公開日: 2018/03/15 (掲載号:No.260)
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平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第4回】

筆者: 西田 友洋

 

Ⅹ 税効果会計の改正

 

日本における税効果会計に関する会計基準として、平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に関する会計基準(以下、「税効果基準」という)」が公表され、当該会計基準を受けて、日本公認会計士協会から実務指針が公表された。

これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきたが、ASBJは、基準諮問会議の提言を受けて、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について、ASBJに移管すべく審議を行った。

このうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行うこととし、主として開示に関する審議が行われた。

そして、平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等がASBJから公表された。

改正前の日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針と改正後のASBJにおける会計基準等の関係は以下のとおりである。

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【出所:ASBJ「企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表P8に筆者加筆】

企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(以下、「税効果基準改正」という)」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、「税効果指針」という)」、企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(以下、「中間税効果指針」という)」が新たに作られ、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収可能性指針」という)」が改正されている。なお、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」は「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に統合されている。

 

1 表示・注記事項の取扱いの見直し

繰延税金資産及び繰延税金負債の表示方法等及び注記について、以下の3つについて見直しが行われている。

(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法

(2) 評価性引当額の内訳に関する情報

(3) 税務上の繰越欠損金に関する情報

(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法

税効果基準改正では、税効果基準の「第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法」1及び2が、以下のとおり改正されている(税効果基準改正2)。

項目 税効果基準(=改正前) 税効果基準改正 区分表示について 1.繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならない。ただし、特定の資産・負債に関連しない繰越欠損金等に係る繰延税金資産については、翌期に解消される見込みの一時差異等に係るものは流動資産として、それ以外の一時差異等に係るものは投資その他の資産として表示しなければならない。 1.繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示する。 相殺表示について 2.流動資産に属する繰延税金資産と流動負債に属する繰延税金負債がある場合及び投資その他の資産に属する繰延税金資産と固定負債に属する繰延税金負債がある場合には、それぞれ相殺して表示するものとする。ただし、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、原則として相殺してはならない。 2.同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示する。異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺せずに表示する。  (※)異なる納税主体間で繰延税金資産と繰延税金負債を相殺する実務はないことから、「原則として」を削除している。

(2) 評価性引当額の内訳に関する情報

税効果基準注解(注8)が以下のとおり、改正されている(税効果基準改正4)。

税効果基準(=改正前) 税効果基準改正 (注8) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳の注記について 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するに当たっては、繰延税金資産から控除された額(注5に係るもの)を併せて記載するものとする。 (注8) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳における評価性引当額の取扱いについて (1) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するにあたっては、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)(注5に係るもの(下記①参照))を併せて記載する。繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるとき(下記②参照)は、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)は、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載する。 なお、将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額の区分には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等を含める。 (2) 繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)に重要な変動(下記④参照)が生じている場合、当該変動の主な内容を記載(下記③参照)する。なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しない。

① 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるもの

評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるものとして、以下の2つが挙げられている(税効果基準改正32、税効果指針98)。

子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異(連結上の簿価が個別上の簿価を下回る場合に生じるもの)について、税効果指針第22項(1)を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合、将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しない。

組織再編に伴い受け取った子会社株式又は関連会社株式(以下「子会社株式等」という)(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについて、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合に、税効果指針第8項(1)ただし書きにより繰延税金資産を計上していないときについても、将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しない。

例えば、以下の将来減算一時差異で、売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合が該当する。

➤取得と判定された合併等において、取得企業が被取得企業から受け入れた子会社株式等に係る一時差異

➤共通支配下の取引において、株式交換完全親会社又は株式移転設立完全親会社が受け取った子会社株式に係る一時差異

➤共通支配下の取引として行われる分割型会社分割において、分割会社の親会社等が受け取った子会社株式等(新設会社(又は承継会社)の株式)に係る一時差異

② 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断

評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断として、以下の2つの観点が挙げられている(税効果基準改正30)。

税負担率の予測の観点 繰延税金資産の回収可能性に関する 不確実性の評価の観点 税務上の繰越欠損金の繰越期間にわたり課税所得(税務上の繰越欠損金控除前のもの)が生じる場合、当該繰越期間の税負担率に影響が生じる可能性があるため、「重要であるとき」には、例えば、将来の税務上の繰越欠損金の控除見込額(課税所得との相殺見込額)が将来の税負担率に重要な影響を及ぼす場合が含まれる。 税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額の記載により、当該税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額を理解することができるため、「重要であるとき」には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金の額(納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額)の割合が重要な場合が含まれる。

