2020年12月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.399を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第86回】 「令和3年度与党税制改正大綱の概要」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 12月10日、自民党及び公明党の両党は、「令和3年度税制改正大綱」(与党大綱)を決定した。 以下ではこの与党大綱の概要について解説する。 〇法人課税 (1) 研究開発税制 法人課税関係では、研究開発税制において、適用期限を迎える控除率の上乗せ措置等について2年延長した上、控除率が試験研究費の増加インセンティブをより高める方向で見直されるとともに、控除上限の上乗せ措置が設けられる(売上が基準年度より2%以上減少し、かつ、試験研究費が基準年度より増加している場合に、5%上乗せ(合計30%))。また、これまで税額控除の対象外であったクラウドサービスの開発等のための自社利用ソフトウエアに係る試験研究費が、税額控除対象の試験研究費に含まれることとなる。 (2) 産業競争力の強化に資する税制の創設 産業競争力強化法の改正を前提とした、事業革新に向けた3つの措置が創設される。 第1は、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制。産業競争力強化法に基づく事業適応計画(仮称)の認定を前提に、その計画に基づくソフトウエアを新増設し、それとともに事業の用に供する機械装置・器具備品について30%の特別償却又は3%(グループ外とのデータ連携の場合は5%)の税額控除が適用される。 第2は、カーボンニュートラル投資促進税制。産業競争力強化法に基づく中長期環境適応計画(仮称)の認定を前提に、その計画に基づき生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備(機械装置・器具備品・建物附属設備・構築物)を取得等した場合には50%の特別償却又は5%(経済活動炭素生産性の向上率が高い場合には10%)の税額控除、脱炭素化を加速する製品の生産に専ら使用される設備製造(機械装置)を取得した場合には50%の特別償却又は10%の税額控除が適用される。 第3は、繰越欠損金の控除上限の特例。産業競争力強化法に基づく事業適応計画(仮称)の認定を前提に、一定の要件(将来の成長に向けた投資(単純な維持・更新投資は対象外)計画を提出し、計画期間内に達成を見込む業績目標(ROA5%ポイント向上等)を定めること)を満たすものが、コロナ下で生じた(2年間)欠損金につき、黒字転換後最大5年間にわたり、計画に基づく投資額を限度に最大当期所得の100%まで損金算入が可能となる。 (3) 株式対価M&Aに係る繰延措置 会社法改正(令和3年3月1日施行)で創設されることとなった株式交付制度(自社株式を対価とした子会社化)を前提に、それに応じた被買収会社の株主について、譲渡損益が繰り延べられる。対価の80%は買収会社の株式である必要があるものの、残り20%までは現金等でも構わない(この場合、自社株式を対価とする部分の譲渡損益が繰り延べられる)。 (4) 賃上げ・生産性向上のための税制 賃上げ・生産性向上のための税制(大企業向け措置)は、今回のコロナ感染症を引き金としてかつての就職氷河期が再来することのないよう、新規採用者(新卒・中途)の給与総額の増加(2%以上)にターゲットを絞った制度(新規採用者の給与総額(ただし全従業員の給与総額の対前年度増加額が上限)の15%の税額控除)に改組される。 (5) 中小企業向け特例措置 中小企業向け特例措置は、法人税の軽減税率の特例(年800万円以下の部分について15%)や中小企業投資促進税制(商業・サービス業・農林水産業活性化税制と統合)、中小企業経営強化税制等がそれぞれ2年延長されるとともに、中小企業の経営資源の集約化に資する税制が創設される。具体的には、中小企業による買収が行われた場合に、その株式価値の低落による損失に備えるための準備金(株式の取得価額の70%以下)の積立て(積立額は損金算入し、5年後から5年で均等取崩し)を行う。 〇個人所得課税 住宅ローン控除の特例(控除期間13年)の期限が令和4年12月31日までの入居(契約は、新築の場合は令和2年10月から令和3年9月末までのもの、建売・中古・増改築の場合は令和2年12月から令和3年11月末までのもの)に延長され、床面積要件についても合計所得金額1,000万円以下の者については40平米以上とする。 退職所得に関しては、勤続年数5年以下の場合の法人役員等以外の退職所得については、控除額プラス300万円を超える部分について2分の1課税を適用しないこととなる(令和4年分以後の所得税について適用)。 この他、国又は地方自治体の行う保育その他の子育てに対する助成(ベビーシッター・認可外施設の利用料等の助成等)について所得税・住民税が非課税とされる。 〇資産課税 資産課税では、まず、土地に係る固定資産税につき、今回の評価替えにより本来は課税標準額が引き上げられることとなる全ての土地について、令和3年度に限り、令和2年度と同額に据え置かれる。 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である場合(つまり世代を飛ばした相続)の贈与者の死亡時の残高に係る相続税額の2割加算の適用等の見直しが行われた上、2年延長となった。ただし、利用者が激減している結婚・子育て資金の非課税措置に関しては、適用期限の到来時には「制度の廃止も含め」検討することとなった。また教育資金の非課税措置に関しては、贈与者死亡時の残額について死亡前3年の贈与に限定することなく、相続財産に加算されることとなる。 〇車体課税 車体課税(自動車重量税、自動車税・軽自動車税)については、100年に一度といわれる大転換期にある自動車産業の存続をかけた対応に「一定期間の猶予」を設ける観点から、燃費基準が令和12年基準に切り替わるものの、自動車重量税のエコカー減税については、全体として自動車ユーザーの負担が増えないこととされる。また、自動車税・軽自動車税の環境性能割の臨時的軽減措置(税率1%分軽減)は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策で令和3年3月31日まで延長されているところ、さらに9ヶ月延長し、同年12月31日までに取得したものを対象とする。 