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〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第1回】「「企業会計原則」と「企業会計の原則」」

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第1回】 「企業会計原則」と「企業会計の原則」   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 「企業会計原則」は、その設定以来、わが国の会計規範として会計学の発展に非常に大きな役割を果たしていると思われる。 ところが、「企業会計原則」ではなく、「企業会計の原則」と記載している会計基準がある。果たして両者は同じ意味なのだろうか。 たとえ類似した用語であっても、少しの相違によって異なる意味を示すことがある。そして、その用語の選択には、会計基準等の設定者の意思が反映されていることがある。 本連載では、それらの「用語(コトバ)」を取り上げて丁寧に検証し、会計基準等を「正しく読む」ことができるよう解説を行うものである。 今回は「企業会計原則」と「企業会計の原則」を取り上げる。   ◆「企業会計原則」とは 「企業会計原則」は、企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、一般に公正妥当と認められたところを要約したものである(「企業会計原則の設定について」(1949年7月9日、経済安定本部企業会計制度対策調査会中間報告)二、1)。 そして、「企業会計原則」の一般原則三では、「資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」と規定されており、一般に、資本取引と損益取引との区別の原則と呼ばれている。   ◆「企業会計の原則」とは 前述した「企業会計の原則」の用語は、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号。以下「自己株式会計基準」という)において登場する。登場するまでの自己株式会計基準の文脈を見てみよう。 まず、自己株式会計基準は、資本剰余金の各項目は、利益剰余金の各項目と混同してはならないとし、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められないと規定する(資本剰余金と利益剰余金の混同の禁止。自己株式会計基準19項)。 次に、資本剰余金と利益剰余金に関するこれまでの取扱いについて、自己株式会計基準は、従来、資本性の剰余金と利益性の剰余金は、払込資本と払込資本を利用して得られた成果を区分する考えから、原則的に混同しないようにされてきたと説明する(自己株式会計基準60項)。 そして、平成13年改正商法・会社法における配当に関する定めは、資本剰余金と利益剰余金の混同を禁止する企業会計の原則を変えるものではないとし、「企業会計原則」ではなく、「企業会計の原則」と記載している(自己株式会計基準60項)。加えて、自己株式会計基準62項でも、「企業会計の原則」と記載している。   ◆「企業会計原則」と「企業会計の原則」 「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(企業会計基準第5号)では、新たな企業会計基準が「企業会計原則」に優先すると規定している(1項、26項)。 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)でも、資産の評価基準については「企業会計原則」に定めがあるが、金融商品に関しては、本会計基準が優先して適用されると規定している(1項)。 また、「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)は、棚卸資産の評価方法、評価基準及び開示に関しては、「企業会計原則」及び「原価計算基準」に定めがあるものの、本会計基準が優先して適用されると規定している(2項)。 このように企業会計基準委員会の会計基準等が「企業会計原則」よりも優先するとする規定を設けていることを考えると、「企業会計原則」と「企業会計の原則」との間には、重要な相違があるのかもしれない。 (了)

#No. 366(掲載号)
#阿部 光成
2020/04/23

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第158回】収益認識基準③「契約の識別」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第158回】 収益認識基準③ 「契約の識別」   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹     〈事例による解説〉   〈会計処理〉(単位:千円) ◆X1年4月 〔B社との商品Yにかかる販売契約締結時〕 ⇒ 仕訳なし ◆X1年6月 〔B社との商品Yにかかる売上高の計上〕 ◆X2年4月 〔C社との商品Y販売にかかる契約締結時(前受金の受領時)〕 ◆X2年6月 〔C社との商品Yにかかる販売契約の解約時〕   〈会計処理の解説〉 まず、収益認識に関する会計基準等の適用対象範囲となる契約であるかを判断します。上記の設例は、商品の販売取引であり、前述の(a) から(f) までにかかる契約ではないため、収益認識に関する会計基準等の適用対象範囲であると判定されます。 次に、以下の①から⑤までの要件を満たしているかを検討し、満たしている場合には収益認識に関する会計基準等における契約として識別します。 なお、顧客との契約が、契約における取引開始日において上記の①から⑤までの要件を満たす場合には、事実及び状況の重要な変化の兆候がない限り、当該要件を満たすかどうかについて見直しを行いません。 顧客との契約が上記の①から⑤までの要件を満たさない場合には、この要件を事後的に満たすかどうかを引き続き評価し、顧客との契約が当該要件を満たしたときに収益認識に関する会計基準等における契約として識別されます。   1 B社との取引について (1) X1年4月 A社とB社は契約を締結し、契約書に移転する財、支払条件が明記されていることから、上記の①、②、③の要件を満たしています。また、この契約は商品Yの販売にかかるものであり、当然に経済的実質があると判断され、④の要件を満たします。さらに、A社は過去の取引実績により、B社から商品Yの販売にかかる対価を回収できる可能性は高いと判断しており、⑤の要件も満たします。 よって、A社はB社への商品Yの販売に係る契約を収益認識に関する会計基準等における契約として識別します。 (2) X1年6月 A社は、B社との契約について上記の①から⑤までの要件をすべて満たしていると判断し、収益認識に関する会計基準等における契約として識別したため、B社から回収する可能性が高いと見積った1,000千円の収益を認識します。   2 C社との取引について (1) X2年4月 A社とC社は契約を締結し、契約書に移転する財、支払条件が明記されていることから、上記の①、②、③の要件を満たしています。また、この契約は商品Yの販売にかかるものであり、当然に経済的実質があると判断され、④の要件を満たします。しかし、A社は、C社から商品Yの販売にかかる対価を回収できる可能性は高くないと判断していることから、⑤の要件を満たしません。 よって、A社はC社への商品Yの販売に係る契約を収益認識に関する会計基準等における契約として識別しません。そのため、C社からの手付金は前受金(負債)として計上します。 (2) X2年6月 契約が解約されており、C社から受け取った対価(手付金)10千円の返金は不要となったため、受け取った対価(手付金)10千円を雑収入等(収益)として認識します。 上記は基準上、下記のように整理されています。 顧客との契約が上記の①から⑤までの要件を満たさない場合でも、顧客から対価を受け取った際に、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当するときに、受け取った対価を収益として認識します(上記「X2年6月」の仕訳及び解説参照)。 顧客から受け取った対価については、上記の(ア)又は(イ)のいずれかに該当するまで、あるいは、上記の①から⑤の要件が事後的に満たされるまで、将来における財又はサービスを移転する義務又は対価を返金する義務として、負債を認識します(上記「X2年4月」の仕訳及び解説参照)。 上記のプロセスを図示すると、下記のとおりです。 *  *  * (了)

