経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第80回】 減損会計④ 「減損会計の対象資産」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 【仕訳】(単位:百万円) (※1) 減損損失の金額の計算 減損損失200=(建物150+土地250+建設仮勘定50+ソフトウェア30+長期前払費用20)-回収可能価額300 回収可能価額については、本連載の第22回「減損会計③」をご参照ください。 (※2) 減損損失の各資産への配分 認識された減損損失は帳簿価額に基づき比例配分を行います(基準6.(2))。 (※3) 建物への配分額60=減損損失200/対象固定資産の合計金額500×建物減損前簿価150 〈会計処理の解説〉 対象となる固定資産 固定資産の減損会計の対象となる資産は固定資産です。そのため、有形固定資産、無形固定資産だけでなく、投資その他の資産もその対象となります(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下「指針」という)5)。ただし、他の基準に減損処理に関する定めがある以下の資産については減損会計の対象資産から除かれます(指針6)。 また、長期前払利息など財務活動から生じる損益に関する経過勘定項目も固定資産の減損会計の対象資産から除かれます(指針68)。 ここで留意すべきこととして、有形固定資産について、建物や土地だけでなく、まだ稼働していない建設仮勘定も減損の対象に含まれます(指針68)。 無形固定資産については、「研究開発費等に係る会計基準」には市場販売目的のソフトウェアの減損処理について定めがありますが、自社利用目的のソフトウェアについては減損処理の定めがないため固定資産の減損会計の対象資産になります(指針69)。 投資その他の資産については、投資有価証券や敷金は金融資産に該当するため固定資産の減損会計の対象資産から除かれますが、権利金等を処理している長期前払費用は固定資産の減損会計の対象資産となります(指針68)。 * * * 次回は、遊休資産の減損会計の取扱いについて解説します。 (了)
非正規雇用の正社員化における留意点と労務手続 【第3回】 「企業の正社員化へ向けた取組み状況と 正社員登用制度運営時のポイント」 特定社会保険労務士 池上 裕美 前回は、非正規社員をめぐる近年の法改正の内容を確認し、企業がこれらの改正に対しどのようにな検討を行っているのかについて、統計データ等をもとに検証を行った。 今回はこれら正社員登用・転換事例にみられる特徴と正社員登用時における企業対応のポイントについて解説したい。 1 正社員登用の転換事例の特徴 正社員登用の転換事例には、以下のような特徴がみられる。 上記の正社員登用へ向けた積極的な動きは、今後の労働力供給の減少の見通しと有効求人倍率の上昇もあって、他社に先駆けて優秀な人材を確保しておこうという企業の意識が高まったものと考えられる。 また、労働契約法の改正のみならず、短時間労働者の社会保険(健康保険、厚生年金)の適用に関して、現在は通常の労働者の所定労働時間、所定労働日数の概ね4分の3以上になると被保険者として社会保険に加入することとなっているが、2016年10月からは、従業員501人以上の企業で、次の要件を満たす短時間労働者も社会保険の適用対象となっている。 こうした社会保険の適用範囲の拡大は、企業にとって保険料の負担増へつながることから、この改正前に非正規社員の人材の質を向上し活用を図ろうとして、積極的な正社員登用を行っている企業があるものと考えられる。 2 正社員登用に当たっての企業対応のポイント 実際に企業が正社員登用制度を行う際には、以下のような点に留意したい。 正社員登用は通常の採用と同様に、手続を整備することはもちろん、もともと社内で勤務していた非正規社員だからこそ、正社員登用の基準を明確にし、正社員と非正規社員の違いを意識づけしておくことが必要である。 正社員登用は、新入社員の採用時のような緊張感が損なわれる可能性が高い。しかし、上記のポイントを踏まえ、手続を怠らず、基準を明確にしておくことで、非正規社員の納得性と公平性を得ることができるであろう。 * * * 次回は正社員登用時における具体的な手続について解説する。 (了)
〈まずはこれだけおさえよう〉 民法(債権法)改正と 企業実務への影響 【第4回】 「時効」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 原則的な時効の期間 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」6頁より抜粋。なお、同内容の改正法案が現在国会に提出されている。 (1) 現行法 現行民法166条1項、167条1項は、消滅時効の起算点を「権利を行使することができる時」と定め、原則的な消滅時効の期間を10年間と定めている。 一方、現行民法170条から174条は、職業別の短期消滅時効の規定をおき、職業ごとの債権について、1年ないし3年の短期の消滅時効を定めている(具体例は下表のとおり)。また、商法522条は、商取引によって生じた債権については、5年間の消滅時効期間を定めている。 【職業別短期消滅時効の例】 (2) 改正法による時効期間の統一 上表のように、職業別に個別に短期の消滅時効期間を設けることには、現代では合理性がないと指摘されていた。また、原則的な時効期間を10年とするのも、最近の国際的な動向等からすると、長すぎるという指摘もなされていた。 そこで、改正法案では、職業別の短期消滅時効の規定や商事債権の消滅時効の規定を撤廃し、時効期間を統一して単純化するものとされた。 具体的な時効期間としては、権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間とされた。