〇税務手続の電子化 国・地方公共団体を通じたデジタルガバメントの推進による行政手続コストの削減等の観点から、納税環境のデジタル化を一挙に進める。 税務署長に提出する国税関係書類において、実印及び印鑑証明書を求めている手続(例えば、担保提供関係書類、遺産分割協議書)を除き押印義務が廃止される。 電子帳簿保存制度における手続が抜本的に簡素化される(税務署長の承認制度の廃止、訂正履歴や検索機能がなくてもダウンロード可能であれば電子データのまま保存可能)。トレーサビリティ(追跡可能性)の確保された優良な電子帳簿については、その記録され事項に関し生じた申告漏れに課される過少申告加算税の額を申告漏れに係る税額の5%分軽減する。 地方税においても、地方税共通納税システムの対象税目に、固定資産税・都市計画税・自動車税種別割・軽自動車税種別割が追加され(令和5年度分以後)、給与所得者に係る特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子的送付も可能となる(令和6年度以後の年度分の個人住民税について適用)。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第21回】 「代表取締役による横領があった場合の認定賞与該当性」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 役員の不正があった場合の論点は【第11回】の通りであるが、役員が法人の金員を横領した場合には、役員に対する経済的利益の供与であるとする「認定賞与」とされることがある。 (1) 認定賞与と役員の横領 「認定賞与」という言葉は法で定められているものではなく、実務上使用され、定着してきた言葉である。一般的には、会計上、役員給与として損金経理されているもの以外で、事実上は役員に対する利益供与であると認定することをいう。 平成18年度税制改正により役員給与税制が大きく変化したのは周知の通りであるが、「認定賞与」という言葉は、改正前の法人税法において役員賞与が損金不算入であると定められていたこと(旧法法35①)に由来している。当該改正以降、役員賞与という概念は法人税法から失われたが、実務上、課税庁から役員に対する経済的利益の供与であるとして指摘を受けることを未だに「認定賞与」と呼んでいる実態があるといえる。 なお、当該改正を受け、「認定賞与という概念は認定役員給与という概念に衣替えしたと考えられる」と説くものがあるが(※2)、平成18年度税制改正以降にも、認定賞与という言葉が使用されている裁判例が数多くあることや、認定することで法人の損金算入性を否定し、源泉徴収義務違反を問うという実質に鑑みると、従来と同様であると考えられる。 (※2) 岩﨑政明編『税法用語辞典』(大蔵財務協会、2016)807頁。 ここで、役員自身が法人の金員を何らかの手段により横領していた場合も、認定賞与とされる可能性がある。この場合には、法人が源泉徴収義務違反となるばかりか、定期同額給与等の損金算入要件を満たさないとして損金不算入となる可能性がある。 通常、法人が横領により被害を受けた場合には、民事上、不法行為による損害賠償請求権が生じるため(民法709)、横領額を損失とするとともに、当該損害賠償請求権部分を益金とすることが基本的な処理である。これに対して、役員に対する認定賞与とされる場合は、横領金員が損害賠償請求権ではなく役員に対する経済的利益の供与とされるということである。 (2) 認定賞与とされた事例 役員が法人の金員を横領したことにつき、上告までなされた裁判例を概観する(※3)。この事例は、社会福祉法人の元理事長が法人の金員を個人口座に移すことで横領したことにつき、課税庁が役員給与であると認定したことで、源泉徴収義務が争点となった事例である。 (※3) 最高裁平成16年10月29日決定(税務訴訟資料254号順号9803、TAINS:Z254-9803)。なお、この事例は社会福祉法人であり、法人税の申告義務がないために源泉徴収義務違反のみが争点となったと推察される。また、民事上は先立って損害賠償請求権が確定しているという特徴がある。 地裁(※4)は、元理事長の行為は「法人の金員の横領行為であったもので、しかも、原告としては、支払者として、元理事長からその所得税を天引により徴収する余地はなかったもので、法が予定しているように原告という法人が元理事長から所得税を源泉徴収する余地はおよそ考えられない形態の金員の移動であったというべきである」として認定賞与に当たらないと示した。 (※4) 京都地裁平成14年9月20日判決(税務訴訟資料252号順号9198、TAINS:Z252-9198)。 これを受けて課税庁側が控訴した高裁では(※5)、元理事長の社会福祉法人における「地位、権限、実質的に有していた全面的な支配権に照らせば、本件金員の移動、すなわち、社会福祉法人の金員を社会福祉法人から元理事長の口座へ送金したことは、社会福祉法人の意思に基づくものであって、社会福祉法人が元理事長に対し、経済的な利得を与えたものとみるのが相当である(下線部筆者)」として、認定賞与とした課税庁の主張を支持した。納税者はこれを不服として最高裁へ上告したが、不受理決定がなされ確定している。 (※5) 大阪高裁平成15年8月27日判決(税務訴訟資料253号順号9416、TAINS:Z253-9416)。 (3) 認定賞与該当性の判断 上記は代表者による横領があった場合の認定賞与該当性について先駆的といえる判決であり、下線部の通り、代表者としての地位や権限に着目して認定賞与該当性を判断したものである。これを前提としてか、代表者の実弟が横領したケースにおいて、地位や権限に着目した結果、認定賞与に該当しないとした裁決例も近年になって現れている(※6)(※7)。 (※6) 国税不服審判所平成30年5月7日裁決(裁決事例集111集65頁、TAINS:J111-2-05)。 (※7) これら社会福祉法人と国税不服審判所裁決の事例について、「役員としての地位、権限」という判断要素が色濃くなってきていることを指摘し、国税不服審判所の判断を法令上想定していない新たな課税要件を創出していると批判するものとして、渡辺充「横領した金員と役員給与」税理62巻5号(2019)90頁がある。 