#No. 366(掲載号)
#渡邉 徹
2020/04/23

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第99回】株式会社共和コーポレーション「第三者委員会調査報告書(2020年3月13日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第99回】 株式会社共和コーポレーション 「第三者委員会調査報告書(2020年3月13日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【株式会社共和コーポレーションの概要】 株式会社共和コーポレーション(以下「共和」と略称する)は、1982(昭和57)年1月創業、1986(昭和61)年5月設立。アミューズメント施設(ゲームセンター、バッティングセンター、ボーリング場など)の運営、ゲーム機器販売などを主たる事業とする。売上高12,168百万円、経常利益485百万円、資本金693百万円、従業員数177名(いずれも訂正前2019年3月期実績)。本店所在地は長野県長野市。東京証券取引所2部上場。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人。   【調査報告書の概要】 2019年12月2日、共和は、「債権の取立不能または取立遅延のおそれに関するお知らせ」を公表し、ゲーム機等の販売先である株式会社アーネスト(以下、報告書と同じ「A社」と略称する)が破産申立て準備中であることから、A社に対する売掛金142百万円が取立不能又は取立遅延のおそれが生じたことをリリースした。 共和は、その後、債権回収のために情報収集の過程で、A社との取引が現物を伴わない架空取引であるとの疑惑を生じたことなどから、社内では十分な調査ができないと判断して、同月26日に第三者委員会を設置して、調査を委嘱することとなった。 第三者委員会が認定した架空取引に基づく資金循環額は、過去5年間で、1,719百万円、粗利益ベースで97百万円に達した。 1 架空循環取引 中古ゲーム機の売買取引を担当していた東京支店副支店長のa氏は、B社から仕入れたゲーム機をA社に販売するという取引で、多額の販売実績を上げる。 第三者委員会の調査では、a氏が、B社からの一括仕入れが多額になりすぎるのを避けるため、また、A社に対する売掛金が与信限度額を超過することを避けるため、この商流に、C社以下5社を参加させるとともに、共和を通さずにH社・I社・J社の3社をB社とA社との取引の間に入れていたことが判明した。 第三者委員会は、A社・B社などの関係者に対するヒアリングを含む調査の結果、a氏については、a氏が循環取引において、結果として重要な役割を担っていたことは疑いようがないものの、循環取引であった事実及び架空であった事実については把握していなかったと判断している。同時に、a氏の上司である執行役員東京支店長や購買部門を管掌する業務担当の専務取締役もまた、A社との取引が架空取引に基づく資金循環であることは知らなかったと判断している。 2 東京支店副支店長a氏による不正行為 中古ゲーム機をB社から仕入れてA社に販売するという取引を利用して、a氏は、いくつかの不正行為を行っていたことが、第三者委員会の調査により判明している。 (1) B社へのプール金取引(水増し発注) 第三者委員会の調査により、a氏が、B社から中古ゲーム機を仕入れる際に、B社の提示した価格よりも高い価格で発注して(水増し発注)、差額をB社に資金をプールしていた事実が判明している。 調査により判明した金額は約10百万円であるが、こうしたプール金の目的について、a氏は、後述するH社の売上や利益を伸ばすために、H社の機器仕入を安くしてもらうとともに、赤字取引等の問題が起きたときの損失補填資金であったと述べている。 (2) 競業取引 第三者委員会は、a氏が架空循環取引に加担していく中で、B社から仕入れたゲーム機を、共和を通すことなく、自身と関係の深いH社・I社・J社からA社に販売させていたことを突き止め、この取引を競業取引であると認定している。 中でも、H社は、a氏の母親を取締役に選任して毎月役員報酬を支払っており、さらに、H社とI社は、a氏に対して、毎月報酬を支払うとともに、法人クレジットカードの使用を認めており、a氏はこれらのカードを、遊興費などで私的に利用していた。 なお、調査報告書には、a氏に渡された報酬については具体的な金額の記載がなく、カードの利用金額についても、「多額の利用がある」と説明されるに止まってはいるものの、自ら関与する会社を通じて競業を行って、利益を得ていた事実が認められると結論付けている。 なお、a氏の動機について、第三者委員会は、「近い将来にこの会社(引用者注:共和のことであると考えられる)を退職して、H社に入るつもりでいたので、自分が入る会社の基盤をつくりたかった」というコメントを引用している。 (3) 売上計上の意図的遅延 B社から仕入れてA社に販売するというという取引において、a氏は、共和と両社との支払い条件の差を利用して、売上計上をわざと遅延させて、A社の資金繰りを支援していると見られる取引があったことが、第三者委員会の調査の結果、判明している。 つまり、共和はB社から仕入れた機器代金を月末締めの翌月末に支払うという決済条件になっており、一方、A社に販売した機器代金は20日締め翌月末に支払うという決済条件で、共和は売掛債権を回収していた。 a氏は、月末までにB社から仕入れた機器代金の売上計上を翌月の20日を過ぎてから行うことにより、A社の支払いが2ヶ月先に延びるよう画策していた。 第三者委員会は、この件について、a氏の動機を言及していないが、架空循環取引が長く続いた要因の1つは、こうした売上計上の遅延行為が、結果的にA社の資金繰りに余裕を与えていたことにあったと言えよう。 3 発生の原因分析 第三者委員会は、発生の原因分析として、以下の項目を挙げている。 第三者委員会は、共和が中古ゲームのビジネス拡大に際して、リスク分析が不十分であり、A社に対する与信限度額管理の不徹底や、原則として在庫は発生しない直送取引であり、A社の指定倉庫に納入しているにもかかわらず、共和の在庫とする取引の異常性などを原因分析として指摘している。 また、コンプライアンス体制については、監査室は統制の確認を十分行っておらず、深度のある監査が行われていないと評価し、取締役会は、内部統制システムを整備・運用していく責任を負っているにもかかわらず、リスク管理やコンプライアンス体制の強化が不十分であったと指摘している。 4 再発防止策の提言 第三者委員会が「再発防止策の提言」としてまとめた項目は、次のとおりである。 第三者委員会は、まず、「リスク管理の強化」として、常にリスクを評価するとともに、変化に応じた内部統制制度の整備運用が必要であり、その責務は、取締役会が負うことを明言している。 さらに、中古ゲーム機の販売取引については、業務プロセスの見直しを行っても、リスクが軽減できない場合、あるいはリスクを軽減するためのコストが多額となり利益が得にくい場合には、当該ビジネス自体禁止するルールを設けることも考えられると提言している。 そして、「管理部門の強化」として、モニタリングを充実させ、内部統制制度の不断の見直しのため、適材を配置し管理部門を強化するとともに、監査室についても、書面上の形式的な監査に終わることなく、常にリスクを踏まえた監査が必要であるから、実効性ある監査を実施する体制を整備する必要があるという提言をまとめている。   【調査報告書の特徴】 本連載【第97回】、【第98回】で検討してきたネットワンシステムズ社シニアマネージャーによる架空循環取引に引き続き、今回は、中古ゲーム機の販売取引を仮装した架空循環取引を取り上げることとした。実は、この2つの循環取引には、いくつかの類似点が見られる。 