Ⅳ 企業内容等の開示に関する内閣府令の改正
金融庁より、2019年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正が公表された。有価証券報告書の主な改正内容は、以下のとおりである。
本解説では、以下のうち、2020年3月期から適用又は2020年3月期から適用可のもの(記載箇所の変更は除く)について、解説する。
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1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
「第2【事業の状況】1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の記載は、以下のように改正される(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(30)、第三号様式 記載上の注意(10)等)。
(※1) 「経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」の内容については、目標の達成度合を測定する指標、算出方法、なぜその目標を利用するのかについての説明等を記載することが考えられる。経営計画等の具体的な目標数値の記載を義務付けるものではないが、当該目標数値を任意で記載することは妨げられない。
有価証券報告書に合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載する場合には、有価証券報告書提出日現在において予測できる事情等を基礎とした合理的な判断に基づくものを記載すべきであり、必要に応じて記述情報による補足も含めるべきと考えられる(「「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下、「金融庁考え方」という)」No.6)。
2 事業等のリスク
「第2【事業の状況】2 事業等のリスク」の記載は、以下のように改正される(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(31)、第三号様式 記載上の注意(11)等)。
(※2) 「経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクについて」記載することを求めており、リスク項目を羅列するのではなく、主要なリスクを記載することを明確化している。
リスクの発生可能性や企業への潜在的影響の大きさの観点から、企業の成長、業績、財政状態、将来の見込みについて重要であると経営陣が考えるものに限定するとともに、企業に固有でない一般的なリスクを記載する場合は、具体的にどのような影響が当該企業に見込まれるのか明らかにすることが求められる。(金融庁考え方No.10)。
(※3) 「顕在化する可能性の程度や時期」については、経営者として判断した根拠が記載されることが望ましいと考えられる(金融庁考え方No.11)。
(※4) 「影響の内容」については、定量的な記載に限られるものではないが、リスクの性質に応じて、投資者に分かりやすく具体的に記載することが必要と考えられる(金融庁考え方No.12)。
(※5) 「リスクへの対応策」については、実施の確度が高いものを記載するものと考えられるが、実施を検討しているに過ぎないもの等を記載する場合には、その旨を記載し、投資者に誤解を与えないような記載が求められる(金融庁考え方No.13)。
(※6) リスクが顕在化する可能性の程度や時期及び影響の内容は、比較を容易にする観点からも前年との変化が分かるように記載することが望ましいものと考えられる(金融庁考え方No.14)。
(※7) 特定の取引先・製品・技術等へどの程度依存しているかについては、可能な限り定量的に説明することが期待される(金融庁考え方No.15)。
(※8) 重要事象等について監査役会で議論が行われている場合には、「監査役会の活動状況」において記載することも考えられる(金融庁考え方No.17)。
3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
「第2【事業の状況】3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載は、以下のように改正されている(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。
(※9) キャッシュ・フローの状況における資金需要の動向に関する経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用と考えられる(金融庁考え方No.19)。
4 監査の状況
「第4【提出会社の状況】4 コーポレート・ガバナンスの状況等(3)監査の状況」の記載は、以下のように改正されている(企業内容等の開示令 第二号様式 記載上の注意(56)、第三号様式 記載上の注意(37)等)。
(※10) 監査役、監査委員及び監査等委員の活動状況については、常勤者の活動だけではなく、非常勤の者も含めて記載される必要がある(金融庁考え方No.34)。
(※11) 監査の継続期間は、例えば、以下のように整理される。
① 提出会社が有価証券届出書提出前から継続して同一の監査法人による監査を受けている場合、有価証券届出書提出前の監査期間も含めて算定する。
②-ⅰ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を継続して行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間も含めて算定する。
②-ⅱ 過去に提出会社において合併、会社分割、株式交換及び株式移転があった場合であって、会計上の被取得企業の監査公認会計士等が提出会社の監査を行っているときは、当該合併、会社分割、株式交換及び株式移転前の監査期間は含めないものとして算定する。
③-ⅰ 過去に監査法人において合併があった場合、当該合併前の監査法人による監査期間も含めて算定する。
③-ⅱ 提出会社の監査業務を執行していた公認会計士が異なる監査法人に異動した場合において、当該公認会計士が異動後の監査法人においても継続して提出会社の監査業務を執行するとき又は当該公認会計士の異動前の監査法人と異動後の監査法人が同一のネットワークに属するとき等、同一の監査法人が提出会社の監査業務を継続して執行していると考えられる場合には、当該公認会計士の異動前の監査法人の監査期間も含めて算定する。
継続監査期間の算定に当たっては、上記の整理も踏まえ、基本的には、可能な範囲で遡って調査すれば足り、その調査が著しく困難な場合には、調査が可能であった期間を記載した上で、調査が著しく困難であったため、継続監査期間がその期間を超える可能性がある旨を注記することが考えられる。
また、継続監査期間の記載方法については、「●年間」と記載する方法のほか、「●年以降」といった記載も考えられる(金融庁考え方No.36)。
(※12) どこまでネットワークに含めるべきかは、監査人に確認しないとわからない場合もあるため、実際に記載する際は、監査人に確認することが望まれる。