税が技術的に困難であるなど、不合理な二重課税を防ぐという価値を犠牲にしてもやむを得ない事情があると評価される市場をいうものと解すべきである。 この点、自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)は、自己株式取得のための売買のみが行われる取引であり、みなし配当規定を適用すべき自己株式の取得としての取引であることが明白であるから、みなし配当額として課税する技術的な困難性は存在せず、上記やむを得ない事情があると評価される市場とはいえない。 法人税法第24条第1項第4号かっこ書に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による「取得」とは、取引相手が特定できないなどみなし配当額としての課税が困難である場合に限ると解すべきであるところ、本件において、■■■■■■■■■■が請求人から自己株式を取得したことは明らかであり、その売却金額や売却株式数等も正確に特定されていることからすると、みなし配当額としての課税が困難であるとはいえず、その他にみなし配当規定の適用を排除すべき実質的な理由も存しない。 (4) 国税不服審判所の判断 租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容を明らかにする合目的的解釈が行われるべきであって、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うべきものではないと解するのが相当である。 そして、法人税法第24条第1項第4号は、みなし配当規定の適用がある自己の株式の取得として、同号かっこ書において、「金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得」を除外しており、これを受けた法人税法施行令第23条第3項は、「法第24条第1項第4号に規定する政令で定める取得は、次に掲げる事由による取得とする」と規定し、その第1号で「金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入」を掲げているところ、同号に規定する取得の形態は、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所が開設するという明確な要件が付された市場における購入による取得とされており、文理解釈によってその意味内容を明らかにすることが困難ということはできないことから、その文言の意味するところに即して解釈すべきである。 東証は、内閣総理大臣の免許を受けて金融商品市場を開設する株式会社であり、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に該当し、また、Tostnet市場は、同(ロ)のとおり、東証が開設する金融商品取引法第2条第17項に規定する取引所金融商品市場のうち立会市場以外の市場に当たることは明らかである。 (5) 評釈 Tostnet市場とは、東京証券取引所における立会市場以外の市場をいい、具体的には、単一銘柄取引及びバスケット取引(Tostnet-1)、終値取引(Tostnet-2)並びに自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)に分けられる。 このうち、自己株式立会外買付取引(Tostnet-3)は、買方を発行会社に限定した自己株式取得専用の取引であり、実務上も、大量の自己株式の買取りの際には検討することが少なくない。とりわけ、ROEなどの指標が重視されてきている昨今では、Tosnet-3を活用した自己株式の買取りは、重要な財務戦略のひとつとなろう。 法人税法24条1項4号では、自己株式の買取りをみなし配当として規定する一方で、市場による自己株式の買取りについては買方が特定できないことから、みなし配当から除外する旨が規定されている。これに対し、Tostnet-3では、買方を特定できることから、みなし配当として取り扱ったうえで、法人税法23条に規定する受取配当等の益金不算入の適用を行いたかった請求人の気持ちも分からなくはなく、請求人の主張はそれに沿った内容となっている。 しかしながら、国税不服審判所の判断にあるように、租税法の解釈は、原則として文理解釈によるべきであり、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に合目的的解釈が行われるべきであって、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うべきものではないという点に留意する必要がある。 ヤフー・IDCF事件の東京地裁判決(本連載【第1回】から【第15回】まで)では、法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定の適用について、制度趣旨を踏まえた判断を強調していたが、あくまでも事実認定や法令解釈ではなく、包括的租税回避防止規定の適用により否認されたという点に留意する必要がある。 すなわち、法令の趣旨を踏まえたうえで解釈すべきであるのは当然としても、あくまでも原則は文理解釈であり、多少は不合理であると感じたとしても、本規定のように明確に規定されているものについて、納税者有利に合目的的解釈をするということはやや慎重であるべきと考えられる。 実務上、Tostnet-3における自己株式の買取りは、市場取引に該当するものとしてみなし配当から除外していた事案が多いと思われるが、それを明確化したという意味で重要な事件であると考えられる。 (了)
