収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第18回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 エ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨については、次のとおり説明されている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』273頁 すなわち、資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかについては引き続き法人税法22条2項の規定によることとし、その時期及び金額について22条の2で規定された。かように資産の販売等に係る収益の額について法人税法22条4項と22条の2の両方が適用されると、割賦基準・延払基準のようにこれらの規定が互いに抵触する場合に優先関係が不明確となるおそれがあることから、優先関係を明確にするために、収益認識の時期については法人税法22条4項が適用されないこととしたという説明がなされている。 〈更なる検討〉 ~法人税法22条の2第1項創設後における22条2項の意義~ 本連載第11回において、次のような考え方に言及した。 ここでは、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨について述べている上記『平成30年度 税制改正の解説』部分との関係で、法人税法22条の2第1項創設後における22条2項の意義について若干の検討を加えておきたい。 仮に、資産の販売等に係る収益の計上時期について、法人税法22条の2第1項が22条2項や同項の収益の額に係る定めである22条4項に優先して適用されるとした場合に、22条の2第1項に劣後する22条2項が、実質的に、22条の2第1項の規律対象外である「無償による資産の譲受けその他の取引」のみを規律する規定になってしまうのではないかという疑問が向けられるかもしれない。 もっとも、収益の計上時期については法人税法22条の2第1項が22条2項や4項に優先して適用されるとしても、益金の額に算入すべき金額は無償による資産の譲渡を含む資産の販売等に係る収益の額であるという、そもそもの規律は法人税法22条の2第1項ではなく22条2項が定めているところである。そうであるとすれば、法人税法22条2項が、実質的に、22条の2第1項の規律対象外である「無償による資産の譲受けその他の取引」のみを規律する規定になってしまうという見方はやや後退する。 このことは、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」から22条4項を除いた趣旨に関する上記『平成30年度 税制改正の解説』部分からも導くことが可能である。 法人税法22条の2第1項の創設後においても、益金の額に算入すべき金額は、無償による資産の譲渡を含む資産の販売等に係る収益の額であることは法人税法22条2項の所管事項であるという説明の仕方もありえよう。 ただし、「法人税法22条の2第1項という『別段の定め』が優先適用された残りは、結局のところ、『無償による資産の譲受けその他の取引』のみとなることになる。それでは、法人税法22条2項の規定は、そうした残滓のような規定にすぎないということになるというべきなのであろうか。」という疑問も示されている(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』254頁(中央経済社2019))。 もっとも、この疑問は、「法人税法22条2項が残滓のようなものの受け皿にすぎないと理解することには抵抗を覚える」ことを論拠の1つとして、法人税法22条の2第1項について、22条2項の「別段の定め」ではなく22条4項の「別段の定め」であるという理解を導く文脈において示されたものであることに留意する必要がある(酒井・同書253頁以下参照)。 オ 法人税法22条の2第1項の「別段の定め」の具体例 『平成30年度 税制改正の解説』273頁では、法人税法22条の2第1項の「別段の定め」の具体的例示として、以下の法人税法の規定を挙げている。 カ 役務の提供には資産の貸付けが含まれること 『平成30年度 税制改正の解説』273頁は、法人税法22条の2第1項の「役務の提供」には、資産の貸付けが含まれることを明記している(大阪高裁昭和53年3月30日判決を引用)。 法人税法22条2項の「役務の提供」は、受取利子、受取手数料、受取倉庫料、技術役務提供報酬などの収益を生ずべき役務の提供を意味すると解されている(谷口勢津夫『税法基本講義〔第6版〕』380頁(弘文堂2018)参照)。土地や建物の賃貸は、その土地や建物を使用、利用するというサービスの提供であるから、資産の販売等(資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供)に含まれるが、預貯金の預け入れから生じる利息収入、有価証券投資から生じる配当収入又は利息収入はこれに含まれない(よって、利息収入や配当収入については、法人税法22条の2に規定する収益計上時期や収益の額に関する取扱いの適用はない)という見解もある(成松洋一『Q&A収益認識における会計・法人税・消費税の異同点』7~8頁(税務研究会出版局2019)参照)。 他方、法人税法22条2項の「役務の提供」には、資産の貸付けは含まれないという見解もある(高梨克彦「無利息貸付けに係る収益説と批判」日本税法学会「中川一郎先生古稀祝賀税法学論文集」刊行委員会編『中川一郎先生古稀祝賀税法学論文集』1頁以下(日本税法学会1979)参照)。この見解によるならば、仮に無利息融資は法人税法22条2項の「その他の取引」に該当し同項の適用があるとしても、法人税法22条の2第1項の適用はないことになる。 キ 収益認識会計基準の適用対象取引と法人税法22条の2第1項の適用対象取引は異なる部分があること 法人税法22条2項は「無償による資産の譲受けその他の取引」に対しても適用されるが、22条の2第1項は、その文面上、かかる取引を適用対象としていない(本連載第13回参照)。 