Ⅱ 資金決済法における特定の電子決済の手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い
2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下、「資金決済法」という)が改正され、広く送金・決済手段として用いられるいわゆるステーブルコインの取引を行う事業者について必要な規制が導入された。
このうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義された。また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われた(実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(以下、「資金決済取扱い」という)BC1)。
これを受けて、2023年11月17日にASBJより以下の会計基準が公表された。
- 実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」
- 企業会計基準第32号「「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」の⼀部改正」(以下、「CF一部改正」という)
- 会計制度委員会第8号「連結キャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」
1 適用範囲
資金決済取扱いは、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とし、発行者側と保有者側の会計処理について定めている。
ただし、以下については、資金決済取扱いの適用範囲に含めていない(資金決済取扱い2、BC5~BC8)。
➤ 第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示(資金決済取扱い3、BC6)
【理由】
第3号電子決済手段の発行者は、信託における受託者の会計処理を行うことになると考えられる。そして、会計基準は基本的に株式会社における会計処理等を定めており、信託の受託者の会計処理及び開示については、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い(以下、「信託取扱い」という)」のQ8のAにおいて一般的な取扱いのみ定めているため。
➤ 第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段に該当する外国電子決済手段のうち、当該電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段以外の外国電子決済手段(資金決済取扱いBC7、BC8)
【理由】
電子決済手段等取引業者が利用者から預託を受ける外国電子決済手段については、電子決済手段等取引業者に関する内閣府令(令和5年内閣府令第48号)において、電子決済手段等取引業者に課される買取義務などの一定の利用者保護の規制がある。一方、電子決済手段等取引業者が利用者から預託を受ける外国電子決済手段以外の外国電子決済手段については、当該利用者保護の規制がなく、かつ、資金決済法等で規定される電子決済手段の発行者に対する規制も及ばないため、国内で発行される電子決済手段と同様の会計上の性格を有するか否かは必ずしも明らかではない。また、仮に会計上の取扱いを定める場合、国際的な会計基準との整合性を図ることの検討も必要になると考えられ、改正された資金決済法の施行に合わせて短期的に対応を行うことが困難である可能性があるため。
➤ 第4号電子決済手段の発行者側及び保有者側に係る会計処理及び開示
まとめると、以下のとおりとなる。
〈資金決済法第2条第5項〉
〈1~3号に相当する外国電子決済手段〉
2 会計上の性格
(1) 電子決済手段
電子決済手段は、会計上、以下の性格を有する(資金決済取扱いBC17)。
- 通貨に類似する性格を有するもの
- 要求払預金に類似する性格を有するもの
(2) 電子決済手段に係る払戻義務
電子決済手段に係る払戻義務は、会計上、以下の性格を有する(資金決済取扱いBC31)。
第1号電子決済手段及び第2号電子決済手段の発行者は、これらの利用者に対して当該電子決済手段の券面額に基づく価額と同額で払戻しを行う契約上の義務を有する(資金決済取扱いBC12)。また、第3号電子決済手段の発行者は、金銭信託の受益権に関してその利用者から払戻しの請求がある場合、受託者として信託財産を金銭で払い戻す契約上の義務を有する(資金決済取扱いBC13)。したがって、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を金銭により払い戻す義務は、金融負債に該当する。
また、「将来一定期日に他の企業に対し現金を引き渡す契約上の義務」であると考えられるため、金銭債務に該当する。
3 電子決済手段の保有に係る会計処理
(1) 取得時の会計処理
電子決済手段を取得した場合は、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額により電子決済手段を資産として計上する。
当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い5、BC24)。
(2) 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理
電子決済手段を第三者に移転する場合又は電子決済手段の発行者から電子決済手段について金銭による払戻しを受ける場合は、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す。
電子決済手段を第三者に移転する場合に金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い6)。
(3) 期末時の会計処理
期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする。
なお、電子決済手段の換金リスクに関する会計上の取扱いを定めていない(資金決済取扱い7、BC28、BC29)。
4 電子決済手段の発行に係る会計処理
(1) 電子決済手段の発行時の会計処理
電子決済手段を発行する場合は、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額により負債として計上する。
当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(資金決済取扱い8)。
(2) 電子決済手段の払戻時の会計処理
電子決済手段を払い戻す場合は、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(資金決済取扱い9)。
(3) 期末時の会計処理
電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(資金決済取扱い10)。
5 外貨建電子決済手段に係る会計処理
外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建基準」という)一2(1)①(外国通貨の換算)に準じて処理する(資金決済取扱い11)。
外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、外貨建基準一2(1)②(外貨建金銭債権債務の換算)に従って処理する(資金決済取扱い12)。
6 預託電子決済手段に係る取扱い
電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者(合わせて「電子決済手段等取引業者等」という)は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった電子決済手段(預託電子決済手段)を資産として計上しない。また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(資金決済取扱い13)。
7 注記
電子決済手段及び電子決済手段に係る払戻義務に関して、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、「金融商品基準」という)第 40-2項に定める事項の注記を行う(資金決済取扱い14)。
金融商品に係る以下の事項を注記する。ただし、重要性が乏しいものは注記を省略することができる。なお、連結財務諸表において注記している場合は、個別財務諸表において省略できる。
(ⅰ) 金融商品の状況に関する事項
➤ 金融商品に対する取組方針
➤ 金融商品の内容及びそのリスク
➤ 金融商品に係るリスク管理体制
➤ 金融商品の時価等に関する事項についての補足説明
(ⅱ) 金融商品の時価等に関する事項
なお、時価を把握することが極めて困難と認められるため、時価を注記していない金融商品は、金融商品の概要、貸借対照表計上額及びその理由を注記する。
(ⅲ) 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項
電子決済手段が要求払預金に類似する性格を有する資産であるため(上記2(1))、金融商品の時価等に関する事項(金融商品基準40-2(2))を注記するにあたり、預金に関する取扱いに準ずる。また、電子決済手段に係る払戻義務は、金銭債務に該当すると考えられるため(上記2(2))、金融商品の時価等に関する事項を注記するにあたり、金銭債務に関する取扱いに従う(資金決済取扱いBC45)。
8 貸借対照表における電子決済手段の表示科目
電子決済手段は、現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であるが、現金又は預金そのものではない(資金決済取扱いBC18)。
そのため、(連結)貸借対照表において、財務諸表等規則第15条第1項に定める「現金及び預金」の範囲には含まれず、財務諸表等規則第17条第1項第12号に規定する「その他」に区分される。なお、財務諸表規則等第19条に基づき、電子決済手段に重要性が認められる場合には区分掲記が必要である(「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」No.1)。
9 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲
資金決済法第2条第5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。上記1参照)を現金に含める(CF一部改正BC6)。
10 適用時期
公表日以後適用する(資金決済取扱い15)。