これにより、通常の売買代金等の債権であれば、弁済期(支払期日)がいつであるのか認識できているので、弁済期から5年間で消滅することになる。 一方、不当利得返還請求権や、労働災害などにおける安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権など、債権者が債権の存在を認識できておらず、直ちに権利行使が期待できないような債権も考えられ、そのような場合は、権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間で時効が成立するものとされた。 2 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」7頁より抜粋。なお、同内容の改正法案が現在国会に提出されている。 (1) 除斥期間を消滅時効とすることの改正 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について、現行法は、①被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、又は②不法行為の時から20年間経過した時に権利が消滅するものとされている。 このうち②は、判例上、いわゆる除斥期間と理解されてきた。除斥期間は、消滅時効と異なり、中断させることができないとされているので、時に被害者に酷な結果となる事案が見受けられた。 そこで、改正案では、上記②については、除斥期間ではなく、通常の消滅時効であることを明確に規定し、被害者が権利行使することで時効の進行を止めることができるものとされた。 (2) 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効 生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、財産の棄損などの損害賠償請求権よりも被害者保護の必要性が高いことから、改正案では、通常よりも消滅時効の期間を長くしている。 具体的には、不法行為によって生命・身体が侵害された場合には、被害者又は法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年とされているところを、5年間としている。 また、不法行為以外の原因とする損害賠償請求権(債務不履行に基づく損害賠償請求権等)の客観的起算点からの時効期間について、上記のとおり原則10年のところが、生命身体に対する損害賠償請求権については20年とされている。 3 時効の完成猶予・更新 (※) 法制審議会にて決定された「民法(債権関係)の改正に関する要綱」9頁より抜粋。なお、同内容の改正法案が現在国会に提出されている。 (1) 時効の完成猶予・更新 現行民法では、時効の成立を阻止する制度として、「時効の中断」「時効の停止」という規定を定めている。時効の中断は、中断事由が発生した時点で、これまで経過した時効の期間はゼロに戻り、中断事由の終了時からあらためて期間が進行することになる。時効の停止は、時効の停止事由が発生しても、経過した時効の期間がゼロに戻るわけではなく、一定期間時効の完成を猶予するものである。 この時効の中断や停止については、一般に理解しにくいのではないかという指摘があったため、時効の中断や停止の制度については、「更新」と「完成猶予」の制度に再構成されている。 (2) 協議による時効の完成猶予 改正案では、現行民法にはない「協議による時効の完成猶予」の規定が設けられた。 これは、消滅時効の期間が到来する間際において、当事者間で支払いに関する協議などが行われることは実務上多いが、現行民法下では、協議中においても消滅時効の完成を避けるためにわざわざ訴えを提起する必要があり、そのような不便さに対応するため、当事者の協議を行うことの合意によって、時効の完成の猶予を認めるものである。 当事者間の協議の合意によって時効の完成が猶予されるためには、その合意の存在を明確化する観点から、書面により協議をする旨の合意をすることが必要とされている。 4 企業実務への影響 まず時効の期間が変更になるため、時効管理の実務にもそれを反映する必要がある。メーカーや商社の売掛債権のように、これまで職業別の短期消滅時効が適用されていた債権については、時効の期間が延びるため、債権者の立場からすると、有利な面はある。 もっとも、時効は、債務者の立場からすると、弁済に関する資料を保存する必要がある期間とも関係する。弁済を終えた債権の請求に対応するため、少なくとも時効期間が満了するまでは弁済に関する資料を保管しておく必要があるが、時効期間が延びる場合には、その対応が必要となる。 (了)
コーポレートガバナンス・コードのポイントと 企業実務における対応のヒント 【第5回】 「取締役会等の責務②」 ~独立社外役員について(4-7,4-8)~ あらた監査法人 ディレクター 井坂 久仁子 〔取締役会等の責務〕 前回に引き続き、本稿では、2015年3月5日に確定した「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために~」(以下「CGコード」)第4章「取締役会等の責務」から、「原則4-7. 独立社外取締役の役割・責務」、および「原則4-8. 独立社外取締役の有効な活用」について、英国での実務を紹介しつつ解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 〔独立社外取締役の役割〕(原則4-7) 原則4-7では、特に以下の役割・責務を独立社外取締役が果たすことが期待される、としている。 独立社外取締役は、業務執行の監督をすることがもっぱらの責務であるといわれてきた。それが、上記(ⅱ)や(ⅲ)にも反映されていると考えられる。 一方、「攻めのガバナンス」であるCGコード策定の背景を考慮すると、( i )は、どちらかというと会社の積極的な戦略を支援するためのアドバイスを経営者としての経験豊富な独立社外取締役に求めているとも解釈できる。