この社会福祉法人の事例の高裁・最高裁は批判が少なくないが、例えば、実質的支配力の有無のみに着目して役員賞与か損害賠償請求権かを峻別することは法律論として妥当ではないことを指摘し、先立って民事上確定した損害賠償請求権を否定していることにつき、「税法が私法上の事実に反した認定事実を前提として課税関係を定立するという誤った結果をもたら」し、「避けなければならない課税である」とする見解がある(※8)。 (※8) 大淵博義「役員等の横領による損失を巡る課税上の諸問題(1)~(3)」税経通信62巻(2007)5号54頁、6号46頁、8号41頁。 しかし、実際に代表者による横領が発覚した場合、実務上は代表者という地位を重視された結果、認定賞与とされてしまうことが一般的な運用であるようにも思われる。この点、代表者による横領が賞与であると認定されるのは、代表者に対して損害賠償請求権が成立するという考え方ではなく、横領をした代表者と横領を受けた会社が事実上同一であるということを重視することで認定しているのではないかと考えられる。 課税庁の内部資料によると、代表者が横領したことにつき認定賞与該当性が争われた裁判例を題材とし、その判断について「金員の移転や利益の取得が、職務執行の対価に準ずる性質を有するかどうかといった事情や法人における地位に基づいて支給されたものかどうかといった点をあわせ考慮して判断する」ことがポイントであり、「法人が役員等に対して給与として支給する意思を有しているか否かにかかわらず、法人の行為により役員等に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものは、給与とされる経済的利益に該当する」と課税庁内部に周知している行政文書も存在する(※9)。 (※9) TAINS:行政文書「調査に生かす判決情報018」 認定賞与については、多くの裁判例があることからも問題視されやすい項目であると同時に、横領の被害を受けた法人にとっても簡単に納得できるような項目ではない。したがって、税務調査で代表者による横領が認められた場合においては、最低でも、当該横領が経済的利益の供与といえるか否か、職務執行の対価という性質を有するか、横領した代表者に返済資力があるか等の事実に鑑みて反論していくべきであると考える。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第16回】 「通算グループ内の組織再編成」 公認会計士 佐藤 信祐 4 通算グループ内の組織再編成 (1) 繰越欠損金と特定資産譲渡等損失額 通算法人を合併法人とし、他の通算法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合において、適格合併に該当するときは、資産及び負債を最後事業年度終了の時の帳簿価額で引き継ぐことになる(法法62の2①)。そして、支配関係が生じてから合併法人の合併事業年度開始の日までの期間が5年未満である場合において、みなし共同事業要件を満たさないときは、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の適用を受けることになる(法法62の7①)。 そして、通算法人を合併法人とし、他の通算法人を被合併法人とする適格合併を行った場合には、グループ通算制度を採用していない場合と同様に、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができる(法法57②)。そして、他の通算法人から通算法人に繰越欠損金を引き継ぐ場合には、法人税法57条3項に規定されている繰越欠損金の引継制限が課されないという特例が定められているとともに(法令112の2⑥)、通算法人が他の通算法人から適格合併により資産及び負債を受け入れた場合であっても、同条4項に規定されている繰越欠損金の使用制限が課されないという特例が定められている(法令112の2⑦)。 これは、グループ通算制度を開始又は加入する時に、原則として、通算法人の繰越欠損金が切り捨てられており、グループ通算制度を開始又は加入する前に生じた繰越欠損金のうち残っているものは、時価評価が不要な通算法人の繰越欠損金のみであることから、租税回避の恐れがないと考えたためであると思われる。 これに対し、前述のように、特定資産譲渡等損失額の損金不算入は課されている。旧連結納税制度に比べて、時価評価が不要な法人が増えたとはいえ、グループ通算制度の加入に伴う時価評価については、組織再編税制との整合性が意識されている。これに対し、グループ通算制度の開始に伴う時価評価は、完全支配関係継続要件のみが要求されていることから、時価評価課税の対象から除外することは容易である。そのため、適格合併の段階において、特定資産譲渡等損失額の損金不算入を課す必要性はあると考えられる。 (2) 繰越欠損金の引継制限、使用制限 前述のように、グループ通算制度の開始に伴う時価評価は、完全支配関係継続要件のみが課されていることから、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことは容易である。そして、加入の直前に支配関係がある場合には、完全支配関係継続要件、従業者従事要件及び事業継続要件のみが課されていることから、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことは容易である。 すなわち、みなし共同事業要件を満たさなかったとしても、新たに事業を開始した場合に該当しない限り、特定欠損金として繰越欠損金をグループ通算制度に持ち込むことができることから、適格合併の段階で繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要はあると考えられる。 すなわち、適格合併の段階において、非特定欠損金に対しては、繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要はないが、特定欠損金に対しては、繰越欠損金の引継制限、使用制限を課す必要があることから、そのような税制改正が行われることが望ましいと考えられる。 (3) グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税の問題点 第6回でまとめたように、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入すべきであると考えていた。