東京支店副支店長であるa氏の不正を、第三者委員会はどのように調査分析したのか、その特徴を検討したい。 1 東京支店副支店長a氏の動機は何だったのか 第三者委員会が指摘した「発生の原因分析」については、分析が十分ではないと評価する。 例えば、「第1 架空取引に基づく資金循環取引」の項では、冒頭に、「A社が事業停止するまで発見できなかった主な理由は次のとおりである」との記述があるが、本来の原因分析としては、a氏は、なぜ、架空循環取引に巻き込まれた(第三者委員会による評価)のか、なぜ、架空循環取引であることに気づかなかったのかに関する分析を行った後、はじめて、「長期間発覚しなかった理由」を論じるべきではないかと考える。 さらに、「リスク分析不十分」「管理不徹底・不備」といった文言が並んでおり、もちろんそうした事象が不正の発覚を妨げたことは理解できるのだが、なぜ、十分な分析ができなかったのか、なぜ、管理が不徹底となり、不備が生じていたかといった、真の意味での原因については分析されていない。 同様に、「第2 a氏の不正」の項においても、列挙されているのはあくまで「a氏の不正行為」であって、なぜ、a氏がこうした不正を行っていたのかついての分析はない。2015年5月に、C社(今回の循環取引でも社名が挙がっている)から共和に転職したa氏が、中古ゲーム機の仕入販売取引を担当する中で、B社代表取締役を紹介されたのを契機に、B社との取引がはじまり、同年7月頃には、B社⇒共和⇒A社の取引を開始する。 a氏としては、中古ゲーム機のディストリビューター業界において知識・経験が豊富なA社代表取締役と取引することが自身の将来の基盤を形成することになると考えるとともに、共和における中古ゲーム機取引の拡大方針と相まって取引を拡大していく(調査報告書12ページより抜粋)。 また、a氏は、第三者委員会のヒアリングに対して、競業取引をしていたことの動機として、「近い将来にこの会社を退職して、H社に入るつもりでいたので、自分が入る会社の基盤をつくりたかった。」と述べている(調査報告書34ページ)ということであるが、H社、I社から多額の報酬を得ていたり、遊興費を支払わせていたりしたことについては、a氏の動機は追及されている様子が見られない。 第三者委員会は、調査の結果、a氏は、循環取引であった事実及び架空であった事実については把握していなかったと判断しているが、筆者の個人的な印象では、a氏は明らかにこの取引が架空のものであることを知っており、また、共和には発覚しないことを見越したうえで、H社やI社を利用して経済的利益を得るとともに、近い将来の退職後に備えてH社にも資金を蓄積することを企図していたのではないかと考えている。 第三者委員会による調査があくまで任意のものであり、強制力を有さない以上、当人をはじめ関係者が口を閉ざし、または口裏を合わせることにより、確たる証拠を得ることができないことは間違いないし、それが調査の限界でもあるのだが、a氏の動機について、もう少し踏み込んだインタビューを行い、他社の証言や書証との整合性を破綻させ、真の動機を追及することができたのではないかと、感じた次第である。 2 業界の商取引上のルール 報告書を読んで目に付くのが、「業界ルール」という文言である。 例えば、中古ゲーム機のディストリビューターの業界では、自社の仕入先や販売先は明かさないという商取引上のルールがあることが繰り返し、説明されている。これは、商流において中抜きさせないためであるということであるが、こうした慣習のため、a氏は、B社から仕入れた中古ゲーム機が、A社からB社に販売されたものであるという循環取引を認識することはできなかったと説明されている。 また、執行役員東京支店長の小林光氏(報告書上はg氏)は、第三者委員会のインタビューに対し、業界では、メーカー直営店が、減価償却の終わった中古ゲーム機を売却して益出しを行うという情報があり、B社はそのようなルートから大量の仕入を行っているという認識のもと、在庫の実在性について疑ったことはなかったと答えている。 なお、取引に疑義を感じていた者もいたことが判明している。 代表取締役の配偶者で、専務取締役の宮本早苗氏(報告書上はc氏)は、2019年9月、B社に対する支払い稟議書(A社への販売分)の記載内容に、中古市場でなかなか手に入らない機種が含まれていたことに不審を抱き、在庫の実在性につき強く疑問を持ち、現物確認するまで支払いをしないように経理に指示した。そして、9月末に業務部長に在庫の実査を指示し、a氏にどこに在庫があるのか確認したところ、機器の納入が間に合わないとの連絡があったことから、この取引は行われなかったことが判明している。 また、第三者委員会が、原因分析で「業界環境の分析が不十分」として指摘しているように、全国的に、ゲームセンターの数が減少する中で、店舗閉鎖で多数の中古ゲーム機の買取案件が発生したとしても、大量の中古ゲーム機を購入する店舗が毎月あるとは考えられないというのが業界の環境であり、こうした事実を認識していた役員・社員が存在していたことは間違いない。 3 適時開示に関する問題点 第三者委員会は、「発生の原因分析」で「第3 管理部門の機能」として、適時開示について、「今後の改善が必要である」と指摘している。 共和は、A社の事業停止の通知を受けて、2019年12月2日に「債権の取立不能または取立遅延のおそれに関するお知らせ」を公表して、A社に対する約142百万円の売掛金が回収不能となる可能性について適時開示をしたものの、回収不能見込額が共和の売上高の1%程度であって業績に与える影響は少額であると考えたこと、a氏が循環取引や架空取引についての認識はなかったと述べたことから、同年12月26日に第三者委員会を設置したものの適時開示はしなかった。 こうした適時開示姿勢について、第三者委員会は次のように述べている。 筆者も、第三者委員会の設置時には適時開示が必要であったという意見に賛成するものであるが、こうした指摘は、第三者委員に就任することが決まった際に、第三者委員会から共和側に適時開示をするよう申し入れするべき事項であって、調査報告書の「発生の原因分析」の項で取り上げることについては違和感がある。「適時開示に消極的である」「適時開示を軽視している」とも考えられる共和側の姿勢が、「管理部門の機能」における問題点であるとの、第三者委員会の見解かもしれないが、共和が架空循環取引に巻き込まれ、長期間発覚しなかったことやa氏による不正の原因分析との関係性については疑問が残る。 4 共和による再発防止策 第三者委員会の調査報告書の公表と同時に、共和は、以下の内容の再発防止策を実施することを取締役会で決定し、既にそのうちの一部の改善については着手していること、すべてについて2020年5月末までには具体的行動に移すことをリリースしている。 基調としては、第三者委員会による提言に沿ったものとなっており、不正の未然防止策としては、内部監査について、リスクの高い業務を重点的に実地監査すること、監査等委員や会計監査人との連携・意見交換を更に強化することが挙げられ、第三者委員会の提言にはない、内部通報制度の浸透と利用促進を図ることも盛り込まれている。 なお、同時に、経営責任の明確化として、東京支店を管掌する常務取締役の降格と他の取締役の役員報酬の減額が公表されているが、a氏については、「当社規則に則り、厳正に処分」するとの説明があるだけで、処分内容について、開示されていない。 5 人事異動(2020年4月1日付) 共和は、3月30日、「人事異動に関するお知らせ」を公表して、上記の経営責任の明確化で触れた常務取締役の平取締役への降格人事と、執行役員東京支店長について執行役員の職を解いたうえで業務部長への異動、それに代わって、執行役員業務部長が執行役員東京支店長に就任することをリリースした。 リリースでは、人事異動の経緯や目的にはまったく触れておらず、同日開催の取締役会における決議事項であるとだけ説明されている。 (了)