助言(アドバイス)のベクトルは、守りというよりは、会社の持続的成長・中長期的な企業価値向上に向かっていることがここでは明確になっている。 〔独立取締役の有効な活用〕(原則4-8) CGコードでは、原則4-7において、独立社外取締役の役割・責務を明確化した上で、原則4-8において、そのような役割と責務を担う独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとしている。 すでに、東京証券取引所(以下「東証」)の上場規程(※1)では、企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社は独立役員(東証の独立性基準を満たす社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することが規定されており、全上場会社において少なくとも1名以上の独立役員がすでに確保されている(※2)。 (※1) 有価証券上場規程第436条の2。 (※2) 「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015」 とはいえ、次表の通り、東証に上場する3,461社のうち、約86%(2,964社)は、届け出られた独立社外取締役が2名未満である(本稿執筆現在(2015/4/20))。 表1 (出所:2015年4月20日現在の東証「コーポレート・ガバナンス情報サービス」より筆者が作成) 平成26年改正会社法(施行は2015年5月1日)により、社外性要件がより厳格化されるため、現在独立社外取締役として届け出られている取締役が社外性の要件を満たさない可能性もある。また、独立性の要件を満たすすべての社外取締役を独立役員として会社が届出をしているとは限らないため、実際の独立社外取締役数は上記より相当多いことも考えられる。 そのため、CGコードが適用される2015年6月1日以降の独立社外取締役数は必ずしも上記とは一致しないが、1つの目安にはなるだろう。 多くの上場会社で2名以上の独立社外取締役を選任していない現状があるとして、独立社外取締役を2名以上選任することの意味を上場会社がそれぞれの状況に応じて考える必要がある。 これらを検討する際に、独立社外取締役を複数名選任することが必須となっている諸外国の事例が参考になるかもしれないと考え、以下に英国等の例を紹介する。 〈英国上場会社の取締役会〉 図1は、英国のFTSE350指標を構成する会社の平均的な取締役会の構成を示している。 図1 英国のコーポレートガバナンス・コード(※3)(B.1.2)では、少なくとも半数は、独立非業務執行取締役から構成されるべきであるとされている。また、取締役会議長(Chairman)は、業務執行を担う最高経営責任者(CEO)とは別の独立非業務執行取締役が担当することが要求されている。 (※3) 本稿での英国のコーポレートガバナンス・コードとは、財務報告評議会(FRC)が公表する“UK Corporate Governance Code (September 2014)”を指す。こちらのリンク先から入手可能。 平均的な取締役会人員数は(議長を除き)9.5名、内、非業務執行取締役は5.7名、業務執行取締役は、2.8名であり、この取締役会の規模は、一般的な米国の規模(S&P500が10.7名、このうち8名が非業務執行取締役)より若干小さいが、日本の東証一部(平均8.61名)やJPX400(平均10.29名)の上場会社と概ね同規模である。 また、英国の取締役会には、1名程度の独立性要件を満たさない非業務執行取締役が存在し、独立性要件を満たさない理由は、会社の重要な株主である(50.8%)、9年を超えて取締役を務めている(27.9%)等となっている(出所: Grant Thornton,“Corporate Governance Review 2014”)。 日本の上場企業においては、一部の委員会設置会社を除き、独立社外取締役が取締役会の半数を占める例は、ほとんど見当たらない。日本の上場会社における1社当たりの社外取締役平均人数は、東証上場会社全体で平均1.10名、JPX日経400構成会社の監査役設置会社における社外取締役の平均人数は1.78名である(※4)。 (※4) 「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015」 CGコードでは、原則4-8の背景説明において、独立社外取締役を としている。ここでは、独立社外取締役を複数名設置することによって、独立社外者として十分な発言力が発揮できることを期待していると考えられる。 それでは、この独立社外取締役を複数名選任することによって、何が達成されるのか。 補充原則4-8①および4-8②は、いずれも独立社外取締役が複数名選任されていることによって初めて成立する仕組みであり、1名では成立しないか、もしくは、当該1名の独立社外取締役への過度な負担が懸念されるものである。 ▷ 補充原則4-8① 独立社外取締役は、取締役会における議論に積極的に貢献するとの観点から、例えば、独立社外者のみを構成員とする会合を定期的に開催するなど、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を図るべきである。 〈米国等におけるエグゼクティブ・セッション〉 いわゆる米国でエグゼクティブ・セッションといわれる会議体が独立社外者のみを構成員とする会合に相当する。 米国では、コンプライ・オア・エクスプレイン型のコーポレートガバナンス・コードはないが、取引所規則等においてコーポレート・ガバナンスに関する規定がある。例えば、NYSE規則(303A.03)では、非業務執行(non-management)取締役が経営陣(management)に対するより効果的なチェック機能を果たすために、経営陣(CEOやCFOを含む)を交えない非業務執行者だけの会合を定期的に開催することが求められている。 