かように、両規定における適用対象取引の範囲が相違している理由として、立案担当者は、次のとおり、今回は収益認識会計基準の導入に伴う改正であったことを挙げている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』273~274頁 他方、立案担当者は、次のとおり、固定資産の譲渡については、収益認識会計基準の適用対象外であるものの、法人税法上の収益の認識時期及び金額について棚卸資産と固定資産とで異なることとする理由はないことから、法人税法22条の2第1項の適用対象とされたと説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁 (了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第17回】 (番外編②) 「もしおじいさんが桃太郎の絵本を出すことになったら ~返品権付販売」 公認会計士 石王丸 周夫 1 『桃太郎』の絵本を出版! 桃太郎が鬼退治から帰ってきて、少し落ち着いた頃のことです。 おじいさんが家の前で、山のように本を積み出しています。 桃太郎はそれを見て、おじいさんにたずねました。 「これはいったい何ですか?」 「見てのとおり。本じゃよ。こないだの鬼退治のことを絵本にして売るのさ。」 「えっ! 私の話を絵本にするのですか?」 桃太郎はびっくりして飛び上がりました。 「それで・・・本の題名は?」 「『桃太郎』じゃ。」 「・・・そのまんまですね。」 桃太郎は思わず笑ってしまいましたが、それよりも本当に売れるのかどうか心配です。 「いったい、どうやって売るんですか?」 「神社の前で定期市があるだろ。あそこで本を売ってくれる商人がいるから、その人に頼んで売ってもらうんじゃ。今から100冊届けるんだが、全部買ってくれるそうだよ。」 「でも、売れ残ったらどうするんだろうなぁ・・・」 「そこなんだがな。」おじいさんは小声で言いました。「残ったものは買い戻しになるんじゃよ。」 「・・・。」 桃太郎の心配は、尽きることがないようです。 今回は桃太郎の後日談として、おじいさんが絵本を出版する話にしてみました。 おじいさんが絵本を100部出版し、それを商人に売りさばいてもらいます。商人は、いったん100部すべてを引き受けますが、売れ残った部数については、すべておじいさんのところに返品します。すなわち、返品権付きの販売です。 このような場合、収益認識会計基準では、おじいさんの売上高をどのように会計処理するのでしょうか(今回は、おじいさんが収益計上の主体です)。 2 返金負債と返品資産 収益認識会計基準では、返品権付販売の処理について、指針が示されています。以下の3つについて、すべて処理します。 (1)は、おじいさんがいくらで売上計上すべきかということを定めています。 それによると、返品が見込まれる部数の金額を除いて、売上を計上します。 仮に10部売れ残ると予想した場合、販売見込みは90部です。絵本の卸価格を1部100円とすると、です(100円×90部=9,000円)。 この売上高9,000円は、本の代金が現金決済であるとした場合、実際にやり取りされる現金の額とは異なります。おじいさんが商人に100部引き渡した時、おじいさんは商人から100部の代金10,000円をもらっているのです。 では、差額の1,000円はどう処理するのかというと、それが次の(2)に示されています。 (2)は、返品が見込まれる10部について、どう処理するかを定めています。 それによると、「対価の額で「返金負債」として認識する」とあります。 具体的には、貸借対照表にを負債計上するということになります(100円×10部=1,000円)。 (3)は、売れ残り10部を回収する権利について、その処理を定めています。 それによると「当該売れ残り見込み分を資産に計上する」とあります。 絵本の資産価値は原価の金額になるので、原価を1部30円とすると、具体的処理は、貸借対照表にを計上するということになります(30円×10部=300円)。 以上の処理結果を財務諸表で確認してみましょう。 3 法人税法上の取扱い 前述2の収益認識会計基準における処理については、法人税法上の取扱いにも留意する必要があります。 会計上は、返品見込みの部数を控除して収益計上しましたが、法人税法上はこれが認められません。控除する前の金額で計上するのです。したがって、申告調整が必要になります。 また、従来の会計基準で認められていた返品調整引当金を計上する処理方法は、収益認識会計基準適用後は会計上認められず、法人税法上も、一定の経過措置はありますが、廃止されました(経過措置については、やや複雑な内容となりますので、本稿では割愛させていただきます)。 4 収益計上後の処理 最後に、収益計上後の処理についても確認しておきましょう。 予想どおりに10部売れ残り、それが返品された場合は、おじいさんは商人に1,000円を払って、売れなかった10部を引き取ります。1,000円払えば返金負債は消滅し、10部を回収すれば、返品資産という回収権は棚卸資産現物に振り替わります。 逆に、予想が良い方向に外れて、売れ残りがなかった場合は、返金負債を売上に振り替える処理となります。この時、返品資産を売上原価に振り替えます。 ▷今回のまとめ 返品権付きの販売については、返品見込み分を除いた額で収益計上し、返金負債と返品資産を計上します。 (了)
改めて確認したいJ-SOX 【第8回】 「ITを利用した内部統制の評価(後編)」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 前回は「ITを利用した内部統制の評価」の前編として、 という「評価の必要性」と「評価範囲の決定方法」を説明しました。 今回は後編として、 を説明します。 1 ITを利用した内部統制の整備状況及び運用状況の有効性の評価 (1) ITに係る全般統制の評価 前回説明しましたが、ITに係る全般統制とは業務処理統制が意図したとおりに機能する環境を保証するための方針と手続で、次のような項目が該当します。 内部統制の有効性を評価するにあたっても、上記の4項目について、整備及び運用状況を評価することが一般的と考えられます。 では、具体的に「どのように評価するか」ですが、これについては金融庁総務企画局が平成23年3月31日に公表した「内部統制報告制度に関する事例集」(事例4-2)で紹介されている「ITに係る全般統制に関するチェック・リスト例」が参考になります。 〈ITに係る全般統制に関するチェック・リスト例〉 (※) 金融庁総務企画局「内部統制報告制度に関する事例集」(事例4-2)より一部抜粋。 