Ⅹ 税効果会計の改正
日本における税効果会計に関する会計基準として、平成10年10月に企業会計審議会から「税効果会計に関する会計基準(以下、「税効果基準」という)」が公表され、当該会計基準を受けて、日本公認会計士協会から実務指針が公表された。
これらの会計基準及び実務指針に基づきこれまで財務諸表の作成実務が行われてきたが、ASBJは、基準諮問会議の提言を受けて、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針(会計に関する部分)について、ASBJに移管すべく審議を行った。
このうち、繰延税金資産の回収可能性に関する定め以外の税効果会計に関する定めについて、基本的にその内容を踏襲した上で、必要と考えられる見直しを行うこととし、主として開示に関する審議が行われた。
そして、平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」等がASBJから公表された。
改正前の日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針と改正後のASBJにおける会計基準等の関係は以下のとおりである。
【出所:ASBJ「企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P8に筆者加筆】
企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(以下、「税効果基準改正」という)」、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(以下、「税効果指針」という)」、企業会計基準適用指針第29号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(以下、「中間税効果指針」という)」が新たに作られ、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収可能性指針」という)」が改正されている。なお、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」は「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に統合されている。
1 表示・注記事項の取扱いの見直し
繰延税金資産及び繰延税金負債の表示方法等及び注記について、以下の3つについて見直しが行われている。
(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法
(2) 評価性引当額の内訳に関する情報
(3) 税務上の繰越欠損金に関する情報
(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法
税効果基準改正では、税効果基準の「第三 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法」1及び2が、以下のとおり改正されている(税効果基準改正2)。
(2) 評価性引当額の内訳に関する情報
税効果基準注解(注8)が以下のとおり、改正されている(税効果基準改正4)。
① 評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるもの
評価性引当額の注記の対象となる範囲から除かれるものとして、以下の2つが挙げられている(税効果基準改正32、税効果指針98)。
子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異(連結上の簿価が個別上の簿価を下回る場合に生じるもの)について、税効果指針第22項(1)を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合、将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しない。
組織再編に伴い受け取った子会社株式又は関連会社株式(以下「子会社株式等」という)(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く)に係る将来減算一時差異のうち、当該株式の受取時に生じていたものについて、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合に、税効果指針第8項(1)ただし書きにより繰延税金資産を計上していないときについても、将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しない。
例えば、以下の将来減算一時差異で、売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合が該当する。
➤取得と判定された合併等において、取得企業が被取得企業から受け入れた子会社株式等に係る一時差異
➤共通支配下の取引において、株式交換完全親会社又は株式移転設立完全親会社が受け取った子会社株式に係る一時差異
➤共通支配下の取引として行われる分割型会社分割において、分割会社の親会社等が受け取った子会社株式等(新設会社(又は承継会社)の株式)に係る一時差異
② 評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断
評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断として、以下の2つの観点が挙げられている(税効果基準改正30)。
なお、税効果基準改正では、具体的な重要性の数値基準を設けていない。企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、 税効果基準改正30(上記、表参照)の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正31)。
③ 評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合における変動内容の記載内容
評価性引当額の変動の内容は企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該主な変動内容にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正では、特段定められていない(税効果基準改正35)。したがって、各企業が適切に判断して、記載する。
④ 評価性引当額の変動内容の記載の要否に関する重要性の判断
評価性引当額の変動の主な内容(税効果基準改正4注解(注8)(2))については、主として税負担率の分析に資する情報であることを踏まえると、「重要な変動が生じている場合」には、例えば、税負担率の計算基礎となる税引前純利益の額に対する評価性引当額(合計額)の変動額の割合が重要な場合が含まれる。ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、企業の状況に応じて適切に判断する。
なお、税負担率と法定実効税率との間に重要な差異がなく、税率差異の注記を省略している場合(例えば、当該差異が法定実効税率の100分の5以下である場合)、当該変動の主な内容を注記することは要しない(税効果基準改正36)。
(3) 税務上の繰越欠損金に関する情報
税効果基準注解(注9)が新規に追加されている(税効果基準改正5(注9))。
(注9) 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときの取扱いについて
繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、以下の事項を記載する。なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しない。
(ⅰ) 繰越期限別(下記①参照)の税務上の繰越欠損金に係る以下の金額
➤税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法人税等の税率を乗じた額
➤税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)
➤税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額
(ⅱ) 税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産(下記③参照)を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由(下記②参照)
繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別の数値情報、重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由(定性的な情報)を注記する。
① 税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載する場合の年度の区切り方
税務上の繰越欠損金に関する数値情報を繰越期限別に記載するにあたっては、主として株価予測を行う財務諸表利用者が将来2年から5年後の予想財務諸表を用いて税負担率の予測を行っていることを踏まえ、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられる。一方、企業における税務上の繰越欠損金の発生状況は様々であり、また、在外子会社の税制は多様であるため、繰越期間の年数や有無は様々であると考えられる。
そのため、年度の区切り方については、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することが考えられるため、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正42)。そのため、各企業において、適切に判断する。
また、連結財務諸表作成会社において、繰越欠損金の「残高」の情報について親会社が子会社から入手していることは今までも多かったと考えられるが、今後は、子会社も含め、税務上の繰越欠損金の「繰越期限別」の情報を入手する必要がある。
② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載内容
回収可能と判断した主な理由は、企業の置かれている状況により様々であると考えられるため、当該理由にどのような事項を記載するかについて、税効果基準改正においては、特段定められていない(税効果基準改正46)。したがって、各企業において、適切に判断する。
③ 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載の要否に関する重要性の判断
税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由は、主として繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に資する情報であることを踏まえると、「税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合」における「重要な」場合には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれる。
ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられることから、上記の考え方を目安として、企業の状況に応じて適切に判断する(税効果基準改正47)。
【注記例】
※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。
【出所:ASBJ「「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等の公表」P12に筆者加筆】
(4) 個別財務諸表における注記事項
財務諸表利用者の分析において、連結財務諸表における注記事項の理解に重要な影響が生じることは比較的限定的であると考えられるため、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において以下の注記事項の記載を要しない(税効果基準改正50)。
◆評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合の主な変動内容
◆税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報
◆税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由
したがって、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報(上記(2)参照)のみを追加する(税効果基準改正51)。
2 会計処理の見直し
会計処理についても、以下の3つについて見直しが行われている。
(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い
(2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
(3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い
(1) 個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い
改正前では、個別財務諸表における子会社株式又は関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)に係る将来加算一時差異(会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合を除く)について、一律、繰延税金負債を計上することになっていたが、個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱いを、連結財務諸表における子会社又は関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせ、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合を除き、繰延税金負債を計上するという取扱いに見直している(税効果指針8(2))。
(※) 会社が精算するまでに課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合や組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来加算一時差異で一定の要件を満たす場合の取扱いについては、改正はない。
(2) (分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い
改正前は、(分類1)に該当する企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとなっていたが、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損(※)について、企業が当該子会社を精算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低い場合に当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であると考えられるため、「原則として、」繰延税金資産の全額について回収可能性があるというように改正されている(回収可能性指針18、67-4)。
(※) 完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号)にある国内の子会社株式の評価損のように、当該子会社株式を売却したときには税務上の損金に算入されるが、当該子会社を清算したときには税務上の損金に算入されないこととされているものについても、個別貸借対照表に計上されている資産の額と課税所得計算上の資産の額との差額は、当該差額が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を有する可能性があることから、一時差異(将来減算一時差異)に該当すると整理している(回収可能性指針67-2、67-3)。
(3) 投資時における子会社の留保利益の取扱い
投資「時」における子会社の留保利益の取扱いを引き継いでいない(税効果指針24、113)。なお、投資「後」における子会社の留保利益の取扱いは従前どおりである。
3 適用時期
適用時期は以下のとおりである(税効果基準改正6、7、税効果指針65、回収可能性指針49、中間税効果指針22、23)。
▷補足POINT
なお、【第2回】の「Ⅲ 有償ストック・オプションの会計処理」「Ⅴ 仮想通貨の会計処理(3月確定予定)」及び今回の「Ⅸ 収益認識(3月確定予定)」「Ⅹ 税効果会計の改正」で解説したとおり、新たに適用される会計基準がある。そのため、期末時点では、公表されているが、適用自体が、翌期となる場合、「未適用の会計基準」の注記が必要となる(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」12)。