税理士が知っておきたい
不動産鑑定評価の常識
【第48回】
「減価の査定にそれなりの判断を伴う土地(その2)」
~地上阻害物(高速道路、鉄道高架線、高圧線等)が存在する場合~
不動産鑑定士 黒沢 泰
1 はじめに
前回は、減価の査定にそれなりの判断を伴う土地の1回目として、地下阻害物(地下鉄等)が存在する土地の評価について取り上げました。
ところで、土地利用に影響を与える阻害物と呼ばれるものは地下だけでなく、地上にも存在します。例えば、高速道路、鉄道高架線、高圧線等がこれに該当します。対象地の近くにこのような阻害物があったり、高架下を建物の敷地の用に供したりしている場合には様々な影響を受け、利用価値が低下していることが多いといえます。
そこで、今回は、地上阻害物が存在する土地の評価について取り上げます。
2 地上阻害物が存在する土地の鑑定評価
最初に、鉄道高架線の下にある土地(以下、「高架線下地」といいます)を想定して解説を行います(高速道路の下にある土地も同じ状況だと考えていただいて構いません)。
このような土地の鑑定評価を依頼された場合には、高架線下地という個別的要因を反映させた価格を求めることとなります。その際の要因としては、例えば住宅地の場合には、高架線下地であるが故の高さ制限、快適性のマイナスなど環境面に与える影響(騒音・振動、日照・採光の不良ほか)等が考えられます(商業地、工業地の場合も、土地利用に影響を受ける内容やその程度の差はありますが、同様に減価要因として作用します)。これらの格差率は、高架線下地という項目では(前回紹介した)「土地価格比準表」に直接示されてはいませんが、実務では次の考え方や査定方法が採用されています。
ア 高さ制限を受けることによる補正
まず、近隣地域における標準的使用の状況等を調査し、対象地が仮に高架線による高さ制限を受けないとした場合に何階建ての建物を建築することができるかを査定します。すなわち、対象地上に建築する想定建物の最有効階数を判定するということです。
そして、次の段階として、現状を前提とした利用可能階数を判定し、これらを基に、高さ制限を受けることによる対象地の価値割合(更地価格に対する割合)を査定の上、土地価格を求めることとなります。
この価値割合を求める際に1つの参考にされるものが、前回紹介した「公共用地の取得に伴う損失補償基準」です。(専門的な解説は割愛させていただきますが)対象地が高架線による影響を受けないと想定した場合の最有効階数を6階、現状を前提とした利用可能階数を2階と想定し、上記損失補償基準に当てはめた結果、対象地が高さ制限を受けることによる価値割合が、そうでない場合の40%と査定されたとすれば、これを更地価格に乗じることになります。
イ 快適性など環境面に与える影響を考慮した補正
鑑定評価の際には、減価の検討はこれのみにとどまらず、例えば住宅地の場合は、さらに快適性など環境面に与える影響(騒音・振動等)も考慮して減価割合を査定するケースが多くあります。
以上述べてきたような事情は、高圧線下地(上空に高圧の電線が通過している土地)に関しても同様です(高圧線のイメージ写真を以下に掲げます)。
ちなみに、高圧線下にある宅地は、それだけで心理的な不安感や不快感を伴うことは事実です。また、状況によっては土地の最有効使用が妨げられるケースも発生します。後者の例として、当該部分の上空を高圧線が通過していなかったならば5階建ての建物が建築できるところ、その影響により4階建てに制限されてしまうといったケースがあげられます。そして、高圧線による価格への影響は用途(住宅地、商業地、工業地等)によっても異なると考えられます。
一般的には、大工場地域に属している土地は住宅地域内にある土地に比べ、高圧線が存在することによる快適性への影響度は少ないですし、また、商業地域内にある土地と比べた場合でも使用可能な容積率からして、建物の建築可能階層が制限される度合いは少ないと思われます(工業地に指定される容積率は200%が多いのに対し、商業地の場合はそれ以上(400~500%、あるいはこれ以上)のケースが多いからです)。
ただし、高圧線の電圧が170,000Vを超えるような場合には、その真下部分及び高圧線からの水平距離3m以内に建物を建築することができないとされている点には留意すべきです。このように、高圧線下にある宅地は、その地上高にもよりますが、一般的にはこれがない状態での宅地に比べ相応の減価を伴うといえます。
3 税務の評価では
相続税や固定資産税の評価においても、地下阻害物が存在する場合と同様に、地上阻害物が存在する土地の評価をどのようにすべきかが問題となります。
そこで、以下、前回と同様に相続税評価及び固定資産税評価それぞれの場合に分けて評価の考え方を述べ、鑑定評価との相違を対比させておきます。
(1) 相続税の評価では
① 騒音、振動その他の要因により利用価値が著しく低下している宅地について
