Ⅵ 新型コロナウイルス感染症に関連する会計処理及び開示
新型コロナウイルス感染症における会計処理の検討事項としては、以下が挙げられる。
1 上場有価証券の時価
2 関係会社株式の評価
3 非上場株式の評価
4 固定資産(のれんを含む)の減損
5 貸倒引当金
6 債務保証損失引当金
7 リストラクチャリング関連の引当金
8 繰延税金資産の回収可能性
9 棚卸資産の評価
10 助成金の収益計上
11 追加情報
12 後発事象の注記
13 継続企業の前提に関する注記
1 上場有価証券の評価
新型コロナウイルス感染症により業績が低迷している会社については、株価が下落している場合もある。そのため、会社で保有している上場有価証券について、減損の検討が必要となる場合もあると考えられる。
(※) 回復可能性がある場合とは、時価の下落が一時的なもので、期末日後、概ね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みのある場合をいうが、これを立証することは、通常難しいと考えられる。
【会計処理】
2 関係会社株式の評価
新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社(子会社及び関連会社)の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。この場合、関係会社株式の評価を慎重に検討する必要がある。非上場の関係会社株式の評価における具体的な検討は、以下のとおりである。なお、上場の関係会社株式の評価は、上記1のとおりである。
(1) 株式の評価
関係会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく下落(下記②参照)した場合は、減損処理する。
① 財政状態の悪化
期末の1株当たり純資産が、関係会社株式を取得したときの1株当たり純資産と比較して相当程度下回っている場合
② 実質価額の著しい下落
実質価額(=1株当たり純資産 × 所有株式数)と株式の取得原価を比較し、実質価額が50%程度以上下落している場合
【会計処理】
ただし、実質価額について、関係会社の事業計画等をもとに回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理は不要である。
事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行う。
したがって、回復可能性を監査人に説明する際には、5ヶ年の実行可能で合理的な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのか、具体的に説明する必要がある。
【関係会社を買収により相当高い価額で購入している場合】
企業買収においては、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たり純資産に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがある。この場合、売買価額が、第三者による鑑定価額又は一般に認められた株価算定方式による評価額に基づいて、両者の合意の下に決定されていても、その後、超過収益力等が減少し実質価額が大幅に低下することがある。
このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がなくても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならない。
(2) 投資損失引当金の計上
関係会社株式の減損処理を行う必要はないが、以下のとおり、健全性の観点から、投資損失引当金を計上できる場合がある。
〔関係会社株式の実質価額が著しく下落していないが、実質価額がある程度低下している場合〕
⇒健全性の観点から、実質価額と取得原価の差額を投資損失引当金として計上する。
ただし、過度に保守的な会計処理にならないようにする必要がある。
〔子会社株式等の実質価額が著しく下落しているが、回復可能性があり減損処理していない場合〕
⇒回復可能性の判断はあくまでも将来の予測に基づいて行われるものであり、その回復可能性の判断を万全に行うことは実務上困難であるため、健全性の観点から、実質価額と取得原価の差額を投資損失引当金として計上する。
例えば、回復可能性の判断に使用した再建計画等が外部の要因に依存する度合いが高い場合等が挙げられる。
【会計処理】
(3) 債務超過に対する引当金
関係会社が債務超過である場合、実質価額がマイナスであるため、関係会社株式はゼロまで減損処理する。
一方、関係会社株式は、減損においてはゼロまでしか評価を切り下げることはできないが、子会社等の債務超過額は、最終的には、親会社が負担(子会社の場合は全額負担、関係会社の場合は他の株主との契約で決められた分の負担)する可能性が高いと考えられる。そのため、債務超過額のうち、負担する部分について関係会社事業損失引当金等で損失処理する必要がある。
【会計処理】
関係会社に対する債権がある場合及び関係会社に対して債務保証を行っている場合