この事例集は、事業規模が小規模で、比較的簡素な構造を有している組織等における事例を集めたものであるため、規模が大きい企業や複雑な構造の組織等では参考とならないこともあるかもしれません。 ただ、ITに係る全般統制の評価にあたっては、このチェック・リスト例を参考に自社のチェック・リストを作成し、チェック・リストに沿って根拠となる資料などを収集して評価しているケースが多いのではないでしょうか。 (2) ITに係る業務処理統制の評価 ITに係る業務処理統制の評価も、前回で説明した評価単位ごとに次のような観点で評価し、有効に整備及び運用されているかを評価します。 ITに係る業務処理統制は、簡単にいうと人が手で行っていた転記や計算、一致確認などの作業を自動化させたものであるため、それが意図したとおりにシステムにプログラムとして組み込まれ、繰り返し意図したとおりに自動的に処理されていれば、有効に整備及び運用されていると評価することができます。 そのため、「入力情報の完全性、正確性、正当性等が確保されているか」や「エラーデータの修正と再処理の機能が確保されているか」といった自動処理を直接的に評価するような視点が「財務報告に係る内部統制基準・実施基準」で例示されていると考えられます。 また、データとデータを自動で照合させて自動で一致を確認させるような処理では、照合するデータそのものが正しくないと意味がありません。それゆえ、「マスタ・データの正確性が確保されているか」や「システムの利用に関する認証・操作範囲の限定など適切なアクセス管理がなされているか」といった視点が例示されていると考えられます。 しかし、実務的には、ITに係る業務処理統制の評価は、どのように整備及び運用状況を評価するかといった具体的な評価方法よりも、いかに網羅的に評価対象を拾い上げていくかといった評価範囲が重要だと思います。したがって、まずはどういったものがITに係る業務処理統制に該当するかを前回などを参考に押さえるとよいでしょう。 2 ITに係る内部統制に不備があった場合 (1) ITに係る全般統制に不備があった場合 ITに係る全般統制は、財務報告の信頼性を直接的に担保するものではなく、有効な業務処理統制のサポートを通じて財務報告の信頼性を間接的に担保しています。 そのため、ITに係る全般統制に不備があったとしても、直ちに財務報告に係る内部統制の有効性に問題があると評価するとは限りません。 ITに係る全般統制に不備があった場合、その統制の代わりになるような統制や補完できるような統制がないかを確かめます。代替的又は補完的な統制が他にあれば、それによって財務報告の信頼性という目的が達成されているかを検討します。代替的な統制も補完的な統制もない、もしくは代替的又は補完的な統制はあるが財務報告の信頼性という目的を達成できるほどのものではない場合は、財務報告の信頼性という目的を阻害するような事象が発生しているかを調べます。 その結果、たまたま該当する事象が発生していなければ結果的に問題ありませんが、該当する事象が発生している場合には、期末日までに是正する必要があります。 〈ITに係る全般統制に不備があった場合の対応〉 当然のことながら、代替的又は補完的な統制の存在やたまたま該当する事象が発生していなかったために結果的に財務報告に係る内部統制は有効と評価された場合でも、ITに係る全般統制に不備があるということは、いずれ業務処理統制に不備が出るということを示しているため、早期に不備を是正することが求められます。 (2) ITに係る業務処理統制に不備があった場合 ITに係る業務処理統制は、個々の業務プロセスに組み込まれているため、不備があった場合には、財務報告の信頼性を揺るがす可能性が比較的高いといえます。しかも、ITに関する部分に不備がある場合には、誤った処理が繰り返されている可能性があるため影響が大きくなるおそれがあります。 したがって、ITに係る業務処理統制に不備があった場合には、直ちに不備を是正する必要があります。内部統制の評価の観点からは、ITに係る業務処理統制の不備によりどの程度の勘定科目等に虚偽表示が及ぶかといった影響の範囲(影響度)を推定するほか、虚偽表示が実際にどのくらいの可能性で発生するか(発生可能性)を評価する必要があります。 * * * 今回の連載までで、具体的な内部統制評価の進め方(作業)について説明してきました。次回以降は、作業した結果をどのように取りまとめていくかを説明していきます。 【第9回】となる次回は、「内部統制の不備の評価」をテーマに説明します。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第21回】 「情報漏えいが発覚した際の初動対応のポイント」 弁護士 影島 広泰 -Question- 自社の従業員が情報を持ち出していることが分かりました。初動対応として何をすべきでしょうか。 -Answer- 対策チームを立ち上げるとともに、情報漏えいの証拠を保全します。 なお、情報を持ち出している可能性がある本人に悟られないように注意する必要があります。 前回は、情報漏えいの兆候をどのようにチェックするのかについて解説した。 今回は、従業員・退職者・取引先等が自社の情報を持ち出していることが分かった場合のような、情報漏えいの可能性があることが判明した際に、初動対応として何をすべきかを「秘密情報の保護ハンドブック」を参考にしつつ解説する。 1 事前に備えておくべき体制 事前に何の準備もしていなければ、情報漏えい等の発生という緊急事態時にスムーズな対応を行うことは困難である。具体的には、以下の2点を事前に整備しておくと良い。 (1) 「報告連絡体制」の整備 まず、【第2回】で述べたとおり、社内の報告連絡体制を整備しておく。これは、個人情報保護委員会が公表している通則ガイドラインの「組織的安全管理措置」に記載されている対応であるし、実務的にも重要であるから是非とも整備しておきたい。報告が適時適切に上がってこなければ、適切な初動対応を取ることなどできないからである。 例えば、「情報漏えいの可能性があると思った際には、内線〇〇に連絡をしてください」と社内に告知しておくことが考えられる。内部の故意犯による持ち出し等に備え、内部通報の窓口を活用することも重要であろう。 (2) 「対策チーム」の設置 情報漏えい等が発生した場合に何をするのかを予め定めておくことも重要である。