国税庁タックスアンサーNo.4617では、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」について10%の評価減を行うことができる旨の解説があります。
詳細は同庁ホームページを参照いただくこととし、その要旨は以下のとおりです(下線は筆者によります)。
〇国税庁タックスアンサーNo.4617(一部抜粋)
次のようにその利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるものの価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10パーセントを乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。
1 道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
2 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
3 震動の甚だしい宅地
4 1から3までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの
上記の趣旨に当てはめた場合、対象地が高速道路や鉄道高架線等の近隣にあり、騒音・振動等の影響を著しく受ける場合には評価減を行うことができると考えられます。
② 高圧線下地の宅地の評価について
対象地の上空に高圧線が通過している場合、区分地上権(その内容は前回紹介しました)や、高圧線の架設を目的とする地役権が設定されているのが通常です(上空に地役権が設定されている場合、その土地の所有者は高圧線を中心に上下の一定範囲につき利用制限を受けるとともに、建物の建築可能な階数も制約されることがあります)。また、地役権が設定されている場合も、その実態は区分地上権に近いといえます。
したがって、高圧線下地の宅地の評価額については、区分地上権に準ずる地役権の評価に関する下記規定(下線は筆者によります)に当てはめて、区分地上権に準ずる地役権の価額を計算し、これを自用地としての価額から控除して求めるということになります。
〇財産評価基本通達27-5(区分地上権に準ずる地役権の評価)
27-5 区分地上権に準ずる地役権の価額は、その区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である宅地の自用地としての価額に、その区分地上権に準ずる地役権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合(以下「区分地上権に準ずる地役権の割合」という。)を乗じて計算した金額によって評価する。
この場合において、区分地上権に準ずる地役権の割合は、次に掲げるその承役地に係る制限の内容の区分に従い、それぞれ次に掲げる割合とすることができるものとする。(平3課評2-4外追加、平6課評2-2外・平12課評2-4外改正)
(1) 家屋の建築が全くできない場合 100分の50又はその区分地上権に準ずる地役権が借地権であるとした場合にその承役地に適用される借地権割合のいずれか高い割合
(2) 家屋の構造、用途等に制限を受ける場合 100分の30
この規定にも登場するとおり、区分地上権に準ずる地役権の価額を求めるに当たっては(前回紹介した)土地利用制限率を基にする方法を原則としつつも、納税者の評価上の便宜に資するため、家屋の建築が全くできない場合と構造・用途等に制限を受ける場合とに分けて、それぞれ簡便的な割合を用いることも認められています。
なお、高速道路や鉄道高架線等の下にあり建築物の建築に制限を受ける場合も、同じ考え方が適用できるものと思われます。
(2) 固定資産税の評価では
固定資産評価基準においては(地下阻害物のある土地の場合と同様に)地上阻害物のある土地についての評価規定は存在せず、このような土地につき評価額に反映させる必要があると市町村が判断した場合には、所要の補正という形で評価額の減額を行っているケースがあります。以下、A市の例を掲げておきます(これはあくまでも一例であり、他の市ではその実情に応じてA市と異なる補正率を定めているというケースもあります)。
ア 高圧線下補正
高圧線があることにより土地の利用に制約がある場合は、総地積に対する高圧線下部分の割合に応じた〈資料2〉「高圧線下補正率表」より求めた補正率を乗じて評点を求めます。
イ 高速道路等の高架があることにより土地の利用に制約がある場合の補正
高圧線以外の建物又は高速道路の地上阻害物が当該画地上に存在し、土地の利用に制約を受ける場合、2分の1の補正率を乗じて評点を求めます。
ウ 鉄塔敷補正
鉄塔敷であることにより土地の利用に制約がある場合は、〈資料2〉の「高圧線下補正率表」の下限である補正率0.5を乗じて評点を求めます。
(了)
「税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識」は、毎月第3週に掲載されます。