#No. 366(掲載号)
#米澤 勝
2020/04/23

[〈税理士が知っておきたい〉中間試案からみる]改正民法・不動産登記法等のポイント 【前編】

[〈税理士が知っておきたい〉中間試案からみる] 改正民法・不動産登記法等のポイント 【前編】   司法書士 丸山 洋一郎   -はじめに- 民法・不動産登記法部会第11回会議(令和元年12月3日開催)において、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。 この「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」は、令和2年1月10日から同年3月10日までの期間に国民から意見や情報を募集するためパブリックコメント手続に付されていました。 民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正が実際になされた場合、税理士の職務にも大きく影響を与えると予想されます。 そこで、税理士も中間試案の段階から民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正の内容を把握しておくことが望ましいでしょう。 とはいえ、日ごろの忙しい税理士業務に従事する中で、全ての税理士が中間試案を分析し、現時点からその全てを把握しておく必要まではないでしょう。 その意味で、この連載は、あくまで現時点で税理士が教養レベルで把握しておいたほうがよいと思われる点に絞り、中間試案からみた改正民法・不動産登記法等についてコンパクトに解説することを目的とします。 なお、さらに詳しい内容を知りたい方は、下記をご参照ください。   1 民法・不動産登記法の改正の背景 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない所有者不明土地は、民間の土地取引や公共事業の用地取得、森林の管理など様々な場面で問題となっています。 所有者不明土地は、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等によって発生しています。この相続登記が未了のまま相続が繰り返されると、所有者不明土地問題は更に深刻化するおそれがあります。そこで、民事基本法制の見直しを早急に図ることが必要です。 「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針)」等の政府方針においても、①相続登記の義務化等を含めて相続等を登記に反映させるための仕組み、②登記簿と戸籍等の連携等による所有者情報を円滑に把握する仕組み、③土地を手放すための仕組み等について検討し、2020年までに必要な制度改正の実現を目指すこととされています。 このような所有者不明土地をめぐる近年の社会経済情勢に鑑み、相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み、あるいは所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みを整備する観点から、民法と不動産登記法等の改正を行うことが検討されています。   2 民法・不動産登記法の改正のスケジュール ※法務省民事局資料より抜粋 政府は、令和2年の秋の臨時国会に、民法と不動産登記法の改正案を提出する方針を示しています。   3 民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正の大きな方向性 大きく「所有者不明土地を円滑・適正に利用する仕組み」と「所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」に分けて改正の概要を説明します。 ※法務省民事局資料より抜粋   4 所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組み (1) 共有制度の見直し(改正の概要) 所有者不明土地は共有地であることが少なくありません。不明共有者が存在し、共有者全員の同意が得られない場合など共有地は所有者不明土地になりやすいのです。そのため、共有制度に起因して生ずる問題を解消する必要があります。 見直しの方向性としては、以下の(ア)~(エ)が指針として挙げられます。 (2) 財産管理制度の見直し(改正の概要) 土地の所有者が所在不明となり、当該土地の管理等をしない場合には、土地の所有者に代わり当該土地の管理等をする者を選任する必要があります。現行民法においては、不在者の財産の管理制度(民法第25条以下)や、相続財産の管理制度(民法第951条以下)が置かれています。 もっとも、既存の財産管理制度については、管理コストが高額であるとの指摘があり、財産管理制度を見直す必要があると考えられています。 ◎ 特定の財産を管理する制度 不在者の財産の管理制度及び相続財産の管理制度は、不在者等の財産全般を管理するものであるために事務処理に要する費用が高くなります。そこで、管理コストを低減させる観点から、不在者等の特定の財産である土地又は共有持分のみを土地管理人による管理を命ずる処分(土地管理命令)を課せるようにすることが検討されています。 (3) 相隣関係規定の見直し(改正の概要) 現行民法の相隣関係に関する規定は、明治29年に民法が制定されて以来、実質的な見直しがされていませんでした。そのため、所有者不明土地問題が生じている近年の社会経済情勢に合わせて、規律を見直す必要があると考えられています。 見直しの方向性としては、以下の(ア)~(エ)が指針として挙げられます。   なお、筆者の周りの税理士に確認したところ、上記(1)~(3)の制度及び規定の見直しについては、関心が高いとは言えませんでした。紙面の都合もあるため、今回は各制度の見直しの方向性のみを軽く説明するにとどめています。 詳細を知りたい方は、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」を確認したうえで、日本弁護士連合会や日本司法書士会連合会の「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案に対する意見書」等をご確認ください。 *  *  * 次回は「所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」に関する事項を中心に解説します。 (続く)