このことは、上記、通則ガイドラインの「組織的安全管理措置」で「漏えい等の事案に対応する体制の整備」として義務づけられている。 情報漏えい時の対応に際しては、様々な部署が関係部署となることが想定される。これらの関係部署が綿密に連携して、適切かつ迅速に対処する必要がある。中小企業では、会社トップが全体を統括しながら対応を進めていくことが現実的であろう。大企業では、役員クラスの者を長とする対策チームを設置することが考えられる。 対策チームには、コンピュータからの情報漏えいであれば、社内の情報システム部などの専門家を含める(このような、コンピュータからの情報漏えいの際の対策チームのことを「CSIRT(Computer Security Incident Response Team:シーサート)」と呼ぶ)ほか、必要に応じて外部の専門家を含めることも考えられる。サイバーセキュリティの専門会社、コンピュータ内の削除済みのデータを調査することなどに長けたフォレンジック会社、弁護士などである。 いずれにせよ、社内での情報拡散を防止する観点から、初動の段階では対策チームは必要最小限の人数で構成し、かつ扱っている内容については秘密保持を徹底することが必要である。 2 初動で行うべき対応 社内から「個人データ」が漏えいした場合の対応については、【第10回】で詳しく述べた。 すなわち、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」の「付録C インシデント発生時に組織内で整理しておくべき事項(Excel形式)」を参考にしつつ、個人情報保護委員会の告示に従って、情報漏えいの対象となった本人への連絡、ウェブ等での公表、個人情報保護委員会等への報告等を行っていくことになる。 今回は、従業員等の情報漏えいが発覚した際に初動で行うべき対応として、証拠の保全の重要性について解説する。 営業秘密を、従業員・退職者・取引先等が故意に持ち出したようなケースでは、情報漏えいによる影響範囲を確定し再発防止策を講じるためだけでなく、その後の責任追及や社内での処分のためにも、情報漏えいの証拠を保全しておくことが重要となる。特に、電子情報は、時の経過とともに情報が失われていくことが多く、初動で迅速に対応しておくことが重要となる。 電子情報は、専門家に依頼をせずに自社だけで闇雲に保全を行おうとすると、データが壊れてしまったり、改ざんを疑われて事後的に証拠価値が失われることもあり得る。例えば、パソコン内に保存されたデータが盗まれた場合、犯人はその証跡をひと通り消している可能性が高い。 単に消しただけであればフォレンジック会社に依頼すれば復活することができる可能性があるが、当該データが保存されていた場所に別のデータが上書きされてしまうと復活することが困難となる。パソコンは、OSを起動するだけで空いている領域に新しいデータを書き込んでいく可能性があるから、証拠となり得る機器については、可能な限り何もせず(電源も入れず)、専門の業者に相談したほうが良い。悪質な犯罪であれば、警察に即座に通報することも考えられる。 また、まだ情報漏えいの証拠が十分に確保できておらず、漠然と漏えいが疑われるに留まる段階で、その漏えい行為をしたと考えられる従業員等に接触する(例えば不用意に事情聴取を行う)ことは、かえって証拠隠滅を助長するおそれがあるため、避けるべきである。 自社従業員からの情報漏えいが疑われる場合には、拙速に接触することなく、情報を対策チーム等の関係者に限って共有するなど慎重に対応することが、証拠の隠滅・散逸等を防ぐために重要である。 確保しておくべき証拠の典型例は以下のとおりである。適宜・適切に収集し、証拠として保全したい。 (了)
《速報解説》 軽減税率対策補助金の申請期限迫る ~最終期限は2019年12月16日~ Profession Journal 編集部 10月1日からの軽減税率の実施に伴い、軽減税率に対応したレジ(システム)の導入・改修を行った中小事業者は、一定の手続きをすることにより、軽減税率対策補助金(原則費用の3/4を補助、レジ1台あたり20万円まで)を受領することができる。 既報のとおり、中小事業者による対応レジの導入を幅広く促進する観点から、中小企業庁は2019年8月28日付けで、レジの導入等に係る軽減税率対策補助金の手続要件の緩和を明らかにし、「9月30日までの軽減税率対応レジの設置・支払いの完了」が必要とされていたものを「9月30日までにレジの導入・改修に関する契約等の手続きが完了」とすることに改めている。 また、8月の前線に伴う大雨に関する災害や台風で被災した中小事業者に対しては、レジ等が被災した場合、再導入についても補助対象にすることや、事情説明書の提出等により、導入・支払いの期限の延長を行うなど補助金交付手続き等に関する柔軟な対応も行われている。 上記の要件緩和や柔軟な対応により、中小事業者のレジの導入・改修は着実に進んでいると思われるが、軽減税率対策補助金の申請期限が2019年12月16日〈消印有効〉であることに変更はない。 レジの導入自体が済んでいても、年末の忙しさから申請まで手を付けられていない場合や、軽減税率に対応したレジを導入しなくともアナログでの対応ができると考えていた中小事業者も、処理の煩雑さにレジの導入を検討していることもあるだろう。 軽減税率対策補助金を受領する最後のチャンスなので、申請期限には十分注意したい。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、KAMに関するQ&A集の後編として 期中や監査報告書作成段階での対応を公表 ~株主からの質問や事前準備事項など株主総会への対応も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年12月4日、日本監査役協会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を公表した。 これは、2019年6月11日に公表した「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」に続くものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 Q&A集・後編では、KAMに関して、期中での対応、監査報告書作成段階での対応、会社法上の会計監査人の監査報告書におけるKAMの取扱いなどについて記載されている。