この場合の非業務執行取締役は、必ずしも独立性要件を満たす取締役に限定する必要はないとされるが、上場会社の選択により独立非業務執行取締役に限定した会合を定期的に開催することも可能である。いずれの場合も、少なくとも年に一度は、独立非業務執行取締役だけの会合を開催することが要求されている。NYSE規則では、このような経営陣を交えない会合によって、非業務執行取締役間のコミュニケーションの活性化が図られるとしている。 また、英国のコーポレートガバナンス・コード(A.4.2)においても、非業務執行取締役だけのエグゼクティブ・セッションの定期的な開催が要求されており、少なくとも年1回は取締役会議長を交えない会合を開催し、その会合では、取締役会議長の実績評価をすることが規定されている。 このように、社内者を含めない、独立社外者のみの会合は、諸外国でも有用であるとみなされ定期的な実施が奨励されている。仮に、日本企業において複数名の独立社外取締役を選任しない(できない)場合においては、独立性の要件を満たさない社外取締役等に参加者を拡大した会議体を定期的に開催することによって、同様の目的を達成することが可能かどうかを検討する余地があるかもしれない。 ▷ 補充原則4-8② 独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携にかかる体制整備を図るべきである。 〈英国における筆頭独立社外取締役の役割〉 筆頭独立社外取締役の設置は、独立社外取締役が複数名存在することによって成り立つ。 理論的には、2名以上の独立社外取締役が存在すれば、そのいずれかを筆頭とすることは可能であるが、人数にかかわらず、筆頭独立社外取締役が具体的にどのような役割を担うのか、各社が予め明確にしておく必要があると考えられる。 英国では、上席独立取締役(Senior Independent Director)(以下「SID」)が日本のCGコードの筆頭独立社外取締役に相当する。その役割は、英国の財務報告評議会(FRC)のガイダンス(※5)によると、次の通りである。 (※5) FRC,“Guidance on Board Effectiveness”(March 2011) 上記を踏まえて、取締役会は、どのような状況下において、SIDが中心的役割を果たすか明確な方針を決めておく必要があるとされ、具体的には、次のようなケースが例示されている。 なお、本稿の範囲ではないが、上記以外のSIDの役割として、英国のコーポレートガバナンス・コード(E.1.1)では、「株主との対話」の一環として、SIDは、 と規定されている。 上記は、英国におけるSIDの役割と責務の一例であるが、これらは、日本の上場会社が筆頭独立社外取締役の役割と責任を文書化する際の参考とすることが考えられる。さらに、筆頭独立社外取締役を設置しない場合には、上記のような役割と責任を誰が担うのか、予め検討しておくことも必要だろう。 英国の上場会社の開示では、SIDの責任と役割範囲の説明に加えて、SIDにふさわしい資質や、SIDのパフォーマンスの評価者や報酬決定者が誰であるか明記されている場合が少なからずある。 例えば、マークス・アンド・スペンサー社がウェブサイト(※6)上で公開している「ガバナンス・フレームワーク」(2015年3月)では、SIDのパフォーマンスは、取締役会議長および非業務執行取締役がレビューすること、さらに、SIDの報酬は、取締役会議長およびCEOが設定することが明記されている。 (※6) 以下のウェブサイトから入手可能。 「GOVERNANCE FRAMEWORK (March 2015)」 また、同社のSIDの主な責任範囲には、次のような事項が列挙されている(仮訳は筆者)。 日本のCGコードにおける筆頭独立社外取締役に相当する英国のSIDの役割と責任は、同国においては取締役会の少なくとも半数が独立非業務執行取締役であるという状況を反映するものではあるが、今後、長期的な視点で取締役会のあり方を検討する上で、日本企業の参考となるかもしれない。 〔企業はどう対応すべきか〕 単に、独立社外取締役の人員数を最低限2名そろえるというよりは、実質的に取締役会を有効な場とするために何が必要か、どのような役割を独立社外取締役に求めるのかを明確にする必要があることは言うまでもない。 一方で、その必要性は明らかであっても、限られた時間内に会社にとって最適な独立社外取締役を複数名選任することが困難であることも考えられる。そのような場合の暫定的措置として、独立性基準を満たさない社外取締役または社外監査役に、一定の独立社外取締役の役割と責務を任せることができるかどうか、検討の余地があるかもしれない。 あるいは、そもそもの自社の独立性基準の設定を見直すことがより現実的な場合もあるかもしれない。自社において独立社外取締役に求める役割と責務を熟考すれば、場合によっては、ある独立性の要件が不要であると判断される場合もあるかもしれない。その判断理由は合理的に説明(エクスプレイン)可能だろうか。独立性の要件については前回に記載したところであるが、あらためて、その詳細を検討することが必要になるだろう。 以上をまとめると、図2の通り、CGコードの適用に当たっては、原則4-7から原則4-9を総合的に検討し、CGコードが想定する独立社外取締役に期待する役割・責務を果たすために必要な施策を各社がそれぞれの状況に応じて策定することが必要となる。それは、おそらく上場会社各社によって異なるものになるが、それが原則主義のコーポレートガバナンス・コードの適用のあるべき姿ではないか。 図2 (了)