#No. 366(掲載号)
#丸山 洋一郎
2020/04/23

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第17回】「保険の不適正募集-経営陣が不祥事を把握できなかった理由」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第17回】 「保険の不適正募集-経営陣が不祥事を把握できなかった理由」   弁護士 原 正雄   2018年4月24日、NHKの「クローズアップ現代+」が郵便局員による保険の不適正募集の問題を取り上げた。その後、2019年6月24日の朝日新聞の記事を経て多くの報道がなされ、不適正募集の問題が明らかとなった。 金融庁は、2019年9月11日、K生命とN郵便に立入検査し、12月27日、保険業法に基づいて3ヶ月間の業務停止命令を出した。親会社のN郵政にも業務改善命令を出した。 K生命とN郵便で生じた保険の不適正募集の問題は、2020年1月5日に至って、親会社のN郵政を含め3社の社長が揃って辞任する結果となった。 本件は、不祥事を発生させないためにどうすればよいか、発生した不祥事を迅速に把握するためにどうすればよいか、さらにはグループコンプライアンスをどう確立すべきかの観点から、学ぶべき点が多い。 この問題については、2019年12月18日、第三者委員会の調査報告書が提出され、さらに2020年3月26日、追加報告書が提出された。そこで、これら報告書を基に報道等も参考にしつつ、本件を分析する。   1 不適正募集の概要 問題となった保険は、K生命の個人向け保険である。K生命は保険の販売をN郵便に委託しており、郵便局に所属する「募集人」に販路を依存していた。 本件で問題になった「不適正募集」は、乗換契約が中心である。乗換契約とは、既保険を解約させて新保険に乗り換えさせることをいう。契約を乗り換えた結果、例えば以下の問題が発生する。 また、高齢者に意向確認が不十分なまま契約を締結していた事実や、経済合理性の乏しい保険契約を同一人との間で繰り返し締結していた事実も判明した。 K生命が15万5,746件を確認したところ、1万3,396件(約8.6%)が「違反疑い事案」であった。関与した募集人の人数は、5年間で合計9,653人に上った。 K生命やN郵便は2007年に民営化しているところ、第三者委員会によれば、保険募集を巡る不正行為や不適正な話法は、民営化前から比較的広範に行われていたとのことである。民営化後、保険業法上の生命保険会社として金融庁の監督下に置かれて約10年を経て、大きな問題として発覚するに至った。   2 不適正募集の原因-過大な営業目標と技術交流 不適正募集の原因は複合的で複雑である。その一つとして、実力に見合わない営業目標が課されていたことが指摘されている。 例えば2017年度に保険の募集目標を達成した郵便局は、全体の約30%しかなかった。2018年度には、目標を達成した郵便局はその半分近くまで減少した。そのため郵便局では、2017年頃から、募集実績が「優秀」とされる募集人が近隣の局へ技術を伝達する「技術交流」を開始した。その結果、不適正募集が各郵便局に広がったとのことである。 また、適正な募集のためのルールは策定されていたものの、禁止事項を例示列挙するのみであった。多くの募集人が「禁止された事項以外は許容される」と受け止め、ルールを潜脱する形で不適正募集を行う結果を招いてしまった。 管理者等の一部は、自局内の一部の募集人(特に高実績者)が不適正な募集をしていることを認識していた。しかし、募集目標を達成することを優先して実効的な指導を行わず、むしろ厚遇する傾向が見られたとのことである。   3 会社が不適正募集を把握できなかった理由 K生命やN郵便は不適正募集を把握できなかった。その理由として、特に以下の6つに注目したい。 上記について、以下詳述する。 (1) 不適正募集をチェックして防止する体制が構築されていなかった 募集人の受け付けた保険は、募集人の在籍する各郵便局で契約を受理する。本来はその段階でチェックを実施し、不適正募集については受付を拒絶すべきであった。 ところが実際は、5年間で合計2,921の郵便局が「違反疑い事案」を受理していた。これは郵便局総数の約14.5%に達する。郵便局における審査は、申込関係書類の不備を確認すること等の形式チェックだけで、顧客に不利益があるか等はチェックしておらず、不適正募集を防止できるものではなかった。 郵便局が受理した後、K生命で引受手続が実施される。ここでも同様に、チェックは形式的なものであって不適正募集を防止できるものではなかった。 以上のとおり、N郵便とK生命は不適正募集をチェックして防止する体制を構築していなかった。 (2) 苦情の分析をしていなかった 不適正募集がなされた場合、顧客から苦情が出ることがある。実際、契約加入に関する苦情の件数は、2011年度から増加傾向にあった。ところが、こうした苦情は2017年度から減少に転じていた。これは、2017年4月に「苦情範囲の見直し」、2018年4月に「苦情分類の精緻化」をそれぞれ行い、苦情の分類や数え方を変更したためであった。その結果、K生命やN郵便は苦情の件数が減ったと安心し、苦情を分析して問題を把握するチャンスを失った。 こうした点について第三者委員会は、苦情件数の削減それ自体が目的化しており、顧客の不満の根本的な原因を分析し、除去しようとする姿勢・態勢が十分ではなかったと評価している。 一般に数件の苦情の背後には、数多くの問題が潜んでいる。苦情は氷山の一角に過ぎない。苦情の分析はリスクマネジメントの基本である。本件でも苦情の内容、例えば、締結した契約の内容、募集人は誰か、当該募集人が過去に受けた苦情の数や内容、顧客は誰か、当該顧客の属性、当該顧客との過去の契約履歴などについて精査していれば、不適正募集の問題を把握できていた可能性があった。役員の中にも「今になって振り返ると、顕在化した事象があったならば、それと類似した事案が伏在している可能性は十分にあるはずで、そこに思いを致し、広く深い調査を実施すべきであった」と反省の弁を述べる者がいたとのことである。 (3) 個々の違反疑い事案について調査をせず、または十分な調査をしていなかった 第三者委員会によれば、K生命は、「契約書面に顧客の署名と押印があれば法令違反と断定できないので、顧客に不利益が生じても適正募集の確保に問題はない」と考えていた。社内役員の中には、第三者委員会に対してさえ、「法令等に適合する手続を定め、所定の必要な契約関係書面について、顧客に説明をし、署名・押印を得ていたのであるから、郵便局における募集については大きな問題があると思っていない」旨を述べた者が複数いたとのことである。 そのため、K生命では、苦情がなければ調査をしないという状況があった。本来は、顧客からの苦情があろうとなかろうと、多数回にわたり解約と新規契約締結を繰り返して顧客に不利益を生じさせた募集人がいたのであれば、他にも同様の行為をしていないか積極的・能動的に調査し、顧客の不利益の回復を図るべきであった。 また、苦情を受けて調査をする場合も「不適正募集の根絶(ゼロ件)」を目標としていたことが、かえって十分な調査を避ける結果を招いてしまった。調査に対して募集人が自認しなければ不適正募集とは取り扱わず、処分も行わず、引き続き募集活動を行うことを許容していた。 以上のとおり、K生命では違反疑い事案があっても調査をしない、または十分な調査をしないという問題があった。 (4) 関係部署に苦情が適正に引き継がれていなかった K生命では、不適正募集に関わる苦情は「お客さまサービス室」に集約される。「お客さまサービス室」が対応困難と判断した場合、苦情をさらに「お客さま相談室」に引き継ぐ。「お客さま相談室」は、引き継いだ苦情を随時、執行役、監査委員会事務局、コンプライアンス統括部、募集管理統括部などの関係部署に共有することになっていた。 ところが、「お客さまサービス室」から「お客さま相談室」への引継ぎの要否については具体的な基準がなかった。そのため、「お客さま相談室」へ引き継がれた苦情は、「お客さまサービス室」が受け付けた苦情のわずか1%にも満たなかった。不適正募集に関わる苦情が、執行役、監査委員会事務局、コンプライアンス統括部、募集管理統括部などの関係部署にまで上がることは、ほとんどなかった。 (5) 内部通報制度が十分に機能していなかった N郵政グループの内部通報制度における通報件数は、年約1,200件から約2,100件で、増加傾向にある。これだけ見ると、内部通報制度は機能しているように思える。 ところが、不適正募集に関する通報に目を向けると、年10件前後にとどまっていたとのことである。その理由として、各郵便局では内部通報に使用するコンピュータ端末が共用であったことや、通報者を特定しようとする幹部がいるとして従業員が疑心暗鬼になっていたことなどが指摘されている。不適正募集は、郵便局という比較的小さく隔離された組織で発生するため、通報のハードルが特に高かったことが分かる。また、N郵便の社員がK生命の窓口に不適正募集を通報したのに、K生命が通報をN郵便に移送してしまった事案もあった。 これらを理由としてN郵政グループでは、内部通報制度が十分に機能していなかった。 (6) 取締役会に適正な報告をしていなかった K生命では、社外取締役が過半数を占める指名委員会等設置会社という先進的な統治機構を有していた。取締役会では一見、多様で活発な議論が行われていた。 ところが実際は、取締役会に上がる前に担当部署で情報を閉じて議論し、結論だけを取締役会に上げ、問題の本質が伝わるような報告はしない風土があったとのことである。 そのため、2018年秋から、不適正募集に関して金融庁から指導を受けていたにもかかわらず、取締役会等には報告されなかった。2019年5月28日に金融庁から報告を求められた後も、詳細な説明はなされなかった。不適正募集が取締役会で開示されたのは、2019年6月24日の朝日新聞等の報道を見た社外取締役らが、監査委員会を通じて臨時取締役会の招集を要請した後のことであった。   4 グループとしての対応が遅れた理由 N郵政は、K生命の64.48%の株式を有する親会社である。ところが、N郵政が不適正募集について正式な報告を受けたのは、K生命の社外取締役が臨時取締役会の招集を要請した後のことであった。それまでK生命は、N郵政に正式な報告をしていなかった。その結果、不適正募集についてグループとして迅速に対応する機会を失してしまった。 N郵政は、K生命との間で「N郵政グループ協定」と「グループ運営のルールに関する覚書」等を締結し、金融庁からの指導やコンプライアンス違反事案について報告事項と定めていた。ところが、報告時期について定めていなかったため、K生命は適時の報告をしなかった。N郵政グループでは、グループコンプライアンス協定が不十分であった。結果としてグループとしての対応が遅れることになった。   5 結語 上述のとおり、経営陣は実力に見合わない営業目標を設定し、不適正募集が拡散するきっかけを作ってしまった。また、適正なコンプライアンス体制を構築しなかったため、こうした問題を把握することができなかった。さらに、グループとしてのコンプライアンス体制にも不備があった。 郵便局という制度は、国民にとって生活を支える重要なインフラであり、国民からの信頼を獲得している。これは、郵便業務を行ってきた先人たちが、長年にわたる知恵と汗で築き上げたものである。今回の不適正募集問題は、こうした郵便局への信頼を悪用した極めて重大な事件である。今回の事件を糧として、N郵政グループが再度、信頼の獲得に向けて歩みを進めることを願う。 (了)