なお、税効果基準改正では、具体的な重要性の数値基準を設けていない。企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、 税効果基準改正30(上記、表参照)の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正31)。

③ 評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合における変動内容の記載内容

評価性引当額の変動の内容は企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該主な変動内容にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正では、特段定められていない(税効果基準改正35)。したがって、各企業が適切に判断して、記載する。

④ 評価性引当額の変動内容の記載の要否に関する重要性の判断

評価性引当額の変動の主な内容(税効果基準改正4注解(注8)(2))については、主として税負担率の分析に資する情報であることを踏まえると、「重要な変動が生じている場合」には、例えば、税負担率の計算基礎となる税引前純利益の額に対する評価性引当額(合計額)の変動額の割合が重要な場合が含まれる。ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、企業の状況に応じて適切に判断する。

なお、税負担率と法定実効税率との間に重要な差異がなく、税率差異の注記を省略している場合(例えば、当該差異が法定実効税率の100分の5以下である場合)、当該変動の主な内容を注記することは要しない(税効果基準改正36)。

(3) 税務上の繰越欠損金に関する情報

税効果基準注解(注9)が新規に追加されている(税効果基準改正5(注9))。

(注9) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときの取扱いについて

繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、以下の事項を記載する。なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しない

(ⅰ) 繰越期限別(下記①参照)の税務上の繰越欠損金に係る以下の金額

税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法人税等の税率を乗じた額

税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)

税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額

(ⅱ) 税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産(下記③参照)を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由(下記②参照)

繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別の数値情報、重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由(定性的な情報)を注記する。

① 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載する場合の年度の区切り方

税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載するにあたっては、主として株価予測を行う財務諸表利用者が将来2年から5年後の予想財務諸表を用いて税負担率の予測を行っていることを踏まえ、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられる。一方、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況は様々であり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無は様々であると考えられる。

そのため、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるため、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正42)。そのため、各企業において、適切に判断する。

また、連結財務諸表作成会社において、繰越欠損金の「残高」の情報について親会社が子会社から入手していることは今までも多かったと考えられるが、今後は、子会社も含め、税務上の繰越欠損金の「繰越期限別」の情報を入手する必要がある。

② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載内容

回収可能と判断した主な理由は、企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該理由にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正46)。したがって、各企業において、適切に判断する。

③ 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載の要否に関する重要性の判断

税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由は、主として繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資する情報であることを踏まえると、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合」における「重要な」場合には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれる

ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、上記の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正47)。

【注記例】
※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。

【出所:ASBJ「「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表P12に筆者加筆】

(4) 個別財務諸表における注記事項

財務諸表利用者の分析において、連結財務諸表における注記事項の理解に重要な影響が生じることは比較的限定的であると考えられるため、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において以下の注記事項の記載を要しない(税効果基準改正50)。

評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合の主な変動内容

税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報

税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由

したがって、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報(上記(2)参照)のみを追加する(税効果基準改正51)。

 

2 会計処理の見直し

会計処理についても、以下の3つについて見直しが行われている。

(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

(2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

(3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い

(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い

改正前では、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異(会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合を除く)について、一律、繰延税金負債を計上することになっていたが、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上するという取扱いに見直している(税効果指針8(2))。

改 正 前 改 正 後 個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異(会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合を除く)について、一律、繰延税金負債を計上する。 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上する取扱いに見直している。

(※) 会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合や組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合の取扱いについては、改正はない。

(2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い

改正前は、(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとなっていたが、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損(※)について、企業が当該子会社を精算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられるため、「原則として、」繰延税金資産の全額について回収可能性があるというように改正されている(回収可能性指針18、67-4)。

改 正 前 改 正 後 (分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。 (分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。

(※) 完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号)にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異(将来減算一時差異)に該当すると整理している(回収可能性指針67-2、67-3)。