関係会社に対する債権がある場合や関係会社に対して債務保証を行っている場合、関係会社に対する債権部分には貸倒引当金を計上し、債務保証部分には、債務保証損失引当金を計上する。そして、この2つの引当金の合計と債務超過額の差額を関係会社事業損失引当金等で計上することも考えられる(下図参照)。
一方、貸倒引当金や債務保証損失引当金としては計上せずに、債務超過額全額を関係会社事業損失引当金等で表示することも考えられる。
3 非上場株式の評価
関係会社以外の非上場の会社についても新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している可能性がある。業績が悪くなっている場合、非上場株式の評価についても慎重に検討する必要がある。
非上場会社の財政状態の悪化(下記①参照)により実質価額が著しく下落(下記②参照)した場合は、減損処理する。
① 非上場会社の財政状態の悪化
期末の1株当たり純資産が、非上場株式を取得したときの1株当たり純資産と比較して相当程度下回っている場合
② 実質価額の著しい下落
実質価額(=1株当たり純資産×所有株式数)と株式の取得原価を比較し、実質価額が50%程度以上下落している場合
【会計処理】
4 固定資産(のれんを含む)の減損
新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化している事業拠点(会社全体、店舗、支店、工場等)が多くなっている可能性がある。業績が悪くなっている場合、固定資産(のれんを含む)の減損についても慎重に検討する必要がある。具体的な検討は、以下のとおりである。
【STEP1】減損の兆候
〔減損の兆候の例示〕
① 資産又は資産グループが使用されている営業損益又は営業キャッシュ・フローが継続してマイナス(おおむね過去2期マイナス)となっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること
② 資産又は資産グループの使用されている範囲又は方法について、当該資産又は資産グループの回収可能価額を著しく低下させるような変化(事業の廃止、早期売却、用途の転用、遊休状態等)が生じたか、あるいは生ずる見込みであること
③ 資産又は資産グループが使用されている事業に関連して、経営環境が著しく悪化したか又は悪化する見込みであること
④ 資産又は資産グループの市場価格の50%程度以上の下落
⇒減損の兆候に該当する場合、下記【STEP2】を検討する。
➤業績の悪化により、上記①に該当する場合が多くなる可能性がある。
➤新型コロナウイルス感染症の影響により、支店、店舗、工場等の閉鎖・休止等を意思決定した場合、上記②に該当する。
➤新型コロナウイルス感染症の影響により、売上の大幅な低下等が続く場合、上記③に該当する。
➤土地の時価が下落している場合、上記④に該当する可能性がある。
【STEP2】減損損失の認識
資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの合計が帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識する。
⇒減損損失を認識した場合、下記【STEP3】を検討する。
➤新型コロナウイルス感染症の将来への影響が不透明な場合、合理的で説明可能な事業計画を作成することが難しくなるため、キャッシュ・フローを見積もることも困難となる。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要である。
➤計画を監査人に説明する際には、合理的で説明可能な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのかを、具体的に説明する必要がある。
【STEP3】減損損失の測定
帳簿価額を回収可能価額まで減額し、帳簿価額との差額を当期の損失として減損損失を認識する。
【会計処理】
5 貸倒引当金
新型コロナウイルス感染症の影響により、得意先(関係会社を含む)の業績が悪化し、売上債権の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。また、関係会社へ貸付を行っている場合も貸付金の回収が延滞したり、貸倒れが発生する可能性がある。そのため、貸倒引当金についても慎重に検討する必要がある。
具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の回収状況や法的整理等の情報を適時に入手した上で、債権を以下の3つに区分し、それぞれの区分ごとに貸倒引当金を算定する必要がある。特に、「貸倒懸念債権」又は「破産更生債権等」に該当する得意先、関係会社がないか慎重に検討する必要がある。
▷一般債権
〔定義〕
経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権
〔貸倒引当金の算定方法〕
過去の貸倒実績率等合理的な基準により貸倒見積高を算定する
▷貸倒懸念債権
〔定義〕
経営破綻の状況には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じている(※1)か又は生じる可能性の高い(※2)債務者に対する債権