これだけ知っておこう! 『インド税制』 【第3回】 「インドの間接税」 公認会計士・税理士 野瀬 大樹 前回までインドの法人所得税・個人所得税の基礎情報について触れたので、第3回となる今回はインドの「間接税」について解説することとする。 インドでビジネスをする時に大きな障壁になるのが、実はこの「間接税」。日本と比べてインドはこの間接税が非常に複雑なのである。 誤解を承知でシンプルに言うと「日本の消費税が何種類もある」というイメージなのだが、そんな間接税が「どうして複雑なのか」ここでは簡単に全体像を俯瞰することとする。 1 税の種類の多さ 【第1回】でも触れたが、インドの間接税は日本より数が非常に多くなっている。 当然だがそれぞれに税率が設定されているうえに、その税率も対象となるモノ・サービスの種類によって細かく規定されているため、その税額計算は複雑になることが容易に想像できる。 2 それは「モノ」なのか「サービス」なのか 先述の通り、どの間接税を適用するのかは「モノ」や「サービス」かの判断により決まるのだが、たとえば「レストランでの食事」などはどうだろうか? 日本の場合だと消費税一本だから何ら問題は生じない。ただ、インドの場合、この問題は複雑だ。 レストランで我々が手に入れるのは確かに食事という「モノ」である。しかし、その食事を作ったりテーブルまで運んだりしてくれるのは「サービス」とも考えられる。このような場合にはそのビジネスの「何割がサービスなのか」という点などを考慮して適用される間接税の種類とその税率が変わってくるのである。 詳しくは個々の間接税の項に譲るが、このような前提からも、現地で税務に携わる場合は、対象となる会社の「ビジネスの性質(モノ?サービス?その複合?)」について詳しく考える必要があるのである。 また、同じ会社であっても取り扱うモノ・サービスによって当然税率が変わるので、そのあたり経理担当者及び会計事務所は神経を使うことになる。 3 州をまたぐケース VATは基本的に「州内で取引が完結している」ケースが該当する。一方のCSTは「州をまたいでの取引」のケースとなる。これだけだと適用される州の税率さえ調べればよいのだが、話はこれで終わりではない。 この「州をまたぐ」ケースにおいては、受取間接税と支払間接税が相殺できない可能性があるのである。 ご存知のように、日本の消費税は100円のものが108円で販売されるのだが、受け取った8円の消費税をそっくりそのまま税務署に納めるわけではない。そのお店が「支払った」消費税と「相殺」してその差額分だけを税務署に納めるシステムになっている。 インドにおいても基本的な考え方は日本の消費税と同じなのだが、このVAT/CSTの計算上、「相殺できない」部分が出てくるケースがある。VATやCSTの税率は12%~14% 程度なので、もしこれが相殺できないとなれば利益が吹き飛ぶことになるため注意が必要となる。 事実、このあたりの税金のシミュレーションを事前に行わず「とりあえず」インドに現地法人を作ったものの、相殺できると思っていた支払間接税が相殺できずビジネスが行き詰まる日本企業は少なくないので、事前に入念な調査・検討が必要となる。 また逆に、自分が売り手の場合つまり受取間接税が生じるケースでも、その間接税を支払間接税として相殺できない顧客から取引を断られるケース(もしくは顧客がある州に移転してくれという要望)も見受けられるので、インドに拠点を作る際にはそのロケーションが非常に重要となるのである。 4 税率の多さ 先ほども少し触れたが、物品税やサービス税などに関しては日本の消費税のように税率が1つではない。たとえば物品税は生活必需品や医薬品などは軽く、貴金属などは重くなっている。そのため、何か新しい商品を販売する場合には事前にそのあたりをチェックしなければ、後から予想もしない税負担を被る可能性がある。 またこの税率については、毎年毎年細かな改正がなされるので、このあたりの情報もタイムリーに補足し続ける必要がある。この点からもたくさんの商品・製品を扱うような事業の場合、経理担当者及び会計事務所の負担は非常に重くなる。 5 「GST」導入のゆくえ この会計担当者泣かせとも言える複雑な間接税、当然国内だけではなく海外からも批判は大きいので、シンプルに1つに統一しようという動きがあるのも事実である。それがGSTというものである。 このGSTの導入により、事務手続きの簡素化・税の捕捉の効率化が実現でき、一説によればインドのGDPを2%も押し上げる効果があると言われている。 ただしこのGST、導入されることはすでに2009年の時点で決まっているのだが、そこは世界最大の民主主義国家インドらしく、なかなか可決・施行がされない。それはこのGST導入により税収が増える州と減る州があるからで、なかなかその利害が調整されないからである。 かれこれ5年以上議論が続いているのだが、今年2月末に発表されたインド予算案では、2016年4月1日よりの導入を目指すと明記された。ただ、この8月のいわゆる「モンスーン議会」でも可決には至らず持越しになる見通しなので、まだまだ安心できる状況ではないと言える。 現状では14%~16%程度の税率を予定しているようだが、このあたり日系企業への影響も大きいので、今後も注目する必要があるだろう。 (了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第35回】 「国外転出(贈与)時課税の適用を受ける場合の 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、年金暮らしをしています。平成27年9月1日、東京証券取引所に上場しているA社株式1万株のうちの100株をアメリカに居住している子(非居住者)へ贈与しました。 国外転出(贈与)時課税が創設されましたが、対象になるのでしょうか? 平成27年9月24日現在の保有資産は以下の通りです。 国外転出(贈与)時課税についてご教示ください。 1 概要 国外転出(贈与)時課税とは、平成27年7月1日以後に、贈与時点で1億円以上の対象資産を所有又は契約の締結をしている居住者(贈与の日前10年以内に国内在住期間が5年超)が国外に居住する親族等(非居住者)へ対象資産の全部又は一部(贈与対象資産)を贈与した場合には、贈与時にその贈与対象資産の譲渡又は決済があったものとみなして、贈与対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税される制度である。 次のいずれかに該当する場合には、贈与者は国外転出(贈与)時課税により課された税額を取り消すことができる。 また、納税猶予の適用を受けることで納税を猶予することができる。 2 対象資産 3 確定申告書の提出時期 事例の場合、平成28年3月15日までに国外転出(贈与)時課税の適用による所得を含めて所得税及び復興特別所得税の確定申告書を税務署へ提出するとともに、納税しなければならない。 対象資産1億円以上の判定は、9月1日(贈与の日)で行う。また、贈与しなかった対象資産の価額を含めて行う。 東京証券取引所のA社株式の9月1日(贈与の日)の最終価格1万円に株式数1万株を乗じた額が1億円以上なので、国外転出(贈与)時課税の適用を受ける。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【69】 〔第8章〕判決を読む (その5) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (2 判決をみるポイント) (② 結果を左右した要素を見極める) (3) 判決の示した「一般的法命題」は何か 以前、【第46回】にて「判例といった場合には、その事実が他の事実と入れ替わっても結論に変わりがないような事実を、その具体的事実の中から取り除いて、結論にとって意味のある事実だけを残すことによって抽象化された内容ということになる。」と記したが、この抽象化された内容、一般化した内容を、判決が明確に示すことが多い。 それを「一般的法命題」又は「抽象的法命題」と呼ぶ(ただし、判決でこれが示されない場合があるが、そのような判決を通常「事例判決」と呼ぶ)。 そしてその事案をこの法命題に当てはめることにより、判決が下される。 では前回検討した、馬券の払戻に係る裁判(大阪事案)の最高裁判決から、この点を検討する。 この事案に係る最高裁判決を、裁判所HPの裁判例情報から入手して読んでいただきたい。最高裁第三小法廷平成27年3月10日判決である。 この中の「第2 当裁判所の判断」の「2 本件払戻金の所得区分について」には、以下のようにある。 この部分が、一般的法命題の部分であり、最高裁が今後の同種の事案における判決の方向性を明らかにしたものであり、「判例」とされる部分である。 まず、前回、最高裁では「機械的、網羅的」な購入を重要な事実と認識していない旨記したが、その点を確認しよう。 「第2 当裁判所の判断」の「1 本件事実関係」には以下のようにある。 そして「第2 当裁判所の判断」の「2 本件払戻金の所得区分について」の上記一般的法命題を記した後に、この事案の事実をこの法命題への当てはめるにあたり、以下のように述べている。 最高裁判決中では、あえて「機械的」という文言を避けて一切使っていない。そして「大量的かつ網羅的」という表現が2度出てきている(しかし上記のように「大量的」を使っていない箇所もある)。 このことから、最高裁においては、「機械的」は全く重要な事実として認識されておらず、「網羅的」な購入であることのみが(「大量的」である点含まれるかは、以下で検討する)「重要な事実」とされていることが分かるのである。 次に、ここで明らかにされた一般的法命題の内容について検討しよう。この中の「行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断」をどう読めばよいかである。 第一審判決では、この点につき 「所得の基礎となる行為の規模(回数、数量、金額等)、態様その他の具体的状況に照らして判断」 としており、控訴審判決では 「行為の態様、規模その他の具体的状況に照らして、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」かどうかを判断」 と表現している。 第一審、控訴審とも「行為の態様」「行為の規模」「その他の具体的状況」を判断要素に挙げており、第一審ではこの規模を示すものとして、「回数」「数量」「金額」が挙げられている。 なお「行為の規模、態様その他の具体的状況」又は「行為の態様、規模その他の具体的状況」と態様と規模の後に「「その他の」具体的状況」となっているのであるから、この「態様」と「規模」は具体的状況の例示ということになる。 