〔小説〕 『東上野税務署の多楠と新田』 ~税務調査官の思考法~ 【第8話】 「多楠の失敗」 税理士 堀内 章典 準備調査の内容 調査着手前の内偵調査によると、店の営業時間は、ランチが11時30分から14時、夜は18時から深夜1時まで、休みは不定期となっていた。2週間前の金曜日20時過ぎに、内偵で店に入った田村と小泉、店は活況を呈していることを把握していた。 田村統括官から指令を受けた小泉、新田、多楠調査官らは、新田の席で打ち合わせを始めた。机の反対側に座っている淡路調査官は、興味津々でヒソヒソ話をする3人に聞き耳を立てていたが、あいにく指導役の三浦上席に呼ばれたため、渋々席を立った。 小泉調査官はいつものように落ち着いた口調で、事案の概要について用意していた準備調査のペーパーをもとに説明を始めた。 小泉は新田よりも2、3歳年長だが、総務課主任の在籍が長く、法人税調査は4年目とそんなに経験豊富とは言えない。しかし、総務課を経験したからか、常に物腰が柔らかく、落ち着いて丁寧な口調で話をする調査官であった。 淡々と事案説明をする小泉に、新田は無言でときどきうなずく程度、多楠は初めて耳にする調査用語も出てきて、小泉の説明を聞いているだけで、ドキドキしていた。 数週間前に行った内偵調査の結果、つかんだことは次のとおり。 無予告調査のはじまり 調査着手前の打ち合わせでは、明日火曜日ランチが始まる前の10時、最初店には小泉と新田が入り、多楠はしばらくの間、通りに面している裏口を見張ることにした。 いよいよ多楠にとって初めての無予告調査の始まり。当日10時前に、何気なく店の前にたたずむ3人の調査官、初めての無予告調査で緊張感が最高潮に達する多楠、小泉と新田は手馴れたものでいつもと何ら変わらない様子である。 10時になるやいなや小泉と新田は店に入り、多楠は打ち合わせどおり裏口の前に張りついた。 2人が店に入ると、先日店にいた若手の板前とミキと呼ばれていた社長の妹と思われる女性が忙しそうに働いていた。 「東上野税務署の小泉と言います。社長さんはいらっしゃいますか。」 エプロンで手を拭きながら応対に出るミキ 「税務署?何のご用ですか。」 「社長の藤田さんはいらっしゃいますか。」 朝早くからスーツ姿2人の男が現れ、ミキもその異様な雰囲気を肌で感じている。なかなか用件を言おうとしない小泉にミキは語気をやや荒げて 「ですから何のご用ですか。」 小泉 「あなたのお名前は?」 いきなり失礼なと思ったミキであるが気を取り直して 「今泉と申します。社長の藤田の妹です。ですから何のご用で見えたのですか。」 目鼻立ちのスッキリした端正な顔立ちだが気の強さが少々にじみ出ている風貌のミキに小泉が言う。 「今泉さんですね。有限会社すし勢の取締役ですね。それでは申し上げますが、本日すし勢の法人税調査でお伺いいたしました。突然の調査で大変恐縮ですが、調査にご協力願います。」 小泉がなかなか用件を言わなかったのは理由がある。任意で行われる税務署の調査では、まず社長あるいは取締役に面接して、調査への協力要請を行ってから調査に着手するのが手順なのだ。 予告して行う調査であれば、電話での事前通知の中で協力要請を行うが、無予告調査の場合、何ら行為責任のない従業員に調査予告をしても意味がない。従業員とのやり取りをしている間に、社長に逃げられてしまうこともある。無予告調査の場合は、特に初動が重要であり、慎重を期す必要があるからだ。 そんな小泉の慎重な対応が、・・・。 小泉とのやり取りをしている間2~3分くらいは経過しただろうか、やっと状況が呑み込めたという表情のミキがようやく店の奥の部屋に社長を呼びに行った。 「兄さん、税務署の人が2人来たわよ。これから調査をするんですって!」 「あら?いないわ、ついさっきまでいたのに、どこに行ったのかしら・・・」 慌ててミキの後を追い、奥に入る小泉、やや散らかった厨房とさらにその奥にある小部屋、さすがに内偵調査ではこの小部屋まで確認することはできなかった。確かに灰皿には完全に消えていないタバコと、部屋中にタバコの煙が満ちている。ついさっきまで人がいたことは間違いないようだ。 小泉 「失礼します。このドアが勝手口ですか。」 ミキ 「そうですけど・・・」 小泉がドアを開けると、外にはバツの悪そうな顔をした多楠が一人立っていた。 小泉 「だれかこのドアから出て行かなかったか?」 多楠 「一人だけ、今さっき60過ぎの老人が出ていきました。」 店をいったん出て外を回って急ぎ裏口にやって来た新田が叫んだ! 「やられた。逃げられた。」 多楠 「でも60歳くらいの老人でしたよ。足を引きずりながら昭和通りの方に歩いて行きました。」 新田 「そいつに誰なのか聞いたのか。」 多楠うつ向きながら 「??いいえ・・・」 新田 「バカヤロー!きっとそいつが社長だ!!」 多楠は初めて鬼のような形相をした新田を見て恐れおののいた。 社長が足を引きずりながら歩いて行った昭和通りまで、多楠は慌てて追いかけたが時すでに遅し。タクシーにでも乗ってしまったのか、それらしき人物は見当たらなかった。 肩を落として店に戻ってきた多楠に新田が聞く。 「社長は何か持っていたか。」 多楠 「たしか手提げ袋みたいなものを持っていたような・・・?」 新田の怒りは収まらない。店に戻るなり、ミキに言った。 「社長はなぜ逃げたんだ。」 気の強いミキもけっして負けてはいない、ソッポを向きながら 「そんなの知りませんよ。本人に聞いてください。私だって気が付いたときは、店の中にいなかったんですもの。」 そんな中でも落ち着いている小泉はミキに言った。 「今泉さん、あなたも取締役であり、調査に立ち会える立場にあります。社長がいなくなった以上、あなたに調査に協力してもらう必要があります。」 ミキ 「そういったって、私詳しいことはわからないし、聴かれてもどう返答していいかわからない。困ります。」 小泉も簡単には引き下がらない。 「社長が取った疑わしき行動についてはあとでその理由を聴くにしても、取締役であるあなたにも調査に立ち会うべき責任がある。あなたができる範囲でいいから調査に協力してください。」 その後、小泉とミキが協力する、しないで何回か押し問答をしたが、結局非は自分たちにあると察したミキがようやく協力に応じることになった。 小泉 「顧問の林税理士にも速やかに連絡し、立ち会ってもらう必要があります。」 