Ⅲ 電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い
2019年5月に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)が成立したことにより、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称)は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われた(「実務対応報告第 43 号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の公表」の「公表にあたって」)。
これを受けて、2022年8月26日にASBJより以下の会計基準が公表された。
- 実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下、「電子有価証券取扱い」という)
1 適用範囲
電子有価証券取扱いは、株式会社が金融商品取引業等に関する内閣府令(以下、「金商業等府令」という)第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(電子有価証券取扱い2)。
ここで、「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下、「みなし有価証券」という)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう(電子有価証券取扱い3(1))。
電子記録移転有価証券表示権利等は、従来のみなし有価証券と権利の内容は同一のため、「基本的に」みなし有価証券と同様の会計処理を規定している(電子有価証券取扱い27)。
2 電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理
金融商品基準及び金融商品実務指針(以下、両方合わせて「金融商品基準等」という)上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様に、その発行に伴う払込金額を負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行う(電子有価証券取扱い4~6、28)。
これまで、払込金額が負債となるのか株主資本となるのかについての明確な会計基準は存在していなかったため、有価証券の法的形式等を勘案して、実務上の対応が行われていた。したがって、電子記録移転有価証券表示権利等を発行した場合の払込金額の区分についても、特段の定めを設けず、現行の実務を参考にして判断する(電子有価証券取扱い30)。
なお、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理については、取り扱っていない(電子有価証券取扱い29)。
3 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理
電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて会計処理を行う(電子有価証券取扱い7)。
(1) 金融商品基準等上の有価証券に該当する場合
① 発生及び消滅の認識
金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識は、従来のみなし有価証券と同様に金融商品基準第7項から第9項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理を行う。
ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約締結時から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合は、金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約締結時に、買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する(電子有価証券取扱い8)。
② 期末時
金融商品基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理については、従来のみなし有価証券を保有する場合と同様に、金融商品基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従って会計処理(その他有価証券であれば時価評価等)を行う(電子有価証券取扱い9)。
(2) 金融商品基準等上の有価証券に該当しない場合
金融商品基準等の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理は、金融商品実務指針及び信託取扱いに従って行う。
ただし、金融商品基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び信託取扱いにより、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うものについては、その発生の認識(信託設定時を除く)及び消滅の認識は、金融商品実務指針及び信託取扱いにかかわらず、電子有価証券取扱い第8項の定め(上記(1)①参照)に従って行う(電子有価証券取扱い10)。
4 表示
電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示は、従来のみなし有価証券と同様である(電子有価証券取扱い11)。
5 注記
電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の注記事項は、従来のみなし有価証券で求められる注記事項(金融商品関係注記、有価証券関係注記)と同様である(電子有価証券取扱い12)。
6 適用時期
適用時期は、以下のとおりである(電子有価証券取扱い13)。
〔原則〕
2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。
〔早期適用〕
電子有価証券取扱いの公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。
(了)
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