「株主総会に向けた対応」については、Q3-5-1からQ3-5-3に記載されている。 以下では主なQ&Aについて解説する。 1 期中で対応すべき事項(Q3-3-1) 監査人がKAMを最終的に決定するのは、監査報告書の内容を確定する時点である。 監査の過程においては、期初の監査計画策定の段階でKAMの候補を選定し、期中の監査活動の進捗状況を反映して適宜見直し(追加、絞り込み、入替え)が検討される。 監査人によるKAM候補の見直しは、監査の過程で随時行われるものであり、期中も監査人の監査に影響を及ぼす事象が発生すれば、監査役等と監査人の間で随時協議を行っていると思われるので、基本的に、監査計画策定時と同様に、監査人とのコミュニケーションに本質的な変化があるわけではない。 KAM候補に関連する財務諸表又はそれ以外の手段による開示状況とKAMの記述に未公表情報を含める必要があるかについては、監査人に都度十分な説明を行うよう促すことが重要である(2ページ)。 2 監査人による監査報告書作成段階での対応(Q3-4-1) 監査人は、期末において監査報告書のドラフトを作成する段階で、期中に検討されてきたKAM候補の最終的な絞り込み・決定を行うので、監査役等は、監査人から提示されるKAMのドラフトに対して、以下のポイントから確認することが考えられる(2、3ページ)。 また、KAMの項目や記載内容・詳細さの程度について見解の相違が発生した場合、監査役等は安易に妥協を促すべきではないが、執行側と監査人両者の見解を吟味し、負託を受けている株主等のステークホルダーにとって何が適切かについて、執行側や監査人と協議を重ねることが求められる(3ページ)。 3 会社法監査における会計監査人の監査報告書(Q3-4-3) 会社法上の会計監査人の監査報告書へのKAMの記載を義務付けることは見送られ、任意とされている(4ページ)。 現在の会社法と金商法の二元的な開示制度の下では、業態や事業の内容が複雑であったり、KAMの記載に際して監査人から追加の開示が求められたりするような場合は、有価証券報告書の記載内容を確認する前にKAMを選定かつ記載内容を確定することは基本的に難しいと言えることなどが記載されている(4、5ページ)。 4 監査役等の監査報告書の記載への影響(Q3-4-4) 監査役等の監査報告書への影響については、会社計算規則は、監査役等の監査報告書に最低限含めなければならない事項だけを定めており、記載が明示的に求められていない事項についても、監査報告の趣旨に沿っている限り、追加的に記載することができる(5ページ)。 ①会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されていない場合と②会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されている場合にわけて、取扱いが記載されている(6、7ページ)。 5 監査人と監査役等との見解の相違(Q3-4-2) KAMは監査役等と協議された事項の中から選定されるものの、最終的には監査人が決定するものであり、必ずしも監査役等と監査人との間で見解が完全に一致することが求められるわけではない(3ページ)。 期中から協議を重ねていても、なお見解の一致に至らなかった事項がKAMとして選定されたり、逆に選定されなかったりすることも考えられ、また、監査報告書における表現についても最終的に見解の一致に至らないこともあり得る(3ページ)。 監査役等がKAMに該当しないと考える事項がKAMに含まれている場合、又はKAMの表現に疑問がある場合は、再度、当期の監査における他の項目との相対的重要性の観点に基づいて、項目の選定が適切か、又はKAMの趣旨(監査人の守秘義務の観点を含む)に照らして記載内容が適切かについて監査人と協議する必要がある(4ページ)。 監査役等がKAMに該当しないと考える事項を監査人が監査すること自体を問題にする必要はないが、監査の効率性の観点から内容を確認する必要がある(4ページ)。 監査報告書において監査役等の見解と異なる項目が選定されたり、異なる表現がなされたりする場合には、自身の見解と対応について説明できるように整理しておく必要がある(4ページ)。 (了)
2019年12月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.347を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.83- 「OECDデジタル税制をめぐる政治・経済的背景」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 OECDの場で、130ヶ国・地域が参加して議論されている「経済のデジタル化に伴う新たな税制」だが、来年1月の基本合意に向けて、10月と11月に2つのコンサルテーションペーパー(「提案」)が公表された。 未だ詰めるべき課題が山積しているが、ここまでまとまってきたことの背景を考えてみたい。 * * * そもそもの問題意識は2つである。 第1に、GAFAに代表される米国IT企業が、膨大な利益をアイルランドやシンガポールなどの軽税率国やタックスヘイブンに留保して、税負担をしていないことである。その背景には、利益の根源となる無形資産を移転させるプランニングがある。 第2に、PEがなくても市場国で大規模なビジネスが可能なので、実際に利益を上げている市場国で十分な税の負担をしていないことである。 この結果、きちんと税の負担をしている企業や伝統的ビジネスとの競争条件(レベルプレイングフィールド)に問題が生じるとともに、市場国は税収不足に陥っており、全世界レベルでの対応が必要となった。 処方箋としては、軽税率国やタックスヘイブンに移転されたIT企業の「課税ベース」を、何らかのルールに基づいて、市場国である先進国や新興国・途上国に再配分し、課税することである。 * * * OECDにおける議論が、ここまでまとまってきたことの背景は、次の2つである。 1つは、課税ベースの再配分により、軽課税国以外は先進国も途上国も税収増になる可能性があるということだ。つまり、130ヶ国・地域の集まる包括的枠組みは、ウイン・ウインのプロジェクトだということで、これが成功に導く大きなインセンティブとなっている。 もう1つは、米国の「変身」である。