Ⅻ 今後の会計基準の改正
来期以降適用される会計基準として、以下がある。
〔収益認識関係〕
・企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
・企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
〔時価基準関係〕
・企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」
・企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」
1 収益認識関係
2018年3月30日にASBJより企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準(以下、「収益認識基準」という)」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針(以下、「収益認識指針」という)」が公表された。そして、2020年3月31日に表示及び注記に関する改正が行われた。
その後、電気事業連合会及び一般社団法人日本ガス協会からの提起に基づき、2020年12月25日に企業会計基準適用指針公開草案第70号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「収益認識指針案」という)」が公表された。
ここでは、収益認識指針案の概要について解説する。
(1) 改正の発端
電気及びガス事業においては、実務上、毎月、月末以外の日に実施する検針による顧客の使用量に基づき収益計上(検針日基準)が行われていた。一方、収益認識基準第35項(履行義務の充足による収益の認識)に従えば、決算月の検針日から決算日までに生じた収益を見積ることになる。
しかし、電気及びガス事業業界から、この方法が実務的に困難であることから、検針日基準を代替的な取扱いとして認めて欲しい旨の意見が寄せられたため、代替的な取扱いを認めるかどうかに関する改正案が公表された。
(2) 検針日基準による収益認識を認めない理由
収益認識基準及び収益認識指針では、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲内で、代替的な取扱いが認められている(収益認識指針164)。ここで、検針日基準による収益認識を認めた場合、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせることから、検針日基準は認めず、決算月の検針日から決算日までに生じた収益を見積る必要がある(収益認識指針案176-3)。
(3) 見積方法の代替的な取扱い
上記(2)のように収益を見積る場合、決算日時点での販売量実績が入手できないため、見積りと実績を事後的に照合する形で見積りの合理性を検証することができない等の場合がある。この場合、見積りの適切性を評価することが困難であることから、見積方法について財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、以下の代替的な取扱いが定められた(収益認識指針案103-2、176-3、176-4)。
電気及びガス事業における決算月の検針日から決算日までに生じた収益の見積りは、通常、同種の契約をまとめた上で、使用量又は単価(若しくはその両方)を見積って行われるものと考えられる。そこで、使用量及び単価の見積りを、以下のように行うことができる。
〔使用量〕
決算月の月初から月末までの送配量を基礎として、気温、曜日等を加味して見積ることが考えられる。しかし、気温、曜日等を加味することは実務上、困難な可能性があるため、その月の日数に対する未検針日数の割合に基づき日数按分により見積ることができる。
〔単価〕
契約の種類、使用量、時間帯等によって単価が変動する料金体系を採用していることがあり、単価の見積りについては、使用量等に応じて、それらの構成比の変動等を調整することが考えられる。しかし、このような調整を行うことは実務上、困難な可能性があるため、決算月の前年同月の平均単価を基礎とすることができる。
(4) 適用時期
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(収益認識指針案107)。
2 時価基準関係
2019年7月4日にASBJより企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準(以下、「時価基準」という)」及び企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(以下、「時価指針」という)」が公表された。また、関係するその他の会計基準等が改正された。
その後、「投資信託の時価の算定」及び「貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価注記」の取扱いを明らかにするために、2021年1月18日に企業会計基準適用指針公開草案第71号「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)(以下、「時価指針案」という)が公表された。
ここでは、時価指針案の概要について解説する。
(1) 投資信託の時価の算定
❶ 投資信託財産が金融商品である投資信託の場合
(ⅰ) 時価の算定方法
(※) 海外の法令に基づいて設定される投資信託(海外の投資信託)に対して、「基準価額を時価とみなすことができる」規定を適用する際、情報の入手が困難である可能性があることを踏まえ、時価の算定日と基準価額の算定日との間の期間が短い(通常は1ヶ月程度と考えられるが、投資信託財産の流動性などの特性も考慮する)場合に限り、基準価額を時価とみなすことができる(時価指針案24-5)。
(ⅱ) 注記
時価指針案24-3を適用した投資信託については、インプットのレベルが把握されないことから、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(以下、「金融商品時価指針」という)」5-2に定める事項)を注記せずに、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-7)。