(※1) 債務の弁済に重大な問題が生じているとは、現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合、弁済期間の延長又は弁済の一時棚上げ及び元金又は利息の一部を免除する場合等をいう。
(※2) 債務の弁済に重大な問題が生じる可能性が高いとは、業況が低調、不安定、又は財務内容に問題があり(※3)、過去の経営成績又は経営改善計画の実現可能性を考慮しても債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高いことをいう。
(※3) 財務内容に問題があるとは、現に債務超過である場合のみならず、債務者が有する債権の回収可能性や資産の含み損を考慮すると実質的に債務超過の状態に陥っている状況等をいう。
〔貸倒引当金の算定方法〕
以下のいずれかの方法により貸倒見積高を算定する。
➤財務内容評価法(※4)
➤キャッシュ・フロー見積法(※5)
(※4) 貸倒懸念債権と初めて認定した期には、担保の処分見込額及び保証による回収見込額を控除した残額の50%を引き当て、翌年度以降で、毎期見直す等の簡便法を採用することも考えられる。
(※5) 将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることが可能で、かつ、実際の回収が担保処分ではなく、債務者の収益を回収原資とする方針である場合は、財務内容評価法よりもキャッシュ・フロー見積法によることが望ましい。
▷破産更生債権等
〔定義〕
経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権
〔貸倒引当金の算定方法〕
債権額から担保の処分見込額及び保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする。
【会計処理】
貸倒引当金繰入額は、原則、その性質に応じて販管費又は営業外費用への計上であるが、新型コロナウイルス感染症の影響により発生した貸倒引当金繰入額は、非常に特殊な事象であるため、金額が多額に発生する場合には、特別損失に計上することも考えられる。
6 債務保証損失引当金
新型コロナウイルス感染症の影響により、関係会社の業績が悪化し、経営難に陥り、関係会社において取引先に対する仕入債務の返済や金融機関への借入金の返済が滞る可能性がある。このような場合に、関係会社の仕入債務や借入金について、親会社が債務保証を行っている場合、債務保証に係る損失が発生する可能性がある。そのため、債務保証損失引当金についても慎重に検討する必要がある。
具体的には、期末日以前のみならず、期末日後の関係会社の仕入債務の支払状況や金融機関への借入金の返済状況に関する情報を適時に入手し検討する必要がある。
【会計処理】
債務保証損失引当金繰入額は、発生事由等に応じて営業外費用又は特別損失に計上することが考えられる。
7 リストラクチャリング関連の引当金
新型コロナウイルス感染症の影響により、業績が悪化し、経営難に陥った場合、将来に向けた立て直しのためにリストラ(支店・店舗・工場の閉鎖、早期退職の募集等)を決定することが考えられる。このような場合、例えば、以下のような損失について見積もった上で、リストラクチャリング関連の引当金の計上を検討する必要がある。
① 賃借物件の解約の違約金
② リース契約の解約の違約金
③ テナントに対する営業補償金
④ 早期割増退職金(※)
(※) 従業員が早期退職制度に応募し、金額を合理的に見積もることができる時点で費用処理する。
【移転費用について】
移転費用が発生する原因となる事象は、移転したときのサービスの提供を受けた時点であるため、意思決定したときではない。そのため、意思決定した時点で引当金を計上することは、適当ではない場合が多いと考えられる。
【会計処理】
上記の勘定科目は例示であるため、実態に応じて適切な名称を付す必要がある。
8 繰延税金資産の回収可能性
新型コロナウイルス感染症の影響により、会社の業績が悪くなっている場合も多いと考えられる。その場合、繰延税金資産の回収可能性の検討において、以下の点について、慎重に検討する必要がある。
(1) 税効果の企業の分類
業績の悪化により、課税所得が減少する場合、税効果の企業の分類を変更しなければいけない可能性がある。
(2) 一時差異等加減算前課税所得の見積り
分類3及び分類4の会社の繰延税金資産の回収可能性の検討に当たっては、一時差異等加減算前課税所得は非常に重要である。
しかし、新型コロナウイルス感染症の将来への影響がわからない場合、合理的で説明可能な事業計画を作成することが難しいため、一時差異等加減算前課税所得を見積もることが困難となる可能性がある。そのため、社内での情報収集を早めに行うことが重要である。
また、事業計画を監査人に説明する際には、合理的で説明可能な事業計画を作成し、どうしてそのような数値になるのかを、具体的に説明する必要がある。
【会計処理(繰延税金資産を取り崩す場合)】
9 棚卸資産の評価
通常の販売目的で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。