当初は、「ユーザーの参加」をキーとして配分し直す英国案が有力であった。しかし今回の提案を見ると、「マーケティング上の無形資産」を重視する米国案が盛り返した内容となっている。 米国が本プロジェクトに対し積極姿勢に転じた背景は、英国やフランスなどが独自課税を導入すること(ユニラテラル・アプローチ)への危機感である。各国の独自課税はGAFA狙い撃ちで、米国の国益を大きく損なうばかりか、長年税務当局が構築してきた国際協力が台無しになれば、デジタル企業・経済にとっては大きな打撃だ。 したがって、今回の提案を合意するにあたっては、フランス、英国などの独自課税を取り下げさせることが重要となる。 * * * では、わが国にとっての利害関係はどうなのか。 ピラーワン(第1の柱)の“所得A”と呼ばれる部分(再配分される超過利益)については、営業利益率10%以上、海外子会社も含む連結売上高900億円(7億5,000万ユーロ)以上の「消費者向けビジネス」を行う多国籍企業を対象にする案が有力だ。 製造業全体への波及を抑えたという点に、わが国当局の努力の跡が見える。もっとも、自動運転などについては、対象となる可能性もあり、今後注意が必要だが。 企業レベルの税負担についていえば、無形資産を低税率国に移転させるなどのタックスプランニングを行っている多国籍企業の場合は税負担増となりうる。一方で、アグレッシブな租税回避を行っていない企業については、今回の提案に伴う納税額の変化はほとんどないと考えられる。 この点は重要なポイントだ。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例12】 「返品調整引当金の意義とその廃止の経緯」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は近畿地方のとある地方都市で、既製服の製造を行っている株式会社Aを経営しております。わが社の主たる取引先は全国各地の衣料専門店ですが、そこでの取引においては、得意先の求めに応じて商品を納入するものの、売り切りではなく、売れ残った商品は全品当社が引き取るというやり方を採っていました。これは商慣行であり、契約に基づくものではありません。 わが社の場合、これまで、得意先に商品を納入したときに売上げを計上し、売れ残った商品の返品を受けた際に販売した金額に返品数量を乗じた金額の費用を計上してきました。既製服は当たり外れが結構大きく、外れた場合、大量の返品を引き受けることを余儀なくされます。そのような場合、そもそも売上の計上金額が過大であったとさえ思えます。 しかし、ある会合で同業者に、当社のような取引形態を行っている法人は、法人税法上、返品調整引当金という耳慣れない名称の引当金を計上することができる旨教えられました。これにより、売上を計上したタイミングを実際に返品され費用を計上するタイミングとのずれが大幅に縮小されることとなりますので、わが社の正しい実力が財務諸表及び法人税の申告に反映されることとなります。 そこで、当社の顧問税理士に当該引当金について問い合わせてみたところ、平成30年度の税制改正で廃止されており、新たに適用を受けることはできないといわれました。ただし、改正前の法人税法の下では、わが社のケースについても適用の余地があったということなので、もっと早くこの引当金のことを知っておくべきだったと後悔しております。 そこで、今更ではありますが、返品調整引当金の内容と、廃止に至った経緯について教えてください。 【A】 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営む者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていました。 当該引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなりました。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として所定の経過措置が受けられますので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきといえます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 引当金の意義 費用収益対応の原則の観点から、将来の費用又は損失の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れて、正確な期間損益を把握し算定するための会計上の技術を引当金という。企業会計上、引当金は大きく以下の2種類に分類される。 ① 評価性引当金 将来において資産について生ずることとなる費用ないし損失が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(valuation allowance)である。 ② 負債性引当金 将来において生ずる債務ないし経済的負担が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(liability allowance)である。 一方、法人税法においても、上記企業会計の考え方を取り入れ、以下の3要件を満たすものについては引当金の計上を認めている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)415頁。 法人税法上認められている引当金としては、従来、評価性引当金としての貸倒引当金及び返品調整引当金、負債性引当金としての退職給与引当金、賞与引当金、製品保証等引当金及び特別修繕引当金の6種類があった。 (2) 法人税法における引当金の廃止・縮小 しかし、平成10年度の税制改正で、賞与引当金と特別修繕引当金(特別修繕準備金に移し替え)、製品保証等引当金が廃止され、平成14年度の税制改正で退職給与引当金(※2)が廃止された。 (※2) 退職給与引当金の廃止は賞与引当金等の廃止とタイミングがずれたが、平成14年7月の連結納税制度の導入に伴う法人税収の減少を緩和するため、そのタイミングで廃止されている。 このように法人税法において引当金が廃止・縮小されてきた理由としては、政府税調・法人課税小委員会報告(平成8年11月)において、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という観点からすると、引当金に関して以下の点が問題であるとした。 