(3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い

投資「時」における子会社の留保利益の取扱いを引き継いでいない(税効果指針24、113)。なお、投資「後」における子会社の留保利益の取扱いは従前どおりである。

改 正 前	改 正 後 	子会社の利益のうち投資時に留保しているものについても、将来配当の可能性がある場合で、配当受領時に親会社において受取配当金に係る追加の税金負担が生ずると見込まれるときには、親会社は投資時に税効果を認識し、繰延税金負債を計上することができる。(中略)なお、税効果の認識に当たって、個別財務諸表上の繰延税金負債の相手科目は子会社投資原価で、資本連結手続を通じてのれん又は負ののれんに影響を与えることになる。また、その後の税率の変更に伴う繰延税金負債の増減や子会社からの配当受領又は損失計上に伴う繰延税金負債の取崩しは、子会社投資原価若しくはのれん又は負ののれんを修正するのではなく、法人税等調整額に計上する。 	投資時まで留保していた子会社の利益が後日親会社に配当送金されると、投資の連結貸借対照表上の価額は配当金額(源泉徴収税額控除前)だけ減額されるが、個別財務諸表及び税務上は受取配当金として処理されるため、投資の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の投資簿価との間に新たに将来減算一時差異が生じる。この将来減算一時差異は、会計制度委員会報告第6号「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」第32項に従って資産計上の要件を満たす場合に限り、親会社において繰延税金資産を計上する。	税効果指針は、以下の理由で左記に記載した内容を踏襲していない。 	左記の内容のうち、個別財務諸表における子会社株式の取得原価についての記載は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第17項(子会社株式は取得原価)、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第23項、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第23項(1)(子会社に対する投資の金額は、支配獲得日の時価)等の定めと必ずしも整合しない。 	実務において左記に記載した会計処理を適用している事例は稀である。

 

3 適用時期

適用時期は以下のとおりである(税効果基準改正6、7、税効果指針65、回収可能性指針49、中間税効果指針22、23)。

項 目	適用時期	適用初年度に関する取扱い 1.(1)表示の取扱い (税効果基準改正2)	平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、平成30年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。		表示方法の変更として取り扱う。 	表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い組替えを行う。 1.(2)(3)注記事項の取扱い (税効果基準改正4、5)			表示方法の変更として取り扱う。 	ただし、税効果基準改正に定める注記事項については適用初年度の比較情報に記載しないことができる。つまり、適用初年度(当年度)分のみの注記で足りる。 2.(1)個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い(税効果指針8(2)) 2.(3)投資時における子会社の留保利益の取扱い(税効果指針24)	平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。	(税効果指針8(2)、24を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合) 	会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。 	新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する。 2.(2)(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(回収可能性指針18)	平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。	(回収可能性指針18を適用することによりこれまでの会計処理と異なることとなる場合) 	会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う。 	新たな会計方針を過去のすべての期間に遡及適用する。 中間税効果指針	平成30年4月1日以後開始する中間連結会計期間及び中間会計期間の期首から適用する。		会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱わない。

▷補足POINT

なお、【第2回】の「Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理」「Ⅴ 仮想通貨の会計処理(3月確定予定)」及び今回の「Ⅸ 収益認識(3月確定予定)」「Ⅹ 税効果会計の改正」で解説したとおり、新たに適用される会計基準がある。そのため、期末時点では、公表されているが、適用自体が、翌期となる場合、「未適用の会計基準」の注記が必要となる(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12)。

  

平成30年3月期決算における会計処理の留意事項

【第4回】
(最終回)

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

-全体構成-

【第1回】

Ⅰ 税制改正

Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理

【第2回】

Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理

Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正

Ⅴ 仮想通貨の会計処理

【第3回】

Ⅵ マイナス金利

Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組

Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果

【第4回】(本稿)

Ⅸ 収益認識

Ⅹ 税効果会計の改正

ⅩⅠ 監査報告書の透明化

 

Ⅸ 収益認識

 

日本では、現行、収益認識に関する規定としては、企業会計原則の損益計算書原則(売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る)及び企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準(以下、「工事基準」という)」、企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針(以下、「工事指針」という)」、実務対応報告第17号「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「ソフト実務」という)」に規定があるだけで、収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていない。

一方、IASB及びFASBは、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、IASBから平成26年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が公表されている。

(注) その後、平成28年4月12日にIFRS第15号の明確化が公表されている。IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から適用される 。

これらの状況を踏まえ、ASBJでは、平成27年3月に開催された第308回企業会計基準委員会において、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手することを決定し、その後、平成28年2月4日に、適用上の課題等に対する意見を幅広く把握するため、「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表した。

その後、意見募集に寄せられた意見を踏まえ、検討を重ね、企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)(以下、「収益認識基準案」という)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「収益認識指針案」という)」を公表した。 公開草案に対するコメント募集は平成29年10月20日に終了し、「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」は、平成30年3月までに確定する予定である。