しかし最高裁では「行為の期間、回数、頻度その他の態様」となっていることから、「行為の態様」の例示として「期間」「回数」「頻度」が挙げられており、また「利益発生の規模、期間その他の状況」となっていることから、「利益発生の状況」の例示として「規模」「期間」が挙げられている。そしてこの「「行為の態様」と「利益発生の状況」等の事情を総合考慮して判断」することとされている。 すなわち最高裁判決では、「利益発生の状況」という第一審判決や控訴審判決では示されていなかった要素が加えられたのであった。 ここで、「大量的」が「重要な事実」に含まれるかについて検討しよう。 「大量的」というのは期間や回数、頻度ではなく、規模を示すものである。そうであるならば、これは「行為の態様」の判断要素ではなく、「利益発生の状況」の判断要素であるところ、上記したように、「購入」という行為の説明として「大量的かつ網羅的な購入」などと使っているのである。 しかし「行為の期間、回数、頻度その他の態様」という一般的法命題の点からは「大量的」は「行為の態様」を示すものではないため(つまり、「長期間、多くの回数、頻度にわたっての購入」が「大量的」にはなるとしても、「大量的」購入が直ちに「長期間、多くの回数、頻度にわたっての購入」になるとは限らない)、「大量的」は「重要な事実」と認識されていなかったものと見るべきであろう。 (続く)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第21回】 「無対価での100%子会社同士の合併 ~連結財務諸表作成会社の場合~」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、無対価での100%子会社同士の合併(連結財務諸表作成会社で、親会社が設立当初から子会社の株式を100%保有している場合)について解説する。 無対価での100%子会社同士の合併とは、例えば、100%子会社A社が100%子会社B社の株主に対して何の対価も交付せずに100%子会社を吸収合併する場合をいう。 また、子会社同士の合併は、「共通支配下の取引(【第18回】参照)」に該当する。 なお、孫会社がある場合については、解説していない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 子会社同士の合併は、共通支配下の取引に該当するため、吸収合併存続子会社は、吸収合併消滅子会社の適正な帳簿価額を引き継ぐ(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準(以下「基準」という)」41)。そのため、吸収合併消滅子会社は合併期日の前日に決算を行い、個別財務諸表上の適正な帳簿価額を算定する(企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「適用指針」という)」246)。 また、個別財務諸表上の適正な帳簿価額とは、吸収合併消滅子会社が継続すると仮定した場合の適正な帳簿価額である(適用指針83、391)。したがって、適正な帳簿価額の算定において、固定資産の減損や繰延税金資産の回収可能性などの会計処理を行う際は、吸収合併が行われないと仮定して会計処理を行う。 なお、【第18回】及び【第19回】と異なり、連結財務諸表上の適正な帳簿価額を算定する必要はない。 親会社と子会社の合併のように垂直的な合併の場合は、合併前と合併後でグループとして実態は何ら変わらないため、合併前の連結財務諸表(親会社と吸収合併消滅子会社のみで作成した連結財務諸表)と合併後の親会社の個別財務諸表は実態として同一になるように、連結財務諸表上の適正な帳簿価額を用いる。 一方、子会社同士の合併のように水平的な合併の場合は、子会社だけで連結財務諸表を作成するわけではないので、合併前の連結財務諸表(親会社と吸収合併消滅子会社のみで作成した連結財務諸表)と合併後の親会社の個別財務諸表を実態として同一になるように会計処理する必要はない。そのため、個別財務諸表上の適正な帳簿価額を用いればよい。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 吸収合併存続子会社は、【STEP1】で算定した吸収合併消滅子会社の資産及び負債を引き継ぐ。 また、吸収合併消滅子会社の払込資本(資本金及び資本準備金)はその他資本剰余金として引き継ぐ。利益剰余金は、そのまま引き継ぐ(適用指針203-2、185(1)②、会社計算規則36②)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 親会社の個別財務諸表においては、吸収合併消滅子会社株式の帳簿価額を吸収合併存続子会社株式の帳簿価額に加算する(適用指針203-2(1)なお書)。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 連結財務諸表における会計処理では、以下の(1)から(3)を検討する。企業グループ全体で見れば、合併前後で何ら変わりはないため、あたかも合併がなかったかのように会計処理することがポイントである。 (1) 開始仕訳及び開始仕訳の振り戻し 連結財務諸表を作成するため、連結財務諸表上での前期までの会計処理を引き継ぐ(開始仕訳を行う)。