〈ア〉 引当金は、具体的に債務が確定していない費用又は損失の見積りであることから、常にその見積りが適正なものであるかどうかが問題となる。公平性、明確性という課税上の要請からは、そうした不確実な費用又は損失の見積り計上は極力抑制すべきである。特に、貸倒引当金及び製品保証等引当金は、法定率によって繰入限度額を計算することができ、適正な費用又は損失の見積りを超えた引当金となっているおそれがある。 〈イ〉 賞与引当金や退職給与引当金は、課税上、翌期の賞与や将来の退職金の一部を当期の労働の対価として支払われる賃金と同様に取り扱うものである。すなわち、従業員に対する賞与や退職金は、実際に支払いがなされた時に経費として損金の額に算入される。これらの引当金によって、賞与も退職金も、従業員が勤務を提供した期間に応じて損金の額に算入することができる。 このように、未だ支払いがなされていない賞与や退職金を、その支給原因が発生した事業年度において引当金繰入額という形で実際の支払いに先行して費用計上を認めている。このことから、税制が企業の給与の支給形態に対し、結果として何らかの影響を及ぼしていることも考えられる。 また、これらの引当金は巨額に上っており、企業ごとの利用状況にも開差がある。企業がこれらの引当金に相当する金額を一定期間自己資本のごとく自由に利用できることを考慮すると、引当金制度が企業・産業間の実質的な税負担の格差を生み出し、非中立的な影響を与えているおそれがあることにも留意する必要がある。 〈ウ〉 製品保証等引当金、返品調整引当金及び特別修繕引当金は、特定の業種に限られた引当金であり、適用業種にとって重要性の高いものであることから認められている。しかしながら、引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要があろう。 * * * 上記〈ア〉から〈ウ〉は、いずれも一定の合理性がある理由ではあるが、引当金の存在意義を決定的に否定するほどの根拠とまでは言えないものばかりである。要は、当時、法人税率引下げという絶対的命題があり、そのための財源を捻出するための苦肉の策として引当金の廃止・縮小が俎上に載っただけであり、法人税制における理論的整合性は二の次であったと評価するよりほかないであろう。 (3) 返品調整引当金の意義と内容 それでは、法人税法上、返品調整引当金とはどのような引当金だったのであろうか。改正前の法人税法によれば、出版業等特定の事業を営む法人のうち、常時、その販売する事業に係る棚卸資産の大部分につき、買戻特約等を結んでいるものが、当該棚卸資産のその特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した場合には、その金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額は、損金の額に算入されることとされていた(旧法法53①)。 返品調整引当金の意義としては、一般に以下の通り説明される。すなわち、出版業や医薬品製造業においては、商品の販売に際し、買戻特約付きで販売店に売却することにより、販売店は一定の時期に売れ残った商品を仕入価額で売り戻すことができるケースがよくみられる。そのため、このような特約がある場合には、出荷基準による売上・収益の計上は暫定的で、過大な収益を表しているということになるため、買戻しによる損失を予め見越し計上することが、費用収益対応の原則の観点から合理的であるといえる。そこで認められたのが返品調整引当金の計上だったわけである(※3)。 (※3) 金子前掲(※1)書420頁参照。 そこで、以下では返品調整引当金制度の適用要件を確認しておく。 ① 特定の事業の意義 返品調整引当金の計上が認められている「特定の事業」とは、以下のものとされていた(旧法令99)。 ② 特約の意義 また、引当金の設定要件として、以下の事項を内容とする「特約」を結んでいることが必要であった(旧法令100)。 なお、上記特約の締結は、文書によることのみならず、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、特約を結んでいるものとして取り扱われる(旧法基通11-3-1の3)。 ③ 繰入限度額 返品調整引当金勘定への繰入限度額は、事業の種類ごとに、以下に掲げる(ア)又は(イ)のいずれかの方法により計算した金額の合計額である(旧法令101①)。 (ア) 売掛金基準による方法 (イ) 販売高基準による方法 なお、上記算式中の「返品率」及び「売買利益率」は、それぞれ以下の算式で計算することとなる(旧法令101②③)。 〈返品率〉 〈売買利益率〉 (4) 平成30年度税制改正 ① 改正の内容 上記(2)で触れた政府税調・法人課税小委員会報告にもかかわらず、返品調整引当金はその後も存続することとなった。それは、当時指摘された「引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要がある」かどうかという点につき、結論が出なかったためであると考えられる。 それではなぜ、平成30年度の税制改正で返品調整引当金が廃止されることとなったのか。それは、わが国の企業会計基準委員会が平成30年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準29号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針30号)を公表したことから、それを受けて法人税法において、同法第22条第4項の別段の定めとして第22条の2が創設されたことが契機である。 すなわち、法人税法第22条の2第5項において、資産の販売等に係る資産の買戻しの事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとして収益の額とするとされたことにより、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったためである。 したがって、返品調整引当金の廃止は、法人税法第22条の2の創設と一体ものであると解される(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)書357頁参照。 ② 改正後の税務処理例 従来、返品調整引当金が認められてきた既製服販売業に関し、新収益認識基準に基づく売上処理と法人税法第22条の2に基づく売上処理を比較すると、概ね以下の通りとなる。 - 設 例 - A社は得意先B社に既製服(販売価格一着2,000円、原価一着1,200円)を100着販売したが、返品予想は20着である。なお、消費税は考慮しない。 上記のように、返品調整引当金廃止後は、A社の会計上の利益64,000円(=160,000円-96,000円)と法人税法上の所得80,000円(=200,000円-120,000円)との間に乖離が生じる(法人税法上の所得の方が16,000円多くなる)こととなる。これは、改正後の法人税法においては、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないためである。 会計上の収益認識基準の導入により、返品調整引当金は廃止されることとなったが、これは法人税法の会計基準への接近という側面があるものの、一方で、会計基準の変更を契機に課税所得を増加させようという課税庁のしたたかな戦略であるとも考えられる。その意味で、課税所得の増加を意図した引当金廃止の流れを引き継ぐ改正であると評価できるであろう。 ③ 経過措置 改正法の施行の際、現に対象事業を営む法人(経過措置法人)は、経過措置の対象となる法人とされている(H30改正法附則25①)。また、経過措置法人の平成30年4月1日以後に終了する事業年度(平成42(令和12)年3月31日以前に開始する事業年度に限る)が、経過措置の対象となる事業年度とされている(経過措置事業年度、H30改正法附則25①)。 経過措置法人の経過措置事業年度においては、改正前の規定を従前どおり適用できることとされている(H30改正法附則25①)。この場合における返品調整引当金の繰入限度額は、平成30年4月1日から平成33(令和3)年3月31日までの間に開始する事業年度については改正前の規定による繰入限度額とされているが、次の事業年度については、改正前の規定による繰入限度額に対し、それぞれ次の割合を乗じて計算した金額とされている(H30改正法附則25①)。 〇経過措置事業年度における繰入限度額に乗ずる割合 なお、この経過措置の適用により、法人の令和12年4月1日以後最初に開始する事業年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された返品調整引当金勘定の金額は、その最初に開始する事業年度において益金の額に算入することとされている(H30改正法附則25②)。 (5) 本件へのあてはめ 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営むの者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていた。 本件のように、買戻特約が文書による契約で明示的に裏付けられる場合でなくとも、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、通達により、特約を結んでいるものとして取り扱われていた。 当該返品調整引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなった。その結果、改正後の法人税法上は、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないため、今後は会計上の利益よりも課税所得の方が大きくなることが想定されるところである。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として前述(4)③の経過措置を受けられるので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきであろう。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第41回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑨ (この特例を受けるための目的のみで相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年4月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地400㎡を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に1億2,000万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家でした。 実は、父の生前中、「相続空き家の特例(措法35③)」には譲渡価額要件(1億円以下)があることを知り、相続の開始の直前、庭先の一部100㎡を柵で囲ってXの主宰するA社の資材置場として利用しました。 相続の開始の直前に一時的に居住の用以外に供した部分を除く300㎡に係る対価の額は9,000万円となります。 この場合、Xは、本特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定の対象に含まれることから、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 そして、居住用家屋取得相続人が譲渡した資産が「対象譲渡資産一体家屋等」に該当するかどうかは、社会通念に従い、対象譲渡をした資産と一体として被相続人の居住の用に供されていたものであったかどうかを、相続の開始の直前の利用状況により判定することとされています。 ただし、本特例の適用を受けるためのみの目的で相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分については、「対象譲渡資産一体家屋等」に該当します(措通35-22(「対象譲渡資産一体家屋等」の判定)(3))。 したがって、本事例の場合、庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定に含めて判定することから、対象譲渡価額は1億2,000万円となって、その譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができないこととなります。 (了)