#No. 366(掲載号)
#原 正雄
2020/04/23

〔新型コロナウイルスの感染拡大に伴う〕中小企業の資金繰り支援策の紹介とポイント

〔新型コロナウイルスの感染拡大に伴う〕 中小企業の資金繰り支援策の紹介とポイント   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   新型コロナウイルスの感染が拡大し、4月7日には緊急事態宣言が発令された。外出の自粛等により経済が停滞し、中小企業の資金繰りは急速に悪化している。政府もそのような状況に対応すべく、様々な資金繰り支援措置を公表している。 本稿では、資金繰り支援措置のうち中小企業に関連するものを取り上げ、支援措置の内容や対象事業者、適用要件等について解説を行う。なお、本稿は4月7日に公表された緊急経済対策の支援内容に基づいており、令和2年度の補正予算の成立を前提としているもの等も含まれている。今後、措置の内容が変更される可能性もあることにご留意いただきたい。   【1】 資金繰り支援措置の概要 企業の資金繰りに対しては、信用保証制度及び融資制度の両面から支援が行われる。融資枠の拡大、据置期間の延長(最長5年)、利子補給による当初3年間実質無利子化、保証料の減免、無担保融資が支援の中心となっている。 支援措置の概要は、以下のとおりである。 (※) 経済産業省ホームページより   【2】 信用保証制度による支援 (1) 信用保証制度とは 信用保証制度とは、信用保証協会(※)が、中小企業や小規模事業者(以下、中小企業者という)の資金調達を円滑にするため、中小企業者の金融機関からの借入等について保証をする制度である。信用保証協会の保証により、中小企業者は金融機関から借入をしやすくなる。 (※) 信用保証協会法に基づいて設立・運営される公的機関で、全国に51ある。 対象となる中小企業者の範囲は、中小企業信用保険法に定められており、業種や規模に制限がある。 なお、信用保証制度の対象となる中小企業者については以下を参照していただきたい。 (2) 新型コロナウイルス感染症対応①-セーフティネット保証- セーフティネット保証とは、経営の安定に支障が生じている中小企業者に対し、信用保証協会が、一般保証(※1)(保証限度額2.8億円)とは別枠で借入債務の保証をする制度である。 (※1) 様々な資金使途(運転資金、設備資金)に利用可能な通常時の保証制度。 セーフティネット保証は1号から8号まであるが、今回、4号(※2)の対象事由として新型コロナウイルス感染症が指定され、対象地域も47都道府県すべてが指定された。また、5号(※3)の対象業種が緊急的に追加指定された。 (※2) 災害等の突発的事由により相当数の中小企業者が経営の安定に支障を生じている場合に、地域を指定して中小企業者に対し資金供給の円滑化を図るための措置。 (※3) 全国的に業績が悪化している業種に属する中小企業者に対し、資金供給の円滑化を図るための措置。 保証限度額は、4号と5号合計で2.8億円であり、保証割合は4号100%、5号80%である。 本制度は、売上高等(※4)の減少率が要件となっており、4号では前年同期比20%以上の減少、5号では前年同期比5%以上の減少が要件とされている。なお、売上高等の減少について、市区町村長の認定が必要である。 (※4) 売上高等:売上高又は販売数量、建設業の場合には完成工事高又は受注残高 (3) 新型コロナウイルス感染症対応②-危機関連保証- 危機関連保証とは、金融秩序の混乱等の事象が突発的に生じた時に、信用保証協会が一般保証及びセーフティネット保証とは別枠で借入債務の保証をする制度である。今回、新型コロナウイルス感染症に係る中小企業者対応策として発動された。保証限度額は2.8億円、保証割合は100%である。 本制度も売上高等の減少率が要件となっており、その率は前年同期比15%以上の減少である。なお、売上高等の減少について、市区町村長の認定が必要である。 (4) 制度の比較 (※) セーフティネット保証5号の指定業種は、下記を参照。 (5) 認定基準の緩和(前年実績がない場合等) 新型コロナウイルス感染症の影響を受けているが、前年実績がない又は前年以降事業を拡大した事業者についても、セーフティネット保証4号・5号及び危機関連保証が利用できるよう認定基準が緩和された。 売上高等を前年と比較するのではなく、新型コロナウイルスの影響を受ける前と比較することにより制度を利用することができる。 (6) 信用保証付き融資における保証料・利子減免(令和2年度補正予算の成立が前提) 売上高等について一定の減少率を満たせば、保証料補助と利子補給が行われる。また、信用保証付きの既往債務も、要件を満たせば実質無利子融資への借換が可能となる。 制度の詳細については、下記の経済産業省のパンフレット(p.11)を参照されたい。   【3】 政府系金融機関による融資 政府系金融機関による融資では、新型コロナウイルス感染症対応として以下の支援が実施される。各制度に係る手続については、日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫及び商工組合中央金庫のホームページを参照されたい。 (1) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、危機対応融資 (※1) 日本政策金融公庫には、個人事業や小規模事業者向けに融資する国民生活事業と、中小企業(業種・規模の制限あり)向けの長期事業資金を融資する中小企業事業、農林漁業等向けの長期事業資金を融資する農林水産事業があり、それぞれの事業について、各種の融資制度(一般貸付、セーフティネット貸付、新企業育成貸付等)が設けられている。 (※2) 新型コロナウイルス対策マル経融資、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (2) 新コロナウイルス対策マル経融資 ① 小規模事業者経営改善資金融資(マル経)の概要 小規模事業者経営改善資金融資(マル経)は、商工会議所・商工会・都道府県商工会連合会の経営指導員による経営指導を受けた小規模事業者に対して、日本政策金融公庫等が無担保・無保証人で融資を行う制度である。 ② 新型コロナウイルス感染症対応 新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少した小規模事業者に対し、別枠1,000万円の融資枠を設定し、当初3年間の金利を0.9%引き下げる。また、据置期間を運転資金3年以内(通常1年以内)、設備資金4年以内(通常2年以内)に延長する。 (※1) 別枠1,000万円部分が対象。 (※2) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (3) 特別利子補給制度(令和2年度補正予算の成立が前提) 「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、「危機対応融資」、「新型コロナウイルス対策マル経融資」により借入を行った中小企業者等のうち、売上高が急減した事業者等に対し、利子補給が実施される。 制度の詳細については、下記、経済産業省のパンフレット(p.15)を参照されたい。 (4) セーフネット貸付の要件緩和 ① セーフネット貸付の概要 ② 新型コロナウイルス感染症対応 2月14日より①の要件を緩和し、数値要件(売上高前期比5%以上減少等)にかかわらず、今後の影響が見込まれる事業者も融資対象とされた。 (5) 衛生環境激変特別貸付 (※1) 業歴1年未満の場合は、過去直近3ヶ月間の平均売上高。 (※2) 「振興事業に係る資金証明書」の添付がある場合は、基準利率△0.9%。 (6) 生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付 (※) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策マル経融資、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (7) 新型コロナウイルス対策衛経 ① 生活衛生関係営業経営改善資金特別貸付(生活衛生改善貸付)の概要 生活衛生改善貸付とは、生活衛生関係事業を営む小規模事業者が、生活衛生同業組合等の経営指導を受けることにより、経営改善に必要な資金の融資を無担保、無保証人で受けることができる制度である。 ② 新型コロナウイルス感染症対応 新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少した小規模事業者に対し、別枠1,000万円の融資枠を設定し、当初3年間の金利を0.9%引き下げる。また、据置期間を運転資金3年以内(通常1年以内)、設備資金4年以内(通常2年以内)に延長する。 (※1) 別枠1,000万円部分が対象。 (※2) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策マル経融資、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付との合計で3,000万円。 (8) 特別利子補給制度(生活衛生版)(令和2年度補正予算の成立が前提) 「生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付」及び「新型コロナウイルス対策衛経」により借入を行った中小企業者等のうち、売上高が急減した事業者等に対し、利子補給が実施される。また、公庫の既往債務の借換も実質無利子化の対象になる。 制度の詳細については、下記、経済産業省のパンフレット(p.20)を参照されたい。   【4】 その他 資金繰りに直接関係するものではないが、給付金や補助金も数多く用意されている。また、税制面においても納税の猶予の特例や申告・納付期限の延長等が措置されている。詳細は割愛するが、主なものは次のとおりである。 各制度の詳細については、経済産業省等のホームページをご参照いただきたい。 (了)