と言って、携帯電話から林税理士の事務所に連絡を取った。林税理士はあいにく出かけているとのことで、折り返し小泉の携帯電話に連絡するように電話口に出た事務員に依頼した。 ▼ ▲ ▼ これまでの一部始終を小泉の傍らで聞いていた多楠がふと新田の方を見ると、相変わらず鬼のような形相をした新田と目があった。 新田が多楠に言う。 「お前、署に戻れ!目障りだ!!」 え!驚く多楠、小泉も驚きを隠さず言う。 「新田さん、何もそこまでしなくても・・・。」 と言いかけたところで新田 「サッサと帰れ!」 多楠は、“新田さんは一度口にしたことを撤回するような人ではない”と観念し、今にも泣き出しそうな顔で店を出て行った。心配そうにその後ろ姿を見つめる小泉、そしてミキが目じりを釣り上げて、新田に向かって 「あなたってさっきから見ているとずいぶん怖い人ね。何だか今の若い人が可哀そう。」 と言いながらミキは携帯電話を手にして電話をし出した。小泉に頼まれてもいないのに社長の藤田に電話したのだ。すると、奥の小部屋から携帯電話の鳴る音がした。小部屋に入るなり、ミキの声がした。 「あらいやだ、兄さんたら携帯電話も置いたまま出て行ったみたい。もうまったく、これじゃ連絡もとれやしない。」 奥から出て来るなりミキが言う。 「兄は40歳前だけど年よりだいぶ老けて見えるの。さっきの若い税務署の人が見間違えるのも無理がないわ。あなた方も兄に会えばわかるわよ。」 「調査には協力するからあの若い人をあまり責めないで。」 無言の新田に替わって小泉が 「それではランチタイムが始まる前に、お店の中の確認をさせてください。」 いきなりの大波乱、やっとのことで店舗内の現場確認調査が始まった。 (続く)
《速報解説》 意見募集を経て「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」が公表 ~発生しうる不正事例とその対応を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年4月30日付で(ホームページ掲載日は5月1日)、日本公認会計士協会は、「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第91号)を公表した。 これにより、平成27年2月13日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 工事契約については、「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)及び「工事契約に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第18号)が適用されている。 実務指針91号は、その適用に際して、一般的に会計上の見積りの不確実性の程度が大きく、会計上の見積りに関する重要な虚偽表示リスクが高くなることがあることや、後述する「原価の付替え」を用いて決算日における工事進捗度の調整を通じた工事収益の操作などの不正が行われる可能性があることについて述べている。 監査・保証実務委員会実務指針ではあるが、工事進行基準の適用に関する具体的な問題が述べられているので、事業会社においても参考になるものと思われる。 公開草案に寄せられたコメントとその対応については、「監査・保証実務委員会実務指針『工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い』(公開草案)に対するコメントの概要とその対応」(以下「コメント対応」という)が公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 実務指針91号の適用範囲に関する留意点は次のとおりである。 2 重要な虚偽表示リスク 重要な虚偽表示リスクには、会計上の見積りの判断を誤ることによる誤謬だけでなく、意図的に工事原価総額の見積りを調整することや、発生した工事原価を意図的に異なる工事契約に係る認識の単位に計上すること(実務指針91号は「原価の付替え」と呼んでいる)による、決算日における工事進捗度の調整を通じた工事収益の操作などの不正によるものも含まれる(実務指針91号5項)。 3 リスク評価手続関係 工事進行基準に関する会計上の見積りの不確実性について、工事契約の変更が行われた場合でも、その変更金額が工事契約の変更の都度決まらないときがあることや、各工事契約に対する監視活動について、労務安全管理又は工程管理が重視される傾向があり、原価管理について監視活動が実施されていても工事進行基準の適用の妥当性という観点からは必ずしも十分に実施されていない可能性があることなどが述べられている(実務指針91号8項)。 このように重要な虚偽表示リスクが具体的に述べられているので、事業会社においても、参考になるものと思われる。 4 不正事例 次の不正事例が紹介されている(実務指針91号10項)。 コメント対応では、上記の①が想定される状況として、次のケースを例示している。 5 関連のない他の工事契約に係る認識の単位との間の工事原価の振替及び付替えの防止に関する業務プロセス 原価の付替えを含む工事原価の振替について理解する業務プロセスとして、次の事項が例示されている(実務指針91号44項)。 決算日における個々の工事契約の進捗状況や損益状況、全体としての業績等を考慮し、意図的に工事原価を振り替える可能性があり、原価の付替えは財務諸表に重要な虚偽表示を生じさせるリスクがあると述べている(実務指針91号44項)。 これらの記載についても、事業会社においては、参考になるものと思われる。 Ⅲ 適用時期等 平成27年4月1日以後開始する事業年度に係る監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。 実務指針91号の公表に伴い、平成27年4月30日をもって、「建設業における工事進行基準の適用に係る監査上の留意事項」(業種別委員会報告第27号)は廃止された(ただし、平成27年4月1日前に開始する事業年度に係る監査については、適用される)。 (了)
