Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
平成23年に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(以下、「PFI 法」という)が改正され、管理者等(PFI 法第2条第3項に規定する公共施設等の管理者である各省各庁の長等をいう)が所有権を有する公共施設等(PFI 法第2条第1項に規定する道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公益的施設等をいう。以下同じ)について、公共施設等運営権(PFI 法第2条第7項に規定する公共施設等運営権をいう)を民間事業者に設定する制度(以下「公共施設等運営権制度」という)が新たに導入された。
この公共施設等運営事業(PFI法第2条第6項に規定する公共施設等運営事業をいう。以下同じ)における運営権者(PFI 法第9条第4号に規定する公共施設等運営権を有する者をいう。以下同じ)の会計処理(運営権者と管理者等の間の対価の支払に関する会計処理)等について、実務上の取扱いを明らかにするために、実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(以下、「公共施設実務」という)」が公表されている。
【公共施設等運営権制度のイメージ(実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」の公表)】
1 会計処理
公共施設等運営権では、以下の会計処理等の検討が必要である。
(1) 当初の会計処理
(2) 減価償却方法
(3) 重要な見積りの変更の会計処理
(4) 更新投資に関する会計処理
(5) プロフィットシェアリング条項に関する会計処理
(6) 減損
(7) 注記
(1) 当初の会計処理
① 会計処理
運営権者は、公共施設等運営権を取得した時に、管理者等と運営権者との間で締結された実施契約(PFI法第22条第1項に規定する公共施設等運営権実施契約をいう)において定められた公共施設等運営権の対価(以下「運営権対価」という)について、合理的に見積られた支出額の総額を無形固定資産として計上する(公共施設実務3)。
実施契約において、運営権対価が固定額ではなく、将来の業績等の指標に連動する形式で定められる場合も、公共施設等運営権を取得した時に合理的に見積られた運営権対価の支出額の総額を無形固定資産として計上する(公共施設実務32、33)。
また、運営権対価を分割で支払う場合、資産及び負債の計上額は、運営権対価の支出額の総額の現在価値による(公共施設実務4)。
そして、割引率及び利息法について、以下の規定がある(公共施設実務5、36)。
▷割引率
運営権対価の支出額の総額の現在価値の算定にあたっては、運営権者の契約不履行に係るリスク(運営権者の信用リスク)を割引率に反映させる。
例えば、以下のような利率を割引率に用いることが考えられる。
・実施契約において明示される利率
・運営権設定期間における運営権者の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率
▷利息法
運営権対価の支出額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間(PFI法第17条第3号に規定する公共施設等運営権の存続期間をいう)にわたり利息法により配分する。
(注) なお、公共施設等運営権の取得は、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の適用範囲に含めない(公共施設実務7)。
② 表示
公共施設等運営権は、無形固定資産の区分に、公共施設等運営権などその内容を示す科目をもって表示する(公共施設実務16)。
運営権対価を分割で支払う場合に計上する負債は、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものを流動負債の区分に、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものを固定負債の区分に、公共施設等運営権に係る負債などその内容を示す科目をもって表示する(公共施設実務18)。
(2) 減価償却方法
無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分する(公共施設実務8)。
なお、実施契約において、一定の条件の下で運営権設定期間を延長することができる条項(延長オプション)が定められる場合、運営権者が当該条項を行使する意思が明らかな場合を除き、延長可能な期間は公共施設等運営権の耐用年数に含めない(公共施設実務9)。
(3) 重要な見積りの変更の会計処理
合理的に見積られた運営権対価の支出額に重要な見積りの変更が生じた場合、当該見積りの変更による差額は、上記(1)で計上した資産及び負債の額に加減する(公共施設実務6)。そして、減価償却を通じて残存耐用年数にわたって費用配分を行う(公共施設実務40)。
なお、重要な見積りの変更が生じた場合にその旨の注記が必要かどうかについては特に定めがないが、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第18項に従い、当該注記の要否を判断するものと考えられる(公共施設実務コメントNo.27)。
(4) 更新投資に関する会計処理
① 更新投資
公共施設等運営事業では、運営権者は、運営権対価の支出とは別に、更新投資を実施する場合がある。更新投資とは、運営権対価の支出とは別に、PFI法第2条第6項に基づき、運営権者が行う公共施設等の維持管理をいう(公共施設実務51)。
下記図は、更新投資について、PFI法と会計制度における関係を示したものである。
【出所:内閣府「公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドライン」に筆者一部加筆】
② 会計処理