#No. 366(掲載号)
#篠藤 敦子
2020/04/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例46】株式会社島忠「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」(2020.4.9)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例46】 株式会社島忠 「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」 (2020.4.9)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社島忠(以下、「島忠」という)が2020年4月9日に開示した「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」である。同社は、同日、「当社全従業員に対する、特別支援金の支給決定に関するお知らせ」も併せて開示している。 2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が出され、その影響やそれへの対応に関する開示が数多くなされているが、今回取り上げる開示も、緊急事態宣言への対応に関するものである。   2 賃料請求せず 「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」では、最初に次のように記載されている。 そして、2020年の4月11日から5月6日までの間、緊急事態宣言対象地域の家具売場を休業するとしたうえで、テナント事業者に対して、休業期間中の賃料を一切請求しないとしている。 また、島忠のほかにも、イオンモール株式会社が、2020年4月2日、適時開示ではないが、ホームページ上に「テナント賃料減免について」を掲載し、3月と4月、テナントの賃料算定における月間最低保証売上高を撤廃するとしている(売上高に一定率を乗じて賃料を算定するうえでの最低保証売上高を撤廃するので、この場合も、休業で売上がゼロになれば、賃料もゼロになる)。   3 アルバイトにも支給 「当社全従業員に対する、特別支援金の支給決定に関するお知らせ」では、次のような目的から、全従業員に対して(定時社員やアルバイト社員にも)、総額452百万円の特別支援金を2020年4月24日(4月分給与支給日と同日)に支給するとしている。 島忠の2019年8月期の有価証券報告書によると、2019年8月末現在の従業員数は1,559人、2019年8月期1年間の平均臨時従業員数は2,899人である。それらの合計4,458人で452百万円を割ると、101,390円となるため、従業員1人当たり約10万円の特別支援金が支給されるようである。従業員にとって、かなり励みになるのではないだろうか。 このほか、役員報酬を減額することにした企業も多数ある。例えば、株式会社ラウンドワンは、2020年4月7日に「取締役報酬の自主返上に関するお知らせ」を開示し、2020年の4月から6月までの3月間、社外取締役・非常勤取締役を除く取締役の月額報酬の10%を減額するとしている。同社は、2020年の4月4日から5月6日までの間、国内の全ての店舗(緊急事態宣言対象地域以外も)を休業するとしている(2020年4月3日に「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う当社全103店舗臨時休業のお知らせ」を、4月7日に「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業(全103店舗)、休業期間延長のお知らせ」を開示)。   4 戦争が終わった後 戦後生まれの筆者は戦争を経験したことがないが、現在の状況は戦時と似ているのかもしれない。最初の頃は皆が早く終わるだろうと思っていたが、なかなか終わらず、しかも状況はどんどんと悪くなっていく。『孫子』の中に「兵は拙速を聞く。未だ巧みの久しきを賭ず」という言葉があるが、政府はこの戦争を短期間で終わらせるよう努めるべきだった。長期戦に持ち込んでしまった政府の責任は重すぎる。 島忠は緊急事態宣言の2日後にこれらの開示を行っている。同社の2019年8月期の当期純利益は6,049百万円であり、特別支援金の総額452百万円は、同社にとって決して低い額ではない。短期間でかなり思い切った判断を下したと思う。比較するのはおかしいかもしれないが、政府とは対照的である。 もしかしたら、同社の株主の中には、同社のこうした対応は同社の利益を減らすことになるので、眉をひそめる者がいるかもしれない(いないだろうと思うが)。しかし、短期的にはそうであっても、長期的に見れば、同社の対応は間違いなく正しい。事業を継続するうえで最も大切なことは、利害関係者との信頼関係である。利害関係者には、取引先や従業員のほか、消費者や株主なども含まれる。 この戦争が終わった後、復活することができる企業、更に成長することができる企業は、そうした信頼関係を維持し続けられる企業だろう。自社だけが良ければという姿勢の企業や、工夫すれば、従業員の在宅勤務が可能であるのに、その検討すらしないような企業は、この戦争を機に淘汰されてしまうだろう。 (了)