2015年4月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.117が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
「特定の事業用資産の買換え特例(9号買換え)」 平成27年度改正のポイント 【第1回】 「延長・見直し後の要件をおさえる」 税理士 内山 隆一 ▷はじめに 平成27年度税制改正により、租税特別措置法第37条第1項第九号《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》及び同法第65条の7条第1項第九号《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》における長期所有の土地等から国内にある土地、建物、機械装置等への買換え(いわゆる「9号買換え」)について、下記の事項の見直しを行った上、適用期限を平成29年3月31日まで2年3月延長することとされた。 ◆ 改正内容 ◆ (1) 買換資産の範囲から、「機械装置」及び「コンテナ用の貨車」を除外 (2) 譲渡資産の所在地域と買換資産の所在地域に応じて圧縮率(課税の繰延割合)を下表のとおり引下げ 1 改正後の制度の概要(措置法65条の7①九) 法人(清算中の法人を除く)が、平成29年3月31日までに、下表に掲げる譲渡資産(棚卸資産を除く)を譲渡し、その譲渡日を含む事業年度において下表に掲げる買換資産を取得し、その取得日から1年以内に事業の用に供したとき又は供する見込みであるときは、その買換資産につき、圧縮限度額(注1)の範囲内で、一定の方法(注2)により経理したときに限り、その経理した金額相当額を、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。 (注) 買換資産である土地等は、次に掲げる土地等で面積が300㎡以上のものに限られる。 (1) 事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設を除く。以下「特定施設」という)の敷地の用に供されている土地等(その特定施設に係る事業の遂行上必要な駐車場の用に供されるものを含む) (2) 駐車場の用に供される土地等(建物又は構築物の敷地の用に供されていないことについてやむを得ない事情があるものに限る) 2 圧縮限度額が「70%」又は「75%」となる地域(措置法65条の7⑭) 〈 ま と め 〉 - 参 考 - ① 首都圏既成市街地 ② 首都圏近郊整備地帯 〔追記:2015/6/23〕 上記(注1)(注2)について、市町村合併情報の漏れにより表記ミスがありました。お詫びの上、訂正させていただきます。 ③ 近畿圏既成都市区域 (了)
欠損金の繰越控除制度に関する 平成27年度税制改正事項 【第1回】 「控除限度額と繰越期間の見直し」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成27年度税制改正では、法人税率引下げに伴う代替財源確保のために、欠損金の繰越控除制度について見直しが行われている。本稿では、3月31日に公布された改正税法を踏まえ、改正内容とその影響について確認していく。 1 控除限度額の段階的引下げ 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度、青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越控除制度における控除限度額について、次のように段階的に引き下げられることとなった。 ただし、中小法人等については現行の控除限度額を据え置くこととし、引下げは行われていない。ここで、「中小法人等」とは次の法人のことをいう。 また、法人の規模に関係なく、平成29年4月1日以後に開始する事業年度において発生する欠損金については、繰越期間が「9年」から「10年」に延長された。 これを受けて、欠損金の繰越控除制度の適用に係る帳簿書類の保存期間も、9年から10年に延長されている(平成29年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金について適用)。 この結果、中小法人等については、平成27年度改正後も控除前所得の全額を控除できることは変わりなく、欠損金の繰越期間が9年から10年に延長されたのみである。 以上をまとめたものが以下の表である。 ◆平成27年度税制改正前後における欠損金の繰越控除制度 2 事例を用いた検証 平成27年度税制改正後の欠損金の繰越控除について、中小法人等に該当しない場合と該当する場合に分けて、事例によりその影響を検証する。 【事例①】 平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合 (中小法人等に該当しない場合) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 中小法人等に該当しないため、平成29年3月期までの控除限度額は控除前所得の65%相当額となり、その後は50%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金42,000,000円は切り捨てられることになる。 【事例②】 平成27年3月期決算において欠損金90,000,000円が発生した場合 (中小法人等に該当する場合) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 中小法人等に該当するため、繰越期間を通して控除限度額は控除前所得の100%相当額となる。