公開日: 2017/05/18 (掲載号:No.218)
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ストーリーで学ぶIFRS入門 【第16話】「連結財務諸表(IFRS第10号)、おさえるポイントは3つ!」

筆者: 関根 智美

 

会計方針の統一

  • 連結の範囲
  • 会計方針の統一
  • 報告日の統一

 

類似の状況における同様の取引及び事象は統一された会計方針を用いる必要がある

「では、『会計方針の統一(uniform accounting policies)』に移ろう。ここからは、連結の範囲みたいに長々とした説明はないから安心してくれ。」

藤原の言葉に、桜井は安堵した。

「はい。たしかIFRSでは、類似の状況における同様の取引及び他の事象に関し、統一された会計方針を用いて、連結財務諸表を作成しなければならないんですよね。」

「その通りだ。もしある子会社が、類似の状況での同様の取引及び事象について連結財務諸表で採用した以外の会計方針を使用している場合には、連結財務諸表作成の際に、その子会社の財務諸表に適切な修正を行う必要があるんだ。」

「はい。同じような取引にもかかわらず、親会社や子会社毎に会計方針が異なるのはおかしいですもんね。」

「そうだ。ここは大丈夫そうだな。」

日本基準では当面の間、IFRSや米国基準作成財務諸表を利用できる

「そういえば、日本基準にも会計方針を一致させるという規定はありますけど、IFRSや米国基準で作成された子会社の財務諸表は一定の修正だけすれば当面の間、そのまま使用できますから、ここもIFRSと異なる点ですね。」

「ああ。その通りだ。よく知ってるじゃないか。」

「今回の決算、この調整部分は僕が担当でしたから。」
桜井は、藤原を真似てニヤリとした。

 

報告日の統一

  • 連結の範囲
  • 会計方針の統一
  • 報告日の統一

 

親会社と子会社の報告日を統一させる必要がある

「よし、これで最後の項目だ。報告日(reporting date)についても親会社と子会社で一致させる必要があるという規定だ。」

「はい。では、IFRS導入に向けて、すべての子会社の決算日を親会社と一致させる必要があるってことですか?」

「決算日を統一させた方が楽にはなるが、必ずしも決算日を統一させることを求めているわけじゃないな。ただし、親会社と子会社の報告日が異なる場合は、子会社は連結のために親会社の報告日現在の追加的な財務情報を作成しなければならないんだ。」

「へぇ。では、もし親会社が3月決算で、子会社が3月決算以外だった場合、子会社は3月末日を報告日として仮決算する必要があるってことですね。」

「そういうことだ。」
藤原は頷いた。

親会社の報告日現在の子会社の財務諸表作成が実務上不可能な場合、報告日の差異は3ヶ月以内

「ただし、親会社の報告日現在の子会社の財務諸表を作成することが実務上不可能な場合は、親会社は子会社の直近の財務諸表を用いて子会社の財務情報を連結することになる。」

「へぇ。」

「その時は、子会社の報告日と親会社の報告日との間に生じる重要な取引又は事象の影響を調整することになるんだ。」
桜井は黙って頷いた。

「そして、いかなる場合でも、子会社と親会社の報告日の差異は3ヶ月を超えてはならない。また、報告期間の長さ及び財務諸表の日付の差異は毎期同一でなければならないんだ。」

「なるほど。分かりました。」

日本基準との相違点

「ここでの日本基準との相違点はもう分かっているな?」

「はい。日本基準では、親会社の連結決算日と子会社の決算日が3ヶ月を超えない場合は、グループ間取引に係る重要な不一致を調整すれば子会社の財務諸表をそのまま連結できますよね。つまり、親会社の報告日現在の財務諸表の作成が実務上不可能な場合に限らず、子会社の直近の財務諸表を基礎として連結決算を行うことができます。」

「そうだな。それから?」と藤原は片眉を上げて、桜井を促した。

「まだありましたっけ?・・・えーと、あ、分かりました。」

「日本基準では、連結決算日と子会社の決算日との間に生じた重要な連結グループ内取引については調整をするんですけど、IFRSでは外部取引についても調整する必要があるという点が違いますね。」

「その通りだ。今回はここまでだな。この程度理解しておけば、ひとまず大丈夫だろう。」

藤原の言葉を聞いて、桜井はホッと安堵の溜息を漏らした。

ストーリーで学ぶ
IFRS入門

【第16話】
(最終回)

「連結財務諸表(IFRS第10号)、おさえるポイントは3つ!」」

仰星監査法人
公認会計士 関根 智美

 

連載の目次はこちら

● ○ プロローグ ○ ●

ようやく仕事がひと段落ついた桜井は、大きく伸びをして、肩を回す。窓の外を見ると、空はまだ明るい。日が長くなってきた証拠だ。

桜井は、とある中規模の上場メーカーの経理部に勤めている。5月も下旬に差しかかり、まだまだ忙しいものの、年度決算という繁忙期のピークが過ぎた経理部内の雰囲気も落ち着いてきた。

「お疲れさん。」と、桜井の隣に座っているイカツイ男性が声をかけてきた。2年先輩の藤原だ。藤原とは年末からしばらく険悪な関係が続いていたのだが、先月ようやく和解し、以前のように気軽な話をする仲に戻っている。

「今日は久しぶりに早く上がれそうです。先輩も順調そうですね。」

「ああ。この決算が終わったら、またIFRSプロジェクトが待っているけどな。」
藤原は溜息をついた。桜井の会社では、数年以内にIFRSを導入することが決まっており、藤原はそのプロジェクトチームの一員なのだ。桜井はメンバーには含まれていないものの、去年の夏から藤原にIFRSを教わっていた。

「僕が先輩からIFRSを教わり始めて、そろそろ1年になるんですね・・・」
桜井は感慨深げに言った。初めは教わる一方だった桜井も、最近では藤原に頼らず、自分から進んで本を開くようになっている。

「そう言えばそうだな。ちゃんと自主勉続けているか?」と、藤原が訊いた。

「もちろんですよ。今は忙しいから、専ら電車の中だけですけど。」

「へぇ。なかなか頑張っているじゃないか。」

「今朝は、IFRS第10号の連結財務諸表の章を勉強したんですよ。」
藤原の言葉に嬉しくなり、桜井は得意げに言った。今回の決算で初めて本格的に連結業務に携われたこともあり、桜井はIFRSの連結についても興味を覚えたからだ。

「そう言えば、連結について教えていなかったな。すっかり忘れていた。」
頬をポリポリ掻きながら、藤原が言った。IFRS導入決定後すぐに検討した論点であったこともあり、藤原の中では既に桜井に教えたつもりになっていたのだ。

「え、忘れてたんですか!?」

言い訳をするのも格好が悪いと思った藤原は、桜井にこう言った。
「俺も切りがいいところだから、今から簡単に説明してやるよ。今朝の復習になるだろ?」

「まぁ、しょうがないですね。それで手を打ちましょう。」

桜井の生意気な返事に口元を緩めた藤原は、桜井の頭を軽く小突いた。

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連載目次

筆者紹介

関根 智美

(せきね・ともみ)

公認会計士

神戸大学経営学部卒業
2005年公認会計士2次試験合格
2006年より大手監査法人勤務後、語学留学及び専業主婦を経て、
2015年仰星監査法人に入所。法定監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
2017年10月退所。

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