しかし、子会社同士の吸収合併が行われたため、吸収合併消滅子会社に係る前期までの投資と資本の相殺消去の会計処理はもう引き継ぐ必要はない。そのため、投資と資本の相殺に係る開始仕訳の振り戻しを行う(開始仕訳を消去する)。 (2) 吸収合併存続子会社株式と資本剰余金の相殺 【STEP2】で資本剰余金が計上されるが、子会社同士の吸収合併は連結グループ内の内部取引にすぎないため、【STEP2】で計上した資本剰余金と【STEP3】で振り替えた子会社株式を相殺する(基準44)。 (3) 利益剰余金の期首残高への振り替え 子会社同士の吸収合併を行っても、連結財務諸表上は、吸収合併前と吸収合併後で経済的実態は何ら変わりない。そのため、【STEP2】で吸収合併存続子会社が引き継いだ利益剰余金のうち、取得後利益剰余金については、期首に発生済みのため、期首残高に振り替える。 《設例》 〈会計処理〉 1 A社の会計処理 (※1) 子会社B社の帳簿価額 (※2) 子会社B社の資本金 2 P社の会計処理 (※1) B社株式の帳簿価額をA社株式の帳簿価額に加算する。 結果、合併後のA社株式の帳簿価額は8,000である。 3 連結財務諸表における会計処理 (1) 開始仕訳 (2) 開始仕訳の振り戻し (3) 吸収合併存続会社株式と資本剰余金の相殺 (※1) 1で計上したその他資本剰余金と2で計上したA社株式を相殺 (4) 利益剰余金の期首残高への振り替え 4 連結貸借対照表 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 企業結合年度において、共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、以下の(1)及び(2)を注記する。なお、個々の共通支配下の取引等についての重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する(基準52)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第11回】 「満期保有目的の債券の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 今回は、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)に規定する満期保有目的の債券の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 満期保有目的の債券とは 1 定義 「満期保有目的の債券」とは、満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券のことをいう(金融商品会計基準16項)。 債券には、国債、社債、転換社債型新株予約権付社債などがあるが(金融商品実務指針68項)、このうち満期保有目的の債券に分類できるものは、定義及び要件を満たす債券に限られる(金融商品実務指針272項)。 償還株式は厳密には債券ではないが、一定額で償還されるという債券との類似性に着目してその範囲に含められている。一定額で償還されない償還株式は持分証券(株式)として取り扱う(金融商品実務指針68項)。 2 条件 満期保有目的の債券に分類するためには、価格変動のリスクのないことがポイントとなる。そのため、(a)あらかじめ償還日が定められており、かつ、(b)額面金額による償還が予定されているという条件を満たす必要がある(金融商品実務指針68項、272項)。 債券であっても、その属性から満期保有目的の条件を満たさないものは、この区分に含めることはできず、次のことに留意が必要である(金融商品実務指針68項、272項)。 Ⅱ 「満期まで所有する意図をもって保有する」とは 「満期まで所有する意図をもって保有する」とは、企業が償還期限まで所有するという積極的な意思とその能力に基づいて保有することをいう(金融商品会計基準16項、金融商品実務指針69項)。 次のことに留意する(金融商品実務指針69項、273項)。 Ⅲ 満期保有目的の債券の会計処理 1 考え方 金融商品会計基準は、満期保有目的の債券に関する会計処理の考え方を次のように説明している(金融商品会計基準71項、金融商品実務指針272項、273項)。 2 貸借対照表価額及び償却原価法 満期保有目的の債券については、取得原価をもって貸借対照表価額とする(金融商品会計基準16項)。 ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない(金融商品会計基準16項)。 次のことに留意する。 3 満期保有目的の債券の売却取引 満期保有目的の債券を償還期限前に売却した場合、売却価額と売却時の償却原価との差額を当期の売却損益に計上する(金融商品実務指針83項ただし書、71項)。 次のことに留意する(金融商品実務指針71項、275項)。 4 満期保有目的の債券の売却に係る損益の表示 「金融商品会計に関するQ&A」Q68では、満期保有目的の債券の売却損益は、残りの満期保有目的の債券の保有意思を否定されない合理的な理由による売却に伴う損益である限り、純額で営業外損益に計上することが適切としている。 ただし、満期保有目的の債券の売却は厳しく制限されており(金融商品実務指針83項)、合理的な理由によらない売却に伴う損益は、特別損益に計上する必要があると述べている。 (了)