公開日: 2021/03/04 (掲載号:No.409)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例27】「支払利息の損金性と同族会社の行為計算否認」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例27】

「支払利息の損金性と同族会社の行為計算否認」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内の外資系製薬メーカーである合同会社Aで財務及び経理を担当するマネージャーです。日本の医薬品市場は、今後予想される人口減少により先行きは不透明なところがありますが、幸いなことにA社は治療効果が良好な新薬をいくつか抱えているため、業績は好調であるといえます。

ところでA社は、30年ほど前から日本に拠点を置いて事業展開を行っており、その間にいくつかの子会社を設立して企業グループを形成しております。A社の親会社B社はフランス法人ですが、全世界的なグループ事業最適化の一環で、数年前にA社が中心となって日本事業の再構築を行っております。当該事業再構築の主眼は、日本国内に研究開発の拠点を新設することで、その資金を賄うため、A社は親会社B社から借入れを行っております。これは親会社の高い信用力に基づきB社が欧州において低利で資金調達し、その資金をA社に付け替えるというもので、財務上の合理性は十分あると自負しております。

ところがA社が今般受けた税務調査で調査官が、日本国内事業の再編に伴う親会社B社からの借入れは、その支払利息の損金算入によりA社の法人税の負担を不当に減少させるものであることから、同族会社等の行為又は計算の否認規定(法法132)により損金算入は認められない旨指摘してきました。

私は当該税務調査の担当者として、調査官からの指摘に対し、A社が親会社B社から行った借入れは、いわゆる「デット・プッシュ・ダウン」という財務上の手法であり、グループ企業における組織再編成・事業再構築の一環として行われた、正当な事業目的を有する経済合理性がある取引であることから、同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件を満たさないはずであると反論しております。親会社であるB社も、国税側が不当な課税処分を行う場合には、訴訟で決着をつけるべきとしておりますが、このような対処方針で進めてしまって大丈夫でしょうか、アドバイスをお願いします。

なお、今回の税務調査で問題となった事業年度は平成20年12月期から平成24年12月期の5事業年度で、個別的租税回避否認規定である過大支払利子税制(措法66の5の2)の導入前です。

〇 「デット・プッシュ・ダウン」の手法

〈フランス〉 〈日本〉 親会社B 銀行 A 子会社C 子会社D 借入れ 貸付 支払利子 出資・資金提供

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例27】

「支払利息の損金性と同族会社の行為計算否認」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内の外資系製薬メーカーである合同会社Aで財務及び経理を担当するマネージャーです。日本の医薬品市場は、今後予想される人口減少により先行きは不透明なところがありますが、幸いなことにA社は治療効果が良好な新薬をいくつか抱えているため、業績は好調であるといえます。

ところでA社は、30年ほど前から日本に拠点を置いて事業展開を行っており、その間にいくつかの子会社を設立して企業グループを形成しております。A社の親会社B社はフランス法人ですが、全世界的なグループ事業最適化の一環で、数年前にA社が中心となって日本事業の再構築を行っております。当該事業再構築の主眼は、日本国内に研究開発の拠点を新設することで、その資金を賄うため、A社は親会社B社から借入れを行っております。これは親会社の高い信用力に基づきB社が欧州において低利で資金調達し、その資金をA社に付け替えるというもので、財務上の合理性は十分あると自負しております。

ところがA社が今般受けた税務調査で調査官が、日本国内事業の再編に伴う親会社B社からの借入れは、その支払利息の損金算入によりA社の法人税の負担を不当に減少させるものであることから、同族会社等の行為又は計算の否認規定(法法132)により損金算入は認められない旨指摘してきました。

私は当該税務調査の担当者として、調査官からの指摘に対し、A社が親会社B社から行った借入れは、いわゆる「デット・プッシュ・ダウン」という財務上の手法であり、グループ企業における組織再編成・事業再構築の一環として行われた、正当な事業目的を有する経済合理性がある取引であることから、同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件を満たさないはずであると反論しております。親会社であるB社も、国税側が不当な課税処分を行う場合には、訴訟で決着をつけるべきとしておりますが、このような対処方針で進めてしまって大丈夫でしょうか、アドバイスをお願いします。

なお、今回の税務調査で問題となった事業年度は平成20年12月期から平成24年12月期の5事業年度で、個別的租税回避否認規定である過大支払利子税制(措法66の5の2)の導入前です。

〇 「デット・プッシュ・ダウン」の手法

〈フランス〉 〈日本〉 親会社B 銀行 A 子会社C 子会社D 借入れ 貸付 支払利子 出資・資金提供

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~40】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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