その場合には、最初に完全支配関係のある法人が生じたことがグループ法人税制の開始ということになるため、グループ法人税制の開始に伴う時価評価とグループ法人税制の加入に伴う時価評価課税が同様の規定になると考えられる。 そうなると、グループ通算制度と異なり、グループ法人税制は親族等が保有する株式を含めて判定するという問題がある(法法2十二の七の六、法令4の2、法法61の13など)。6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族が親族に含まれることから(民法725)、会ったこともない親族等が保有する法人との間でグループ法人税制が適用されることもある。譲渡損益の繰延べであれば、それほど実害はないが、A氏がX社を買収する場合において、A氏及びA氏の親族等が別の法人を保有していないときはグループが形成されず、A氏の親族等が別の法人を保有していたときはグループが形成され、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税が適用されるというのでは、実務の弊害が大きいように思われる。 すなわち、グループ法人税制の加入に伴う時価評価課税を導入するとすれば、グループ通算制度と同様に、内国法人による完全支配関係が生じた場合に限定せざるを得なくなる。そうなると、外国法人や個人が被買収会社株式を取得する場合には課税されずに、内国法人が被買収会社株式を取得する場合に課税されるという制度になってしまい、課税の公平が保たれなくなる。 ただし、支配株主が変わったことにより、今までの課税関係を精算するために、子法人が保有していた資産に係る時価評価損益を計上させ、繰越欠損金の使用制限を課すということに合理性は認められる。さらに、株式交換、スクイーズアウト、株式交付及び相対取引による株式購入との間で整合性の取れた制度にすることができ(第4回参照)、かつ、株式譲渡方式と事業譲渡方式との間で課税の公平が保たれた制度にできる(第6回参照)という効果も期待できる。そのため、本稿では、他の者による支配関係が生じたことに伴う時価評価課税と繰越欠損金の使用制限、他の者による支配関係がなくなったことに伴う時価評価課税と帳簿価額修正について検討を行うものとする。 (4) 合併における資本金基準 第7回では、合併における事業規模要件において、資本金基準が認められているが、事業の規模を示す指標として資本金の額は適切ではなく、簿価総資産価額又は簿価純資産価額を採用すべきであると述べた。しかしながら、グループ通算制度の加入に伴う時価評価(法法64の12①三・四、法令131の16④)、時価評価除外法人に対するみなし共同事業要件(法令112の2④)が組織再編税制における適格株式交換の制度を意識して作られていることから(※)、そもそも合併における事業規模要件において、資本金基準を廃止したうえで、売上金額、従業者又はこれらに準ずるものの規模の割合により判定すべきではないかと考えるようになった。 (※) 藤田泰弘ほか『令和2年度税制改正の解説』912頁(財務省ホームページ) すなわち、合併にのみ資本金基準が認められており、分割及び現物出資に資本金基準が認められていないというのは、合併においては、被合併法人の事業のすべてが移転するのに対し、分割又は現物出資においては、分割法人又は現物出資法人の事業の一部が移転することから、分割及び現物出資において資本金基準を認めるべきではないということで説明できる。これに対し、株式交換、株式移転及びグループ通算制度においては、そのように説明することができない。 第13回で解説したように、グループ通算制度における事業規模要件及び特定役員引継要件についても見直しが必要になると思われるが、組織再編税制における事業規模要件及び特定役員引継要件もグループ通算制度との足並みを揃えた制度にすべきであると考えられる。 * * * 次回では、消費税及び不動産取得税について解説を行う予定である。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第23回】 「適格分割(独立事業)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は共同事業を行うための適格分割の要件を確認しました。今回は独立して事業を行うための適格分割の要件について解説します。 1 独立して事業を行うための分割(スピンオフ) 企業の機動的な事業再編を促進するため、下図のように特定事業を切り出して独立会社とすることを「スピンオフ」といいます。独立会社の株式は分割法人の株主に交付されます。 適格要件を満たす一定のスピンオフについては、移転資産の譲渡益課税及び、株主に対するみなし配当課税を繰り延べることとされています。 2 独立して事業を行うための適格分割の要件 独立して事業を行うための適格分割の要件は、次の7つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。 3 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 (※) ①~④の詳細は本連載の【第20回】を参照。 4 従業者引継要件 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨四)。 5 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨五)。 「従業者引継要件」と「事業継続要件」は前々回解説した「支配関係がある適格要件」とおおむね同じです。 ただし、独立して事業を行うための分割については、当初の組織再編成後に他の組織再編成が行われることが見込まれている場合の要件の緩和措置がない点にご留意ください。 6 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法令4の3⑨三)。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかの判定は、前々回解説した「支配関係がある場合の適格要件」と同様です。 7 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。 下図のように、分割承継法人株式(B社株式)が分割法人(A社)の株主の有する分割法人株式(A社株式)の数の割合に応じて交付されないときは、按分型要件を満たしません。 (具体例) 8 非支配要件 (1) 非支配要件とは 「非支配要件」とは、分割の直前に分割法人と他の者((2)参照)との間にその他の者による支配関係がなく、かつ、分割後に分割承継法人と他の者との間にその他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないことをいいます(法令4の3⑨一)。 (2) 他の者に含まれるものとは 「他の者に含まれるもの」とは、次のものをいいます。 9 経営参画要件 (1) 経営参画要件とは 「経営参画要件」とは、分割前の分割法人の役員等((2)参照)又は分割事業に従事する重要な使用人((3)参照)のいずれかが分割後に分割承継法人の特定役員((4)参照)となることが見込まれていることをいいます(法令4の3⑨二)。 (2) 役員等とは 「役員等」とは、役員及び社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。 (3) 重要な使用人とは 「重要な使用人」については、法人税法上の定義はありませんが、会社法で選解任につき取締役会の決定事項とされている重要な使用人(会社法362④)と同様とされています。会社法上の重要な使用人は、その会社の規模や組織に応じて総合的に判断することとされていますが、通常、支店長、本店部長、執行役員といった者が該当するものと考えられています。 選任について、取締役会の決定事項としている場合であっても、会社法上の重要な使用人としての実態がない場合には、「重要な使用人」に該当しないこととなりますので注意が必要です(国税庁質疑応答事例「単独新設分割型分割(スピンオフ)に係る適格要件のうち役員引継要件における「重要な使用人」について」参照)。 (4) 特定役員とは 「特定役員」とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者((5)参照)で法人の経営に従事している者をいいます。 (5) 「これらに準ずる者」とは 「これらに準ずる者」とは、役員又は役員以外の者で、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役又は常務取締役と同等に法人の経営の中枢に参画している者をいいます(法基通1-4-7)。 共同事業を行うための適格分割の要件と異なり、分割法人の役員等だけでなく重要な使用人でもよいとされています。 ◆独立して事業を行うための適格分割の要件のポイント◆ スピンオフ実施後に買収が予定されている(支配関係が生じる)場合には非支配要件を満たさないこととなるため注意が必要です。 スピンオフの従業者引継要件、事業継続要件は基本的に他の分割の適格要件と同様ですが、連続再編があった場合の緩和措置がないため注意が必要です。 スピンオフ実施後に既存株主において株式の継続保有は求められていません。 (了)
相続税の実務問答 【第54回】 「財産を追加取得したが配偶者の税額軽減規定により 納付すべき税額が算出されない場合の修正申告」 税理士 梶野 研二 [答] 配偶者に対する相続税額の軽減規定を適用するためには、軽減税額に係る計算明細等を記載した書類や配偶者が財産を取得したことを明らかにする書類を添付した申告書(期限後申告書及び修正申告書を含みます)又は更正の請求書を提出しなければなりません。 あなたは、遺産分割協議により、新たにC社株式を取得することとなりましたので、配偶者に対する相続税額の軽減額の再計算に係る計算明細を記載した書類やC社株式を取得したことを証する書類である遺産分割協議書の写しを添付した相続税の修正申告書を提出する必要があります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 申告期限までに遺産の一部分割により配偶者が財産を取得している場合 相続税法第19条の2第1項の配偶者に対する相続税額の軽減規定(以下「配偶者に対する税額軽減規定」といいます)は、配偶者が遺産分割等により取得したことが確定した財産について適用され、申告書の提出期限において未分割である財産に対応する相続税額についてはこの規定の適用対象とはなりません。 つまり、相続税の申告書の提出期限において未分割の財産がある場合には、その未分割財産は相続税法第55条の規定に基づき各共同相続人又は包括受遺者が法定相続分又は包括遺贈の割合により取得したものとして相続税の申告を行うこととなりますが、その未分割の財産は、配偶者が確定的に取得した財産ではありませんので、配偶者に対する税額軽減規定の適用対象とはなりません(相法19の2②)。 ところで、遺産の一部が分割され、残りの遺産が未分割である場合において、遺産の一部分割により自己の法定相続分又は包括遺贈の割合を超える価額の財産を取得した相続人又は包括受遺者があるときには、この相続人又は包括受遺者を除いた相続人又は包括受遺者の間で、これらの者の間における民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合と等しくなるように、これらの相続人又は包括受遺者の課税価格の計算に含める未分割財産の価額を調整することとなります(【第53回】「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告(法定相続分以上の財産を取得した者があるとき)」参照)。 遺産の一部分割により法定相続分に相当する価額を超える財産を配偶者が取得した場合、未分割財産は他の相続人又は包括受遺者が取得したものとして相続税の申告をすることとなりますので、配偶者の課税価格の計算の基となる財産に未分割の財産は含まれません。 そうしますと、配偶者の課税価格を構成する財産は、全て配偶者が確定的に取得した財産となりますので、配偶者の課税価格が配偶者の法定相続分相当額又は1億6,000万円のいずれかに満たない場合には、配偶者に対する税額軽減規定を適用することにより、この配偶者の納付すべき相続税額は算出されません。 2 配偶者に対する税額軽減規定を適用するための手続き 配偶者に対する税額軽減規定を適用するためには、相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含みます)又は更正の請求書に、同規定の適用を受ける旨及び軽減額に係る計算の明細を記載した書類(以下「計算明細書」といいます)及び財産の取得の状況を証する書類(遺言書の写し、遺産分割協議書(当該書類に当該相続に係る全ての共同相続人及び包括受遺者が自署し、自己の印を押しているものに限ります)の写し(当該自己の印に係る印鑑証明書が添付されているものに限ります)など)の添付をしなければなりません(相法19の2③、相規1の6③)。 