ここでは、収益認識基準案及び収益認識指針案の概略を解説する。

 

1 開発に当たっての基本的な方針

収益認識基準案及び収益認識指針案の基本的な方針は以下のとおりである。

(1) 基本的な方針

収益認識に関する会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、IFRS第15号と整合性を図る便益の1つである財務諸表間の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点とし、会計基準を定める。

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連載目次

3月期決算における会計処理の留意事項

「2024年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

Ⅰ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い

Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い

Ⅳ グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い(案)

Ⅴ グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)

Ⅵ 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)

Ⅶ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正

Ⅷ インボイス制度

Ⅸ 分配可能額

Ⅹ サステナビリティ開示

XI 税制改正

XII 四半期報告制度の改正

XIII 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

◎ 金融庁の令和5年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2023年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)
  • 【第2回】
    Ⅲ 時価の算定に関する会計基準の適用指針
    Ⅳ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第3回】
    Ⅴ 会社法施行規則等の改正
    Ⅵ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第4回】
    Ⅶ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
    Ⅷ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
    Ⅸ 金融庁の令和4年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項

「2022年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
  • 【第2回】
    Ⅳ 収益認識に関する会計基準等
    Ⅴ 時価の算定に関する会計基準等
  • 【第3回】
    Ⅵ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅶ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅷ その他の記載内容に関連する監査人の責任
  • 【第4回】
    Ⅸ 会社法施行規則等の改正
    Ⅹ 金融庁の令和2年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 開示の好事例
  • 【第5回】(追補)
    ◎最近の不安定な世界情勢下における会計処理等の留意事項

「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」(全5回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正等
    Ⅱ 連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い
    Ⅲ 監査上の主要な検討事項(KAM)
  • 【第2回】
    Ⅳ 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
    Ⅴ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
    Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
  • 【第3回】
    Ⅶ LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い
    Ⅷ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い
    Ⅸ 会社計算規則等の改正
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成31年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ その他留意事項及び参考情報
    Ⅻ 今後の会計基準の改正
  • 【第5回】(追補)
    ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項
~新型コロナウイルス感染症の影響への対応~」(全2回)

  • 【前編】
    Ⅰ 新型コロナウイルス感染症に関連する省庁や各団体からの公表物
  • 【後編】
    (【前編】公開以降の公表情報について)
    Ⅱ 新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項
    Ⅲ 会計上の見積りにあたって

「2020年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(案)」の公表
  • 【第2回】
    Ⅲ 会社法の改正
    Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
  • 【第3回】
    Ⅵ 企業結合会計基準等の改正
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ 時価の算定に関する会計基準等の公表
    Ⅸ 収益認識基準の早期適用
  • 【第4回】
    Ⅹ 金融庁の平成30年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    Ⅺ 今後の改正予定

「2019年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税制改正
    Ⅲ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
  • 【第3回】
    Ⅳ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示
    Ⅴ 監査上の主要な事項(KAM)
    Ⅵ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅶ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅷ マイナス金利
    Ⅸ 仮想通貨の会計処理等
  • 【第4回】
    Ⅹ 企業結合会計基準等の改正
    XI 金融庁の平成29年度有価証券報告書レビューを踏まえた留意事項
    XII 今後の改正予定

「平成30年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第1回】
    Ⅰ 税制改正
    Ⅱ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
  • 【第2回】
    Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理
    Ⅳ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅴ 仮想通貨の会計処理
  • 【第3回】
    Ⅵ マイナス金利
    Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組
    Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果
  • 【第4回】
    Ⅸ 収益認識
    Ⅹ 税効果会計の改正
    ⅩⅠ 監査報告書の透明化

「平成29年3月期決算における会計処理の留意事項」(全4回)

  • 【第2回】
    Ⅱ 税効果会計の改正
    Ⅲ 減価償却方法の改正
    Ⅳ 法人税等に関する会計基準の改正
  • 【第3回】
    Ⅴ マイナス金利
    Ⅵ 在外子会社等の会計処理の改正
    Ⅶ リスク分担型企業年金
  • 【第4回】
    Ⅷ 公共施設等運営事業における運営権者の会計処理
    Ⅸ 短信及び有価証券報告書の改正
    Ⅹ 金融庁の平成27年度有価証券報告書レビューの審査結果

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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