平成27年3月期に発生した欠損金の繰越期間は9年間であるため、平成36年3月期までに控除できなかった欠損金は切り捨てられることになるが、この事例では欠損金の全額を控除できたので切捨ては発生していない。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第9回】 「通達によらない評価」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 1 通達によらない評価が行われる2つの場面 第一は、納税者が通達による評価と実勢時価との間の乖離を利用して租税回避行為を行ったことにより相続税が免れられるような場合である。 例えば、路線価1億円の土地を8億円の借入金によって実勢時価8億円で購入する、相続時に財産を1億円として計上し債務8億円を控除する、その後相続人が当該土地を実勢時価9億円で売却して借入金を返済する。このように借入金によって土地を取得することで債務超過7億円(相続税評価額1億円-債務額8億円)の分だけ相続財産を減少させることができる。 このような租税回避に対応するため、評価通達6を根拠として、土地を取得価額8億円で評価する課税処分が行われている(それにより財産は8億円、債務8億円となる)。 第二は、通達が予定していない個別事情が存在し、画一的な評価基準によると適正に時価を表すことができない場合である。 相続税法における「時価」は、客観的な交換価値を意味することから、通達に従って評価した金額が「時価」の範囲内であれば適法であるが、これが他の証拠によって「時価」を超えていると判断された場合には違法となると解されている(名古屋地裁平成16年8月30日判決〔LEX/DB・28092607〕)。 2 通達によらない評価方法としてどのようなものがあるか (1) 売買実例価額は採用されるか [1] 売買実例価額が採用された事例 評価対象地又は近隣の土地が、相続開始日の近い時点で売買されることがある。 その売買価額は、時価として採用できるであろうか。 前述のように、納税者による租税回避防止のために、通達による評価に代えて取得価額(売買価額)により評価した事例として、東京地裁平成4年3月11日判決〔税資188・639〕、東京地裁平成4年7月29日判決〔税資194・375〕、東京地裁平成5年2月26日判決〔税資192・180〕がある。 また、マンションの評価について、水漏れや床の傷みなどの固有の事情が認められることから、相続開始日より6ヶ月後の売却価額を基に時点修正を行った金額が採用された事例として平成22年9月27日裁決〔TAINS・F0-3-249〕がある。 [2] 売買実例価額が採用されなかった事例 一方、納税者が、相続開始後の土地の売却価額を相続財産の評価に採用すべきとする主張が認められなかった事例がある。 例えば、相続開始1ヶ月後に売買が行われた事例において、当該売却価額は相続税を納付するために売却したことがうかがわれることから、客観的交換価値を示す価額とはいえないとされている(平成15年6月20日裁決〔TAINS・F0-3-131〕)。 また、別の事例においては、相続税評価額(149,834円/㎡)が、譲渡単価を基礎として公示価格の変動率に基づいた時価相当額(157,858円)を下回っていること(平成16年4月12日裁決〔裁事67・589〕)や、購入者が不動産業者に限定されていることから客観的交換価値として前提を欠くものであること(平成24年8月16日裁決〔裁事88・254〕)などから採用することはできないものとされている。 (2) 不動産鑑定評価は認められるか [1] 不動産鑑定評価書による評価が認められた事例 通達による評価と時価の逆転現象を立証する方法として、不動産鑑定士による鑑定評価があり、課税実務では平成4年頃より相当数の不動産鑑定評価書による申告が認められている。 相続税評価において鑑定評価を用いる理由は、鑑定評価は専門家たる不動産鑑定士の意見表明であり、個別性の強い不動産の適正な価格を、法の根拠の下で表明し得る唯一のものであるといえるからである。 例えば、不動産鑑定は、借地権者の多数存在する借地権付き分譲マンションの底地(東京地裁平成11年3月30日判決〔税資241・571〕)や道路から著しく離れた無道路地(平成22年5月19日裁決〔TAINS・F0-3-261〕)、著しく奥行長大な土地(鹿児島地裁平成18年6月7日判決〔TAINS・Z888-1216〕)などに用いられている。 また、土地価格の上昇が期待できない中では、収益性を重視した不動産価格の形成が行われていることなどから、取引事例との比較のみでは適切な価額の算定がされにくいとして、課税庁側不動産鑑定評価額(取引事例価格)と納税者側不動産鑑定評価額(収益還元価格)を単純平均して求めるのが相当とする事例(東京地裁平成15年2月26日判決〔税資253・9292〕)がある。 [2] 不動産鑑定評価書が採用されなかった事例 一方、不動産鑑定評価書による評価が認められないケースもある。 そこでは、不動産鑑定評価といえども、なお鑑定士の主観的な判断及び資料の選択過程が介在することを免れないのであって、それが公正妥当な不動産鑑定理論に従うとしても、鑑定人が異なれば、同一の宅地についても異なる評価額が出てくる可能性があるという見解がある(東京地裁平成11年8月10日判決〔税資244・291〕)。 その結果、判例は、納税者側不動産鑑定評価書を検討したうえで、鑑定人の採用した評価方式が合理的でないこと(例えば、取引事例や収益事例が適切でないこと、収益還元率に合理性がないこと、事情補正や時点修正、地域要因格差の補正が適切でないなど)により、路線価方式及び課税庁側不動産鑑定評価書の不合理さを立証できるものではないとするものがある。 不動産鑑定は、バブル崩壊のような地価下落局面においては有効であるが、近年の地価の下落がおさまりつつある状況においては、単に路線価評価が高いというだけでは認められにくいと考えられる。 (了)