配偶者の課税価格の計算の基となる財産に未分割の財産が含まれておらず、かつ、配偶者が取得した財産の額が配偶者の法定相続分相当額又は1億6,000万円のいずれかに満たない場合には、配偶者に対する税額軽減規定を適用することにより、納付すべき相続税額は算出されませんが、この規定を適用するためには上記の書類を添付した相続税の申告書を提出しなければなりません。 ところで、遺産分割協議の結果、新たに取得することとなった財産の価額を相続税の課税価格に加算しても、課税価格が1億6,000万円に満たないことから、配偶者に対する税額軽減規定を適用すれば納付すべき相続税額が算出されないこととなる場合であっても、この規定を適用するためには、上記の手続きが必要になります。 新たに財産を取得することとなったため相続税の課税価格が増加する場合には、一般的には修正申告書を提出することができるケースです。しかしながら、修正申告書は、納税申告書を提出した者が、次の①から④のいずれかに該当する場合において、その申告に係る課税標準等又は税額等を修正するために提出することができるとされています(通法19①)。 遺産分割により新たに財産を取得することとなったことから、相続税の課税価格が増加するものの配偶者に対する税額軽減規定を適用すれば、納付すべき税額が発生しないというケースの場合には、上記①から④のいずれにも該当しません。そうしますと税法は、新たに取得した財産に係る相続税額の軽減規定の適用を受ける方法を用意していないこととなります。 しかしながら、このようなケースにおいては、上記の書類を添付した修正申告書を提出することにより配偶者に対する税額軽減規定を適用することができるとの取扱いが相続税法基本通達において示されています(相基通19の2-19)。 3 ご質問の場合 あなたは、相続税の期限内申告書を提出した後に行われた遺産分割協議により、C社の株式を取得しましたが、このC社株式の価額を相続税の課税価格に含めたうえで配偶者に対する税額軽減規定に基づいて納付すべき相続税額を再計算すると納付すべき相続税額は算出されないこととなります。 ただし、あなたが、この税額軽減規定を適用するためには、計算明細書及びC社の株式を取得したことを証する書類として遺産分割協議書の写しを添付した相続税の修正申告書を提出する必要があります。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第22回】 「〔第5表〕借地権の計上」 -土地の無償返還に関する届出書の期限及び内容の変更- 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲が所有しているA土地及びB土地は、甲が株式を100%保有している甲株式会社に賃貸していますが、その概要は下記の通りとなります。 経営者甲が甲株式を令和2年に後継者である乙に贈与する場合において、甲株式会社の第5表の純資産価額の計算明細書の資産の部に計上するA土地及びB土地の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになるのでしょうか。 なお、甲株式会社はA土地及びB土地について借地権の認定課税を受けたことはありません。 A 第5表の純資産価額の計算明細書の資産の部に計上する借地権の金額の内訳は下記の通りとなります。 (単位:千円) なお、B土地については土地の無償返還に関する届出内容の変更がありますので、速やかに土地の無償返還に関する届出書を賃貸借として提出し直す必要があります。 ◆ ◆ ◆ ① 土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合の純資産価額の計上金額 土地の無償返還に関する届出書が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は、原則として、0として取り扱います。ただし、同族会社の株式を保有している被相続人又は贈与者が評価会社に土地を無償返還により賃貸している場合には、被相続人の土地が80%で評価されることの権衡を考慮し、自用地価額の20%で評価することとされています。 なお、無償返還が使用貸借の場合には、被相続人の土地は自用地で評価されることになるため、借地権の価額は常に0として取り扱います(昭和43年10月28日付直資3-22他「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達、昭和60年6月5日付直資2-58「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」通達の5・8)。 ② 土地の無償返還に関する届出書の提出期限(A土地) 土地の無償返還に関する届出書は、昭和55年12月25日における法人税基本通達の改正により、通常収受するべき権利金又は相当の地代を収受しない土地の賃貸借取引又は使用貸借取引がある場合において、借地権の設定等に係る契約書において将来借地人等がその土地を無償で返還することが定められており、かつ、その旨を借地人等との連名の書面により遅滞なく土地所有者の納税地の所轄税務署長(国税局の調査課所管法人にあっては、所轄国税局長)に届け出たときは、借地権の認定課税は行わない(法基通13-1-7)ことを定めたものとなります。 この通達は、昭和55年12月25日以降の土地の賃貸等に適用されますが、同日前の土地の賃貸等については経過的な取扱いとして、権利金の認定課税が行われていない場合(認定課税の除斥期間を経過しているものを含む)において、この通達の適用を受けることにつき、遅滞なくその旨の届出を行っている場合には、上記の通達の適用を受けることができるものとされています。 土地の無償返還に関する届出書の提出期限は、上記の通り「遅滞なく」とされていますが、具体的にいつまでかは定められていません。平成29年3月29日の裁決事例(TAINSコード:F0-3-540)は、被相続人が所有している土地の上に被相続人の同族会社が所有する建物を昭和44年に新築し、その後、平成15年に土地の無償返還に関する届出書を提出し、平成25年に相続が発生している事案で、土地の無償返還に関する届出書の有効性が争われました。