新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が伸びず棚卸資産の滞留が増加したり、赤字でないと販売できなくなるなどの状況が発生した場合には、多額の棚卸資産評価損を計上しなければいけない可能性がある。そのため、期末日前後の販売に関する情報を収集し、正味売却価額を合理的に見積もった上で、棚卸資産評価損を計上する必要がある。
【会計処理】
棚卸資産評価損は、原則、売上原価に計上するが、収益性の低下に基づく簿価切り下げ額が新型コロナウイルス感染症による臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上できる。
10 助成金の収益計上
新型コロナウイルス感染症等の影響に伴い、国や地方公共団体から助成金等の交付を受けた場合の税務上の収益計上時期は、以下のとおりである(国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係 問7)。
(1) 基本的な考え方
助成金等については、国や地方公共団体により助成金等の交付が決定された日に、収入すべき権利が確定すると考えられるため、原則として、その助成金等の交付決定がされた日の属する事業年度の収益として計上する。
(2) 特定の経費を補填する場合
その助成金等が、経費を補填するために法令の規定等に基づき交付されるものであり、あらかじめその交付を受けるために必要な手続(例えば、休業手当について雇用調整助成金を受けるための事前の休業等計画届の提出等)をしている場合には、その経費が発生した事業年度中に助成金等の交付決定がされていないとしても、その経費と助成金等の収益が対応するように、その助成金等の収益計上時期はその経費が発生した日の属する事業年度と同じ期である。
なお、新型コロナウイルス感染症に伴う特例措置により、事前の休業等計画届の提出は不要とされているため、この場合の雇用調整助成金の収益計上時期は、原則どおり(上記(1)のとおり)、交付決定日の属する事業年度となる。
11 追加情報
前期において新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定(重要性がないものは除く)は、追加情報として開示されていた。
しかし、当期末より、見積基準が適用されるため、新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、見積基準で求められる注記(上記Ⅴ3参照)に含まれることが多いと想定される(翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある)ため、当該注記で記載することになる。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、この判断について注記することが財務諸表利用者にとって有用な情報となる場合には、引き続き追加情報として開示することが追加情報の趣旨に沿った取扱いになる(ASBJ 第451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催)議事概要)。
【新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定の注記判断フロー】
なお、新型コロナウイルス感染症の影響については、有価証券報告書の「経理の状況」より前及び事業報告においても記載が必要になる。
〔有価証券報告書〕
➤経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
➤事業等のリスク
➤経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
〔事業報告(経団連ひな型)〕
➤1-1.事業の経過及びその成果
➤1-4.対処すべき課題
12 後発事象の注記
後発事象には、以下の2つがある。
〔修正後発事象〕
決算日後に発生した会計事象ではあるが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない会計事象
⇒重要な後発事象については、財務諸表の修正を行うことが必要
〔開示後発事象〕
決算日後において発生し、当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす会計事象
⇒重要な後発事象については、計算書類及び有価証券報告書に注記が必要
新型コロナウイルス感染症の影響で、期末日後に様々な事象が発生したり、意思決定が行われるものと考えられる。後発事象の発生時点や内容により、修正後発事象又は開示後発事象のいずれに該当するかが異なるため、上記のいずれかに該当しそうな事象がある場合、適宜、監査人に確認することが望まれる。
《新型コロナウイルス感染症に関連する開示後発事象の例示》
【会社が営む事業に関する事象】
➤重要な事業からの撤退
➤重要な事業部門の操業停止
➤大量の希望退職者の募集
➤主要な取引先の倒産
➤主要な取引先に対する債権放棄
【子会社等に関する事象】
➤子会社等の援助のための多額な負担の発生
➤重要な子会社等の解散・倒産
【会社の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失に関する事象】