#No. 366(掲載号)
#鈴木 広樹
2020/04/23

《速報解説》 債権法改正等に伴う「国税通則法基本通達(徴収部関係)」及び「国税徴収法基本通達」の一部改正について

《速報解説》 債権法改正に伴う「国税通則法基本通達(徴収部関係)」及び 「国税徴収法基本通達」の一部改正について   弁護士 下尾 裕   本稿においては、国税庁が令和2年4月1日付(ホームページ公表は4月7日)で公表した「国税通則法基本通達(徴収部関係)」(以下「通基通」という)及び「国税徴収法基本通達」(以下「徴基通」という)の一部改正の概要について解説を行う。 これら基本通達の改正は、基本的に令和2年4月1日より全面施行された民法(債権法)改正(平成29年法律第44号に基づく民法改正。以下「債権法改正」といい、改正前の民法を指して「改正前民法」という)、並びに、債権法改正を前提に改正された国税通則法(以下「通法」という)及び国税徴収法の各内容を踏まえ、各通達の内容をこれらの法改正に沿ったものに変更するとともに、数字や接続詞の表記を一部改めたものである。 債権法改正の多くは、これまで判例・通説により形成されてきた民法上の考え方を法律において明記するものであることから、上記通達においても実質的改正にわたるものは多くない。そこで、以下においては、実質的な改正を含む箇所に重点を置いて、その概要を解説する。 なお、各通達の改正後も、令和2年3月31日以前に生じた権利及び納税義務等については、なお従前の例によることとされている。   1 通基通関係 (1) 連帯納税義務における相対効の原則 国税の連帯納付義務については民法における連帯債務等の規定が準用されるところ(通法第8条)、債権法改正においては、連帯債務者のうち1人の債務者に生じた債務の消滅、請求、消滅時効完成等の効力は他の連帯債務者にも影響を及ぼすものとされていた改正前民法の考え方を改め、債務履行による債務消滅以外の事由については、原則として他の債権者に影響を及ぼさないこととされた(相対効の原則)。 これを踏まえ、通基通第8条関係から第9条の3関係等においては、連帯納税義務においても相対効が原則となることを明らかにするとともに、これに伴う改正が行われた。 (2) 債権者代位権等の取扱い 国税の徴収においては、債権者代位権及び詐害行為取消権に関する民法の規定が準用されるところ(通法第42条)、債権法改正においては、従前の判例により確立した考え方を明文化するとともに、従前、争いのあった事項について一定の整理がなされた。また、特に債権者取消権の行使要件については、同様の制度である破産法上の否認権の要件に沿って行使要件を整備するなどの改正が行われた。 これを踏まえ、通基通第42条関係においては、これら債権法改正の内容を踏まえた改正が行われた。 (3) 保証人に対する通知等 国税の保証人についても民法の保証に関する定めの適用があるところ、債権法改正においては、保証人保護の観点から、保証人からの請求があった場合や個人保証の主債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者からの一定の情報提供を行うべき義務に関する規定が新設された。 これを踏まえ、通基通においても、第49条関係、第50条関係及び第52条関係において、当該情報提供義務を踏まえた改正が行われた。 (4) 国税の徴収権の消滅時効に関する概念等の整理 国税の徴収権の消滅時効については、消滅時効に関する民法の規定が準用されているところ(通法第72条第3項)、債権法改正においては、改正民法における時効の中断及び停止の概念を整理した上、新たに時効の完成猶予及び更新の定めを設けるなどの改正が行われた。 これを踏まえ、通基通においては、第72条関係及び第73条関係において、時効の完成猶予及び更新の定めを踏まえた改正を行った。   2 徴基通関係 徴基通においては、上記連帯債務に関する改正(第62条関係)、債権者代位権等に関する改正(第47条関係)、及び、消滅時効に関する改正(第19条関係、第24条関係等)、並びに、債権法改正において瑕疵担保責任が「契約不適合」による責任と整理されたこと等による所要の改正(第15条関係21等)のほか、主に以下の改正がなされている。 なお、徴基通においては、相続法改正(平成30年法律第72号に基づく民法改正)により配偶者居住権が新設されたことによる改正(第106条関係)も一部盛り込まれている。 (1) 譲渡禁止特約付債権の譲渡に関する規律 改正前民法においては、債権譲渡禁止特約に反する債権の効力は悪意・重過失の譲受人との関係では無効と解されていたが、債権法改正により当該譲渡自体は有効と整理された上、悪意・重過失の譲受人に対しては弁済を拒絶できるに過ぎないものとされた(民法第466条第2項及び第3項)。 これを踏まえ、徴基通第62条関係(13及び14)では、上記内容を踏まえた改正が行われた。 (2) 債権取立てに係る履行時間 改正前民法は、債権取立ての履行時間について特段の定めを置いていなかったところ、債権法改正により、法令等に取引時間の定めがある場合にはその時間内に限り取立て等を行うことができる旨の定めが新設された(民法第484条第2項)。 これを踏まえ、徴基通第67条関係(9ー2)では、上記内容を踏まえた改正が行われた。 (了)

#No. 365(掲載号)
#下尾 裕
2020/04/22

《速報解説》 監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」等5つの報告書が意見募集を経て改正される~各監査報告書文例の「限定付適正意見の根拠」に限定付適正意見とした理由等を追加~

《速報解説》 監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」等 5つの報告書が意見募集を経て改正される ~各監査報告書文例の「限定付適正意見の根拠」に限定付適正意見とした理由等を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年4月9日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月17日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。 これにより、2020年2月25日から意見募集していた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対して特段のコメントは寄せられなかったとのことである。 これは、2019年9月3日付けの監査基準改訂の内容を反映させるために、主として、各監査基準委員会報告書の監査報告書の文例における限定付適正意見の根拠区分に、除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由の記載を追加する改正である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「除外事項付意見の監査報告書の文例」において、「この影響は・・・・・・・である。したがって、財務諸表に及ぼす影響は重要であるが広範ではない。」という記載が追加されている。 当該記載に関して、「・・・・・・・」には、重要ではあるが広範ではないと判断し、不適正意見ではなく限定付適正意見とした理由又は意見不表明ではなく限定付適正意見とした理由を、財務諸表利用者の視点に立って分かりやすく具体的に記載すると説明されている。 広範性の判断の記載に当たっては、監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」Q1-6「除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点」を参照する。   Ⅲ 適用時期等 2020年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 2020年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間監査から適用する(監査基準委員会報告書570「継続企業」)。 (了)

#No. 365(掲載号)
#阿部 光成
2020/04/20

《速報解説》 会計士協会「監査ツール」の改正(公開草案)を公表~監査上の主要な検討事項(KAM)の解説を追加、様式の新設も~

《速報解説》 会計士協会「監査ツール」の改正(公開草案)を公表 ~監査上の主要な検討事項(KAM)の解説を追加、様式の新設も~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年4月17日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設及び関連する監査基準委員会報告書の改正(2019年2月)並びに監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」の改正及び同315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正(2019年6月)を受けたものである。 意見募集期間は2020年5月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 監査上の主要な検討事項(KAM)に関する見直し 監査上の主要な検討事項(KAM)について、解説を本文80項から86項に集約及び追加するとともに、様式11として「監査上の主要な検討事項と監査上の対応の立案」を新設する。 2 監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」及び同315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」 監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」について、本文46項及び様式3-9を全面的に見直している。 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」について、本文46項にその旨を追加するとともに、様式3-1の見直しを行っている。 監基報315等の改正より、財務諸表における注記事項の重要性の高まりを踏まえて、本文及び様式について見直しを行っている。 (了)

#No. 365(掲載号)
#阿部 光成
2020/04/20
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