その裁決の中で、不服審判所は、「遅滞なくの判断は原処分庁に委ねられている」として、税務署が有効と判断した場合には、相当期間経過後の土地の無償返還に関する届出書の提出の効力を認めました。 平成9年2月17日の裁決事例(TAINSコード:F0-3-008)は、昭和33年に被相続人から土地を無償で借り受け、同族会社が建物を建築し、その後、平成3年に相続が発生している事案で、土地の無償返還に関する届出書が提出されていない場合の土地の評価については法人に借地権が存在するとされた事例ですが、その裁決の中で、不服審判所は、「土地に係る無償返還届出書は、少なくとも、本件相続の開始日までに原処分庁に対し提出されていなければ、本件土地の利用権の価額が存在する」とし、相続開始日までに土地の無償返還に関する届出書の提出があれば、その提出は有効であることを暗に示唆しています。 実際の実務においては、土地の無償返還に関する届出書の後出しは行われており、租税負担回避等の課税上の弊害がない限りにおいて認められるものと考えられます。 例えば、A土地を仮に売却するにあたり、個人の土地売却に係る所得を法人ではなく個人に全て帰属させるために、土地の無償返還に関する届出書を提出し、法人の課税を免れようとする場合には、法人税の租税回避行為となり認められるべきものではありません。 本問の場合には、そのような租税回避行為はありませんので、A土地の無償返還に関する届出書の提出は、相当期間経過後に行われていますが、有効なものと考えられます。 したがって、土地の無償返還に関する届出書が使用貸借であるA土地は、借地権の価額は0となります。 ③ 土地の無償返還に関する届出書の提出に変更があった場合(B土地) 土地の無償返還に関する届出書には、「土地の所有又は使用に関する権利等に変動が生じた場合には、速やかにその旨を届け出ることとします。」と記載がされていますので、使用貸借から賃貸借に変更があった場合には、速やかに、土地の無償返還に関する届出書を提出し直す必要があります。法律上の速さの順番としては、「直ちに」⇒「速やかに」⇒「遅滞なく」とされていますので、「遅滞なく」よりは、早く提出する必要があります。ただし、「速やかに」についても具体的な期限がありませんので、上記②の「遅滞なく」と同様、課税上の弊害がない限りは認められるものであると考えられます。 本問の場合には、昭和62年当時、使用貸借による土地の無償返還に関する届出書を提出していますので、法人に借地権はないものとして課税上は行うことになり、その後、賃貸借となっても法人に借地権が発生することはありませんので、法人税の課税上は、何ら弊害はないと考えられます。したがって、土地の無償返還に関する届出書が賃貸借であるB土地は、借地権の価額は、自用地としての価額の100分の20に相当する金額により評価します。 ④ 同族会社等の行為計算否認規定との関係 土地の無償返還に関する届出書が受理されている場合においても、その届出書の提出自体が相続税の負担を不当に減少させることを目的としたものである場合には、その提出がなかったものとして取り扱われる可能性もあります。 例えば、土地の無償返還に関する届出書を使用貸借により提出し、株式の贈与を行うときは借地権の価額を0として贈与を行い、相続開始直前において相続税の負担を減少することを目的として、土地の無償返還に関する届出書を賃貸借として提出し、自用地としての価額の100分の80に相当する金額により被相続人の土地の評価をすることは、不当に相続税の負担を減少するものとして認められるべきではないかと考えられます。 たとえ、土地の無償返還に関する届出書の受理があったとしても、同族会社等の行為又は計算の否認規定(相法64)により、土地の無償返還に関する届出書の提出がなかったものとして、課税処分が行われる可能性もあります。したがって、土地の契約内容に変更があった場合には、その理由をよく確認することが重要となります。 ☆実務上のポイント☆ 土地の無償返還に関する届出書は、土地賃貸の開始時点において、当事者同士に無償で返還する意図があるかどうかが前提となりますので、当時の土地賃貸借の内容をよく確認することが不可欠となります。 また、無償で返還する意思があった場合においても土地貸付時において、土地の無償返還に関する届出書を提出しておらず、原始発生的に借地権が生じており法人に借地権があると考えられる場合には、土地の無償返還に関する届出書を提出する必要がない場合もありますので、提出する前に借地権が法人に帰属しているのかどうかも含めてよく検討することが重要となります。 (了)
給与計算の質問箱 【第12回】 「年末年始の退職者の給与計算における注意点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社では2020年12月20日付けで社員A、2020年12月31日付けで社員B、2021年1月10日付けで社員Cがそれぞれ退職します。この際の給与計算の注意点がありましたらご教示ください。なお、当社の給与は末日締め翌月25日支給です。 A 社員A、B、Cのそれぞれの場合について、以下解説する。 * * 解 説 * * 1 社員Aの場合 ① 所得税(年末調整) 年の中途で退職した人のうち、12月中に支給期の到来する給与(12月25日支給)の支払いを受けた後に退職した人は年末調整の対象となる。Aは12月20日退職なので12月25日支給の給与の支払いを受ける前の退職だから年末調整の対象にならない。したがって、12月25日支給の給与計算では年末調整しない。 ② 住民税 6月1日から12月31日までの間に退職する場合、未徴収の住民税について特別徴収(給与から天引き)から普通徴収(Aが自分で納付)へ切り替える。Aの退職後、会社は異動届出書をAの前年(2019年)1月1日時点の住所地の市区町村役場へ提出する。なお、Aの希望があれば普通徴収へ切替えせず、1月25日支給の給与から未徴収の住民税を一括で天引きすることもできる。 ③ 雇用保険 注意点なし。12月25日支給の給与、1月25日支給の給与から雇用保険料を天引きする。 ④ 健康保険・厚生年金 社会保険の資格喪失日は、退職日の翌日の12月21日である。したがって、前月11月分の社会保険料まで給与から天引きする。11月分の社会保険料は12月25日支給の給与から天引きする。1月25日支給の給与からは社会保険料を天引きしない。 