➤火災、震災、出水等による重大な損害の発生
【その他】
➤重要な経営改善策又は計画の決定
(注) 上記項目は、開示後発事象としての例示であるが、発生時点等によっては、修正後発事象に該当する可能性もある。
13 継続企業の前提に関する注記
(1) 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況
新型コロナウイルス感染症の影響で、業績が悪化している場合、新たに「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況(以下、「事象又は状況」という)」が存在する場合に該当する可能性がある。
そのため、「事象又は状況」が存在する場合に該当していないかどうかを慎重に検討する必要がある。
《継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の例示》
【財務指標関係】
➤売上高の著しい減少
➤継続的な営業損失の発生又は営業キャッシュ・フローのマイナス
➤重要な営業損失、経常損失又は当期純損失の計上
➤重要なマイナスの営業キャッシュ・フローの計上
➤債務超過
【財務活動関係】
➤営業債務の返済の困難性
➤借入金の返済条項の不履行又は履行の困難性
➤社債等の償還の困難性
➤新たな資金調達の困難性
➤債務免除の要請
➤売却を予定している重要な資産の処分の困難性
➤配当優先株式に対する配当の遅延又は中止
【営業活動関係】
➤主要な仕入先からの与信又は取引継続の拒絶
➤重要な市場又は得意先の喪失
➤事業活動に不可欠な重要な権利の失効
➤事業活動に不可欠な人材の流出
➤事業活動に不可欠な重要な資産の毀損、喪失又は処分
➤法令に基づく重要な事業の制約
【その他】
➤巨額な損害賠償金の負担の可能性
➤ブランド・イメージの著しい悪化
(2) 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるとき
期末において、「事象又は状況」が存在する場合には、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策(効果的で実効可能なもの)を検討する必要がある。新型コロナウイルス感染症の影響により、以下の対応が必要であると考えられる。
〔「事象又は状況が存在する場合」に新たに該当した場合〕
⇒新たに対応策を検討する。また、監査人に効果的で実効可能なものであることを説明する必要がある。
〔既に「事象又は状況が存在する場合」に該当していた場合〕
⇒既存の対応策を変更又は修正する必要があるかどうか検討する。また、監査人に効果的で実効可能なものであることを説明する必要がある。
(ⅰ) 当該事象又は状況が存在する旨及びその内容
(ⅱ) 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
(ⅲ) 当該重要な不確実性が認められる旨及びその理由
(ⅳ) 財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な不確実性の影響を財務諸表に反映していない旨
(3) 有価証券報告書の「経理の状況」より前における記載
上記(2)の注記が必要でない(「重要な不確実性」がない)場合であっても、「事象又は状況」が存在する場合には、有価証券報告書の「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」にその旨及びその内容等を開示する。
また、上記(2)の注記をする場合でも、当該注記に係る「事象又は状況」が発生した経緯及び経過等について、「事業等のリスク」及び「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載する。
(4) 事業報告における記載
会社法に基づく事業報告においても、株式会社の現況に関する事項(会社法施行規則120①Ⅳ、Ⅷ、Ⅸ等)に、適切な開示をすることが望まれる。
(5) 後発事象の注記
貸借対照表日後に「事象又は状況」が発生した場合で、当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応をしてもなお継続企業の前提に関する「重要な不確実性」が認められ、翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすときは、重要な後発事象として、以下の事項を計算書類及び有価証券報告書に注記する。
(ⅰ) 当該事象又は状況が発生した旨及びその内容
(ⅱ) 当該事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策
(ⅲ) 継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨及びその理由
上記のような後発事象のうち、貸借対照表日において既に存在していた状態で、その後、その状態が一層明白になったものについては、継続企業の前提に関する注記の要否を検討する必要がある。
(了)
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