① 基準価額を時価とみなす取扱い(時価指針案24-3)を適用しており、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨
② 基準価額を時価とみなす取扱い(時価指針案24-3)を適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額
③ ②の合計額に重要性がない場合を除き、②の期首残高から期末残高への調整表
⇒調整表を作成する際は、以下を区別する。
(1) 当期の損益に計上した額及びその損益計算書における科目
(2) 当期のその他の包括利益に計上した額及びその包括利益計算書における科目
(3) 購入、売却及び償還のそれぞれの額(これらの額の純額を示すこともできる)
(4) これまで時価指針案24-3の取扱いを適用しておらず、当期に時価指針案24-3の取扱いを適用した額及びこれまで時価指針案24-3の取扱いを適用していたものの、当期に時価指針案24-3の取扱いを適用しないこととした額
また、(1)に定める当期の損益に計上した額のうち貸借対照表日において保有する投資信託の評価損益及びその損益計算書における科目を注記する。
④ ②の合計額に重要性がない場合を除き、②の時価算定日における解約等に関する制限の内容ごとの内訳
時価指針案24-3の取扱いを適用するとした判断の前提となった解約等に関する制限の内容が類似する投資信託ごとに集計し、当該投資信託の貸借対照表計上額の合計額に重要性があるものを対象として、解約等に関する制限の主な内容及び貸借対照表計上額の合計額を注記することができる。
❷ 投資信託財産が不動産である投資信託の場合
(ⅰ) 時価の算定方法
時価基準においては、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されておらず、市場価格のない株式等を除き、時価をもって貸借対照表価額とする。また、投資信託財産が不動産である投資信託でも、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながると考えられる。
以上から、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、経過措置である時価指針第26項を削除し、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」に従い、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理を統一している(時価指針案49-9)。具体的な算定方法は、以下のとおりである。
(ⅱ) 注記
時価指針案24-9の取扱い(基準価額を時価とみなす取扱い)を適用した投資信託については、時価のレベルごとの内訳等に関する事項(金融商品時価指針5-2に定める事項)の注記は不要である。ただし、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-11)。
① 時価指針案24-9の取扱いを適用しており、金融商品時価指針5-2に定める事項を注記していない旨
② 時価指針案24-9の取扱いを適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額
③ ②の合計額に重要性がない場合を除き、②の期首残高から期末残高への調整表
⇒調整表の作成にあたっては、時価指針案24-7(3)(上記(1)❶(ⅱ)③(1)~(4)参照)と同様とする。
(2) 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記
組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めてられていないため、時価の注記も不要である。ただし、以下の内容を注記する。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない(時価指針案24-15)。
① 時価指針案24-15の取扱いを適用しており、金融商品時価指針第4項(1)に定める事項(貸借対照表計上額、時価及びその差額)を注記していない旨
② 時価指針案24-15の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額
(3) 適用初年度の取扱い
時価指針案の適用初年度においては、時価指針案が定める新たな会計方針(会計基準の定める時価を新たに算定する場合や取得原価をもって貸借対照表価額としていたものから時価をもって貸借対照表価額とする場合など)を将来にわたって適用する。そして、その変更の内容を注記する(時価指針案27-2、53)。
(4) 適用時期
時価基準及び時価指針は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されるが、時価指針案の適用時期は、以下のとおりである(時価指針案25-2)。
〔原則〕
2022 年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する。
〔容認〕
2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができる。
なお、時価指針案を年度末の連結財務諸表及び個別財務諸表から適用する場合は、適用初年度における「時価指針案24-7(3)(上記(1)❶(ⅱ)③参照)」及び「時価指針案24-11(3)(上記(1)❷(ⅱ)③参照)」の注記を省略することができる。また、この場合、適用初年度の翌年度においては、「時価指針案24-7(3)」及び「時価指針案24-11(3)」の連結財務諸表及び個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度及び前事業年度に関する注記は必要ない(時価指針案27-3)。
(連載了)