更新投資においては、(ⅰ)更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができる場合と(ⅱ)それ以外の場合に分けて検討する。
(ⅰ) 更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができる場合
取得時に、支出すると見込まれる額の総額の現在価値を負債として計上し、同額を資産として計上する(公共施設実務12(2))。
そして、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分する(公共施設実務15(2))。
留意点として以下がある(公共施設実務13、14)。
- 負債を計上する場合、現在価値の算定に用いる割引率は、運営権対価の支出額の総額の現在価値の算定に用いたものと同じ利率とする。
- 更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間にわたり利息法により配分する。
- 資産及び負債を計上する場合、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額及び支出時期に重要な見積りの変更が生じたときは、当該見積りの変更による差額を資産及び負債の額に加減する。
(ⅱ) 上記(ⅰ)以外
上記(ⅰ)以外の場合、更新投資を実施した時に、当該更新投資のうち資本的支出に該当する部分(所有権が管理者等に帰属するものに限る)に関する支出額を資産として計上する(公共施設実務12(1))。
当該更新投資を実施した時より、当該更新投資に係る資産の経済的耐用年数(当該更新投資に係る資産の経済的耐用年数が公共施設等運営権の残存する運営権設定期間を上回る場合は、当該残存する運営権設定期間)にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分する(公共施設実務15(1))。
③ 表示
更新投資に係る資産は、無形固定資産の区分にその内容を示す科目をもって表示する(公共施設実務17)。
更新投資は、運営権者が実施する公共施設等運営事業において、PFI法に基づき運営権者が公共施設等の維持管理として行うものであることから、公共施設等運営権と同様に、無形固定資産の区分に表示するが、PFI法上の位置付けが公共施設等運営権とは異なると考えられるため、更新投資に係る資産は、公共施設等運営権とは区分し、無形固定資産の区分にその内容を示す科目をもって表示する(公共施設実務57)。
上記②(ⅰ)に基づき計上した更新投資に係る負債は、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するものを流動負債の区分に、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するものを固定負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示する(公共施設実務19)。
(5) プロフィットシェアリング条項に関する会計処理
実施契約において、運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項(「プロフィットシェアリング条項」)が設けられる場合、当該条項に基づき各期に算定された支出額を、算定された期の費用として処理する(公共施設実務11)。
(6) 減損
公共施設等運営権は「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる(公共施設実務10)。
減損会計の適用において、減損損失の認識の判定及び測定において行われる資産のグルーピングは、原則として、実施契約に定められた公共施設等運営権の単位で行う(公共施設実務10)。
ただし、管理会計上の区分、投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位、継続的な収支の把握がなされている単位及び他の単位から生じるキャッシュ・イン・フローとの相互補完性を考慮し、公共施設等運営事業の対象とする公共施設等ごとに合理的な基準に基づき分割した公共施設等運営権の単位でグルーピングを行うことができる(公共施設実務10)。
(7) 注記
運営権者は、原則として、以下の事項を公共施設等運営権「ごと」に注記する。ただし、同一の実施契約において複数の公共施設等運営権を対象とすることにより一体的な運営等を行う場合、または個々の公共施設等運営権の重要性は乏しいが、同一種類の複数の公共施設等運営権全体については重要性が乏しくない場合には、集約して注記することができる(公共施設実務20)。
① 運営権者が取得した公共施設等運営権の概要(公共施設等運営権の対象となる公共施設等の内容、実施契約に定められた運営権対価の支出方法、運営権設定期間、残存する運営権設定期間、プロフィットシェアリング条項の概要等)
② 公共施設等運営権の減価償却の方法
③ 更新投資に係る事項
(ⅰ) 主な更新投資の内容及び投資を予定している時期
(ⅱ) 運営権者が採用した更新投資に係る資産及び負債の計上方法
(ⅲ) 更新投資に係る資産の減価償却の方法
(ⅳ) 上記(4)②(ⅱ)に基づき更新投資に係る資産を計上する場合、翌期以降に実施すると見込まれる更新投資のうち資本的支出に該当する部分について、合理的に見積ることが可能な部分の内容及びその金額
2 適用時期
公共施設実務は、平成29年5月31日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用される(公共施設実務21、61)。
なお、実際の運用の開始から間もないことを踏まえ、特定の経過的な取扱いを定めずに、公共施設実務を過去の期間のすべてに遡及適用する(公共施設実務61)。
したがって、既に公共施設実務と異なる会計処理を行っている会社の場合、遡及適用により事務処理負担が相当程度かかると考えられる。
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。