〈まとめ〉 2 社員Bの場合 ① 所得税(年末調整) 年の中途で退職した人のうち、12月中に支給期の到来する給与(12月25日支給)の支払いを受けた後に退職した人は年末調整の対象となる。Bは12月31日退職なので12月25日支給の給与の支払いを受けた後の退職だから年末調整の対象になる。したがって、12月25日支給の給与計算で年末調整する。 ② 住民税 6月1日から12月31日までの間に退職する場合、未徴収の住民税について特別徴収(給与から天引き)から普通徴収(Bが自分で納付)へ切り替える。Bの退職後、会社は異動届出書をBの前年(2019年)1月1日時点の住所地の市区町村役場へ提出する。なお、Bの希望があれば普通徴収へ切替えせず、1月25日支給の給与から未徴収の住民税を一括で天引きすることもできる。 ③ 雇用保険 注意点なし。12月25日支給の給与、1月25日支給の給与から雇用保険料を天引きする。 ④ 健康保険・厚生年金 社会保険の資格喪失日は、退職日の翌日の1月1日である。したがって、前月12月分の社会保険料まで給与から天引きする。12月分の社会保険料は1月25日支給の給与から天引きする。 〈まとめ〉 3 社員Cの場合 ① 所得税(年末調整) 1年を通じて勤務している人、年の中途で就職し年末まで勤務している人は年末調整の対象になる。したがって、12月25日支給の給与計算で年末調整する。 ② 住民税 1月1日以降に退職する場合、未徴収の住民税の一括徴収が義務付けられている。したがって、2月25日支給の給与から未徴収の住民税を一括で天引きする。 ③ 雇用保険 注意点なし。1月25日支給の給与、2月25日支給の給与から雇用保険料を天引きする。 ④ 健康保険・厚生年金 社会保険の資格喪失日は、退職日の翌日の1月11日である。したがって、前月12月分の社会保険料まで給与から天引きする。12月分の社会保険料は1月25日支給の給与から天引きする。2月25日支給の給与からは社会保険料を天引きしない。 〈まとめ〉 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第9回】 「居住用家屋とその敷地の一部を同時に譲渡した場合」 -居住用家屋の敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、14年前に取得した家屋とその敷地を居住の用に供していましたが、本年2月に、その居住用家屋とその敷地の一部を区分して売却したところ、譲渡損失が出てしまいました。 本年5月に、銀行から住宅取得資金を借り、残った敷地に新たに家屋を建てて、居住の用に供しています。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡について、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 現に存する居住用家屋の敷地の用に供されている土地等の一部の譲渡である場合で、その譲渡が、その家屋の譲渡と同時に行われたものであるときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」適用対象の譲渡資産に該当します(措通41の5-9(居住用家屋の敷地の一部の譲渡)(1))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第9回】 「誤った値上げを避ける」 ~手がかかる子は誰だ~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 * * * 一定単位の製品の製造に関して直接的に認識できる原価を「直接費」、直接的に認識できない原価を「間接費」と呼びます。例えば、製品を製造するために直接かかる主要材料費は直接費です。一方、消耗品費や減価償却費などは、製品に直接的に結び付けられないので間接費に相当します。 直接費はどの製品のためにいくら生じたかが明確に認識できるので、各製品に直接集計します。一方、間接費は製品との関わりが直接認識できず、各製品に直接集計することはできないので、整理したうえで、何らかの基準で製品に割り当てます(「配賦」と言います)。 * * * 《通常の計算》 * * * 製品の中には、目立たないところで意外に手がかかるものがあります。例えば、補聴器は一見ワイヤレス・イヤホンと似ていますが、両者の販売価格には歴然とした開きがあることから、補聴器は、手がかかりコストも多額に生じる製品であると考えられます。 補聴器の販売価格が高い理由は1つではないでしょうが、精密機器であり開発費や研究費が多額にかかる(にも関わらず利用者が限られている)、利用者の聞こえや環境に合わせて継続的にフィッティングする必要があるなど、意外に手がかかることが一因となっているようです。 * * * * * * 間接費は、様々な性質のコストの寄せ集めです。実際には直接作業時間と相関性の低いコストも含まれていますので、間接費をまとめて直接作業時間という1つの基準で配賦することは、合理性が高くないことがあります。 * * * * * * より合理的な配賦計算として、ABC(Activity Based Costing)の考え方を利用する方法があります。間接費をひとまとめにせず、個々のコストを性質に応じた基準で細かく配賦する考え方です。 まず、製品を製造するためにどのような活動があるのかを把握し、個々のコストをそれぞれの活動に集計します。次に、各活動に集計したコストを、その性質に応じた基準を用いて各製品に配賦します。 * * * 2人が調査したところ、ガーデンライトを製造するためは、「」「」「」の3つの活動があることがわかりました。 《ABCによる計算(イメージ)》 * * * * * * 間接費2,400千円の内容を精査したところ、は600千円、は1,200千円、は600千円であることがわかりました。各活動に集計されたコストを、その活動の性質に応じた適切な基準を用いて各タイプに配賦してみましょう。 * * * 《ABCによる計算》 《1個当たり間接費の比較》 * * * * * * ABCの考え方は、製造業だけでなくサービス業などのコスト計算にも応用することができます。例えば、顧客ごと・販売チャネルごとのコストを把握したい場合なども、同じ発想で合理的にコストを集計することができます。ただし、ABCの考え方でコストを集計するためには手間や時間がかかりますので、状況に応じ可能な範囲で利用してみましょう。 (了)